マケドニアと日本とケルト。
ドン「こうしてみると、アキトが一番若いであろー」
では、どうぞ・・・・・
「な、な・・・なんだ・・・・・これはッ・・・!!?」
「あろー?」
眼を血走らせ、一流と自賛する頭をフル回転させながらケイネスは、目の前に立つ二足歩行の人語を返する『山羊』に言葉を詰まらせる。
・・・事の始まりは30分前に遡る。
拠点としていた廃墟から何が何だか解らぬ内に、同盟側の拠点である間桐邸に連れ去られたケイネスはド肝を抜かれた。
屋敷全体に何十にも張り巡らされた極めて高度な魔術結界。それを補強する様に固められた素人でもわかる近代兵器のオンパレード。それは正に要塞と言っても過言ではない。そして・・・・・
「あ。皆さん、お帰りなさい」
「結構早く帰って来たな~って、なんだそのズタボロの怪我人と黒子の野郎は?!」
「アキト~・・・貴方、またとんでもない事やちゃったの?」
ここまでの聖杯戦争で確認されていないサーヴァント達であった。しかも、その全てがバーサーカーと同じ魔力を有していたのだ。
「こ、これはッ・・・?」
此れには彼等と同じサーヴァントであるランサーも驚きの色を隠せない。いや、それ以上に・・・
「い・・・一体、これは何の冗談だ・・・!?」
ケイネスは顔が絵具の青よりも真っ青に顔を染めていた。
『マスター一人に対して、サーヴァントは一人』。それがこの聖杯戦争における基本原則。
「いやな、途中でマスターがお邪魔虫を察知してな。ほっといたら面倒なんで、こうして交渉相手を連れて来たという訳なのよん」
「というか、最初からこのようにしておけば良かったのではないか? バーサーカー」
「それもそうだ」
「大変だ! ここにバカだ、バカがいるぞ!! アッハッハッハ!」
「笑い過ぎです、ガブリエラ」
「ロレの言う通りよ。ヤレヤレお疲れ様、雁夜にウェイバー」
にも関わらず目の前には、バーサーカーとライダーの他にもサーヴァントが三体いるではないか。
「遂に自分の眼までもが魔術回路の暴走でおかしくなったのか、おのれ衛宮切嗣ッ!!」とケイネスは見当違いの私怨を焚き付かせる。
彼がここまで混乱するのも無理はない。何故ならバーサーカーのマスターが、御三家が一つとはいえ、魔道から逃げ出したとされていた『間桐雁夜』であったからだ。
そのような人物が聖杯戦争に参加できたのも奇跡のようなモノなのに、固有クラス以外のサーヴァントを有している等、天文学的のようなモノだ。
されどケイネスとて名門の出。受け入れがたい目の前の現実を周囲に悟られない様に飲み込もうとする。
「声がするかと思えば、帰って来たのかアキト」
「・・・な、なに?」
しかし、冷静を装う彼の顔面をぶち壊す存在が奥の間から現れた。
「あ・・・主・・・ッ!!?」
其の者は『山羊の頭』に『山羊の身体』を持ち、黒いマントを靡かせ、横長の黒目を輝かせる山羊の中の山羊。
「おん。ただいま、『ドン』」
「うむ、お帰りであろー」
『
「・・・・・ッファッ!!?」
時にウェイバーは、後にも先にもこんなに驚愕したケイネスの顔を見た事がなかったと語ったという。そんな事もあってか、冒頭へ戻る。
とりあえず、ドンの存在に言葉を詰まらせるケイネスは雁夜とウェイバーのマスター組とドンとロレンツォに任せる。
あとの借りて来た猫のように大人しくなったランサーを炬燵をどかせた居間の真ん中に置いて、周囲を残りのアキト達で取り囲んだ。
勿論というか、当然ながらランサーの宝具の槍は連れて来たどさくさに紛れて回収してある為にランサーは丸腰である。
「我が主をどうするつもりか?!」
そんな虜囚の身と同等となれど、ランサーは鋭い眼を周囲に散らして威嚇した。
「うむ。このような状況であっても自らの身より、主の事を案じるとは・・・益々、我が配下に加えとうなるな」
「止せって大王、また断られんぞ。心配すんなランサー、別にアーチボルト卿をどうこうしようとは考えちゃあいないよ。彼の首を捻じ切るんだったら、あの時とっくにやってるしな」
「・・・・・」
未だにランサーを自らの配下にしようと企むライダーを諫めるアキトであるが、ランサーは彼に鋭い眼差しを送る。
廃墟でアキトから受けた、あの甘美なる誘惑。自身が持つ『愛の黒子』なんていう呪い染みた保有スキル以上にランサーは危険だと思っていた。
そんな彼にため息を吐きそうになるが、一旦それを飲み込んで続きへと移る。
「それで話の続きなんだが―――
「断るッ!」
―――・・・まだ、何にも言ってないんだけれども・・・」
「何度、言われても同じ事。俺の忠義をささげるは、主ただ一人だけだ!」
こんな状況でもランサーは頑なに彼等の言葉を拒む。
アキトも頭を甲羅に埋めた亀のようなランサーにどうしたらいいかと悩んだ。
「さっきからゴチャゴチャと五月蠅い」
「おん?」
「ガブリエラ?」
そんな時、傍から彼等のやり取りを眺めていたガブリエラが呆れたような台詞を紡ぐ。
「もういいだろアキト。そんな忠義忠義なんていう、はた迷惑な文言ほざいてるヤツなんか宛にするな」
「なッ!? 俺の忠義をはた迷惑だと?!」
何気ない彼女の言葉にランサーは激昂し、立ち上がる。その眼にはいつにない気魄が籠っていた。
「だってそうだろう? 滅私奉公する事が生きがいなんですってみたいな暑苦しいヤツが隣にいたら、気がめいっちまう」
「騎士が主君に忠義を捧げる事は、さも当然の事だ! 私の願いはただ純粋な武と忠義を貫く事、それの何がいけないというか!!」
「なるほどな。だがお前は、あのケイネスってヤツ本人を理解してんのか?」
「ッ・・・な、なんだと・・・?」
ランサーの口がクッとしぼんだ。
「お前は、
「ッ・・・」
ガブリエラの言ったことは、ランサーの的を射ていた。
確かにランサーは、生前叶わなかった願いの為にケイネスの召喚に応じ、ここまで戦って来た。しかし、自らの忠義が主に認められる事を願ってはいても、一度としてその主であるケイネス個人を自分から理解しようとしたか? いや、ない。
だからこそガブリエラの言葉は彼の心を揺さぶり、言葉を詰まらせた。
「・・・ランサー、廃墟でアンタに言った『俺ならば、君を理解してあげよう』ってのは、あながち間違いなんかじゃあないんだぜ?」
「なんだと?」
そう言うとアキトは自分の上唇を引っ張り、鋭く突き出た『牙』を彼に見せる。ランサーは少し驚いたが、その牙が何を意味するのかを直ぐに理解した。
「牙を見てもらったように俺は『吸血鬼』だ。だからこそ、俺は血を啜った相手の感情を汲み取れる。俺はなランサー・・・ケイネスとの取引が成功したら、俺がアンタの新しいマスターになる腹積もりだったんだ」
「!」
サーヴァントがサーヴァントのマスターになる事など可能なのかという疑問はさて置き、ランサーはアキトの話に耳を傾ける。
「そして、俺がアンタのマスターになる事が出来たのなら・・・真っ先にアンタの血を啜って全てではないが、ディルムッド・オディナを理解しようと思った・・・・・だが!」
「・・・だが?」
「ガブさん・・・悪い癖だぜ、こんな時に相手に響かせるような言葉を言うなんて。
「ッケ、んなもん知るか・・・」
そう、そっぽを向くガブリエラに語り掛けるアキトは、何処か楽しそうで嬉しそうでもあった。
「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ。貴公が差支えがなければ、我らが陣営と『同盟』を結んでは貰えぬかな?」
「ッ・・・それは・・・!」
「ほう・・・」
ライダーは感心した。
先程のガブリエラの言葉で、ランサーの身の内に何らかの変化があった事をライダー自身も勘付いた。あのまま令呪交換の交渉を続けていれば、確実にランサーとの関係は悪くなる事は明白。
ここで上下の交渉を、対等な交渉に。
「勿論、ただとは言わん。此方には、あと一人サーヴァントがいる。其の者は、アーチボルト卿の魔術回路を正しく直すことができるかもしれん」
「それは誠か!!?」
「ああ、勿論だとも」
次に相手が喉から手が出る程に欲しいモノを目の前に垂らす。
「ランサー・・・俺が貴公を同盟に誘ったのは、アーチャーを打倒する為だ」
「アーチャーをか?」
「そうだ。ヤツを打倒するには、我等三人が力を合わせなければならぬ。それにアーチャーの狙いは・・・セイバーだ」
「なんだと・・・どうしてセイバーが出て来る!?」
そして、最後に・・・騎士として・・・男としての本能を揺さぶる。
「アーチャーは、あのキャスターとの戦から彼女に目を付けた。このままだとセイバーに危険が迫るだろう。あのサーヴァントはどんな手を使ってでも彼女を手に入れようとするだろう」
「それは・・・!」
「取られたくはないだろう? 最良の好敵手を、最高の騎士を!」
ここでアキトは、廃墟でも発した瘴気を口から出す言葉に纏わせる。拡散ではない、ここぞという時の一点集中に、あの甘美なる言葉を耳に流す。
「頼む、ランサー・・・・・アーチャーを倒す時まででも構わない。『私達と同盟を結んではくれまいか?』」
「ああ、わかった・・・このディルムッド・オディナ。貴殿らの同盟に参加しよう」
ガシィッ
その言葉に乗せられて、ランサーはニヤリと微笑む吸血鬼の差し出された掌を硬く握りしめた。
「(コヤツ・・・廃墟で見せた顔と今の顔・・・・・一体どちらが本性か? これが吸血鬼などという物の怪か? それともコヤツには、余にはない才覚を持っておるのか? 如何様にしても・・・フフ・・・面白い! 余の臣下にはいなかったタイプ。増々、盟友にしておくのが惜しい者だ)」
目の前で繰り広げられた心理戦にライダーは上々にアキトへの興味を昂らせる。
「そうと決まれば話は早い! 早速、マスターとアーチボルト卿に事情を話して正式なものにしよう!」
「ああ!」
二人は意気揚々と別室にいるケイネス達の部屋に行き、襖を勢い良く開けるとそこには・・・
「私は・・・私はただソラウに・・・!!」
「わかる、わかるぞケイネス!! その気持ち!!」
「あろぉおお! なんと健気であろー、ケイネス!!」
「私の首領への愛は永久に不滅です、ドォオオオオオッン!!!」
酒でぐでんぐでんに出来上がってしまっていた雁夜とケイネスが熱く語り合い、ケイネスのソラウへの思いに感動したドンが感涙の涙を流し、ロレンツォはいつものようにドンへの愛を叫んでいるというなんともカオスな空間が広がっていた。
「うッ、うう・・・なんでこうなるんだ・・・」
その隅でただ一人、ウェイバーが眼を潤ませながらこの惨状に涙している。
事の発端は、アキト達とランサーが交渉を始めた同時進行で起こった。
ドンの存在に一時思考をストップさせたケイネスであったが、ロレンツォが気づけ薬と持って来たウイスキーを動揺のあまり誤まってイッキしてしまったのだ。それを止めようとした雁夜も急にアルコールを摂取したことで酒乱と化したケイネスに飲まされてしまう。
そこからケイネスはソラウを、雁夜は桜と想い人だった遠坂葵の事を呂律が正常じゃない状態で語り合った。二人には何かとそちら方面で共通点が多い事もあり、馬が合ってしまったのである。
その二人を止められなかった事にウェイバーは隅で悔やんでいたのであった。
「あ、主!? こ、これは・・・」
「な?! きやがったなこの色男!! ぎざまのせいでソラウは・・・ソラウわぁあ!!」
「やいやい! おれっちのケイネスを泣かせる不届き者め!! そこになおりやがれッ!」
「え、ちょっ!?」
かなり面倒くさい酔っ払いに絡まれたランサーは、そのままマスター二人の餌食となる。
「ちょっと・・・どうするのよアキト・・・」
「あ~・・・どうしましょうかね大王?」
「うむ。飲むしかあるまい!」
「私はもう寝るぞー」
こうして結果的にランサーを味方につけれたアキト達の夜は、最初から最後まで混沌としたような空気で過ぎ去って行くのであった。
←続く
テテーン♪ 雁夜とケイネスが飲み友になった。
テテーン♪ ついでにランサーがパーティーに加入した。
コンテニュー?