映画『ドラキュラzero』の原主題歌がとてもいい。
アキト「ダークな感じが堪らなく良い」
では、どうぞ・・・・・
月光が照らす冬木市内のある廃墟。そこには痛々しい傷を負い、車椅子に腰かけた男とその前に跪く男が一人。
「この無能めがッ! 口先だけの役立たずが!!」
「・・・・・ッ!」
車椅子に腰かけた男は自らの前に跪く男に向かって侮蔑の言葉を吐く。
車椅子に乗った男の名前は『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』。この聖杯戦争において、ランサーのサーヴァントを有する時計台きっての名門魔術師である。
だが、彼はアインツベルンに雇われた『衛宮 切嗣』に拠点としていた魔術工房を破壊されるだけでなく、切嗣の切り札である『起源弾』によって自分の身体・魔術回路をズタボロにされるという魔術師にとっては致命傷となる傷を負った。
唯の人間がここまでのダメージを負ったのなら普通、自分の命欲しさに逃げるであろう。しかし、ケイネスは命よりも名を惜しむ生粋の魔術師であった為に自分の婚約者であるソラウにランサーの令呪を貸し与え、キャスター討伐に向かわせた。
ランサーは自らの宝具の一つを失う事になりはしたが、見事キャスターを討ち取る事に成功する。
ケイネスも成功報酬を監督側の言峰璃正から受け取り、他のマスターにその報酬が行渡らない様に璃正を携帯していた拳銃で殺害。
そして、これから反撃に移ろうと根城にしていた廃墟に戻ったのだが・・・
「女一人の身も守る事がままならぬとは! フン、騎士道が聞いて呆れるわッ!!」
「・・・面目次第もありません・・・ッ」
令呪を貸し与え、ランサーと共にキャスター討伐に向かったソラウが何者かによって連れ去られたのである。
「一時の代替とは言え、己のマスターを守り遂せぬ事すら叶わんで! 一体何の為のサーヴァントかッ!! それをよくも一人でおめおめと帰って来られたなぁア?!!」
ケイネスは自らが召喚したと言えど、ランサーが気に入らなかった。
元々、召喚する筈だったライダーの聖遺物をウェイバーに奪われてしまった事で、その代替として召喚されたランサー。
そんな彼の無償の奉仕を捧げんとする騎士道は、魔術師故に等価交換を物事の原則として捉えるケイネスには到底受け入れられるものではなく、相性は最悪。また、彼の呪いとも言えるスキル『愛の黒子』によってソラウを魅了してしまった為に二人の間には深刻な確執があった。
それでもギクシャクする二人の間にソラウがいる事でギリギリ調和はとれていた。が、ケイネス最愛のソラウが連れ去られた現在。遂に彼しの不満が露わとなったのである。
「恐れながら主よ・・・正規の契約関係になかった私とソラウ殿では、互いに気配を察知する事もままならず―――」
「なればこそ、細心の注意をはらって然るべきだろうがッ!!」
「されど主よ、ソラウ殿はまだ生きておられます。私への魔力供給は澱みなく―――」
「そんな事! わかった所で正規のサーヴァントではないお前に居場所が察知できなければ無意味であろうがァッ!! あぁ・・・ソラウ! やはり令呪を彼女に貸し与えるべきではなかった・・・ッ!」
ケイネスは自分の顔を両手で覆い隠し、ソラウに令呪を預けた事を後悔する。
彼女は政略的な婚約者であったものの。ケイネスは出会った瞬間に一目惚れしており、ソラウを本心から惚れこんでいたのだから。
そんな愛すべき人が気に喰わないサーヴァントの落ち度のせいで捕まった事を知れば、誰だって怒り狂う。
「お諫めしきれなかった、このディルムッドの責でもあります」
「・・・よくもまあ、ぬけぬけと言えたものだな・・・恍けるなよランサー、どうせ貴様がソラウを焚きつけたのであろうが・・・ッ」
「ッ!? 断じてそのような事はッ!」
ランサーの言うようにそんな事はしていない。黒子によって惑わされたソラウの強引な捲し立てによって、仕方なくランサーは従ったのだ。しかし、嫉妬の激情に駆られているケイネスにそんな言葉は届いてはくれない。
「まさに伝説通り・・・貴様は主君の許嫁とあっては、色目を使わずにはいられないさがなのか?」
「・・・我が主よ・・・どうか今のお言葉だけは、撤回を・・・ッ!」
「フッ、勘に触ったか? 無償の忠誠を誓うなどと綺麗事を抜かして置きながら、所詮は劣情に駆られた獣風情がッ!」
「ケイネス殿・・・・・何故・・・何故、わかって下さらない! 私はただ単衣に誇りを全うし、貴方と共に誉ある戦いに出向きたかっただけの事」
「聞いた風な口をきくなッ!! 身の程を知れ、サーヴァント! 所詮、魔術によって現身を得た亡者が!」
「ッ・・・!」
「そのような者が主に対して、説法するなど・・・おこがましいにも程がある!!」
「え・・・俺がマスターにした事って、そんなおこがましい事だったの?!」
「「!!?」」
ケイネスからの侮蔑と苦悶の声を放つランサーとは対照的な飄々とした声が、二人の鼓膜を振動させた。
「誰だ!!?」
「そう警戒しなさんな、俺よ俺」
宝具である槍を構え、ケイネスの盾となったランサーの前にいたのは、濃い何かが固まった存在を持たぬ靄。その靄が漸う晴れていくとその声の主が現れた。
「よぉ、流石はフィオナ騎士団の一番槍。対応が早い」
「き、貴様は!」
「貴殿は・・・・・バーサーカー!」
声の主は今回の聖杯戦争において異常な風格を漂わせる謎のサーヴァント、バーサーカーことアキトである。
ただ、ランサー陣営の前に現れた彼は倉庫街やキャスターと戦った時の戦装束を身に纏ってはおらず。ブラックスーツにレッドジャケットを着こなし、ニヤリと笑みを浮かべていた。
「俺が気配を察知するまでにここまで来るとは・・・侮れんヤツ!」
「感心している場合か! ランサー、早く私を連れて―――」
「おっと。それはちょいと待っておくれよ、ケイネスの旦那。アンタにちょいとばかし、取引を持って来ただけだからよ~」
「なにッ、取引だと・・・?!」
「一体何ようか?!」
ニッコリと笑みを浮かべる彼にケイネスは怯み、ランサーは警戒をとかない。此れでは中々話に入れないなと感じたアキトはさっさと例の『者』を
ズルリッ
「なッ!!?」
「そ、『ソラウ』ッ!!」
突如としてアキトの左半身が流動体になったと思ったら、そこから意識を失ったケイネスの想い人が顔を覗かせたのだ。彼はそんな身体に収納していた彼女を地面に寝転がせる。
「何故に・・・貴殿がソラウ殿を?!」
「何、ちょいとこのご婦人がライフルで狙われてたんで俺の仲間が助けたんだよ。正確に言えば、ライフルで狙っていたのはケイネスの旦那をそんな身体にした吾人の仲間かね」
「ッ!」
彼の言葉を聞いてケイネスの脳裏に浮かび上がったのは、魔術回路を暴走させ、自分の身体をズタボロにした『魔術師殺し』こと衛宮切嗣。彼を思い出しただけでもケイネスの青筋はビキリと音を発てた。
しかしてケイネスは冷静を装い、アキトに語り掛ける。
「ソラウをあの男から助けてくれたのは感謝する・・・・・だが、ただ単にそれだけの為に来たのではあるまい・・・!」
「なんですと・・・ッ? 主、それは!」
「カカカカカ♪ 流石は時計台の
ケイネスは実戦経験が少なくともこういう駆け引きのようなモノは長年魔術師をやっていれば、幾度となく経験してきた。だからこそ、目の前のサーヴァントが何かを考えていようと考察するには刹那もかからなかった。
「アーチボルト卿・・・このご婦人とランサーの令呪をどうか交換しては貰えませんかな?」
「なんだと!?」
「ソラウと令呪をか?!」
彼の言葉にケイネスは耳を疑った。「同盟を結ぶのならともかくとして、令呪を寄越せとはどういう事だ」と。質の悪い冗談とも捉えられる。
「なにぶんとアーチボルト卿、冗談なんかじゃあない。こっちは本気で、ランサーの令呪が欲しいんだ」
「馬鹿な! 例え令呪を受け取ったとして、一体誰がランサーの新たなマスターになるというのだ?!」
「心配せんでもいい。それなら問題ないからよ」
「ッッ!」
ケイネスはゾクリと肝を冷やす。眼前のニッコリと笑うサーヴァントは伊達や酔狂でランサーの令呪を求めてはいないと本能で確信した。加えて、自分を見据えるその視線が得体の知れない恐ろしさを身の内に溢れ出させる。
「見損なったぞ、バーサーカー!!」
「おん?」
「ランサーッ?」
そんな彼を庇うようにアキトに向けて怒号を放ったのは、ランサーだった。
「その申し出は、いつかライダーがした申し出と同じ事。そのような文言は俺が主への忠義を疑う事と道理だ!」
「ふむう・・・なぁランサーよ、その忠義はアーチボルト卿に対してでなくてはならんのかい? その忠義は他の誰に対してでも良くはないか?」
「な、何を言っている?」
ランサーは怪訝な顔で答える。アキトの言っている事がまるでよくわからないという風に。
「そこにいる吾人はアンタの事をちっとも理解してはいない。理解しているのならば、さっきの立ち聞きした話の中に「亡者」なんて言葉は入らない筈だからよぉ」
「そ・・・それは・・・ッ!」
ランサーの身体が魅入られたように強張っていく。
彼は保有スキルの中に『対魔力:B』を持っている。だが、これは魔術的なモノではない。『吸血鬼』という種族ならではの『能力』なのだ。
「ランサー・・・・・いや、輝く貌の『ディルムッド・オディナ』よ。『私』の下へ来い。私ならば君を理解しよう・・・君の忠義を称えよう・・・」
「あ・・・あぁ・・・・・!」
なんともその声は甘美なるものであった。蜂蜜のようにドロリとした感覚が心を満たしていく心地がし、自分を見つめる『紅い眼』に吸い込まれそうになっていく。
「ランサー、耳を貸してはならぬ!! ヤツの言葉に―――ッがフ!!?」
ケイネスはランサーに警告を発しようとするが、何故か声が途端に出なくなっってしまった。それどころか、呼吸もままならなくなる。
「ぐフッ・・・!(息が?! どうなっている?!!)」
ケイネスの呼吸器官はアキトの出す瘴気によって、痙攣していたのだ。そんな喉を押さえる彼にアキトはニッコリ笑顔のまま人差し指を口の前に出した。狂喜の表情がくっきりとわかる。
そのまま彼は止めとばかりにランサーに語り掛ける。
「さぁおいで、ディルムッド。君に永遠の安心感を与えよう」
「お・・・俺は・・・ッ!!」
ランサーが構えた槍を力なく降ろし、決意に満ちた言葉を吐こうとする・・・その時。
「そこまでだ、バーサーカー・・・」
「がハッ! ハァ! ハァ!!」
「・・・はッ!?」
アキトの背に赤髪の男が霊体化を解き、剣の刃を向けた。
霊体化を解いた風圧か、周囲に漂っていた瘴気は吹き散らされる。おかげで痙攣していたケイネスの呼吸器官は正常に戻り、ランサーも正気を取り戻す事が出来た。
「・・・なんだよ、大王?」
赤髪の男の名は『イスカンダル』。此度の聖杯戦争にライダークラスとして召喚されたサーヴァントである。
「大王、あと少し・・・あと少しで『堕ちた』んだ・・・それにこの策は俺に一任されていた筈だが?」
「・・・貴様のそのようなやり方ではダメだ、控えろ。それにそんなにも瘴気を垂れ流しではランサーのマスターが耐えられん・・・雁夜や坊主の意に添わぬわ」
「「・・・」」
ギロリと両者の視線がぶつかり合う。例えるならば、ライダーからは赤い稲妻が、アキトからは黒い雷がぶつかり合っている様であった。
そんな二人の気魄にランサーとケイネスは物言えぬぐらいである。このまま戦いが始まるのかとランサーは再び、降ろした槍を構えた。
「・・・おん、わかったよ大王。少々、功を焦り過ぎた」
「・・・え・・・?」
「わかれば良いのだ。それと外で待っておる雁夜が此方に近づく気配を察知したそうだ」
「お・・・おい・・・」
「・・・それ先に言ってくんないか? しっかし、マスターやるな。この短期間で長距離の気配察知能力まで会得しちまうとわよ~」
ところが威圧的な雰囲気がなかったかのように二人はなんともフランクに話し始めたではないか。この状況変化にケイネスとランサーはどうしていいか戸惑う。
「して、どうする? 応戦するか?」
「別に構わんが、無傷ではすまねぇぜ?」
「なれば・・・・・?」
「あれしかなかろうて・・・!」
またしてもアキトの口角が引き上がる。同じようにライダーの口角もだ。
シュバッ!!
「「・・・は?」」
アキトは呆ける二人の車椅子と身体を『影』で固定し、ライダーはソラウを担ぎ上げる。
「逃ィイげぇるンだよ―――ッ!!」
「「なァアアッ!!?」」
そのままアキトとライダーは廃墟の二階から外へと飛び出す。着地地点には、ここまで来た『気配遮断』の施された戦車が置かれていた。
ドォオンッ!
「なんだよ突然!―――って、ケイネス先生?!!」
「ウェイバー・ベルベット! 何故に貴様がここに?!」
「また予定変更か、バーサーカー?」
最初から戦車に乗っていたウェイバーは降って来た自分の恩師に驚き、雁夜はヤレヤレと溜息でも吐くようなセリフでアキトに語り掛ける。
「そういうこったマスター。話の続きは屋敷でだ。今はそれよりもズラカるぜい、大王!」
「ッハ!」
掛け声と共にライダーが手綱を振うと戦車が勢い良く空へ駆け出していく。
「主よ・・・これは一体・・・ッ!?」
「わからん・・・一体何が起こっているというのだ!!?」
「スピー・・・」
まるで状況が一転二転もする初めての経験にケイネスは目を回し、それをウェイバーはなんとも生温かい目で見ていた。
←続く
ネタを絡めていきたいでござるよ。