どうやら俺は魅かれるようだ。一つの…いや、一人の『ロリ』を全力で救おうとする『紳士』に!
ここで一旦時を雁夜が目覚める前に遡る。
まだ武家屋敷に改造される前の洋館のお屋敷の広間に紫の髪と輝きを失った眼を持った人間の少女と黒い髪に紅い眼を輝かせる人外の男が向き合っていた。
「『アーカード』…私と契約しなさい…」
「・・・・・カカカ♪ もちろんだとも」
少女の言葉に男は耳まで裂ける笑顔を浮かべた。
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『一年前』、私の姓は『遠坂』から『間桐』に変わった。
あの時の私はお父様・・・・・いえ・・・『遠坂 時臣』の言いつけにただ黙って従う事しかできませんでした。
できる限り覚えているあの温かな『家庭』から、間桐の人間になったあの日から私は・・・一つの『人形』になった。
暗い、光も通らない暗い部屋の中で・・・たくさんの蟲に体を貪られ作り変えられていく。
黒かった髪は紫に変わり、蟲に心を壊され狂わされていく。
どんなに叫んでも、どんなに泣いても誰も助けてはくれない。代わりに聞こえてくるのは最早人間とは思えぬ姿になっても生にしがみつく虫を操り人を弄ぶ老人『間桐 臓硯』の引きつるような静かな笑い声と蟲が体を這いずる音だけ。
私は一度だけ間桐の家から逃げ出した事があります。
誰もいない頃を見計らって私は家を飛び出しました。
そして、走って走って走って・・・私の生家、遠坂のお屋敷にたどりつきました。
・・・・・でも、そこに私の居場所はもうありませんでした。
お屋敷の庭先でお母様『遠坂 葵』と楽しそうに遊ぶお姉様『遠坂 凛』。それを離れた位置から紅茶をすすって見ているお父様『遠坂 時臣』。
どこから見ても誰もが見てもわかる幸せな家庭。そんな場所は体を貪られ、心を汚された私にとって、もう・・・帰れる場所ではなかったのです。その時に私の中の大事な何かが音をたてて壊れました。
それから心が壊れてしまった私は間桐の家の傀儡人形になりました。蟲に体を蝕まれても痛みも悲しみも怒りも何もかも感じなくなりました。
・・・そんな時です。『彼』が来たのは・・・・・
彼は私の為に悲しみ、怒り、臓硯に歯向かった。
『私の事なんか放っておいて欲しいのに、馬鹿な人』
『あの人に逆らって生きていられるわけがないのに』
最初は気に留めてもなかった。でも彼は私の為に自らを傷つけ、私を救おうとした。
『どうして私を助けようとするの?』
『身も心も汚された私を?』
『恋していた・・・いえ、今でも恋している『遠坂 葵』の為?』
『だとしたらなんて愚かな人・・・』
傷ついていく彼を見て段々と疑問を浮かび、侮蔑した。
それでも彼は血を吐き、体をボロボロにしながらも私を救おうとする。
『・・・もうやめてよ』
『私なんかの為に傷つかないでよ・・・!』
忘れかけていた感情が彼を見ていく内に甦って来る。
『やめてよ・・・やめてよ・・・!』
『もう私は人形でいいの・・・間桐の人形でいいの!』
私は張り裂けそうな声にならない声をあげる。何度も何度も。
『あなたは結局『
『この偽善者!』
蔑むように彼を声にならない声で罵倒する。
『だからお願い・・・お願いだから・・・!』
彼は刻印蟲の影響でボロボロになったか細い腕で私の頭を撫でる。撫でられる度に私の壊れた心が少しずつ形を取り戻していく。
「大丈夫・・・大丈夫だよ・・・きっと大丈夫だからね『桜』ちゃん・・・」
そう・・・ボロボロになった顔で笑いかける彼に・・・表情を失った私は泣く事も怒る事も・・・ましてや笑って答える事も出来ない。ただ、輝きを失った眼で彼を見つめるだけ。
『私なんかの為に・・・これ以上傷つかないで・・・・・『雁夜』おじさん・・・ッ!!』
「改めてご紹介させていただこう『
私の目の前にいるまるで童話の中に出てくる『吸血鬼』のような風貌をした男の人が私の顔を覗く。
「私は『暁 アキト』。君のおじさん『間桐 雁夜』にバーサーカークラスとして召喚されたサーヴァントだ。よろしく『間桐 桜』ちゃん」
バーサーカー、アキトは丁寧にお辞儀をした。
雁夜おじさんに召喚され、蟲蔵の中にいた私を救い上げてくれたアキトは色々な『現状説明』というお話しをしてくれた。
あの臓硯の器を殺した事、私の心臓に臓硯の本体がとりついている事、そして・・・・・
「雁夜おじさんは・・・・・」
「あともって『一か月』の命だ」
そのお話に私はひどく気分が悪くなりました。
私の為に傷ついた雁夜おじさんがもうすぐ死んでしまう。そんな内容に私はいつからか忘れていた『怖い』という感情が内に甦り、体が震えた。
「でも・・・大丈夫・・・大丈夫だ・・・」
「え・・・?」
アキトはソファに座った私の前に跪くと震える私の手を優しく握る。彼の手の冷たい体温が伝わる。
「君の心臓の糞蟲も君を守る騎士の余命も・・・俺が・・・『私達』がどうにかする」
彼は眼を紅く光らせて、私に笑いかける。
「その為と言ってはなんだが・・・・・君の血をくれないか?」
「え?」
「俺はサーヴァントだが、どういう訳か『霊体化』ができない。それと良い事に『宝具』使用の為の魔力供給が俺の保有スキルの影響で極力少なくて済む。しかし、これから君達を救う為の宝具になった仲間を召喚するにはちと魔力が足りない」
アキトは握っていた手を私の首筋に当てる。そして、紅く光る眼で見つめる。
「・・・いいです。あげます・・・私の血を」
「・・・本当かい?」
アキトは再度確認するように私の顔を覗き込む。
「雁夜おじさんの・・・・・彼の為になるなら・・・私は・・・!」
そう強い口調で答える私にアキトは少し目を見開いた後に口を大きく歪めた。
「
アキトはケラケラと愉快に笑うと私の手を握りしめる。
「桜ちゃん、俺はアキトという名前の他に『アーカード』という名前で呼ばれている。これからはそう呼んでくれ」
「なら・・・アーカード・・・私と契約しなさい・・・・・彼を助ける為に」
「カカカ♪ もちろんだとも。必ず君達を助ける」
私はアキトに貸してもらったナイフで小さく指に傷をいれ、そこから流れる血を彼に与えた。
こうして私は『私の『雁夜さん』を助ける』為に愉快な吸血鬼と契約した。
←続く