Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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諸事情により、弐つの話を繋げます。

可笑しくはないように。

では、どうぞ・・・・・



登場と不穏

 

 

 

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ・・・どういう事だ、バーサーカー・・・!?」

 

「こ・・・この人は・・・!」

 

目の前でなんとも凶悪な笑みを浮かべるバーサーカーに向けて、俺は到底桜ちゃんに見せられない程に歪んだ顔で相対する。隣にいるウェイバー君なんて、今にも気絶してしまいそうだ。

 

 

「言った通りだよ、マスター。この『ご婦人』を餌にあの男・・・『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』には脱落してもらう」

 

バーサーカーはそう言って、ガンナーとはまた違った赤毛の薬で眠った女性を指差した。

 

 

 

―――――――

 

 

・・・事の発端は未遠川のキャスターとの決戦を終えた翌日の朝に遡る。

 

その日、昨日の出来事。ウェイバーとサーヴァント組はキャスターとの戦闘を。雁夜は遠坂時臣との闘いを互いに報告をした。

雁夜の方はアキトに自身の使う魔法を話さないように口止めされるが、大まかな事柄は全員に伝える。

雁夜があの時臣を不本意ながら再起不能にした事は、色んな意味で衝撃的であった。彼に魔法を伝授したアキトでさえもまさかここまでやるとは思いもしなかったと弁を振う位には。

そんな雁夜の報告も程々に報告会は、昨晩のキャスター戦へと移る。

そこで述べられたのは、キャスターの完全脱落とランサーが自分の宝具の一つを破壊した事。そして、セイバーのあの『聖剣』の事であった。

セイバーの宝具『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』に未だとんでもない宝具を持っているであろうアーチャー。これらにどう対処しようかと皆が悩んでいる時である。

 

ピンポーン

 

「ん? 誰だ?」

 

玄関のインターホンが突如として鳴った。雁夜はセールスか何かだと思い、玄関に向かおうとした時。

 

 

「おん。来たか」

 

「え?」

 

「扉なら開いてるぞ、『ガブ』さん」

 

ドゴォオッン!!

 

「「なッ!!?」」

 

アキトが声を扉の向こうの誰かに語り掛けると玄関が四散爆裂した。

 

 

「て、敵ッ!?」

 

「なんとも豪快な。まだ然様な者が残っていたか」

 

「バカ! そんな事言ってる場合かよ!」

 

雁夜は桜を守るように盾となり、ウェイバーとライダーも臨戦態勢をとる。だが・・・

 

 

「アキト、お茶のおかわりをくれであろー」

 

「おん」

 

「このお菓子美味しいわね、ロレンツォ」

 

「なんでもこの街の銘菓だそうですよ」

 

何事もなかったかのようにマフィア組はお茶をすすりながらまったりと過ごしていたのだ。

 

 

「ちょッ! 何やってんだよバーサーカー?!」

 

「ドン達まで! 敵が来たんだぞ! なにを悠長な!!」

 

焦るマスター二人であるが、ライダーは煙の中から来る者に敵意がない事を感じ取った。

そんな焦る二人にドンがなんとも緊張感のない声色で語り掛ける。

 

 

「落ち着くであろー。この気配はワシらの仲間であろー」

 

「は? 仲間?」

 

ズドンッ!

 

「あろッ!!?」

 

「「ドンッ!!?」」

 

声をかけた瞬間、ドンの額に銃弾がめり込んだ事で一気に二人の血の気が引いた。

 

 

「あ、悪い。つい撃っちまった」

 

「もう。その癖、なんとか直してください。『ガブリエラ』」

 

煙の中から現れたのは、眼鏡をかけたメッシュの女。その手には、拳銃と大きな袋が担がれている。

 

 

「時間通り、流石はガブさん」

 

「はんッ、当たり前だ。このバカ」

 

「余計な一言!?」

 

「よくもドンをッ!」

 

「ん?」

 

雁夜は反射的に左腕に時臣との戦いに使った魔導を行使し、勢いよく前へと飛び出した。

 

 

「オラァッ!」

 

ズドゴッ!

 

「げボラッ!!?」

 

「「雁夜さん(おじさん)!?」」

 

ところが、前へと吐出した雁夜にその女は情け容赦のない踵落としを決め、彼の頭を踏んづけたのだ。

 

 

「なんだこの死にぞこないは?」

 

「ちょっとガブさん! 加減しろよ! これでも俺のマスターなんだからよ~」

 

「そうであろー、ガブリエラ」

 

「「「ッ!!?」」」

 

また皆は驚愕した。アキトのまるで仲間のような物言いもそうだが、額を撃ち抜かれた筈のドンが何事もなかったかのようにその眼鏡に文句を言っていたのだから。

 

 

「ど、どういう事だ・・・バーサーカーッ・・・?」

 

踏んづけられながら雁夜はアキトに答えを求める。するとアキトは、ヤレヤレと言わんばかりの口調でこの人物の正体について口を開く。

 

 

「この人は我等ヴァレンティーノファミリー、暗殺部隊隊長の『ガブリエラ』だ」

 

「おう、よろしくな。死にぞこないのアキトのマスター」

 

「「え・・・え~・・・」」

 

こうしてアキトの宝具『血は違えど我が一族(ヴァレンティーノファミリー)』として召喚した最後のサーヴァントが今ここに揃ったのであった。

とりあえずはガブリエラについての情報共有が開始され、ついでに何故に額を撃ち抜かれてもドンが無事なのかという事も共有される。

 

 

「愉快なばかりだと思っていたが・・・お前さん、かなりすごいんではないか?」

 

「そうであろー! ワシはすごいんであろー、イスカンダル!」

 

事情を知ったライダーは今まで喋るだけが取り柄だと思っていたドンを見直し、ドンはエヘンと威張った。

それもその筈。額を鉛玉でぶち抜かれたというのにまるで豆鉄砲を喰らったように平気な顔して、またお茶をすすっているのだから。ウェイバーは益々、このヤギが何者なのかサッパリわからなくなった。

 

 

「まぁ、ドンの事は一旦置いといて・・・・・ガブさん、来たって事は『捕獲』したのかい?」

 

「まぁな。というかアキト・・・なんでこのガキ、私を睨んでんだ?」

 

「・・・・・」キッ

 

ガブリエラの前には、雁夜を守るように彼女を睨みつける桜が座っている。その隣には先程、ガブリエラに踏んづけられた雁夜が恐々しながらも二人の様子を見守っている。

 

 

「この子が前に言った護衛対象の桜だ。睨んでんのは、ガブさんがマスターを踏んづけただからだろう」

 

「なんだそれ? それはコイツが・・・・・あぁ、そうか。なるほどな」

 

「ッ!」

 

ガブリエラは眼鏡の奥をキラリと光らせてニタニタと嫌な笑みを浮かべた。その顔が子供ながらに怖かったのか、彼女は雁夜へとしがみつく。

 

 

「コラ、ガブリエラ。怖がらせないの」

 

「ま、そう言うなシェルス。このガキんちょ、結構育てれば『化ける』かもしれないぞ?」

 

「Was?」

 

「どういう事だ?」

 

ガブリエラは此方を睨んだ桜の瞳から何かを感じ取ったのだろうか、いやに良い気分とばかりにケラケラと朗らかに笑う。

 

 

「それよりもそのサーヴァントが持って来た袋はなんなんだよ?」

 

彼女の言葉にポカンとする者達も一旦は放って置き、ウェイバーはガブリエラが持って来た袋が気になったようだ。その袋はサンドバックのような形と人一人入るくらいの大きさである。

 

 

「案外、人が入っておるかもしれんぞ坊主?」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「驚いた。大正解だぞ坊主。ご褒美に私の下僕にしてやろう」

 

「・・・へ?」

 

「は?」

 

ジーッという音と共にバックのジッパーが開かれると中にはスゥスゥと寝息をたてて眠る、赤毛の一人の女性が入っていたのであった。

 

 

「待ってたぜ? 大魚を釣り上げる、ご立派な『餌』をよ~?」

 

こうして、冒頭に戻って行くのである。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「こ・・・この人は・・・ッ!?」

 

ウェイバーはガブリエラの連れて来た、眠れる赤髪の女性に見覚えがあった。

 

『ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ』。

魔導を志す優秀な魔術師が集まるロンドン協会は時計塔。

その降霊科学部長の地位を歴任するソフィアリ家の息女にして、ウェイバーの恩師である時計塔の名門魔術師『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』の婚約者である。

時計台でもその品位と理知は広がっており。ウェイバー自身、ケイネスと一緒にいる所を一目見ただけで強く印象に残っていた。

そんな彼女が今まさに人並みの大きさの袋に詰められて目の前にいる。

 

キャスターからの戦いから1日も経っていないというのに、このとんでもない展開にただウェイバーは頭がどうにかなりそうだった。しかも、その彼女の隣にいるサーヴァント、バーサーカーことアキトは何と言ったか?

 

「この『ご婦人』を餌にあの男・・・『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』には脱落してもらう」、だと?!

増々ウェイバーはこのサーヴァントが何を考えているのか、わからなくなった。

 

 

「バーサーカー、この女は人質というやつか?」

 

混乱するマスター二人を差し置いて、ライダーは彼に何か考えがあるのかと問いを投げ掛ける。

 

 

「おん。大王の言うように人質ちゃあ人質みたいなモノだが、俺としちゃあ取引の交渉材料だな」

 

「ほう、取引とな? 先程、お前さんの言ったランサーのマスターを脱落させる為のか?」

 

「それもあるが、そのランサーとの取引ってのに―――

「ちょっとアキト、これ!」

―――・・・おん、なんだよシェルス? 今大王に説明を―――って、WRYYYッ!?」

 

「なッ!?」

 

「おいおい、バーサーカー・・・それって・・・?!」

 

アキトがライダーに自分の考えた内容を話そうとした時、シェルスが袋に詰め込まれたソラウの右手の甲に注目した。その手の甲にあったものにその場にいた全員が注目する。

 

 

「これって・・・『令呪』よね?」

 

「え・・・え、え~!!?」

 

「ば、バーサーカー! これって大手柄じゃないか!!」

 

「ランサーのマスターを生け捕りにするとは・・・見事ではないか!」

 

そう。ソラウの右手の甲には赤い紋章『令呪』が刻み込まれていたのだから。

令呪を持っているという事は、即ちマスターであるという証明にもなり得る。そのマスターを生け捕りにしたのだから、雁夜の言うように大手柄だ。

 

 

「アイえぇッ!? なんで?! ランサーのマスターって、ケイネスじゃあなかったのかよ?!!」

 

「は?! 何言ってんだよ、バーサーカー!!?」

 

しかし、そんな大手柄を獲ったというにアキトの顔は優れない。それどころか、なんだこれはと驚愕していたのだ。

それもその筈。アキトはケイネスがランサーのマスターであろうから、このソラウを捕まえて取引の交渉材料にしようとしていた。なので、まさかその交渉材料がランサーのマスターになっている事など露にも知らなかったのである。

 

 

「オイオイオイオイオイ! なんでランサーのマスターがケイネスじゃあなくて、この人になってるんだよ?! どういうこったウェイバー?! ケイネスがランサーのマスターじゃあなかったのかよ?!!」

 

「そんなの僕が知る訳ないだろ! というか、それを知ってて捕まえたんじゃないのかよ?!」

 

「んなもん知るかァアッ! まさかの餌だと思ったら本命だったなんて俺も予想外だよ、スットコドッコイッ!!」

 

「ああん? んじゃ、なにか? お前さんはこの女が、ランサーのマスターである事を知らなかったという訳か?」

 

「そういう事になるな!!」

 

「「え・・・え~・・・」」

 

雁夜とウェイバーは何も言えない。まさか、全くの誤算でランサーのマスターを捕まえて来た事になんて言っていいやらわからなくなった。

 

 

「ちょっと、ガブリエラどういう事?!」

 

「あ? んなもん知るか。お前らがあの気色の悪い化物と戦っている間にその女を見つけて拉致って来いって言ったのは、そこのバカなんだから」

 

「流石はガブリエラであろー。蝦で鯛を釣る筈が・・・蝦を釣る前に鯛を釣り上げたであろー!」

 

「流石です、ガブリエラ!」

 

「す・・・すごーい・・・」

 

「まぁ、当然だな! ハッハッハ!」

 

予想していなかったとんでもない状況にアキト達がプチパニックを起こす一方でドン達はガブリエラを褒め称えた。状況がわからない桜までも小さな手で賞賛の拍手を送っている。

 

 

「ダハハハ! バーサーカーよ、お前さんのラックも中々のモノではないか!! しかし、それにしても良き仕事だ。どうだ、ガブリエラとやら? 余の臣下にはならぬか?」

 

「誰がなるか! 私より目線の高いヤツは跪け!!」

 

「なに身の内で喧嘩しようとしてんだ!!」

 

「兎に角、バーサーカーもウェイバー君も落ち着け! バーサーカー、この状況は一旦置いておいて・・・お前が最初に考えた取引とやらを教えてくれ」

 

「お、おん・・・わ、わかった。ちょっと待ってくれ、落ち着く為に素数を数えてから・・・」

 

アキトは雁夜に促され、落ち着くために素数を数えると今回の自分の取引の内容を順を追って話し始めた。

 

 

「まぁ最初の俺の考えでは、この人を餌にケイネスを誘い込んで、ランサーの令呪と『交換』するつもりだったんだよ」

 

「交換?」

 

「そうだ。俺としてはこんな人の精神に脅しをかける胸糞悪い行為はしたくはなかったんが・・・生憎とセイバー陣営に取られる前にな」

 

「いや待てよ、バーサーカー。お前の言ったセイバー陣営の事も気になるけれど・・・ランサーの令呪とこの人を交換した所で、誰がランサーの新しいマスターになるんだよ? まさか、お前がなるのか?」

 

語尾に「なーんてな」と冗談交じりに雁夜が言うとアキトはキョトンとした顔になり・・・

 

 

「そうだよ」

 

「・・・え?」

 

「なにィイ!!?」

 

彼の言葉を肯定した。

そんな事が出来るのかと雁夜がアキトに対して聞くと「わからん」等という無責任な発言が返って来る。だが、アキトは自信があった。

何故なら、これから10年後に行われるであろう第五次聖杯戦争『Stay night』でもキャスターがアサシンを有していたからだ。それで『血液造形魔法』を使える自分にもキャスター適正があると履んだアキトは、自分でもできるだろうと根拠のない自信を持っているのであった。

 

 

「ほう、益々稀有なヤツ。そんな頓智来な事を考えるのはお前さんぐらいだぞ、バーサーカー」

 

「いや~、それほどでも」

 

「褒めてない。というか、どうしてランサーを?」

 

「頭数が必要なんだよ・・・『アーチャーを倒す』為のな」

 

『『『!』』』

 

「ほう・・・ッ!」

 

彼の言葉にライダーは感慨深そうに髭を撫でる。

 

聖杯戦争の御三家が一つ、遠坂が保有する三騎士の一人『アーチャー』。その力は初戦である倉庫街で確認した末端でも、他のサーヴァントとは格の違いが歴然とわかる程であろう。そんなアーチャーの真名は『ギルガメッシュ』。古代バビロニアの国家ウルクの伝説的な王である。

 

 

「あのサーヴァントは倉庫街で見せた宝具以上のモノをまだ使っていない」

 

「そんな宝具がアーチャーにあるのかよ?!」

 

「ある。大王やセイバーの宝具を上回るモノをあの男は持っている」

 

『『『!?』』』

 

「・・・・・」

 

皆がアキトの言葉に驚く中、何故かライダーが鋭い視線を彼に突き刺す。それを気づきかアキトは間髪入れずに尚も語る。

 

 

「そんなサーヴァントと対峙するんだ。頭数は多い方がいいだろう、ウェイバーに大王?」

 

「えッ? あ、ああ! そうだな!!」

 

「・・・・・」

 

「どうしたんだよライダー?」

 

「いや・・・何でもない。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「貴様のような者が生前の余の下に居れば、征服も容易かったろうとな」

 

「な、なんだよソレ・・・」

 

「ぷふ・・・フフフ・・・」

 

「はは・・・ハハハ!」

 

『『『ハッハッハッ!!』』』

 

呆れ顔のウェイバーにつられて、他の皆は笑い出す。当の本人も呆れ顔を不器用だが笑顔に浮かべる。

 

 

「カカカカカ♪」

 

「ダハハハハ!」

 

だが、今まで主先頭を担って来たアキトとライダーの眼は他とは違う、『笑っていない不穏な眼』であった。

こうして、誤算はあれどアキトが最初に考えた通りの策に打って出る事と相成ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





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