Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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今回の話は10000字をいつの間にか突破しました。

アキト「の割には俺の出番少ない」

では、どうぞ・・・・・



聖剣

 

 

 

『魔術師もどき』から『魔導士』へとクラスアップした間桐雁夜が未遠川へ向かっている頃・・・。

 

 

「・・・・・」

 

御三家が一つ、アインツベルンに雇われた魔術師殺しこと『衛宮切嗣』は巨大海魔から少し離れたクルーザーの甲板におり、その手には大よそ平穏からかけ離れたスナイパーライフルが握られていた。

彼は、ライフルを三脚で固定すると未遠川の川岸へとスコープを覗かせる。

川岸には大勢の野次馬共が列をなし、なんだなんだと川を眺めている。切嗣はそんな野次馬共の中から巨大海魔を操っているキャスターのマスターを探す。

 

 

「くふふふふ・・・もう退屈なんてさよならだ。手間暇かけて人殺しなんてすることもねぇ・・・ほおっておいてもガンガン死ぬ。潰されて、千切られて、砕かれて、喰われて・・・死んで死んで死にまくる。まだ見たこともない腸も次から次へと見られるんだ。毎日、毎日、世界中、そこいら中で! 引っ切り無しの終わりなし!!」

 

彼は、戦闘機を利用したバーサーカーのとんでもない攻撃に身悶える巨大海魔を呆然として見ている観衆の中に狂ったように喚く若い男を魔術師かどうかを見分けるサーモグラフィーに捉えた。

この男こそ精神が歪んだキャスターのマスターであり、昨今冬木市を恐怖に陥れている連続殺人および連続誘拐事件の犯人、『雨生龍之介』だ。

この男は偶然にもキャスターを召喚してしまい。それがキッカケで、()()()()()()()()()()をより一層残虐的なものへと昇華させてしまった稀代の快楽殺人鬼である。

そんな危険人物を許す筈もない切嗣は、ライフルを三脚に固定してスコープを覗く。そして、銃弾を装填し、慣れたように引き金を絞った。

 

ダンッ!

 

「・・・え?」

 

 

サイレンサーによって、音を抑えられた銃撃はまず、龍之介の腹部を貫いた。

何が起こったのかわからない龍之介は自分の腹に手を伸ばすとヌルりとした感触が伝わる。手にはベットリと血が付いていた。

 

 

「龍之介ッ!?」

 

マスターの異変にキャスターは攻撃に身悶える巨体を向ける。目を向けたそこには感慨深そうに腹から湧き出る自らの血を愛おしそうに眺める龍之介の姿があった。

 

 

ズダァアッン!

 

切嗣は空の薬莢を銃身から吐き出すと新たな薬莢を装填し、とどめの一発を龍之介の頭部へと捻じ込ませる。

 

 

ドサ・・・

 

額を撃ち抜かれた雨生龍之介だったそれは何とも良い笑顔を浮かべ、地に伏せる。世間を賑わせた殺人鬼にしては、なんともあっけない最期であったろう。

 

切嗣は彼の右手に宿った令呪が掻き消えた事を確認すると上着のポケットに入っている携帯を取り出して、部下である『久宇 舞弥』に電話をかけようとする。

その時である。

 

 

「あらら、この距離から・・・良い腕ね」

 

「ッ!?」

 

ここにいる筈のない第二者の声に彼は酷く驚き、振り返った。

 

 

「驚かせてごめんなさいね」

 

切嗣の背後にいたのは怪しげな雰囲気を醸し出す赤毛の女性である。

切嗣はこの人物に見覚えがあった。倉庫街での会合時、見るからに重病人のバーサーカーのマスターを狙撃から守った8番目のサーヴァント―――

 

 

「―――『ガンナー』・・・!」

 

「ご名答。こうして顔を合わせるのは、倉庫街の時以来かしらね? 『魔術師殺し』さん?」

 

この聖杯戦争において全くの想定外とも言われるダークホース、間桐雁夜が保持する2体目のサーヴァントが朗らかに笑みを浮かべて、立っている。切嗣は何とも言いようのない恐怖を目の前のサーヴァントから感じていた。

彼の思考はまず、どのように逃走しようかという思考にすぐさま切り替わった。そう『闘争』ではなく『逃走』である。

 

魔道に乏しい貧弱なマスターが2体ものサーヴァントを保持しているのなら1体は攻撃に向かわせ、もう1体は自分を守るよう傍に置いておくのが定石だろう。だが、目の前にいるのはその2体の内の1体である。

雁夜は『魔術師殺し』として、その道の業界からは侮蔑され、恐れられている。されどそれは所詮、『人間』としてである。

人間としての域をでない彼に人智を逸脱した力を持っている『英霊』を打倒できようか? 答えは『否』。ましてや、人類種の最大の天敵『吸血鬼』なら尚の事である。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

切嗣は恥も外見もなく、どうやって逃げようかと思考を張り巡らす。が、次の彼女の一言によって、無へと変わる。

 

 

「ちょっとちょっと。死んだ腐乱死体のような目で動揺しないでよ。別にこっちは貴方を取って食おうなんてコレっぽちも思ってないのよ? こっちは、少しの話がしたいだけなの」

 

「!・・・話だと?」

 

「大丈夫よ。あのデカブツなら彼等で何とかしてくれるから」

 

「・・・・・」

 

自分に敵意がない事を空の掌を見せながら喋るガンナーに一抹の不安を覚えながらも切嗣は彼女の取引話に耳を傾ける事にした。

 

 

「さて、衛宮切嗣。『私達』となんの他愛もない話をしましょう?」

 

しかし、この時の切嗣は気づいてはいなかった。ニコリと笑うガンナーの眼の奥が怪しげに紅く光っている事を。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「龍之介・・・我がマスターよ・・・私を残して、先に逝くとは・・・」

 

自身のマスターが亡き者になった事を認識したキャスターは項垂れていた。生前と同じく自身の理解者をまたしても先に失ってしまったのだから。

 

 

「ですが、龍之介・・・ご心配なく。このジル・ド・レェ、貴方との約束は果たします故・・・」

 

失意のキャスターがそんな言葉を呟くと海魔を生み出す彼の宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』が鈍い光を放ち出す。

 

 

「龍之介よ、照覧したまえ! 私からの手向けを!! 最高の『COOL』をォォオッ!!」

 

胸に携えた禍々しくもかなり悪趣味なデザインが施された魔導書を前へと突き出すキャスター。するとアキトの攻撃で負った傷はみるみるうちに修復され、またしても巨大海魔は水を得た魚・・・いや、イソギンチャクのように元気に再び暴れ出した。

 

 

「ハァ! ハァ!」

 

金の髪を靡かせる少女、セイバーは見るからに疲労していた。苦悶に身悶える巨大海魔の肉を剣で引き千切るのも容易くはなかったのに、またしても元気に暴れ出しては手の施しようがない。

 

 

「アイツ! 折角バーサーカーが決死の攻撃をしたって言うのに、また元気になりやがった!!」

 

手をこまねいているのは、何もセイバーだけではない。それは上空から空を駆ける戦車を操るライダー達とて同じ事である。

 

 

「どうするんだよライダーッ?!!」

 

「・・・」

 

悲鳴にも近いウェイバーの叫びにライダーはその眼を鋭くさせて考え、あるバーサーカーからの言葉を脳内に浮かべた。

 

 

「やってみる価値はありそうだな・・・」

 

「へ? ウわァアア!!?」

 

ライダーは戦車を急降下させ、セイバーへと近づいて旋回する。

 

 

「おおいセイバー! このままでは埒があかん。一旦引けぇ!」

 

「馬鹿を言うな! ここで食い止めなければ!!」

 

セイバーの言う事はまったくのその通りであった。マスターからの魔力供給を失ったキャスターは新たな魔力を求めて、川岸へと上陸してしまうだろう。そうなれば、本当に手の施しようのない惨劇が待っている事は明白であった。

 

 

「いいから聞け! ここはヤツの策に乗ってみる価値がある!」

 

「『ヤツ』?」

 

ライダーのいう『ヤツ』が誰なのかをセイバーは知っている。この聖杯戦争においてどうしようもない程に理解しがたい思考と何を考えているのかサッパリわからない性格をしている異端のサーヴァント、バーサーカーであった。

その彼が考えた策なのだからセイバーとしては興味がある。というか彼女は、アインツベルンの森にてバーサーカーの策に少なからず助けられた事がある。

 

セイバーはライダーの言葉に乗る事にした。彼女は進行方向に待ち受ける海魔の巨大な触手を断ち切りながら元いた川岸へと上って行った。

川岸にはアイリスフィールと美形の騎士、ランサーが佇んでいる。

 

 

「いいか、皆の衆。この先バーサーカーの策を講じるにしろ、まずは時間稼ぎが必要だ」

 

川岸に集まった三騎士で真っ先に発言したのはライダーであった。彼はバーサーカーから策を聞かされており、先んじて彼が発言する事に疑問の余地はなかった。

 

 

「ひとまず余が『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』にヤツを引きずり込む。とはいえ、余の精鋭達でもアレを殺し尽くすのは無理であろう。精々、固有結界の中で足止めするのが関の山だ」

 

「その後はどうする?」

 

「あとは・・・・・坊主」

 

「わかった」

 

ライダーに変わって発言をしたのは、彼のマスターであるウェイバーであった。

ウェイバーは戦車から降りるとセイバーに視点を向ける。

 

 

「セイバー、君がこの戦いの鍵だ」

 

「どういう事ですか?」

 

セイバーは少女と見違える程の容姿を持つ彼に疑問符をぶつけた。

 

 

「僕は英国人だ。君は英国人なら誰でも知っている英霊の中の英霊。今でも僕は信じらないけれど、あの『アーサー王』だ」

 

「さよう。私はブリテンの王です」

 

「バーサーカーが言うには君の剣。名を明かすならば、『聖剣エクスカリバー』が勝利の要だと言っていた」

 

「「!?」」

 

ウェイバーの言葉にセイバーは勿論の事、アイリスフィールも驚いた。

アーサー王の携える剣が聖剣、名をエクスカリバーというのは『聖剣伝説』をしっている者なら至極当然の事である。しかし、それがこの戦いにおける『勝利の鍵』だというのならセイバー陣営には意味が違って聞こえる。

 

 

「どういう事だ、ライダーのマスターよ?」

 

「ヤツが言うには、セイバーの宝具は『対城宝具』だと言っていた。それならば、あのデカブツを微塵も残さず消滅させられるともな」

 

これにはアイリスフィールは再び驚かされた。あのバーサーカーは、何故にセイバーの宝具が対城宝具だと知っているのだろうか。

アインツベルンの森でもそうだ。あの得体の知れないサーヴァントは、まるで生前のセイバーを知っているかのような口ぶりであった。これが聖杯問答の時、バーサーカーのマスターである雁夜からの伝言に円卓の騎士の誰かの名前が書いてあったのなら、幾分か納得できたであろう。しかし、あのバーサーカーの真名は『アカツキ・アキト』。円卓の騎士どころか、ブリテン人でもない日本人(仮)であった。

こうなってくると本当にあのサーヴァントは何者であろうか。ここまで来ると得体の知れないどころか、不気味すぎる者である。

 

 

「ほう。そのような宝具をセイバーが持っていようとは・・・しかし、ならばどうしてセイバーはその宝具を開帳しないのだ?」

 

「お前のせいだよ!」という言葉をグッと堪えて、ウェイバーは冷静に淡々と話すように口を開いた。

 

 

「いいかランサー。セイバーが聖剣を使えないのは、お前の左手に握っている『必滅の黄薔薇 (ゲイ・ボウ )』が原因だ」

 

「!。なんだと?!」

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ )』。

それは妖精王マナマーン・マック・リールより贈られた黄槍である。この槍で付けられた傷は、槍を破壊するか使い手が死なない限り癒えることがない。短期決戦においてはただの槍である。が、長期に渡って同一の相手と複数回戦えば、じわじわと確実に効いてくるというなんともいやらしい効果を持っている槍である。

 

 

「倉庫街での決闘の時。その槍でセイバーの左腕を傷つけただろう? 聖剣を使うには、両手で持って使わなければならないんだよ」

 

「つまり・・・」

 

「ランサー、貴様の黄槍を折らない限りこの戦いには勝てんという事だ」

 

「・・・・・」

 

ランサーは申し訳なさそうに口をつぐんだ。まさか、あの決闘で自身の力を正々堂々と使ってしまった結果がこのような事になろうとは思わなかったからである。

この間にも巨大海魔は魔力を求めて、川岸へ上陸せんと動いていく。

 

 

「時間が無い。余の固有結界がヤツを閉じ込めても、もって数分が限度。その間までに話を着けて置け。よいな? それと坊主」

 

「なんだよ、ライダー?」

 

「いざ固有結界を展開したら、余には外の状況がわからなくなる。坊主、話が決まったら、強く念じて余を呼べ。伝令を差し遣わす」

 

「うん、わかった。・・・負けるなよ、ライダー」

 

「!。ダハハハ! 任せおけ! ッハ!!」

 

いつになく珍しいウェイバーからの言葉にライダーは短くも大きくほほ笑むと戦車の手綱をしっかりと握り、巨大海魔目掛けて突撃していった。

そのままライダーは襲い掛かる触手をなんとか躱し、海魔の胴体まで近づくと彼が誇りとする精鋭達の詰まった宝具を展開した。

 

 

「さて・・・」

 

ライダーを見送った後、ウェイバーはここからが正念場という心意気でランサーとセイバーの両者を見る。するとここまで申し訳なさそうに口をつぐんでいたランサーがセイバーに向かって、語り掛けた。

 

 

「セイバー。先程のライダーのマスターの言葉・・・相違ないのか?」

 

「ああ。だが、ランサー。我が剣の重さは誇りの重さだ。貴方と戦った結果の傷は、誉であっても枷ではない。この左手の大腿にディルムッド・オディナの助成を得るならば、それこそが万軍に値する」

 

「ちょっと!? 何言ってんだよ、セイバー!!」

 

セイバーは柔らかい表情で言っているが、つまりはランサーの助力があれば聖剣は使わないと言っているのである。これには当然の如く、ウェイバーが噛み付く。

 

 

「そんな悠長な事言っている場合じゃないんだぞッ!」

 

「しかし!」

 

「ちょっと、二人とも!」

 

「・・・ッフ・・・」

 

言い争いをはじめようとする二人とオロオロする一人に対して、ランサーは不敵に笑う。そんなランサーに対して、皆の視線が彼の方に向いた。

 

 

「セイバーよ」

 

「はい」

 

「俺はあのキャスターが許せぬ。ヤツは諸人の絶望を是とし、恐怖の伝播を悦とする。騎士の誓いに賭けて、あれは感化出来ぬ『悪』だ」

 

ザクッ

 

そう言うとランサーは、右手に持っていた赤槍『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』を地面に突き刺すと自然に必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ )を折る形で両手に携えたのだ。

 

 

「!?。ランサー、それはダメだ!」

 

「・・・今、勝たなくてはいけないのはセイバーか、ランサーか。否、どちらでもない。ここで勝利するべきは、我らが奉じた『騎士の道』。そうだろう? 英霊アルトリアよ」

 

バキィインッ

 

セイバーの制止も聞かず、ランサーは問答無用と必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ )をへし折る。槍が折られた事でランサーを中心に一迅の風が巻き起こり、施された呪いが塵へとかえった。

 

 

「ランサー・・・」

 

「我が勝利の悲願を騎士王の一刀に託す。頼んだぞ、セイバー」

 

「・・・はい! 請け合おうランサー。今こそ我が剣に勝利を誓う!!」

 

左手の傷が完治した事を認識したセイバーは風に隠された剣を両手で掴み、天高く掲げる。さすれば、剣全体を覆ていた風は解かれていき、黄金に輝く刀身が現れ出でる。

 

 

「おおッ・・・!」

 

「あれがアーサー王伝説の・・・!」

 

「なんて美しいの・・・・・」

 

闇夜に浮かぶ月のように美しいそれは、遥か彼方からも視認できる程に淡く力強い光であった。

 

Prrrrrrr

 

「ん?」

 

「あ、ごめん。僕だ」

 

そんな時、この場に似つかわしくない電子音がウェイバーのズボンのポケットから響く。それは未遠川に向かう前、ドンから渡された携帯電話である。彼はそれをいそいそと取り出して通話ボタンを押した。

 

 

『ああ、ウェイバーか? 俺、バーサーカー』

 

「バーサーカー?!」

 

「「「!」」」

 

かけて来た相手は戦闘機で特攻を仕掛けたバーサーカーこと、アキトであった。

 

 

「お前! 無事だったのか?! 今どこにいるんだ?!!」

 

『そう、いっぺんに喋らんでくれよ。なんだよ、泣いてんのか?』

 

「泣いてない!」

 

泣いてはいないが、ウェイバーはアキトを心配しているのは声色から伺える。彼は通話口のウェイバーの反応にカラカラと笑うと状況を聞いて来た。

とりあえずウェイバーは今の状況を大まかにアキトに伝える。

 

 

『そうか。ならウェイバー、固有結界は川の真ん中で解け。あと、セイバーに『聖剣は川沿いにむけてぶっ放せ』と。くれぐれも街の方に向けてぶっ放すなよ』

 

「わかった。それよりもバーサーカー、お前どこにいるんだよ?」

 

『おん。いやな、ちっとばっか傷を負ってな。動けれねぇんだよ』

 

「だ、大丈夫なのか!?」

 

『心配するな、すぐに再生して合流する。それよりもあのデカブツを!』

 

「(再生?)わ、わかった!」

 

バギンッッ!

 

「「「「ッ!?」」」」

 

ウェイバーが携帯をきると同時に何かが割れるような音が響き渡った。

 

 

「今の振動は・・・ッ?」

 

「ライダーの固有結界が限界に近付いている予兆だろう」

 

「ライダー・・・・・ッ!」

 

アイリスフィールは心配そうに振動を感じる方向を見る。こうはしていられないとウェイバーは、ライダーに言われたように強く彼に向かって念じると彼の真横に古代の甲冑を纏った兵士が現界した。

 

 

「軍勢が一人、ミトニリウス。王の身に成り代わり、馳せ参じてございます」

 

「こ、これから指示を出す。指示した場所にキャスターを放り出してほしい・・・・・出来るな?」

 

「可能ですが・・・事は一刻を争います。既に結界内の我らが軍勢は、あの怪物めを足止めするには敵いそうになく・・・」

 

「わかった。今まで耐えてくれてありがとう。川の中央に出現させてくれ」

 

「御意ッ!」

 

指示を確認した兵士はそのまま霊体化し、消える。ウェイバーは兵士が消えたのを合図にセイバーに目線を送ると彼女は一目散に指定された場所に向かう。

 

ズオォオオオーン

 

水面を地面のように蹴り進み、指定された場所に立ったセイバーの前に巨大な肉の塊のような海魔が現れ出でる。海魔は大飛沫をあげながら川へと着水した。

 

 

「ったく。何を手間取っているか・・・って、おおッ!?」

 

固有結界を展開していたライダーが悪態をつきながら海魔と共に出て来たが、すぐに直線状に佇んでいるセイバーの携える剣に身の危険を感じる。『ここにいては、巻き込まれる』という危険を。

すぐさま彼は戦車の進行方向を急転する。

 

 

「さぁ・・・セイバーよ、示すが良い。お前の英霊としての輝きの真価を。この我が見定めてやろう」

 

金のヴィマーナから絶好の位置で観戦できる鉄橋上へと場所を移した英雄王ことアーチャーは、クツクツと笑みを溢しながらこれから聖剣を放つであろうセイバーを舐めるように見た。

 

 

「・・・・・」

 

ザンッ

 

セイバーは剣を両手で天高く掲げると蒼い眼をゆっくりと閉じた。すると川や川岸の草花から蛍のような金色に輝く光の粒が、舞い上がる。

その光の粒たちは吸い込まれるように輝く剣をコーティングしていく。

 

 

「光が・・・」

 

輝ける、彼の剣こそは・・・

 

「え?」

 

幻想的な場景に心奪われながらもアイリスフィールは其の剣の口上を述べていく。美しくも気高い王と共に。

 

 

『過去』『現在』『未来』を通じ。戦場に散っていく、全ての兵達の・・・忌野の際に抱く、悲しくも尊き『夢』。その意志を誇りと掲げ。その信義を貫けと正し・・・・・今、常勝の王は高らかに 手に執る奇跡の真名を謳う。其は―――

 

「『約束された(エクス)―――――――勝利の剣(カリバー)』ァアアッ!!」

 

ズバシュゥウウ―――ッッン!!

 

一歩踏み出されたと共に振り下ろされた黄金に輝く剣は、先程よりも強い輝きを放ちながら一直線に巨大海魔へと飛んで行く。

 

 

「はッ!!?」

 

海魔の体内にいるキャスターからも判る程に強い輝きを放つ斬撃は、その巨体へと直撃する。そして、ジリジリと肉を焼き尽くしている。

 

 

「お・・・おおッ・・・! この光は・・・!!」

 

この身に迫る斬撃を視認しながらキャスターはいつか見た光を思い出し、前へ前へと両手を伸ばす。

 

 

「・・・間違いない・・・この光は・・・ジャンヌと共に歓喜の祝福を得た輝き・・・・・ッ!!」

 

生前の中で最も美しい記憶、自らの傍らでほほ笑むあどけないオルレアンの少女との記憶を。

 

 

「あぁ・・・おぉ・・・・・私は、一体・・・」

 

ドバシャァアアアアッッン!

 

光の斬撃によって醜悪な巨大海魔は見る影もなく、塵も残さず消滅した。墓標のようにキャスターを飲み込んだ光は、遥か高く空へと光の柱をつくる。

 

 

「・・・フッ・・・見届けたか、『征服王』? あれがセイバーの輝きだ」

 

セイバーの宝具に満足したように鼻を鳴らしたアーチャーの後ろには、どかりと鉄橋の骨組みに腰かけたライダーの姿があった。

 

 

「・・・確かに美しい、それは認めよう。だが・・・」

 

「ん?」

 

「時の民草の希望を一心に受けたが故のあの威光・・・眩しいが故に痛々しく感じるのは、余だけであろうか」

 

「いんや、大王・・・俺もだよ」

 

口をへの字に曲げるライダーの言葉に乗ったのは、背中に翼竜のような翼を生やして宙に浮くアキトであった。

 

 

「なんだ、蝙蝠。貴様、あれで生きていたのか」

 

「悪いね、英雄王。俺もあんなんでくたばる程、柔な身体はしてないんでな」

 

「フン」

 

今度はアーチャーの不機嫌そうな鼻息に気を留めずに彼は口を開く。

 

 

「あの娘はなんでも背負い過ぎなんだよ。自分のキャパも考えずに背負い込んでしまうから・・・最後には足元から崩れ落ちちまう」

 

「なればこそ愛いではないか。あれが抱いていた身に余る夢は、きっと抱いた当人をも焼き果たしたに違いない。その塵際の慟哭の涙・・・・・舐めれば、さぞ甘かったであろうなぁ?」

 

それを想像し、味わった時のアーチャーの顔は酷く朗らかに歪んでいた。

 

 

「・・・やっぱ、趣味悪ィよ。英雄王」

 

「バーサーカーの言う通り、貴様とは相容れぬな。バビロニアの王よ」

 

「ほう・・・ならば如何とするライダーにバーサーカー? その怒り・・・今、武を持って示すか?」

 

アーチャーの雰囲気が一気に変わった。

彼はまったくの物見雄山でいた為に全く疲労感というモノがない。一方のライダーは自らの最高の宝具を使用し、バーサーカーに至っては戦闘機で海魔に突っ込むという暴挙や『他の事』をやった為に万全ではない。

 

 

「それが出来れば痛快であろうが・・・・・貴様を相手の戦となると今宵のイスカンダルは、些か以上に消耗し過ぎとる。無論・・・見逃す手はないと突っかかって来るならば、相手にせん訳にもいかんがな?」

 

「右に同じく」

 

「構わぬ。逃亡を許すぞ、征服王。ついでに貴様もだ蝙蝠。お前達は十全の状態で潰さねば、俺の気が納まらぬ」

 

「ほう!」

 

「珍しい事もあるもんだ。あの傲慢不遜の王が情けとは・・・明日は雪か、嵐か?」

 

「・・・別に貴様はここで潰しても良いのだぞ? 蝙蝠」ギロリ

 

常人なら数秒で泡を喰う位の濃厚な殺気をアーチャーはアキトに対してぶつける。が、彼は動揺するどころかケラケラと口角を三日月に歪ませた。

 

 

「カカカ♪ そんな怖い顔しないでおくれよ。そんな事よりも英雄王、今宵は早めに帰った方が良いかもよ?」

 

「・・・なんだと?」

 

本気で宝具を開放するつもりであったアーチャーは、アキトのその言葉に武器を収める。

 

 

「俺の直感が言ってるんだよねぇ・・・・・『アーチャーのマスターは瀕死の重傷を負っている』・・・てな?」

 

「それは誠か、バーサーカー?」

 

「・・・貴様」

 

そういえば、アキトのマスター、雁夜を倒しに行ったはずの時臣から魔力供給が散り散りになっている事に今更ながらにアーチャーは気づいたのであった。

 

 

「なぁに・・・ただの直感だよ、直感。カカカカカ♪ それとも・・・・・本当に死合おうか、アーチャー?」ギョロリ

 

「・・・我は挑発には死をもって遇するぞ」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

アキトもアーチャーに尋常ならざる殺気をぶつける。ピり付いた空気が頬を掠め、突き刺さる。

 

 

「まぁ、その片にしておけバーサーカー」

 

「・・・あぁ。すまねぇ、大王」

 

「次に持ち込しだ、英雄王。我らが対決は、即ち聖杯戦争の覇者を決する大一番となる事だろう」

 

「じゃあな・・・英雄王」

 

ライダーとバーサーカーの二人はそれだけ言うと下を走る戦車に乗り込み、帰陣する。

 

 

「果たしてどうかな? 我が至宝を賜すのに値するのが一人のみだとは・・・まだ我は決めていないぞ、ライダー」

 

一人、鉄橋に残されたアーチャーは暗ある表情で走って行く二人を眺めた後に川の水面へ立ち尽くすセイバーへと視線を移した。

 

 

「人の領分を超えた悲願に手を伸ばす愚か者・・・・・その破滅を愛してやれるのは、天上天下唯一人・・・この『ギルガメッシュ』を置いて他にはない。ククク・・・儚くも眩しき者よ、我が腕に抱かれるが良い。それが我の決定だ」

 

含み笑いも混ぜつつアーチャーは霊体化し、その場を後にする。

 

 

「・・・・・そろそろ、あの蝙蝠の駆除も範囲に入れるか・・・」

 

アキトに対して、物騒な事も言い捨てて。

 

ライダーとバーサーカーはウェイバーを回収し、此方に向かっていた雁夜とも合流した彼等は、今後についての話を深めながらに間桐邸へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





書き上げた私。風呂に入って、寝酒して寝よう。

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