Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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ここ何日か前に十代にサヨナラを告げました。

アキト「酒ッ! 飲まずにはいられない!」

そして、ここからおじさんの強化が行われます。

アキト「今回はその前フリみたいな!」

酒は程々にしますが、強化は自重はしない。では、どうぞ・・・・・



覚悟

 

 

 

「バーサーカー・・・俺に『魔術』を教えてくれ」

 

「・・・おん?」

 

カラン・・・

 

聖杯問答後に間桐家邸宅で始めた酒盛りが終わった頃。

皆が別室で眠る中。縁側で月を見ながらウイスキーを傾け、宴の余韻に浸るアキトに彼のマスターである雁夜が語り掛けて来た。

グラスに入った丸氷がピシりと音を発てて砕け散る。

 

 

「オイオイオイ・・・マスター。今、なんて言った? 俺の耳に入って来た言葉が確かなら・・・『魔術を教えてくれ』って聞こえたんだが?」

 

「そうだ。バーサーカー、お前の使っている魔術を・・・俺に教えてくれ」

 

「・・・ふむう・・・」

 

オイオイといつもの様に飄々とした口調で聞き返したアキトに雁夜は真剣な面持ちで言葉を返す。いつもとは違う雰囲気を漂わせる雁夜にアキトはウイスキーを全て呷るとそのグラスを彼に渡した。

 

 

「バーサーカー?」

 

「まぁ飲めよ、マスター」

 

彼は渡したグラスにボトルを傾け、半分まで注ぐ。

雁夜は困惑しながらもそれを舐めるように飲み干した。独特の余韻が鼻を抜け、息を吸い込むと口の中が熱くなる。

そして、空になったグラスをアキトに返すと彼はまたウイスキーを注ぎながらいつもとは違う冷淡な口調で口を開いた。

 

 

「よし、飲んだなマスター。ならさっきのは酔いどれの話として聞かなかった事にしてやるから、とっとと寝ろ。明日も早い」

 

「え!? ちょっと待ってくれ!」

 

「・・・」ギョロリ

 

「ッ!?」

 

話は始まってもいないと雁夜がアキトを呼び止めるが、帰って来たのはいつものお気楽な声ではなく、身も凍るような鋭い視線であった。

ゴクリと雁夜は息を飲み込む。今まで味わった事のないような恐怖が彼の身体を包み込んだからだ。

 

 

「聞こえなかったのか、マスター? 俺はとっとと寝ろって言ったんだぜ? それとも何か? 俺、呂律がまわってなくて上手く喋れてなかったかしらん?」

 

「い、いや・・・ちゃんと聞こえた・・・」

 

「なら―――「それでもだ!」―――・・・・・」

 

雁夜は屈しはしなかった。身体が硬直し、額から脂汗を噴き出そうとも彼は喰らい付いた。

アキトは何か考え込むように頬をかくと頑として譲らない眼をこちらに向ける雁夜に語り掛ける。『理由を聞こうか』と。

 

 

「今の俺は、お前に体から刻印蟲を取り除かれた為かどうかわからないけれど、間桐の魔術を行使できない」

 

「おん」

 

「こんなんじゃ、もしもの時に俺一人で桜ちゃんを守れない! だから・・・ッ!」

 

「・・・ふむ・・・」

 

雁夜は現在、魔術を行使する事ができない。理由としてはアキトが召喚されてすぐに彼の体の中に巣くっていた刻印蟲を取り除いたのもあるが、他にも屋敷内にいた全ての蟲を『拘束術式(クロムウェル)』発動で全て喰らってしまったのもあった。

なので、今の雁夜は魔力は人並み以上に持っているが魔術は行使できない半端者なのである。これではこちらの隙を突かれてマスター単体を狙われた時に対処しようがない。

だが・・・

 

 

「マスター・・・本当にそれだけか?

 

「え・・・ッ?」

 

アキトは雁夜の言葉に首を縦に振ろうとはしなかった。

 

 

「マスター。アンタは本当にただ桜の為という理由で俺から『力』を教えてもらいたいのか? 本当はもっと違う理由があるんじゃあないのか?」

 

「な、なにを・・・ッ!」

 

何故なら召喚された時。床に流れた彼の血を啜り、間桐 雁夜という男の『闇』を知ってしまっていたからだ。

『桜の為』というのは本当の事なんだろう。本当に彼女を心の底から大切に思っているんだろう。彼女の為ならば、どんな苦難にも耐え得る精神を持っているのだろう。

しかし、それとは別の『感情』が彼の中にある事をこの男は知っていた。

 

 

「『遠坂 時臣』への私怨」

 

「ッ!」

 

図星であった。

雁夜は遠坂家を、『遠坂 時臣』を心の底から憎悪し、怨んでいた。間桐の家に桜を養子に出し、彼女の身も心も汚染した原因を作った時臣を雁夜は憎んでいた。

 

 

「時臣を殺す為だけに魔術の教えを乞うならば、とんだお門違いだ。桜は・・・あの娘はアンタの免罪符じゃあないんだぜ?」

 

「ッ・・・!」

 

アキトの言葉に雁夜は表情を大きく歪める。哀しそうに苦しそうに顔を崩した。

そして、自らの思いの内を吐露し出していく。

 

 

「俺が・・・俺が間桐から逃げ出してしまったから・・・あの娘が、桜ちゃんがひどい目にあって・・・だから俺はそれを償わなきゃいけなくて・・・ッ!」

 

「・・・・・」

 

「だから、だから桜ちゃんを! よりにもよって間桐へやった時臣を俺は! 葵さんだって悲しませて! アイツが、アイツのせいで!!」

 

吐き出された感情は紛れもない時臣に対する『怒り』。初恋の幼馴染を悲しませ、その子供までを傷つけた男への圧倒的な憎悪。

ウイスキーを飲まされた影響もあってか、雁夜は思いの丈をアキトに吐き出すとここまで無言であった彼がゆっくりと口を開いた。

 

 

「・・・マスター・・・本当はわかっているんじゃあないのか? 時臣を・・・あの男を殺したところで誰も救われない事をよ」

 

「ッ!」

 

ガシッ!

 

雁夜はアキトの胸倉を掴んだ。

そんな事はわかっている。そんな事はとっくの昔に知っている。頭では理解している。

しかし、心がそれを拒んだ。理解しようとしなかった。自分勝手な一方的な怨みだという事は、嫌と言う程わかっている。

わかっているからこそ、胸倉を掴んだ自分のサーヴァントの言葉がグサリと内に突き刺さったのだ。

 

 

「うるさいッ! お前になにがわかる?!! 間桐の魔術を知らないサーヴァントのお前に何がッ!!」

 

わかるわけねぇだろうが! このスカタンッ!!

 

ガシリ!

 

「ッ!!?」

 

遂に冷淡な口調で喋っていたアキトが雁夜の襟に掴みかかって叫んだ。

 

 

「確かにッ、俺はぽっと出のサーヴァントさ。訳も分からずこの戦争に召喚されちまったヤツだよ。だから間桐の魔術なんて詳しい事はわかんねぇよ、アンタの血を啜って、概要を知ったところで本質はわかんねぇよ。でもなぁ、間桐 雁夜ッ! アンタが苦しんでるって事はわかるんだよ!!

 

「ッ!!」

 

アキトの紅い眼が雁夜の目を見通す。

 

 

「俺はこれでもマスターの事、気に入ってるんだぜ? 魔術を教えて欲しいなら強制力のある『令呪』を使やあいいのに一人の人として律儀に教えを乞う所とか、未だに幼馴染に一途な所とか、ドン達だって気に入ってるんだ! それがどうだ? 今のマスターは、ヒデェ顔してるぜ?・・・今のアンタは、足元が見えずに転がり落ちていく者の顔だ」

 

「・・・ッ・・・」

 

ここまでの数日間という短い間であるが、アキトはわかっていた。雁夜の中には負の感情の他にも高潔な魂が存在する事を。

 

 

「『悲しみ』『絶望』そして、『憎しみ』は優しいアンタを傷つけるだけだ。それに・・・・・」

 

「え・・・?」

 

彼は目線を雁夜から外し、前を見つめた。彼もその視線につられて振り向くとそこには、窓から注す月光に照らされた少女が立っていた。

 

 

「さ・・・桜ちゃん?」

 

「アーカード・・・雁夜おじさん・・・いじめちゃダメ・・・!」

 

「ごめんよ。いじめちゃあいないんだけどね」

 

幼いながらに桜は精一杯の眼光をアキトにぶつけ、雁夜へと近づいた。

雁夜は無意識のうちに彼女を抱きしめる。そんな彼にアキトは語り掛けていく。

 

 

「マスター。もうこの娘にはアンタしかいないんだぜ?」

 

「え・・・」

 

「間桐へやられて、一人ぼっちの悪夢の中で見つけた心の拠所がアンタなんだよ」

 

「!」

 

「マスターのワカメな兄貴はどっか行っちまうし。私怨の果てにマスターまでもいなくなったら桜は一人ぼっちだ」

 

「! おじさん、いなくなっちゃうの?」

 

「桜ちゃん・・・」

 

「やだ・・・そんなのやだ・・・・・桜を・・・私を一人にしないで・・・!」

 

彼女は瞳を潤ませ、雁夜の胸にすがりつく。抱きしめた小さな体躯が小刻みにプルプルと震えるのが触覚を伝わるのがわかった。

 

 

「大丈夫・・・大丈夫だよ、桜ちゃん。一人になんかしないよ」

 

「グスッ・・・ぜったい?」

 

「ああ・・・絶対だ。約束するよ」

 

「うん」

 

雁夜の言葉を聞いて安心したのか、桜はすぅすぅと寝息を彼の腕の中でたて始める。彼は彼女が眠ったのを確認するとアキトに対して語り掛けた。

 

 

「・・・バーサーカー・・・改めて言うよ。俺に魔術を教えてくれ」

 

「・・・・・理由は?」

 

雁夜はしっかりとした眼を向け、紅い眼を見通す。

 

 

「確かに俺はアイツを・・・時臣を怨んでいる。でも、もう違う。俺は・・・・・桜ちゃんの為に戦う。桜ちゃんの為に生きる。それが俺の理由だ」

 

その眼の奥底にアキトはジリジリと燃える『覚悟の炎』を見つけた。

 

 

良い(ベネ)とても良い(ディ・モールト・ベネ)。ならば、貴方を誘おう。最高級に最低で、摩訶不思議な夜へと。覚悟は良いかい?

 

「勿論・・・俺は出来てる!

 

 

 

―――――――

 

 

 

『WRYYYYYYYッ!!!』

 

ドグオォオオオオオ―――ッッンッ!!

 

「ッ!!!??」

 

場面はアキトが戦闘機で巨大海魔の口に突っ込んだ時に戻る。

アキトの攻撃の衝撃によって、巨大海魔がよろめき苦しそうに身悶える様子をビルの屋上から未遠川を望める位置で雁夜は立っていた。

相変わらず無茶な事をやっている彼にヤレヤレとため息を吐いていると後ろから人の気配を察知し、振り向く。

 

 

「・・・来たか・・・」

 

彼の前に現れたのは高級スーツに身を包み、赤い宝石が埋め込まれた杖を携える紳士。

この男こそ、今回の聖杯戦争におけるサーヴァント『アーチャー』のマスター―――

 

 

「―――『遠坂 時臣』・・・ッ!」

 

雁夜は自らの因縁の相手に拳を固く握った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





現れた因縁の相手! 彼はどう立ち向かうのか?!

そして、海魔に突っ込んだアキトはどうなったのか?!

次回ッ、『『強化』。それは中の人繋がり!』。では次回まで。

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