本編の気分転換にこっちに手を入れる。
アキト「やっとこっちでも出られる」
では、どうぞ・・・・・
ヒュゴォオオオオオオオッ・・・
地上から高く見上げた空の上。ジェットエンジンをかき鳴らし、航空自衛隊所属の戦闘機、2機が目的地に向かって大空を羽ばたいていた。
『もし『怪獣』がいたら、交戦許可って下りるんですかねぇ?』
『これが怪獣映画なら、俺達きっとヤラレ役だぜ? 光の巨人が出てくる前のかませ犬だ』
『笑えませんよ、ソレ』
冗談交じりに戦闘機のパイロット達は無線を通して語り合う。
『未遠川に正体不明の巨大生物を発見。確認の為、現場へ急行せよ』。
これは今から数分前に入って来た冬木近くにある自衛隊基地からの指令である。近辺を哨戒中であった二人は、管制から送られてきたこの冗談のような指令に困惑しながらも向かった。
「イベントか何かだろう。最近は届け出もなく大規模な催し物をする輩がいるからな」とパイロットの一人、仰木はため息を漏らす。
「なんだ・・・アレは?」
しかし、指示された場所へと到着してみると未遠川は怪しげな紫の霧に包まれ、中央にはぼやけた巨大な何かとその頭上付近に浮かぶこれまた正体不明の金色に輝く飛行物体が目に入った。
『コントロールよりディアボロ1。状況を報告されたし』
「報告は・・・いや・・・その・・・」
管制からの通信にディアボロ1こと、仰木は言葉を飲んでしまう。報告しようにもどう表現して報告すればいいのか分からなかった。
明らかに異常性が高そうな紫色の煙に金色のUFO。普通に報告すれば、真っ先に脳を疑われる光景が広がっていたのだから。
『もう少し高度を下げて接近してみます!』
『あ、おい! 待て、小林!』
仰木が報告を躊躇っていると彼の部下で、ディアボロ2こと小林が高度を下げて紫の霧の中心へと向かう。
『戻って来い、ディアボロ2!』
彼は仰木の呼びかけを気にも留めずに霧の中へと飛び込む。中は気味の悪い紫とその全体を覆うように充満するガス群で構成されている。
「もっと間近からの視認なら、あれが何なのかが―――
シュバァアッ
―――・・・へッ?」
霧の奥へと進んだ小林が見たのは、通常なら日本の名川100選に選ばれる程の碧く雄大な景色ではなく、ヌラヌラと液をだす巨大な触手と異形の怪物であった。
「うワァアアああアアッ!!?」
まさか、さっきまで自分が言っていた怪獣が目の前に現れるなんて思いもしなかった小林は、すぐさま操縦桿を握りしめて脱出をはかろうとする。
バババシュゥウウッ!
だが、無警戒に近づいて来た得物を逃す程怪物は優しくはなく。川に隠していた何十本もの触手を戦闘機目掛けて放つ。
小林はこちらに気づいて伸びてくる触手をきりもみしながら避ける。
グパァ・・・
「なッ!?」
バギィイッ!
が、怪物は縦に開いた口のような器官からまた新たな触手を幾本も伸ばすと戦闘機を捕らえた。
「こ、このぉお!!」
ズガガガガガガガガッ!
彼は足掻くとばかりに機体に纏わり付いた触手に向かってトリガーを引く。20mm口径の鉛玉が毎分6000発の密度を持って射出される。しかし、弾丸によって断ち切られた触手を補うように新たな触手が機体に纏わりついた。そして、捕らえた得物を怪物はゆっくりと口へと運んでいく。
「糞ッ! クソぉおオオオ!!」
これから自分に起こるであろう結末を理解してしまった小林は、顔を硬直させて絶叫する。
メキメキと機体の軽装甲がひしゃげる音が耳に響き、無線からはノイズの入った自分を呼ぶ仰木の叫びが聞こえてくる。
その時であった。
「ヤレヤレ・・・流石の俺でも戦闘機は食えねぇよ。コイツはとんだ悪食じゃあないか?」
「・・・え・・・?」
自分が上げている断末魔の叫びに混じって、飄々とした気楽な声が小林の耳に聞こえて来た。
「あ・・・アァあッ!!?」
彼は声のする方を向くと体が凍り付いた。
座席の上。つまりはコックピットのハッチに人が立っているではないか。しかもヘルメットどころか命綱もつけていない。代わりに時代錯誤な甲冑を身に纏い、腰には刀を差している。
ありえない。自分の頭は死の恐怖で遂におかしくなったのかと小林は呆然自失となった。
「おん? おお、大丈夫か?」
「え・・・あ、ハイ」
陽気な声で語り掛けて来る目の前の人物に小林はただ空虚にそう答えるしかできず。朗らかに語り掛けるその人物の口元からは、長く伸びた白い
「そうか。なら―――」
バキィイン!
「は?」
「―――お達者で」
ドバシュゥウウウウウッ!
「のわァアアアッッ!!?」
彼が自分が無事な事を確認すると謎の人物はハッチを叩き割り、座席付近にある脱出装置を無理矢理に作動させて小林を霧の外へと飛ばした。
―――――――
「おお・・・飛んでった、飛んでった」
『良かったのですか、王よ? 聖杯戦争に無関係な人間に姿を見られたのですが・・・』
脱出装置によって、霧の外へと射出されたパイロットを視認しながら男は飄々とした声を漏らしていると彼の装着している手甲から機械染みた音声が流れる。
「しょうがねぇだろ。無関係な堅気の人間をこんなファンタジーでメルヘンな戦いに巻き込めねぇよ」
『そうですか。あと王よ』
「おん? なんだよ『朧』ちゃん?」
『そろそろ喰われてしまいそうです』
ズルズル・・・
宝具のAI『朧』と無駄話をしている間にキャスターの造り上げた巨大海魔の触手が足に纏わりついてきた。
「朧ォ・・・そういう事は―――――」カチャ
彼は腰に差していた刀の柄を握りしめると―――
「―――早めに言って!!」
ズシャァアアン!!
いつ抜いたか知れない刀を振るっていた。すると機体に絡まり付いていた触手ごと自分の立っているコックピットが分離される。
『ッ!!?』
「今のうちにット!」
巨大海魔は先程のバルカン攻撃とは違う衝撃に怯んでいる隙に機体を蹴り上げて飛んだ。
「『バーサーカー』ッ!!」
「応ともさ!!」
「のワぁあ!?」
飛んで行った先には、同盟関係を結んでいる『ライダー』が保有する戦車が空中を駆けていた。それにバーサーカーこと『アキト』は戦車の荷台へと着地しる。荷台にはちょうど緑髪におかっぱの頭の先客がおり、アキトの無茶な着地の為に戦車から振り落とされそうになった。
「バカ! 危ないじゃないか! もう少しで落ちるところだったんだぞ! このバカ!!」
「悪かったよッ、ウェイバー。だからそんなにバカバカ言うな!」
「無駄話をしている場合ではないぞ、小僧共! ッハ!!」
ライダーのマスターである『ウェイバー』とアキトが言い争っていると空を駆ける戦車に巨大海魔からの触手がミサイルのように降り注いでくる。
ライダーは握る戦車の手綱に力を込めて振るうとエースパイロットも真っ青なきりもみで避けていく。
「ヒュ~♪ 流石、大王! カッコいい!!」
「言ってる場合かッ! うわぁああ!!」
ウェイバーはツッコミをしながらも高速で駆ける戦車から振り落とされない様に掴まっている。そんな事などお構いなしにアキトは戦車を操るライダーの肩を叩いた。
「大王。今どんな状況? パーティーには遅れちまったが、メインディッシュが残っているという事はわかる」
「そのメインディッシュとやらの中にギョロ目のキャスターがおるのだ。ヤツをあの肉の壁から引きずり出さない限り、あのデカブツは止まらいとの事だ」
「そりゃあ難儀なこって」
「バーサーカー! お前、危機感がなさすぎるだろ!! さっきお前が助けたの自衛隊だろ、早くしないと色々とマズイんだよ!!」
ウェイバーの言う通り長期戦に持ち込めば、本格的に自衛隊が参戦する。それは隠匿されなければならない機密事項まみれのこの聖杯戦争が昼の世界に漏れ出すという魔術師なら即卒倒しかねない緊急事態なのだ。
「それに『雁夜』さんと『ガンナー』はどうしたんだよ?! 雁夜さんや物見遊山決め込んでるアーチャーはともかく、この状況だったら一人でもサーヴァントは多い方がいい!」
「ああ・・・それなんだがよ~・・・」
「?」
ズジャギィイッン!
「「「!?」」」
ウェイバーの問いかけにアキトは口ごもってしまう。申し訳なさそうに頬をかく彼の表情にウェイバーは疑問符を浮かべているとライダー達の進行方向に待ち構えていた触手が戦車を牽く牛を捕らえた。ミシミシと凄まじい力で締め付けていくために牛は苦しそうな鳴き声をあげる。
「ハァアッ!!」
ブシャリッ!
「かたじけない、『セイバー』!」
その牛を締め上げる触手を根本から斬り落としたのは、川の水面を一人駆ける金髪の少女『セイバー』。
彼女はライダーの言葉に頷くと自らに這い寄って来た触手を切断する。ところが、そんなセイバーの隙をつくように背後から新たな触手が迫って来た。
「WRYYYYYッ!」
ザンッ!
「!」
その迫りくる触手に対して、アキトの正確無比なナイフの投擲攻撃が突き刺さる。
背後の触手に気づき、後ろからナイフを放った彼へとセイバーの視線が移った時、アキトは彼女に向かって大声で語り掛ける。
「セイバーッ、
「・・・はァ?」
場違いな問いかけにセイバーはついポカンとした表情を浮かべるが、すぐにキリリとした表情に戻る。
「なにこんな状況で変な事聞いてんだよ、バーサーカー?!」
「重要な事なんだよ、ウェイバー! それで使えるのか?!」
隣で喚くウェイバーを黙らせて今一度セイバーに問いかけるアキト。そんな彼の鬼気迫る声色に何かを感じ取ったセイバーは言葉を紡いだ。
「倉庫街での一戦・・・ランサーのゲイ・ボウを受けた為に片腕が万全ではありません」
「・・・そうか、わかった!」
アキトはセイバーの言葉を聞くと戦車の外枠に足をかけ、飛び立つ姿勢をとる。
「ちょッ、どこ行くつもりだよバーサーカー?!」
「ちょっとあの飛んでる戦闘機、かっぱらって来る」
「はぁア!? 何言ってんの、お前?!」
「先程のセイバーへの問いといい。何か策があるのか、バーサーカー?」
彼のとんでもない発案にウェイバーは顔を歪める。ただライダーだけはアキトに何か考えがあるのかを直感的に感じ取った。
「ある。セイバーにはこの最低な状況をひっくり返す『最高の宝具』がある」
「最高の宝具? なんだよソレ?!」
「ウェイバー・ベルベット! お前、イギリス人なんだからわかるだろうが!」
「な、なにを!?」
「『騎士王』が携えている世界で最も有名な『聖剣』をよ~?」
「・・・ああ!!」
ウェイバーは思い出した。幼い頃に読んだアーサー王の物語に出て来る最強格の剣の名前を。
「その聖剣とやらがどうして、状況一変の刃となる?」
ライダーはアキトに疑問を問いかける。あんな小柄な少女の持つ剣がどうして切り札となり得るのかがわからなかった。
「あの剣は『対城宝具』だ」
「対城宝具?」
「今、キャスターは自分のマスター以外からも魔力を吸っている。そんな野郎にチマチマやっても次の攻撃の合間に傷を再生されちまう」
彼の言うようにセイバーやライダーがいくら巨大海魔の肉を斬り裂こうと斬った先から何事もなかったかのように傷が再生する。
「そこで一撃必殺の剣だ。あの剣なら川に溜まっている瘴気ごとアレを消滅できる」
「なんでそれで戦闘機が出て来るんだよ? まるで話が繋がらないぞ!」
「カカッ♪」
ウェイバーの当然たる疑問にしてやったりとアキトは笑みを浮かべる。耳まで口が裂ける程に獰猛な笑みを。
「かっぱらった戦闘機をあの野郎のドたまにぶちかます。そのダメージで野郎が怯んでる間にセイバーを両腕を万全にしてくれ」
「なッ!?」
ウェイバーは面を喰らった。眼前のこの何考えてんだがわからないサーヴァントは奪った戦闘機で特攻を仕掛けると言ったのだ。
「心配すんな。脱落するつもりは1μもねぇからよ」
「そうは言っても・・・」
「あ。あと大王。俺が野郎にそんなにダメージが与えれなかったら、
「ダハハ! お前さん、顔に見合わず王使いが荒いな。いいだろう、このイスカンダルに任せおけ!」
「応、任せた。・・・ウェイバー?」
「な・・・なんだよ?」
アキトはウェイバーの小柄な肩をしっかりと掴み、紅い眼を覗かせる。あんまりにも真剣な眼差しで見つめられるモノだから
「ランサーのゲイ・ボウ。ああ、黄色い方な。
「・・・・・ふァッ!!?」
彼はそのままニッコリとほほ笑むととんでもない事を言った。
「え・・・は、あ・・・え、なんで?!」
「だってセイバーがゲイ・ボウで負傷したんなら、その原因となっているゲイ・ボウを折らないと傷が治らないだろう」
「だ、だ、だからって僕にサーヴァントに挑めと!!?」
「Exactly!」
「うるさい!!」
もうウェイバーは心労で倒れそうになった。
この聖杯戦争がはじまって以来、自分のサーヴァントであるライダーにも苦労した。だが、なぜかそれと同等か以上に同盟関係を結んだこの色んな意味で規格外のバーサーカーに振り回されて来たのだから。
「大丈夫だって、英雄王ならともかくランサーは話のわかるヤツだと思うからよ~」
「なにを根拠に・・・ッ!」
「吸血鬼の勘ってヤツ~?」
「はァア?!」
「じゃあ頼んだぜ!」
「あ、おいッ!!」
ダッッ
呆れてモノが言えないウェイバーを余所にアキトは背中から翼を広げ、戦車を蹴って飛び出した。
放たれた赤い矢のように飛ぶ彼は巨大海魔を警戒しながら飛行する戦闘機に向かって、両掌を写真の形に囲んだ。
「『
それから5分ともせぬ内に小林機と同じように仰木機の戦闘機をかっぱらった彼は、独特の奇声を雄叫びながら巨大海魔の口に突っ込んだ。
後に近くの住民に救助された小林と仰木は飛んでいる機体に張り付いた得体の知れない恐ろしい何かに『助けられた』『機体を奪われた』と述べている。
←続く
ウェイバーが苦労人みたくなっている。