今回、初めて文字が一万を超えました。
気が付くと夜て・・・
てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・
ザザァンと波打つ水辺。そこには何処までも続く蒼が広がっていた。
そこに現れたのは、愛馬に跨り数多の益荒男を率いる緋色の男。彼は目の前に悠然と広がる海を端から端まで見渡す。
心地良い潮風が彼の頬を撫でる。
「『オケアノス』・・・」
彼は感慨深げに呟くと嬉しそうにいつまでも海を眺めた。
―――――――
「・・・あぁ・・・?」
寝ぼけ眼をこすりながらウェイバー・ベルベットは起きた。
「ッ!? 痛たたっ!」
頭に今まで感じた事の無い痛みを抱えて・・・
「なんだこれ・・・?」
辺りを見回すと空き瓶やら空き缶やらが散乱している。その全てが日本酒だったり、ビールだったり、ウイスキー等の酒類ばかりであった。
「ぐおぉお・・・ぐガぁあ・・・」
「?」
隣を見てみると猛獣のようなイビキをかきながら半裸のライダーが寝ていた。その体には生前、戦いでつけたであろう戦傷がついている。
ウェイバーは、そんな彼を見ながら、何か思うような鼻息を漏らした。
「・・・ウェイバーさん」
「うわぁッ!?」
ウェイバーは突然、声をかけられた事に驚き、身を駆けられていた毛布共々引く。しかし、声をかけたのは紫の髪を持った幼い少女であった。
「な、なんだ・・・サクラか・・・」
「・・・ごめんなさい・・・ビックリした?」
「いや、大丈夫―――って、痛たたッ!?」
ウェイバーにまたもや謎の頭痛が襲う。
彼の痛む様子を見て、桜は張り付けた様にオロオロとする。すると桜は何かを思い出したように自らの手をウェイバーの頭の上に置いた。
「さ・・・サクラ?」
「い・・・いたいのいたいのとんでいけぇ・・・」
「・・・へ?///」
彼女は、ウェイバーの頭を自分の手で撫でながら払う動作を数回繰り返す。そんな桜の動作にウェイバーは、ただ固まって大人しくそれを受けた。
「さ、サクラ・・・こ、これは一体?///」
「・・・シェルスさんが教えてくれたの・・・」
恐る恐るウェイバーが桜に聞くと彼女は、首をコテンと傾げながら答える。
「シェルス・・・あぁ、ガンナーの事か・・・」
「シェルスさんがね・・・いたかったら、こうするといいって教えてくれたの・・・」
ガンナーことシェルスは桜に親が子供にするような行為を教えており、これは雁夜が顔の形成外科を受けた時にもしてもらった行為である。
これをされた時に雁夜は、感動の余り泣いた。
「・・・なにをしておるのだ、坊主?」
「のわぁッ!? ら、ライダー?!」
続けて頭を撫でてもらっていると起きたのか、ライダーがあくびをしながら興味深そうに二人を見ていた。
「おはよう・・・ライダーさん」
「うむ。おはよう」
ライダーは桜の挨拶に答えるとゴキリと首を回して、また大あくびをする。さながら眠っていた獅子のように。
「ら、ライダー・・・いつから見てた?」
「んん? そうだのぉ、お主が嬉しそうにサクラに撫でてもらっておる所かの?」
「なッ!? あ、あれは!///」
「それよりもサクラ、起こしに来たという事はアレか?」
「うん・・・朝ごはん・・・」
「そうかそうか! では、参るとしよう」
ライダーは、肩に桜を乗せるとズカズカと食卓へと進んで行く。
「あ! 待てよライダー!!」
ウェイバーも遅ればせながらも後をついて行く。
食卓では、すでに朝食の用意がなされており、いつもの面子が料理を囲んでいた。
「おん。大王、おはようさん」
「おう、おはようバーサーカー」
「ウェイバー君もおはよう。よく眠れたかい?」
「おはようございます、カリヤさん。痛たた・・・」
ウェイバーは、またも原因不明の痛みに頭を抱える。
「おん? どうしたよ、ウェイバー?」
「いや・・・起きた時からどうにも頭が痛いんだよ。それになんだか気持ち悪い・・・」
そう言いながら彼は胸をおさえる。
頭痛の他にも胃から胃液が逆流しているような不快感もある。
ウェイバーは一瞬、昨夜あった問答でのアサシン襲撃時にアサシンから攻撃を受けたのではないかと焦る。
「ま、そりゃあな。あれだけ飲んだら『二日酔い』にでもなるだろうよ」
「・・・へ? な、なんだってバーサーカー?」
ウェイバーは、耳の遠い老人のような反応で聞き返す。するとアキトは「何を言ってるんだ、コイツは?」みたいなトーンで再度、発言する。
「二日酔いだよ、二日酔い。あれだけ人間がサーヴァントに釣られてガバガバ飲んだら二日酔いくらいなるだろうさ」
「ウェイバー。貴方、酒が入ると泣き上戸だったのね?」
「まさか・・・ウェイバー君、覚えてないのかい?」
「フフフ♪」と笑うシェルスと心配そうに見つめる雁夜を尻目にウェイバーは、昨夜の事を思い出す。
昨夜、問答から帰って来た一行は飲み直しというライダーの提案に乗っかり、間桐邸で二回目の酒宴を催した。騒がしい一行の酒盛りにドンやロレンツォ、そして、霊体化で研究に没頭していたノアに良い子は寝る時間な筈の桜までもが集まる大宴会となった。
そこでウェイバーはライダーに酒を飲まされて暴れるのだが・・・いかんせん、酒を飲んだ後の記憶がウェイバーの頭から削除されていた。
「え・・・あ~・・・」
ウェイバーは思い出そうとする。
自分が酒を飲んで、どんな醜態をさらしたのかを想像しながら思い出そうとする。しかし、思い出そうとすればするほどに想像力がそれを上回り、羞恥心が彼を襲うのであった。
「ま、坊主の事はさておき。バーサーカーよ、今日の朝餉はなんだ?」
「粥」
「・・・なんだと?」
「お粥だよ、お粥さん」
アキトから朝食の献立を聞いて、ライダーは露骨に残念がる。
「なんだよ大王、お粥はうまいぞ。飲み過ぎた次の朝にはピッタリだ」
「しかし粥とは・・・貧相な。もっと豪勢な物はないのか?」
「まぁ、そう言うでなかろー。アキトのお粥は絶品であろー」
「・・・私も・・・すき・・・」
「うぅむ・・・山羊が言うのなら、仕方あるまい」
ライダーはドンに促され、食卓につくと台所から鍋が運ばれて来た。それを炬燵の中央に置くと鍋蓋を外す。
「おお、これは・・・!」
「うわ~・・・」
鍋の中には雪の様に真っ白な粥がプツプツと湯気を立てていた。
「おい、バーサーカー・・・これが粥か? えらく白いが・・・」
「おん。まぁ、日本の白粥っていう極めてポピュラーなモンだ。茶粥も作りたかったが、焙じのお茶ッ葉がなかったんで作らなかった」
「リゾットとは違うのか?」
ウェイバーも興味深そうにまじまじと中身を見る。
「これは蕎麦とか麦やらを入れない米だけを使ったシンプルな物でな、下味は塩のみだ。味が足りないようなら・・・」
「はいはい、持って来ましたよ~と」
今度はロレンツォが台所から出て来る。その手の盆には梅肉やら漬物などの様々なおかずが乗っていた。
「これをお粥に混ぜるといいさ」
『お~』
「てなわけで・・・食べようぜ」
こうして漸くか、遅い朝食がはじまった。彼らは朝食を食べながら昨夜の事や今までの事柄を振り返る。
アーチャーが、アキトの言ったようにウルク第1王朝第5代の王『ギルガメッシュ』である事を問答内において確信した事やライダーの宝具で今度こそアサシンを打倒した事を話し合った。他にも・・・
「ふぁふはーフォふぁふは」
「・・・なんだよ、バーサーカー?」
「アキト、口の中」
「ふぉん? ああ、ゴクン・・・キャスターのやつはいつ仕掛けて来るだろうかね?」
「そう言えば、すっかり忘れておったのぉ」
アインツベルンの森での戦闘や工房破壊から舌の根も乾かぬ内にキャスターの犯行だと思われる誘拐事件が起きた。
「あのギョロ目、今度は何を仕掛けるであろうな」
「さてね。だが、次なにか仕掛けて来たら次こそは・・・あの顔に刃を突き立ててくれよう・・・!」
「うわ~・・・」
「アーカード・・・わるいかお・・・」
クククと不気味な笑みを浮かべる彼を余所に遅めの朝食は終息していった。
因みにお粥は結構な好評であったという。
―――――――
間桐邸での朝食が終わってから彼、ウェイバー・ベルベットは外へと赴いていた。何故、外に出たのかというと今朝方見た夢に気になる点があったからである。
そういう訳でウェイバーは、ライダーと共に街へと繰り出したのだが・・・・・
「・・・なんでドン達まで来るんだよッ!?」
「あろッ?」「はい?」
見るからに山羊のドンと怪しさ満載の麻袋を被ったロレンツォが彼について来たのだ。
アキトによって召喚されて数日、ドンとロレンツォは桜の護衛という事で間桐邸から外へは出なかった。別段、ドンとロレンツォもアキトから事情を聞かされていたので不満はなかった。だが、ファミリーの長と右腕たる二人が邸宅に閉じこもるばかりではいけないと思い、ウェイバーが街に行くと聞いたアキトがライダーに二人を頼んだのだ。
「良いではないか坊主。余はこの山羊を気に入っておるからの」
「うむ。イスカンダルは話の分かる者であろー」
「ライダー・・・」
「そうですよ。ドンと親交を深める事でドンの魅力に貴方も―――」
「それはない」
ライダーの言い分にウェイバーは仕方なく、それを承諾した。
余談だが、ドンやロレンツォには他人に不審がられない様にウェイバーが暗示をかけた。
「しかしまた・・・どういう風の吹き回しだ? 街に出ようとは」
ライダーは道中、ウェイバーに疑問を投げかける。
何故ならウェイバーは、今日まで自分から積極的に外へ赴こうとはしなかったからだ。
「・・・別に・・・ただの気分転換だよ。お前だって、盛り場を出歩きたいってゴネてたじゃないか」
「うむ。異郷の市場を冷やかす楽しみは、戦の興奮に勝るとも劣らぬからな」
ライダーは楽しそうに顎髭に手を添えて語るが、ウェイバーはため息でも吐きそうなくらいに眉をひそめる。
「・・・そんな理由で戦争を吹っ掛けられた国は、本当に気の毒だよな」
「なんだ坊主? その、まるで見て来たかのような言い草は?」
「・・・・・いいんだよ、こっちの話だ」
「んん?」
ウェイバーの含んだ言い方にライダーは首を傾げているとロレンツォが耳打って来る。
「気にしなくていいですよ、イスカンダル大王。あの年頃は、ああいう事が好きですから」
「そうなのか、袋?」
「ええ。アキトもそんな時期がありましたから」
「ほう、バーサーカーがのぉ・・・」
「何してんだよ、ライダーにロレさん! 置いてっちまうぞ!」
「早く来るであろー」
「はい、今行きますよ
前から手を振るドンとウェイバーに二人は足を急がせた。
魔術師の卵にサーヴァントが三人というその手の者から見ればなんとも異常な一行は、冬木市にあるデパートへと入って行く。その中でウェイバーは調べたい事があると言い残すと一人、本屋に向かった。
本屋に着くと彼は真っすぐに歴史関連のコーナーへと向かった。
「あ・・・!」
そこから目当ての本を見つけるとパラパラとめくり、あるページを読みだした。本の題名は『ALEXANDER THE GREAT』。所謂、ライダーの伝記である。
「(『大王は勝ち取った占領地での支配も利権も全てを地元の豪族に放り投げ、自らは軍勢を引き連れて更に東へと去っていった』・・・夢で見た通りだ。アイツはただ、最果ての海に・・・・・『
ウェイバーは今朝方見た夢と本の内容が合致した事に驚いたのか、目を見開いて本を読み進めていく。
すると・・・
「おおい坊主! どこだッ?!」
「ッ!?」
自分を呼ぶ野太い声が店内に響いた。彼は驚き、本を元あった場所に返そうとするが・・・
「イスカンダルよ。ウェイバーはここにいるであろー」
「おお! でかしたぞ山羊」
「いいッ!?」
返す前に見つかってしまった。
「そうチビっこいと本棚の間にいたんじゃ、全然見えんわ。山羊がおらねば、探すのに苦労する所だったわい」
「まったくであろう。ワシに感謝するであろう、ウェイバー」
「流石です、首領ッ!」
ドンはウェイバーよりも低い体躯で胸を張って、仰々しく言う。ロレンツォは相変わらず、そんなドンを褒め称える。
「全然感謝できないし、普通の人間は本棚より小さいんだ、バカ。で、何買って来たんだよ?」
「おう、これよコレ」
ライダーは紙袋から自身の目当ての物を取り出した。
「なんと『アドミラブル大戦略』は、本日より発売であったのだ。しかも、初回限定版だ」
ライダーのお目当ての品は、気になっていたゲームのカセットであった。間桐邸でテレビを見ていた時にCMで発売日が流れていた事をライダーは覚えていたのだ
「ダハハハッ。やはり余のラックは、伊達ではないな!」
「あのなぁ・・・そういうのはソフトだけ買ったって、肝心のゲーム機がないと・・・」
「抜かりはない」
「ワシらも買ったであろー。この『エフメガ5』とやらを」
「んん?」
3人のサーヴァントの買い物にウェイバーは、またもや眉間に皺を寄せて呆れる。
「さぁ坊主、帰ったら早速大戦プレイだ。コントローラーも二つ買っておるからな」
「はぁ・・・僕はな、そういう下賤で低俗な遊戯には・・・興味ないんだよ」
ウェイバーは呆れ果ててか、目線を彼等から逸らす。そんな態度にライダーが困った様に大きくため息を吐いた。
「もう。なんで貴様は、そうやって好き好んで自分の世界を狭めるかなぁ? ちったぁ楽しい事を探そうとは、思わんのか?」
「・・・うるさいな・・・余計な事に興味を裂くくらいなら真理の探究に専念するのが―――」
「なんだ、負けるのが怖いのであるか」
「・・・なに?」
呆れた表情から一変、ドンの言葉にウェイバーはムッとする。
「なんだとドン?!」
「シャシャシャ♪ やはり、良い子ぶっておるやつは負けるのが怖いか。結構、かわいい所があるではないか」
「~~~ッ! このヤギ!!」
ウェイバーはムキになり、ドンを睨む。ドンも負けじと睨み返す。両者は互いに一歩も引かずに睨み合う。
「で、そんな貴様が興味を持っていた本は・・・」
「へ? あッ!?」
そうしているとライダーが、ウェイバーの持っていた本を取り上げる。
「っておい、これは余の伝記ではないか」
「あ・・・うぅ・・・///」
「「ほほぅ・・・?」」
ウェイバーは、自分の顔がみるみるうちに熱を帯びるのがわかった。何かを察したのか、ドンとロレンツォはニヨニヨと笑みを浮かべる。
「おかしなヤツだ。当の本人が目の前にいるんだから、直に何なりと聞けば良いではないか?」
「ああ、もうッ! 聞いてやる! 聞いてやるよッ!!」
不思議がるライダーからウェイバーは本を奪い取るとパラパラとページをめくり、彼に見せつけた。
「お前・・・歴史だとスッゴいチビだったって、なってるぞ。それが、どうしてそんなに馬鹿デカい図体で現界してるんだよ?」
「んん、余が矮躯とな? やはり、どこの誰とも知れぬヤツが書き留めた物なんぞ、アテにならんもんだわい。ハハハハハッ!」
「えぇ・・・」
「んん、どうした?」
「違ってるなら違ってるで、怒らないのかよ?」
本の内容に気を悪くするのかと思ったウェイバーにライダーの反応は、意外なモノだったらしい。
「いや、別に気にする事もないが・・・変か?」
「いつの時代だって、権力者ってのは自分の名前を後世に残そうと思って躍起になるもんだろ?」
ウェイバーの一般論にライダーは顎髭に手をやり考える。そして、そのポーズのまま答えはじめた。
「そりゃまぁ・・・史実に名を刻むというのは、ある種の不死性はあろうがな」
「だろう?」
「でも、そんな風に本の中の名前ばっかり2000年も永らえるくらいなら、せめてその百分の一・・・現身の寿命が欲しかったわい」
「え・・・じゃあ30そこそこで死んだっていうのは・・・?」
「ほう、そりゃあ合っとるな」
「・・・・・」
ウェイバーは、またもや視線を彼から外した。だが、その表情は先程までの呆れ顔ではなく、何かを思い詰めるような顔をしていたのであった。
「ほほう・・・」
その顔にドン・ヴァレンティーノは見覚えがあった。ウェイバーのそんな表情を見て、ドンはニヤリと口を歪めた。
それから彼らは色々な所を見回ったり、話を弾ませた。
デパートやら商店街やらの彼方此方を往々にして見回った。昼には、アキトから持たされていた弁当を近くの公園で食べながらサーヴァント同士、そのマスターとの会話に華を咲かせる。食べ終わるとまた、子供の様に好奇心旺盛なライダーに引っ張られて、冬木市を見回る。そうしていく内に帰る頃には陽は大分傾いていた。
「中々に楽しかったであろー」
「ですね。この街の特性やら何まで大方知れましたし、良い収獲です」
カラカラと会話を弾ませるサーヴァント達の後ろで黙りこくったウェイバーがトボトボと歩いていた。チラチラとライダーに目線を送りながら。
「な~にを黙り込んどるのだ? んん?」
「あろ?」
その視線に気づいたのか、ライダーが笑みを浮かべて振り返った。つられて、ドン達も振り返る。
「・・・別に・・・お前の事、つまんないなって思っただけだ」
「なぁんだ。やっぱり、退屈しとるんじゃないか」
「なに? ワシらとの散歩はつまらなかったのか、ウェイバー?」
「・・・違う」
「だったら、意地張らずにこのゲームを―――」
「違うッ!!」
素っ気ない返答から一転、ウェイバーは吐き出すように強い口調で言い放つ。それから彼は、申し訳なさそうに視線を逸らした。
「・・・お前みたいな勝って当然のサーヴァントに聖杯を取らせたって・・・僕には、何の自慢にもならない。いっそアサシンと契約してた方が、まだやりがいがあったってもんだ!!」
「うぅむ。そりゃ無茶だったんじゃないかのぉ・・・多分死んでるぞ、貴様。それか、あのバーサーカーに喰われておるわい」
「・・・有り得ない話では無いですね」
「いいんだよぉッ!」
ライダーの言葉に尚もウェイバーは、虚勢を張った言葉を言い放つ。ただ、いつものように喚き散らすような物言いではない。本心を曝け出す様な物言いだ。
「僕が、僕の戦いで死ぬんなら文句ないッ! 例え、それがバーサーカーに喰われようとアーチャーに貫かれようと!・・・そう思って僕は聖杯戦争に加わったんだ。それが・・・・・」
それだけ言うとウェイバーは、しょんぼりと地面に視線を落とす。
元はと言えば、ウェイバーが師であるケイネスから聖遺物を盗んだ事でライダーが召喚されたのだ。しかし、先の聖杯問答にキャスターの工房破壊で見せた圧倒的過ぎる彼の宝具にウェイバーは分不相応だと感じたのだ。
「それに・・・僕はカリヤさんみたいに成ってないし・・・」
「そんな事言われてもな~・・・」
加えて、急造の魔術師という事で心のどこかで軽視していた雁夜が、昨夜の聖杯問答でセイバーを擁護する為に無謀にもサーヴァントに対して啖呵をきった事が彼には少なからずショックであった。
そんな弱気な言い分に対してライダーは、困り果てたように後ろ頭をかく。
「貴様の聖杯に託す願いが、余を魅せる程の大望であったのなら・・・この征服王とて、貴様の采配に従うのもやぶさかではなかったろう。だが・・・・・いかんせん『背丈を伸ばしたい』ってのが、悲願じゃなぁ・・・」
「~ッ! 勝手に決めるなよ、それぇッ!!」
自分自身の願いを茶化すライダーにウェイバーはいつもの通りに喚く。しかし、この後に来るデコピンの代わりにライダーの大きな掌が彼の頭に置かれた。
「そんなに焦らんでも良かろうて。なにもこの聖杯戦争が、坊主の人生最大の見せ場って訳じゃなかろう?」
「ッ、なにをッ・・・!?」
頭の上に置かれた手を振り払い、ウェイバーは再び地面を眺める。そんな、己の不甲斐無さを噛み締める彼にライダーは言い聞かせる様に語り掛けはじめた。
「いずれ貴様が真に尊いと誇れる『生き様』を見い出したら・・・その時には、嫌が応にも自分の為の戦いを挑まなくてはならなくなる。己の戦場を求めるのは、そうなってからでも遅くはない」
「この契約に納得出来ないのは・・・なにも僕だけじゃないだろ?」
「ん?」
漸く顔を上げたと思ったら、ウェイバーはいつもの様にライダーを睨みながら言う。
彼の発言の意味ががわからないのか、ライダーは首を捻った。
「お前だって不満なんなんだろうがぁ! こんな僕がマスターだなんて。ホントはもっと違うマスターと契約してれば、よっぽど簡単に勝てたんだろ?」
「ふぅむ、そうさなぁ~・・・」
「「・・・ごくり」」
返答に悩むライダーにウェイバーは、気が気でない面持ちで待つ。その緊迫感が伝わったか、二人のやり取りを見ていたドンやロレンツォにも緊張が走る。
「・・・うむ」
「のわッ!?」
そうしているとライダーはウェイバーの体躯を手繰り寄せ、彼の背負っていたリュックの中身を物色しだす。そこから目当ての本を取り出すとパラパラとページをめくり、それをウェイバーに見せた。
「ほれ坊主、見てみよ。余が立ち向かっている『敵』の姿を」
「んん?」
そこには、図解された世界のイラストが描かれていた。
「ここにえがかれた敵の隣に我らの姿を書き込んでみよ。余と貴様と二人並べて、比べられる様に」
「・・・そんなのは・・・」
「無理であろう? これより立ち向かう敵を前にしては貴様も余も同じ、極小の点でしかない。そんな二人の背比べなんぞに何の意味がある?」
「・・・ッ」
「だからこそッ、余は滾る! 枝雀極小、大いに結構! この芥子粒における身をもって、いつか世界を凌駕せんと大望を抱く・・・」
ドンッと自らの胸に拳を叩き、語るライダーの表情はとても良い顔であった。まるで、ゲームの発売日を今か今かと待ち焦がれる少年のように。
「この胸の高鳴り・・・これこそが征服王たる心臓の鼓動よぉ!」
「・・・要するに・・・マスターなんて、どうでもいいって言いたいんだな・・・? 僕がどんなに弱かろうとそもそもお前にとっては問題にもならないんだな・・・」
「そんな事―――「ロレンツォ」―――・・・ドン?」
「そんな事はない」と話を聞いていたロレンツォは、ウェイバーに語り掛けようとする。ウェイバーは、キャスターの工房を破壊するという事柄においての功績が大であったからだ。決して、弱くはないと伝えたかった。だが、それをドンが止めた。
何故と聞き返すロレンツォの返答にドンは眼で答える。「これは彼等の問題だと」・・・
「なんでそうなるんだ、おい?」
「うわッ!?」
俯くウェイバーにライダーは困った風に笑い、彼の背中を叩くと彼の耳元近くまで寄る。
「貴様のそういう『卑屈』さこそが、即ち『覇道』の兆しなのだぞぉ? 貴様は四の五の言いつつ虚勢を張るも、結局は己の小ささをわかっとる。それを知った上で尚、分を弁えぬ高みを目指そうと足掻いておるのだからのぉ」
「それ・・・褒めてないぞ。バカにしてるぞ」
「そうとも。坊主、貴様は筋金入りの馬鹿だ。貴様の欲望は、己の埒外を抜いておる。『彼方にこそ、栄えあり』と言ってな・・・余の生きた世界では、それが人生の基本則であったのだ」
「だから、バカみたいにひたすら東へ遠征を続けたのかよぉ?」
「ああ、そうだ。この眼で『
「え・・・?!(あの海を見ていない・・・?)」
記憶にコべり付いたように浮かぶ、今朝見た夢。
史実では、その大海を見る前にイスカンダルは無念にも熱病で没している。それを知らないウェイバーは驚く。なにより、それを楽しそうに話す彼自身に。
「・・・オケアノスは今でも目指す場所・・・・・『見果てぬ夢』よ」
夢の中の大海原はライダーが胸に抱いて来た『心の景色』であった。
「笑うが良い。2000年の時が経ってなお、未だ同じ夢を見続けている余もまた・・・『大馬鹿者』だ。だからな坊主、馬鹿な貴様との契約がまっこと快いぞ!」
それを聞いて、ウェイバーは何も言えなくなった。自分が抱いていた気持ちがどんなに矮小なモノだと思い知らされるぐらいに。
するとここで、ドンが微笑ましく口をひらかせた。
「イスカンダル」
「おお、どうした山羊?」
するとここで、今まで黙っていたドンが口を開く。
「海を見に行くであろー」
「なに?」
「海だ。この聖杯戦争が一段落したらば、皆で海を見に行くであろー。お主の言うオケアノスには劣るであろうが・・・きっと美しい海であろー」
「ドン・・・」
現在、聖杯戦争が行われている場所は日本。この国が『極東』に位置する事をライダーはまだ知らない。
「おお、それは良いな! 余が聖杯を手にした祝宴として、この国の浜辺でやろうではないか! ハッハッハッ!」
「ウェイバーもそう思うであろう?」
「あ・・・ああ、そうだな・・・」
ウェイバーはドンの言葉に眉をひそめながらも返す。
この時、ウェイバーが一体どんな思いであったのかは・・・彼自身にしかわからなかった。
その時だ。
『ッ!!?』
彼らの体躯に粘り付くような気配が張り付いたのは。
「川・・・だな」
朗らかな顔から一転、ライダーは真剣な面持ちで気配が感じる方向を見通す。
純然たるドス黒い気配。彼はこの気配を知っていた。あのアインツベルンの森と用水路内部で感じた魔力の正体を。
~~~♪
「あろ?」
それと同時に着メロが、ドンの携帯から鳴る。電話の相手は間桐邸にいるアキトからであった。ドンは電話を受けるとすぐさま、それをスピーカーモードにする。
『大王、『ヤツ』だ』
電話の向こう側から聞こえる短くも鮮烈な報告。
その報告を待ってましたとばかりに場に一迅の風が吹き荒れる。吹き去った後には、緋色の戦装束で身を固めたライダーが構えていた。
「行くぞ、坊主ッ!」
「お、おう!」
ライダーはキュリプトの剣を引き抜き、虚空を切り裂いた。
←続く
意外にノリノリ。