長かった問答もここいらで仕舞いに。
さて、次は強化しますかな?
てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・
「『アサシン』・・・!?」
セイバーが新たに問いかけようとした瞬間、不意に背筋に寒気が走りその場の人間すべてが顔を引き締める。
サーヴァント達を四方八方から囲むように白い髑髏の仮面を被った者達がいた。
その者達は蒼白の貌をし、その上に冷たく乾いた骨の色の仮面を被っている。さらには、その体躯を漆黒のローブに包んでおり、多種多様な体格をしている。
「オイオイオイオイオイ・・・大王、これもアンタが呼んだのか?」
「んな訳なかろうが」
「随分な団体さんだこと」
アキト達は雁夜とウェイバーを、セイバーはアイリスフィールを守るように身構える。
ただアーチャーとライダーは、焦りもせずに黙々と酒を呷る。
「時臣め・・・余計な真似を」
ボソリと呟くアーチャーであったが、彼の周囲に漂う空気からして、これを仕掛けた人間に対し怒りを覚えていることがわかる。
「これは貴様の謀らいか、金ぴか?」
「さてな。有象無象の雑種の考える事など、いちいち知った事ではない」
そんな彼の感情を感じ取ったのか、ライダーが尋ねる。
すると一変してアーチャーの怒りは終息していき、呆れたように応対した。怒りが一周回って、鎮火したようだ。
「どういうことだよ!? なんでアサシンばっかり、次から次へと・・・・・だいたい、どんなサーヴァントでも一つのクラスに一体分しか枠はないはずだろッ?! カリヤさんじゃあるまいし!!」
「ちょっとウェイバー君ッ、それどういう意味!?」
もはや『群れ』と言い換えてもいいくらいの数のアサシンを見て、ウェイバーが悲鳴に近い声で嘆く。
アサシンの能力は一人であって複数の存在になれるものと用水路で見た時にわかってはいたが、ここまで多いとは予想できていなかったのだ。
だが、そんな悪態をついている暇はない。獲物が狼狽する様を見届けて、群れなすアサシンが口々に忍び笑いを漏らしているからだ。
「・・・ヤレヤレ・・・また、アレを使うか」
これだけの物量に押されると雁夜達への攻撃を防ぎきることは不可能だと感じたアキトは、キャスター戦の時の様に自らの宝具を使おうと判断した。しかし・・・
「おう。待ってくれバーサーカー」
それをライダーが、樽からワインを杯で汲み上げながら制止したのだ。
「ら、ライダー・・・?!」
「おいコラ坊主、そう狼狽えるでない。宴の客を遇する度量でも、王の器は問われるのだぞ?」
「あれが客に見えるってのかぁ!?」
場違いな台詞を並べるライダーにウェイバーは悲鳴まじりで叫ぶ。
そんな様子にライダーは苦笑混じりの溜息をつくと周囲を包囲するアサシンに向けて、間抜けなほど和やかな表情でアサシンに呼びかける。
「皆の衆、その剣呑な雰囲気を出すのは止めてはくれんか? 見ての通り、連れが落ち着かなくて困る」
「ちょっと大王、アイツらまで持て成そうっての?!」
「当然だ。王の言葉は万民に向けて発するもの。わざわざ傾聴しに来た者ならば、敵も味方もありはせぬ。此度の問答には、王ではないものもおることだしな」
シェルスの問いかけに平然とそう嘯いて、汲み上げた杯をアサシン達に差し出すように掲げあげる。
「さあ、遠慮はいらぬ! 共に語ろうという者はここに来て杯を取れ。この酒は貴様らの血と共にある」
だがその返事は言葉で返されず、代わりに『
「あ・・・」
その瞬間。アキトはライダーの様子が変わった事をいち早く理解した。
「・・・・・余の言葉、聞き間違えたとは言わさんぞ?」
嘲るように笑うアサシンの声の中、殊の外静かなライダーの口調が響き渡る。
「『この酒』は『貴様らの血』と言った筈・・・・・そうか。敢えて地べたにぶちまけたいと言うのならば、是非もない・・・」
今やその目には、温かさというものが感じられない。
だが、その眼差しとは打って変わり、冷え切った冬の夜の空気にはありえない熱風が吹き込んできた。
夜の森のそれも城壁に囲まれた中庭で決して起こり得ない筈の灼熱の砂漠を吹き渡ってきたかのような熱風が吹き荒れる。
「セイバーにアーチャーよ、これが宴の最後の問いだ。『王とは孤高たるや否や』?」
渦巻く熱風の中心に立ち、いつの間にやら緋色のマントを纏った戦装束の姿へと転じていたライダーが問う。
アーチャーは口元を歪めて失笑する。問われるまでもない、といった様子で。
セイバーも躊躇わず答える。雁夜の言ったように己が王道を疑わないなら王として過ごした彼女の日々こそ、偽らざるその解答だからだ。
「我が王道は常に理解されない棘の道であった。・・・・・だが、それを間違いだと思った事は一度たりとて無い。騎士王としての私の『王の在り方』は孤高であった」
凛々しい声で答えるセイバーに迷いも後悔も感じられない。
確かにライダーの言うように彼女の道は、解されないものだったのだろう。だが、それら全てを認めた上でセイバーは高らかに宣言する。
「故に・・・王ならば、孤高の道を突き進む他ないッ!!」
そんなセイバーの宣言を聞いて、ライダーは満足そうに頷いた。
「そのような事を言われれば、余とて見せたくもなる・・・・・『征服王』たる余の姿をのぉッ!!」
豪快な笑いと共に叫ぶライダー。その時、より一層強い熱風が吹き寄せた。夜の森は別の世界に塗り替えられていく。
距離と位置が喪失し、そこには熱砂の乾いた風こそが吹き抜ける場所へと変容していく。
「スゲェ・・・アンタはどこまでも驚かせてくれるぜ、アレクサンダー大王ッ!!」
夜空は一変して太陽照りつける青空へと変貌し、庭園は灼熱の砂漠へと姿を変えた。
照りつける灼熱の太陽。晴れ渡る蒼穹の彼方。吹き荒れる砂塵に霞む地平線まで、視野を遮るものは何一つない。
サーヴァント達を囲んでいたアサシンは一群の塊となって、彼方に追いやられている。
「『固有結界』ですって・・・そんな馬鹿な! 心象風景の具現化だなんて・・・!?」
驚愕の声を発するアイリスフィールに気を良くしたライダーは、ニヤリと口を大きく歪める。
「ここはかつて我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者達が、等しく心に焼き付けた景色だ」
そう語るライダーの後ろから続々と蜃気楼のような影が現れる。
「この世界。この景観を形に出来るのは、これら我ら『全員』の心象であるからさ」
その数は一つや二つではなく甚大な数へと変わっていき、次第に色と厚みを備えていく。誰もが驚愕の眼差しで見守る中、続々と影達のそれは精悍な戦士へと実体化していく。
「見よ、我が軍勢を!」
人種も装備も多種多様。だが、その屈強な体躯と勇壮に飾り立てられた具足の輝きはまるで各々が競い合うかのように華々しい。
「肉体は滅び、その魂は英霊として世界に召し上げられて・・・それでも尚、余に忠義する伝説の勇者達」
そんな騎兵、一騎一騎が掛け値無しの英雄であった。伝説であった。その全てが一介の戦士として『英霊』と呼ばれる者であった。
「彼らとの絆こそ、我が至宝! 我が王道ッ! イスカンダルたる余が誇る最強宝具―――」
まさに『征服王 イスカンダル』たる名前に相応しい軍勢。その名は・・・・・
「―――『
両腕を掲げるライダーに答えるように幾千、幾万もの戦士達が唸り声を轟かせる。
「コイツら・・・一騎一騎がサーヴァントだ!」
「見るも圧巻だ・・・!」
ウェイバー達、マスターは宝具によって召喚されたサーヴァントを眺めながら、感嘆の声を上げていた。
歴史はあまり詳しい方ではない者でも取り敢えず偉人だとわかる者ばかりが、目の前に勢揃いされていたのだから。
「久しいな、相棒」
戦友を懐かしむようにライダーは、軍勢から出て来た黒馬の首を撫でる。馬は、撫でられると嬉しそうに鼻を鳴らした。この馬こそ、馬でありながらサーヴァントとなった暴れ馬『ブケファラス』である。
ライダーはブケファラスの首を撫でると振り返り、軍勢に向かって語り掛ける。
「王とは! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる事を指すことだ!」
『『『然り、然り、然り!』』』
軍勢からの返答に満足するとライダーはブケファラスの背に跨る。
そして、また同胞達に語り掛ける。
「全ての勇者の羨望を束ね、その道しるべとして立つ者こそが王。故に王とは、孤独にあらず。その偉志は、すべての臣民の総算たるが故にッ!」
『『『然り、然り、然り!!』』』
まさに一同恫喝。その名に恥じぬ軍勢の大号令であった。まさに『王の軍勢』と呼ばれるだけの宝具である。
『凄まじい』という言葉でさえも足らない程の圧巻であった。
「さて・・・では始めるかアサシンよ」
兵達の号令に満足し、ライダーは後ろに控えていたアサシン達を見る。
ライダーの持つ王の威圧に圧倒され、アサシン達は一歩、また一歩と後ろに引き下がる。
「見ての通り我らが具現化した戦場は平野。生憎だが、数で勝るこちらに地の利はあるぞ?」
圧倒的であった。
群れといった部類に入るアサシン達でも遮蔽物の無い場所では、その真価を発揮することはできない。
逃げ出したり、立ち尽くしたりする烏合の衆と化した暗殺者達と統率のとれた指揮力EXの益荒男の軍団。この戦いは、戦う前から勝敗は決まっているようなものであった。
「蹂躙せよぉおッ!!!」
『『『ウォオオオオオオ―――ッ!!』』』
ライダーの雄叫びと共に歴戦の勇者の荒波が、アサシン達に襲い掛かる。
子供でもわかる圧倒的な蹂躙劇。反撃も悲鳴までもが益荒男達の雄叫びに掻き消える。
彼らが駆け抜けた後にはアサシンが存在した形跡など微塵もなくなり、戦場は砂埃が舞うだけと成り果てた。
「ウォオオーッ!」
『『『ウォオオオオオオ―――!!!』』』
アサシンを蹴散らした軍団は雄たけびを響かせる。
男達は剣を突き上げ、槍を掲げ、盾を打ち鳴らし、勝鬨の雄叫びを荒野の戦場に轟かせたのであった。
―――――――
「幕切れは興ざめだったな」
あれだけの宝具を展開する前と何ら変わりない様子で、ライダーは樽からワインを汲み取ると一気に飲み干す。
固有結界世界を塗り替えた宝具は、アサシンを倒すと幻と思えるように解除される。蒼穹の空は夜空へと戻り、灼熱の大地は箱庭へと還った。
「お互い、言いたい事も言い尽くしたよな」
「言わなくても良い事までもな」
「ダハハ。ま、そう言うなバーサーカー。今宵は、もうここらでお開きとしようか」
アキトの皮肉にライダーは苦笑しながらもユックリとその巨体を起こすと去るように振り向いた。
「待てライダー! 私はまだ!」
「もうよい『騎士王』よ」
待ったをかけるセイバーにライダーは振り返らず答える。
「今宵は王が語る宴であった。セイバー、貴様の王としての在り方を聞かせてもらったが、どうも余は至上の酒を口にしたせいで多少気が早くなっておる」
「・・・どういう事だ?」
彼の返答にセイバーは疑問符を浮かべながら眉間に皺を寄せる。
ライダーは自分が酔っている事で、在り方が違いすぎるセイバーの言葉を理由もなく受け入れないであろうと自覚しての引き上げであった。
「貴様の在り方をいくら語られても、今の余では納得しないやもしれんのでな。それに・・・」
「それに?」
「え?」
そう言うとライダーは雁夜の方に視線を向ける。セイバーもそれにつられて彼を見つめる。
サーヴァント二人からジロジロと見られている雁夜としては、何だか落ち着かない。
「カリヤの言う通り、余は自らの固定概念に囚われておったのかもしれん。『王という者は、こうでなければならん』という固定概念にな」
「・・・」
「ならばセイバー。貴様の王道と余の王道、どちらが正しいか決めてみるのも一興ではないか」
漸くここでライダーは振り返り、悪戯っぽい笑みをセイバーに向けた。
雁夜の発言で『言葉』と『言葉』で王の格を競うのはライダーとして思う所があったのだろう。だから、次は『力』と『力』で見極めるという魂胆である。なんとも彼らしいやり方で。
「望むところです、征服王」
雁夜に肯定されて自らの思いに吹っ切れたとはいえ、未だセイバーの胸には迷いの感情が残っている。それをわかってか、彼女はライダーの言葉に頷く。
「うむ。無論、貴様もだ英雄王」
「フン」
セイバーの返答とアーチャーのぶっきらぼうの頷きに満足したようにライダーは再度頷き、キュリプトの剣を引き抜くと虚空を斬る。そして、現れた戦車に乗った。
「では引き揚げるとするか」
「その前にいいですか?」
戦車に同盟組が乗り、引き上げる万端が出来た時。不意にセイバーが声をかけた。
「なんだ騎士王? まだ、何かあんのか?」
「すみません。カリヤ・・・と言いましたね? ありがとう」
「え・・・?!」
まさか自分が呼ばれるとは思わなかった雁夜は、自分が想像している以上に驚いた。
ましてやお礼を言われるとは夢にも思わず、固まってしまう。
「貴方があのように言ってくださらなければ、私は自らを責めていたでしょう」
「ま、待ってくれ! 別に俺は・・・その・・・」
「オイオイオイ、なんだよマスター照れてんのか? そうなのか? そうなんだろ? 正直に言ってごらんよ、こじらせマスター?」
「ちょっと、アキト? 一人でいじらないの。私もイジりたいわ」
「ああッ! なんかウザい!!」
口ごもる雁夜にニヨニヨが止まらない吸血鬼二人組。そんな彼らを見て、不覚にもセイバーは笑みをこぼす。
「まったく、なんだか酔いも醒めて来たわい。こりゃあ帰って飲み直しだな。付き合えよカリヤに坊主」
「えぇッ!?」
「なんで僕まで・・・」
そう言うとライダーは手綱を大きく振り戦車を前進させると夜空へと駆けて行った。
こうして短いようで長い聖杯問答は幕を閉じた。
しかし、ここで気掛かりな事が一つ。
「フン・・・『騎士王』か・・・ククク・・・」
意味ありげに呟きながら霊体化するアーチャーに誰も気が付かなかった。
←続く
何度見ても・・・アレは滾りますな~。