Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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今回は文字が9000を突破しました!

長いですが、お構いなく。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



酒杯問答:上

 

 

間桐 雁夜は困惑していた。

屋敷で桜やドン達と花札なんてして遊んでいたのに、今自分はどこにいる?

 

雁夜は、世界征服という馬鹿げた夢に人類史において一番近づいた男の肩に担がれ、セイバー陣営の城の入り口にいる。

彼らは、轟音共に響き渡らせた雷で魔術結界や城壁を破壊した入口に立っている。何故、そんなところに自分がいるのか?

それは、雁夜がバーサーカーのマスターであるからに他ならない。

サーヴァントのマスターであるから、その行動には取りあえず付いて来なければならないという彼のサーヴァントの暴論のもと、雁夜はここにいる。

 

 

「おぉい、騎士王! わざわざ出向いてやったぞぉ。さっさと顔を出さぬか、あん?」

 

ホールから堂々と呼びかけてくる声は案の定、征服王イスカンダルこと『ライダー』のそれに違いなかった。

間延びして聞こえる声はおおよそ、これより戦闘に臨む者の語調とは思えない。

 

 

「なあ大王、中々に良い場所だろう?」

 

「そうかぁ? 余としては、こんなシケたところではのぅ」

 

「ん~? 俺としては、静かで良いとこだと思うんだけどなぁ~」

 

「Barで酒を飲む気分なら、静かな方がいいけどね」

 

ライダーの隣で同じく間延びした声を出すのは、召喚した当時の服装に身を包んだ雁夜のサーヴァントこと『アキト』と彼が召喚したという仲間の『シェルス』である。

他のドンやロレンツォは、近代兵器と魔術結界に守られた屋敷で桜を守る為に留守番している。

彼等なら、例えアサシンやキャスターが侵入してきても過剰防衛で撃退するとの考えである。

 

 

「どうしてこうなった・・・」

 

別の肩に担がれているウェイバーは、シクシクと涙する。

そうしていると奥のテラスから白銀の甲冑を実体化させ、戦闘態勢に入っているセイバーとアイリスフィールが何とも言えない視線を送って来る。

 

 

「いよぉ、セイバー。昨日、来た時から思っておったんだが・・・何ともシケたところに城を構えておるのぅ」

 

それに対してライダーは、相も変わらず快活にライダーは失礼なセリフと共に呼びかける。アキトもライダー同様にセイバーらを見上げ、「夜分遅くにすまないな」と声をかけた。

 

 

「・・・バーサーカー・・・これはいったいどういうことなんでしょうか? ラフな服装にワイン樽を持っていて、ライダーの出で立ちがまるで酒盛りでもしに来たかのようなのですが。それにその隣のご婦人は・・・?」

 

ライダーの出で立ちや来た事にも驚くが、それより昨晩自分に吸血した人物が昨日の今日でここに来た事に対して驚いたのがセイバーの本音だ。しかも、その気になる彼の隣には、無視無視マスターからアイリスフィールを通して聞いていた『8騎目のサーヴァント』がいたのだから。

 

 

「ああ、これは―――「今日は互いの武功を称え合って、酒盛りがしたいと思ってね」

 

アキトが事情を話そうと口を開けた。が、その前にシェルスが彼の口に手をやりながら代わりに答える。

 

 

「貴女は・・・?」

 

「お初にお目にかかるわセイバー・・・いえ、騎士王アルトリア。私は『ガンナー』。どうぞよろしくね?」

 

シェルスはニコやかに自己紹介をするが、明らかに目の奥が笑っていない。

二人の間に見えない電流が走っているようにウェイバーは感じた。

 

 

「あ、あのー・・・セイバーのマスターさん?」

 

「は、はい?」

 

現代の作法を知ってか知らずかわからないサーヴァントに変わって、ライダーの肩から下りた雁夜が、アイリスフィールに語り掛ける。

 

 

「いやー、こんな夜分遅くにすみませんマスターさん。お詫びと言っては何ですが、どうぞ」

 

純朴そうな笑顔をしながら雁夜がアイリスフィールに小さな包みを差し出してくる。包みの中身は、ライダーが酒を選んでいる間に雁夜が買っておいた高級菓子の詰め合わせである。

 

 

「あ、これはどうもご丁寧に・・・」

 

「それでなんですが・・・あの森の惨劇は聖杯戦争中の破壊活動と思って諦めてもらえないでしょうか? その代わりこちらもウチのバーサーカーとガンナーの真名をお教えいたしますので」

 

「・・・ええ、構わないわ」

 

「寛大な処置に感謝いたします、セイバーのマスターさん」

 

しかし、まさか破壊活動を行いながらの訪問とは露ほどにも思っていなかった雁夜の背中は、少しばかり冷や汗で湿っていた。

それでもライダーの行動の報復に来られることを恐れた雁夜は、こちらにとってはそれほどの痛手ではないが、相手からするとどうしても手に入れたい情報を取引材料に使って沈静化を試みる。

相手に動揺を悟られず、最善の行動をとる。アッパレ、雁夜は良くできた社会人であった。

 

こうして彼らは城の外にある庭園に移っていく。

そして、宴の場所として選ばれた城の中庭にある花壇にアキト達が持って来た携行式の卓袱台を置き、酒の肴の入った重箱を並べた。

この酒宴の提案者であるライダーは持ち込んだ酒樽を真ん中に挟んで、セイバーと差し向かいにどっかりとあぐらをかき、悠然たる居住まいで対峙している。アキトとシェルスは、その両者の間に座る。

サーヴァント達の後ろにはウェイバーと雁夜、そしてアイリスフィールが並んで立つと共に先の読めない展開に気を揉みながら、まずは成り行きを見守ることに徹していた。

 

ライダーがどうしてこのような行動に移ったかには、理由がある。それは『酒を飲みつつ問答をもって勝負する』というモノであった。

その勝負内容は『王としてどちらが優れているか』と言うものである。

だが、ただの飲み会だと思っている部分がある自分が近くにいてもいいものなのかとアキトは、ライダーに聞いてみた。

 

 

「何、宴の客を遇する態度でも王としての格は問われるというもの。何よりお前さんの料理は美味であるがゆえにな」

 

ここまで共に戦って来た者をないがしろにするほどライダーは小さくなく、アキトの料理で酒が飲めるのならこれ幸いと思っていたのだ。

 

 

「そして騎士王よ、今宵は貴様の王の器を問いただしてやるから覚悟しろ」

 

「面白い。受けて立つ」

 

先程までライダーの襲撃に眉をひそめていたセイバーが、毅然とした面持ちで応じている。

王としての戦いを全くアキトは知らないが、そこから漂うシリアスな雰囲気からようやく受け入れることができたことは口にしなかった。

 

 

 

 

 

「大皿のような形だが、これがこの国の由緒正しい酒器だそうだ」

 

まずはライダーが拳で樽を叩き割ると、そう言いながら漆喰の杯で中に詰まっているワインを掬い取り、一息に飲み干す。そして、アキトが持って来た重箱の肴を口に放りこんだ。

 

 

「聖杯はこの冬木による闘争によって見定められ、それにふさわしき者の手に渡る定めにあるという。そうであるなら・・・何も血を流す必要はない。英霊同士、お互いの格・に納得がいったのならそれでおのずと答えは出る」

 

そのまま差し出された杯をセイバーは毅然と受け取り、ライダーと同様に樽の中身を掬い取るとライダーに勝るとも劣らない程に剛胆に呷る。それを見届けたライダーが「ほう」と愉しげに微笑する。

 

 

「それで・・・まずは私と『格』を競おうというわけか? ライダー」

 

杯のワインを飲み干したセイバーの問いかけにライダーは「その通り」と言う。

 

 

「お互いに『王』を名乗って譲らぬとあっては捨て置けまい。いわばこれは『聖杯戦争』ならぬ『聖杯問答』・・・・・はたして騎士王と征服王・・・どちらがより、聖杯の王に相応しき器か? 酒杯に問えば、つまびらかになるというものよ」

 

そこまで厳しく語ってからライダーは悪戯っぽい笑いに口を歪めて、白々しく小馬鹿にした口調でどこへともなく言い捨てた。

そして、何かを思い出したようにライダーは口を開いた。

 

 

「ああ、そういえば我らの他にも一人ばかり・・・『王』だと言い張る輩がおったっけな~?」

 

「戯れはそこまでにしておけよ、雑種」

 

その声音、その輝きに見覚えのある声にセイバーやアイリスフィールは、ともに身体を硬くする。シェルスに至っては、宝具の銃を見えない様に引き抜く。だが、それにアキトは手を置いて制止する。

シェルスとしてはここで厄介なアーチャーを暗殺する事で戦を優位に進めたいが、そんな事をすれば『ライダーが黙っているはずがない』というアキトの訴えにやむなく銃をしまう。

 

 

「アーチャー、何故ここに・・・?」

 

気色ばんだセイバーに、答えたのはライダーだった。

 

 

「いやな。街の方でこいつの姿を見かけたんで、誘うだけ誘っておいたのさ。遅かったではないか、金ピカ。まぁ余と違って歩きなのだから無理もないか」

 

「よもや、こんな鬱陶しい場所を『王の宴』に選ぶとはな。それだけでも底が知れるというものだ。我にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる? それにどういう了見だ? この場に『王』ではない蝙蝠と『8騎』目がいるなど・・・」

 

アーチャーは、鋭く尖らせた眼でアキトとシェルスを見る。

あと、どうでもいいことなのだが・・・王と言うものは、招かれた宴の場所に対して文句を言わずにはいられない性質なのだろうか。そう本気で考え始めるほどに下手で見ていた雁夜は、王に対する評価が変化していきそうになる。

 

 

「まぁ固いことを言うでない。ほれ、駆けつけ一杯」

 

普通の人間なら怯え竦むほどの剣幕のアーチャーに対し、ライダーは朗らかな笑みを浮かべながらワインを汲んだ杯を渡す。

この雰囲気ではそのまま渡された杯を地面に叩きつけて、例の宝具でも展開するのではとアキトは警戒したが、意外にもアーチャーは素直にそれを飲み干した。

酒による王の勝負と言うものは、時代や場所が違っていても共通なのだろうか。

 

 

「なんだこの安酒は。こんなもので王としての器を量れると思っていたのか?」

 

「そうか? この土地で仕入れたものの中ではなかなかの逸品だぞ」

 

「そう思うのは、お前が本当の酒を知らぬからだ」

 

ライダーの言っていることは間違いではない。

この冬木で手に入れられるワインの中では大分上等なものであるのは間違いない。ライダー達も試飲したときには、かなり美味だと感じた。

だが、この金色の王様の口には合わなかったらしく、眉をひそめて言い捨てる。

 

 

「なら、こっちはどうだ?」

 

ライダーは重箱の肴をアーチャーに出す。しかし、アーチャーは怪訝な顔をしてフンッと鼻息をたてて断った。アキトは少し残念でしょぼんとしたが、代わりに肴に興味の湧いたセイバーが食べ、顔を少しほころばせた。

腹ペコ王の末端を垣間見た事に喜んでいるとアーチャーの傍らの空間が水面の様に歪んだ。

 

 

「見るがいい。そして思い知れ。これが『王の酒』というものだ」

 

アーチャーが傍らに呼び出したのは、武具の類ではなく、眩しい宝石で飾られた一揃いの酒器。重そうな黄金の瓶の中には、澄んだ色の液体が入っていた。

 

 

「おお。これは重畳」

 

ライダーはアーチャーの憎まれ口を軽くスルーして、それを五つの杯に酌み分けようとする。

 

 

「おおっと、待ってくれ大王。俺はそのお酒は断っておくぜ」

 

その時、アキトがライダーの手を止めた。

 

 

「なんだバーサーカー。一人だけ別の酒を飲むなどと言う水を差すようなことをするでないわ」

 

「いやいやだって、その瓶の中の酒ってどう見てもワインじゃあないか。俺はこっちのウィスキーで十分だからよ」

 

そう言って、彼は懐からウイスキーを出す。

何故、彼が酒を断ったのかというと実は、アキトはワインが苦手なのだ。実際、ライダーの持って来たワインの試飲も断っている。だが、そう言われたアーチャーには面白くなかったようで、先ほどのライダーへの剣幕をそのままアキトに向けてきた。

 

 

「おい、蝙蝠。よもや貴様、我の出す酒が飲めぬと抜かすつもりか?」

 

「・・・アンタは何を酔っぱらった上司みたいなことを言っているんだよ、英雄王・・・」

 

予想外のアーチャーの反応にアキトは、素の反応をする。

 

 

「我が寛大な慈悲の心で、万死に値する咎を背負った貴様に酒を下賜してやったというのに・・・それを断るとは何たる不敬かッ!」

 

「おおっと! この英雄王、かなりメンド臭いぞ!!?」

 

「なんだと貴様!?」

 

「あ~はいはい、喧嘩しないの! アキトも飲むのよ!」

 

「え~、でも俺はウィスキーの方が―――「いいから!」―――・・・はい・・・」

 

まさか飲まない事に憤怒して、あの規格外の宝具を出そうとするとは予想もできなかった。というより、このサーヴァントの行動を完全に予測出来る奴なんかいるのだろうか。予測できるとすれば、彼の友人だけであろう。

シェルスの機転で悪い事態は免れるが、目の前のアーチャーに押し出された黄金の杯を渋々受け取りながら心の中でアキトは愚痴を言う。

 

 

「むほォ、美味いっ!!」

 

先に杯を呷ったライダーが、目を丸くして喝采する。それによって警戒心を薄め、好奇心が先立ったセイバーもそれを飲み干すとおそらく無意識であろう感嘆の声を上げていた。

確かに注がれた酒からはとても芳醇な香りが漂ってくる。それでもアキトは依然として飲まないでいる。結局飲まないとアーチャーの逆鱗に触れることになるのは分かるが、なるべくならウイスキーの方が良い。

そうこう悩んでいる内に、隣のシェルスまでもが酒を何とも美味そうに飲んでしまい、もう飲んでいないサーヴァントはアキトだけになっていた。

 

 

「俺はよ~どうもワインってのが、気に喰わねぇ。なんであんな甘い葡萄をわざわざ渋くさせちまうんだ? 確かに果実酒ってのは、美味い。林檎とか、梅とかの酒は美味いよ。でも、どうにも葡萄を醸して作ったワインだけはどうにも―――」

 

「貴様・・・・・自らの分を弁えているのは良いが、度が過ぎると醜悪だぞ。この我が飲めと言ったのだから、素直に享受されておくのが礼儀であろうが、蝙蝠」

 

「つべこべ言わずに飲んでごらんなさいよアキト。コイツは素敵よ」

 

「む~・・・わかったよ、飲むよ。飲ませて頂きますよ英雄王ッ」

 

渋々妥協して、彼は杯を口に傾けた。

 

 

「ッッ!!!?」

 

喉に流し込んだ瞬間、まるで脳が倍に膨れ上がったような強烈な多幸感が襲う。舌が、この酒を味わおうとすべての神経を集中させているかのようだ。

まるで麻薬のような多幸感が体中にみなぎってくるが、それが過ぎた後の余韻すらも快感に思えるほどの味わい深さ。

 

 

「ゥンんまァア―――ッい!!」

 

あれほど暴れまわった味覚も、酒が喉を過ぎると非常に清らかな気分になれる。

今まで味わったどんな物よりも素晴らしい逸品。このような代物は人間が作り出せるものではない。もっと上位の存在が作り出した、酒の形をした全く別の物だ。

 

 

「なんだコイツはァアッ!? 脳に直接高圧電流を流された衝撃があるのに体中に穏やかに染み渡っていく、この感じ! ディ・モールト・・・ディ・モールト・ベネッ!!」

 

「でしょう?!」

 

最初に抱いていた警戒心はどこへやら、軽く飲むふりをしてやめておこうとしていたアキトは、酒を飲む事がやめられなくなっていた。その反応に満足したのか、アーチャーは微笑を浮かべる。

 

 

「当然であろう。酒も剣も、我が宝物庫には至高の財しかありえない。これで王としての格付けは決まったようなものだろう」

 

勝ち誇るアーチャーであったが、そんな彼に黙っていたセイバーが噛み付いた。

 

 

「ふざけるなアーチャー、酒造自慢で語る王道なぞ聞いてあきれる。戯言は王ではなく道化の役割だ」

 

どうやら馴れ合いめいてきた場の空気に、そろそろ苛立ち始めていたのだろう。性根が真面目なセイバーには、この浮ついた状況で聖杯問答をするのは許しがたい事らしい。

そんなセイバーを、先ほどのアキトへの物とは違う顔と共にアーチャーは鼻で笑う。

 

 

「さもしいな。宴席に酒も供せぬような輩こそ、王には程遠いではないか」

 

「こらこら。双方とも言い分がつまらんぞ」

 

なおも言い返そうとするセイバーをライダーが苦笑いしながら遮り、アーチャーに向けて先を続ける。

 

 

「アーチャーよ、貴様の極上の酒はまさしく至宝の杯に注ぐに相応しい。が、生憎聖杯と酒器は違う。これは聖杯を摑む正当さを問うべき聖杯問答。まずは貴様がどれ程の大望を聖杯に託すのか、それを聞かせてもらわなければ始まらん。さてアーチャー、いや英雄王『ギルガメシュ』。貴様はウルクの王として、ここにいる我ら四人をもろともに魅せる程の大言が吐けるのか?」

 

「仕切るな雑種。第一『聖杯を奪い合う』という前提からして理を外しているのだぞ」

 

「ん?」

 

「どうゆう事だ?」

 

アーチャーの発言にライダーのみならず、他のサーヴァントやマスター達も疑問符を浮かべた。

 

 

「そもそもにおいて、聖杯は我の所有物だ。世界の宝物は一つ残らず、その起源を我が蔵に遡る。いささか時が経ちすぎて散逸したきらいはあるが、それら全ての所有権は今もなお我にあるのだ」

 

「オイオイ・・・」

 

「なによそれ・・・」

 

呆れたようにアーチャーは言い放つが、それを聞いてアキト達の方が嘆息したくなった。このAUOが傍若無人な奴だと知ってはいたが、ここまでとは予想だに出来なかった。

 

 

「じゃあ貴様昔、聖杯を持っていたことがあるのか? どんなもんか正体も知ってると?」

 

「知らぬ」

 

「あららッ!?」

 

ライダーの追及を、アーチャーは平然と否定する。

 

 

「雑種の尺度で測るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だが、それが『宝』であるという時点で我が財であるのは明白だ。それを勝手に持ち去ろうなど、盗人猛々しいにも程がある」

 

「なによそれ、屁理屈にも程があるじゃあないの」

 

「ガンナーの言う通りだ。貴様の発言はキャスターの世迷い言と全く変わらない。錯乱したサーヴァントというのは奴一人だけではなかったらしいな」

 

女性陣二人はアーチャーの発言に納得がいかず、異論を唱える。

 

 

「いやいやわからんぞ、セイバーにガンナー。この金ピカが、バーサーカーの言うように英雄王というのなら、その見識は間違ってはおらんだろう。それにアーチャー、貴様の言い分からすると貴様は別に聖杯なんぞ欲していないということではないか。だったらあれだけある財のうちの一つくらい、くれたってええじゃないか」

 

「たわけが。我の恩情を賜うことができるのは我が配下のみ。お前らの如き雑種に、我が褒賞を賜わす理由は何処にもない」

 

「おん? じゃああの時、俺が臣下になってたら聖杯はくれたのか?」

 

思い出したようにアキトは倉庫街での言葉を浮かべる。

 

 

「それ相応の忠義を見せるというのであればな。今からでも以前我の言葉を否定した謝罪とそれ相応の態度を示せば、今一度臣下になる権利を与えてやろう。誇るがいい。この我が二度も誘いをかけるなど、そうあることではないのだぞ?」

 

「!」

 

思わぬ二度目の勧誘に引き気味にアキトは驚くが、後ろの方でおかっぱ頭が喚いているので断る事にした。

 

 

「いんや、やめとくよ。一度、刃を向けちまったんだもの・・・倒さずにいられないのが、蝙蝠の性分・・・なんでね」

 

「・・・もう次はないぞ?」

 

「おん。次に逢い見えた時が、俺達との決戦になるだろうよ」

 

彼の返答を聞いて、アーチャーはクツクツと笑う。

 

 

「良いだろう。貴様と隣に控えている蝙蝠女は我、自ら裁きを下す。もっとも、雑種如きでは貴様は手に余るだろうがな」

 

「カカッ♪ 言ってろ」

 

笑っている両者であったが、その眼には明らかな『闘争の火』があった。

 

 

「さて・・・ライダーよ。先も述べたが、お前が我の許に下ると言うのなら杯の一つや二つ、いつでも下賜してやって良い」

 

「・・・まぁ、そりゃ出来ん相談だわなぁ。でもなぁ、アーチャー。貴様、別段聖杯が惜しいってわけでもないんだろう? 何ぞ叶えたい望みがあって聖杯戦争に出てきたわけじゃないと。なら、それにはどんな道理がある? 何をもってお前は裁きを下す?」

 

「『法』だ。我が王として敷いた、我の『法』だ」

 

ライダーの問いに、アーチャーは即答する。

よほど自分の中にあるルールに自信があるようで、その様子にぶれはない。それもあってか、ライダーは観念したようにため息をついた。

 

 

「完璧だな。自らの法を貫いてこそ、王。だがなアーチャー、余は聖杯が欲しくて仕方がないんだよ。で、欲した以上は略奪するのが余の流儀だ。何せこのイスカンダルは―――」

 

ライダーは杯に入った酒を飲み干して、一つ置いた後、言い放つ。

 

 

「征服王であるが故」

 

「是非もなし。お前が犯し、俺が裁く。問答の余地などどこにもない」

 

「うむ。そうなると後は剣を交えるのみ・・・・・だが、その前にアーチャーよ。この酒は飲みきってしまわんか?殺しあうだけなら後でもできよう」

 

「無論。それとも貴様、まさかそこな蝙蝠のように我の振る舞った酒を蔑ろにしようとしていたのか?」

 

「冗談ではない。我が身可愛さに捨て置けるほど、この美酒は軽いものではない」

 

「悪かったな、すぐに飲まなくて」

 

「コラ、すねないの」

 

明らかに会話の内容は敵対することを明言しているのだが、その雰囲気はどこか親交を深めたようなものがある。

そんな様子を憮然と眺めていたセイバーだが、ここで漸くライダーに問いかけた。

 

 

「征服王よ。お前は聖杯の正しい所有権が他人にあると認めた上で、尚且つそれを力で奪うのか?」

 

「然り。当然であろう? 余の王道は『征服』なのだからな」

 

「そうまでして、聖杯に何を求める?」

 

セイバーの血を飲んだ影響からか、彼女が怒りをこらえていることに。セイバーの言葉の端々に怒気が込められていることを感づいてしまった。

騎士王としての王の在り方を鑑みても征服王の王道は許容出来たものではないからである。

今でこそ酒を飲んで言い合ってるだけだが、この聖杯問答に集まっているのは各国の名立たる英霊だ。誰かが武力に出れば、ここら一帯は無残な戦場と化すのだ。

そんな事などお構いなしで、セイバーの問いかけに軽く照れ笑いをしながらライダーは答えた。

 

 

「受肉だ」

 

『はぁッ?』

 

その答えを聞いて、場は騒然とした。

 

 

「おおお、お前! 望みは世界征服だったんじゃ―――「ええい、やかましいわ」―――ぎゃわぶッ!!」

 

ライダーに詰め寄ったウェイバーは、毎度おなじみのデコピンによって宙を舞う。

 

 

「馬鹿者。たかが杯なんぞに世界を獲らせてどうする?征服は己自身に託す夢。聖杯に託すのは、あくまでもその為の第一歩だ」

 

「雑種・・・よもやそのような瑣事のために、この我に挑もうというのか?」

 

「いよいよもって、予想外ね」

 

あのアーチャーでさえ呆れ顔にするあたり、ライダーはある意味とんでもない存在なのだ。

 

 

「いくら魔力で現界していても、所詮我等はサーヴァント。この世界においては奇跡に等しい。だがな、それでは余は不足なのだ。余は転生したこの世界に、一個の命として根を下ろしたい。身体一つの我を張って、天と地に向かい合う。それが征服という『行い』の総て・・・そのように開始し、推し進め、成し遂げてこその我が覇道なのだ」

 

ライダーのその答えに、アーチャーとセイバーは真逆の表情を浮かべていた。

これまで笑みと言えば嘲笑しか浮かべていなかったアーチャーが、それとは異なる笑みを浮かべている。『何かを企む』そんな笑顔を。

 

 

「決めたぞ。ライダー・・・貴様はこの我が手ずから殺す」

 

「フフ、今更念を押すような事ではあるまい。余もな、聖杯のみならず、貴様の宝物庫とやらを奪い尽くす気でおるから覚悟しておけ。これ程の名酒、征服王に教えたのは迂闊すぎであったなぁ」

 

アーチャーの言葉に笑うライダー。その様子は心底楽しそうではある。だが、二人のやり取りに入り込む余地などありはしないとばかりにセイバーは押し黙っていたままだった。

いや・・・押し黙るばかりか、敵意をむき出しにして二人を睨んでいたのだ。

 

 

「ところで、セイバーよ。そういえば、まだ貴様の懐の内を聞かせてもらってないが」

 

ライダーの問いかけを待ってましたと言わんばかりに、セイバーは毅然とした態度で二人の王達を見据えて、自らの望みを打ち明けた。

 

 

「私は・・・我が故郷の救済を願う。聖杯をもってして、ブリテンの滅びの運命を変える」

 

『あ゛ぁ?』

 

セイバーが毅然として放った宣言に和やかだった座は、しばし静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 




二部構成か、三部構成か・・・それが問題だ。

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