Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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閑話みたいな物でござるが、内容によってはアキトがピンチです。

アキト「どゆことッ!!?」

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



騎士王心中

 

 

 

城と庭。正確に言えば庭園なのだろうが、それらに縁がある事をこれまでの人類史が証明していると言っても良い。

 

その城の庭園には、日本ではまず他にお目にかかれない動植物が当たり前のように庭園は植えられている。

静寂の織りなす美がこの四方を城の柱に囲まれた、まるで箱庭のような庭園を堪能するにはこの時期の夜は最高だと言えた。

月に照らし出される造形的な緑と、元々この城が放つ厳粛な雰囲気が魅惑的な空気を醸し出す。

 

そんな美しい庭園を一望できる出窓に金の髪を持った少女が立っていた。

男物のブラックスーツに身を包み、どこか物寂しげな眼で晴れた夜空に浮かぶ月を見ている。

彼女はセイバー。真名を『アルトリア・ペンドラゴン』という。

イギリスの聖剣伝説の主人公であり、最も偉大な騎士と言われた人物である。

 

何故、そんな彼女がこんな冷たい夜更け過ぎに庭を見ているのであろう。それは昨晩の出来事が関係している。

 

昨日の晩、勘違い系ストーカーのであるキャスターがこのアインツベルンの城へと押しかけて来た。普通ならそんな手合いは無視するのだが、キャスターは幼い子供達を人質にしていたのだ。

騎士の性分か、セイバーはすぐさま助けに向かいたかった。しかし、自分のあのコミュニケーションをとってくれないマスターから止められ、手をこまねいていた。

するとキャスターは子供の一人の頭に手を乗せ、あろうことかその頭を砕こうとする。

このまま、その子供の命は潰えるのかと思われた瞬間。ヤツの腕にナイフが刺さったのだ。

セイバーはハッとなり、ナイフが飛んで来た方向を見る。

そこには、いつか倉庫街で見た変わり種のバーサーカーがギリギリと睨みを利かせながらキャスターに近づいていた。

 

『まさか』とセイバーは思った。

倉庫街であれ程おチャラけた雰囲気を持ち、ふざけた態度をとっていた男が子供達を助ける為に自らの危険を顧みずに狂戦士よりも狂ったキャスターに戦いを挑んだのだ。

セイバーは、バーサーカーへの評価を改める事にした。

 

それからキャスターとバーサーカーの戦闘が始まった。

先制はバーサーカーが取った。だが、そこから巻き返す様にキャスターは宝具で海魔を召喚し、苛烈にバーサーカーを攻める。

 

バーサーカーは一時窮地に追い込まれるが、『逃げる』といった騎士では考えられないような戦術で危機を脱する。

しかしこの男、森の外へと逃げようとせず、なんとセイバーのいる城目掛けて走って来るではないか。

これには、あのコミュニケーションをとってくれないマスターも焦ったらしく、すぐにセイバーに攻撃の許可を出した。

 

漸くかとセイバーは駆けた。

速さではランサーに劣るがその速さ、流石は最優のサーヴァントと言った者か。城から飛び出したセイバーは着地と同時にバーサーカーを取り囲んでいた海魔を斬殺すると風に隠された刃の血を振り払うと剣をキャスターへと向ける。

そこからはセイバーとバーサーカー対キャスターの戦闘がはじまった。

 

ニ対一と傍から見れば、セイバー達の方が有利に見える戦いであったが、キャスターの宝具で実際には、二対幾百、幾千の圧倒的不利な状況に立たされる。

セイバーもバーサーカーも力の限り、海魔をぶった斬り、ブッ刺した。

それでも一向に減らない怪物共にウンザリしたセイバーは、バーサーカーに『起死回生の策はあるか』と聞く。するとこの狂戦士『ある』と答えた。だが、それには魔力が足りないとぬかしやがる。

その時、セイバーはあの無視無視マスターからアイリスフィールを通じて聞いていたバーサーカーの保有スキルを思い出す。

 

『吸血』。それは人類種最大の天敵『吸血鬼』が持つ特殊スキル。

このスキルを持つ者から吸血されれば、どんな事が起こり得るのか予想できない彼女ではない。しかし、迷っている時間はなかった。このままでは数の暴力に飲まれてしまう。それに自らの危険を顧みず、果敢に子供達を助け出したこの男が悪い輩だとは到底思えなかったのである。

 

『この者になら吸血されても構わない』

 

そうセイバーの直感が、彼女に語り掛けたようだった。

 

このセイバーの提案に最初はバーサーカーも難色を示した。しかし、セイバーの言い分を彼に伝えると呆気にとられた表情をした後に朗らかに笑い・・・

 

 

「いや、なに。そうだった・・・そうだったよ・・・・・アンタにはそんな天然な所があったんだよな~・・・すっかり忘れていたよ」

 

・・・と言ったのだ。まるで自分の性格を元々知っていたかのような、そんな口調で。

セイバーは聞き返したかった。

『自分を知っている。様々な文献にも書かれていない自分の素の本心を知っている、お前は誰だ?』と。されどそれは叶わなかった。

 

聞き返す前に彼の冷たい吐息が彼女の頬を撫でる。そして、今まで感じた事のない『痛み』と『快楽』が全身に走った。

耳に口に出したことのない甘い自らの『喘ぎ声』に驚きつつ、セイバーは意識を心底深く沈めた。

再び眼を開いた時に真っ先に見たのは、彼女が生きている事に嬉し涙を流すアイリスフィールと生きている事を確認して、早々に引き払うマスター『衛宮 切嗣』であった。

それからセイバーはキャスターに誘拐されていた子供達が無事に親元に返された事とキャスターがあの後、逃亡した事を聞いた。

 

また、あのイカレ魔術師は自分を狙うだろう。そして、また関係のない大勢の人が巻き込まれるだろう・・・自分のせいで・・・

そう悲嘆するセイバーを慰めるアイリスフィールであったが、近くにいた舞弥は愛おしむように首の小さな刺し傷を撫でる彼女の手を見逃しはしなかった。

 

 

「はぁ・・・」

 

彼女はまた一つため息を吐く。

何故だろうか、あの戦いをあのふざけた狂戦士を思い出すと心臓の鼓動が強く響く様に鳴る。ドクリドクリと心の臓腑が高鳴り、顔は熱にうなされたように紅潮する。

大方、あの狂戦士に血を啜られたからであろう。吸血の後遺症であろう。

しかし、吸血された後がこんなに苦しいとは聞いていない。こんなにもどかしいとは聞いていない。

 

 

『恨むなよ・・・セイバー』

 

あの男が自分の血を啜る前に言った言葉にこんな意味があったとは、あの時は露とも知らなかった。

 

 

「バー・・・サー・・・カー・・・」

 

今では、暇さえあればヤツの事を考えている。

多くの名のある騎士を束ね、名声を欲しい儘としたあの名高き騎士王が、吸血鬼風情に心を惑わせられている。穢れも知らぬ乙女のように。

とんだ悲劇だ。とんだ喜劇だ。

 

・・・だからこそ・・・

この気持ちは殺さねばならない。この思いは封印しなければならない。聖杯を勝ち取る為に。自らの願いの為に。

 

 

「バーサーカー・・・!」

 

その為にはあの男にもう一度会わなければならない。ケジメを即ける為に。

 

ドゴォオ―――ッンッ!!!

 

「ッ、何事ッ!?」

 

その願いが通じたか、静かな夜に城壁を破壊する爆発音が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回はやっとこさ・・・アレです。

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