宝具の基準を独自に判断している今日この頃。
宝具の種別に悩んでおります。
てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・
「AAALALALA―――Iie!!」
アキト達『キャスター絶対殺すマンチーム』は現在、未遠川近辺にある用水路内部をライダーの宝具『
「本当にいい加減にしろよライダァア―――――ッ!!」
ウェイバーがライダーに捕まりながらギャアギャア喚いている。
こうなる前・・・彼らはウェイバーと雁夜が昨晩探してくれたキャスターの魔術工房目掛けていざ行かんと下水道の入口に立っていた。
その時、ライダーが宝具の戦車を出す。
「これで行った方が華があろう?」
ライダーの提案にウェイバー以外の全員が賛成し、戦車で突撃する事になった。
突撃部隊のメンバーはライダー、アキト、ウェイバー、そして・・・
「結構速いわね、コレ!」
「無理すんなよ、『シェルス』?」
「嘗めないでよアキト!」
赤い髪の『ガンナークラス』のサーヴァント『シェルス』であった。
彼女は、最初のメンバーである『耐久:E-』の雁夜の代わりにこの突撃部隊に入ったのである。
そんなこんなで用水路内に入って行くと予想通りか、昨晩の異形の怪物『海魔』がうじゃうじゃと通路にへばり付いていた。
それをライダーは車輪に備え付けた剣で切り裂き。アキトはナイフで串刺し。シェルスは宝具の銃で撃ち抜く。そうして海魔達の絶叫をBGMにボコスカ進んで行く。
「お・・・おふぅ・・・」
「大丈夫、ウェイバー?」
ただ一人、ウェイバーだけは気分が悪くなっていた。別に車酔いをしている訳ではない。目の前で繰り広げられるグロテスクな情景に気分を悪くしているのだ。
彼の救いとしては、辺りに充満する海魔達の腐臭を自身の魔術で事なきを得ている点であろう。
「なんだ情けない。この見事な蹂躙劇を前に何が不服なことがある?」
「ああ確かに効率的だろうさ! 時間をかけずに確実な方法で工房に行くには間違いない手法だろうよ! でも、だからと言ってこんな無茶苦茶な作戦があるかッ!」
ヤレヤレと手綱を持って、呆れるライダーにウェイバーが噛み付く。
「だったら、お前さんは何か別の方法でも考え付いたとでも言うのか?」
「考え付いたとかそれ以前に魔術師の拠点だってのに無策に突撃するバカがどこにいるってんだよっ!? こうして結果的に良かった物の・・・奥にとんでもないトラップが仕掛けられていたら・・・」
「そうさなぁ・・・そこが余も気になっておったところなのだがな? こんなにも魔術師の工房攻めっていうのは他愛もないものだったのか?」
ライダーの言う事は一理ある。こんな有象無象の駒を並べたところで、対軍宝具を持ったライダーにとっては突破するのにさほど問題がない。
昨日ライダーの姿を見ているキャスターが、ライダーのことを意識せずにこの布陣にしたとは思えない。
・・・ということはつまり、キャスターは敢えてこのように単調な守りにしたわけではなく、ライダーに対する防備を『作りたくても作れない』ということなのだろう。
「それは単にキャスターの力じゃあ大王の宝具を防ぐことができないって話だろう。あのジル・ド・レェってのは、元々は軍人で正式な魔術師ではないから、大した魔術も使えないって事だろう」
「なんだそりゃあ? であれば、余のこの方法は何ら間違ってはいなかったというわけではないのか坊主?」
「・・・どうやら何とも癪だけど、その通りだよ。心の底から癪に思うけど」
ライダーこと『イスカンダル』強い。
流石は世界史の教科書に載る程の出来事を引き起こした英雄か、その強さは計り知れない。
手先に頼るは、軟弱と言わんばかりに正面突破をしてくる。しかも、それでいて目的を達成するだけの能力があるのだから手に負えない。
こういう手合いが、あらゆる敵の中で最も厄介だということをアキトは身に染みて理解している。
『バカ程怖い者はない』
其れ程までに単純な能力程対処するのが難しい。
『柔よく剛を制す』などと言う言葉はライダーには通用しないのではないのだろう。
何故ならライダーの戦い方自体が『剛よく柔を断つ』を体現しているような物なのだ。
「おい! そろそろ終着点につくぞ。坊主もバーサーカー達も構えよ・・・」
ライダーの言葉の通り、あれだけ通路に満ち溢れていた異形の怪物達の数が格段に減少し、今しがた通路のどこにも肉塊と思しきものも無くなっていた。
もしも工房にキャスターが待ち構えているのなら、即座に戦闘に入ることになる。その為にもアキトは目の前を見据えナイフから血の槍を構え、シェルスは宝具の回転式拳銃に弾丸を込める。
「・・・キャスター・・・」
「いないじゃない・・・って、アキト・・・!」
「あぁ・・・」
だが、キャスターの拠点であろう開けた場所に出た時。キャスターが不在と言うことが確認できた為、その準備は無駄になった。
けれども吸血鬼二人とライダーには、暗闇の中なんてのは昼間のように視界が良好だ。だからこそ目の前の凄惨な場景を目の当たりにする。
「どうしたんだよ三人共? 真っ暗で何も見えないけど・・・貯水槽か何かか、ここ?」
「・・・あ~・・・坊主・・・こりゃあ見ないでおいた方がいいと思うぞ?」
そんなライダーの言葉にウェイバーは、ムッと眉間に皺を寄せる。
「何言ってんだよ! キャスターがいないなら、せめて何か奴らについての手がかりでも探さなきゃいけないだろ!」
「ウェイバー・・・ここは大王の言う通りだ。それに関しては俺達でやるから・・・そのまま二人と一緒にそこで待っててくれ。俺がやる」
今度はアキトが忠告するが、ムキになったウェイバーは聞かずにそのまま目に暗視の魔術を発動させる。
この時ウェイバーは『自分も何かしなくては』と言う強迫観念のようなものを内に抱いていた。
彼のサーヴァントであるライダーはもちろんのこと、同盟相手であるアキトでさえも戦果を挙げてきたというのに、自分の名誉のために参戦したはずのウェイバー自身が疑心暗鬼になるばかりで何もできていないと思い込んでいる。
実際にはこの工房の場所を探り当てたという功績があるのだが、ウェイバーは当然な亊思っており、功績だと理解できていない。
「―――ッ!!? お、おエェエッ!」
そして眼に飛び込んできた光景によって、なぜ二人が自分を止めたのかを嫌と言うほど理解した。
彼、ウェイバー・ベルベットは聖杯戦争に参加するにあたり、様々な覚悟をしていたつもり・・・『だった』。
その中でも人間の『生き死に』はどうしても逃れることのできない現象として、自らの前に映し出される事は承知していた。
だというのに・・・そんな彼の覚悟など矮小な物だと嘲笑うかの如く、目の前の惨劇がウェイバーにリアルな衝撃を与えてきたのだった。
「コイツは最低で最悪だ。最も理解したくない部類だ・・・!」
ここにいるウェイバーを除いた人物は、『屍』という存在を多かれ少なかれ見ている。自分の軍団を率いていたライダーや軍人だったシェルスは戦場で、裏家業に勤めていたアキトは仕事場で見た事がある。そのどれもが『破壊』された人体の成れの果てであった。
「吐き気がするわ・・・!」
だが、これは違う。明らかに違う。この薄暗く陰気な空間に鎮座しているこれらは明らかに常軌を逸している。
恐らく、皆の眼前に存在するこの『オブジェ』達は其々で様々な雑貨として丹念に構築されていったのだろう。
これ程の情熱をかけて製作できるのであれば、この光景を作り出した人間は職人として一流だと感じさせる程だ。
それほどまでにこの空間には製作者の愛があふれていた。
その材料が『人間』であるという一点に目をつむればの話ではあるが・・・
ここには『壊された』人間など、一人もいない。ただひたすらに『作り変えられた』人間がいるだけだ
「糞ッ、ふざけやがって! 畜生めッ!!」
胃の内容物を逆流させながらウェイバーが叫ぶ。そんな彼を、ため息とともにライダーが諫める。
「意地の張りどころが違うわ馬鹿者。こんなものを見せられて眉一つ動かないやつがいたら、余がぶん殴っておるわい」
「私も大王の意見に賛成よ。功に焦る気持ちは分かるけど・・・もう少し落ち着いた方がいいわ」
ライダーは静かに呟き、シェルスは彼の背中を擦りながら周りに話すかのように落ち着いて語る。
その様子がウェイバーには、自分だけこの状況に適応できていない未熟者だと言外に言われているような気がして腹立たしくなる。
「そんなこと言ってお前らなんか平気そうじゃないかッ! こんなの僕だけが無様じゃないか!!」
嘔吐し自らの感情の激流に溺れそうになりながらも、なけなしのプライドを振り絞って少年はサーヴァントらにそう噛み付く。
「・・・ウェイバー・・・そんなナーバスな事言ってる場合じゃあなくなったぞ」
「そうさな・・・何せ、余のマスターが殺されるかもしれん瀬戸際にいるんだからのぉ。ガンナー、坊主を頼む」
「任せて・・・!」
「・・・はッ?」
ライダーが何を言ったのか理解できないままでいるウェイバーを余所に、何かがこの空間から飛び出していくような気配がした。しかも一人ではなく、複数の影だ。
その何者かに向けてアキトはナイフを投擲、シェルスは銃を発砲するが当たらない。
「野郎・・・逃げたか・・・」
たった今、飛び出して行ったのは、キャスターの陣地を見張っていた『アサシン』達だ。
キャスターの工房と言うことで慎重に探りを入れている中、ライダー達が突入するのを見て追跡していたのだ。
そして、ライダーが呆気ない蹂躙劇を披露し、それに便乗する形ではあるが易々と工房内に侵入を果たせたアサシン達は、目の前にいる無防備なウェイバーを見て、さらなる成果を上げようかと手ぐすねを引いていたわけだ。
しかし、いざ実行しようとしたところに彼らの声がアサシン達の逸る気持ちを一気に沈静化させてしまった。
あのセリフは自分たちに向けられたものだと感づけないほど愚鈍な彼らではない。
向こうは明らかにこちらに気づいていて、ウェイバーの周りにはサーヴァントが3人。防御陣形をとっている。このような状況下で暗殺が成功できると自惚れる程アサシン達は愚かではない。不可能と判断した彼らはとっさに逃げるかの如く、この場から脱出したのであった。
「ふむぅ・・・やはりアサシンの奴ら目生きておったか。バーサーカーの推理通りだのぉ」
感慨深くライダーは頷いているが、今はそれどころではない。アサシンたちは逃げ出したように見えたが、もしかすると再び奇襲をかけてくるかもしれない。
そんな場所で調査なんか続けていたら、サーヴァントであるアキト達はともかく、ウェイバーの命が危ない。
彼等は一刻も早く離脱する為、戦車に乗り込んだ。
「生き残った人は・・・?」
戦車に乗り込んだウェイバーが、青い顔して尋ねる。だが、ここには彼の言う『生き残った人』はおらず。代わりに『殺してくれた方がマシの状態』の生きた人間『だった』ものがいるばかりだ。
「こうなれば、殺してやった方が情けってもんだ。安心しろ・・・一瞬で楽にはしてやる」
そう言ってライダーが手綱を握ると、猛牛達は主の感情を代弁するかのようにけたたましく啼いて雷を辺りに散らし始める。
「念入りに頼むぞ・・・灰も残さず焼き尽くせ!」
叱咤を受け、猛牛達は醜悪な工房の中を踏み荒らす。海魔共でも一撃たりとて耐えられない破壊力をもってして、邪悪な造形物を一掃していく。
何度か戦車が踏みつぶしていった後には、そこに何かあったと判別できるものが鼻につく悪臭以外残されなかった。
その光景を眺める事しかできないウェイバーは、やるせない気持ちでいっぱいになる。
生存者を助けられなかったという罪悪感とここを破壊しても結局はキャスター達を止めることはできないという無力感で、見えない鎖に縛られているかのように少年は体に力を入れることができないでいた。
そんなウェイバーの憂いを吹っ飛ばすように、ライダーが彼の頭を乱暴に掴み撫でる。
「こうして根城をブッ潰しておれば、キャスターらは隠れることもできん。あとはそれを追い詰めていけばいいだけの事よ。彼奴らに引導を渡す日もそう遠くはない」
「・・・わかったよ。わかったからもう離せって!」
その屈辱的かつ、かなり物理的に痛い扱いにウェイバーの暗鬱とした感情よりも激昂が勝ったのか、元の調子に戻ってライダーを怒鳴り散らす。
しかし、ライダーがウェイバーを撫でているとふと気づく。御者台の後ろに座っているアキトが何かを口に含んで、黙々と食べている事に。
「なに食べてるのアキト?」
「おん? これだよ、コレ」
彼がそう言って取り出したのは、あの海魔の触手であった。
「ッ!!? おお、お前!!」
「お主・・・なんつーモンを食うておるんだ・・・」
彼が食べていた物の正体を知って、二人はドン引いた。
「いやな、キャスターとの戦闘から目を付けていたんだが・・・魔力が豊富で、意外と美味いぞ。食ってみるか?」
「んなモン食えるかぁあ―――ッ!!」
アキトは吸血鬼だからなのか、『食欲』に関してのベクトルがあらぬ方向を向いている。
この海魔の触手は、元々ノアの研究材料として頼まれていたものであった。が、あんまりにも食欲をそそられたので彼は食べたのであった。
「ま・・・まさか・・・」
アキトの一面に驚きを隠せないウェイバーは、その隣に座っていたシェルスを見る。彼女も吸血鬼だと聞いていたので、もしやと思う。しかし、シェルスはアキトから勧められる触手を拒否していた。
その反応にウェイバーは、少しだけホッと胸を撫でおろした。
「とはいえ、事実辛気臭いところだったわい。今夜は一つ盛大に飲み明かして鬱憤を晴らしたいのぅ」
「・・・言っとくけど、ボクはお前の酒には付き合わないからな」
「いいなそれ。肴は任せとけよ大王」
「でも、その触手は出さないでよアキト? 酒がまずくなるわ」
「なんだよそれ~・・・」
ライダーの一人酒を見ているだけで気分が悪くなるウェイバーだが、他の三人のサーヴァントはザルを通り越してワクの酒飲みである。ライダーの提案にノリノリである。
「どこかに余を心地よく酔わせる河岸はおらんかのぉ・・・」
「ん~・・・あ! なら、良い場所があるぞ大王」
「おお。どこだそれは?」
アキトが、良い事を思いついたと誰が見ても分かる表情で手を打ち鳴らす。
その顔を見て、ウェイバーは嫌な予感に駆られる。しかし、その彼の肩をシェルスが叩いて、語る。
「こういう時は諦めた方がいいわよ」
「そ、そんな~・・・」
ウェイバーは年相応の反応をしたのであった。
←続く
『対界』と『対城』と『対軍』・・・とかとかとか。