アキト「なんか、最初考えた物より・・・」
大丈夫だ。問題ない。
てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・
「おぉ、ジャンヌ! 私の聖女よッ!」
キャスターは身を捩らせながら涙を流していた。目の前には、海魔が団子のように積み固まっている。
「あのような下賤な凡夫風情に貴女の身が傷つけられるのならいっそ私の手で・・・・・と思っておりましたが・・・何という虚無感! 何という喪失感! 私はまた、貴女を救えなかった!!」
そのギョロ目から大粒の雫をボロボロとキャスターは流す。
アキトがセイバーに対して不審な動きをした瞬間にキャスターは本能的に危機を感じ、海魔を襲い掛からせた。
襲い掛からせたまでは良かったが、焦りのあまりか、セイバーまでを海魔はその巨体で覆い尽くしてしまったのだ。
自らの気の動転により、愛する者までも自らの手で壊してしまったキャスターは深い深い悲しみに体を落とす。
「あぁ、そんな・・・セイバー・・・ッ!」
「奥さまッ!」
千里眼で一部始終を見ていたアイリスフィールは余りにもショッキングな出来事によろめき、近くにいた舞弥に体を受け止められる。
「ああ!・・・ジャンヌ、ジャンヌよ・・・どうして・・・一体どうして、また私を置いて行ってしまわれたのですか!!?」
「・・・―――!」
未だ嘆き悲しむキャスターの耳に自分の声とは違う声が聞こえて来た。
キャスターはハッと我に返って、辺りを見回す。しかし、どんなに辺りを見回しても声の正体は何処にも見当たらない。
「―――!」
だが、よくよく耳を澄ませてみるとその声は、あの積もり固まった団子状態の海魔の中から聞こえて来たのだ。
「い、一体・・・なんなのですッ・・・?」
海魔から身を一歩引いたキャスターに今度はハッキリと声が聞こえた。
「『
ドグウォオッ―ンン!!!
「ッッ!!?」
氷のように冷たい低音ヴォイスが聞こえたと思ったら、なんと団子のように固まっていた海魔達が轟音と共に四散爆裂木端微塵となったのだ。
辺りには爆裂した海魔の残骸や体液がボタリボタリと降って来る。
「・・・Ryyy~・・・」
そして、土煙の中から『彼』は現れた。
白亜紀に生息していた翼竜のような『赤黒い翼』を背中に生やし。
ギラギラと油ぎり、鋭い水晶のような『紅い眼』を輝かし。
奥から前のすべてがナイフのように尖った『牙』を嚙み合わせている。
キャスターは知っていた、『彼』が何者なのか知っていた。記憶の底の幼い頃に呼んだ昔話や物語に出て来た恐ろしい『怪物』。化物の中の化物。
「ヴ・・・ヴぁ・・・ッ!!」
その彼の腕の中には薄紅色に顔を染めた金髪蒼眼の少女が気絶したように眠っている。
『彼』は少女を丁寧に優しく地面に寝かせると何処からともなく出した紅い槍を構え、先程少女に刺して指に付いたであろう血を一滴残らず舐めとった。
「さぁキャスター・・・第二ラウンドだ。覚悟は良いか? 俺はできてる・・・!」
「『
覚醒した狂戦士は、狂った魔術師に牙を向けた。
―――――――
その日、ランサー『ディルムッド・オディナ』は自身のマスターである『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』に命じられて、キャスターの散策をしていた。
彼も川の水からキャスターの魔力を辿って、このアインツベルンの森へと赴く。
・・・因みに彼のマスターであるケイネスは昨日、市内のホテル内に作っていた自分の魔術工房を破壊した、セイバーのマスター『衛宮 切嗣』に対して単身で決闘に向かっていた。
そんな事はさて置き、ランサーが森の中を駆けて行くにつれてキャスターの気配が強くなっていく。
そうして、森の中心部の開けた場所に出た時。ランサーは目を疑った。
「KUAAAaa―――!」
「くキヒィい―――ッ!」
血だまりのような結界を地面に刻み、そこから血のように赤い槍やら剣やらを全力で投げつける凶悪な顔をした人物。
その人物からの攻撃を見たこともない醜悪な生物で、奇声を上げながら防御するカエル顔の人物。
この二人ともが尋常ではないオーラを纏っており、二本の槍をどちらに向ければ良いのか迷う。
「あ・・・あれはッ?!」
しかし、ランサーは凶悪な顔をした人物の足元に目がいった。
そこには先日、倉庫街でお互いの武功を称え合ったセイバーが苦しそうに吐息を漏らし、倒れていたのだ。
「おんンン?! なんでお前さんがいるんだよ、ランサー!?」
「えッ? ま、まさかその声はバーサーカーか?!」
なんと凶悪な顔をした人物は、倉庫街に突如として現れた変わり種のバーサーカーだったのだ。
「あぁ、そうだよ! バーサーカーだよ! わかったんなら、ボサッと見てないでとっとと手伝いやがれってんだいッ、色男!!」
「おっ、おう。承知した! ッテやァア―――ッ!」
ランサーは凶悪顔で捲し立てるアキトの威圧に押され、彼の傍に近づこうと目の前の海魔を赤と黄の己の宝具で薙ぎ払った。
「バーサーカー! これは一体どういう状況なんだ?! 目の前の男がキャスターで良いのか? それになんでセイバーが倒れているッ?!」
「喧しい! 一遍に喋るんじゃあねぇよッ」
「また現れましたね吸血鬼の匹夫がぁあ! 貴様らを散滅し、私は聖女を我が物とすぅう!!」
「あぁもう! 来るぞランサー!」
「なんなんだ一体っ!?」
現れたランサーを新たな敵だと認識したキャスターは、先程の倍の海魔を次々と召喚してきた。
なんとも奇運な巡り合わせだ。倉庫街で睨み合っていた二人が、セイバーを後ろにこうして力を合わせて戦っているのだから。
「説明して貰うぞバーサーカー! タァアッ!」
「最初に目の前で奇声を上げてるのが、キャスターだ! 無駄ァ!」
二人は襲い来る海魔を斬り伏せ、突き伏せながら会話をはじめた。
「それはわかった。なら何故、セイバーが倒れている? 毒でも煽られたか、顔を熱で染めて汗ばみ、苦しそうだぞ!」
「それは~・・・アレだ!」
「アレとはなんだ?!」
「あのギョロ目野郎のキャスターが、騎士王に毒をブッカケたんだ!」
「なんだとッ?!!」
なんとこの男、自分がセイバーにやった事をキャスターに擦り付けやがった。
「多勢に無勢で為す術もなくセイバーは・・・・・っく!」
「己ぇ・・・許すまじキャスター!!」
素直なランサーはまんまとアキトの言葉を鵜呑みにし、怒りに振るえた。
「バーサーカー、手を貸してくれッ。キャスターを打倒す!」
「元よりそのつもりでいッ、美丈夫の旦那ァ!」
ランサーとアキトは行動に移った。
まずは猛攻を仕掛けてくる海魔の群れを二人で粉砕する。
「行くぞ『ニコ』!」
『ガウッ』
アキトは自らの体内に潜ませている巨大な狗の使い魔『ニコ』を呼ぶとニコに跨り突き駆けて行く。
「そらそらそら~~~!」
「小癪なぁあッ―――!」
キャスターは自らに向かって来るアキト目掛けて海魔を放つ。
「この瞬間を待っていた! ニコ、急速反転ッ!」
『ワフッ!』
ニコはアキトの言いつけ通り、横に反転する。
「おおぉおぉぉ―――ッ!」
「何っ!?」
反転の反動でニコの尻尾に捕まっていたランサーは、キャスターに向かって一直線に飛んで行く。
ランサーの構える手には、魔力の顕現を断ち切る彼の宝具『
「獲ったり、キャスターっ! 抉れ『
「ひいぃっ!?」
その宝槍でキャスターの宝具『
傷つけられた事で魔力供給は切られ、召喚された異形の化け物達を元の血肉へと戻した。
「貴様ッ! キサマ貴様キサマ貴様キサマキサマキサマァァァ―――ッ!!」
「・・・・・覚悟はいいな、外道・・・!」
最後のあがきなのか、ただ逆上するだけのキャスターにランサーは冷たい眼差しで返す。破魔の魔槍を振りかざし、今まさにキャスターを討たんとした・・・・・その時ッッ!
「なッッ!?」
突如として、槍を振りかざしたランサーの腕が硬直した。
そして、彼の目線は真っすぐにアインツベルン城に向けられる。
「あッ!? バッ―――!」
「クキくゥう―――ッ!!」
何かに気を取られたランサーにこれ幸いとキャスターは、自らの宝具『
彼は召喚魔術では間に合わないと理解しているがゆえに。魔術を完成させる前にわざと失敗させることで辺りの血肉を煙幕代わりに拡散させた。
「ここは退かせて頂く。ですが、次こそはジャンヌを我が手に・・・!」
キャスターは血の煙幕で姿を隠すとそのまま霊体化してしまった。こうされては、探そうにも迂闊な行動がとれず、立ち止まるしかなくなる。そのまま霧が収まるころにはキャスターの姿が消え、追跡が不可能な程に遠くまで逃げてしまっていた。
こうなってしまったら、どうすることもできない
「このスカタンッ! 何やってんだランサー!!?」
「ぐッ!」
アキトは青筋を立てて、ランサーの胸倉を掴む。ランサーは申し訳なさそうに顔を歪めた。
「折角のチャンスを・・・どうして!?」
「済まぬ・・・しかし、我が主殿が!」
「おぉん?」
ランサーは胸倉を掴まれたままに事情を彼に話した。
マスターのケイネスが自分とは別行動で、セイバーのマスターに挑みに行った事。
先程キャスターに止めを刺す際に手を止めたのは、ケイネスが危険な状態に陥った事を感じて動揺した為である亊。それらをランサーは歯噛みをしながら語る。
「・・・ッチ・・・」
「バ、バーサーカー・・・?!」
事情を聞いたアキトは舌打ちをするとランサーを離すと驚くべき事を言い放った。『早く行ってやれ』と。
「貴殿は正気か?!!」
ランサーはあのまま殴られても良かった。キャスターに逃げる隙を与えてしまったのは、自身の責任だ。それにアキトの威圧に押されたとはいえ、自分のマスターが危機に瀕している事を話してしまったのだ。普通なら救出を阻止しようと刃を向けてくる筈だ。それなのにこの男は・・・・・
「正気? 『
「・・・もしや、同情か? それならば―――「違う」―――ッ・・・!」
自らの失態に同情したと感じたランサーに彼はハッキリと口に出して否定した。
「ランサー・・・確かに俺とアンタは、本来なら敵同士だ。が、今この時だけは共にキャスターに立ち向かった『仲間』だ」
「!」
「仲間なら見逃す、見逃さないの話はしないだろう?」
「バーサーカー・・・貴殿は・・・」
ランサーには、アキトの言葉が嘘だとは思えなかった。流石は妖精に育てられた逸話を持つ英雄か、彼の言葉にランサーは一片の虚偽を感じなかった。
「それにアンタが偶然来なけりゃ、あのままキャスターと朝まで膠着状態が続いていたかもしれないからよ~。ま・・・そんな事は置いといてだ。良いからとっとと行きやがれ! あと、ぶっ倒れているセイバーの亊なら気にすんな。俺も倒れた相手に刀を突き刺す程、落ちぶれちゃあいないからよ」
「・・・わかった・・・かたじけない。だが、最後に」
「おん?」
「貴殿の名前を伺いたい」
本来なら、このような質問をサーヴァント相手に尋ねること自体が間違っている。真名を知られるということは、そのまま弱点を知られるようなモノ。彼の問いかけにアキトは一瞬迷ったが、名乗る亊にした。
「さすれば名乗らせて頂く、ディルムッド・オディナよ・・・・・我が名は『暁 アキト』。バーサーカークラスとして召喚された者だ」
「ならばアカツキよ、また逢いまみえる時まで・・・さらば!」
ランサーは短く一礼するとすぐさまアインツベルン城に疾風迅雷の如く侵入していった。
『存外に王も甘いですね』
ランサーが行ってしまった後に朧が人間臭い言葉を吐いた。それに対してアキトは「ヤレヤレ」とため息を漏らす。
「さてと・・・」
ランサーを見送ったアキトは地面に横たわる少女、もといセイバーに近づくと肩を軽く揺する。
「ノックしてもしも~し? 生きてるか~? そんなに血は取ってない・・・筈だぞ~」
「ん・・・んン・・・ッ」
肩を揺らすと少しだけ反応したセイバーに安心すると彼女を抱えて壁際まで移動させる。
セイバーを城壁によからせるとアキトはあらぬ方向に紅い眼を向けた。
「見ているんだろう、アインツベルンのお嬢さん? セイバーなら見ての通り無事だ」
彼の声に一時は倒れそうになりながらも千里眼で事の始終を見ていたアイリスフィールは、安堵に口を手で覆う。
「このままセイバーは寝かせて置くから、なるべく早く回収頼むぞ~!・・・・・って、これで良いか。なら帰ろうかニコ?」
『わフ!』
アキトはそれだけ言うと大きな黒い巨体のニコに跨って、アインツベルンの森を後にする。
森にはまた、静寂な雰囲気が舞い戻った。
←続く
フラグが・・・・・建ったかな?