Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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『とある魔術』だと『魔導士>魔術師』なんだよな~・・・

今回、吸血描写がありますが・・・お気になさらず。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



対魔術師

 

 

 

「WRYyy―――ッ!」

 

「ぬぅうう!!」

 

アインツベルンの森の中、アキトとキャスターはしのぎを削っていた。

 

最初、アキトは自身の得意とする近接戦闘に持っていこうと距離を詰めよう近づく。しかし、キャスターは先程頬を殴られている為に彼から距離を取る。

アキトが一歩寄れば、キャスターは二歩下がる。アキトが三歩寄れば、キャスターは六歩下がる。

これでは収拾がつかず、逃げられてしまうと感じたアキトは近距離戦闘から中距離戦闘であるナイフ投擲に移行した。

 

まず彼は、キャスターの足を止めようと足に向かって力一杯、されど精確にナイフを投げる。手から放れたナイフはおおよそ人の目では確認できない速度で飛び、キャスターの左くるぶしに突き刺さる。

 

 

「うギャぁあ―――ッ!!」

 

またしても悲痛な叫びを上げるキャスターに気を良くしたアキトは、次々とナイフを投げていく。

 

 

「この凡夫風情が、よくもぉお――!」

 

だが、キャスターとてこのままやられる人物ではない。

キャスターはくるぶしから流れる血を周りにまき散らし、懐から人の皮で表紙作られた本を取り出す。その本を開き、一節の呪文を唱えると地面に散らされた血の一滴一滴が何倍も膨れ上がり、形を作っていく。

形作られたモノは、イカのようなタコのような触手が何本も生えており、触手の根元にはイソギンチャクのような不揃いな歯の生えた口がパックリと開いている。その得体の知れない生物が遮蔽物となり、キャスターにナイフが届かない。

 

 

「オイオイオイオイオイ・・・気持ち悪い代物が出て来たなぁ、おい!」

 

『『名状し難き者』・・・ですね。『海魔』なんて名はいかがでしょう?』

 

「『這いよれ』なんとかじゃあないんだからよ・・・」

 

朧の言葉にため息混じりの返答をしながらアキトはナイフを仕舞い、太刀を鞘から抜いて構える。

 

 

「これは我が盟友により託された私の宝具。プレラーティの遺したこの魔道書により、私はこのように魔の軍団を従えることができるようになったのです。凡夫風情には少々、お高いですがね・・・!」

 

アキトに刺された傷口を治癒すると一斉に海魔をけしかけると彼に向って人間の腕ほどの太さのそれが、拘束しようと襲い掛かる。

 

 

「その凡夫風情に手負ったのは、どこのどいつだよ糞ッタレのギョロ目野郎ッ!」

 

アキトは放送禁止ギリギリの用語を並べた悪態をつきながら、自らに襲い掛かる海魔を切断し断裁する。

二体、三体と斬り伏せていくが、倒された先からそれ以上の数の海魔が次々と召喚されていく。

 

 

『GisAyaAッ!』

 

「畜生ッ、これじゃあキリがねぇぞ!」

 

『王よ、私から進言したい事が』

 

「おん?!」

 

不意に朧が喋り始める。アキトはそれを無下にはせずに聞いていく。

 

 

『私の予想と算出データだと海魔は、伯の持っている本がある限り無限に湧き続けると仮定。しかもあれほどに海魔を無尽蔵に召喚できるという事は・・・』

 

「あの本自体が魔力の発生源つー訳だな」

 

『Si。そうです』

 

朧の言う通り、この異形の怪物の群れはあの本がある限り無限に湧き続けることだろう。それにあれほどの海魔を召喚できるという事は、あの書物そのものが魔力炉としての機能を持っていると考えた方が自然だ。

悪い事につまりそれは―――

 

 

「あのギョロ目野郎には『魔力切れ』ってモノが存在しない訳ね、朧ちゃん?」

 

『・・・Si』

 

「OH・・・ド畜生が・・・!」

 

あの怪物を何十、何百と殺したとしても、その残骸から新たな海魔をすぐさま呼び出すだろう。戦力として一人のアキトには圧倒的に不利である。

 

 

「(打開策はあるにはあるが・・・『アレ』、魔力消費が激しいんだよな~。ッチ、こんな事になんなら『血液パック』の一つでも飲んでくるべきだった!)」

 

「さあ、貴方に勝ち目はありません。大人しく我が魔術の供物となりなさい!」

 

心の中で舌打ちするアキトにキャスターは勝ち誇ったように宣告を告げる。

その宣告を聞いたアキトは構えていた刀の刃を下に向けた。

 

 

『王ッ!?』

 

「ほほう・・・」

 

傍から見れば、彼は諦めたようにみえ、キャスターは勝利を確信したように嫌な笑みを浮かべる。

 

 

「なぁ・・・ジル・ド・レェ伯?」

 

アキトがキャスターの真名を呼ぶ。キャスターは笑いを堪えながら「なんですか」と答える。

 

 

「アンタを完全に舐めていた。『キャスター』なんていう看板だけで、アンタを過小評価していたよ。いやはや、申訳ない」

 

彼は深々と首を垂れる。

まさか、先程まで戦っていた敵が自分に頭を下げるとは思っていなっかったキャスターは、少し驚く。しかしキャスターは命乞いの為に自分に謝っているのかと思い、さらに口を歪めた。

 

 

「クふふ・・・良いでしょう。では、貴方が地面に頭をこすりつけながら泣いて『助けてください』と言ったのなら・・・今までの事は水に流してあげましょう。そして、私と共にこの聖杯戦争に挑みましょう」

 

勿論、キャスターに助けるつもりなんてさらさらない。地面に頭をこすりつけた瞬間に海魔をけしかけるつもりだ。

それを聞いたアキトは頭を上げ、口を開く。

 

 

「キャスター・・・頭に乗るんじゃあないッ!!」

 

「!?」

 

その眼は、到底諦めた人物がする目ではなかった。

地面に向けていた刃を突きの型で平行に向け、睨みをきかせる。

 

 

「さっき謝ったのは、俺がアンタにふざけた気持ちで刃を向けていたからだ。それで謝ったんだ。自分のふざけた気持ちを改める為によ~。だから決して・・・決して勝負を諦めた訳じゃあないぞ!」

 

「ならば、勝てるというのですか? この圧倒的に不利な状況を覆せるとでも?!」

 

そう疑問を投げかけるキャスターにアキトはニヤリとほくそ笑む。なんとも悪戯っぽい笑みである。

 

 

「俺は今から『とっておきの策』を使う」

 

「『とっておきの策』?」

 

この状況を覆せる策とは、いかほどのものなのか。キャスターはゴクリと唾を飲む。

 

 

「その『とっておき』にはこの足を使う」

 

「な、なにを・・・・・なにをしようというのですか・・・!?」

 

アキトは自分の足を叩くと再度キャスターを睨みつける。

両者の間に沈黙が流れる。海魔達も周りに流れはじめたシリアスな雰囲気に体を強張せる。

 

そして・・・・・

 

 

「逃げるんだよォオ!!!」

 

「な、なに―――ッ!?」

 

アキトは短く息を吸い込むと体を急反転。そのまま走り出した!

 

 

「しかし、逃げ場はもう塞いであります! 貴方に逃げ場は!」

 

キャスターはこんな事もあろうかと森の外側への道に海魔の軍勢を配置して、防壁を築いていた。

 

 

「カカッ! なら一枚俺の方が上手だったか・・・な―――ッ!」

 

「なッ!?」

 

だがアキトは森の『外』ではなく、さらに森の『中』へと走り出したのだ。

その事に気づいたキャスターは慌てて海魔達を襲い掛からせるが、もう遅い。彼はキャスターに背を向け、全力で森の奥へと駆け出していく。

 

 

『やはりこうなりましたか・・・ヤレヤレ』

 

「うっせい朧! 戦略的撤退だ、戦略的! 命あっての物種よ~!」

 

AIなのに人間臭くため息を漏らす朧にアキトは軽快に喋って走る。

背後から彼を捕らえようとする海魔達が迫りくる。

それをナイフで撃退したり、刀で斬り裂く。左腕の『輻射波動』を使いたいが、エネルギーがまだ溜まっていない。

そうこうしている内にどんどん森の奥へと突き進む。

 

 

「森の反対側から逃げ出そうとしても、我が軍勢はこうしている間に数を増やして森の周りを取り囲んでいっている! 奥に行けば行くほど貴方は追い詰められているですぞ! 何が狙いなのですか貴方は?!」

 

キャスターの言う通り、すでに化け物たちはその数をどんどん増やしていっている。まさに多勢に無勢、しかも中心に行く程にアキトを包囲する数は少なく済む。

だというのに、窮地に立たされていくにも拘らず、彼はなおも森の奥へと駆け抜けていく。

このままいけば、数の暴力で押しつぶせるキャスターの方が有利だというのに、どうして彼は愚直にも奥の方へと駆け抜けていくのか。何か他の策があるのか?

 

 

『!。王よ、前方に障壁を確認!』

 

「やっとかよ・・・広すぎるだろ、この森・・・」

 

アキトの前に突如として壁が現れた。それ以上先へと進むことのできない彼はは立ち止まる。立ち止まるしかなくなる。

やっとアキトを追い詰められたキャスターは、その姿を見て余裕綽綽と嘲りをかける。

 

 

「さあ、どうしますか? これで正真正銘『袋の鼠』と言うやつです。私の軍勢が包囲するまでもなく、このような障害物に退路を阻まれるとは運がないですねぇ」

 

キャスターはクツクツと笑うが、アキトは「ふぅ」と息を吐いて壁に体をよからせる。

 

 

「・・・貴方、自分の状況がわかっているのですか? 今の貴方の状況は正真正銘『袋の鼠』と言うやつです。私の軍勢が包囲するまでもなく、このような障害物に退路を阻まれています。・・・なのに・・・なのに何故・・・そんな『余裕』そうな顔をしているのですか?!!」

 

アキトは不利な状況にも関わらず、ニタニタとキャスターに向けて笑みをこぼしているのだ。

キャスターは、この笑みが気に入らなかった。「まだ、俺はお前より上」だと言わんばかりのこの笑みが気に入らなかった。

だからこそ忘れてはならなかった。目の前の笑う男に気を取られ、最初の目的をキャスターはすっかり忘れていた。『何のためにこの森に来たのか』を。

 

 

「まあ、良いでしょう・・・これで貴方との鬼ごっこも終わりです!」

 

キャスターは宝具である本を開き、臨戦態勢をとる。それを待ってましたとばかりにこの男は口を歪めた。

 

 

「キャスター、次のお前の台詞は・・・『思い知ったか、この凡夫風情が』・・・だ」

 

「思い知ったか、この凡夫風情がッ!!―――はぁッ?」

 

斬ッッッ!

 

その瞬間、二人を取り囲んでいた海魔達が、一瞬で斬り倒されてしまった。

 

 

「―――えっ?」

 

「あ~ヒヤヒヤした。ちっとばっか、出てくるのが遅いんじゃあないのか?」

 

「む・・・感心しませんね。助けてあげたというのに」

 

「悪い悪い。助かったよ」

 

海魔の吹き飛んだ跡に一人の少女が立っていた。金の髪を後ろで束ね、青と銀をベースにした甲冑を纏い、見えざる剣を構えた少女が。

彼女はキャスターから視線をそらさずにアキトに話しかける。

 

 

「あの無垢なる子供たちを救ってくれたことには感謝しますが、先程の貴方の物言いは釈然としませんね」

 

「それは悪かったて言ってるだろう? それに俺はこんなのでも感謝しているんだぜ? 『セイバー』」

 

海魔達ををその一太刀で屠ったのは、目の前の壁であるアインツベルン城から飛び出してきたセイバーだった。

あのまま城から離れた場所で戦っていてもこうしてセイバーが助けに来る事はなかっただろう。

いや、セイバーならば助けに来てくれたかもしれない。しかし、そのマスターがセイバーのような高潔な精神をしているとは限らない。

マスターからすれば、面倒な陣営が勝手につぶれ合ってくれているのだ。共倒れを待つに違いない。誰だってそうする。彼だってそうする。

 

だが、その脅威が自分の傍で起こったらどうなるか。

キャスターは見てのとおり、本があれば無限に異形の怪物を呼び出せる。セイバーの剣ならば敵ではないが、マスターはあくまでただの人間だ。この数の暴力には勝てるわけがない。

今やキャスターは、誰かさんのせいでこの城を中心に海魔で包囲網を作っている。白兵戦に優れたセイバーと言えど、片手だけでマスターをかばいながら戦うのは不可能だ。

 

 

「またまた、やらせて頂きましたァア~ん!」

 

だからこそ、このタイミングならばセイバーはアキトの援軍として来てくれる。彼女のマスターにとっても、キャスターをこのままのさばらせるわけにはいかないのだから。

 

 

「おぉぉジャンヌ! なんと気高いなんと雄々しい聖処女よ! 我が愛にて穢れよっ!我が愛にて堕ちよっ!聖なる乙女よっ!」

 

セイバーの威圧にあてられたキャスターは恐怖も動揺もなく、ただひたすら恍惚の笑みを浮かべて涙を流す。相変わらず感情の起伏の差が激しいサーヴァントだ。

それに呼応してか海魔達がセイバーらに殺到する。

 

 

「はぁああッ!!」

 

「WRYYYYYッ!」

 

その海魔達を次々にバッタバッタと蹴散らしていく。まさにセイバー無双という感じで。

 

 

「く・・・分かってはいたのですが、なんとも不毛な戦いですね・・・ッ!」

 

「アンタの彼氏、強すぎだろ」

 

「なッ!? 違います!!」

 

「おお! ジャンヌぅう―――ッ!」

 

されど倒しても倒してもキリはない。

無双と言ってもあのゲームの様にはいかない。相手の兵力は桁が違う。千でも万でも召喚できる無限の軍勢では、いずれはこちら側が飲まれてしまう。

だが、明らかに先ほどよりはこちらが優勢ではある。ただ、優勢と言うだけで相手を倒すには至らない。

しかもその優劣も一時的なもの、時間が経つにつれてひっくり返されてしまうのは目に見えている。

 

 

「セイバー! あの野郎はあの本がある限りこの魍魎達を召喚し続けられる。このままだとか~な~りマズイ」

 

背中合わせにアキトはセイバーに語り掛ける。

 

 

「ええ・・・実際にその厄介さが身にしみて分かります。バーサーカー、貴方に勝算の策はありますか?」

 

「あるにはある」

 

「! ならそれを!」

 

「だが使えない」

 

「どういう事ですか?」

 

この海魔共に囲まれた状況だからこそ覆せる宝具をアキトは持っている。しかし、それには魔力がいる。

 

 

「でも、ただの偵察気分で来たものだから魔力をそんなに持ってない!」

 

「バカですか貴方は?! 英霊たるもの常に不足の事態に―――」

 

「わかってるよ! 嫌と言う程な! でも今そんな事言ってもしょうがないだろう!!」

 

喚く二人に海魔の猛攻が続く。徐々に徐々にだが、二人は追い詰められていく。このままでは惨劇はまぬがれない。

 

 

「ハァ、ハァ・・・しょうがありませんね・・・バーサーカー!」

 

「おん、どうしたよセイバー?」

 

「私から魔力を受け取りなさい」

 

「・・・・・ハぁあアアァ?!!」

 

セイバーからの提案にアキトは心底驚嘆する。

 

 

「アンタ、正気かよセイバー?!!」

 

「無論です」

 

セイバーはこの時、ある事を思い出していた。

あのコミュニケーションをとってくれない自分のマスターからアイリスフィールを通して、アキトのスキルを聞いていたのだ。

 

 

「『吸血』と言いましたね、貴方のスキルは。それで私から魔力を―――」

 

「バカ言ってんじゃあないぞ! 今は一緒に戦っているが、俺とアンタは敵同士なんだぞ! わかってんのか?!」

 

「わかっています!」

 

「ッ!」

 

セイバーはアキトの眼を見通す。

その彼女の蒼い眼からは確かな『覚悟』があった。

 

 

「このままでは私達は共倒れです。ならば、ここはバーサーカー。貴方の勝算の策に賭けます!」

 

「なんで・・・」

 

「はい?」

 

「なんでそんな事言えるんだよ?」

 

アキトの当たり前な疑問にセイバーはキョトンと首を傾げると理由を述べた。

 

 

「いえ、自分の身の危険も顧みず、子供たちを救うような人物が信用に足らない人には到底思えないと。ただのそれだけです。言うなれば、『王の勘』というヤツでしょうか」

 

「・・・・・カカカ♪」

 

セイバーの理由を聞いて、彼は少し沈黙したが、すぐにケラケラと笑い出した。

 

 

「な、なにがおかしいのですか?!」

 

「いや、なに。そうだった・・・そうだったよ・・・・・アンタにはそんな天然な所があったんだよな~・・・すっかり忘れていたよ」

 

「・・・え?」

 

セイバーはアキトの言ったことを聞き返そうとしたが、その前に彼はセイバーの後ろに回った。

 

 

「な、なにを・・・!?」

 

海魔をけしかけていたキャスターがアキトの行動を不審に思い、攻撃の手を緩めた。

 

 

「バ、バーサーカー・・・?!」

 

アキトはセイバーの首に手を回し、軽く抱きしめた体勢になる。

 

 

「―――!? や、やめろぉお―――ッ!!」

 

アキトの意図に気づいたキャスターは制止の声を上げながら海魔をけしかける。だが、もう遅い。

 

 

「恨むなよ・・・セイバー!」

 

「勿論です」

 

確認の言質が取れたのか。アキトはセイバーの白い柔肌に指を当て、それを頸動脈に向かって深く突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





・・・どうしてこうなった・・・?


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