Fate/Diplomat   作:rainバレルーk

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Fateでは、あまり知られてない偉人も出るから知識が増える。

特に世界史からが多い。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・




仮説と行動

 

 

 

グツグツグツ・・・・・

 

「『キャスター』の討伐・・・ねぇ・・・」

 

聖杯戦争の監督側から使い魔越しに伝えられた聖杯戦争のルール変更。

その内容を口ずさみながら作務衣姿のバーサーカーことアキトは鍋の準備をしている。土鍋の中身はトマトをふんだんに使ったトマト鍋だ。

 

 

「な~に悩んでるの?」

 

「おん?」

 

悩ましい顔で調理している彼に声をかけたのはシェルスだ。その手には中身が半分減ったビール瓶を持っている。

 

 

「悩んでる? 俺が悩んでるって?」

 

「あら、違うの?」

 

「・・・Si、その通りだよ。君は何でもわかるね」

 

「フフ♪ 何でもはわからないわ、わかる事だけよ」

 

そうして彼女はアキトに薄紅色の笑顔をむけた。

・・・・・こんなイチャつく二人は放っておいて、ルール変更の概要を説明しよう。

 

今回、討伐対象となったサーヴァントの名は『ジル・ド・レェ』。

かのヨーロッパ中世の『百年戦争』において、聖女『ジャンヌ・ダルク』と共に祖国フランスを救った英雄だ。

だが、救国の英雄であると同時に晩年は錬金術や魔術にのめり込み、何百人もの子供を惨殺した殺人鬼でもある。

そんな常軌を逸した状態で召喚された者が大人しくしている筈もなく、召喚されたと思われる日から連続児童誘拐殺人事件が多数発生していたのだ。

 

監督側が提示したルールは互いの陣営は一時休戦し、キャスターを一丸となって討伐せよという内容だった。

そして、見事キャスターを討ち取った時には、単独で成し遂げたなら達成者に。他者と共闘しての成果であれば事に当たった者達に全員集合時に一つずつ寄贈するとの事だ。

 

 

「そのルールなら私達は有利ね。もともと共闘してるんだから、私達の陣営に二画ずつ手に入ることになるわ」

 

「そうなんだけど・・・疑問があるんだ」

 

「え?」

 

アキトの疑問というのは『何故、監督側がキャスターの正体を知っているのか』だ。

『戦争の監督だからキャスターの正体を知っている』と言われれば、そこでおしまいだ。しかし、それに対してこの男は・・・・・

 

 

「それが引っかかる。ど~にもこ~にも引っかかる。例えれば、鯵の干物を食った時に小骨が喉に引っかかるみたいによぉ~」

 

納得していなかった。

 

 

「でもそんな事言ったって、どうしようもないじゃあないの」

 

「そこで、俺は自分を『納得』させる為に一つの『仮説』を立てた。聞きたい?」

 

「まあね」

 

シェルスの返事を聞くとアキトは口を三日月に歪めて意気揚々と答える。

 

 

「『アサシン』は実は生きていて、そのマスターが監督側にいる』」

 

「・・・Was(なんですって)?」

 

突拍子もないアキトの仮説にシェルスはつい母国語(ドイツ語)で反応した。

 

 

「・・・なんだよその反応・・・ちょっと傷ついちまうぜ」

 

「あ・・・ごめんごめん。でもアサシンはあの金ぴか王に倒されて、『脱落』したんじゃあないの?」

 

シェルスの言う通り、アサシンはあのサーヴァント集結戦前にアーチャーによって倒されている。ウェイバーもその状況を使い魔を通して見ていたという証言をアキトは聞いていた。

 

 

「それでもアサシンでないとキャスターの真名なんてわかりゃあしないだろう」

 

「そうだけど・・・」

 

アサシンはその名に相応しく、ステータスが他のサーヴァントに比べて低い代わりに『暗殺』や『偵察』を得意としている。その為にやろうと思えば、キャスターの真名を明らかにする事など造作もない。

 

 

「それに・・・それにだ」

 

「まだあるの?」

 

彼がこの『アサシン存命説』を確固たる物として決定づけた内容を彼女に話す。

 

 

「俺達にルール変更を伝えた監督側の責任者の名は・・・『言峰 璃正』だ」

 

「『言峰 璃正』?・・・・・え! 『言峰』・・・?!」

 

その責任者の名前を聞いて、シェルスの脳内で一人の人物が浮かび上がった。

 

 

「俺の推理が正しければ、『あの男』がアサシンのマスターだろう」

 

「アキト・・・それは・・・!」

 

「有り得ない話じゃあないぜ。実際に俺達はこの眼で、『青セイバー』や『AUO』を見ているんだからよぉ~・・・もし、この世界が『Stay night』の10年前の世界だとしたら・・・・・『いる』んじゃあないか?」

 

ニヤリとほくそ笑むアキトの言葉にシェルスのビールでのほろ酔い気分は月までぶっ飛んだように醒めた。

・・・・・しかし、ここで新たな疑問が浮かんだ。

 

 

「アキト・・・ならどうしてただでさえ表に出られないアサシンが、他の陣営に有利になるようなことをするの?」

 

「おん、それはな・・・・・あ・・・!」

 

アキトは問いかけの答えを切って、鍋を見つめた。

 

 

「ど、どうしたのアキト?」

 

「話に夢中で鍋が沸騰して来ちまった。これ以上、火を通したら美味しくなくなっちまうよ」

 

「あららッ!?」

 

シリアスから一変、あっけらかんとしたアキトにシェルスは体制を崩す。

そうしていると居間の方から雁夜がやって来た。

 

 

「美味そうな匂いだなバーサーカー」

 

「おん、マスター。鍋が出来たから持っていくよ。ライダー達はどうしてる?」

 

「あぁ・・・それなんだが・・・」

 

ルール変更を聞いた後、ライダー達はそのまま間桐家に泊まる流れとなり、居間でドン達と飲んでいた。

ライダーは現界後初めての酒を大いに喜び、馬のあったドンと大騒ぎしているのであった。

 

 

「酒を飲んでご機嫌になったライダーとドン達で収集がつかなくなっているよ」

 

「オイオイオイ・・・隣でウェイバーがため息つきながら怒鳴り散らしている光景が浮かぶぜ」

 

「まさにその通りだよ・・・フッ、こんなに騒がしのは初めてだ・・・」

 

困ったようにされど、どこか嬉しそうに雁夜は鼻息をたてる。

 

 

「そういえばカリヤ、桜はどうしたの? さっき部屋に呼びに行ったのだけれど?」

 

「桜ちゃんなら居間でロレンツォさんと遊んでいるよ。」

 

「そう。ホント、ロレンツォは手慣れてるわよね・・・」

 

「伊達に麻袋を被っている人じゃあないからな」

 

「それ・・・関係あるのか?」

 

「さて、飯にしようぜ。シェルス、ちゃっちゃとそのビール飲み干して、取り皿を頼む」

 

「Jaー。了解了解っと」

 

「あ・・・流した・・・」

 

雁夜の素朴な疑問をスルーした二人は完成した土鍋を持って居間へと運んで行った。

 

居間には一升瓶を持ち、ほろ酔い気分で高笑いをするライダー。彼と共に独特な声で笑うヤギ、もといドン。そんな彼らを眉間に皺を寄せてウェイバーは怒鳴るが、ライダーのデコピンで沈黙させられる。

その様子を炬燵にあたって見ながら、桜とロレンツォは折り紙を折っていた。

 

 

「馬鹿騒ぎもそこまでだ、野郎共!」

 

『『『!』』』

 

居間にいる全員が美味そうな匂いをたてる土鍋を持ったアキトに釘づけとなる。

 

 

「ちゃっちゃと片付けて、晩飯にするぞ!」

 

その声に皆が反応し、いそいそと酒瓶やら画用紙やらを片付けていく。どうやら、この男の作る料理に皆の胃袋は鷲掴みされているようだ。

あのライダーでさえ、アキトの料理にウキウキしている。

 

それから「いただきます!」の号令から始まった夕飯で、ライダーの「美味い、美味すぎるッ!」の歓声が響く。最初は鍋を警戒していたウェイバーも雁夜からの勧めで口に運び、ニンマリと頬を崩した。

眼にハイライトがない桜も料理を食べる事で、どこか表情が柔らかい。

 

土鍋の中身はドンドン無くなっていき、最後は汁だけになってしまう。

しかし、これで終わりではない。ここから『鍋の〆戦争』がはじまるのだ。

 

アキトは鍋の〆は『おじや』を考えていた。しかし、ドンは『うどん』だった。

最初、両者は牽制しあうように探りを入れていた。だが、ドンにそそのかされたライダーが『うどん派』陣営に加わった事で事態は急転する。

 

互いに互い『おじや』が良いか、『うどん』が良いかで言い争いになり、一歩も引かなくなってしまったのだ。

ドドド・・・と不穏な空気が立ち込めてくる。

雁夜とウェイバーがアワアワとしていると今までの様子を見ていた意外な人物が口を開けた。

 

 

「・・・おもちが良い」

 

『『『!?』』』

 

ゴゴゴ・・・と『スゴ味』を出して、発言したのは桜であった。

普通ならここで『おじや派』vs『うどん派』vs『おもち派』に別れるが、桜が言うならしょうがないとアキト達は諦め、ライダーは幼いながらも自分に意見した事を気に入り、このしょうもない戦いの勝者は桜となった。

 

それと・・・〆のモチは結構な好評であった。

 

 

 

「WRYyy・・・食った食った」

 

「うむ。実に美味なる料理であったぞ、バーサーカー」

 

夕飯が済むと皆にロレンツォ特製の昆布茶が振る舞われ、団欒とした時が流れる。

桜はお腹が一杯になったのか、シェルスの腕の中で寝息をたてている。

 

 

「くぅ・・・くぅ・・・」

 

「URyy、温いわ。炬燵と子供体温・・・・・あ! アキト、さっきの話なんだけど・・・」

 

「おん?」

 

「なんだなんだ?」

 

その団欒の時間にシェルスが話の続きを求める。

話の内容が気になったのか、ライダーやウェイバー、雁夜が話に食い付いて来る。そんな彼らにアキトは自分の立てた仮設『アサシン存命説』等を最初から聞かせた。

そして、話の続きである『何故、他の陣営に有利になるようなことをするのか?』という議題に入る。

 

 

「まぁ、これも俺の推測の域を出ない机上の空論なんだが・・・」

 

「勿体ぶらずにいうであろー」

 

「その通りだバーサーカー」

 

勿体ぶるアキトにドンとライダーがブーイングする。

 

 

「わかったわかった、言うよ。・・・・・恐らくだが、アサシンは他の陣営と裏で手を組んでいるんじゃあないのかな? そして、手を組んでいる陣営は・・・アーチャーだろう」

 

「「なんだって?!」」

 

彼の言葉にウェイバーは驚愕の色を、雁夜は憎しみの色を露わにする。

 

 

「なるほどのぉ・・・確かにアーチャーがアサシンと手を組んでおれば、アサシン脱落を偽装し、情報収集の斥候に使えるものな。いやはや、アーチャーのマスターは何と頭の回るヤツよのぉ!」

 

「バカ! 感心してる場合かよ! バーサーカーの言う事が本当なら、聖杯戦争の監督役とこの土地の管理者が協力し合ってるってことになるんだぞッ!」

 

ウェイバーの言う通り、アキトの仮説が立証されれば、この戦争は一種の出来レースに近い。監督役とは、言うなれば聖杯戦争の審判役のようなものだ。そんな監督役が味方にいるなんて、アーチャー陣営が有利にも程があるのだ。

 

 

「しかも、アサシンが生きてるって事はキャスターの工房の場所やそのマスターの顔と名前も知っているって事になるだろうよ」

 

「そんな・・・」

 

自分達が戦っている間にアサシンは気兼ねなく情報収集ができるのだ。もうキャスターの情報はほとんどすべて割り出していると考えた方がいい。そしてそれは、自分たちがアサシンに監視されているということにもなる。

キャスター討伐に目がいって、背後から暗殺されたって不思議ではない。

 

 

「・・・バーサーカー・・・?」

 

「おん?」

 

「カリヤさん・・・?」

 

アキトに声をかけたのは苦虫を噛み潰したような顔をする雁夜であった。顔にはヒビが入って来ている。

 

 

「お前の話で、時臣が俺達よりも有利な事はわかった・・・でもどうして・・・・・そこまで分かってるんだったら時臣のヤツはなんで静観なんてしてるんだよ? 何の関係もない子供たちが殺されてるんだぞ。アサシンでも差し向ければやれるだろ?」

 

静かな怒りを顕にしながら、アキトに問いを投げかける。

 

 

「んなもん決まってるだろう。隠していたアサシンを出したら、他のヤツらにバレちまうからだよ」

 

「それでも・・・アイツは冬木の管理者なんだぞ・・・!」

 

フツフツと湧き上がる苛立ちに拳を振るわせる雁夜に対して、アキトは真剣な面持ちで答える。

 

 

「なぁマスター。アンタが敵視している遠坂 時臣ってヤツは・・・目的の為なら手段を択ばない『魔術師』なんだぜ?」

 

「・・・ッ・・・・・糞・・・!」

 

「カリヤさん・・・」

 

雁夜は魔術師のこういうところが気に食わない。魔術のためなら一般人に犠牲が出ようと構わないとするその精神が理解できない。

 

 

「だが、最初に言ったようにこれはあくまで仮説だ。気にするような事じゃあない」

 

「でも・・・」

 

「カリヤよ」

 

苛立ちを隠せない雁夜にドンが声をかけた。ドンは真っすぐに雁夜を見つめる。

 

 

「ドン・・・?」

 

「お主が不安や怒りに駆られる心中はわかる。だからこそ、その力でキャスターとやらを倒すであろー」

 

「ドン・・・!」

 

「フッ、お主にはこの『ドン・ヴァレンティーノ』が率いるヴァレンティーノファミリーがついているであろーッ!」

 

「ドンっ!」

 

ドンに手を握られた雁夜は不思議と落ち着いていく。

これもドンが持つスキルのおかげなのか、それとも単に雁夜がドンにキャラを染められているだけなのか・・・そんな事は今はどうでもいい。

 

 

「うむ、そうと決まればキャスターに対しての戦略を練ろうではないか。案がある者はおるか?」

 

「それなんだけど・・・僕からいいかな?」

 

「おん?」

 

ライダーの言葉にウェイバーが躊躇いがちに手を上げた。

 

 

「どうした小僧? 貴様から何か言いだすとは珍しいではないか」

 

皆は珍しそうにウェイバーの声に耳を傾ける。

 

 

「もしかしたら・・・キャスターの工房がどこにあるのか分かるかもしれない」

 

『『『・・・なにィイッ!!?』』』

 

「うわッ!?」

 

彼の言葉に皆が体を前のめりにする。アキトやライダーはウェイバーの眼前まで顔を突き出し、肩を掴む。

 

 

「本当か小僧!?」

 

「ホントにマジでtruly?!!」

 

「本当だよ! だから顔を近づけるな! 怖いからッ!!」

 

キャスターの根城が分かるのなら、それはもう大金星どころの話ではない。だから全員が驚いたのだが、そこまで反応されるとは思っていなかったウェイバーは居心地が悪そうに話を続ける。

 

 

「監督役が言っていただろ、『キャスターは魔術の痕跡を平然と残している』ってさ。だからその魔術の痕跡をたどっていけば、キャスターの工房に繋がってるはずだ」

 

『『『おお~~~!』』』

 

「い、いや・・・そこまで・・・・・///」

 

ウェイバーの話に感嘆の声を上げると彼は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

 

「それで、どうやって探すんですか?」

 

「一番簡単なのは川の水を調べることかな。この街はど真ん中に流水があるんだし、本当に何も細工していないならそれを調べるだけで大まかな場所は特定できる」

 

『『『おおぉ~~~!』』』

 

「ま、魔術としては基礎的なことだよ。褒められるようなことじゃない///」

 

慣れない素直な称賛の声にウェイバーの顔は益々赤みを帯びていく。

 

 

「ならば善は急げだ。『朧』!」

 

『御意に』

 

「え、ちょッ、バーサーカー?! てか、その声はどこから・・・?」

 

炬燵から立ち上がり、アキトは作務衣からIS『朧』を纏う。

 

 

「そうだなバーサーカーよ! 兵は迅速を尊ぶと言うしのお!!」

 

ライダーも呼応するように緋色の礼装に身を包む。

 

 

「これから夜へ繰り出すぜッ! 行くぞ、マスターにウェイバー!!」

 

「えぇッ!? ぼ、僕もなのか?!!」

 

「やれやれ・・・こうなったら止まらないな・・・」

 

ウェイバーは驚くが、雁夜はため息を漏らしながら頷く。

 

 

「大王、足の方は頼んだぜ!」

 

「任せおけ!」

 

ライダーは居間に通じる縁側先の庭に出ると腰に差していた『キュプリオトの剣』で空間を斬る。その斬られた空間の裂けめから猛々しい二頭の牛に牽かれた戦車が現れた。

 

 

「『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』ッッ!!!」

 

「それじゃあ・・・行ってきまぁ―――す!!」

 

ライダーとアキトはそれぞれ担いだ雁夜とウェイバー共に戦車に乗ると夜空へと駆けて行った。

 

 

 

「うわぁあぁあああああ――――――ッ!!!」

 

ウェイバーの絶叫が夜空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





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