摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について   作:ミカヅキ

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お待たせしました!更新です。
本編でなくてすみません。
今回はジャスミンがトリップした直後の地球sideです。


閑話5 その頃地球は…

 ――――――時はしばし(さかのぼ)る。ジャスミンが異なる世界へと跳ばされたまさにその時、父であるヤムチャは激しい胸騒(むなさわ)ぎを感じていた。

 長い撮影期間が(ようや)く終わり、次の作品がクランク・インするまでの1ヵ月間、(つか)の間の休暇を楽しんでいたヤムチャは、その日(めずら)しくも自宅のリビングにいた。

 ソファで(くつろ)ぎながら、ちょうどテレビで放送していたプロ野球の、贔屓(ひいき)チームのデイゲームを観戦しながらビールを飲んでいたヤムチャだったが、不意に(うなじ)産毛(うぶげ)が逆立つような感覚と共に激しい胸騒(むなさわ)ぎを感じ取る。

「………!」

 ゴトン…!

 (にぶ)い音を立ててジョッキが倒れ、(こぼ)れたビールがツマミのサラミを()らすが、生憎(あいにく)それに構っている余裕は無かった。

「わ?!何してるんです、ヤムチャ様!!」

 隣で同じくデイゲームを観戦していたプーアルが、ジョッキの倒れる音でテーブル中をびしょびしょにしているビールに気付き、(あわ)てて布巾(ふきん)で床に(こぼ)れるのを防ぐ。

 しかし、普段ならすぐに自分も片付けようと動く主人(ヤムチャ)が全く動こうとしないのに(いぶか)し気に振り返る。

「ヤムチャ様?ど、どうしたんですか?!」

 見れば、青白い顔で虚空(こくう)を見詰め、呆然(ぼうぜん)としているようだ。

「ジャスミン…?」

 何かを確かめるように呟かれたのは、主人(ヤムチャ)の愛娘の名前である。

「ジャスミン様がどうかなさったんですか?」

 この様子は只事(ただごと)では無い。

 プーアルの言葉に、ヤムチャが(はじ)かれたようにポケットを探ってスマホを手に取る。

 そして、ジャスミンの番号を呼び出し始めた。

『お呼びした番号に応答がありません。電波の入らない所にいるか、電話機本体が故障していると考えられます。』

 呼び出しを始めた(わず)か数秒後に、ガイドアプリのアナウンスが流れる。

「え?」

 それを聞いたプーアルが首を(かし)げた。この科学が発達した世の中、電波の全く入らない場所など地球上にほぼ存在しない。何しろ、アンテナは人工衛星として打ち上げられているのだから。例外は海や湖などの水中ぐらいだろうが、ほんの10分程前にジャスミン自身からヤムチャに連絡が入っている。最後のドラゴンボールを手に入れたからもうすぐ帰る、と。今更水中にいる意味が分からない。

「最後まで潜水飛行艇のモニターをされながらお帰りになるつもりなんでしょうか?」

 律儀(りちぎ)なジャスミンならその可能性もある、とプーアルがヤムチャに話しかけるが、ヤムチャが(なか)呆然(ぼうぜん)としたまま(かぶり)を振る。

「いや、違う…。」

「違うって…。まさか、スマホを壊してしまったという事ですか?」

 確かあれは、去年のジャスミンの誕生日にヤムチャが贈った最新モデルで、ブルマの改造によってかなりタフな仕上がりになっている(はず)だが…。

 (なお)首を(かし)げるプーアルをよそに、ヤムチャが更にスマホを操作する。

『GPSを起動。追跡対象者の現在地を探知します。』

 西の都の17歳以下の子どもは、GPS機能付きの携帯電話の所持・携帯が条例によって義務付けられている。大都市であるが故に犯罪も多く、未成年者がそれに巻き込まれる事例が多発した事から、10年程前に制定された。親の目が離れやすくなる就学から、高校2年生までのおよそ10年間は例外無くその条例の対象となり、保護者は常に子どもの居場所を把握しておくのが義務となっているのである。17歳以下の子どもに限り、15分置きに自身の居場所を発信させる特殊なアプリのダウンロードが義務付けられている。保護者はそのアプリと連動している探知アプリをダウンロードしており、それによって保護者はいつでも自身の子どもがどこにいるのかを把握する事が出来るのだ。

 それはジャスミンも例外では無い。仮にスマホ本体が壊れてしまっていたとしても、その直前にどこにいたのかは記録されている。

『追跡対象者を探知出来ませんでした。7分前の位置情報を表示します。』

 ものの10秒程で表示されたのは、先程電話でジャスミン自身の口から伝えられていた骨董品(こっとうひん)店。場所は東の都からおよそ20kmの小さな町だった。どんなに急いでも1時間はかかってしまう。

 (はや)る気持ちのままに、ソファから立ち上がり、プーアルに呼びかける。

「プーアル!出かけるぞ!!」

 鬼気(きき)(せま)る表情のヤムチャにぎょっとしつつ、プーアルが尋ねる。

「えっ?ど、どこにですか?」

「ジャスミンの所だ!!」

「ま、待ってください、ヤムチャ様!!!」

 上着を引っ(つか)みながら叫んだヤムチャが窓から飛び出してしまい、プーアルも(あわ)てて追いかけようとするが、既にヤムチャの姿は無かった。

 

 ━東の都から10km地点の町━

「っここか……!!」

 スマホを見ながら店を探していたヤムチャが、スタッ!と店の前に降り立つ。

「ジャスミン!どこだ?!」

 バンッ!

 勢いのあまり扉がけたたましい音を立てる。本来なら店中の人間の注目を集めて当然の行動だったが、そうはならなかった。

「っこれは…!」

 店内には商品だったらしい品物が散乱し、人1人存在しなかったからである。

 まるで店内で大風が吹き荒れたように棚の中身は全て落ち、陶器やガラス類は全て壊れている。

 そしてその中、散乱する骨董品(こっとうひん)の中に(まぎ)れるように落ちていた物…。

「ジャスミンの髪紐(かみひも)の……。」

 2つに割れてしまった、直径2cm程の翡翠(ひすい)(たま)だった。ジャスミンが気に入り、良く使っていたそれは、チチが娘時代に使っていたのを譲ってもらったもので、髪紐(かみひも)の両端に小さいが上等の翡翠(ひすい)が飾りとして使われていたものだ。

 翡翠(ひすい)自体に細やかな蝶の彫刻が(ほどこ)された()()は、ジャスミンの使っていた髪紐(かみひも)のものに間違い無かった。

 

 ━カプセルコーポレーション本社兼自宅━

 スタッ…!!

 ブルマが社長を務めるカプセルコーポレーションの本社前に降り立ったヤムチャは、その勢いのまま受付に詰め寄る。

「至急、ブルマ社長をお願いします!急ぎの要件です!!」

「ア、アポイントメントはおありでしょうか…?」

 ヤムチャのあまりの勢いに若干気圧(けお)されながらも受付嬢が職務を全うする為に確認を取る。

「いや、約束はしてないが、ヤムチャが来たと言ってもらえれば分かる(はず)です!!」

「は、はぁ…。しかし、アポイントメントの無い方は規定上お繋ぎ出来ないようになっておりまして…。」

「娘が危ないかもしれないんだ!早くブルマと連絡を取らないと……!!」

「そ、そう言われましても………。」

 狼狽(ろうばい)し切った受付嬢がフロアの(すみ)(ひか)えていた警備員に目配せしようとした時だった。

「あれ?ヤムチャさん?どうしたんですか?」

「!」

「ト、トランクス(ぼっ)ちゃま!」

 カプセルコーポレーションの御曹司(おんぞうし)、ヤムチャも彼が赤ん坊の時から良く知っている青年‐トランクスだった。

 次期社長として既にブルマの仕事を手伝っている彼は、長期休みの時には日中はほぼ本社に入り(びた)りとなる。この日も例外では無く、朝から本社の研究室に詰めており、休憩して軽食でも買いに行こうと入口まで降りてきたのである。

 来てみれば何やら受付付近が騒がしく、よくよく見てみれば幼い頃から良く見知っている相手(ヤムチャ)だった、という訳だ。

「頼む、トランクス!至急ブルマに繋いでくれ!!」

「はい?」

 渡りに船、と言わんばかりに自分に詰め寄ってきたヤムチャに、思わずトランクスが()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

「ドラゴンレーダーがもう1つ必要なんだ!頼む……!!」

「ドラゴンレーダーが必要って…。確かジャスミンが持ってる(はず)ですよね?」

 突然のヤムチャの申し出に、トランクスが困惑した様子を見せるが、次のヤムチャの一言で全てが吹っ飛んだ。

「ジャスミンが行方(ゆくえ)不明なんだ……!!!」

行方(ゆくえ)不明…?どういう事ですか……?」

 ただならぬ様子に、トランクスの顔つきも変わる。

「連絡が取れない…。それだけじゃない、GPSでも探知出来ないようになっているし、何よりあの子(ジャスミン)の“気”を全く感じないんだ………!!!」

「!!」

 その言葉に、トランクスも意識を集中させてジャスミンの“気”を探す。普段なら、いくら一般人程度まで抑えていたとしてもすぐに発見出来る程に馴染(なじ)んでいる(はず)の“気”が全く感じられない。

「っ確かに…!何でも無いのにアイツが“気”を消すなんてこれまで無かったし…。連絡も取れないとなると……。」

 妹分(ジャスミン)の性格上、悪戯(いたずら)に周囲を心配させるような真似(まね)は絶対にしない。例えスマホの電源を落としていたとしても、GPSの探知システムに支障は無い(はず)である。

「さっきから、嫌な予感がするんだ…!2度とあの子(ジャスミン)()えないような、そんな予感が……!!」

 ヤムチャの顔色は青を通り越して白い。

「ジャスミンはドラゴンボールを集めていた…。最後の1つを見付けたから、今日中に帰ると言っていたんだ…!頼む、ドラゴンレーダーでジャスミンを見付けてくれ!!」

「っわかりました!ママなら、今の時間は社長室で書類に目を通している(はず)です。すぐに行きましょう。」

 必死の嘆願(たんがん)に、否応(いやおう)無しに事の深刻さが伝わってくる。事態を把握(はあく)したトランクスの行動は素早かった。

 すぐさま(きびす)を返し、今さっき自身が降りてきたばかりの役員専用エレベーターにヤムチャを(いざな)ったのである。

 

 それからは()()()()()()の1日となった。あれからブルマにドラゴンレーダーの予備があるか尋ねたものの、特殊な部品を使っているが(ゆえ)に現存するのはジャスミンが借り受けている1台きり。また、その部品の希少さもあってすぐに代わりを用意出来る(はず)も無く。

 ならば、とジャスミンのスマホの現在地を何とか突き止めようとしたものの、カプセルコーポレーションの技術をもってしても、ジャスミンの行方(ゆくえ)を探す事は出来なかった。

 そして、行き詰まった彼らは最後の切り札に頼る事となる。

 最後の切り札、(すなわ)ち―――――。

 “困った時の占いババ”、彼女の力に頼ったのだ。

 しかし、100発100中の彼女の占いを持ってしても、ジャスミンの行方(ゆくえ)を正確に(つか)む事は出来なかった。

 唯一(ゆいいつ)分かったのは、ジャスミンは天文学的な確率で発生する“時空乱流(じくうらんりゅう)”に巻き込まれ、ここでは無い世界に跳ばされた可能性がある事。恐らくはドラゴンボールも一緒だろう、という事だけだった。

 ただし、どこに跳ばされたのか、別の惑星かはたまた全く異なる宇宙なのか、それは全くの不明。また、運が悪ければ出口に辿(たど)り着く事は出来ず、永遠に“亜空間(あくうかん)”を彷徨(さまよ)う事になる、とまで言われヤムチャはショックのあまりに卒倒(そっとう)してしまった程だった。

「ヤムチャさん!?しっかり!!!」

 同行していたトランクスが(あわ)てて崩れ落ちたヤムチャの体を支える。

「だ、大丈夫かの?」

 説明した張本人である占いババも思わず心配する程のショックの受け方だった。

 同じく同行し占いババの話を聞いていたブルマも、幼い頃から娘同然に可愛がっていた少女に起こった事態に思わず気が遠くなったが、地球一の才媛(さいえん)流石(さすが)に冷静だった。

「トランクス!一旦帰るわよ!!」

 入口に向けて(きびす)を返しながら、トランクスに指示を出す。

「え?!わ、分かった。」

 自身も動揺(どうよう)を隠せないトランクスがヤムチャを(かつ)ぎ上げながらブルマに答える。

「これからどうするつもりだい?頼みの綱のドラゴンボールも無いんじゃ、探しようが無かろう?」

 占いババの言葉に、ブルマがピタリと足を止めた。

「ドラゴンボールならあるわよ。…ナメック星のがね!!」

 自信たっぷりに言い放たれたブルマの言葉に、トランクスと占いババも(きょ)()かれたように動きを止める。

「あ!」

「おぉ!その手があったか…!」

 感心したように納得する占いババに、ブルマも頷いてみせた。

「そういう事。という訳でトランクス!さっさと帰るわよ!!…それから、あんたはヤムチャを部屋に寝かせたら急いで(そん)くんを探して連れて来てちょうだい!!」

「え?悟空さんを?何で?」

「バカね。ナメック星に行くには(そん)くんの瞬間移動しか無いでしょ?ナメック星の座標(ざひょう)何か知らないわよ。それに、もし知っていたとしてもこれからすぐに使える宇宙船を準備するのは時間がかかるわ。一刻も早くジャスミンちゃんを保護しないと…。」

「た、確かに…。」

 一瞬疑問に思ったものの、説明されればなるほど(もっと)もである。

「分かったらとっととダッシュ!ジャスミンちゃんが危ないかもしれないのよ!!」

「はいっ!!!」

 ブルマの号令に、(あわ)ててヤムチャを(かつ)いだままトランクスが走った。

 

 ――――――――その後、悟空を探し当てたトランクスが(いま)だ意識を失ったままのヤムチャの代わりにナメック星へと同行し、ナメック星人たちの協力を得てポルンガを()び出したものの、その結果は求めていたものにはならなかった。

 ナメック星のポルンガの力を持ってしても、ジャスミンと地球のドラゴンボールを()び戻す事は叶わなかったからである。

 しかし、全く収穫が無かった訳では無かった。ポルンガによって、ジャスミンが“亜空間(あくうかん)”では無く、別の世界に無事辿(たど)り着けていた事が発覚したからである。

 最悪の状況は回避出来た事に胸を()で下ろしたヤムチャとブルマ、トランクスだったが((ちな)みに、悟空は“亜空間(あくうかん)云々(うんぬん)といった小難しい話は理解しておらず、ジャスミンの行方(ゆくえ)が分からないという事だけ把握(はあく)していた)、()び戻す方法が全く分からずに手詰まりになってしまった。

「良く分かんねぇけど、ポルンガでもダメだったんだからオラ界王(かいおう)様にも聞いてみるよ。もし、界王(かいおう)様がダメでも界王神(かいおうしん)様か界王神(かいおうしん)のじっちゃんならどうにかする方法知ってるかもしんねぇし。」

 悟空の提案により、界王(かいおう)界王神(かいおうしん)の知恵を借りる事となったが、それから半年経った現在も、明確な解決方法は見付かってはいない――――――――。

 

 

 

 

 




今回書きたかった事
・父親の勘でジャスミンの危機を感じ取るヤムチャ
・軽くパシられるトランクス

何気に初登場のプーアルと悟空でした。

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