摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第45話更新です。
ドラゴンボールを使用した事について、様々なご意見をいただいていますが、それについてのジャスミンとワンピース世界の住人との意識の違いが明らかになります。
次回、あの人が再び登場予定です、がそこまで行けると良いな…。

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第45話 新世界への入口!シャボンディ諸島に向けて

「ジャスミン。お前、これからどうすんだ?」

 肩を落としたジャスミンを気遣ってか、ウソップやチョッパーが、後ろでこそこそとどちらが最初に話しかけるかを押し付け合っている中、()えて空気を読む事をしないルフィがド直球にジャスミンに尋ねる。

[おいバカ、ルフィ!!]

[あんたちょっとは気を使いなさいよ!]

 後ろで見ているウソップやナミの方がハラハラしながら小声で怒鳴り付けるが、短い付き合いながらルフィの性格を徐々に理解し始めたジャスミンは苦笑しただけだった。

「取り()えずは情報収集かな。この半年の間に現れた、身元不明の人間がいないかどうか…。雲を(つか)むような話だってのは分かってるけど、やらないよりはマシだろうし…。」

 あまりの手がかりの無さに、いっそ笑いが込み上げてきそうだ。

 思ったよりも大丈夫そうなジャスミンの様子に、チョッパーがおずおずと尋ねる。

「ジャスミン、あの龍に何をもらったんだ?」

「あぁ!これ?」

 仙豆(せんず)の入った(つぼ)を見せる。

「ちょうど良かった。神龍(シェンロン)がサービスしてくれたから、チョッパーくんにも分けてあげるよ。」

 カポッと(ふた)を取り、ジャスミンが中身をチョッパーに見せる。

「豆?」

 (つぼ)一杯に詰まっていた豆を見てチョッパーが首を(かし)げる。

「枝豆みたいに見えるけど、これ何なんだ?」

 その様子に、ナミやウソップ、ルフィたちも興味を()かれたのか周りからジャスミンの手元を(のぞ)きだす。

「これは仙豆(せんず)って言って、私の故郷ではカリン様っていう仙猫(せんびょう)様、つまり猫の仙人様が作っているありがたい豆なんだ。1粒食べれば、一瞬で体力を回復させてどんな怪我でも治してくれる薬なんだよ。病気には効かないのが難点だけど、怪我なら例え死にかけていたって全快出来る位にね。」

「ホントかそれ?!」

「ホント。」

 やはり医者の(さが)か食い付いたチョッパーに、実際に1粒食べて見せる。

 ポリポリと仙豆(せんず)を嚙み砕き、飲み込んだジャスミンが胸の前で釣っていた左腕を三角巾から外し、右手に“気”を込めて左腕のギプスを破壊する。

 ベキィッ!

 バラバラと砕けて甲板に落ちるギプスに、チョッパーが叫んだ。

「お前何やってんだよ!?」

「もう治ったんだよ。ほら見てみてよ。」

 そう言って差し出されたジャスミンの左腕に、チョッパーが異常が無いかを詳しく診察する。

「嘘だろ!?完全に腫れが引いてる…!」

「ね?」

「マジか、それ!?」

「嘘でしょ!?」

 ウソップとナミも驚愕するが、医師として医学に精通しているチョッパーの驚愕はもっと大きかった。

「な!?どェええええ!??どうなってんだこの豆?!」

「チョッパーくんに“麦わらの一味”全員分の仙豆(せんず)分けてあげるよ。万が一誰かに盗られたら困るし、まずは1人3粒位でどう?」

 1人あたり3粒の仙豆(せんず)をハンカチに(くる)み、チョッパーに差し出す。

「あ、ありがとう…。っじゃなくて!!」

「仕組みは私も一切知らないけどね。仙猫(せんびょう)様が作った仙薬(せんやく)だから、深く考えても分からないよ。」

 苦笑しながら言うジャスミンに、ルフィが「なるほど、不思議(ぐすり)だな!」と説明を一切理解しないまま完結させた。

「まぁ、それで納得してもらった方が簡単だと思う。」

 取り()えず納得してもらえたのならば良いか、とジャスミンがそれ以上の説明を諦める。

「ところで、それうめぇのか?」

「まずくは無いけど、そんなにおいしくもないよ。豆だから。」

「なんだ、んじゃ良いや。」

(もし、おいしかったら食べる気だったな…。)

 目をキラキラさせていたものの、すぐさま興味を無くしたように目を()らすルフィに苦笑する。

「それより聞きたいのだけれど、良いかしら?」

 不意に歩み寄ってきたロビンが切り出した。

「何でしょう?」

「1つ目の願いでこの1年で死んだ人間を生き返らせたのは何故?」

「…最初は“バスターコール”で死んだ海兵たちだけを生き返らせようとしたんです。彼らをみすみす死なせてしまったのは私のミスですから。でも、そうすれば()()()()()()()()()()()()()()()に利用される可能性がある。万が一にもそんな事をさせる訳にはいかなかったし、その願い方ではスリラーバークでモリアに殺された男たちは生き返れない。だから…。」

()えて世界中の人間に範囲を広げて、目を()らさせた?」

「そうです。世界中で同じ事が起こったなら、それは一種の()()に変わる。それに加えて、保険もかけましたから…。」

「“その人たちが安全に生活出来る場所に送る”事?」

「そうです。こっちの都合(つごう)で生き返ってもらった人たちを危険な目に遭わせる訳にはいきませんから。」

「……もう1つ聞いても良いかしら?」

「?他に何か?」

 神妙(しんみょう)な顔で続けるロビンに、ジャスミンが首を(かし)げる。

「スリラーバークでモリアに殺された男たちって事は、あなたを捕まえて拷問(ごうもん)にかけた奴らでしょう?その人たちまで生き返らせたのは何故?」

「ああ…。正確に言えば、彼らが本当に生き返ったかどうかは知りません。私が願ったのは、“私がこの世界に来てから死んだ、極悪人以外の人間の蘇生(そせい)”です。彼らにまだ更生の余地があるなら生き返ったでしょうし、骨の髄まで腐った悪人なら生き返れなかった(はず)です。もし、神龍(シェンロン)が彼らを生き返らせたなら私も彼らを許そうと思いました。彼らもモリアのテリトリーで生き残ろうと必死だったみたいですし…。それに、私の主観ですけど、少なくともリーダー格の男は殺される程の事はしていないように見えたので。」

「そう…。」

「っつ――――か、本当に生き返ったのか?」

「大丈夫だと思いますよ。ただ、心配なのは世界政府や裏社会の人間がどの程度()ぎつけるか、何ですよね…。うっかりドラゴンボールを昼間に使ってしまったので、神龍(シェンロン)が誰にも目撃されていなければ良いんですが…。」

 既に意識を“死者の蘇生”では無く、“世界政府と裏社会の動向”に移しているジャスミンを見て、ロビンとフランキー、ブルックの年長組は、ある種の危うさを感じ取っていた。

 自分がどれ程大変な事をしでかしたのかを全く理解していない、そう思ったのだ。

 その認識はあながち間違ったものでも無かったと言える。

 ジャスミンにとっては、自分のせいで死んだ人間がいるのならば生き返らせなければ、という認識しか無かったからだ。それがどんな混乱を巻き起こすのか、それを本当の意味で理解してはいなかった。

 幼い頃からドラゴンボールの奇跡を目の当たりにしていたジャスミンにとって、死者の蘇生は特別な事では無い。特にZ戦士たちにとっては、自らが関わった事件においての死者の蘇生とはある意味で義務のようなものでもあったからである。

 何故、元々は“常識的な考えを持つ日本人女性”だった(はず)のジャスミンが、世界中を巻き込むような騒動を起こしたのか、それは転生してから身を置いていた環境の影響が大きかった。

 ジャスミンも無論、頭では本来ならばあり得ない事である事は理解してはいた。しかし、自身もドラゴンボールによって生き返るという異例の経歴を持つが(ゆえ)。そして前世の記憶を取り戻す前から、父たちからその“奇跡”を繰り返し聞かされていた事により、いつしか自然の摂理とも言うべき部分が、本人も意識しないうちにその辺りの感覚が麻痺(まひ)していたのである。

 染まっていた、と言い換えても良い。

 いくら前世の記憶を持つ、と言ってもそれは既に朧気(おぼろけ)なもの。“知識”としては一定のものは残っているものの、実際に“経験”した、という認識は既に薄い。

 例えるならば、大人が幼少期の遠い記憶を(さかのぼ)るようなもの。“こんなことをした”“こんなことを思った”という事を覚えていても、その時の考えや感情を鮮明に思い出す事は困難である。

 記憶とは、常に新しいものへと塗り替えられていき、古いもの程消えていくもの。ジャスミンも、“ドラゴンボール世界”で生きるうちに、“かつての日本人女性”ではなく“ヤムチャの娘”としての意識が強くなっているのだ。もちろん、基本的な思考回路など、前世での影響を全く受けていない、とは言わない。しかし、それは既に“過去”として処理されており、一般的な人間が幼少期に受けた影響が性格に反映されているのと同じ(くく)りにある。

 そもそも、死者の蘇生自体がドラゴンボール世界では“世界7不思議”の1つに挙げられる程周知されている。ドラゴンボールによるものである事を知るのは極少数だが、(まれ)に起こり()る奇跡として世界中の人間に知られているのだ。15年近く非常識な人間や出来事に囲まれていれば、自身の常識もやや(かたよ)ってしまうのも必然と言えた。

 

 この意識のズレが、後にジャスミン本人に()()として回ってくる事になるのだが、本人は未だ知る(よし)も無かったのである。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「話は戻るけど、ジャスミン、あんた魚人島への行き方なんて知らないわよね?」

「?知ってるよ?」

 駄目元(だめもと)、というように尋ねるナミに、何を今更(いまさら)、とでも言いたげなジャスミンが答える。

「え!?」

「ん?」

 バッとジャスミンを振り返ったナミに首を(かし)げるが、次の瞬間ガシィッと肩を(つか)まれ、思わず身を(すく)ませる。

「わっ!」

「どうやって行くの?!」

「ま、まずはシャボンディ諸島で船をコーティングしてもらわないと…。」

 ナミの勢いに思わず気圧されつつ、自身が知る知識を教える。

「コーティング?」

「私も実物を見た事がある訳じゃないから詳しくはしらないけど、海底での航海を可能にする技術みたいだよ。魚人島は海底1万mの深海…。普通の船が行ける訳ないけど、コーティング船だけは行き来出来るって聞いた事あるから…。」

「シャボンディ諸島って?」

「“ヤルキマン・マングローブ”の樹の集まりで出来た諸島の事。その1本1本に町や色んな施設があって、“新世界”に行く人たちが集まる島だよ。」

「そこでコーティングってやつをするのね?でも、魚人島へのログが書き換えられちゃう事は無いの?」

「大丈夫。諸島って言ってもあくまでも樹の集まりだから、磁力は無いみたい。」

「なるほどね。ありがと、ジャスミン!お陰で進むべき道が分かったわ!」

「それは良かった。」

 生き生きとし始めたナミに苦笑しつつ、提案する。

「良かったら、先にシャボンディ諸島に行って、コーティング職人を探しておこうか?」

「コーティング職人って何だ?」

 ナミとの会話を聞いていたウソップが尋ねてくる。

「船をコーティングする職人さんだよ。コーティングっていうのは船全体をシャボン玉で包む特殊な技術らしくて、腕の良い職人じゃないと海底で航海してる最中にシャボン玉が割れちゃう事もあるんだってさ。」

「わ、割れたらどうなるんだよ?!」

「そのまま沈んじゃうみたい。」

「マジでか?!」

 途端(とたん)(すく)み上がったウソップに、ジャスミンが続ける。

「だから、コーティング職人選びが重要になってくるんだよ。腕の悪い職人に当たって途中で沈んじゃった船も星の数程いるらしいし…。大金が手に入る仕事だから、(ろく)な技術も無いままに真似事だけしてる悪質なコーティング職人もいるみたい。ほとんどの場合、失敗しても相手は海底でそのまま沈んじゃうから発覚しないだけらしいし。」

「「こ、怖ェ~!!」」

「ゾッとしないわね…。」

 ウソップとチョッパーが震え上がり、ロビンの顔も険しい。

「しかも、海軍本部が近いし、賞金稼ぎの数も尋常じゃないから、短期間ならともかく長期間の滞在は向かないんだよ。だから、コーティング職人探しで時間を取られちゃうとその分動きが後手に回る事になるしね。」

「そうか、そういう問題もあるのね…。」

「そう。だから、スムーズにコーティングを済ませられるように、職人を探しておこうか?」

「それは助かるけど…。こっからシャボンディ諸島までどれ位あるの?」

「だいたい船で1日半ってトコかな?」

「その間、あんた1人で大丈夫?」

「平気。船で行くより、1人で空を飛んでいった方が目立たないし、髪型や服装変えれば手配書が出回ってても意外と気付かれなかったりするもんだよ?」

「それならお願いしようかしら。島で会いましょ。」

「OK!じゃ、決まりね。」

 ナミとの話が纏まり、ジャスミンが立ち上がる。

 ジャスミンとしても、今後について少し1人で考える時間が欲しかったところであるし、反面何かしていた方が気が(まぎ)れるので都合(つごう)が良かったのだ。

「じゃ、シャボンディで会おうね!」

 ドシュッ………!

 言い置いて、勢い良く舞空術(ぶくうじゅつ)で飛び出す。

 コーティング職人に1人、心当たりが、あった。

 

 

 




用語解説
・カリン様…カリン塔と呼ばれる塔に住む仙猫。800年以上生きており、武術の達人。仙豆の栽培・管理をしており、悟空たちもたびたび世話になっている。

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