摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第37話更新です!
お気に入り登録1800人越え、評価もありがとうございます!

さて、今回の副題は“ジャスミンSAN値ピンチ”です。
今回も、話の展開上主人公が追い詰められてますが、どうかご了承ください。
彼女の受難はまだ続きます…。


第37話 ゲッコー・モリア登場!奪われたドラゴンボール

 ━“マストの屋敷”内、ゲッコー・モリアのダンスホール━

 ジャスミンは鎖で拘束され、尋問(じんもん)されていた。

「とっとと吐けっ!!」

 ドゴッ!

「グッ……!ゲホッ!ゲホッ………!!」

 黒スーツの男の放った蹴りが、拘束されたまま転がされたジャスミンの鳩尾(みぞおち)へと食い込む。

何故(なぜ)、ドラゴンボールが使えない!?」

「…しらないっていってるだろ……!!」

 ジャスミンを尋問(じんもん)しているのは、地球でジャスミンからドラゴンボールを奪おうとした、恐らくマフィアの男。

 半年前と比べて見る影も無く(やつ)れ、目だけがギラギラとした光を宿していた。

 この2日間の男の言動から推察するに、この男はどうやら命と引き換えにモリアに従っているらしい。

 そして、モリアがジャスミン(自分)の存在に気付く前にドラゴンボールを横取りしようとしたようだ。

 だが、男にとっては不運な、ジャスミンにとっては幸運なことに男はドラゴンボールの使い方を知らなかった。神龍(シェンロン)の存在を知らなかったのだ。当然、()び出す為の呪文も知らず、男がドラゴンボールを使うことは出来なかった。

 2日に及ぶ暴行により、ジャスミンの顔も()れ上がり、全身(あざ)だらけだった。体中に走る激しい痛みは、どこかの骨に(ひび)でも入ったのかもしれない。頭からは血が流れ、呼吸には喘鳴(ぜんめい)が混ざり、既に息も()()えだった。

 何より、一睡(いっすい)も許されずに暴行を受け続け、気絶しても水を張ったバケツに顔を沈められ強制的に目覚めさせられていた為、体力も限界を()うに超えている。

 痛みと疲労で飛びそうな意識を、気力のみで何とか保っている状態だったが、悪人にドラゴンボールを使わせる訳にはいかない、という決意のみで口を(つぐ)んでいるのだ。

 更に、暴力だけでなくあの幽霊(ゆうれい)による精神攻撃を受け続けた為、精神的にももうギリギリの状態だったが、もう少し耐えたらきっとルフィたちがここに来る、そのわずかな原作知識だけを支えに自分を保っていたのだ。

 そして、つい2~3時間前にジャスミンは途切れそうになる意識を()たせながら、“麦わらの一味”たちの“気”を感じ取っていた。

 後少し耐えれば、ルフィが親玉(モリア)を打ち倒してくれる。あるいは、彼らが暴れてくれれば逃げる為の(すき)が生まれるかもしれない。

 そんな希望を胸に抱き、激しい暴力を(ともな)った尋問(じんもん)にひたすら耐えていたジャスミンだったが、それを打ち砕くかのように響く声があった。

「キシシシシシッ!!」

「っひ……!」

 ()()が部屋に響いた途端(とたん)、感情のままにジャスミンを(なぶ)っていた男が引き()った声を上げる。

 そして、ズンズンと部屋全体に響くような重たげな足音を立ててホールに入ってきた大男を見て、男があからさまに怯え出した。

「モ、モリア様……!!」

 そしてジャスミンもまた、朦朧(もうろう)とする意識の中、わずかに瞠目(どうもく)する。

(コイツがゲッコー・モリア………?)

 デカい。それが最初の印象だった。

 巨人と見紛(みまご)う程の巨体は、7~8mはあるだろうか。(とが)った耳に額から伸びた角、何よりも額と喉元(のどもと)に走る()()ぎのような()い傷は、人間というよりも悪魔を思わせる。また、そのゴシック調の服装がその印象に拍車をかけていた。

 海賊というよりも、お化け屋敷のキャストと言われた方がしっくりくる。

「キシシシシシッ!ドラゴンボールが全て集まったらしいな。」

 変に甲高(かんだか)い声で笑いながら告げたモリアの言葉に、黒スーツの男の顔色は一層悪くなる。

「は、はい!!こちらにご用意してございます!」

「キーシッシッシッシッシッ!!!やっとか!!(つい)におれが海賊王になる時がやってきた!!」

 (かたわ)らに置かれていたアタッシュケースを開き、平伏(へいふく)しながら告げる男の言葉に、モリアの笑い声が高らかに響き渡った。

「今までご苦労だったな…。お前のお(かげ)でおれの夢が叶う……!褒美(ほうび)をやろうじゃねェか。」

「も、勿体無(もったいな)いお言葉…!」

(まさか……!)

 モリアの言葉に不穏(ふおん)な気配を感じ取り、何とか身を起こそうとするが、鎖に拘束された上に既に体力・気力共に限界を迎えようとしている体ではそれも叶わない。

「遠慮はいらねェさ…。受け取れ……!」

「やめっ…………!!」

 ドシュッ!!!

 殺気を込めたモリアの言葉に、ジャスミンが制止するより早く、モリアがその腕を標的(黒スーツの男)目がけて()ぎ払う。

「ぁ……?」

 何が起こったのか分からない、そんな顔をして()()()()()()()()()()()()

 ブシャァアアアアアッ………!!!

(あかい、あめ………。)

 部屋に赤い、(あか)い“雨”が降る。

 ズシャッ…!

 数拍の間を置いて男の体が床に倒れ込んだ。

「あ、あぁああ……………!」

 男の血飛沫(ちしぶき)を浴びながら、ジャスミンが(あえ)ぐような声を()らす。

「キーシッシッシッシッシッシッシッ!!!()()()()()()してやったんだ!お前が最も欲しがっていたモンだろう?!」

「な、何て事を……。」

 例え相手が悪人とは言え、何も出来ず、目の前で殺させてしまった事に、ジャスミンに無力感がのしかかった。

「さて…。ドラゴンボールが全ておれの手に入った以上、もうお前にも用はねェが…。一応、お前も億超えの賞金首だ。その影ももらっておくとしようか。」

「ぐっ……!」

 言葉と同時に、その巨大な手でモリアがジャスミンの頭を鷲掴(わしづか)み、彼女を持ち上げる。

 全体重が首にかかり、ジャスミンが苦痛で微かに(うめ)いた。

 ベリベリベリ…!

 ジャキン!!

「!?」

 何かを無理矢理()がすような音の直後に、(はさみ)の音が響いたと思った途端(とたん)、ジャスミンの意識が途切れる。

 

 ━“サウザンドサニー号”医療室━

「………アアにィ…イ!!!?……ノーレー!!」

 ふっ、と意識が浮上するのを感じる。まず復活したのは聴覚。

(さんじさんのこえ……?おこってる…………?)

「…れ以上刺激…やるな…。何かに…しそう…。」

(ぞろさんも、いる……。)

 次第に、徐々に感覚が戻り、近くにナミ以外の“麦わらの一味”がいることに気が付いた。

 ただ、1人を(のぞ)いて多少距離があるようで、何を話しているのかははっきりと聞き取れない。

 (うっす)らと目を開くと、微かに視界の端でちらつく小さな影が見える。

(この“気”は…。)

「ちょっぱーくん…?」

 まだ頭がはっきりとしていない為か、変に舌足(したた)らずになってしまったが、その声は届いたようだ。

「ジャスミン!目が覚めたのか!?」

「ここは…?っ…!!?」

 周囲を確認しようと首をわずかに動かした途端(とたん)、全身に痛みが走る。

「まだ動いちゃダメだ!!治療はまだ途中だからな。アバラが3本も折れていたんだぞ?鎖骨(さこつ)と左腕にも(ひび)が入ってたし、脱水症状を起こしてたせいで体力の消耗(しょうもう)も激しいんだ。安心しろ。ここは“サウザンドサニー号”。おれたちの船の医療室だよ。」

 チョッパーがジャスミンを安心させるように語りかかる。

 その言葉に、身動(みじろ)ぎする(たび)(おそ)う痛みに、思わず顔を(ゆが)めつつ、ジャスミンは自身の状況を確認した。

 ジャスミンが寝かされているのは、どうやら医療室のベッドのようで、右腕には点滴(てんてき)が刺さっている。アバラと鎖骨(さこつ)はコルセットで、左腕もまたギプスでガッチリ固定されていた。また、徐々に意識がはっきりして気が付いたが、額から右目にかけても包帯が巻かれ、視界が半分(さえぎ)られている。その他にも体中包帯だらけで、チョッパーが巻いてくれているところだった。

 そこまで認識して、はたと気付く。包帯が見える、ということは…

「私の服…?」

 辛うじて下着は付けているが、それ以外は包帯とコルセットで隠れているものの人前に出られる姿ではなかった。

 チョッパーは厳密には人間ではないし、治療目的だと分かっているので別に脱がされていたことに抵抗がある訳では無いが、もし治療の際に(はさみ)か何かで切られていたのだとしたら、着替えが全く無いのだ。

 何しろ、所持していたカプセルは全てウェストポーチごと奪われてしまったのだから。

 ジャスミンの問いかけに、チョッパーが申し訳無さそうな顔をしたのが見える。

「ゴメン…。ジャスミンの服は、その、血だらけでとても着れる状態じゃなかったから、悪いとは思ったんだけど…。」

「あ―――…、やっぱり…。」

 薄々(うすうす)察してはいたが、やはり捨てられていたか、とジャスミンが溜め息を()く。

 そして、その原因を思い出し悲痛な面持(おもも)ちとなる。

「っ……!」

 込み上げてくる涙を(こら)え、(くちびる)()()めるジャスミンを、チョッパーが不安気な顔で見詰めた。

「ジャスミン…?何があったんだ…?」

「…目の前で、人が殺されました。……助けられなかった…………!!」

 チョッパーの柔らかな声に、これまで必死で抑えていたものが涙と共に(せき)を切って(あふ)れ出す。

「お前の体中に鎖の(あと)が付いてた。縛られてたんだろ?それにこの怪我じゃ、無理もねェよ…。お前のせいじゃない。」

「でも…!」

 嗚咽(おえつ)()らしながら泣きじゃくるジャスミンを落ち着かせようと、チョッパーが手を握りながらゆっくりと言い聞かせるように語りかける。

「とにかく、今はゆっくり体を休めるんだ。もう少し眠ると良いよ。」

 点滴(てんてき)睡眠(すいみん)導入剤(どうにゅうざい)を注射し、チョッパーがジャスミンに毛布をかけ、(かたわ)らの椅子(いす)に腰を下ろした。

 それを涙で(にじ)む視界で(とら)えながら、ジャスミンは徐々に眠気に(おそ)われ始める。意識を何とか保とうとするものの、疲弊(ひへい)し切った彼女に、そんな余力は残されてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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