摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第17話更新です!今回もやや戦闘シーンがありますが、相変わらず微妙な仕上がりとなっております……。


第17話 VSルッチ 

「曲芸、だと…!?」

 ジャスミンの挑発にルッチが唸るような声を上げた。

「曲芸じゃないなら大道芸かな?この程度の体術、出来る人間なんてゴロゴロしてるよ。実際、さっき攻撃の手を止められたのは誰だったっけ?」

 肩を(すく)めながらジャスミンが続ける。

「あれが、おれの本気だとでも?」

「へぇ、だったら見せてよ。その本気ってヤツをさ……。」

 ジャスミンにしては珍しく挑発を続けているのは、別にルフィたちの為では無かった。

 いや、最初は確かにルフィたちからジャスミン(自分)に標的を移せないか、と(あお)っていたのだが、段々とルッチたちの態度が鼻に付いて来たのが原因である。

 元々ジャスミンは前世の記憶を取り戻す前から武道に親しみ、鍛錬を積むと同時に礼節を学んできた。

 その中には、意味も無く力をひけらかしてはいけない、というものや、破壊の為に用いてはいけない、という教えも含まれていた。

 (ちな)みに、そうした心得を最初にジャスミンに教えたのは、何を隠そう亀仙人である。かつては武天老師とも呼ばれたその人は、普段はドスケベで割としょうもないお爺ちゃんだが、そうした武道に関しては真摯(しんし)な姿を見せるのだ。だからこそ、直弟子(じきでし)たる悟空やクリリンだけでなく、(ヤムチャ)や天津飯も今尚(いまなお)慕い、尊敬しているのだが。

 

 閑話休題

 

 つまるところ、武道とは力の誇示では無く、誰かを守る為にこそある、とも教えられたジャスミンにとって、殺しの為だけに腕を磨き、尚且つ人を見下した態度を節々に出すルッチたちCP9、及びその大本である世界政府は既に嫌悪の対象に成りつつなっていたのだ。

「ジャ、ジャスミン!あんた何挑発してんのよ?!」

 ナミが小声で訴えるが、わずかに遅かった。

「――――――そんなに言うなら、せっかくだ。最期(さいご)に…、面白いものを見せようか…。」

 ルッチが言うと同時に、その身体(からだ)がミシミシと音を立てながら大きくなっていく。

 メキメキ……!

「………!?」

「え………!??」

「うわあああああ!!!」

 体躯は3倍近い大きさに膨れ上がり、天井に迫る。腕や顔は毛皮で覆われ、爪は獣のそれと化した。

「ルッチ…!!!てめェは一体……!!!」

「“悪魔の実”……!!!」

「何の実だ!!?」

「“ネコネコの実”モデル“(レオパルド)”」

「……!!“ヒョウ人間”か…。」

「でけェ!」

「……!!!ヤバイ…。“肉食”の動物(ゾオン)(けい)は凶暴性も増すんだ!!」

 ゾロやルフィも呆然とし、チョッパーが震えながら叫ぶ。

「“自然系(ロギア)”“動物系(ゾオン)”“超人系(パラミシア)”。特異な能力は数々あれど…、自らの身体能力が純粋に強化されるのは“動物(ゾオン)(けい)”の特性…!!鍛えれば鍛える程に“力”は増幅する。迫撃(はくげき)において“動物(ゾオン)(けい)”こそが最強の(しゅ)だ!!!」

「何だ…、この姿…!!!」

 パウリーが呆然と呟いた時だった。

 微かに人の声が聞こえてきたのは。

(!まずいな。人が上がってきた……!)

 恐らく、火が回り始めたことで外にいた職人たちが中の異常に気付き、アイスバークの安否を確かめに来たのだろう。

「ルッチ、職人たちが上がって来るわ!」

「なァに、来れやしない…。“嵐脚(ランキャク)”。」

 ビュッ!!

 カリファの言葉に応えるや否や、ルッチが壁に向かって嵐脚(ランキャク)を放つ。

 パキ…!!

「え!?」

 ルッチの嵐脚(ランキャク)によって、壁一面に亀裂が走った。

「ちっ!」

 ぐいっ!

「きゃ!」

「うわ!」

 思わず舌打ち、壁の近くにいたナミとチョッパーを回収する。

 ドゴゴゴゴォ…ン!!!

 バキバキ!

 がラララ…!!

 ドス―――――ン……!!!

 直後までナミたちが立っていた場所を崩れた瓦礫(がれき)が圧し潰した。

「助かった…。」

「あ、危なかった…!ありがとう、ジャスミン…。じゃない!あんた何挑発してくれてんのよ!?」

 助かったことを理解するなり、ナミが涙目でジャスミンに嚙み付く。

「文句なら後で聞くよ。それより、早くアイスバーグさんたちを連れて逃げた方が良い。あっちは私が引き受けるから。チョッパーくん、アイスバーグさんを乗せて運べる?」

「お、おう!任せろ!」

「パウリーさん、2人と一緒にアイスバーグさんを早く安全な所に…。誘導をお願いします。」

 チョッパーとナミをアイスバーグたちの方に押しやり、パウリーを促す。

「ああ…。」

 パウリーも頷き、チョッパーの背にアイスバーグを乗せる。

 さっきの瓦礫で入口が塞がってしまった為、ルフィが開けた隣の部屋に続く穴を目指す。

 ドン!!

「お止めなさい、パウリー。」

 それを(はば)むべく、CP9が立ち塞がる。

「お前ら……!…おれは少なくとも……!!今までお前らを本当に“仲間”だと思ってた!!!」

「……。お前だけだ……。」

 パウリーの涙ながらの叫びは、CP9には届かない。

 ルッチの爪がパウリーを引き裂こうとしたその時……。

 ガシッ!

「あなたたちの相手は私が引き受ける。そう言った筈だけど?」

 その腕をジャスミンが止める。

「小娘が……!」

 忌々しそうにルッチが唸った。

 

「早く避難を…!」

 ルッチの腕を捕えたまま、首だけナミたちの方を振り返り、ジャスミンが再度促す。

「あんたたちも早く来てね!?」

「わかってるよ。」

 ナミたちを見送り、ギリ・・・、とわずかにルッチを掴む腕を強くした時のことだった。

「ハトのやつ~~~~~~~!!!」

「!!」

 ドカァン!!!

 叫びと共に伸びたルフィの拳がルッチの顔面を殴り飛ばす。

「ルフィくん?!」

 咄嗟に掴んでいた腕を離したのでジャスミンまで吹っ飛ぶことは無かったものの、思わずたたらを踏む。

 結果的に、それがジャスミンの反応を遅らせることになる。

 数m吹っ飛んだルッチをルフィが追撃するが、それよりもルッチが体勢を立て直す方が早かった。

「“指銃(シガン)”!!」

 ドキュン!!

 ルッチの指銃(シガン)がルフィを貫く。

「……!!!ウ…、オ……!」

 ルフィの腹部から血がボタボタと滴り落ちる。

「ルフィ!!!」

「しまった…!」

「ハァ…!」

 ガッ!!

 ルッチが再びルフィの顔面を掴む。

「ルフィくん!」

「島の外まで……、飛べ!!!!」

 ボコォン!!!

 ギュン!!

「ゔわあぁ~~~!…」

 そのまま壁に叩き付けられ、勢いもそのままに外に飛ばされる。

「てめェ!!!」

「!ダメだロロノアさん!!」

「“鉄塊(テッカイ)”」

 ギィン!!!

 ジャスミンの制止も届かず、ルッチに斬りかかったゾロの刀は鉄塊(テッカイ)によって防がれた。

 シュッ!!!

 ドゴォン!!!

 避ける間も無く、ルッチの蹴りがゾロを襲い、さっきのルフィと同じようにそのまま壁を突き破り、空へと飛ばされる。

「ロロノアさん!!!」

「次はお前だ…!」

 ルッチを始め、カリファやカクもジャスミンを囲い込む。

 

 パチパチ…

 ガララ…

 ボオオォ…

 次第に火の勢いが増し、建物が崩れる音が響き始める。

 ジャスミンたちのいるアイスバークの寝室にも煙が立ち込めていた。

 立っているのは2人。

 対峙するのはジャスミンとルッチのみで、カリファとカクは既にジャスミンの一撃をそれぞれまともに食らい、昏倒している。

「ぐうぅ…!」

「まだやるつもり?」

 ルッチが腹部を押さえ、微かに(うめ)いた。

「さすがに“動物(ゾオン)(けい)”の能力者……。随分タフだね…。」

「貴様……!どうやってこれ程の力を…!?」

「日々修行。武道とは日々の積み重ねこそがものを言う。そっちこそ、言ってる割に動きが鈍いみたいだけど・・・・。船大工の仕事にかまけて修行不足なんじゃないの?いっそ、本当に船大工に転職しちゃえば?」

「ほざけ!」

 言うや否や踏み込み、仕掛けてくる指銃(シガン)を上に跳んで避け、そのままルッチの腕に着地する。

「鬼さんこちら♪」

「この!」

 次いで襲い来る嵐脚(ランキャク)をバク転で避け、3m程後方に着地する。

「手の鳴る方へ♪」

「どこまでも人を馬鹿に……!」

 ガシャン!!

 ガラガラガラ…!

「!」

 ちょうどルッチたちとジャスミンたちを隔てるように天井が落ち始める。

 ゴオオオオォォ……!

「もうここまで火が…!」

 途中からルッチをおちょくるのが若干楽しくなっていた為、失念していた。

 既に壁や天井にまで炎が回り、ジャスミンたちに迫っている。

「これまでか……。」

 ルッチもその様子を目の当たりにして頭が冷えたらしく、気を失っているカリファとカクを担ぎ上げる。

「!逃げる気?」

「ふん…。もうその手には乗らん。お前のお陰でだいぶ時間を無駄にした。」

「さすがプロ。そう何度も安い挑発には乗ってくれないか……。」

「……直にこの部屋も焼け落ちる。死にたくなければ、とっとと逃げることだ。……決着は、いずれ着けさせてもらう!」

 ダッ!

 言い置いて、仲間を抱えたルッチが窓から飛び出し、月歩(ゲッポウ)で夜の街へと消えて行く。

 ガラガラガラ…!

 ドシャ…!

「おっと!私もさっさと逃げないと……。!」

 取り敢えず、ルフィたちのケガを最小限に抑えつつ、ナミたちを離脱させ、ある程度足止めをすることには成功した。

 この辺が引き際かな、と自分も後に続こうとした時、ふと呼びかけてくるような妙な気を感じ取る。

 その方向に目を向けると、あるものを見付けた。

「これは……!」

 

 ゴオオオオォォ……!

 ゴオオオオォォ……!!

 ガシャアァ……ン!!!

「また崩れたぞ!?」

「ルフィ――――――――――!ゾロ――――――!!ジャスミ――――――――ン!!」

 崩れゆくガレーラカンパニーを見て、チョッパーとナミが叫ぶ。

「アイスバーグさん!これは一体?!」

「麦わらの一味が犯人だったんじゃあ?」

「パウリーさん!どういうことですか??!」

 その近くではアイスバーグとパウリーの周りをガレーラカンパニーの船大工たちが囲んでいた。

 アイスバーグとパウリーはそれぞれ手当を受けつつ、“暗殺の実行犯”と確定されていた麦わらの一味と一緒に本社の中から出てきたことに衝撃を隠せない船大工たちから質問攻めに遭っている。

「ンマー、こいつらは無実だ。…逆に助けられた…。」

「無実!?麦わらの一味が??!」

「ああ。どうも、こいつらもハメられたらしい。おれもすっかり騙された。」

「じゃ、じゃあ…。こいつらは逆に恩人ってことに……?」

「ああ、そうなるな。…麦わらの一味には迷惑をかけた。」

 アイスバークが周囲の船大工たちに麦わらの一味の誤解を解いていた時だった。

 ガッシャアァアァア…ンン!!

 シュッ!

 一際大きな音を立ててアイスバークの寝室の壁が崩れ、そこから人影が飛び出して来る。

 ダァ……ン!

 骨にまで響きそうな音を立てながら着地したのは、1本の刀-ゾロの“3代鬼徹(きてつ)”を携えたジャスミンだった。

 

 

 

 

 




用語解説
亀仙人…ドラゴンボールの主人公・孫悟空の師匠で、かつては世界一と謳われた武道家で“武天老師”の異名を持つ。常に背負った亀の甲羅がトレードマークで、それが亀仙人の呼び名の由来。御年354歳(ジャスミントリップ時)。ドスケベだが、武道に対しては真面目で意外にも人望も厚い人格者。この人の放った元祖かめはめ破は当時の読者に多大な影響を与え、数多くのパロディーが存在する程。

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