原作への理解の浅さを自覚し削除した物を、どうしても思いつかないからと掘り出して清書しただけの代物です。
そのため、原作知識が少ない頃の偏見オンリーな内容になっております。
原作ファン及び耐性が無い方はご注意を。
「ーーお話は伺いました。我々としても協力者である貴女に報いるのは当然のことと考えており、都市一つを含む地方一帯を領地として割譲し、新生ネコ王国の建国を視野に計画を進めています。
私は素人故にその手の話には疎いので、内容に関しての説明は彼女から」
私はテーブルに着いてはいても好奇心を抑え切れないらしい黒歌さんのブンブン振られている猫尻尾を眺めながら、
(猫の尻尾って嬉しさで動きましたっけ・・・?
それとも、あくまで猫は猫。猫又は猫又と言うことなのでしょうか・・・。
あまり認めたくない現実ですね・・・)
私は相手に気取られないよう注意しつつ、心中でだけ吐息し外に目を向けます。
無限に続く星の群が私を見返してきました。
凍てつく空間、無数の拒絶、人類にとっての憧れであり、いずれは至る場所。
その場所に私たちは数世紀単位で先んじて到達し、女の子とお茶してました。
どんなナンパだ、贅沢すぎんだろ、自重しろ。
「それにしても、すっごいわよねぇこのお城。サイオラーグやバアルのと比べても脚色にゃいんじゃない?
いったい作るのに幾ら掛かったのか聞いてみたいものだにゃ~?」
「概算で、一兆五〇〇〇〇〇〇〇混沌帝国マルク程です。
冥界の基準でたとえるならば、魔王陛下の王家を初めとして全ての貴族の皆様方から全財産を没収し、山として積み上げた分の五十倍程かと」
「・・・・・・え?」
イタズラな目つきで問いかけてきた黒猫悪魔のお色気おねーさん、黒歌さんに対して辛辣な答えを返して黙り込ませたのは私・・・ではなく、先ほど彼女への説明役を任せた転生愛天使の一人でした。
彼女は笑顔のまま、詳しく説明してくれます。私の指示通り、丁寧に丁寧にーー
「まず、この要塞都市イゼルローンは直径六〇キロの人工惑星として建設されました。
本来であるならば恒星に惑星の一つとして配置し軌道を維持するところをセレニア様の御為改造に改造を重ね、現在では移動要塞として機能しております。
宇宙港は最大で二万隻の艦艇を収容可能、整備工場は同時に四百隻を修復できます。病院のベッド数は二十万床、兵器廠は一時間に七千五百本のレーザー核融合ミサイルを生産できーー」
「はい、ストップストップ。相手の思考回路が止まってますから、死んでますから。いえ、死んではいませんけど死にかけてますから」
相変わらず世界観の違いすぎるスケールの話に付いて来ることができず、黒歌さんの脳は外部からの情報を一時的にシャットアウトしてしまったようです。こういう所は人間と変わらないんですねぇ。なんだか安心できました。
「・・・はっ!? ま、まさか此処って空の上にゃん!? 落ちたりしにゃいの!?」
「・・・・・・そこからですか。ええ、大丈夫ですよ。
だって、ここには本来水も空気も重力すらありませんから」
「なぁ~んだ、それなら安心ーーじゃにゃぁぁぁぁぁっい!!!」
大暴れ黒歌さん。不謹慎ですが、ちょっとだけ楽しい。
とは言え、いつまでもこれでは話が続けられません。強制的にでも話を前へと向けさせます。
「ところで貴女からご要望のあった妹さんの一件ですが。これに関して私どもの見解を述べさせていただくと、今すぐ貴女と彼女を引き合わせるのには同意しかねるとしかお答えしようがありません」
途端、彼女の雰囲気が一変する。
毛を逆なでた黒猫みたいに剣呑で不機嫌そうな空気を全身からこれ見よがしに発散し、
「・・・・・・なんでよ」
とてもとても不満そうに、気に食わない返事をしたら食い殺してやるとでも言いたげな態度で、ぶっきらぼうに吐き捨てられます。
本来のーーと言うより、彼女が今いる世界においては本来、これが正しくあるべき姿なのでしょう。駒王町が穏やかすぎただけであり、世界各地で小競り合いを何千年も続けてきた彼らの戦いは、もっともっと凄惨なモノだったはずなのです。
兵藤さんは、おそらく何も知らない。知らされていないのか、知っている者が側にいないのか、あるいはそれすらも魔王陛下の計画なのか想像も付きませんが、とにかく彼が自由意志で悪魔になり、悪魔であり続けることを選んだとは言い難い状況になってきましたね。
まぁ、彼の場合グレモリーさんが誘えば悪魔だろうと天使だろうと関係なく靡きそうではありますが・・・。
ともかく。
「理由は複数あります。
第1に、貴女の妹、塔城白音さんは今現在グレモリーさんの眷属として傅いています。これは彼女自身の意志でもありますが、おそらく勢力強化を図りたい魔王陛下の意向も働いていることでしょう。出来るならば貴女にこれ以上の危険は犯させたくありません」
「・・・・・・」
「第2に、彼女の周囲は常に仲間たちで固められており、不用意な手出しの仕方は出来ません。そうなると今度団体で行くらしい冥界において混乱に乗じてコッソリとしかないのでしょうが、これだと完全にテロ組織の一員として貴女が見られてしまう。
「迎えに来た」と言う言葉が「浚いに来た」に変換され、守る側の「渡さない!」が「誘拐犯の妹の私なんかを!」とヒロイックナルシズムへと直結してしまうことにも成りかねません。バカバカしすぎるので、これは絶対にしたくない」
「・・・・・・まぁ、それは確かにねぇ」
「第3についてですが・・・これは貴女にとってかなり辛い現実を聞かせなければいけなくなります。その事を予めご承知いただきたいのですがーー彼女の中での貴女は自分を捨てて逃げ出し、泣いても叫んでも助けに来てくれなかった酷い姉、妹が苦しんでいるときに遊びほうけていた碌でなしと認識されている可能性が極めて高いんですよ」
「なっーー」
口と目をいっぱいに開けて、マシュマロを詰め込んでみたいなぁと妄想させてくれるほど愛らしい表情を見せる黒歌さん。こういう所で見せる無防備な子供っぽさが、元来の彼女らしさなのかもしれません。
調べられた情報によると、彼女たち姉妹は幼い頃に親と帰る家を亡くし外道悪魔に拾われ、成長の過程で引き取り手の悪魔を殺し単独で逃亡。以来、各地を転々としながら荒んだ生活を送ってきたと有りました。
ようするに、思春期を経験していないのです。子供が大人になるには絶対に必要な通過点である思春期が存在したことすらない。これは彼女の精神が見た目ほど成熟していない事を示すのではないか、と私は推測すると同時に悪魔と人間の精神構造がどこまで似通っているのかを調べさせてみようと決意しました。
俺とお前らは別の生き物なのだ。相容れるわけがない。
ファンタジーによくあるお決まりのフレーズですが、これと同じ言葉はギャング映画や刑事ドラマ、果ては学園モノですら良く見かけるほど出尽くした感がある言葉でもあるのです。
もしかしたら、これらの矛盾は互いに互いのことを知らずに語り、言うなれば世間知らずな厨二思想のぶつかり合いに過ぎないのではないかなとも考える私は平和ボケしすぎなんでしょうか?
「ち、ちょっと待ってよ! 私は一秒たりとも白音のことを忘れた事なんて無いわよ!
いいえ、むしろ私が! 私こそが白音をこの世で一番愛している存在なの! ポッと出の御貴族様なんか私の白音愛と比べたら取るに足らないんだから!」
「はい、それは知っています。今貴女から聞いたからです。
では、彼女は? どこでそれを知り得るのですか? 誰がそれを教えてくれるのですか? 魔王陛下自らが派遣した追撃部隊を単独で壊滅させた程のバケモノの妹だと言って罵る輩から守ってくれる存在、王妹殿下がそれを教えているとでも?
ハッキリ言いますが彼女にそういうのを期待してはいけない。彼女は善人であり、貴族らしく優雅であり、気高く高貴な皇族らしい皇族ではありますが・・・ぶっちゃけ王位継承権のほぼ無い王の妹に過ぎません。帝王学など対して教える必要もない。
むしろ、現実感覚を教えてすれさせるより綺麗なままアイドルとして使った方が効果的だ。ついでに言えば見栄えもいいですしね。世間知らずのお嬢様にはお似合いの役割ですよ」
些か以上に辛辣過ぎる意見だったためか黒歌さんにドン引きされました。
悪魔にそれやられるとマジヘコむわ~。
「そ、それに彼女を今の今まで庇護して育ててくれたのも事実上グレモリーさんです。
謂わば里親とでも言いましょうか? 冷たい里親ならいざ知らず、優しい里親だと幼い子供は心を開きやすい。貴女から話を聞く限り、白音さんの幼少時代は素直でよい子だったのでしょう? だとしたら愛情に満ちた家庭の空気が悪意から彼女を守ってきた一面があるのも否定できなくなりますね」
「ぐ、ぐぬぬ・・・」
「それにまぁ、現実問題として十年近くの間音信不通だった姉がいきなり現れて「就職したから一緒に暮らしましょう」と言ってきたら、貴女それ信じます?」
「・・・信じにゃい、絶対に疑う、全力で」
「でしょうねぇ」
借金のかたに売られるフラグしか見えませんもんねぇ。これを信じる人が居たら、どんなにわざとらしいオレオレ詐欺にも引っかかるでしょう。別名、カモネギ。
「ーーでもっ! 悔しいじゃにゃい! 私はこんなに! こんなに、白音のことを愛しているのに! それを伝えにいけないなんて! それを伝えちゃいけないなんて! 悔しすぎるじゃないのよぉーっ!」
慟哭の黒歌さん。もしくはムンクな黒歌さん。
今にも暴れ出しそうな・・・と言うか今現在机といすの上でドッタンバッタン暴れていますが、本格的に暴れ出そうとする前に誤解を解いておきましょう。
「落ち着いてください黒歌さん。別に貴女と妹さんを合わせないなどと言ってはいませんよ?
そのための条件交渉をするためにこの場を設けたんですから、早く席に着いて書類をご確認ください」
「・・・ふぇ?」
お目目をパチクリ。ここでも年不相応に子供っぽい、白音ーー子猫さんと良く似た姉妹らしい表情をのぞかせる彼女に好意を抱きつつ、私はこちらが提示する条件を抜粋します。
「まず貴女には一度カオス・ブリゲードのヴァーリ・チームに戻っていただきます。ああ、別にスパイをやれとか捨て駒にするためではなく、一番自然に妹さんと会えるのがこの組織だっただけですので誤解なさらないようお願いしますね?
記憶の改竄は済んでいます。これを使うのは業腹でしたが、今回を最後と決めて神の残したシステムとやらに介入させました。地球に住まう全種族、全存在の記憶を改竄しましたので、貴女がカオス・ブリゲードを一時的にでも抜けていたのを知っているのは私たち地球軌道上にいる者たちだけです。
空間をねじ曲げてる良く分からないナニカは面倒だったので適当に砲撃して地球圏内へと追い込み、強引にシステムの影響下へ落としましたしね。
なので勢力に関係なく貴女の存在と立ち位置は此処にくる前の時点まで遡っています。色々と齟齬が生じるでしょうが、何とか誤魔化してください」
「え、あ、はい」
「それで肝心の要点たる貴女と妹さんの密会場所ですが・・・これも面倒くさいので、眠っている最中の彼女を意識だけドリームランドへ連れ出し、そこで貴女と朝日が昇るまで延々と語り合っていただきます!」
「あ、そうなんですか・・・って、はいぃぃぃっ!?」
おお、なにやら斬新な反応だ。これは新しい。
「もちろん、相手に逃げ道を与えないよう細かい場所は厳選して選んであります。
まず、狂気山脈の先にあるとも言われる凍てつく凍河に立てられた瑪瑙の城カダス。
次に、灰色の荒涼とした土地に人間もどきが住まうレン高原。
最後に、観光名所として千の塔が建ち並び、インクアノク産出の美しい瑪瑙で塗装された道が通り、金色のガレー船に乗船して空にも通じる海へと至る光明の都セレファイノス。
ーー以上の三つがありますけど、どれがお好みでしたか?」
「最後の以外を選ぶ奴っているの!?」
いるんですよねぇ、これが。主にクトゥルー神話に登場する人間たち。
ーーまぁ、いくら好条件を提示したとて人様の夢に問答無用で介入する手は選びたくはありませんでした。
が、状況がそれを許してくれません。
「実は今度、グレモリーさんが夏休みを利用して実家へ・・・冥界の魔王城へ里帰りすると伝えてきましてね。正直、思いもしない展開だったため対応に苦慮している所です。
出発した後、彼女は王族の友として賓客扱いされ、貴女はお尋ね者の賞金首。絶対に会うことが出来なくなるんですよね・・・・・・。
計算外とは言え、さすがに宣戦布告がなされ交戦状態に入ったその直後に王族が一カ所に集まり大々的なパーティーを開くとは想像の埒外すぎました・・・」
「ま、まぁ確かにあれ聞いた時には私も驚いたけどね・・・。
テロ組織から戦争仕掛けられて初戦では不意打ちまでされて、極めつけに今度は犬猿の仲のバアルやアガレス、アスタロトまで含めた「新鋭若手悪魔たちの会合」よ?
これだけは言わないできたけど今だから言っちゃうわね。
・・・魔王サーゼクス・ルシファーって、頭良さそうに見えるだけで実はただの脳筋なんじゃにゃいかしら?」
「・・・反論できません」
そうなんですよねぇ。あの魔王様、絶対に乱世における統治者には向いてない。
強さは絶大、それを抑える思慮も有る。カリスマ性もありますし、同族を家族として愛し慈しむ優しい心も持っています・・・が、とにかく現実を見る目がない。
現実が立ちはだかったとき「みんなで力を合わせれば」とか言い出すタイプの勇者型魔王。それでいて勇者ほど周りと親しく接しては居らず、公務もあってか王としての立場を崩さずに一歩引いた場所からみんなを信じて任せている。いや、任せようとしている。
ところが、現実はこうですからねぇ。
「情報部からの報告によると、アスタロトの一派だけでなく旧魔王派に連なるアスモデウスまでもが現魔王派を見限りカオス・ブリゲードと接近、接触を繰り返しているとの事ですが・・・」
「ダメじゃん」
「・・・ですよねぇ・・・」
本当、どうする気なんでしょうかねこの状況を。実力行使しないと改善に向かう兆しは皆無なんですが、まだみんなを信じて任せるつもりなんでしょうか?
ここでアスタロトはともかくアスモデウスが・・・冥界における旧時代の象徴までもが裏切り者として粛正された場合、混乱が収まっても弱体化は避けられません。
ましてや彼らはすべて、カオス・ブリゲード本体の人員ではない。失ったところで何ら痛痒を感じない一種の捨て駒です。そんな連中に振り回されることとなる魔王様には同情を禁じ得ませんが、自業自得でもあるので正直微妙です。
「どうにも魔王陛下は三種族による大戦争さえ回避できればという思いが強すぎる感がありますね。それが枝葉で生じている諸問題の抜本的解決に望まない消極姿勢の根拠になってるような気がします」
「余計な刺激を与えて眠りこけてるドラゴンを起こすより、炎の寝息で住人が焼け死ぬのを黙って見ていた方が多少マシだって考えてるのかしら?」
「・・・・・・たぶん」
完全に開いた口が塞がらなくなってる黒歌さん。
彼女は冥界の現実を弱者の立場で見てきた第一人者、上の人たちがいかに間違った認識を根拠として愚かな決断を下しているか、ちゃんと情報さえ与えれば正確に正当へとたどり着ける、この世界では大変に希有な方です。
うん、やはり彼女しかいませんね。
「黒歌さん、貴女と白音さんとの再会タイミングはそちらに委ねます。私たちは毎日決まった時間に彼女の意識を夢の国へと連れだし、貴女と会っていた時間のことは「妙に現実感のある夢」として処理するよう細工することに専念しようと思います。
なので、貴女と「目覚めの世界」で再会した時が彼女にとって「離ればなれだった姉との数年ぶりの再会」になる。カオス・ブリゲードの一員としての再会ですが、それはそれでギャップ萌えが狙えますし、味方に襲われている彼女を来援して助けてもいい。
とにかく知識面でのアドバンテージを活かしてください。貴女はおそらく、兵藤さんを初め脳筋ばかりのこの世界において唯一の活路となりえる可能性を持っている」
「そ、そう? そこまで言われるとお姉さん照れちゃうにゃ~♪ ・・・でも、ヒョウドウサンって誰にゃん?」
「とにかく人材が足りません。強さはあるのに考えることが嫌いで、権力欲は強い人が多くて、でも統治する気はなくて、そんなダメダメな人たちばっかりが上に立ってるこの世界には貴女のような賢い、もしくは考えようと思えば考えられる存在が絶対に必要なんです。
ですから黒歌さん。我々は貴女とーーいいえ、私は貴女こそ共に歩めるパートナーとして求めたい」
今日一番の驚きの表情。黒歌さんは百面相な女性ですね。
・・・あと、背後から黒くて禍々しくて吐き下を催すナニカがナニカを垂れ流してる気配がするのは気のせいだと思いたい・・・。
つづく