…そうしないとまた長くなりすぎて電池残量がどうとかで焦りまくることに…(アワアワ)
「お待ちしておりました。この度のゲーム期間中、皆様方の案内役を務めさせていただく者です。以後お見知りおきくださいませ」
冥界に到着した私たちを迎えてくれたのはドリルツインテールの金髪お嬢様さん。
名前を名乗らないのは言いたくない事情があるから・・・ではなくて、おそらくは自分の名前は言うまでもなく知ってて当然の環境で育ってきたからきている癖故なのでしょう。悪意もなく含むところも感じない好感の持てる少女ですが、やや世間知らずで世慣れていないところがグレモリーさんに似ている印象も受けました。存外親戚か何かなのかも知れませんねぇ-。
「試合開始は夜からになります。それまで会場隣のホテルにある専用ルームにてお待ちくださいませですわ」
そう言って比較的近い距離を移動するのにわざわざ車を使うところに、実用主義一点張りの帝国式とは違うんだなぁと感じさせられながら連れてこられたホテルの一角。
そこで兵藤さんたちと合流した私たちですが、いきなり問題とも遭遇してしまう辺りが混沌帝国軍の悪癖というかなんと言うべきなのか。
「おやおや・・・冥府に住まう死を司る神、ハーデス殿のご登場か・・・」
アザ・トースさんが言うのが聞こえたのでそちらを見ると・・・・・・モモンガ様? じゃ、ないですよねどう考えても作品的に。装備も違いますし別人でしょう間違いなく。
とは言え設定としては似ているからなのか、見た目も共通点がいくつか見受けられる存在が数名の部下らしき黒ローブの一団を引き連れてこちらへ近づいてくるのが見えました。
魔術師っぽい格好をした大柄な骸骨の魔王様か何かみたいです。魔術師って言うか、呪術師と言った方が正確な気がする格好ですけど、細かい違いなんて私は知りませんのでね。
「悪魔と堕天使を嫌う貴方がここへ来るとは珍しいですな」
『ハッハッハ。鴉めが最近なにやら上でピーチク鳴いて五月蠅いので、視察がてらにとな』
そう言ってアザ・トースさんに挨拶を済ませた骸骨魔術師ならぬ呪術師さんは、兵藤さんへと目玉のない視線の向きを変えられて。
『ウェルシュ・ドラゴンか。バニシング・ドラゴンと共に地獄の底で暴れ回っていた頃が懐かしい限りだ』
「・・・・・・」
強い視線で睨み付けながら、それでもグレモリーさんの顔を立てるゲームであることを弁えて黙っていてあげてる兵藤さんはさすがです。大人になりましたね、貴方も。
――それに引き換え、最近ますます好戦性を沸騰させまくってきている内の幹部さんたちときたら・・・・・・。
「はっ! 父親追放戦争の折に不毛な地下世界を恩賞として兄から与えられて文句の一つも言えなかった腰抜け神が蜥蜴相手になら随分と偉そうなことだ。それとも蜥蜴本人ではないからかな?
自分より弱い相手にしか強く出れない無能な王は種族が何であろうと無様なものだ・・・あ痛っ!?」
「・・・配下の者が失礼しました。この非礼は後ほど正式に謝罪させていただきますので、この場はこれでご勘弁のほどを」
相手が不愉快そうなオーラを出し始めてたので、私はゼノヴィアさんを蹴っ飛ばして修正してあげてから、相手である冥府の王様だかなんだかに頭を下げました。
最近見つけた私の転生特典(らしきもの)、一応は皇帝という地位にあるためか部下に対しては罰則として痛みを与えることができ、軽くこずいただけでも相当に痛いみたいなのですよ。
まぁ、あくまで罰則用なので殺すとかは絶対に無理な能力みたいなんですけど、暴走を止めることぐらいには役立つ・・・かなぁ? 役立ってくれるといいんですけどねぇ本当に・・・。
『・・・・・・ふんっ! まぁよいわ。今日は楽しませてもらいに来ているのだからな。許してやる。せいぜい死なぬよう、以後は気をつけるがよい。今宵は貴様たちの魂を連れに来たわけではないんでな・・・』
そう言って、鷹揚な態度で歩き去ってくれようとする冥府に住んでるとかいう神様の一種ハーデスさん。
『キングダム・ハーツ』の無様な終わり方をした人と同じ終わり方を連想しちゃってたことは秘密です。
「アンタも流れ弾に当たって死なないよう気をつけてくださいね~? 今夜に限らず一度死んでる骸骨なんて殺す価値ない死体処理する趣味はアタシたちにはないもんで~・・・あ痛いっ!?」
「・・・本当にすみません・・・」
『・・・・・・(ムッツリ)』
「ふっはははははははっ!! やはりお前たちは面白いな兵藤一誠! それと、その仲間たちも! あんなにも注目の集める場所で、あれだけのことを起こせるお前たちは、やはり未知のものを感じざるを得ないぞ!」
「はぁ・・・」
そう言って私の肩を力強く叩いてくるのは、これから戦う当の敵チームリーダーで、サイラオーグさんその人。どうやら初対面の私たちに激励をしにきてくれたようなのですが。
そんな人にも絡んでしまうのが最近の私たち帝国軍が抱え始めている弊害、イチャモン癖。
本当になんとかならないもんですかね、この人たちは。
「はあ? なに言ってんのアンタ? そんなの空気読まずに好き勝手振る舞う礼儀知らずだったらいくらでも出来るわよ。ちょうど今のアタシみたいにね。そんなのにいちいち未知を感じてたら切りがない・・・あ痛ぁっ!?」
「・・・いい加減にしてください紫藤さん。サイラオーグさんもごめんなさいね?」
「・・・・・・」
私が頭を下げると、相手の方も多少不快ではあったのでしょうが大人しく引き下がってはくれたみたいです。
「――いや、若い戦士たちが戦いを前に気が逸るのは悪いことではないさ。夜のゲームを楽しみにしている。それではな」
長居すべきではないと賢明な判断をされたからなのか、手をヒラヒラさせて早急に帰って行くサイラオーグさん。
「・・・・・・」
その後ろ姿を見送る天野さんの瞳が妙に気にはなりましたが、私はひとまず黙っておくことにしました。
明確に問題を起こしている二人を目にした関係上、どうしても黙ったまま何もしてない人への対処が甘くなるのは人の性ですのでね。ご容赦を。
――そうして夜までの時間が過ぎ、レーディング・ゲームの時間が訪れます。
『あらためて、ごきげんよう皆様! 実況はわたくし、ラウド・ガミジンがお送りいたします!』
『今夜のゲームのルールですが、レーディング・ゲームではメジャーな競技の一つ『ダイス・フィギア』です。
ただ、諸事情により今回に限り特別ルールが一部に適用されていますので、そちらの方をこれからご説明させていただきたいと思います』
そんな感じで語られ始める、参加する側の選手たちの一員ではある私にとっては今更聞くまでもない内容を、それでも念には念を入れて確認のためと、後は素直に礼儀を守るためという二種類の理由により拝聴した私。
・・・ただ、正直なところ最後にこの質問が来るのは予想外でしたけどね。
『――と、このような事情により人数限界の問題からグレモリー眷属側に急遽助っ人選手として駆けつけてくれたセレニア眷属の方々なのですが、当然ながらハンデキャップがあり、一度敗北を宣言したり戦闘不能になった場合には以降の試合に出ることはかないません。
それでも試合は続行され、最終的に人数とダイスの出る目が合わなくなった場合にはリーダーである人間族のセレニア様が選手として出場すると言うことになっていますが・・・本当にこれ、大丈夫なんですか? 失礼ですが、危ないのでは?』
「問題ありません」
振られると思ってなかった質問なので多少・・・つーか、めっちゃくちゃ問題ありまくりな質問でしたが、それはあくまで質問されたこと自体が問題と言うだけのことです。
質問への答え自体はとっくの昔に私の心の中には出来上がっていましたから。
『なぜそう言い切れるのでしょうか? 安全確認のため、理由をお伺いしても?』
「あり得ないからです。絶対に訪れるはずのない事態にまで万全の対応策を用意しておく、無駄好きな責任者も珍しいでしょう? だからこそ私は安心してこの会場に選手として馳せ参じていられるのですよ」
一瞬の沈黙。
その直後、意味を理解した観客たち全員からの圧倒的な野次とブーイング。
当然の反応でしょうね。私は彼ら悪魔の代表相手に、私の率いる元人間と元堕天使の連合軍が完勝すると宣言したわけですから。
「何度でも言いましょう。私たちはあなた方悪魔の代表チームに完勝します。
そして、もし私の出番が回ってくることがあった場合には、大言壮語の代償として私の命ぐらいならお好きなように。ルール的問題ぐらいグレモリーさんがなんとかしてくれるでしょうからね」
そう付け加えると、今度は一斉に始まるサイオラーグ陣営へのラブコ-ル。
称えられてる方は迷惑そうにしていましたが、それでもゲーム自体は盛り上がりましたし、悪魔たちの好戦性もいい具合に発散できたんじゃないかと思います。
グレモリーさんたちにとってもヒール役は完全に私たちになったわけですからアウェーってことは全くなくなったでしょうしね。
「ずいぶんと派手にかましてくれたものね。おかげでこちらは冷や汗ものだったのよ?」
戻ってくると、グレモリーさんから揶揄されてしまいました。
まぁ、確かに演出過剰だったことは確かですからね。謝罪しておきましたが、それでも言ってることに嘘はついていなかったので、その点については謝罪の必要性はないでしょう。
「・・・どうして、そこまで言い切れるの? 敵は・・・サイオラーグたちは強敵揃いなのに・・・」
「・・・・・・???」
グレモリーさんが不思議そうな顔をして、不思議なことを質問してこられました。
どうしてもこうしても・・・ねぇ?
「どうしてって・・・普通に当たり前のことを言ったまでなのでは?」
「・・・あなたたちが私たち悪魔に完勝することが当たり前と言うこと?」
「違います。彼女たちが私のために戦ってくれていて、私の背中を常に守ってくれているからです。
王の命は家臣に委ねられるものであり、少なくとも私の下駄はとうの昔に彼女たちの手元に預けてありますから、生きるも死ぬも彼女たち次第が当たり前なんです」
「―――っ!!!!」
「未熟を自覚していようとも、相手が臣下の礼をとって王として遇してくれるからには、私は王であらなくてはなりません。
皆を率いて戦陣に立つ力がない王だと自覚しているならば、せめて臣下の誇りを汚さないよう勝利を信じ、宣言し続ける。それが最低限こなしておくべき義務というものでしょう?
後は信じて任せるだけです。準備が終わって号令を下した後に王がやるべきことも出来ることも何一つ残ってないのが必勝の態勢と言うものだそうですからね」
そう告げて自分の席へ戻っていった私にはグレモリーさんの顔は見ることが出来ません。
ですから彼女がどんな顔をしながらこう言っていたのか、全く分かるわけがないのですよ。
「・・・簡単に言ってくれるわね、異住セレニア。見ていなさい、いずれ私は貴女を超える王になってみせるのだから―――」
そんなこんなでレーディングゲーム開始です。
つづく