堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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『魔王・天粕夕麻編』として影使いの男とのやり取りから書き直している最中だったのですが、途中で急にアイデアを閃きましたので話を先に進めさせて頂きました。魔王版の影使い編は後日にでも。

前半から後半まではシリアスですが、終盤でギャグ一色になります。ご注意ください。
久し振りに言いますけど、この作品はフィクションです。実在する人物団体、および原作とは一切まったく関係ございませんのでご注意を。


43話「魔王・天粕夕麻編。魔王勇者×殺人鬼×日本の英雄派?」

「ーーむ」

 

 二条城にある庭園でイッセーたちが来るのを待ちわびていた曹操が、思わぬ珍客の来訪を察知したのは英雄派の中では唯一と言っていいほど希有な素質『真の英雄になれる可能性』の持ち主であるが故の“危機感”によるものだった。

 

「・・・? どうしたの? 曹操。なにかあった?」

 

 ジャンヌ・ダルクがいぶかしみ、

 

「奴らが来たのかい? だとしたら嬉しいな。なにしろ予定よりも早く着いたことになる。こちらの想像を上回っている相手と戦えるなら光栄だ」

 

 ジーク・フリードが嬉々として剣を振りかぶる。

 

 組織内でも曹操に次ぐ実戦部隊のトップエース二人が気づいていないと言うことは、英雄派の中でこの危機に気がついているのは自分だけということになる。

 

 ーーまだまだ組織としては未熟だなーー

 

 そう嘆息しなくもない事実ではあったが、むしろ彼はやる気を増していた。

 なぜなら彼ら英雄派は、生まれつき弱い人間の集まり。生物として格下の存在が天をも落としてみせると活き巻きながらここまで来たのだ。下から這い上がり、上位にある者から王座を奪わずして何が英雄か! ーーそういう想いが彼“だけには”明確に存在していた。

 

 だから解る。

 今この場所へと向かってきている敵はイッセーたちではないことが。

 この敵はイッセーたちとは違い、英雄に打倒されるのを良しとしない悪魔やドラゴンではないことが。

 この敵はーー人が目指す夢と野望の前に立ちふさがることを、自らの役割として架した存在だということが。

 理想を追い求め、胸に灯した夢と野望の光を熱く滾らせる勇者たちに恐怖と絶望を与え、さらに強く燃え滾らせるための薪としてくべようとする者。人類にとって、越えなくては前に進めなくさせてしまう壁。

 

 

 即ちーーー“魔王”と言う名の神が与えた試練である。

 

 

「・・・・・・っ!? ジャンヌ! ジーク! 九尾を守れ! 奴らの攻撃目標は我々ではない! この攻撃は彼女への直撃コースを通ってくるぞ!」

『なっ!?』

 

 自分たちにとっては実験材料であろうとも、敵方にとっては人質という認識のはずの京都を裏から守り続けていた大妖怪への直接攻撃が来るとは微塵も想像していなかった英雄派は反応が遅れ、迫り来る黒い光に等しく飲み込まれては消し去れ急速に数を減らされていったーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「元帥閣下、露払いとして勇者の選別が完了しました。これで残っているのは、あの一撃を耐え抜いた気骨のある者たちだけとなったでしょう」

「ご苦労様です、ゼノヴィアさん。やはり英雄を目指している人たちを相手にするのですから、最初は驚異的で圧倒的な破壊の力を撃ち込んであげなくてはね。礼儀に悖ると言うものです」

「た~まや~♪ きゃははっ☆」

 

 制服を着て女子高生の姿を取った三人の『人を試す、傲慢なる神たち』は、初撃での目標達成を確信して進軍を再開した。

 偽りの京都であるなら遠慮は無用と、敵が行おうとしている実験の中心人物である九尾の狐を狙った『敵の実力テスト』に利用するため丸ごと吹き飛ばしてしまったのである。

 

「き、貴様等・・・なんて、事を・・・っ!!」

 

 東大手門に配されていた英雄派の一人(本来なら木場の相手をするよう命じられていた人物)が苦しげな声で糾弾してくるのを墜ちた聖剣使いは、鼻で笑って切って捨てる。

 

「反撃が届かない距離から一方的に敵を攻撃して行う虐殺がそんなに楽しいかっ!?」

「母親を誘拐して子供を泣かせ、『おまえらが人類の敵に生まれたのが悪い』と加害者が被害者ぶるのは愉しかったか?」

「!!! ・・・それは・・・っ! しかし!!」

 

 口ごもった敵兵にキツい視線を投げかけながら、ゼノヴィアはさらに追い打ちを掛ける。

 

「それに、九尾の大将殿にとっての誇りとは、今まで京の都を守り抜いてきた事そのものにあるはず。それを今度は自分自身の手で壊させられる実験に使われようとしているかもしれないのだろう? 貴様等の掲げる大儀的な理由から」

「・・・敵に作戦内容を教えてやるほど俺は浅はかではない」

「ならば結構、こちらの勝手な推測として聞き流してくれていい。仮にそうだった場合での、仮説の話に過ぎないのだからな」

「くっ・・・」

「九尾の狐を使って京都市内全域ーーもしくは日本全国にまで波及するほどの災禍を招くかもしれないとなれば、それは命をとして守り抜いてきた大切なモノを自らの手で破壊し尽くすことを意味している。死よりも辛い屈辱であり、苦痛だろう。

 ならばせめて、そうされる前に終わらせてやるのが彼女の覚悟と実績に敬意を表して同盟を結んだ我々の果たすべき義務であり誠意と言うものだろう。違うか?」

「それは・・・」

 

  キツい視線で親友に問いつめられて口ごもる敵兵。

 そこに親友のイリナが容赦なく追撃を掛ける。墜ちても尚、聖剣コンビは健在だ。

 

「答えはYes! そしてNo!

 私たちにとっての義務と誠意はアンタたちにとってのNoであって欲しい選択肢で、アンタたちにとっての作戦目標を完遂するためには私たちにとってのYesは全てNoであるべき間違った結論よ! 敵と味方なんてそんなものよね! だって、どっちともが『自分は正しい、お前ら間違い』って言い合うのが戦争なんだもの! だから今の私たちはスッゴく愉しいわ!」

「・・・・・・」

「それに、どうせアンタたちが私たちの立場だった場合には絶対同じことしてたでしょうし、私たちがアンタたちの立場でも同じ事してたと思うもの! 断言する!

 だって私にもアンタたちと同じで他人殺して『正義だ大儀だ』のたまってた黒歴史時代があったんだもの! だから同類! 人類皆兄弟!

 ラーメン、かーめん、冷やソ~メ~ン♪」

「ーーっ!! 貴様等キチガイどもと一緒にするなよ、我々は・・・っ!!」

「人魔倒して英雄になるための聖戦中の実験材料手に入れるために徒党を組んで、夜中に婦女子さらってった変質者どもの下っ端が何言ったところで説得力カケラもな~い。

 てゆーか、ボロ負けして醜態さらしながら自分たちの正当性解くのは負け犬くさ~い。そう言うのは復讐戦挑んで勝ってから言えば~? そういう思想なんでしょ? アンタたちの組織が掲げてるタ・イ・ギって? ね☆」

「ぐぅっ・・・・・・!!!」

 

 弱点を突かれて黙り込む英雄派の一人。

 英雄としての誇り故に黙り込まざるを得ない彼に、イリナはまたもや遠慮容赦のない追撃を与えて、おまけに止めまでもを刺していく。

 

「待っててあげるわよ? 高みの空からアンタたち弱っちいのが這い上がってくるのを、神様気取りの視点で見下ろしながらずぅ~っと・・・ね。

 だって、それが強くなった強者だけに許された特権なんだもの」

「・・・・・・」

「相手より強いから、殺される覚悟で挑んできた相手を自己満足で殺さずに気絶させたままで放置してやれる。相手より弱い奴には殺してもらえる権利さえも相手の胸先三寸次第。

 つまりは戦場で敵と向かい合った瞬間から、弱い奴の生殺与奪は強い方のモノですって献上しているようなもんよね~。キャハッ☆」

「・・・・・・」

「あ、別に背中から刺し殺してくれても、一切まったく私は気にしないから殺っちゃってくれても構わないわよ?

 戦場で敵を前に背中さらして殺されるようなバカは『仇討ってやる価値すらない馬鹿でーす』って、自分で宣言している様なもんだから気にしなくていいの、いいの。自己責任で死ぬリスクを犯して挑発したんだから、殺された後でグダグダ文句言う資格はありませ~んって感じ?」

「・・・・・・」

「そう言う自己満足で死にたがる馬鹿が言いそうな台詞があったわよね、昔に。

 『ボクは自分の無駄死にを飾らないと英雄にはなれませーん』だったっけ? アハハハハっ☆」

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっーーーーーーーーー!!!!」

 

 誇りを傷つけられて激高し、男がイリナに向かって捨て身の特攻を仕掛けてくる。

 

「我々の大儀と覚悟を見よーーーーーーぐふっ!?」

 

 自爆するつもりで突っ込んできた男を背中から刺し貫いたゼノヴィアが、冷たい視線で侮蔑の言葉を吐く。

 

「油断して敵に背中をさらすのは馬鹿だと言ったはずだ。聞こえなかったのか?」

「ぐぅ・・・卑怯な・・・。だが、しか・・・しーーーーーー」

 

 すぱん。

 

 ・・・・・・コトン。

 

「初めから相打ち狙いで死ぬ覚悟を決めての自爆特攻。そうすれば格上の相手にも勝ちを得られるチャンスが訪れるとでも思ったのか? 馬鹿が。思い上がるのも大概にしろ。

 その程度の覚悟で勝利が得られるなら、戦争で負ける者など等の昔に一人もいなくなっている。自分と相手の生死を運などと言う他人任せにしてどうする気だったのだ? 汚らわしい!」

 

 落とした敵兵の首を踏みつけ、力を込めて踏み潰しながら、黒く染まった墜ちた聖剣使いゼノヴィアはこう言い切る。

 

「死ぬ覚悟など、敵を殺すつもりで戦士となった時点で決めて於かなくてはならないもの。敵の命を奪いに来ておきながら、自分自身は死にたくないなどと抜かす糞野郎をお前は許すことができるのか? 阿呆めが。

 そのような生きる資格もないムシケラどもなど殺されるのが、むしろ必然。頭数に入れて計算している奴らは脳に蛆が沸いているのだ、戯けがっ!」

 

 心底不快だという想いを隠そうともせず、ゼノヴィアは胴体だけとなった敵の死骸に唾を吐きかける。

 

 戦場は殺し合うための場所だ。殺したくない、死にたくないと泣きわめきながら銃を乱射して偶然にも当たってしまった者たちが命を落とす汚らしい混沌空間なのである。

 そんな場所に自ら望んで赴いてくるのが戦士なのだから、命など戦士になると決めた時点で捨てていて当然。

 自分が生きて家族のもとへ帰ってくるためには、自分以外の誰かの家族を殺さなくてはならず、皆その覚悟のもと『生きるために殺し合っている』。

 

 それなのに『死ぬ覚悟を決めるのが特別だと思いこんでいる馬鹿者共』のなんと多いことか! 大勢の他人を殺してきた自分の死には特別なモノな意味を求めようとする浅ましい心根が転生愛天使となってからのゼノヴィアには酷く汚らわしい感情に思えて仕方がなかったのだ。

 

 敵本陣へ向けて進撃する陣列に戻り、敵の首魁はこのようなクズでないことを心の底から希求した。

 

 

 ーー悪魔だから堕天使だから異教徒だからと、肩書きでもって相手の人格を否定してきた自分に今更『命の重みに優劣はない』などと綺麗事を囀る資格があるなどとは微塵も思えない。

 ましてや自分は戦闘狂。強さで人を計ろうとするキチガイでしかない。武人を謳うには血で赤く染まりすぎた殺人鬼だ。

 

 そもそも、殺し殺されることに生き甲斐や誇りを覚えると言う時点で頭がどうかしているとしか思いようがない。それを職業として税金で行うのが軍人という救いがたいクズどもなのだから、今更人道もヘッタクレもない。自分の悪行を誤魔化すための詭弁ならば教会所属時代に聞かされた分だけで間に合っている。

 

(故に私は、これまで流し流させてきた血の量に報いるためにも戦闘狂としての道を究めて見せよう。その為にはより強い敵がいる。戦い甲斐のある敵との戦い。

 憎しみという雑念を抱く気にもならない、ソイツを斬り殺すことだけに全神経を集中させられるほどの強敵と戦い討ち果たしてこそ、戦闘狂の本懐というものであるはずだから)

 

 強敵との戦いを欲する心とは、敵に優劣を付けること。強さで敵の価値をランク分けすること。

 自分から見て、弱い者は下で、強いと感じた者なら上という風に他者を自分の基準でランキング別に決めつけてしまうこと。

 自分の基準こそが絶対とする、傲慢なる神の視点。

 

 今のゼノヴィアはその一面的事実を知っている。それが全てではないことも含めて思い知っている。

 だから言い切るのだ。人の命の価値を選別する者として居丈高に堂々と、恥ずかしげもなく悪びれもせず。

 

 

「くびり殺すなら鼠よりも虎の首の方がよい。当然だな。

 戦場で雑兵一人の価値など二束三文で売り叩かれる、腐った蜜柑よりも価値を下げられてしまう物でしかないのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー来たか。攻撃範囲に含まれていなかった、周囲に配置していたバランス・ブレイカーたちを倒してきたにしても遅かったね。待ちくたびれてしまったよ。

 いくら俺たちの中でもバランス・ブレイカー使いは重要な戦力とはいえ、これほどの大規模破壊を成せるキミたちが手こずる程にはなれていないと思っていたのだけど?」

「その分、休養はゆっくり取れて体力も回復できたでしょう?」

 

 夕麻の返答にジャンヌとジークフリードがムッとした顔になる。

 「お前たちに合わせて待っていてやったのだ。感謝しろ」と言う意味での挑発は、傲り高ぶった強者の喉元を食い破ることに人間として勝利の活路を見いだしている彼らにとって都合の良いものではあったが、こうまで堂々と開けっ広げに上から目線で見下される相手としては、やはり癪なのである。

 

「それに先ほどの目立つ一撃で、イッセー君たちも現場で大きな異変が起きていることを察知し得たでしょう。狼煙も兼ねた砲撃だったことですし迷うことなくここへ最短コースを通って辿りつくはず・・・あなたたちが想定していたタイムリミットは、当初の予定を大幅に短縮せざるをえなくなったのではありませんか?」

 

 続く一言で二人は焦りを見せ始めた。確かにこれは不味いと。

 当初立てた作戦を実行することは、今となっては不可能。しかし代わりの戦略を立てるには時間が不足しすぎている。

 数の上で今はほぼ互角。だが、ここまでの大爆発を感知されたのではセラフも動き出すだろうし、外の連中はコイツラの手で大分減らされてしまっている可能性が高い。

 赤龍帝の到着だけでも厄介なのに、この上さらに九尾の狐でグレートレッドを呼ぶ術式が完成していないのだ。

 予定より時間が速まったことと、どう言うわけだか京都各所から流れ込んでくる地脈のパワーが妙に鈍い。先ほどまでは原因不明だったが、今ならわかる。

 

 こいつらが“ナニカの細工を施したのだ”ーーと。

 

 

「ご名答。流石です、誉めてあげましょう。ご褒美として頭でもナデナデしてあげましょうか?」

 

 顔色を読んだらしい敵指揮官の挑発的な口振りに、ジャンヌとジークは殺気立つ。

 

 ・・・対して曹操は静かに、だが鋭い視線で夕麻を睨みつけ問いただしてくる。

 

「ーーキミたちの目的は俺たちの計画を阻止することではないな。もしそうであるなら先の攻撃の折りに波状攻撃でもって九尾の狐を仕止めていたはずだ。

 俺たちは自分の身を守りながら他人を守る程度のことは出来るつもりではあっても、流石に身動き一つ取れない人質を守りながら防ぎ切るには限界がある。ジリ貧だし、それに何より“たかが実験程度で死ぬのは馬鹿らしい”と言う戦略条件がある。

 あくまで今回の一件は、英雄になるため一段一段登っている階梯の一つにすぎない以上は味方を死なせてまで続行する価値はない。まして、キミたちの初撃で味方を殺されてしまった無能者の指揮官である俺には尚の事だ。

 にも関わらず、キミたちはこれだけ手の込んだ仕掛けを施してきている。なにかしら別の思惑があると踏むのが当然だと思うが如何に?」

 

 曹操の答えは夕麻を満足させ、ゆっくりと両手を広げてゆきながら世界全てを抱きしめたいと願っているようなポーズで彼女は言った。キチガイ台詞の真骨頂を。

 

 

「・・・・・・私はあなたたち人間を愛しています・・・・・・」

「「「・・・は?」」」

 

 いきなり敵から愛の告白をされた英雄派呆然。

 そして、告白相手の気持ちなど全然考えていないように、ふざけているとしか思えない台詞を彼女なりに大真面目な態度と誠意あふれる口調でもって礼儀正しく自らの思いを伝えてくる。

 

 

「困難を前にして屈することなく立ち上がり、格上の存在である神や悪魔を倒してこそ人は英雄になれるのだと叫び、世界を相手に戦いを挑まんとする貴方たち人間の持つ本質的な勇気は本当にすばらしい・・・。称賛に値します。

 その為には英雄の忌み嫌う権道さえ用いることを辞さないとする決意と覚悟など、あまりの感動に涙があふれて止まらなくなるほど激しく心を揺り動かされました。

 私は貴方たちの困難に立ち向かい、克服していく度に輝きを増す英雄としての光をもっともっと見たい、見続けたい・・・」

 

「だからこそ私は貴方たちの前に立ちふさがりにきました。貴方たちの成し遂げたい夢と野望の難易度を上げることで、それを乗り越えたときに増すであろう、貴方たちの輝きを更に強く激しくするために・・・・・・っ!!

 ただ、そのためにセレニア様にお留守番をさせて私も彼女にも寂しい想いを我慢させてまで赴いて来たのです!」

「えーと・・・・・・」

 

 ポリポリと頬を右手の人差し指でかきながら曹操は、その冴え渡る頭脳でもって相手の言ってる言葉の意味を理解しようと彼なりに必死になって頑張っていた。

 

 ーー主を置いてきたと言うことは、今回の件は主からの命令を無視した独断専行であり、敵勢力全体の戦略から見ても造反に近い暴挙なのだろうと推測される。

 そしておそらく彼女が言ってる『セレニア様』と言う名の主は前回の戦いで介入してきた銀髪の少女だろう。つまり銀髪の少女が自分たちに言ってた言葉は全部なかったこととして考えた方が良いと言うこと。

 むしろ逆方向の視点が必要かもしれない。

 あの理知的な少女の命令を無視して動き出したということは、今回の攻撃理由を理性で考えてはいけないと言うこと。もっと感情的で願望にも近い衝動なんかを基準として考えた方が、もしかしたら近いのかもしれない。

 

 

「・・・推測になる上にご都合主義な予測すぎて申し訳ないのだが、キミたちが俺たちの元に来た理由は俺たちのためであって、赤龍帝より先にもっと高い壁を越えておくことさえ叶えば赤龍帝にもより格上の存在に邪魔されようとも退けることが出来るようになる。

 それ故にキミは俺たちに試練を与えるために来たのであって、倒すつもりや計画を邪魔するつもりは微塵も無かった・・・・・・この推測をどう思うかな?」

 

 正直、外れてて欲しいなーと心底から願っている曹操の期待とは裏腹に、天野夕麻は大きく首を振る。方向は上から下への縦方向に。

 

「その通りです」

 

『はた迷惑な! そして有り難迷惑すぎる!!』

 

「さらには、私の試練を乗り越えた後にやって来るであろうイッセー君たちもまた貴方たちとの戦いの中で己の内なる輝きに気づいてパワーアップするかもしれません。

 もしそうなったら、まさに理想郷! 私にとってのパライゾの完成です! 善悪定かならぬ混沌の中で行われる覇気と覇気とのぶつかり合いこそ我が王道! 我が理想!

 戦って戦って、何度負けても諦めることなく戦い続けて勝ち上がってきた者たちだけが、勝利の栄冠と英雄の座を与えられるに相応しい存在であることを証明できるのですから!」

 

『言ってることは正しいけど、張本人のお前が言うのはおかしいと思います!』

 

「そしてぇっっ!!!

 

 

 ・・・・・・全然人の話を聞いてない夕麻ちゃん。こう言うときの彼女はセレニアの言葉さえも届いていません。ただひたすらに、何処までも何処までも行けるところまで全力疾走で突っ走っていって、壁か崖か谷底があるなら喜んで突破していき、さらに突き進み続けるだけの存在です。・・・本当に傍迷惑きわまりないな、このキチガイは・・・・・・

 

 

「勇者たちの前に立ちはだかる魔王は、まず手下である親衛隊に戦わせるものです!

 私は王道を愛し貫く者・・・この度も王道展開を遵守し、お誂え向きな親衛隊を用意してきました! 見てください! 京都の危機を前に立ち上がった、日本の転生英雄たちの勇姿を!!」

 

「!? まさか! この国にも俺たちと同じ英雄派が!?」

 

「そうです! 神の悪意か嫉妬によって力を弱められてしまった為に今まで雌伏の時を過ごさざるを得なかった、貴方たち日本以外の英雄たち“ではない”倭を掲げて戦う英傑たち!

 貴方たちが神へと挑むために力を手にしたならば、彼らにもまた私たちが神と崇めるセレニア様の試練と成功報酬によって転生英雄に相応しい力を与えてあげたのです!」

 

『な、なんと言う悪しき奇跡の力をぉぉ・・・っ!!』

 

「さらには京都御所から少し北へ行って、地下鉄から烏丸線鞍馬口駅から歩いて三分のところにある御霊神社は、怨霊を神として崇める御霊信仰発祥の地!

 平城京から長岡京へ、そしてこの平安京へと遷都されていく歴史の流れの中で非業の死を遂げた早良親王こと崇道天皇をはじめ、汚名を着せられたり陰謀に巻き込まれる等の理由で無念の死を遂げた人々が御霊神として奉られている有り難い場所!

 己が野望によって都を害そうとする者たちから京の人々を守る守護者たちを覚醒させるのに絶好のポイントなのですよ!」

 

『くっ・・・抜かったぁ・・・!! そこまで日本史に興味なかったから調べなかったのが、こんなところで徒になるとはぁぁ・・・っ!!!』

 

「さぁ、来なさい! 御霊信仰によって京の都の守り神となった護国の和風英雄たち!

 今こそ夷敵から日の本を守り抜くため立ち上がるのです!

 カムヒア! 御霊の転生英雄集団! 《御霊四天王》!!!」

 

 

 

 パチン!!

 

 

 ・・・・・・・・・・・・キラン。

 

 

 

 ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーードスンっ!!!

 

 

 

 シュバ! しゅばばばばばばばっ!!!

 

 

 

 

「ぬぅぅぅぅぅぅああああああああああああああっっ!!!!

 殺すならぁぁぁぁ誰にも負けぬぞぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!

 『森長可』ここに剣斬!!」

 

 

「ハァァァァァァァッけっけっけーーーっ!!!

 寺を焼くなら私に任せい!!! 火薬と火には一家言有り!!!!

 『松永久秀』ここに推惨!!」

 

 

「ふっ。――ホァアアアアアアアアアアアッッ!!!

 古いこととは悪いこと! 新しいことみな良いことである!!!!

 『宮部鼎蔵』!! 日本の敵は皆死すべし!!」

 

 

「ホォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・っっ!!!

 京都を戦場にした戦は任せんしゃい!!!

 『西郷隆盛』でゴワス!!」

 

 

「にょーーーーーーにょにょにょにょぉぉぉっ!!!!!」

 

 

 

「み!」

「んな!」

「そ!」

「ろっ!」

「にょーっ!!!」

 

 

 

『日本の転生英雄から選抜された《ミルたん特戦隊》!!!

 お呼びに応じて即惨戦!!!』

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あれ?」

 

 夕麻ちゃん、唖然呆然ポカーン。

 その後、何とか再起動して先頭に立ってるちびっ子に質問してみる。

 

「あの、ミルたん伍長? 京都を守るために集まってくれた御霊四天王たちは・・・・・・」

「にょ? にょ~~~・・・・・・にょっ! にょっ! にょっ! にょ~~~~っ!!!」

「・・・『弱っちかったから適当に気絶させて置いてきた』って、言ってるみたいですね・・・」

「・・・・・・」

「・・・見事なまでに京都の敵ばかりが集まっている気がする部隊だな、オイ・・・」

 

 

 

 グダグダしてきたけど・・・・・・続く!

 

 

『えっ!? 続くの!? このヒドすぎる設定の状況のままで!?』

 

 

 ーー続くんです!

 

 

英雄派との決戦で使い捨て予定のオリジナルキャラクター部隊の設定:

 

『ミルたん特戦隊』

 帝国軍人でありながら放し飼い状態で適当に放置されてるミルたんが、どう言うわけだか理解不能な理由で集めてきていた(らしい)日本の転生英雄たち4人をお供として率いている部隊。

 

 基本的に「にょっ」としか喋らないミルたんと言語的コミュニケーションを取るのは不可能であり、イリナとゼノヴィアが「わかる時にはわかる」程度が限界。

 

 一応セレニアの意を汲んで動いてくれているから普段は問題ないのだが、今回の夕麻のように命令違反で動いてしまった場合には『そのつもりは無いけど結果的に阻害してしまう』場合が希にある。

 

 本人に悪気はない・・・・・・と、思う。多分だけれども。


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