堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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本当は英雄派との戦いをアンチたっぷりに描くはずが・・・申し訳ございません。
(例:ジャンヌのドラゴン聖剣見たイリナが『ご先祖様に遠く及ばないからってレッテル張りに利用した存在に安易にすがって強い強いと喚くパチもん扱い』とかです)

前々から書きたがっていた言霊イリナとゼノヴィアの戦う理由を書いていたら興が乗りすぎました。反省します。
次こそ真面目にアンチバトルを書くぞ(ふんす)


41話「反英雄さまたちご出馬です」

 前回までのあらすじ。

 

「ワシのこの手が黒く染まって真っ赤に歪むぅぅぅぅぅぅぅっ!!!

 予算が欲しいと闇夜に吠えるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!

 ダーク・ネス! エビル・フィンガァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!」

 

『グォォォォォォォッン!?』

 

「ゴッくーーーーーーーーっんっ!?」

 

 

 ・・・・・・なんか色々とめちゃくちゃになってます! 以上! 前回のあらすじ終わり!

 

 

 

「これは・・・少々、乱入が多くなる過ぎたかな? が、祭りの始まりとしては上々だ。アザゼル卿!」

 

 曹操が霧の中から俺たちに向けて楽しそうに宣言してくる。

 

「我々は今夜この京都という特異な力場と九尾の御大将を使い、二条城でひとつ大きな実験をする! ぜひとも制止するために我らの祭りに参加してくれたまえ!」

「なんだとぉっ!?」

「また会おう」

 

 霧が濃くなって、一寸先も見えなくなって、一泊あけて霧が晴れたときには俺たちは元いた観光客に溢れた渡月橋周辺に戻ってきていた。

 

「母上を・・・どうして・・・・・・」

 

 体を震わせる九重。俺には頭をなでてやることぐらいしかできなかった・・・。

 

 そんな風に、さっきまで戦闘していた俺たちグレモリー眷属が簡単に気持ちを切り替えられないでいる中でも一人だけーーーいや、一勢力だけ例外が存在していた。

 言うまでもない。こう言うときには妙に行動が早くなるセレニアたちのチームだ。

 

「どうやら互いの目的が一致しなくなったようですね。私たちは一端お暇しておいた方が良さそうですし、ここからは分派行動と参りましょう」

「な!? おい、待てよセレニア!」

「紫藤さん、ゼノヴィアさん。遮音力場を発生させてください。会話が外に漏れると面倒ですから。・・・ありがとう御座います。

 ーーあらためまして、兵藤さん。あなた方はどうせいつも通りに九尾の狐さん自身の命を救うことを最優先課題に掲げて救出作戦を展開するご予定なのでしょう?」

「ったりめぇだ、そんな事は! 九重が泣いてんだぞ! 自分勝手な奴らの都合に巻き込まれて浚われてしまったお母さんのために泣いてる女の子を見捨てて勝っても、部長をはじめとしたみんなは、喜ぶはずがねぇんだからな!」

「《巻き込まれて泣いてる女の子》・・・? ・・・違うでしょう」 

「な、に・・・?」

 

 急に声のトーンが変わったように感じた俺は、勢いが失速するのを実感させられる。

 逆にセレニアの方はいつもと変わらず・・・変わらないように見えるのにナニカが違って見えて仕方がない奇妙な空気をまとわせながら真っ直ぐに俺の目を見つめて切り込むように視線の刃で刺し貫いてくる。

 

「彼女は、カオス・ブリゲードと交戦状態にある悪魔勢力と手を組んだ日本最大の妖怪勢力《京都》の長の娘であり、お母さんは当主さま本人です。

 しかも今回の事件では、敵の首魁と矛を交える可能性を承知の上で兵藤さんたちにお母さんの奪回を自ら頭を下げて願い出てまでいる。巻き込まれただけの子供と呼ぶには、些か主体的に戦争へ関与しすぎと言わざるを得ません。

 国家と戦争しているテロリストに捕らわれたお母さんの奪回を中立勢力だった第三勢力の長の娘が国軍主力メンバーに依頼することは相対的ながらも『テロリスト数人の命よりもお母さん一人の方が価値がある。彼らを殺すことになったとしても母だけは救ってください。それが京都が悪魔勢力と全面的に手を組む条件です』ーー京都勢力の総意としてそう言っていると敵に受け取られても文句は言えない行為ですからね」

 

 尤も、とセレニアはまとっていた奇妙な空気を和らげて、どこか悪戯好きな子供を思わせる微妙な笑顔を浮かべながら俺にだけ皮肉な一言を言い添えてくる。

 

「普段の私生活において『自分はかわいそうな女の子だから』で、地位に伴う責任を放棄した行動や発言を連発するお姫様のわがままを許してあげるのがライフワークになっている貴方には受け入れ難い政治のお話なんでしょうけどね・・・」

『ぷっ。あっはははははははははははっ!!!!!!!』

「ーーーっ!!!」

 

 俺は笑い声を上げたイリナとゼノヴィアを睨みつけるためセレニアから視線を移し、その隙にセレニアの側には夕麻ちゃんが降り立っていて、俺がなにかしようとするのを目力だけで牽制する。

 

「私たちは京都の大将さんと交わした盟約に従い、京都を守るために行動します。京都という土地と、そこに住む人々と、その知人や家族友人たちに被害が及ばないことを最重要課題としてね。

 無論、責任者に責任を取らせる形で組織全体を守ることができるのであれば、私たちは躊躇いなくその選択肢を選ぶつもりでいます」

「ーーっ!! 待て、セレニア! お前・・・まさか京都の御大将を京都全体を守るための生け贄に使おうって考えてる訳じゃないんだろうな!?」

『なぁっ!?』

 

 俺たち、その場にいるセレニアたち以外の全員が驚愕のうめき声を上げた。

 一人を犠牲にしてみんなを救うだなんてやり方は、犠牲を肯定する手法だ! 部長だったら絶対に選んだりしない選択肢だ! やっぱりセレニアと俺たちとは根本的に価値観が合わない!

 

 ・・・が、いき巻く俺とは対照的にセレニアは肩をすくめて見せながら苦笑するようにつぶやくだけ。

 

「勿論、言うまでもなく比喩表現です。まぁ、そうすれば誰も死なずにすむなら選ぶのでしょうけど、そんな都合のいい選択肢が用意されてること自体ウソくさいですからね。本当か否か証拠がある場合に限り押すことになる最悪のスイッチだとでも思っておいてください。

 要は、そのぐらいの覚悟で望むというお話だったということで」

『ガクんッ』

 

 肩すかしを食らう俺たち。・・・たまにじゃなくていつもな気がするけど・・・割と本気でコイツの考えてることは偶にマジで分からなくなるんだよなぁ・・・。

 

「とはいえ、いざという時に九尾の狐さんの命を優先するあなた方と、京都の方をためらうことなく選ぶ私たちが共に行動することは、決断が必要なときに互いが互いの邪魔にしかならない結果を招くでしょうからね。

 方針が分かれたと実感したときに分派しておいた方が結果的に良好な関係が長続きさせられるものですよ」

「それはまぁ、いいんだが・・・しかしどうする? お前たちが俺たちと別行動を取るのは良いとしても大まかな方針は伝え合っておかないと分派したところで各個撃破の餌食になるだけだと思うが?」

「御尤な意見ですね、アザ・トース先生。ですので私たちあなた男方より十分ほど前から行動を開始することにします。そちらは準備が整い次第、万全の状態で彼らの討伐に向かっていただければ結構ですよ。

 ーーああ、先読みは容易ですので裏を掻こうとかの無益な行為で時間は浪費されない方がよろしいかと思われますよ? 間に合わなくなっても構わないと言われるのでしたら別ですけども」

「・・・そりゃどうも。こちらの手の内全部見透かせるそちらの手札を晒してくださってありがとう御座いましたねぇ」

「どういたしまして」

 

 儀礼的なやりとりの後、不貞腐れるアザゼル先生に背を向けて去っていこうとしているセレニアたちに俺は、前から気になっていた質問をこの際だから投げかけてみる。

 

 

「なぁ、イリナ、ゼノヴィア。お前たちはその・・・いいのか? そんな人殺し上等な道に付き合わせられて・・・・・・本当に、辛くなったりとかはしないのか?」

「「はぁ?」」

 

 俺は夕麻ちゃんを殺してしまったときのこと。一度は本気で好きになった夕麻ちゃんにヒドい罵声をぶつけられて傷つけられた当時のことを思い出しながら聞いてみたのだが、対する二人から帰ってきた返事は「コイツなに言ってんだ? 正気か?」と声に出さなくても顔見りゃわかるハッキリとした侮蔑と見下しに満ちたものだった。

 

 

「・・・いきなり何を戯けたことを言い出しているのだ貴様は・・・」

「いや、だって・・・」

 

 

「『斬れ』と命じられたら親兄弟、親類縁者すべてだろうと斬り殺し、『死ね』と命じられたら『喜んで!』と笑いながら愛剣で喉を突ける。ーーそこまでしたいと思える相手だからこそ、剣士は主に忠誠を誓えるのだ。主に誓った忠誠に特別なものを見出すことが出来るようになるのだ」

 

 

「!!!」

 

 

「ただ、家臣の家柄に生まれたからという理由で捧げられた忠誠など義務感だ。己が己自身に課した誓いを守っているに過ぎん。

 『家臣は主を守るべき者』という、自らが望んだ理想の自分を実現させるために主を利用している不忠者だ。そんな屑なら殺してしまえ。

 『この人のためならば!』と思える相手以外の前では膝を折るな、折らせるな。剣士の誓いが穢されているようで非常に不愉快だ」

 

 

 

 

「私はゼノヴィアほど真面目じゃないからね~。忠誠を誓った主君を、自分の願望実現マシーンとして利用するのは悪い事じゃないと思ってる」

「ならーーーー」

 

 

「そういう使われ方をしているんだと主君自身が承知していて、『それでもいいから君が必要』って言われたときに『私に出来る範囲でよければ私なりに☆』って、気持ちよく笑顔でその手を取れるのが、忠誠なんだろうなって思ってる」

 

「・・・・・・」

 

「主君は家臣を利用してる。家臣も主君を利用してる。利害で結びついた主従関係。

 そんな欲得まみれで穢れきった汚い関係を維持するために努力して、相手に裏切られないために相手のことを理解しようと努力して、報酬目当てで報いてもらうために相手の作戦を成功させようと必死になって努力しあって。

 一方的に求めるのでも、捧げるのでもない。お互いが捧げあって求め合い続ける損得勘定で結びついた絆だって、立派な忠誠心と言っても間違ってないんじゃないかなーって、私は思っているんだよねー」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 ・・・正直なところ、俺はこの二人を誤解してたんだと思う。ずっと人殺しを楽しむように改造されたんじゃないかって疑ってた気持ちが、今は跡形もなく無くなっていた。

 

 ああ、そうか。今やっと分かったわ。コイツらは狂ったんだ、自分たち自身に。

 前から持ってた欠点を恥ずかしげも無く堂々とさらけ出して『これが私だ! どうだ? 醜いだろう?』そう言ながら自分の道を誰の意見も聞かないで驀進していくことを選んじまった結果が今のコイツになった理由なのか。

 

 でも。

 だったら。

 

 俺の『元カノ』は、一体どういう形で今の姿になったんだろう・・・・・・・・・

 

 

 

「イッセー君」

「ーーっ!?」

 

 

 考えていた本人の口から俺の名を呼ばれて思わずドキリとしながら振り向くと。

 そこにはセレニアを片手で抱えていつでも飛び立てる準備を完了させてる夕麻ちゃんがキツい視線で俺のことを睨んできていた。

 

 

「セレニア様は約束を破らないお方・・・あなたたちにあわせて十分前行動で攻めると宣言された以上は、決して違えたりはなさらないでしょう。

 あなたたちが順当通りに進んでくる限り、必ずやパーティー会場には間に合うことを保証させていただきます。

 ですがーーーーーーーーーー」

 

 

 シャキィィィィィィィッン!!

 

 

 ・・・・・・目にも留まらない早さで片手抜刀した黒塗りの日本刀の切っ先を俺の眼前に突きつけながら、夕麻ちゃんは妥協を許さない苛烈な瞳に燃えるような決意と覚悟の炎を灯しながらハッキリと聞き間違えようのない声と口調で俺に宣告を告げてくる。

 

 

「決して立ち止まるな、振り向くな、俯くな、前を向け。

 自分が選んだ夢の旅程で甘えるな。殺す覚悟で殺した犠牲者の躯に囚われるな。

 相手を殺すと言うことは、相手のすべてを否定すると言うこと。

 生きる権利も、生きるために選んだ道も、手段も、思想も、現在も、今も未来も過去も家族も!

 自分が生きる価値がないと決めつけて殺した相手にも、誕生を望んだ親はいる。あるいは、いた。

 その人が生きていくために協力してくれた人たちがいた。その人が生きてくるのに利用して犠牲にしてきた人たちがいた。

 今の自分が否定して殺した相手の背中には、後のあなたを生かしてくれる誰かがいたのかも知れない。

 それらすべての可能性を。犠牲者たちを。生きる糧となってくれた全ての者たちの努力と苦労を完全否定し、『おまえたちの犠牲は無意味だ! 無意味だったと俺が決めてやる!』と断言して放つ一弾が相手を殺す殺意を持った一撃なんだから」

 

 

「あなたに否定された命の記憶は、今も私の心にある。あり続けている。

 あなたに殺されたことで無駄死にしてしまった部下たちのことも、ちゃんと覚えている。

 あのときの記憶は私にとって屈辱の記憶で、大切な思い出だ。私が死に至るまでを記憶した敗北と失敗の記録だ。今の私を形作る切っ掛けとなってくれた最高で最悪の大切な思い出なんだ。

 あなたが今も私のことをどう思っているのかなんて知らない。今も昔もあなたの気持ちになんか興味はない。

 でも、少なくとも私を殺したときのあなたはーー完全否定の拳を放ってきた時のあなたは、もっと迷いのない真っ直ぐな目をして私の目を直視していた。『これからお前を殺すぞ』と、言葉よりも雄弁に目が告げていた。その記憶が私をここまで強くしてくれた・・・」

 

 

「昔のあなたが好きだった私のことで今のあなたが思い悩むのは勝手だけれど、間違ってもアスタロト領で見せたような醜態は二度と晒して欲しくはない。

 力に溺れて、インスタントな回復能力に縋った当時の私を完全否定して殺したあなたが力に溺れた無様な姿を晒す日が来るなんて想像もしていなかった。あんな無様な怪物モドキになるあなたを目にする日が来るなんて想像すらしたくなかった。

 力に怯え、力に縋り、一時だけの力を得るため自分の全てを捧げてしまう哀れでか弱いトカゲに落ちたあなたを想像するなんて吐き気しかしない」

 

 

「あなたは『完全否定の権化』だ。自分の信じ貫く正義以外のすべてを否定する、絶対正義という名の最強暴君だ。

 あなたは自分の手にした物を誰にも渡したくないから拳を振るう独占欲の持ち主だ。

 自分の物は何一つとして他人にあげたくないと願い、戦う世界一の大富豪だ。

 そうやってあなたは戦ってきた。倒してきた。勝ち続けてきた。今更になって自我を捨てるような愚劣すぎる選択は、私が許可しない。力付くでも取り消させる」

 

 

 

「あなたには恩義がある。仇がある。恨み言が山ほどある。あの時のあなたには様々な感情が入り交じった善悪定かでない想いの全てをぶつけるに足るナニカがあった。

 私の思い出を・・・・・・、私が私を否定して前に進むための屈辱の思い出を・・・・・・

 私の全てを! 今までを! そしてこれからを歩む私の人生! その全てを!

 あなたの勝手で穢そうとするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

つづく


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