堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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更新です。とある事情によりセレニアと合流する回です。
その結果としてカオス化します。いつもの事さ~♪

*最近の反省を込めて今話は少し短めです。


39話「たまたま先祖が英雄だった運のいい人たちご一行様です」

「あー、昨日はすんげぇ夜だったけど、なんとか天龍寺の最寄り駅まで到着・・・と」

 

 俺は大きく伸びをすることでバスに座り続けたコリをほぐす。

 昨夜はアーシアから俺との間に「子供が欲しい」と言われたり、元教会コンビが妙に優しくしてくれてたり、夕麻ちゃん・・・いや、レイナーレの視線が時折俺の股間に向けられてるような気がしてたのに勃たなかったりと、不思議なイベントてんこ盛りな一日だったけど今日ぐらいは普通に京都観光を楽しみたい。

 

 京都住まいの妖怪、九重ちゃんのガイドもあるし問題なし! 安心安心・・・・・・

 

 

「・・・ってぇ、なんで京都にいるんだよセレニアぁぁぁぁぁっ!?」

「なんでって・・・この時期に制服姿の女子高生が昼日中の京都市内を歩いているとしたら、それは修学旅行中だからしか有り得ないのでは? 秋の修学旅行で京都選ぶ学校なんて、日本全国津々浦々いくらでも見受けられるでしょうに」

「じゃあなんで班別行動してないんだよ! おかしいだろ! 修学旅行中に一人きりで単独行動許されてるんて! それともお前の学校にも手下を潜り込ませてあったりするのかよ!?」

 

 俺に糾弾されたセレニアは気まずそうな雰囲気まとって俯いた。

 ふっ。勝ったぜ・・・俺は生まれて初めてコイツに勝利したーーーーーー

 

 

 

「・・・空気読んで自ら一人になりましてね・・・。歴女でもない普通の女子高生グループに、京都の私は相性悪いみたいでしたので・・・・・・」

「ーーー心の底からごめんなさい・・・・・・」

 

 バス降りたばかりなのに、いきなり土下座してる俺。

 歴史知識ある奴にとって、大河とかを基準に語る京都の話は禁句なのだとレイナーレ・・・夕麻ちゃんにこの前教えてもらってた俺は空気が読める男、兵藤イッセー。

 

 そんな訳なんで京都観光メンバーの中に、急遽としてセレニアが加入いたしましたとさ。

 

 

 

「ここが渡月橋よ。そう言えばアンタたち知ってる? 渡月橋って渡りきるまで後ろを振り返っちゃいけないらしいわよ?」

「なんでですか?」

「それはね、アーシア。渡月橋を渡っているときに振り返ると授かった知恵がすべて返ってしまい、男女も別れるって言い伝えがあるからなのよ。まぁ、こちらはジンクスに近いって話だけどーーー」

「絶対に振り返りませんから!」

「いやいや、だからジンクスだって。本当に生真面目だなー、アーシアは」

 

 桐生が冗談っぽく言って笑いながらアーシアをからかっていると、俺のすぐ隣の元聖剣士ーズの二人から、

 

「なんなのだ、その中途半端なオルフェウスもどきは・・・振り返ったときのペナルティ軽すぎではないのか・・・?」

「確かにねー。つか、どうせ忘れるんだったらシェオールの方がよくない? 救いあるし」

「いや、イリナ。それは後期ユダヤ教における冥府の国シェオールであって、初期の頃のだと神に逆らう者を突き落とす場所であったはず。苦しみこそあれ、救いはない」

「あれ? そうだったっけ? 無駄に長く続きすぎると話が二転三転して初期設定とは似ても似つかない世界観になってくるから、覚える方としては面倒くさいのよねー。

 あ~あ、やっぱ国も王も支配者も宗教も二、三百年くらいで新陳代謝で交代しないと動脈硬化おこして苦しみながら余命を延ばすだけの老害になっちゃうもんなのね」

「お主等・・・・・・京都の裏と表を支配し続けて千年になる我らの前でよくも抜け抜けと・・・・・・」

「まぁまぁ。ーーところで、アルジェントさん。別れるもなにも、あなたと兵藤さんはお付き合いをしてらしたんですか? 彼が学校にいるときにはグレモリーさんとイチャツいている時間の方が長いのだと、天野さんからは報告を受けているのですけれど?」

「イッセーーーーさーーーーーーっん!?」

「ち、違うんだアーシア! これは誤解だ陰謀なんだ! 俺は大好きな女の子の大好きなオッパイなら、別け隔てなく平等に愛せる男なだけなんだよ!」

「受け入れたつもりでしたけど、改めて聞くとなんだか腹立ってきますね! その微妙すぎる愛の告白セリフには!!」

 

 ・・・・・・なぜだか始まる、橋の真ん中あたりでおこるキャットな猫パンチファイト。

 セレニアがいると、いつも大体こんな感じになってしまう・・・・・・。

 

 

 ーーーが、その時!

 突然ぬるりと生暖かい感触が俺の全身を包み込み、気づいたときには俺、アーシア、九重と木場、そしてセレニアたち以外のすべての人たち、周辺にいた一般人が一人もいなくなっちまってた!

 そして少ししてから立ちこめてくる霧らしきもの・・・・・・

 

「この霧、見覚えがあるぞ・・・!」

 

 俺のつぶやきに木場が『ディメンション・ロスト』ってロンギヌスの能力だと教えてくれた。

 

「お前ら! 無事か!?」

 

 黒い翼を生やしたアザゼル先生が降りてきて語ってくれた。俺たちだけが別空間に、この霧によって転移させられたんだと。

 

 ガシャ、ガシャ、ガシャ・・・・・・

 

 やがて橋の向こう側から聞こえてくる、金属を擦り合わせるような音。

 霧の中から出てきたのは武装した複数の人影。その内の一人が前に進み出てきて俺たちに向かい、軽く挨拶してきやがった。

 

「はじめまして、アザゼル総督、そして赤龍帝」

 

 学生服の上から漢服らしきものを羽織った黒髪の男。手には槍を持っていて、不気味なオーラを感じさせてきてるからにはただの槍じゃないんだろうな。

 

「おまえが噂の英雄派を仕切ってる男か」

「曹操を名乗っている。三国志で有名な曹操の子孫ーーいちおうね」

 

 男が名乗ってきたけど・・・曹操? しかも三国志!?

 仰天する俺に至極冷静な声で、答えを返してくれる少女がここにいた。

 

 

 

 

「いや、悪魔やら堕天使やらが出まくっているのに、今さら歴史上の有名人の子孫が出てきたぐらいでなに驚いてんですか、あなたは。

 史実を小説化した三国志よりも、旧約聖書の天使やら吸血鬼やら妖怪やらが実在していたことの方に驚きなさいよ。そっちの方が本来ならフィクション種族なんですからね」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・相変わらず、身も蓋もねー・・・。

 

 

 俺はシリアス顔でバトルに入ろうとしていた所に盛大な冷や水ぶっかけられたせいで意欲を削がれまくり、ポリポリと頭をかきながらいつの間にか傍らまできていた銀髪の少女の頭に視線を落としながら言う。

 

「いやさ、セレニア。一般人的にはそうかもしれないけど、俺たちってもう悪魔に転生しているわけだから、驚く度合いとしては歴史上の英雄とかの方が上なわけでだな?」

「ならせめて架空の英雄が出てきたときに驚いてください。曹操さんなんて妻は多いわ、道中で色んな人と関係持ってるわ、そう言う時代だわで、孫の代に一族郎党皆殺しにされたって言うのも本当か嘘か確かめようがない大変女好きで有名な方なんですからね」

「・・・俺もそう言うのには少し憧れるから、あんまり責められると俺も微妙に傷つけられちまうんだからな・・・?」

 

 ハーレム王を目指してる者として英雄たる者、斯くありたいと願う正常な男の願望。

 それに対してソッチ方面には妙に淡泊なセレニアは軽く肩をすくめてみせてから、

 

「でしたら曹操さんではなくて、劉備玄徳が崇めていたご先祖様でも目指す対象とした方が合ってると思いますよ? 後宮に数千人の美女を囲い込み、政は疎かにしながらも毎晩ハーレムに通うことだけには手を抜かなかった、ある意味でソッチ系の偉人な方ですのでね」

「マジで!? そうだったのかよ!? 劉備玄徳って真面目で勉強熱心な人望の塊みたいな熱血正義感を連想してたんだけど! 横溝三国志の影響で!」

 

 日本人少年なら誰もが読む横溝三国志! あれ以外で三国志呼んでる奴を俺はあまり知らない。

 

 セレニアは頭を振りながら、「全然違います」と断言してみせている。

 

「史実の劉備さんは若い頃から塾をサボり、ヤクザ相手に喧嘩と博打に明け暮れていた真面目さとは縁遠い人でしたが、困っている人を見かけると放っておくことが出来ず、強者が弱者を虐めているのが何よりも嫌いで必ず突っかかっていったという・・・まぁ今で言うところの人情派ヤクザ屋さん、もしくは雨の日の猫に傘差し出してあげる不良さんみたいな人だったらしいので、兵藤さんには多分こっちの方が合っているのではないかと」

「あー、確かにそんな気がしてきたなー。俺も将来的には王様の跡継ぎ目指してるんだし、王家の血を引いてる設定は少しだけ燃えるな! 部長の伴侶にふさわしい的に!」

「・・・・・・さっき言った劉備さんのご先祖様が漁色家すぎたせいで、劉備さんと同じ血を引いてる平民さんが中国全土に数千人規模でいたんですけどね、史実では・・・・・・」

「マジでか!? 血の正当性なさすぎてるじゃん!?」

 

 使えねー! 部長の夫になるのにふさわしい血として使えねーじゃん! 意味ねーじゃんかよ!

 

「ちなみにですが、史実の曹操さんは宦官という・・・まぁ、後宮に入れられた王様の愛人たちに手を出せないように“切られちゃった人たち”の家に養子として入られた方で、流れる血の価値としては尊敬されながらも軽蔑もされるという極めて微妙な血統だったんだそうでしてね。それが原因で死後に功績を抹消されちゃった人でもあります。

 確か、彼自身が厚遇してお寺まで建ててあげた当時は新参の仏教勢力によってでしたかね?

 仏教では宦官は悪しき存在でしたから、旧体制を復活させたい既得権益層と中華での勢力拡大したい仏教勢力にとって都合のいい英雄は改革派の曹操さんよりも、保守派の急先鋒である正しい血筋の王朝復活派の劉備さんだったという事なんでしょうね、きっと。

 まぁ、そもそも下克上して玉座を手にした大英雄なんて一人の例外もなく簒奪者か侵略者のどちらかでしか有り得ないわけですし、曹操さんも成り上がりの野心家にすぎなかったと言われてしまえばその通りの人でもあります。守旧勢力から見れば紛れもなき文化の破壊者でしかなかったのも事実ですからね。立つ側が反転すれば正義も反転するものですし。

 そう言う時代だったとはいえ、やりきれないお話ですよね全く・・・あ、失礼。話に夢中になりすぎちゃいました。どうぞ続きをご自由に」

「あ、ああ・・・・・・」

 

 手のひらを上にして差しだし「どうぞ?」とジェスチャーしてみせるセレニア。

 超気まずそうな曹操。・・・・・・あ、なんか少しだけ親近感。

 

 ーーいろいろと空気台無しになった中でも、九重ちゃんのお母さんを心配する心だけは揺らがなかったのか、彼女は曹操に向けって大まじめに詰問してくれた。九重ちゃんナイス! グッジョブ!

 

「そ、それはとかく貴様! 母上をさらったのはお主たちだな!? 母上をどうするつもりじゃ!?」

「お母上には我々の実験にお付き合いいただくのですよ」

「実験・・・じゃと?」

「だが、その前にアザゼル総督と噂の赤龍帝殿に挨拶と、少し手合わせを願いたい」

「それは構わん。だが、九尾の御大将は返してもらうぞ。こちとら妖怪との大事な会談を成功させたいんでな」

「ふっ・・・。それでは力づくでどうぞ」

 

 ふざけたことを言いやがりながらニヤリと不敵に微笑む曹操。

 

 ーーー部長たちなしの俺たちグレモリー眷属と、曹操率いるカオス・ブリゲード英雄派との戦いが今始まる!

 

 

 

 ・・・・・・そんな俺たちのすぐ真横では。

 

 

「うわー、幼い子供の母親さらった誘拐犯が偉大なご先祖様の名前名乗っちゃってるわよ。キモ、マジでキモ。犯罪者風情が強いだけで偉そうにするなってーの」

「むしろ浚った母親を人体実験のサンプルとして使うあたりに、英雄らしさを微塵も感じらんのだがな・・・・・・コイツには偉大な先祖と同じ名を戴くことへの誇りは存在しないのか?」

「だからこその『“いちおう”曹操』と名乗っているのでしょうね。テロリストに落ちぶれた出涸らしの子孫が偉大なご先祖様の異名を辱めることの無いように・・・と。

 気持ちは買いますが、出来れば改名していただきたかったですね。私の愛して止まない人類史に不滅の名を刻んだ挑み続ける不屈の英雄たちと、同じ血を引いてただけで生まれながらに人間以上の存在になれる資格を持っていた『英雄種族』の方々には彼ら星の開拓者たちの名まで継いでいいというのは些か不公平というものです」

「子孫なんですし、出来れば少しモジって欲しかったですよね。アイススケートの織田信成さんとかみたいに」

 

 

『なんの努力もなく、ただ血が繋がっていると言うだけで先祖が築き上げてきた物を存続できて恥じる必要もない特別な生まれの人たちって楽できていいねー(ですねー)』

 

 

英雄派代表の四人「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

つづく




補足説明
セレニアは歴史知識をひけらかすタイプではありませんが、勘違いや誤解から過去を否定されたり、間違った賞賛されたりしてるのを聞くと我慢できなくなるタイプです。

結果としてクラスじゃ浮いてます。でも、慣れてるので気にしてません。自覚した時には寂しくなりますけども

「今の日本を築いてくれた人たちは、今までに生まれてきて死んでいった人たち全員です。
 自分の身近な御先祖さまに感謝を捧げるのは、お地蔵さまに手を合わせるのと同じく象徴的存在をとおして全ての人に感謝を捧げているのだと知るべきです」byセレニア

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