最近頭打ちだったことと、色々あって昔の事を思い出してるうちに7話目の「第五勢力『混沌帝国』参戦」を書いてた時に想定していた続きを思い出したので書き直してみた回です。
本来なら別作品の色々なキャラを織り交ぜながら拡大していく混沌帝国がアホっぽい無双をしていく話を考えてたものですから。
・・・・・・ヨーロッパにある小さな貴族領。
面積こそ狭く小さいが今時めずらしい、国ではなくて領主に任命された貴族によって統治されている歴史ある特別経済特区。
その地方の中央近くにある湖城。
古代ローマ時代から続く名門一族が長らく居城としてきた古い城であり、時間の蓄積と共に因習因果伝統執念妄執呪い・・・・・・それら全てを内包することで形作られる『神秘』
彼ら一族は、その『神秘』を自らが振るう「武術」にまで昇華することで歴代ヨーロッパの各王朝の警護役に任命させてきた『力による支配の歴史』を持つ。
神秘の薄れた時代である現代でさえ影響力は薄れることはあっても途切れることなく続いており、各国王室が外遊する折りには一族配下の者たちをSPとして随行させるのが不文律と認識されており、一種のステータスともなっていた。
ーーが、それらは表面上のことに過ぎない。ヨーロッパ王位継承の内紛や政変時にはかならず彼ら一族が裏で動き、多くの血が流されてきた。
それが故に一族の当主は公然と口にすれば只では済ませてもらえない血に塗れた二つ名として『陰の帝王』と囁かれ、恐れられ続けてきたのである。
彼ら一族の目的は只一つ。
自分たちの遠い先祖が交わりあった古の神々の支配領域を保持し続けるため、侵略してきたキリスト教勢力に食い込み、拠点である湖城がそびえ建つ自然豊かなガリア地方の支配権をあらゆる手を使ってでも守り抜くこと。その一点に尽きていたのであった。
そして今、37代目を数える一族の当主シュトルハイム伯爵の家名を背負いし男『クラウザー・シュトルハイム』は、自らの居城である閑静な湖城の大ホールで招かれざる客たちを相手に完敗を味わい尽くされていたのである。
「ば、バカな・・・・・・この私が指先一本触れられないだ・・・と・・・・・・?」
ボロボロになった身体を意地だけで動かし、私はなんとか目前に立ち睥睨してくる『少女たち』の姿を視界に納め、悪夢でも見せられている思いのもと凝視し続けた。
永い時の歩みと共に薄まっていようとも、我が一族は神の血を引く人類ーー神人だ。
『神気』を纏い、使いこなして敵を倒す。そのためだけに洗練されて極め抜かれた技と力。そのどちら共を児戯にも等しく弾き返してしまう人の少女たちなど聞いたこともない。
まさか、一族の中でも先祖帰りによって最も神に近しい存在となった私だからこそ使用可能な大技、『神秘拳』の必殺奥義《カイザーウェイブ》を正面から浴びておきながら、掠り傷一つ負わせられないとはね・・・・・・!!!!
「眉唾モノだと思っていたのだが・・・まさか『あの噂』が本当だったとはね・・・。
西欧諸国を練り歩き、神秘を見つけだしては刈り取っていく大陸からの新参者集団『ファンタズマ・キラー(神秘殺し』か・・・。
神秘に適う人間など、いるはずがないと信じて生きてきたのだがね・・・・・・」
最近ヨーロッパ諸国の同業者たちから噂だけは聞かされていたが、それを聞かせてきた彼ら自身でさえ話半分としか思っておらず、「笑い話として聞き流してくれ」と苦笑とともに告げられた一言が今になって酷く忌々しい気持ちで思い出される。あの時もっと真剣に話を聞いておけばと悔やまれてならない。
神秘殺したちは私の抱く感慨になど微塵も興味がないかのように我が城を家捜しし始めており、歴史と伝統に彩られてきたシュトックハイム城も今となっては無頼漢共が土足で踏みにじった足跡で満たされ尽くした薄汚い汚泥も同様の状態だ。
「まったく、古き伝統を尊重することを知らない僻地からきたばかりの蛮人たちはこれだから困る・・・・・・」
負け惜しみと承知ではなった私のつぶやきに呼応したのか、少女たちを指揮する一人の白人少女が私に目を向け瞳を細めさせる。
狡猾でしたたかさに満ちあふれた碧色の瞳には、どこかで見覚えがある気がしたが思い出すまでには至らなかった。
私は相手の目を侮辱と軽蔑とを持って見下し、軽侮と共に彼女たちが辿るであろう必然の未来を予言として吐き捨ててやることにした。
「君たちは何もわかっていない・・・。人の身では神には勝てないし、神に逆らった人類が幸福な最期を迎えさせてもらえた例は一度として存在しない。
人の犯してはならない行為にまで手を染めた愚か者の少女たちよ、君たちが苦しまないで死なせてもらえるよう地獄の底から祈っていてやるよ・・・・・・」
「くだらん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なに?」
言うべきことを言い終えて、さぁこれから背後に開いた穴から飛び降り死んでやろうとした矢先のことだった。リーダー格をつとめる少女が私のことを心底から「見損なった」とでも言いたげな視線と共に言い放ってきた言葉を耳にした私は立ち止まり、彼女のことを凝視し直す。
「敗北と勝利は、憎み合う相争いあう親兄弟に似ている。互いが互いを生きている限り否定し続けなければならず、否定しなくなってしまえば己が己で無くなってしまう。形ばかりを似せた木偶に成り果ててしまう。
否定しあい、戦い競い合い、勝ち続けることで負け続けることで永遠に互いの存在を定義しあうべき存在・・・・・・それこそ『勝敗』なのだ。
はじめから『勝てぬ』という前提で求める勝利など、強さなど、自分には初めから勝てると信じれる相手にしか適用されるはずがない」
「・・・・・・」
「求め続けること、極め続けること。貪欲に、強欲に、只ひたすらに求め欲しがり、届かぬ物にまで手を伸ばさんとする欲望こそが人の本質であり強さの真理。
神が頂点にあるなら殺してその座を奪わんとするのが帝王の道である。
誰よりも強き高みへと至りたいのであるならば、神は崇めても縋るべきではなかったなクラウザーよ。
自らの上に立つ者に『勝ちたい』と望む克己心が消えた時点で貴様の中身は消失していた。空っぽの器を守り抜くぐらいなら、武術家としての名誉を捨て去るべきだったのだ」
「・・・・・・・・・・・・知った風な口を聞いてくれるものだな・・・」
真理であり、正論でもあるのだろう。
だが、自分が「正しい」と信じた道を貫き通すのは想像以上に難しいことだ。難しいことだった。私のように自らの強さに絶対の確信を抱いていた者は特にな。
「己が強さだけを信じて、人一人で生きていくにはこの世界は生まれながらの種族差がありすぎている・・・。我々弱い生き物である人類には強者に楯突きながらでは生き残ることが出来ないほどにな・・・・・・。
強さを求め続けると君は言った。それは、これからも戦い続けていくことを意味しているのだろう。ならば君が辿り尽きたいゴールとは何処だ?
戦い続け、敗れ続け。戦って戦って戦い続けて君はいったいどこまで・・・どこまで征くつもりなのかね・・・っ!?」
血を吐くような想いで吐き出された言葉と怨嗟。そして嫉妬。
これほどまで純粋に上を目指して昇り続けられる、天井知らずの『慢心』。
かつての私が持っていたものだ。今の私がとうの昔に無くしてしまっているものだ。
だからこそ聞きたい。この質問の答えを。私の劣等感を少しでも和らげてくれる青臭い理想論を・・・っ!!!
彼女は問いかけてきた私を見下ろしながら「ふっ」と鼻で笑い飛ばす。
「無論、敵に敗れて殺されるまで。地獄の最も深き場所に落とされて終わるまで。
強敵に挑み、敗れ去るのは武人の恥。敗れることなく畳の上で往生するは恥以上の恥辱」
「・・・・・・あ、あ、あ・・・」
「なにより「お先真っ暗」の人生を進むことこそが人の生ではないか。いまさら地獄の底の闇に落とされるのを恐れてなんとする? 戦士として負けて死ぬのが怖いなら、生きるのを辞めてしまえば済むことよ」
「・・・・・・・・・あ、あ、あ、あ・・・」
「ーーーー今の貴様をこれ以上みつづけるのは哀れでならん。終わらせてやるから楽になれ。さらばだ」
そう言って右手のひらを私の方にかざし、魔力とも神気とも異なる不可思議なエネルギーを凝縮させた魔の波を放ち、私の意識を肉体諸共チリすら残さず焼き尽くされる。
魂が燃え尽きる一瞬前、彼女の傍らに歩み寄ってきた部下らしき一人の少女が彼女の名を呼ぶのが鼓膜に響く。
「ギース様」ーーと。
その言葉の意味するところを考える時間は、私に与えられてはいなかったがーーー。
「・・・ギース様。城の地下に秘密研究所らしき施設を発見いたしました。おそらく悪神ロキが使役する予定だったと思われる疑似魔獣の設計図と研究データの一部が記されていた資料が裁断されて捨てられておりましたので、現在修復作業を進めさせているところです。
結果はサウスタウン帝国軍駐屯地に帰還してからご報告に上がらせていただきたいと思います」
「うむ」
「それから、ロキとカオス・ブリゲードとの精神的つながりは皆無に等しかったらしく、ほとんど無視される形で城を間借りしていたようです。
城内を探索していたところ、クラウザー殿と懇意にしていたらしい『英雄派』の所属メンバー数名から奇襲を受けまして部下三名が戦死。一名が重傷。二人が軽い傷を負わされましたが、生きている者は戦闘継続可能なコンディションを維持しております」
部下の報告を聞き終えた、混沌帝国302独立外人部隊を率いる指揮官『ギース・ハワード』少将は、自分たちの攻撃で砕け散ってしまった高価だった歴史ある白磁の花瓶を見つけて「ふっ」とせせら笑う。
形ある物いつかは壊れる。たかだか人の数十倍から数百倍永く生きれるだけのカラスやら鳩やらコウモリやらが何かとうるさく騒ぎ立てる時代になったものだと。
「それから、英雄派が移送中だったらしいオーディンに仕えている側女らしき女を救出したのですが、如何致しましょう? 見せしめとして首を送り届けてやるのも使い道の一つであると愚考しますが・・・」
「やめておけ」
黒服レディスーツのサングラス少女からなされた提案を、ギースは一言の内に切って捨てる。
そして背後へと振り返り、他の部下たちがつれてきていた北欧主神の娘たちの一人、銀髪に鎧甲冑姿のヴァルキリーに歩み寄ると、その薄汚れた顔を見上げながら笑う。
かつての自分であるなら余裕で見下ろせていただろう相手にも、今となっては見上げなければ顔を合わせられない身長差さになっているのだから可笑しな物だと内心では苦笑しながら。
「慣れない牢獄生活できれいな髪がずいぶんと汚れてしまっているな・・・婦女子には優しくしてやるのが、元紳士としての礼儀と言うものだろう。逃がしてやれ。追っ手などの尾行も付けなくてよいぞ?」
「はっ」
部下が引き下がり、囚われのヴァルキリーを楔から解放すると相手はむしろ「侮辱されたことを悔しがる表情」で自分を助け出してくれた少女たちを睨みつけ、泣き出しそうな程弱々しい声でか細く問いかけてきた。
「・・・・・・・・・哀れみ、ですか?」
「そうだ。他になにか必要かね?」
迷いはなく、躊躇いもなく、躊躇もない断言。相手の顔に明らかなる絶望の線が落ちるのにも構わずにギースは募る。“それが弱いお前の今なのだと”
「戦場にあって弱いことは罪だ。弱い者には、自分の死に方すら選ぶ権利はあたえてもらえない。言われて傷つくプライドを持ちたいなら、せめて悔しさをバネに飛翔するぐらいのことはして見せてからにするのだな」
「・・・・・・・・・・・・」
たった一言でノックダウンされた銀髪ヴァルキリーが去っていった後、ギースと先ほどの黒服とが彼女に関しての会話を再開した。
「ーー後を付けさせろ。なるべく分かり易く、目立つ形でな。本命は別だ。最低でも7名を三台の車両に分けて追わせる尾行の鉄則を怠るでないぞ」
「御意・・・」
「それから奴を追う人員とは別に、回収もしくは救助にきた強者の後を追わせるよう他の部隊にも要請してやれ。手柄を独り占めしたのでは正規軍に昇格した後、何かと面倒そうだからな。
前線の雇われ軍人でしかない名誉帝国市民の段階から、功に逸るべきではない」
裏から世界を支配しようとしていた自分もずいぶんと丸くなったものだと感じながら、ギースはかつての怨敵、異母弟クラウザーの消し炭となり果てた後に残されていた人型の煤へと歩み寄り、踏みしめて進みながら穴の開いた壁の向こうに広がる青空へと向かい合う。
眼下に広がる湖の水気を帯びた風に髪をなでられ、かつて彼だった彼女は覇気を剥き出しにして右手を太陽にかざし、捻るようにして握り潰すジェスチャーをして見せた。
「今回の一件でオーディンは三種族同盟との強調を急がせることだろう。これで邪魔者は全て排除することが出来る。
ルーマニアのヴラド・ツェペシュ、味方を信じ切ることすらできない性根の腐った教会戦士共。ヨーロッパには手柄首になりそうな大物に事欠かない。奴ら全員を盤上へと引き吊り上げて、二度と降りてこられないようにしてやる。
何かを求めて走り出したからには、止まれば死ぬしかない窮状にまで追い立ててやる。誰一人としてワイン片手に戦争ゲームを見物していられる気楽な身分にいられなくしてやる。
我ら混沌帝国が、神帝セレニア陛下が世界をーーーいや、三種族が住む世界すべてを支配されるのだ。神秘共がどう足掻こうと、誰も我々を止めることなどできない!
ふは、ふははははは、ふはははははははははははははははははははっ!!!!!!」
その頃のイゼルローン要塞、皇帝私室にて。
「そう言えばヨーロッパの方ってどうなっているのでしょうか? 私、基本的には日本から出たことのないネイティブジャパニアンなんで、外国の方を現地で雇用したって聞かされてるだけなんですけども?」
「ご安心くださいませ、セレニア様。すべて順調に推移させております。今しばらくお待ちいただけるなら、欧州全土をセレニア様のクリスマスプレゼントに私まで付けて・・・」
「おい? ・・・そう言うボケいいですから、疲れるだけですから普通でいいですから。安心安全第一でもって、兵士の皆さん一人一人が生きて帰ってこれるようにすることを第一義と考えて忘れないでくださいね?」
「は~い♪ ちゃんとやってま~す♪」
「・・・・・・・・・(嘘をついてないように見えるんですけど・・・何故でしょう? 物すっごくヒドい事態が今もどこかで行われ続けているような気がして怖いです・・・・・・)」
ちなみにこのルートだと超マイペースに戦っていく混沌帝国軍が描かれる予定でした。
ディオドラ戦では遠距離からビームライフルで狙撃したり、遠方に配置しておいた砲兵隊が偽装を解除して効力射で大地ごと敵を馴らしたり、ドライグイッセーを倒すために降下猟兵が降りてきまくったりとかです。