堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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今話は1話内で前半と後半とに分かれた二部構成の作りとなってます。
前半は少しギャグ要素有りで、後半は真面目にアンチしてます。


34話「ひねくれディオドラ理論、ひねくれセレニア理論」/「ひねくれ者たちと愚劣なる赤!」

「よっしゃあああああああっ!! 何はともあれ、アーシアは無事! 装置も壊した! ディオドラも意気消沈・・・ってぇ、程ではないけど戦うやる気はなくなっている!

 俺たちは全員元気! 俺の妄想が仲間を救う! 任務完了じゃねぇか!」

「イッセーさん!」

「アーシア!」

 

 高らかに拳を突き上げて勝ち鬨を上げる兵藤さんに、全裸に剥かれた近い過去の記憶など無かったかのように抱きついていくアルジェントさん。

 鎧をまとっているため思うように彼女の体を堪能できないのが残念そうに見えなくもない彼ですが・・・許容範囲内なのでしょうね。普段の変態行為と比べたならば。

 

「信じてました・・・。イッセーさんが来てくれるって」

「当然だろう。でも、ゴメンな。辛いこと、聞いてしまったんだろう?」

「平気です。あの時はショックでしたが、私にはイッセーさんがいますから」

 

 感動的な場面です。本来ならば私も涙を流して「良かった、良かった」と満足しながら見守って、二人の新たな門出を祝うべきところ。

 この世界のジャンルがラブコメならば迷わずそうしたとしても非難はされない。異能バトル物であったとしてもおそらくは同様でしょうーー本来ならば。

 

「部長さん、皆さん、ありがとうございました。私のために・・・」

「アーシア。そろそろ私のことを家で部長と呼ぶのは止めてもいいのよ? 私を姉と思ってくれていいのだから」

「ーーっ。はい! リアスお姉さま!」

「よかったですぅぅぅっ! アーシア先輩が帰ってきてくれてうれしいよぉぉっ!」

 

 途中で倒れてた人も復活して喜びにむせび泣き出してます。

 大団円の内にフィナーレの幕が下りてくる。暖かい家族の肖像がここにはあります。

 

 ーーそして、そんな弛緩しきった空気を肌で感じて、溜息しか出てこない空気読めないひねくれ者たちもまた、この場所には存在しておりました。

 私たち混沌帝国軍と、投降してきた敗将のディオドラ・アスタロトさんです。

 

「さて、アーシア。帰ろうぜ」

「はい! と、その前にお祈りをーー」

 

 熱烈に包容し合った後でアルジェントさんが告げてから天に向かって何かを祈ろうとしているのを見て、私たちは遂に我慢しきれずに大きく声に出して溜息を付いてしまいました。「はぁ~~ぁ・・・・・・」と。

 

『・・・・・・・・・』

 

 和やかムードが霧散して、敵意と悪意でピリピリした空気が室内を満たす中。私たちとアスタロトさんは兵藤さんたちから非難がましい目を向けられて、私たちは逆に彼らを白い目つきで見下ろす側に立つことになります。

 

 はい、戦争が起きる最大の理由。敵対関係成立、と。

 

「・・・・・・何かしら、ディオドラ。私たちの家族の絆に言いたいことでもあるわけ?」

「いやいや、まさか。君たちのホームドラマじみた絆には特に言うことはないし、思うところもないよ。むしろ良いことなんじゃないかな?

 孤児ばかりのグレモリー眷属を、数少ない暖かい家庭で育てられてきた二人を中心に疑似家族を形成するのは精神衛生上、実に都合がいい。尊敬に値する」

「そうですね。親の愛情と兄夫婦の愛情、その他大勢の使用人さんたちからもを絶大な愛情をもって育まれてきたグレモリーさんと兵藤さんなら、象徴的な意味での母親役と父親役に相応しい条件を与えられています。

 親から子へ注がれる愛情を知らない子供たちと、親の愛情を知りながらも反抗したいお年頃な体の発育ばかりが良く育ったお嬢様口調の方々にとってはバランスの良い入れ物です。大事にすべき家族であり家庭であると私も心底からおもっておりますよ」

 

 別段、他意なく誉めたつもりでしたが状況が状況です。多少、刺々しい言い方になってしまったのは見逃していただきたいものですねぇ。

 

 なにしろーー

 

「そ。誉めてくれてありがとう。微塵も嬉しくはなかったのだけどね」

「それは残念。誉め言葉自体に嘘はなかったんだけどなぁ」

「・・・道化を装った戯れ言は聞き飽きたわ」

 

 グレモリーさんの纏っていた空気が変わりました。ーーと言っても、私の場合は表情とかからの推測になるんですけどねー。他の人には赤いオーラみたいなのが見えてるらしいのですが、私にはどうもそう言うのがサッパリなものですから。才能ないにも程がありますよね、本当に。

 

「言いたいことがあるなら今のうちに言って於きなさい。あなたはお兄様の元に赴いて復命しなければならない身。

 数少ない名門を取り潰すことにはならないと思うけど、あなた個人が収監される可能性は非常に高いわ。そうなってからでは私と直にあって言葉を交わす機会は今より遙かに少なくなることでしょう。ですので今だけは無礼を許します。

 ディオドラ・アスタロト。現魔王サーゼクス・ルシファーの妹として汝に発言を許可する。思い残すことがないように・・・」

「誠に恐縮の極み。ではお言葉に甘えましてーー戦闘はまだ終わっていない。戦場は未だ形成されたままだ。

 自分たちを殺そうとしている敵が潜んでいるかもしれない状況下での家族ごっこはお勧めしないよ。美しい絆は敵の目には奇襲をかける好機としか写らないからね。奇襲で大切な仲間を無駄死にさせたくないなら、卑怯者からの忠告は参考にした方がいい」

「・・・あなたは私たちを害する意志を放棄したからこそ、降伏したのではなかったのかしら?」

「君たちが属する国家間同士の戦争と、僕が寝返っていたカオス・ブリゲードのような非合法組織の抗争には共通点がある。それは、協定違反をしたときに罰がくだされるかどうかは罰するものと罰されるものとの力関係に依存していると言うこと。

 どんなに正しい手順を踏んで敵将が降伏してきたとしても、死間である可能性を否定できる者は味方の内には存在しない。

 ルール違反をしたときに罰を与えてくる秩序そのものを破壊しようとしている敵の良識に期待するなんて狂気の沙汰だと僕だったら思うけど?」

「同感ですね。

 たとえ自分たちから見て敵が敵足りうる力を失っていたとしても、敵がまだこちらの事を「倒すべき敵、憎むべき敵、殺すべき敵」と認識している限り敵の中では未だ戦闘は継続中です。自分たち勝利者側の都合と価値観だけで敗者側の認識まで決めつけるのはリスクを増すだけです。

 自分たちを憎む敵の降伏を信頼するなら、それなりの理由と根拠と裏切られる危険性とを考慮した上で覚悟も決めておくのは指揮官として当然の義務であり責任でしょう」

 

 

 人を信じるためには、まず疑え。それが私の信念です。

 自分の信じたいものを信じるのは簡単であり、裏切る危険性を考慮しないで手を差し伸べる優しさは甘美な麻薬になりうるのでしょう。

 

 ーー糞食らえです。最悪の事態を想定せずに差し伸べられる優しさも、裏切り行為を悪し様に罵るくせして相手を信じた自分の『人を見る目のなさ』について言及しようとしない自己愛からくる信頼もすべて。

 敵でも信じられる自分カッコEEE!・・・に酔いたいだけの厨二思想です。それで実際に被害がでたら洒落にならん。断固否定させていただきます。

 

「・・・この場所にも、まだ敵が残っているかもしれないから、一刻も早く立ち去るべきだとあなたは主張するのね? 異住セレニア・ショート」

「はい。・・・と言うか、お祈りなんて敵を殺す場所の戦場でやるもんではないのでしょう? 戦場は神に許しを求めて祈りを捧げる暇があったら一歩でも前へ前へと進むべき場所です。

 立ち止まって空見上げたところで、硝煙に隠れて空さえ見えるかどうか怪しい場所なのですし」

「ま、まぁ、それも一理はあるとは私も思うけど・・・」

「あと、あなたたちは羽根生やせるくせに、得意とする戦場は地上の歩兵部隊なのでしょう? 棒立ちしている暇があるなら少しでも動き回って狙い撃ちされる危険性を下げさせるのは歩兵戦術の基本ですよ?」

「陛下。仰られることはご尤もではございますが、流石に今このタイミングで戦術論は持ち込まれない方が常識的だと存じます」

 

 ゼノヴィアさんにツッコまれた!? 爆破大好きボマーナイトの異名を持つ帝国軍随一の爆破狂に常識的意見で諭された日には生きていけねーーーーっ!!!!

 

「・・・・・・難しいのですね・・・」

 

 ーーってぇ、思わずアリンさんみたいなこと口走っちまったぜぃ! トリニティセブンの! キリスト系のネタが多い作品同士だからなのでしょうかね!?

 

 

「えっと・・・どうするアーシア? 俺としても今ので気勢を削がれちまったし、お祈りなら家に帰ってからでも遅くはないと思うんだけども・・・」

「うぅぅ・・・・・・で、でもでも私どうしても今、神様にお伝えしたい想いがあって・・・」

「う、う~~ん・・・・・・」

 

 やいのやいのと、さっきまでの険悪ムードを雲散霧消させて騒ぎ始める兵藤さんたちご一行。この尾を引かなすぎる人間関係だけは私も参考にしたくて仕方がない、この人たちの美点だと私は高く評価しまくっているところだったりします。

 

「じゃ、じゃあ少しだけだぞ? 終わったらすぐに帰るからな? それでも良いんだよな?」

「ーーっ! もちろんです! ありがとうございます! イッセーさん、やっぱり優しい!」

「えへへ~♪」

 

 ・・・ウゼェ。爆発四散してティンダロスの猟犬にでも噛まれてしまえば宜しいのに・・・。

 

「では、行ってきます。すぐ戻ってきますから、待っててくださいね? 置いて行ったりしたらイヤですよ?」

「分かってるって。安心してお祈りしてきな」

「は~い」

 

 そして、テテテと小走りで駆け寄っていった室内にある、光指す一角で祈りを捧げ終えた頃に彼女の体は光に包まれ消えてなくなり、待っても呼んでも帰ってくる気配は見受けられません。

 

「・・・・・・アーシア?」

 

 兵藤さんのつぶやきが聞こえてきて、思わず溜息をこらえきれずに息だけでも吐いていると横合いからは陽気な声が愉しそうに論評するのが聞こえてきます。

 

「第一幕、これにて閉幕。続いて第二幕のはじまりはじまり~」

 

 もう溜息すらも出てこない・・・・・・。

 

 

 

 

34話後半「ひねくれ者たちと愚劣なる赤!」

 

「ーーちっ。時空が作為的に歪められていたために思うように転移ができず、今になってようやく手に入れた首級がビシュップ如きとは・・・計画には根本的な再構築が必要と判断すべきであろうな」

 

 声がしたので振り向くと、そこには軽装鎧を身に纏いマントまで羽織った見知らぬ中年男性が宙に浮いておられます。・・・顔色が微妙に悪くて汗みずくな点から察するに、アスタロトさんがゲリラ戦術まがいの嫌がらせを仕掛けまくってましたね確実に。

 

「・・・・・・誰?」

 

 他の人たちが意外さに打たれて黙り込む中、偉そうな相手には突っかかっていかなければ気が済まないグレモリーさんが問いかけて、相手の方も同様の態度で偉そうに応じて答えてくれました。

 

「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正当な後継者だ。先ほどの偽りの血族とは違う。

 ディオドラ・アスタロト。よもや貴様、この私が力を貸してやったというのに裏切るとはな・・・万死に値する! 先日のアガレスとの試合でも無断でオーフィスの蛇を使い、計画を敵に予言させた件も併せて貴公は余りに愚行が過ぎた。報いを受けるがよい」

 

 怒ってはいるようですが今のところ冷静さを維持したまま、突然現れた・・・シャベルさん? だかなんだかは未だに両手を上げた状態で最初の位置から一歩たりとも動いていないアスタロトさんに指先を向けて紫色の光を集めていると、アスタロトさんは皮肉な感じに唇をゆがめて嘲るように冷笑されました。

 

「だとしたら計画の失敗は君の落ち度だね、ベルゼブブ。もっと早くに僕を始末しておけば、こんな無様な事態にまで立ち至らなかったかもしれなかったろうに。今更になってシャシャリデてきて喚くなよ、現魔王に選んでもらえなかった旧魔王の末裔さん?

 目上に刃向かうだけでも徒党を組まなきゃ吠えることすら出来ない負け犬は、哀れなものだねぇ」

「!!!!! 貴様!」

 

 鼻白まされた一瞬だけ間を置いて、彼の指先から放たれた光の束がアスタロトさんの体を包んで消えて無くしてしまわれました。

 

「はぁ、はぁ・・・。ふ、ふん。哀れなのは貴様だディオドラ・アスタロト。あの娘のセイクリッド・ギアの力まで教えてやったのに、モノにもできずじまい。たかが知れているというものよな」

 

 殺した相手を前にして、勝ち誇らなきゃいられない心の貧しさと虚栄心。これだけで私は彼のことを嫌いになると決めるのには十分すぎました。

 はっきり言って、無様に過ぎます。

 

「その、たかが知れてる血族さんと同じ血が流れてる人がトップに立ってる組織が旧魔王派ですからねー。そう考えればアルジェントさん一人だけでも排除できた彼は、むしろ良くやった方だったのではありませんか?

 なにしろ外で死んだ“あなたの”部下たちでは、掠り傷ひとつ付けられなかったのですから」

 

 私の毒を込めた挑発に、アッサリと眉の角度を急上昇させる正当なる魔王の後継者様。この程度の子供だましに踊らされるなよと嘆きたくなるほどの短絡ぶりです。これならグレモリーさんの方が遙かに人格面での精強さを発揮してらっしゃいますよ自称魔王様。

 

「口を慎め人間。貴様等如きひ弱な劣等種族など、我々悪魔が魂を食らうために生かしておいてやっている身に過ぎぬのだからな。分際を弁えよ」

「あいにくとひ弱な劣等種族の中でも特に弱い個体に属していましてねぇ。悪魔の力なんてサッパリ分かりませんので、全部同じにしか扱えないんですよ。

 魔王も下級も中級も上級も偽りも本物もぜんぶ引っ括めるめて悪魔族という名が付けられてるらしい生物さんたちです。

 どれの攻撃だろうとも一撃で死ぬことに変わりない身としては、強い弱いなんてどうでもいい。交通事故で車に突っ込まれてきて殺されるのと何ら代わり映えしない平々凡々な脅威度の存在に過ぎませんよ」

「・・・・・・」

 

 無言のまま放ってきた光の攻撃は、当然のように天野さんの右手で弾かれて飛んでいき、次弾を含めて紫藤さんとゼノヴィアさんが周囲を警戒しつつ防御陣形をとってくれましたので夢見る魔王様如きの攻撃では届くことは二度とないでしょうよ。

 

「ふ。威勢が良かった割に部下に守られねば何もできぬ無力なガキか。つまらぬ」

「申し訳ありませんねー。なにぶん、強い人たちに守ってもらわないと何もできない無力でひ弱な人間でしかないものですから、安全な場所で好き勝手に無責任な悪口雑言並べ立てるぐらいしか出来ないんですよ。臆病な劣等種族にはお似合いの戦い方だと思われるでしょう?」

「・・・・・・・・・」

 

 これ以上なく不愉快そうに顔をゆがめた魔王様は目を泳がされ、ちょうど目に付いたグレモリーさんへと話の矛先を向けられてしまわれました。

 どうやら私よりかは『自分好みな』会話ができると踏んだようです。

 

 案の定というべきなのか、エロいくせに変なところで大真面目になるグレモリーさんたちは自称魔王様と熱弁開始。私たちは暇となります。

 

 ・・・・・・っと、そう言えば兵藤さんが置いてけぼりになってましたね。

 どこ行ったのかなーっと・・・あ、見つけました。夢遊病者みたいにフラフラ歩いてらっしゃいます。

 

「アーシア? アーシア?」

 

 ふむ、なにやら呟かれ始めましたね。

 

「アーシア? どこ行ったんだよ? ほら、帰るぞ? 家に帰るんだ。父さんも母さんも待ってる。か、隠れていたら、帰れないじゃないか。ハハハ、アーシアはお茶目さんだなぁ」

 

 うん、これは現実逃避されてますね完全に。

 私には身長的に不可能ですが、頭に45度の角度で打撃を入れればリセットできるんでしょうかねぇ?

 

「アーシア? 帰ろう。もう、誰もアーシアをいじめる奴はいないんだ。いたって、俺がぶん殴るさ! ほら、帰ろう! アーシア、体育祭で一緒に二人三脚するんだから・・・」

「下劣な転生悪魔と汚物同然のドラゴン。まったくもって、グレモリーの姫君は趣味が悪い。そこの赤い汚物。あの娘は次元の彼方に消えていった。すでにその身も消失しているだろう。ーー死んだ、ということだ」

 

 町中を徘徊している浮浪者並に弱々しく見える今の兵藤さんを与しやすきと見て取ったのか、あるいは計画失敗による事実上の敗北を過剰なまでに持ち上げようとしてなのか、シャベルさんが無駄にアルジェントさんと兵藤さんに限定した人格攻撃を行い始めましたね。

 そんなに自分が優れた存在で、相手が批評するにも値しないと信じているなら冷笑する手間すら惜しむのが当たり前の反応なのですが、所詮は与えてもらった力があってさえ多種族と野合しなければ上位者に刃を向ける勇気すらない臆病者な魔王様の器などこの程度のもの。

 たかが知れてるのは、私たちすべての卑怯者に言えることなんですよ? シャベルさん。

 

『そこの悪魔よ。シャルバといったか?』

 

 突然、兵藤さんの口は動かないまま聞き覚えのある声が響いてきます。

 

『おまえはーー選択を間違えた』

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!

 

 

 神殿を揺るがす大音声。兵藤さんの体から血のように赤いオーラが発せられ、次第に大きくなっていくようです。神殿内全域を赤い輝きで照らし初めてもいます。

 

 やがて、兵藤さんの口から呪詛の如き恨み言じみた呪文が発せられました。その声は老若男女、複数の声が入り交じってはいるものの、どれも持ってる感情は全て同じ。恨み辛みばかりで代わり映えしない、平凡な人間たちが持つ負の感情の寄せ集め。

 

 不気味と呼べなくもないですが、私にとっては余りに慣れ親しんだ平凡すぎる感情に過ぎず、おまけに感情の捌け口として自分たち以外の他人に向いてる時点で見るべき点を失いました。

 こんな醜い生き物を表現する単語はひとつだけです。ひとつあれば十分です。

 

 あまりにも無様すぎる生き物だ、の一言だけで。

 

 

『我、目覚めるはーー』

《始まったよ》《始まってしまうね》

『覇の理を神より奪いし二天龍なりーー』

《いつだって、そうでした》《そうじゃな、いつだってそうだった》

『無限を嗤い、夢幻を憂うーー』

《世界が求めるのはーー》《世界が否定するものはーー》

『我、赤き龍の覇王と成りてーー』

《いつだって、力でした》《いつだって、愛だった》

 

 

 

《何度でもおまえたちは滅びを選択するのだなっ!》

 

「「「「「「汝を紅蓮の炎に沈めようーー」」」」」

 

 

 

 

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!

 アーシアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーおい、勝手に決めつけるなよダメ龍帝。自分の殻に引きこもったヤドカリドラゴンの分際で、僕たちひねくれた生き物の思考と価値観を分かった風に語ろうとするな。

 君たちはいつだって自分の正しさを世界に押しつけ過ぎるから、愛の形は一つだと定義したがるから、裏切られて否定されて力を求めて、最後には自分が愛したモノまで否定して壊し尽くさないと気が済まなくなるんだよ。

 愛だの世界だのと大仰な単語を並べ立てておきながら、結局は壊すことしかしようとしない君たちこそが、他の誰よりも滅びを望んでいるだけだろう?

 他人の間違いを指摘するより先に、自分自身の醜い今の姿を何とかしてから出直してこいよバカ竜帝。分かったかい?

 他人に勝てても自分に勝てない負け犬ドラゴンのセキリューテーくぅん?」

 

つづく

 

 

 

*流れ的に使うことが出来ず、ボツにしたセレニアにとっての『信頼と裏切り』についてを僅かに残っていた文章から抜粋して掲載させて頂きました。

 

セ「いつだれが裏切るか分からず、自分以外は誰も信じられない状況下で誰かの事を信じ抜くのに必要なものがなにか分かりますか?」

*「まずは相手を信じる事。信じてもらうためには、信じることから始まるのが人間関係の基本」

セ「正しいですが、自分が相手をどんなに信じたとしても相手がそれをどう捉えるか、応じるか否かは相手の自由であり権利です。

 「好きだから愛しているから、あなたも私を愛する義務がある」ではストーカーと同じ。愛も信頼も損なう結果を生むだけの事です」

ヒロインども『・・・・・・』

セ「『信じる』とは自分の中で生まれて終わる閉鎖的な感情であり、本質的には相手との物理的な裏切り等の人間関係になど振り回されなければならない必要性が皆無な代物です。

 信じたいなら裏切られようと信じ貫いてしまって構わないんですよ。

 自分個人の心の問題でしかない限りにおいて『相手の裏切り』は、憎しみに駆られて裏切り者を殺そうとする自分の復讐戦を正当化する理由には決してなり得ない。相手に否定された『人を信じた自分』を自分自身でまで否定する必要性はありません」

*「ならば・・・どうすれば良いと言うのだ? 裏切られて当然の環境の中、信じた相手に裏切られない手段なんて報復する以外には・・・」

セ「簡単です。相手の裏切りと自分の信頼を別物に捉えればいい。

 どんなに相手が裏切ろうとも自分が信じ続けている限り、自分の中では相手の裏切りが成立することは決してない」

*「そ、それは詭弁だ。不可能だ。人は裏切る生き物なのに、裏切られても信じてたら切りがない――」

セ「その通り。『切りがない』。だから面倒くさいんですよ、疑うなんて行為はね。幾らやっても終わりなんて来やしない行為を死ぬまで繰り返さなきゃならなくなる。現実的手段としてやってあげてるんですから、心の中でくらいは好きに信じさせてくださいよ。

 そこいら中が裏切り者候補で溢れた状況で誰も信じられないなら、せめて自分が信じると決めた相手が目の前で毒を盛った盃を差し出してきた時に笑顔でお礼を言いながら信頼と共に飲み干すぐらいさせてくれたっていいじゃないですか。気持ちの問題は個人的な自由でしょう? なんでそこまで周囲の環境に合わせさせられなくちゃいけないんだか全くもう・・・」

*「・・・・・・(唖然ポカーン)」

セ「誰をどれだけ信じても、信頼を最大限行動で表したとしても、最終的に裏切るかどうかを決めるのは相手の一存のみ。

 ならせめて『相手が裏切るかどうかなんて関係ない、私が相手を信じ続けたいんだから信じ続けさせてくれ。表向きの行動では公の立場を優先してやるからそれでいいだろう?』と、自分の中にしか存在しないし価値もない感情論でくらい自分の一存だけで決めさせて頂きたいものです。

 『裏切る自由』は誰もが皆認めてくれるのに、『裏切られても信じ続ける自由』は殆どの人から否定されてしまう。不公平な世の中ですよね本当に。やれやれです」




次回、ひねくれディオドラの言刃でドライグイッセー完敗!?

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