堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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最近上手く書けない事に業を煮やして原作及びアニメ版を見直してみたところ、
「ああ、私はレイナーレとイリナとアホな展開だけをハイスクールD×Dに求めていたんだなー」と言うことが解り、ひとまずは1話目から書き直した別セレニア物語を書いてみた次第です。

一巻目の終わった直後から始まる別セレニアの話で、一応はクリスチャンなセレニアが主人公の話でもあります。日本の宗教法人に所属しているクリスチャンに過ぎませんけども。
気楽に生きてるセレニアと、比較的まじめなレイナーレとの恋物語の序章みたいなものですが、お楽しみいただけると嬉しいです。


堕天使に愛された聖なる言霊少女

プロローグ

 

「それでは、今日の主のお恵みに感謝していただきましょうーーアーメン」

『アーメン』

 

 食前のお祈りが終わり、食堂に集まっていた生徒たちが食事を始めるミッションスクールではよく見られる風景。

 

 が、ここは神学校ではない。頭に『聖(セント)』と付けてはいるが、聖クロミサ女学園(なんて縁起の悪い名前を付けやがる!)に所属している生徒たちの中でクリスチャンは想像以上に少ない。少なすぎる。ぶっちゃけ、全校生徒中三人しかいない。

 長い歴史の中で忘れ去られた創始者の理念が校則として辛うじて残されているだけの、平凡きわまる現代日本のキリスト系ミッションスクール。

 

 緩すぎる校則のおかげなのか、あるいは無駄に歴史だけは長い『かつての名門校』としての縁故故なのかは定かでないが、集まってくる生徒たちのほとんどが穏やかな性格をした少女たちのみであり、すき好んで校則を破ろうとする物好きなどはおらず、お祈りも口にさえしていれば精神性なんて見える訳じゃないんだからと適当に流してくれる教師陣のフランクさも重なりあった結果、非常に穏やかな校風と『表面的な』品行方正ぶりを維持できている変な女子校である。

 

 その中に所属している数少ない本物のシスター、異住セレニア・ショートは食事の後の奉仕活動は欠かさない。

 

『降りかかる苦難は全て試練。神は乗り越えられる試練しかお与えにならない。

 ・・・・・・乗り越えろ!』

 

 ーーこれが学校創設者であるバチカンから来た赤髪の神父さんが掲げていたスローガンらしいのだが、こんなもの本気で信じて本気で守ろうとするバカは今も昔もこれからだって存在することはないだろう。

 

 セレニア自身だってそうだ。“半分しか”信じてないし守ってもいない。

 

「まぁ、誰の作った教えであっても己を戒めるのは良いことです」

 

 そんな風につぶやきながら、今日の奉仕活動を完了して日誌を出して家路につく。

 彼女にとってのキリスト教とは、人々を守り敬い尊ぶ精神性を育むための教材のひとつであり、駄目人間だった自分が人間性を高めるのに使えるのであれば何でもいい彼女としては都合が良かったのだ。だから信仰している。己のために。

 

 己自身が守りたいから教えを守り、貫く。妥協はするが加減はしない。願いは叶わなくても構わない。

 

 ーー何故なら願いは自分の努力で叶えるものであり、信仰心とは其れを成す際に心を支えてくれる柱のひとつでしかないのだから。

 

 それが彼女の歩む信仰の道。色々間違えまくっている気がするし、本場の人が聞いたら怒り出すかもしれないが、あいにくと彼女の所属している宗教法人は純日本製だ。バチカンとは関係がない。教祖でさえ日本生まれ日本育ちで渡米経験すら有るのか無いのか定かではない。そんな組織に所属している似非シスターに何かを期待する方が間違っていると断言できる。

 

 良くも悪くも純現代日本風。それがシスター・セレニアと言う少女の在り方であり、悪魔が主役で天使とかも実在している『ハイスクールD×D』の世界観では完全無欠に浮きまくっている存在なのだが、この世界に生まれ落ちた純粋な現地世界人である彼女にとっては知る由もないこと。

 

「今日も一日、平和に過ごせて良かったですね~」

 

 和やか気分で無表情に笑顔を浮かべる。・・・矛盾した表現になってしまっているが、彼女の表情は茫洋とした無表情が常態であり、気持ちがどうあれ表面的には変化し辛い。感情は豊かだが、感情表現方法は極小しか持ち合わせていないのもまた異住セレニアという女の子の特長だった。

 

 

 

 そんな風に現地世界人セレニアがいつも通りの日常を満喫している帰り道、おかしな生き物を路上道端で拾ってしまったのは、切れてしまった歯磨き粉を買いに近くのコンビニまで歩いていった帰路でのこと。

 

 

 

 ーー黒いボンテージを着た若い女性が、お尻剥き出し四つん這い常態で倒れていました。

 

 

 

「・・・・・・AV・・・?」

 

 一番あり得そうな可能性を懸念して、辺りをキョロキョロと見回してみるセレニア。

 本来であれば路上で営利目的の撮影を行う場合、役所などから許可を取らなくてはならないはずだが、AV撮影などに手を染める会社は経済的に困窮している場合が多いことを経済チート系のラノベ好きな彼女は知っていた。

 だから、もしも撮影中だった場合には声かけて商売の邪魔しちゃ悪いなと気を使ったつもりでの行動だったのではあるが、この場合は完全無欠の杞憂である。

 

 なにしろ周囲一帯には冥界のプリンセス、リアス・グレモリーによる人除けの結界が張ってあって普通の人間は無意識的に近寄るのを避けてしまう仕様になっていたからだ。

 セレニアに効果が及ばないのは崇めている神の加護があるから・・・などでは無論なくて、ただ単に精神力が強すぎてナチュラルに結界を自然突破してしまっただけであった。

 

 何しろ『無意識のうちに避けてしまう』と言う程度の暗示でしかない低級レベルの魔法である。リアス自身が生まれついて高い才能を有していたのもあってか、敵を侮る傾向にあるのも一因だろう。

 

 自己反省、自己批判、自己否定に自己改善。

 

 直すべきところを直すためにも、自らの過ちと間違いは認め、向き合わなければならないと心に誓っているセレニアと催眠術の延長線上でしかない暗示は相性最悪過ぎて効果が薄い。

 この日もそれが災いしてリアスが仕止めるつもりで相手に放った滅びの一弾は、命中すれども消滅には至らずに僅かながら余命を残して逃亡を許してしまった至高の堕天使レイナーレに生き延びられる選択肢を与えてしまっていたのだから世話はない。

 

 プライドの高さ故に慢心しやすい彼女らしいミスではあったが、今回に限っていうならミスと言うほどのことでもない。どのみち墓標と命日に当たる時間帯が僅かにズレただけである。

 死ぬはずだった人物の死に場所と死亡時間が、三十メートルの距離と十秒ほどズレた程度なら問題は起きない。・・・本来ならば。

 

「ま、とりあえずは親に連絡ですね。身元が不確かな女性を介抱するため自宅にあげるにしたって家主からの許可は得ておかないと礼を失していますから」

 

 そう言って携帯を取りだし自宅の電話番号を押してコールし始めるセレニアの頭に、『背中から黒い羽を生やした邪悪そうな気配の美女を家に連れ込むことで生じるデメリット』は、ハッキリ言って無い。存在していないわけではないし、メリットのなさも重々承知してもいるが、ボンテージ女性の満身創痍な痛々しい容態が彼女の中にある天秤を綺麗さっぱり破棄させた。

 

 もとよりここは背信者たちの住まう国、日本である。聖なる都バチカンではない。

 彼女、異住セレニア・ショート自身も、ごった煮宗教を崇めている似非クリスチャンであり正統派のカトリックではない。プロテスタントでもない。単なる似非シスターに過ぎない偽物でしかない。救いたいと思った人を救っても救わなくても責められるときは責められる程度の存在なのである。

 

 ・・・・・・日本人って宗教に偏見在りまくりだからな~・・・。

 

「苦しんでる人は救われるべきだそうですし、一先ずは家に運ばせてもらいますね。身長差がありますので、足先を地面に下ろしたまま引きずっちゃうのだけはご勘弁を」

 

 中学生どころか時折小学生にすら間違えられるセレニアの身長は(後ろから声をかけられた場合だけであり、振り返ったら全ての人が胸元見てから頭下げてくるが)同世代と比べても低い。せいぜいが145センチぐらいなものだろう。

 

 対するボンテージ女性は長身だ。さすがに倍は無いが、頭ひとつ分では補いがつかない絶対的な高見にあるのが救われるべき女性の頭の高さである。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・微妙に、憎い・・・・・・」

 

 ほんの少しだけ本音を漏らしてから背中に負ぶさり、家へと女性の足を引き釣りながら帰って行くセレニア。

 

 これが彼女がハイスクールD×Dの世界とーー悪魔・天使・堕天使の三代勢力が三つ巴の潰し合いに血道を上げ続けて早数千年の「よく飽きないものですよね~」な、愉快な人々と関わり合っていくことになる運命の夜の出会いであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

第1話

 ーーチュン、チュン。

 朝日がまぶしく部屋に入り込んできていた。

 

「・・・・・・い・・・痛ぅ・・・・・・」

 

 日の光に弱い種族ではないのだが、昨日やれたときの傷跡に光を浴びてしまうと幻痛で体中が悲鳴を上げる。

 

 思っていた以上に心の傷が大きそうなことに、至高の堕天使を“自称”していた黒髪ボンテージ美人の女性レイナーレは、痛くプライドを傷つけられていた。

 

「・・・滑稽ね。飼い犬に手を噛まれたばかりか、雑魚と侮っていた元人間にも敗れて、おまけに死に損なうなんて。この体たらくじゃ、今さら私に戻る場所なんてドコにもなし・・・か」

 

 自嘲気味につぶやきながら、ベッドの上に体を起こす。

 少し前から目は覚めていたのだが、自分の中で事情をまとめるのには時間がかかった。

 

 ーー自分は負けた。言い逃れのしようもないほど完璧に、完全に、徹底的に。

 仲間たちも手勢も失い、残されたのは我が身ひとつのみ。組織の庇護も受けずにさん種族が合い争う中で生きていける強者であったならアーシア・アルジェントのヒーリング能力など求めたりはしていない。

 

 それに何より痛かったのは・・・・・・

 

「アザゼル様・・・・・・」

 

 彼女は悲痛な表情でつぶやく。偉大なる堕天使たちの頂点、六枚羽の堕天使総督の名を。

 

 愛していた訳ではない。身分違いなのは端から承知の上だったし、恋慕などと言う女らしい感情が入り込むより先に堕天使としての本能が、彼の『強さ』に惚れさせられた。憧れてしまったのだ。純粋に、あの強さに、頂点に。

 

(あの人のお役に立ちたい・・・・・・!!)

 

 嘘偽りなく、邪な感情など入り込む時間的余裕すらもないまま純粋に心の底からそう思わされ、そうありたいと願い続けて生きてきた。

 肩をたたかれ、神が聖女に与えた堕天使の傷さえ癒せるセイクリッド・ギアの話を聞かされた時には天にも昇る心地だった。

 

 能力の内容に感動したのではない。それほどまでに堕天使全体にとって大事な神具の回収役に自分を抜擢してくれた総督殿の器量に感服させられたのである。

 

 この方のためなら世界だって滅ぼせる! 人間はもとより、悪魔や天使も今得た信頼の前ではカス同然! 捨て石にしてしまうつもりで任務に当たろう!

 

 ーーそう決意していた。自分は信頼されていたのだという確信があった。それが彼女を支えていたし、あの方の与えてくれた任務のためなら個人としてのちっぽけなプライドなんて用意に捨て去り人間相手に命乞いだってできていた。

 

 なのにーー。

 

 紅蓮の公女が姿を現し、与えられていた情報と致命的に乖離していたブーステッド・ギアの正体が頭の中で重なった瞬間に、私は何の証拠も必要としないほど信じてしまったのだ。

 

 ああーー私は使い捨ての駒に過ぎなかったんだなって・・・。

 

 

 ーーそこから先は我ながら惨めに過ぎると言わざるを得ない醜態の連続が続く。ひたすらひたすら命乞いの連続。バカ丸出しなイカレ神父にまで必死扱いて頭下げてバッカみたい、死ねば?

 

「・・・って普段の私だったら絶対に言ってたんだろうにな・・・」

 

 膝を抱え込んで寂しげに囁かれた言葉は自己嫌悪に満ち満ちていた。

 なにもかもが嫌になっていた。生きているのも、生き延びてしまったのも生き恥をさらし続けているのも神でないのも殺されてさえいないもの。みんなみんな大ッキライ!

 

「いっそ、このままここで死んでしまえばーーって、あ痛っ!? だ、誰よ今私の頭を銀の鈍器で殴ったのは!? 堕天使も悪魔と同じで銀でできた道具類には弱いんだから気を付けなさいよね!」

「知りませんよ、そんな狼男みたいな種族設定。

 勝手に救っておきながら『命をなんだと思って』なんて言うのは筋違いなんで言いませんけど、自殺するんだったら家の外でしてください。愛すべき我が家に名前も知らない赤の他人の亡骸なんて晒さないでいただきたいです。

 まったく・・・恥女さんという人たちは、何でもかんでも晒したがる癖があって困りますね、本当に全くもう」

「へ? あ、あれ・・・? ち、恥・・・女・・・?」

 

 お目目ぱちぱちレイナーレ。

 そして困惑する相手に構わずグチり続ける家主の娘にして部屋の主でもある、目を覚ましたらしいレイナーレに食事を運んできたセレニア。

 

 愚痴は人に聞かせるために言うのではなく、自分の不満をどこか適当な場所に向けて吐き出すために言うべきものなので、今の彼女はレイナーレ相手に聞かせる気が全くない。

 そのために発言の内容から彼女に対する悪態に該当しそうな個所は意図的に廃して、純粋なボヤキとしてのグチになるよう心がけていた。自己満足に過ぎないからこそ自分の守ると決めた筋は絶対に押し通す彼女の頑固さは紙一重に達してそうでちと怖い。

 

 

「だいたい銀なんて、古代地球世界で金より先に通貨として使われていた上に、鉄より柔らかい芸術素材向きの金属じゃないですか。何だってそんな物で殴られたら特別ダメージ食らうことになってるんです? どんだけ貧弱な体質してるんですか貴女たちは」

「ひ、貧弱!? 私たち堕天使が貧弱ぅぅっ!?」

「堕天使? ・・・え、貴女まさか堕天使だったんですか? 聖書にも出てきた『あの』堕天使・・・?」

 

 驚いたように目を少しだけ見開きながら口をぽかんと開け、レイナーレの姿形を頭のてっぺんから足の先っちょまでよ~く見直してから・・・

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~・・・・・・・・・」

 

 盛大に溜め息をはいて見せた。物凄く残念そうな雰囲気を醸し出している。

 

「おいコラ、ちょっと待ちなさい。なによ、そのデカすぎる溜め息は。私が堕天使だって言うことに文句があるなら聞こうじゃないかコラ」

 

 半眼になって凄んでくる錨尽き肩アーマーにチェーンまでもを装着した真っ黒ボンテージ姿で悪人顔の吊り目美人レイナーレ。完全に不良少女のソレではあったが、セレニアの方はそう言うのに抵抗感がないのか普通に流して本棚から一冊の本を引っこ抜いてきてレイナーレにも見えるように広げてみせる。

 

 タイトルは『エルシャダイを愛する全ての者たちへのエノク書解説本。イラスト付き』

 

「旧約聖書の方には天使も堕天使もほとんど出番がなくて、主に登場しまくるのは新約の方なのは有名なのですが、堕天使はそれでも出番がなくてメインで活躍しているのはゲームの題材にもなった聖書の異本で第一エノク書なのだと、この本には書かれていましてね」

「ん。まぁ、その辺りは事実よね。遺憾ながらも一応は」

「そして、エノク書の記述だと堕天使というのは、天使と人間の間に生まれた悪霊みたいな存在で、身長が10mを越える巨人であり殺戮を好む、天にも地上にも居場所がない我が身を産み落とした親たちを恨んで暴れているのだと・・・」

「誰よ!? その巨大な化け物は! 天使堕天使どうこうより先に、生物かどうかを怪しむべきレベルなんだけど!?」

「他にも千三百メートルぐらいは楽勝なでっかい蛇さんが一般的だったとか」

「だから本当に何なのそのバケモノ堕天使!? ドラゴンでもあり得ないサイズの堕天使なんて生まれてたら地上も天界も冥界も滅ぼされてるでしょうが確実に!」

「あと、最終的にはエノク書の主人公であるユダヤ人のエノクさんは昇天を果たされまして神と同等の力を持つ存在となり、36対(72枚)の羽と365個の目を備えたメタトロンという名の天使様に生まれ変わられるのだとかで」

「転生天使が転生悪魔よりもバケモノ臭が凄いことに!? 本当に人間たちは私たちのこと、なんだと思ってたの!? バケモノ!? バケモノなの!? ファブニールよりも酷いレベルの化け物認定されちゃってたの私たち!?」

「いや、ほらアレですよアレ。アレです。・・・あまりお気になさらずにと言うことです」

「遠回しにすら否定してもらえなかった!? むしろ、遠回しに肯定されてしまっているような気さえするんですけども!?」

 

 誤魔化すように頭をかいて目を逸らしたセレニアだったが、レイナーレの予想は大体合ってた。

 世の中にあるゲーム内において、堕天使に限らず神話上の登場キャラクターたちが物凄い解釈と物凄すぎる外見をして出てきた例は数知れない。むしろ堕天使なんて可愛いものである。黒い羽ついてて黒服着てるかお色気コスを着てさえいれば、一先ずは堕天使だと主張できるのだから。

 

 どちらかと言えば神が酷い。凄く酷い。酷すぎる。化け物という言葉が誉めすぎなレベルでひっどいデザインの神様なんて珍しくもないのが現代日本の世界神話世界。

 

「・・・異世界って、割と身近にあるんですね~・・・」

「これは異世界じゃなくて、異次元世界よ!

 あと、この本に描かれてるアザゼル様がすっごくキモい!」

 

 ・・・・・・日本のテレビゲーム世界はファンタジ~♪

 


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