堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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人気でなさそうだったのでボツ案に指定させて頂きました回です。


ボツ案「セレニアが自分で戦う場合の設定話」

『戦いには二つの種類があると言う。支配と抑圧のための戦争と、自由と解放を求める闘争の二つが。これは即ち、神と魔王の戦いを表していると言えなくもない。

 神の秩序は『支配と抑圧』の側面を持つ。

 魔王の反逆は『自由への欲求』の一面を持っている。

 結局のところ闘争の本質は《こっちとあちらは違うから》に行き着かざるを得ない』

 

 ーーそれは、いつか何処かで通ってきた場所で見聞きした会話。

 記憶にないのに何となく覚えている様な気にさせられてしまう時点で『思いだそうとしている』ことの証。つまりは実体験。

 

 

 

『サーゼクス・ルシファーが生き残りを掛けて断行した三種族連合の設立も、結局のところはこの絶対矛盾から逸脱できていない。

 彼が種の未来に不安を覚え、焦りから強行した連合の早期形成は、カオス・ブリゲードの結成と台頭、早期開戦までもを早める結果をもたらしてしまった。

 一方で滅亡までのタイムリミットは迫っており、悠長にしていられる時間がなかったのも事実ではあったんだ。彼が成そうと成すまいと、歴史は順当通りに滅びに貧した三種族の連合と、反発して台頭してくるカオス・ブリゲードとの大戦をもたらしていただろう。

 異なる二つの大きな存在同士がぶつかり合って、互いに影響しあいながら共生依存の関係を構築していく歴史の必然、転換点。

 散文的に表現するなら、時代の回転。・・・転換期だよ。限界にまで達した一個の勢力が他の勢力と混じり合いながら生存していく道を模索する差異には必要不可欠となる大乱。それによって生じる滅びをもたらしかねない数の犠牲が、近代社会への礎として時代が求める生け贄なのだから遣りきれないね』

 

 

 場所は、空の上。

 いつか何処かで見たような、あるいはいつか何処かで見ることになるような時系列の狂った光景であると実感として感じられる、見覚えのある景色が眼下に広がる大森林の真上のようです。 

 

 

 そこで二つの存在と対峙させられているらしい、私と思しき誰かさん。

 曖昧でボンヤリとしていて霧のように見通せない、存在がはっきりしない不確実なナニカさん。

 

 

「我は秩序による平穏を望む神にして、力による支配を肯定する魔王でもある」

「私は秩序を憎み妬む魔王にして、人々の解放を求める自由の神でもある」

 

 

「無法に対して法による秩序を齎さんが為の戦は正義なり。

 法と秩序を大義名分として行う戦は無名の師なり」

「独裁による悪政を武力によって正すための戦は正義なり。

 己が自由のために他の自由を侵す戦は無名の師なり」

 

 

「この世界を律する法の半分は《悪》。それ故に自らの正義は絶えず自らで証明し続けなければ悪へと堕ちる。全てを正義で治めんと願う者は、等しく独裁という名の悪行を成さねばならぬが故に」

「不合理による矛盾は委細承知。その為に我らは互いを否定する。互いへの否定こそ、己が自身の存在証明なり。己が正しさを形として証明する為にこそ我らは戦い、否定しあうのだ。

 何かが正しく、何かが間違っていると信じなければ、人も魔も聖者さえおが己を律しきれる保証はない。

 種族に関わりなく“絶対悪”に成り得る可能性は、誰もが等しく魂の内に秘めて生まれ落ちてくる。その絶対原則がある故に」

 

 

「「然れど、この思想、この考え。我らが眷属には受け入れられること叶わず。愛する子らに理解されることもなし。それ故、我らは互いが互いと合い争わんがため地と天に別れる」

 

 

「否定しあう相克同士がぶつかりあえば衝突は必然。なればこそ、我らは生物としての欲求に従い命を長らえるため戦いの抑制に乗り出す」

「世界を、秩序と無法の戦いの舞台として活用し、ルールを持って制御するために。互いを殺し合う戦争の場で互いに生き残るため、我らは互いを殺し尽くさぬ戦いをこそ望む者同士なり」

 

 

 

 ーー暗転。議題の変更が成されたようですーー

 

 

 

「正義とは等しく愛しい、尊きものなり。

 殴られても殴り返そうとせず、殺されても殺し返さない。この世すべての愛を説く、絶対的弱者こそが正義の名に値する」

「そして、それが故に正義は悪に叶わない。

 正義は絶対に力を振るってはならない。力に頼ってはいけない。

 力持たざる者こそが正義であるが故に、正義は決して悪に適わない。

 何故なら自らの正義を力で以て敵に押しつけた時、正義は暴力という名の悪行となるが故に」

 

 

「それ故、正義の守り手が必要となる。正義の味方をして悪を倒す為の“必要悪”が、無力な正義を守り生き延びさせるのためには必要不可欠だからだ」

「それ故に正義の味方は『正義の、味方』であって正義ではない。

 無力な正義を守るために悪行を成す暴力装置が『正義の味方』である以上、正義を守る者は例外なく悪なのだから」

 

 

「そして、魔王とは悪だ。自らを悪と名乗る究極の悪だ。

 正義を否定する悪なればこそ、魔王は他の誰より正しく正義を理解しておかなければならない」

「正義は正しきものであるが故に、定義づけが可能である。

 自由を標榜する悪に定義は存在しない。決めつけられることを拒む自由の行使こそ『秩序から見た悪』の定義だからだ。

 秩序の都合で悪が定義づけられるのだから、秩序を破った悪に秩序の決定を尊重する義務は発生できない」

 

 

「「故に我らは望む。世界の真理を事実として認めようとしない魔王の降臨を。

  正義ではない者が、正義を名乗ることを許さない魔王の降臨を。

  正義を解そうとしない悪たちが、正義を罵倒し踏みにじることを容認できない異端の悪たる究極魔王の降臨を。我らは願い、望み続ける」」

 

「我が正義を愛する神であるが故に」

「私が悪を統べる魔王であるが故に」

 

「「我ら等しく正義と悪を正しく解する者たちであるが故に、偽りの善悪を許すことができぬが故に・・・!!!」」

 

 

 

 

 

 ーー暗転。今度は別の場所。

 

 

『ま、今の会話で君がこの世界に喚ばれた理由は大体わかっただろう?』

 

 瀟洒な身なりで、ターバンを巻いた青年が癖のある笑顔を私に向けて語りかけてきます。自分の座した椅子の真向かいにあるソファーを勧められたので、一礼してからありがたく使わせて頂きました。

 

『この世界の歪さの原点は、人と魔と神のすべてが同一線上の世界に実在していたことに由来する。

 本来、神と人の歴史は共依存の関係にあるはずなんだ。所謂ロジック・エラーだね。

 “神は人類の信仰によって発生する”

 “人類は神々の恩寵を授かることで進化する”

 神が先か、人が先か。鶏が先か、卵が先か。αである造物主か、Ωである創造物か。

 これには2000年代に人類側で結論を出せたが、世界の法則が人類の決定で定まるなら、やはり人類こそが先であると結論できてしまう為に矛盾をきたしてしまう。

 今の時点で答えを出せる問題ではないし、出してもいい問題でもない。そんな事をすれば全ての終わりである終末を早めるだけだ。くだらないよ』

 

『悪魔とは、人が観測不可能な不確定存在を定義し、机上の空想を擬人化させた暗喩として生まれた架空の存在だ。

 天使とは、信仰を持つ人々が神の権能を役割ごとに独立させた存在であり、姿形には定型を持たない不確実な者たちだったはずだ。四世紀頃のギリシャ神話に登場する勝利の女神ニケから影響受けた翼の生えた人間の姿で統一されてるのは無理がありすぎる』

 

 

『彼らの存在は、不確定であるが故に人から存在を認められ、悪魔なり天使なりに分類されて固定されてしまった者たちのはずだ。中世ヨーロッパでペストが悪魔と同一視されていたように、現象そのものに人々が名前を与えただけのもの。

 それが本来の年代記における我ら幻想世界の生物たちのはずだが・・・平行世界の多くで、この前提は覆されて久しい。この程度の矛盾なら受け入れて変質可能な入れ物こそが世界という名の願望器なんだから当然だけどね』

 

『人の見る儚い幻であるからこそ、幻想だからこそ、我らは人の続く限り永久不滅であり得たはずの存在ーーだった。

 けど、今は違う。有限だ。数あるここと同じ世界の中で、この平行世界だけは本来の時間軸から独立した未来へ進もうとしてしまっている。何故だか解るかい?』

 

 相手からの質問に、私は当然の答えを返します。

 

 

「あなたが原因です」

 

 

 ーーと。

 

 考えるまでもないことです。神と魔王はとっくの昔に死去していて、互いに望んでいた答えが『正義を守るために戦ってくれる魔王の降臨だった』なんて話が原作であるはずがありません。

 彼らは本来、この世界にいたはずの神と魔王ではない。本来のお二人がいないから代わりに生み出された代理魔王と代理神様。代役でしかない存在も、主役本人が実在しない世界においては本物主役に成らざるを得ません。

 そして見事に役目を果たして天へと召され、今は現世に介入する術を持たない存在に成り下がってしまったからこそ現状に不満を持ちながらも見ているだけに留めている。

 

 ならば二人の願いを叶えてくれる万能の願望器が必要となります。私という異端者を喚び寄せることが可能な万能器の存在が。

 

 そして、その風貌と善悪表裏一体の思想。どう考えてもキリスト教圏内の神話群ではあり得ない登場人物であり、妙に科学的理論に拘りたがる悪と善の狭間にある人間ぽい存在。

 

 そういう人に、私は一人だけ心当たりがありました。無知であるが故に他の候補が思い付かなかったので、とりあえずその名を口に出してみます。

 

「・・・・・・古代ペルシアのザッハーク王・・・」

 

 私のつぶやきに対して、彼はニコヤカな笑顔でグラスを掲げ、平然と肯定されました。

 自分こそが“この世全ての絶対悪、魔王アジ=ダカーハ”であると。

 

『もちろん、この世界にはボクではないアジ=ダカーハが実在している。

 まぁ、そこまでおかしな話じゃない。超兵器と権力、僅かばかりの悪意さえあれば誰だって絶対悪たるアジ=ダカーハに墜ちる可能性を秘めているって言うのは、さっきのお二方との会話を聞いて理解できてたはずだろう?

 ボクがそれをやって別個体のアジ=ダカーハになっただぐらいで、驚くに値するとは思えないね。チャンスと機会さえあれば誰だって成り得る可能性を偶々掴んでしまっただけの平凡な人間に驚くほどの価値なんてない』

 

「・・・アジ=ダカーハは神霊種の一個体を示す名前ではなかったのですか?」

 

『そりゃそうだよ。だってボクの時点ではまだアジ=ダカーハは人間の王子であるに過ぎないんだよ?

 悪神に見初められ、奸計によって王位を簒奪し両肩から醜悪な龍を生やして国民を食い殺しまくった時点でようやく魔王アジ=ダカーハだ。最初の時点では特別でも何でもないってとこだけ見ると兵藤一誠よりも普通のボクは人間よりだと思ってるぐらいだよ』

 

 彼はそこまで語ってからお茶を一杯すすり、足を組み直した上で私と改めて相対し、真っ直ぐ眼を見ながら語りかけてきます。

 

『この世界はキリスト教の影響を強く受けすぎている。

 北欧神話はもちろんの事、ギリシャ、ローマ、ケルト、そのほか西欧の神群はキリスト教の躍進によって時代と共に飲み込まれて衰退し融合し取り込まれていった結果の末に神霊の強さが軒並み狂わされまくってる。これじゃあ幻想種が住む幻想の大地、冥界や天界にだって現実に浸食されてしまうのも無理はない。余りにも世俗を飲み込みすぎだ。幻想が幻想でいられる時代は、もう少し前の方だろうにさぁ~』

 

 

 ーーああ、それで私にはクトゥルー邪神が喚び出せるのかと微妙に納得。

 20世紀に生まれた神が、中世や古代の神々と同時に併存できてるのはなんでかなーと思っていたら、こんなところに理屈があったとは! ・・・まぁ、なんで私が懐かれてるのかなど謎は残りまくってますけどね。とりあえず今は関係なさそうなので保留します。

 

『サーゼクス・ルシファーの抱いた不安、種族の存亡も突き詰めればここに行き着く。

 現象を具象化させた存在に過ぎない悪魔と天使の戦いに現実が持ち込まれてしまった為に知的生命体として文明を生み出す必要に迫られ、自分たちの理である弱肉強食を制度化するため階級社会を採用せざるを得ず、生まれながらにして強弱の優劣がついてしまう悪魔の社会を先祖たちは合法化してしまった。その負債が彼の代で返済を迫られているんだよ』

 

『弱い人間と違って強い個体が生まれやすい悪魔は、もともと命に対して理解が希薄だ。生まれながらに奪う側の視点しか持ち合わせていない。子供なんて適当な女を浚ってきて孕ませれば勝手に生まれるぐらいにしか考えていない。

 そんな種族が何千年もの間、ほぼ同数の強大な勢力二つと殺し合いを続けていれば行き着く先なんて猿でも分かる。ましてや、小競り合いにまで小規模化せざるを得なくなってる自分たちの窮状すら理解できないんじゃあ先は長くないとサーゼクスじゃなくたって思うだろうよ。そう思わない阿呆どもが無能なだけでね』

 

『強さを重視し数を軽視する悪魔は総数としならともかく、他より抜きんでた強さを持った個体の出生率は決して高くはない。上位種が純血を保っていれば尚の事だ。

 種族特性である長寿で数の減少を補ってきた悪魔たちは、もう限界だ。先が無い。改革は必要不可欠だとする判断には同じ王として心から賛同する。現実にある国を統治する王として政治を考えたならば彼の判断は非常に正しいと』

 

 

『幻想が現実に侵略されている。αとΩのロジック・エラーが破綻して久しいのが、現在この平行世界が於かれている状況だ。

 その原因は君の言ったとおりボクにあるわけだから人事のように論評するのは本来筋が異なるのだろうけど、綺麗事を尊重する礼儀正しい奴が簒奪なんかしないから、してしまったボクが悪神の一柱に列せられてる時点で「仕方がないのだ」と割り切ってもらうしかない。どのみち、君の意向には関係なくボクはボクの都合で君を巻き込む気満々だしね』

 

 正直に言いましょう。

 ーーこいつ性質悪ぃっ!!

 

『始まりはおそらく転生者の誰かだったのだろうと予想している。この世界とよく似た平行世界に生まれ変わったか転移したか召喚されたか・・・まぁ、なんでもいいけど、何かしらの凄い力を持った存在が生まれるか何かして矛盾が発生し、修正力による大きな歴史修復が行われた。

 それは一部の史実を変更せざるを得ないほどの大きな変化であり、バタフライ・エフェクトが発生するリスク程度は甘んじて被るべきだと判断するぐらいに大きなものだったんだろうと思われる。強ければ強いほど凄いこの世界の世界観なら大いに有り得る話だよ。

 そして、結果としてアジ=ダカーハになりながらも龍にならなかったボクが生まれてしまう最悪の事態を招いてしまったのではないか・・・と、ボクは推測しているのだけど君はどう思うかな? 異住セレニア君?』

 

 知らんわ、んなもん。自分が最悪だと自覚してんなら自重しろやマジで。

 

『ふむ、そうか。残念だな・・・じゃあ、質問を変えよう。

 この世界には現象の具象化したものに過ぎないはずの天使や悪魔が実在しているよね? じゃあ、神は?

 聖書に限らず全ての神々は現象だけでなく概念の擬人化した者たちだって少なくない。アジ=ダカーハなんて代表格もいいところだろう? 単に、『権力者が欲に取り付かれて憎悪と悪意に囚われた末はこうなります、気をつけましょう』ってだけの訓戒。

 そんな程度のボクたち絶対悪は、人々の生み出したどんな概念が擬人化した醜悪きわまる姿なんだろうね? これなら君好みで考え甲斐のある質問なんじゃないのかな?』

 

 ・・・そっち系ならば考えなくもないって言いますか、ぶっちゃけ興味津々な分野ですし考えてみましょう。意味合いとかそう言うの好きですしね。

 

 ーーまず、彼は『ボクたち絶対悪』と言っていましたね。これはおそらく彼個人ではなくて、絶対悪を担う他の悪神にも共通事項が存在しているものを探せと言うことなのでしょう。

 

 最高神も絶対神も世界中探せばいくらでも出てくるのが神話群です。悪神にも絶対悪にも事欠きませんが・・・この質問には先の内容と矛盾しているかのように『アジ=ダカーハも含まれていなくては成らない』わけなので、同じ事象に関連づけて考えていくのが手っ取り早そうです。

 

 アジ=ダカーハが成す最大級の悪行と言えば考えるまでもなく、世界の三分の一滅ぼしたこと。たかが人の身から始まって偉い出世ぶりですよね、なんだか他人事のような気がしませんよ。

 そんな彼の経歴と神様たちとが一致する部分なんて、結果である終わりから見ていった方が早いに決まってます。

 そうなるとやはり思い付くのは『終末論』になる訳ですが・・・・・・

 

「・・・なるほど。アジ=ダカーハは人類の宿業で化け物になった人でしたから関連づけて考えてませんでしたが、確かに結果だけを見たら北欧のラグナロクもインドのカリ=ユガも聖書の最終戦争ハルマゲドンも、人の成した罪が自らを裁いて世界を滅ぼしたと言う点だけ見たら同じものだという解釈も出来なくはないですね。

 ならば世界を滅ぼす神魔による決戦でさえ、この世界では人々が望んだ概念『終末論』の具象化しただけの存在であり、肉体を得て物質化したあなた方は兵藤さんたち拳で戦う悪魔さんたちでも倒せてしまう・・・」

 

 そこまで行き着けば後は簡単。要するにこの人、“死にたがってます”。

 

「あなたは自分が人類相手に滅びの試練となって立ちはだかって、滅ぼされたら『人類に未来があって良かったね、おめでと~』、滅ぼされずに勝ってしまった時には『人類滅んで神魔も一緒に消えちゃった。ざーんねん』で自分の人生エンディングが人類にとってのリトライ再スタートラインにさせる気満々なのですね?」

『うん。その通り、よく分かったね。君の答えに乾杯』

 

 二カッと笑うな気持ち悪い。早く次ぎ行け、次の話へ。

 

『悪魔が無双するこの世界に、ボクが何時頃に生まれてたのかは記憶にないけど、平行世界のどこかで一部歴史改変しなきゃならないレベルの超弩級な転生者が生まれ変わってしまったんだろうねー。

 それが巡り巡って過去の一部を改変し、ザッハークのままアジ=ダカーハになったボクが生まれる。変化の原因『超存在X』の物語はとっくの未来に始まってるから分岐した過去世界には介入してこない。

 斯くしてボクは、ボクを倒すために“何時か未来に現れる英傑”を待ち続けること約千年ちょっと。

 折角だから赤龍帝でも世界龍クールマでもなくて、君に倒してもらおうカナート思って、わざわざレテ河にまで気絶させて運んできて強制的に水飲ませまくって記憶の大部分と力の大半を忘却の底に沈めさせて、ちら見された拍子にフラッシュバックから記憶戻っちゃ元の木阿弥だから今の今まで接触しないで地の底から見上げ続けてた訳なのだよ』

 

 やり過ぎ! 幾らなんでもそれ、やり過ぎですから! え? 私、忘却の河の水たらふく飲まされてるの? 前世の記憶めっちゃあるんですけど、これは幻? 嘘偽り? 偽の記憶? Why?

 

『いや、それだけ飲ませた末に残ったのが今の君というわけで』

 

 どんだけだーーーーーっ! 私は一体どんだけなんだーーーーっ!?

 化け物か!? 私は化け物の眷属か何かなのか!? 私だったらオルフェの箱船もなんのそので死者の国から死人を連れ帰るの不可能じゃねぇんじゃねぇの!?

 チートにも程があるだろうが私ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!

 

『いや、今更過ぎないかい? その疑問は。単なる一般人の人間に邪神級の神格与えておいて、その程度の力を自分が持ってたことに驚いてくれるなよバカバカしい』

「う。・・・そ、それは~・・・そうなんですけども~・・・・・・」

 

 ほら、そのアレですよアレ。アレです。認めたくないものだな若さ故のなんたらはって奴でーー

 

『一応言っておくけど、君が死んだの実時間で数万年以上前だから。本来ならとっくの昔に魂ごと消滅してなくちゃいけない普通の人間の魂なんだけどね?』

 

 どんだけだーーーーっ!!! 私は本当の本当にどんだけなんだーーーーっ!!!!

 

『限界まで忘却の河を飲ませ続けて数万年分の人生で得た経験値を0まで戻して、君が手にしてしまった力を再現できる身体を与えるために邪神の父親と家系図が色々おかしい母親との子供として生を授けて待つこと十数年。ようやく時が着たみたいだね、長かったよ本当に』

 

 ・・・そりゃ永いでしょうねぇ・・・永すぎますよ。私だったら止めます途中で絶対に。

 

『そうかな? 君の場合、それこそ絶対に不可能な御業の類だと思うけど?』

 

 ・・・??? それはどういう意mーー!?

 

『《    》・・・欲望を叶えるための呪文は教えた。後は、どうしても使わざるを得ないときに使って身体に慣らしていくといい』

 

 いつの間にか歩み寄られていた私の耳元に『嫌な記憶を思い出す言葉』を囁いてから席に戻るとザッハークさんは、これが最後の問答だと笑ってグラスを掲げ持ちながら。

 

『ボクは君か兵藤一誠に倒されるだろう。当然だ。

 アジ=ダカーハは人類の未来を創る為に、人の宿業を背負って怪物になった悪しき人間の末路なのだから。

 ボクが倒されなければ次の世界が来ることなく滅びる以上、ボクの消滅は確定事項でなくてはならない。勧善懲悪の最たる存在として、その役割だけは絶対に他の奴等にわたすつもりはないからね。人間には倒すべき責務を負ってもらう。嫌と言っても無駄だ。悪神に否やの言葉は聞いてもらえないのだから』

 

『ただ、未来の死亡が確定しているボクだけに『その先』が気になって仕方がない。なにせ、自分がいなくなった後の世界がどうなったのかの物語だ。気になって当前だろう?

 果たして世界はボクを乗り越えた後に、どちらの道を選ぶのだろうか?

 あるいはボクの倒し方次第で『その後』まで決まってしまうのだろうか?

 その二つの選択肢を世界に対して用意するために君を喚んだ。適任だったのは君だと独断で判断したんだよ、悪神だけに自分勝手に我が儘に』

 

 ・・・・・・・・・。

 

『その表情・・・どうやら思い出してきてくれたみたいで助かったよ。これでようやく始められる。人類と世界に対して問いを投げかける最終試験を。

 《滅びるか? 滅びたくないから考えるか?》二つに一つだ・・・なんてセコいことは言わない。幾らだって足掻いて悩んで考えずに挑み掛かってくるといい。

 終わりを前にして無力感に苛まれ、自暴自棄になるならそれでもいい。確定した滅びの未来を前にして家に引きこもって布団かぶって震えている自分を感じ取り『自分はこういう奴だったんだ』と理解しながら死んでいけるんだったら、何も分かってないことも分からないまま偉そうにふんぞり返っているよりずっと良い』

 

『要は方法論の問題だ。世界の危機に三種族すべての希望を背負った兵藤一誠が力付くでボクを殴り飛ばして消滅させる『世界に迫った危機を消去する』選択肢を良しとするか。

 それともボクたち終末思想を、『ディストピアを乗り越えられる』ことで得られる混沌とした未来を守り抜くか。同じ暴力でも使い方次第で後に続く道は大きく変わってくるだろう。

 そして、どんなに強大な力であろうと強さであろうと所詮は『事を成すための道具』に過ぎない。君にとって、そのロンギヌスはそう言う類の武器でしかない。大事に使い捨ててくれ。期待している』

 

『さぁ、もう行くといい。君が本来あるべき時間と空の下へ。本来の君が抱いた思想をボクに食らわせにくるその日まで、出来るだけ死なないように生き延びてあげられるよう努力するからね』

 

 

 そう言って掲げられた右手の拳が開かれて、出てきた蝶に先導されながらフラフラ飛び立ち付いてく私。

 

 残されたアジ=ダカーハさんが某かを呟いてるのが聞こえたような聞こえなかったような。

 

 

『ーー他人の願いを無視して自分の理想を貫く極悪。

 自分がそうしたいから、自分は動く。誰かの考えなど関係ない。

 人の意見なんか関係ない。自分の願う『あの人たらん』とする願い。

 その為になら、善悪問わず、守りたい者を守り、救いたい者を救い、倒すべきと判断した者を倒す。

 善悪を無視して己が間違いだと断言でき得るものを否定できるだけの力は戻した。

 個人としての理想像を追い続ける余り、世界の法則にまで喧嘩を売った人類出身の魔王《第六天魔セレニア》。君の悪徳に幸あらんことを。人類万歳』

 

 

 

つづく

 

 

 

ステータスが更新されました

 

 異住セレニア・ショート

 種族:人間。

 ランクであり称号であり神が与えたレッテル:第六天魔王

 

 生前に成した悪行を『許されざる間違い』と思い込んで、自らを『悪』と仮定し生き続ける道を選んだ転生者の少女。

 何度転生しても『自己正当化をする自分自身への自己否定』だけは、決して揺らぐことが出来ない存在。

 

 神の定めた理に喧嘩を売った罪で『魔王』認定を受け、数万年もの永きに渡り無限の闇に閉じ込められていた可能性世界のセレニアの一人。

 

 ーー実は、神様的には理に喧嘩を売ったから怒って魔王にしたんだけど、本人は生前に成した自己正当化により恩師として勝手に崇めてたヤン・ウェンリーを利用してしまったことを深く恥じまくっており、ヤンより格下認定している神様の定めた理を否定したことなんて割と本気でどうでも良かったりする。

 

 

 生も死もなければ光も闇もない無限の宇宙、無の境界に落とされたのだが、己の自我が宇宙に溶けてしまうほどの永い時間を彷徨い続ける間『他にやることもなくて暇だったから』と、思索に耽っている内に自分の中で抱いていた疑問への暫定的な回答をいくつか出すことに成功しており、それらは時間の蓄積によって神秘の域に達した概念神具となっている。

 

 ただし、あくまで“暫定的な回答”なので答えに至れたとは思っていない。もし再び数万年分の余暇を得たら続きを考えようとしてたので、迎えに来た人間版アジ=ダカーハは慌てて殴って気絶させてレテ河まで拉致誘拐して入水させた、面倒くさいことこの上ない人間。

 

 

「悪だ正義だなんて理屈はどうでもいいんです。救いたい人が居て、救える力があるときには救えるだけ救えればそれでいい。人として当たり前のことでしょう?」

「是非もなし。問答も無用です。もとより人に翻意を促し、改善してほしいと願う行為は人の思いを否定して、自分の考えを押しつける人権侵害に他なりませんからね。

 相手の考えを否定する悪を成すなら、自分が『悪として相手に完全否定される覚悟ぐらい』は済ませておく義務があります」

「可哀想という言葉は悪です。相手に『おまえは自分よりも可哀想な立場にいる人間なんだよ?』と教える行為だからです。

 人を傷つけたくないという思いは悪です。それは相手に『自分のことを嫌う権利はない』と断言する行為であり、人として保証された最低限の権利である思想の自由を否定する悪徳だからです」

 

 

 ーーこんな言葉を言い続けてたら、転生先に世界によっては普通に断罪されて魔王呼ばわりされますよ常識的に考えて。ある意味における、究極の自業自得少女です。

 

 

 第六天魔王とはキリスト教的解釈である魔王の存在『悪の権化』ではなく、単なる『神仏にとっての敵』を指す言葉であり、彼女の思想的にはもっとも相応しい悪名ともいえる。

 この名を奉られた人間は織田信長をはじめとして幾人かいるが、名の示すとおり『神仏の敵』でしかなかった人類にとっての王は信長ぐらいなものだろう。

 善悪など気にしない彼も英雄ではあるので英雄派の中にいるかもしれないと期待していたけど居なかったからガッカリしたアジ=ダカーハによって連れてこられた異世界第六天魔王。

 

 

能力名『欲望解放』

 

 正義と悪がしっかりしている《ハイスクールD×D》の世界観では割と本気で洒落にならんチートっぷりを発揮できちゃう恐れがあったため、転生先の身体には幾重ものセーフティがかけてある能力。

 本人の同意なくしては決して破られることはないが、本人が呪文さえ唱えてしまえば一定時間は確実に効果が持続してしまう。

 だからこそ、中々解放する踏ん切りが付かないよう設定したのは悪神の面目躍如といえるだろう。

 平たく言うと、エロくなる。性格的にも肉体的にも火照ってしまって大変な事態が生じてしまうので、セレニアとしても絶対的な窮地以外は絶対に使いたくない能力。

 彼女自身は英雄でもなんでもないため、当然ながら原典は別にある神具。

 

 原典は『クロスワールド・スクランブル』。

 主人公のTS美少女『六道六天』の使う魔法で、外に発するべき力を、内に宿す性質を持っている。

 

 自分を犠牲にしてでも守りたいと願った人たちを守ろうとする我が儘から発現した、破滅の身体強化魔法。 

 

 魔王を、正義という儚くも弱く尊いものに憧れる異端の悪と結論づけている、生まれたときから壊れた人間。世界の理を事実として認識してない少女。

 正義大好き美少女なので、正義でない者が正義を名乗ることを許してくれません。

 

 微妙に設定がセレニアに似てたため採用させていただきました少女です。

 バトル展開はNo.!と言われた場合には不採用としますが、上記の理由もあって余り発現できない能力であることもお忘れなきようお願いいたします。


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