堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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本来なら今話が復帰最初の1話目になるべき回の甘粕レイナーレ暴走回です。
またの名を夕麻ちゃんの滾るリビドーが爆発する回。

ノリしかないと評判のアマカッスが乗り移った夕麻ちゃんに、覇龍の唱える屁理屈など聞いてさえもらえません。どこまでも突っ走ってく夕麻ちゃんは今話でもマイペースに好きなように暴走しまくります。


*話が終わった後におまけとしてシリアスバージョンの甘粕レイナーレ論も追加しておきました。


28話「言霊少女を愛した元堕天使少女」

「・・・まったく、この程度のことで取り乱すなんて随分と小さな男の子になったものですねイッセー君。強くなったせいで弛んでいるんじゃありません?」

 

 吹っ飛んでいったイッセー君の元へ歩いて向かいながら、私は長い髪を片手でかきあげつつ彼に話しかけてみる。

 幸いなことに彼は気絶まではしておらず、むしろ衝撃で一時的に意識が『向こう側』から戻ってきてもいるみたいだし丁度いいでしょう。お説教タイムです。

 

「だいたい、あなたは一度アーシアを私の手で殺されているじゃないですか。たかだか一度が二度になったくらいでギャースカガースカと騒がしい。もっと男らしく、ドッシリ構えなさいドッシリと」

『そ、それは流石に盗人猛々しいのではないかと・・・・・・ぎゃふぅっ!?』

「ーーよっと。あら、失礼。目線をあわせるのが難しそうだったのでお腹の上に着地したら力加減を謝ってしまいましたわ。ごめんなさい。

 ・・・で? 今何かおっしゃってましたかイッセー君」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにも』

「よろしい」

 

 居丈高な口調で昔の私らしく偉そうに堂々と彼を見下ろし、蔑んだ目で見つめてあげながらお腹の上に片膝を立てて座り込む。

 

「そも、あの時だって私に殺されたはずのアーシアは生き返り、あなたの元へと還ってきたでしょうに。なんだって今度も同じことが起きるはずがないと信じ込んで暴れているんです? バカじゃないですかあなたは? あるいは冥界のバカ貴族共にあてられて、悲劇の王子様を気取りたいナイトシンドロームに感染していたとか」

『・・・・・・・・・あれは本来、あり得ない出来事だったんだ。あんな奇跡は二度と起こらない。あんな都合の良い奇跡なんて二度も起きるはずが・・・』

「じゃあ、あれは一体なんだと言うんです?」

 

 私が背後を親指で指し示した先に見えているだろう物。奇跡的に命を拾ったアーシア・アルジェントを介抱しているリアス・グレモリーと愉快な仲間たちの面々を目にしてドライグ・イッセー君は激しくうろたえ『え? え?』と身体がドラゴン状態のままでは違和感しか感じられない戯言だけを繰り返し続けたので、もう一発殴ってやらないとダメかと、思わず匙を投げだして単刀直入な解決手段に訴えそうになりましたよ本当に。

 

 

 私は深く息を付き、怒りや不満を体外に吐き出すと改めて彼に滔々と説教を行います。

 セレニア様らしく、セレニア様風に。“自称”民主主義者の少女、異住セレニア・ショートの側近として、彼女を崇拝し敬愛し忠節を尽くす忠勇なる軍人として。

 そしてーー未来の妻として、幼妻のわがままに付き合ってあげるのは道理であり礼儀であり義務なのですからーー。

 

「あの奇跡は一度だけでも有り得ない出来事でした。それを可能ならしめたのはあなた自身の信じる心です」

『信じる・・・心・・・』

「そうです。あなたが彼女を信じてあげたから、彼女はあなたの元へと還ってきた。あなたが信じてあげていなければ彼女は死んでそのままだった。おそらくは今回も似たような偶然なり奇跡なりが介入してきた結果なのでしょうね。

 あなたが信じることで起こした奇跡を、あなた自身が信じなくなってどうするんですか、この駄龍。もう少しシャンとしなさいよ。あなた一応は伝説のドラゴンを見に宿した勇者でしょうが情けない」

『う、ぐ・・・だ、だけど俺だって信じようとしていたし、実際信じてもいただろう?』

「最後まで信じ切れなければ、最初から信じなかったのと結果は同じです。

 裏切りで終わってしまった愛など、一方的な自己満足しか残りません。そんなものは自己愛です。自慰行為ですよ」

『・・・!!!』

「もっと信じなさい、他人を。信じずに否定だけで殴るだけならバカでも子供でも出来る。相手を知り、理解しようとした上で受け入れられないなら殴り飛ばして解らせてやりなさい。殴り合うことでしか判りあえない関係性だって世界にはあります。

 私はセレニア様のように、何でもかんでも話し合えばいいと思ったことなど一度もない」

 

 むしろ私の場合は「話しても無駄な奴は、殴るか見捨てるか」その二択だけでいいと思っている。

 権利も自由も無条件に与えられるべき物ではないと信じる私から見て日本の民主主義は矛盾だらけだ。

 為政者を選ぶ権利を国民に与えたところで、困窮すれば国民の大多数は英雄による独裁を選ぶのだろうと心の底から信じ切ってさえいるのが私という元堕天使の女だ。

 

 生まれ育った環境で育まれた価値観や考え方が簡単に変わることなど有り得ない。

 私は堕天使にとっての常識を教え込まれて成長した堕天使だから、堕天使としての倫理と常識を保持している。それが曲がりなりにもセレニア様の言葉に唯々諾々と従っているのは純粋に彼女のことが好きだからに他ならない。

 彼女が好きだから彼女の愛する民主主義を奉じている。民主主義には、その程度の価値しか私は感じない。感じる必要すら感じない。

 

 自由と権利は自らの力で勝ち取るものであり、与えられて然るべきだ等という考え方は間違っていると信じるが故である。

 権利とは、受ける側にも相応の資格を有していなければならない義務があるはずだ。資格をえるために試練を与え、潜り抜けた者だけが得られるからこそ資格には意味があり、権利としての価値が生まれる。価値ある物だからこそ人は守り抜くため戦い抜く。

 

 命がけで手に入れたわけでもないから、易々と宝を明け渡して平然としていられるのだ。命よりも重い物はないなどと言い出す、日常的に失われる命をひとつでも多く残すために間引きした経験すらない苦労知らずが知ったような口を叩いて尊敬されるのは挙げて民主主義への甘えと無理解にあるのだと私であれば断言できる。

 

 大切であることに気づかせるためには、奪われる怖さを知らねばならない、教えてやれなくてはならない。それが教育と言うものだ。

 倒れないよう支えるだけでは意味がない。倒れたときに立ち上がる勇気をこそ教えなければ、人は永遠に誰かに縋り頼ってしか生きられなくなってしまう。

 

 それが私の価値観。セレニア様とは真逆の方向を向いていて、愛がなければ一緒にいられない相反する価値観の持ち主同士ではあるけれど。それでも私はセレニア様と一緒にいられさえすれば幸せ。それだけで世界すべてを敵に回しても良い。人類だって滅ぼせる。

 セレニア様さえ側にいてくれるなら、彼女と私以外の宇宙すべてを消滅させることさえ辞さない覚悟が私にはあるのだから・・・。

 

 

 

 

「ーーま、そんな訳だから今はまだ寝ときなさい。今起きても直ぐにまた気を失って気絶するだけですから無意味です。つか、寝ろ。ウザい」

『ヒドい! ヒドすぎる!! この扱いはあんまり・・・ダ?』

 

 ああ、始まりましたか。ぶり返しです。

 ーードライグの中にいるらしく、良く分からないお二方が目を覚まされたようですね。支配権が再びイッセー君から彼らだか彼女らだかに戻ろうとしているようで。

 

「それではイッセー君、また後程にでも。運が良ければこれ以上傷つかず、痛い思いをしなくて済みますよ」

『え? え? エ? E? e・・・・・・』

 

 気配を察知し、後方へと飛す去る私の目にもイッセー君の変貌ぶりは明らかすぎました。見るからにオーラが違う。違いすぎる。彼のような光がない。だからと言って闇とも言えない。

 これはーー薄汚れた泥濘だ。吐き気がする、気持ち悪い。早く浄化してやる糞野郎。

 

『ーーそこの堕天使よ。レイナーレと言ったか?』

 

『おまえもまた、選択を間違えた』

 

 ・・・・・・ふん。

 

『我、目覚めるはーー』

《始まったよ》《始まってしまうね》

『覇の理を神より奪いし二天龍なりーー』

《いつだって、そうでした》《そうじゃな、いつだってそうだった》

『無限を嗤い、夢幻を憂うーー』

《世界が求めるのはーー》《世界が否定するのはーー》

『我、赤き龍の覇王と成りてーー』

《いつだって、力でした》《いつだって、愛でした》

 

 

《何度でもおまえたちは滅びを選択するのだnーー》

 

 

 

 

「甘ったれたこと抜かすな戯けどもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 

 

 ずどがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!!!!!!!!!

 

 

 

《ぐっはぁぁぁぁぁぁぁっ!?》《ふえっはぁぁぁぁぁぁぁっ!?》

 

 

 

 

 二つの声が重なって悲鳴を上げるのを、私は無様を見下す視線と態度で堂々と宣言してやります。

 セレニア様のやり方を私なりに再現することで。セレニア様の好むやり方を私好みのやり方に適用させて。セレニア様の愛を、私の愛情表現方法でオブラートに包み込みながら。

 

 ーー太陽のコロナフレアスカートドロップキックで一度黙らせてから、改めて説教タイムの始まりです。相手が一人のダメ男から複数人の性別不明者になってしまいましたが・・・まぁ、大した違いはありませんので気にしません。私は言いたいことさえ言えればそれで良しです。

 

 

「愛が欲しいなら欲しいと口に出せ! 相手に伝わるよう努力しろ!

 力が欲しいなら修行しろ! 生まれ持った力持つ者が持たざる者の欲する心を否定するな!

 世界中に住んでいる、どこの誰が世界の滅びを選択したと言うのだ? おまえが勝手に喚いて、勝手に絶望して、勝手に決めてるだけだろうが。そんなモン、知ったことか戯け。知って欲しいなら知ってください分かってくださいと頭を下げてお願いしてこい。

 口に出さなくても伝わる、分かってもらえる、思いはきっと誰かに届く。努力し続けてさえいれば、頑張り続けていれば、ボクが一人で辛くても耐え続ければ・・・って、アホか。そんな自虐趣味に誰も付き合わんわ戯け。ドMの変態か貴様は、恥を知れ」

 

《え、えぇー・・・》《私たち、ずっとがんばってきたのに・・・》

 

 まだ言いますか、コイツ等は。

 つくづくガキというのは物わかりの悪い頭でっかちばかりですね面倒くさい。

 

「頑張りを見てもらいたいなら、見えるような頑張りをするべきでした。誰も見てない、誰からも見えない場所で頑張ったところで感謝してくれるのは気付いた人たちだけ。全体の数パーセントいれば良い方の超極少数派に過ぎません。当然です。

 だって、その事実を知っても尚それを行える、誰からも頑張りを認めてもらえなくても良いと、自分は誰かの役に立ちたいだけで感謝されたいわけじゃない、自分の気持ちなんて理解されなくても構わない、裏切られるのだって承知の上だ。

 ボクはただ、ボクの頑張りで世界の誰か一人だけにでも役に立ってくれたら満足できるのだから・・・そんなキチガイレベルの献身が求められる頑張り方なのですからね。だからこそ、それを選んで実行している人たちはスゴいのですよ。私じゃ絶対出来ません。

 だと言うのに、あなたたちは何ですか。 

 嗤われるのが、そんなに嫌でしたか? 否定されるのが、そんなに辛かったのですか? 世界がどうだ、人類がどうだとか、子供みたいな理屈をこねて自分の個人的怒りと鬱憤を晴らすための理由付けにして暴れなければ我慢できなくなるほど辛くて惨めな想いでもしてきたのですか?

 だったらーーハッキリそう言いやがりなさい糞ガキ共がっ!!!」

 

《!!!》《!!??》

 

「甘えるなガキ共! お前らの怒りも鬱憤も、何もかもすべてお前らだけの物だ。他の奴らは共有できない、してもらえない。

 理不尽も不条理も、それに対して抱く怒りも憎しみも殺意もすべて、お前らの都合だ!

 お前たちが裏切られたと勝手に解釈して、勝手に絶望して、勝手に人類滅亡させたがってるだけだ!

 人殺すなら自分の理由で殺せ! 自分のエゴで殺せ! 人類が滅びを選択したから滅びるんだ等と言い訳するな! 自分の行為を正当化しようとするな!

 どんな理由があろうと、虐殺は決して正当化されない! されてはいけない! たとえ実行したのが神であろうと、人殺しは人殺しだ! 殺人者が自分の罪を無かったことにしようと言い訳してんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」

 

《!!!!!》《!!!!!!》

 

「今の時代、お前らに居場所はない! これ以上ここに残るなら私が殺す、ぶち殺す。

 神殺しの武器も、龍殺しの武器も腐るほどあるし、作り出せる取り出せる。何度でも間違えてお前らを殺し尽くしてやっても構わない」

 

《・・・・・・》《・・・・・・》

 

「でも、これだけは言っておく。絶対に忘れないよう、耳の穴かっぽじって、よーく聞いとけ。

 そもそも裏切られて辛くなって泣き出すぐらいならーーはじめから人のことを信用してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

《ーーー!!!(びくっ)》《・・・・・・!!!!(ひぅっ)》

 

「信じることは尊いことだ! なぜなら裏切られるかもしれないからだ!

 裏切られる可能性のない約束なんて流れ作業だ! 台本通りに進んでいくだけのシナリオだ! 反吐が出る! 裏切られるかもしれない、裏切られたら自分は怒りで相手を憎んでしまうかもしれない、死ぬかもしれない。それでもボクは彼をーー彼女たちを信じたいから信じるんだ・・・。ーーこれが信じるという行為だ!

 裏切られる危険性と、信じたいという気持ちを秤に掛けて、信じる方に傾いた行為だからこそ価値が生まれる! 覚悟が相手と自分に信頼の橋を繋げてくれる!

 人を信じるのに必要なのは優しさじゃない! そんな物はどこにでもある! 安売りされてる! 貧民街では100ドル出せば余裕で買える端金の親切心だけで十分すぎる!

 本当に必要なのは覚悟だ! 裏切られる恐怖を乗り越えて信じる覚悟! 相手に裏切られても、自分は決して裏切らないと言う覚悟!

 それすらないまま、相手が自分の信頼に応えてくれること前提で信じただけの信頼なんて、糞程の価値すらねぇんだよ! それすら分からないなら時空の彼方へ吹っ飛んで行け糞ガキ共の意識共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 すぱこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっん!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

《あーーーーーーーっ!?》《いだーーーーーーーーーーーーーーっ!?》

 

 

 

 

 

 

 

 しゅうううううううううう・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 もう一度、最後に痛恨の右ストレートをぶち込んであげた次の瞬間、イッセー君の鎧が解除されて彼も解放されました。

 

「う、うー・・・ん・・・。あれ? 何がどうなったんだ? ・・・なんか変な仮面付けたオッサンが呆れ顔して送り出してくれた気がするんだけども・・・」

 

 ふむ。こちらは大丈夫そうですね。

 ーーでは、残るはもう一人。メインディッシュだけですわね。

 

「説明は後ほどにでも。イッセー君、とりあえず回復を早めるためにもリアス・グレモリーのオッパイをツツかせてもらって起きなさい。あなたは大抵の負傷を精神疾患をオッパイだけで完治させることができる特異体質の持ち主『おっぱいドラゴン』なのだから」

「ヒドい言われよう!? でも、間違ってないと感じる自分が何故か快感に・・・」

「・・・・・・微Mで、脱がせたがりのライトSですか。救いようのない変質者ですね。キモ」

「なんか今、スゴい失礼なこと言わなかった夕麻ちゃん!?」

「別に」

 

 私は彼の言葉を無視して、未だゼノヴィアたちが戦っているセレニア様の方に向かうため跳躍したが、途中で気が変わりリアス・グレモリーの隣へ着地して彼女の耳元へ唇を寄せてから囁く。

 

「イッセー君の元カノとして、今カノさんにひとつだけアドバイスしてあげます」

「!? な、なによいきなり。優越感でも誇示するつもりなの? そんなのなくたって私は・・・」

「彼は甘やかすと幾らでも脱がしてくる変態ですが、厳しくキツく当たると大抵のプレイに応えてくれるドMの素質も持ってるみたいです。

 せっかく巨乳で王女でエロくて乙女という盛りすぎな設定を持ってるんですから、有効利用しないと損ですよ」

「な・・・!? あ、あなたグレモリー家の次期当主になんて破廉恥なことを・・・!!!」

 

 何かしら喚きだした彼女を放置して、私はゼノヴィアたちの隣に並び。

 

「どうですか? 戦況は。まだいけそうですか?」

「余裕で。少なくとも五分間は楽に現状維持ができるでしょうな」

「ーー要約すると、五分以上過ぎたら現状破綻待ったなしってことです。セレニア様のペルソナ、地味にキツい・・・。弱くても無限に湧き出す軍隊がこれほど厄介だとは思っていませんでした~・・・。マジでシンドいんで交代してもらえません? アタシそろそろ疲労で吐きそうですよ・・・」

「了解です。後は私が終わらせましょう。簡単に済みますからね」

「承知しましたが、一体どうやって・・・ああ、あれですか。陛下が多少哀れではありますが仕方ありませんね」

「だね~。ちょっと妬けはするけど、まぁ今回は見て悦しんどきますんでご自由にどぞ」

「ありがとう。では、一足だけお先に」

 

 ヒラリっと、私はセレニア様の目の前に降り立つ形でテレポーテーション。

 

「ーーはっ、まだ軍勢の成長が届いてないってのに大ボスのご登場とはついてねーー」

「ご無礼を。責任はとりますからご安堵なさいませ」

 

 ぶちゅ。

 

 ぶちゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~。

 

 

 ぶっちゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・がくり。

 

 

 

「ーーぷはっ。・・・ふぅ、御馳走様でした。おいしかったです。そして勝ちました」

 

 私は自分の大きな胸に顔を沈めたまま眠るセレニア様の頭をナデナデしながら、勝利のVサイン。やったぜ、一歩リードだ。これでゴールインまで後わずかだ!

 

 

 

 

「・・・・・・これって勝ちなのかな? いやまぁ、確かに負けた気はするけどね。僕たちが・・・」

「・・・モヤモヤ・・・します・・・」

「あらあら・・・妬ましいですねぇ・・・」

「み、見ているだけで恥ずかしくなりました・・・きゅ~・・・(ぱたり)」

「なにかしらね、この感覚は・・・。今まで感じたことのない、認めたくない過ちのごとき感情・・・はっ! まさかこれが噂のしっt」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・おっぱい枕・・・うらやましい・・・・・・」

 

『KILL』

 

「え、え、ちょっと止め、俺けが人! 重傷人! アーシア助けてアーーーシアーーーッ!!!」

「・・・・・・・・・イッセーさんの事なんか知りません!」

「アーーーーシアーーーーーーーーーっ!?(ドガバキゴガギ)・・・・・・チーン・・・・・・」

 

 

つづく

 

 

 

 

おまけ:ドライグ・イッセーと夕麻ちゃんによる(比較的)まじめな会話バージョン。

 

「ーー人が選択を間違えた・・・ですって? いったい何をどう間違えたというのですかドラゴン」

《いつだって世界は力を求めて間違える》《いつだって世界は求めるべき愛を求めない》

「人の一生は長くても100年ちょっと。結婚可能な回数と出会いの数なら後者と比べて前者が大きく劣ります。求めたところで与えてもらえない愛など世界にはごまんと溢れている。

 それらシステム上の欠陥を、あなたは人のせいにするのか? 他人が作ったルールに従い我慢するのが、そんなに悪い事だとでも言うつもりなのか?」

《・・・・・・》《・・・・・・》

「あなたの理屈は強者の傲慢と欺瞞に満ち満ちている。求めれば与えられ、欲しければ奪い取れる。法も規則も必要としない孤高の最強種ドラゴンの力学でのみ人を計り、定義している。弱き者、人間の視点にはまるで立てていない」

《・・・いつだって人は間違えた・・・》《・・・いつだって人はそうじゃない方を選んでた・・・》

「数万年生きても死なないあなただから『人』という人類総体を一個人と同じ対象として認識できる。誤認して、勘違いして、自己の狭い価値観だけで決めつけてしまっている。人類には、そこまで広く広義的に解釈できるほど長い人生は与えられていないと言うのに。

 千年一夜のあなたにとって10000万回に及ぶ人間の間違った選択も、人類一人一人の視点から見たら一生の内何回参加できるか知れたものじゃない。

 100万人の犯した過ちも、100万人の中に属する一人にとっては一回間違えたに過ぎない。日常でもよくある些細な過ちだ。人間にとっては『普通』の出来事だよ。

 余りに長く強く生きすぎるから、そんな当たり前のことさえ判らなくなり、間違えるようにもなる」

《・・・・・・》《・・・・・・》

「人は間違える生き物だ。間違えなければ人は間違いを知覚し、正すことができない。生まれながらに間違えない生き物なら人じゃない。そんな化け物を愛しているなら、あなたは人を見た経験すらもしていない。自分の中にしか存在しない空想上の生物《ヒト》を地上の人類に押しつけているだけだ。私やセレニア様と同じ、夢見ているだけの子供だよ」

《・・・・・・》《・・・・・・》

「間違えるのは良いことだ。世界が間違いに満ちているのは良いことだ。

 間違った選択だらけだから、数少ない正しい選択が美しく見える。正しさを尊く感じられる。間違えてばかりの人が、目指すべき正しいゴール足り得る輝きを見出す事ができる。

 はじめから正しい人は、間違えない人間は、本当の意味で正しさの価値を理解できていない。間違えたことがないから、間違えなかった結果が如何にありがたくて素晴らしいかすら解らないからだ」

 

「間違えないように作られた《正しき人類という名の化け物》にとって正しき選択とは、生まれ以て備えていた機能を行っているに過ぎない。そう言う風に作られているからそうしただけだ。それをするのに努力も熱意も情熱も正しさすらも必要ない。

 ただ上から『やれ』と言われたことを疑いも抱かずに実行し、唯々諾々と従うだけの奴隷ですらない家畜に、お前は愛を感じられるのか? 愛しさを覚えることができるのか?」

 

「間違いは多く、正しさは少ない。だからこそ安っぽい絵画はとても美しい。

 正しさだけで描かれた純白の絵なんて画用紙でも買ってくれば事足りる。汚い色がぶちまけられた汚い物だらけの絵だからこそ、そこに個性が見いだせる。汚さが綺麗さを際だたせてくれる。

 汚い色の絵具しか使えなかった貧乏画家の絵でさえ、何も描かれていない綺麗なだけの最高級画布に、情熱と言う名の美しさで勝っている」

 

「正しい選択を選ぶには、間違えなければならない。間違える恐怖を覚えなければならない。失敗の経験が、恐怖が、必然的に正しさを選ぶ可能性を開くのだ。

 恐怖政治? 思想弾圧? 自由への侵害? ああ、そうだな。・・・で? それがどうしたと言うのだ? それらが悪だと、間違った選択だと知っているのは間違えてきたプロセスがあるからではないのか?

 間違いだからと教え込まれただけで理解した気になってるだけの無知無学なガキになって他人を見下すのがそんなに好きか? 楽しいのか? 私には理解できないな。

 正しさを教えられただけで何もしてない自分が、現在進行形で間違いを実行している人間を嗤うなどバカバカしいにも程がある」

 

「間違っていると思ったことを間違っていると言って何が悪い。どこがいけない。

 正しい方が素晴らしいと唱えることの何が子供だ? 大人になって子供に戻る必要のなくなった自分が、子供を見下し優越感に浸っているだけだとは思わないのか?

 私ならそう思う。今もそうして、そう想いながら言い続けている。私とお前を罵倒し続けている」

 

「百の正しき選択は、たったひとつの間違った選択で無に帰すのが人類社会だ。無数の正しさの卵たちが、たった一人のしょうもない人生の落伍者によって奈落の底への道連れにされるのが世の常だ。

 だからこそ人は、『それがどうした』と言わなければならない。間違った自分が、間違っていると感じる他人に『おまえ間違ってるんじゃないのか?』と問わなくてはならない。問い続けなければならない。それが正しさへとつながる唯一の道なのだから」

 

「人類は出来ないとされてきたことを出来てきたから今があるのだ。間違っているとされてきたことを『お前らの方が間違っている』と叫んできたから、今の間違いと正しさがあるのだ。間違いの結果が今なのだ。正しさの結果が今なら『間違い』等という言葉は概念上の存在でしかなくなっているだろう。

 机上の空論はいつだって完璧で、間違える余地などどこにもないのだから。選ばれなかった正しき選択の可能性など、幾らでも量産できるのだから」

 

「強すぎるから、間違えないから、お前は間違える人の弱さが許せなくなるのだ。人のことを理解しようとしていながら、結局は否定することしかできなくなるのだ。

 人を語るなら、まずは一度でも弱い人間に生まれ変わってからにすることをお勧めさせてもらう」

 

「ーーもう、休めドラゴン。お前は長く強く生きすぎた。しばしだけでも寝てみれば、案外世界は捨てたものでもないかもしれんぞ?

 だから今は眠れ。明日を夢見て眠れ。今より良くなっている明日を信じて眠るがいいドラゴン。

 強き者であるお前たちは、休むことの大切さと有り難さを知らな過ぎるから・・・」


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