堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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まさかの同日更新です。しかも三時間かそこらで更新って、私に何があったんだい?
前後編の作りになっておりますので、前回を読んでない方は一話前からお読みください。

今話でディオドラ君の話は終わりです。
彼の最期はスプラッタになってますから読む人たちはお気をつけて。

注:今話における常識ツッコミはディオドラ君の役割です。


24話「異常なる血の紅」

「・・・気にいらねぇ言い方してんじゃねぇよ。俺がお前なんかと同じ訳ないだろうが」

「そうかな? ボクは結構、酷似している部分が多いと思うけど?」

「ざけんじゃねぇ! 俺はお前みたいに女の子を泣かせたりなんか絶対しない!」

「目の前で別の女とイチャツきまくってるのに?」

 

 バッ!

 

 俺は即座に顔を背けて、ディオドラから放たれた痛恨の一言を回避する!

 緊急回避成功! 兵藤イッセーはノーダメージだ!

 

「ーーそれに俺はアーシアに酷いことなんかしたことねぇ!」

「人前で全裸に剥いて辱めてたって聞いてるけど?」

 

 ババッ!!

 

 俺は続けて緊急回避行動を継続する! まだ大丈夫! ノーダメージだ!

 

「それから後ほかにも・・・」

「もう勘弁してください!」

 

 俺、まさかの全力土下座。・・・変態は正論には敵わなかったよ・・・。

 

「イッセー・・・」

「イッセー君・・・」

「イッセー先輩・・・」

 

 うっ!? みんなからの視線が冷たい・・・でも、大丈夫! 土下座してるから顔は見えない見られない! 視線なんか感じるだけで見えてないから全然だいじょーぶ!

 

「まぁ、ボクの方のは権力者特有の分別のなさを発揮したあげく、周りの取り巻きたちは太鼓持ちばかりで止めようとはしなかったから度を超しすぎたけどね。

 貴族じゃなかったら、そして狙った獲物が人間の聖女という悪魔にとっての天敵じゃなかったら危うかったかもしれないねぇ。その点については完全に運が良かったと、天とやらに感謝しているくらいだけども」

「・・・意外ね。あなたは自分以外の他人に感謝の気持ちなんて持ち合わせてないと思ってたのに・・・」

 

 部長の言葉にディオドラはくつくつと笑い、今度は部長に向けて嫌に冷めた笑顔と辛辣な言葉を向け始める。

 

「君がそれを言うかな、リアス・グレモリー。誰よりも気位が高くて、自分が認めた者以外には誰の意見にも耳を傾けようとしない、名門の誇りを勘違いしている貴族のバカ娘代表の君が」

「ーー聞き捨てならないわね。私がグレモリー家の誇りをどの様に勘違いしているというのかしら?」

「人前でオッパイさらして守れる名門淑女の誇りってなんだい?」

 

 バッ!

 

 ーーようこそ、部長。正論に破れた敗者の側へ。

 あと、真っ赤な顔して冷や汗ダラダラかいてる姿も可愛いです。

 

「そんなものだよ、誇りやプライドなんて。誰もが皆、適当に状況に合わせて自分の今を正当化しながら言い訳しながら現実に妥協して日々を生きてる。

 ボクだってそうさ。ーーいや、今まではそうだったと言うべきなのかな?

 名門の家にたまたま生まれついて、生まれながらに高い魔力を持っていたから雑魚には勝てて、名門の権威で目上の者でも這い蹲って跪いてくれて。

 それらを守るため、特権を維持し続けるためにも親に従い逆らわず、親が与えてくれる物の中から楽しいおもちゃを探して遊んで弄んで打ち捨てて、親に許されている中から特権乱用の手法を選んで実行して民を殺して弄ぶ。

 全部、親から受け継いだものだ。与えられた物ばかりだ。自分で勝ち得た物など何ひとつ存在しない。

 この身体に流れている名門悪魔の血筋すらも、先祖が偉大だっただけで僕自身が何かを成し得て手にした物なんかじゃあない。サイオラーグを除く、僕たち貴族のほとんどは例外なく誰かから与えられた物だけで自身の優越感の根拠としている。それが選ばれし者、悪魔貴族の正体なんだよ」

 

 

 

 場を沈黙が支配して、部長たちが真っ青な顔色のまま俯くのを視界にとらえながら俺は、言いようのない怒りに駆られてディオドラの奴を真っ正面から睨みつけてやる。

 

「気にいらねぇな」

 

 一歩前へ進み出た俺を、ディオドラは階に腰掛けながら胡乱な瞳で見つめてくる。

 

「ようはあれだろ? 『親が金持ちの家に生まれて、言いなりになるしかなかったんですぅ~。ボクは悪くありません。全部親が悪いんだ!』って言う、二時間ドラマで金持ちのドラ息子がよく言ってる台詞と同じだ。三下の三流台詞なんだよ」

「・・・・・・・・・」

 

 返事をしないディオドラを、俺は人差し指を突きつけながら大声だして喝破してやる!

 

「甘えてんじゃねぇよディオドラ! てめぇは何もやってない自分を正当化したいだけだ。他人のせいにして逃げたいだけなんだ。自分の弱さから目を逸らしたいだけなんだよ!

 だいたいお前は家だ家だって口にしてるが、一度でも親に逆らったことがあんのかよ! ないんだろ!? だったら、やってから口にしろヘナチョコ坊主!

 親が決めたからなんて小利口な減らず口をたたく前に、嫌なら嫌ってハッキリとそう親に言ってみやがりやがれ!」

 

「イッセー・・・!」

「イッセー君・・・!」

「イッセー先輩・・・!」

 

 俺の宣言にみんなが尊敬の目で見つめてくれる。

 そうだよ! そうなんだよ! 親が言ったから、決めたからって言いなりになる必要なんてどこにもないんだ! 親から生まれたからって俺たち子供は、親の持ち物なんかじゃないんだから!

 

 

 

 

 

 

「いや、全くその通りだね。反論の余地もない。今の君の意見は全面的に正しい。

 それさえ出来ていたらボクも変わっていたかもしれない、今のボクはなかったかもしれない。

 今の惨状は僕自身の弱さが招いた禄でもない事態だ。言い訳する余地なんかドコにも見いだせないほどに」

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「・・・あれ?」

 

 小首を傾げる俺。

 

「どうかしたのかい赤龍帝? 自分がいま口にした内容に間違いでもあったのかい?」

「い、いや、ないけどさ。ないんだけどさ・・・」

「じゃあ、良いじゃないか。君はボクの間違いを指摘した。ボクは指摘を受けて間違いを認めた。それだけの事だ。問題なく進んで良かったね」

「え、ええー・・・・・・」

 

 終始穏やかすぎるディオドラ・アスタロト。

 お、おかしいな・・・俺の知ってるドラマのバカ息子だったら、反応がもっとこう・・・小物っぽい小悪党はずなんだけどなぁ・・・。

 

「・・・さっきから思ってたけど、あなたなんだか様子が変よディオドラ。今までは自信満々で傲慢きわまりなかった態度を変節させる必要がでるほど特別な事態でも起きたのかしら?」

「自信満々で、傲慢・・・ね・・・」

 

 部長の言葉にディオドラは皮肉に口元を歪ませながら一口酒を飲み「ボクは母親と会ったことがない」と、全然関係のない話をし始めた。

 

「お母様? でも、ディオドラ。あなたの母上様は確かーー」

「ああ。勿論いるし、父の館で今も暮らしているはずさ。単に彼女がボクの生みの親である本当の母親かどうか確かめる術がボクには存在しないって、ただそれだけの事だよ。大したことじゃないし、冥界では特別珍しいことでもない。

 低い身分に生まれた母胎としては優秀な魔族の女なんて、貧困が日常の冥界では珍しくも何ともない平々凡々なふつうの女だろう?」

 

 ディオドラの言葉に部長は激しく眉をひそめて、非難がましい視線を向ける。

 

「統治者として民の生活に責任を持つ貴族の言っていい台詞じゃないわね。取り消しなさい」

「悪いけど、そう言うことは統治者である父に向かって言ってくれ。たかだか能なしのドラ息子である僕に権限なんて殆どないんだから。

 せいぜいが父上の眼中にない人間界で聖女たちを浚ってきては皆に知られないよう嬲って悦しむ程度が関の山の小物相手に言っても意味のない雄弁はやめた方がいいと思うな。

 これは君より支配者として振る舞っていた時間の長い、貴族としての親切心からくるアドバイスだよ」

「・・・・・・・・・」

 

 さっきよりも不機嫌そうな表情で黙り込んだ部長にディオドラは、責めるでもなく何気無い口調で、詰問としか思えない内容の会話を続けてくる。

 

「逆に聞くけどリアス・グレモリー。君は統治者として、民の生活に責任を果たしているのかい?」

「当然でしょう? 私はお兄さまに与えられた駒王町を完璧に統治できてる自負があるつもりよ」

「人間界は僕たち悪魔の領地じゃないよ、グレモリー。

 それに住んでる領民の殆どから存在を知られてない統治者なんて居ないのと同じだ。影の支配者なんて今時はやらないと思うけど?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 口をひん曲げて黙り込み、そっぽを向いてしまった部長。

 ディオドラ・・・お前って本当に容赦のない性格だったんだな・・・。

 

「それともう一つ。僕の父親は反動派の巨頭を気取っているくせに表には出ようとせず、息子である僕を保守派の巨頭で反動的な復古主義勢力を束ねる首魁の一人シャルバ・ベルゼブブに預けて指揮権そのものは眷属たちだけに限定的に使用を許可する臆病な卑怯者の代名詞的人物だ。

 この時点で子供の僕は親に逆らう事を無意味と断じて従うことを選択したんだと・・・まぁ、負け犬の遠吠えとして記憶の片隅にでも記録しておいてくれ」

 

 達観した瞳で語るディオドラは静かすぎてて却って不気味だ。なんだか薄気味悪くなる。いっそ憎たらしいだけの敵なままだったら殴りやすかっただろうに・・・。

 

「なんだい兵藤一誠。おかしな眼で僕を見ているね。同情でもしてくれてるのかい?」

「・・・別に。ただまぁ、お前も苦労してたんだなってぐらいに思ってるだけだよ。そんだけさ」

 

 俺にとっては最大限に引き上げたディオドラへの好意的評価だったのだが「それは違う。勘違いだ」と本人自身が一刀両断してきやがった。

 くそぅ! やっぱ嫌な奴だなこの男!

 

「僕は苦労なんてしていない。苦労なんてしたこともない。親の言いなりになってるのが楽だったからそうしただけさ。何かを求めて努力した事なんて、生まれてこの方一度もない。

 ーーああ、そう言えば兵藤一誠。君には一度聞いてみたいと思っていたことがある。

 君の性癖、おっぱいソムリエだったかな? 周りに忌避されやすい変態性癖を持ちながら、君はいつまでそれを続けて行く気でいるんだい?」

「むろん、死ぬまで! オッパイは不滅だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 これについては何の迷いもなく陰りもなく大声で断言できる。

 誰になんと言われようとも、俺はこの趣味を包み隠す気はいささかもねぇ!

 

「そうかい? でもそれは、果たして人間のままだったら続けて行かれた拘りなのかな?」

「??? どういう意味だよ?」

「言葉通りの意味さ。今の君は学生で少年という、地域にも親にも国にも法律にも守ってもらえて養ってもらいながら生きてる立場の人間だ。今なら言える言葉はいくらでもあるだろう。

 だが、それらは本当に死ぬまで続けていけるものなのかな? 周りに理解を得られないまま、何の力も持たない人間として生きていく未来は、本当に今の君が信じて貫くと決めた信念を持ち続けているのだろうか? 

 僕には人生の敗者として落ちぶれていく、いい年したおっさんの君の姿しか想像できないのだけど?」

「縁起でもないこと言うんじゃねぇ!」

 

 マジで怖くなっちまったじゃねぇか! 昔みた紙芝居屋のおっちゃんを思い出しそうになっちまったじゃねぇか! ああ、怖かった・・・。

 

「そうだね。未来の事なんて誰にも分からないんだし、成らなかった仮定の話に意味はないか。

 とはいえ兵藤一誠。もし君に、今の君になる切っ掛けになった人物が居るとしたら、その人のことをよく調べてみた方がいいと僕は思うね。

 その人は本当に孤独の中で信念を貫いて言っていたのか。その人は本当にそれしかなかったのか。その人は本当に自分の思い描いてる妄想上の人物と同じなのかどうかを調べてから参考にした方がいい。

 ーー丁度その一件については思い当たる方が来られているみたいだし、参考になると僕は信じて進言させてもらうとするよ」

 

 チラリと、俺の背後に視線をやりながらディオドラは告げて酒を飲み終え、「さて、と」と言って立ち上がる。

 

 お、やっぱりやる気なのかこいつ。いいぜ、相手をしてやる。どっからでも掛かってこーー

 

 

 

 

 ズブシュッ!!!!

 

 

 

 

 

 ーー血が、飛び散った。

 

 ディオドラ・アスタロトが自分の胸を自分の右手で刺し貫いて飛び散った鮮血が、俺の頬に飛びかかってきて避けられなかった。

 

 ディオドラ・アスタロトが・・・・・・・・・自分で自分を殺して、自殺したんだ。

 

 

「ーーうん、良いね。これが自分の肉を貫き、引き裂く感触か。悪くない」

「ーー!? ディオドラ!? あなた、どうして・・・!?」

 

 血塗れの貴公子が立ったまま胸を刺し貫いて笑いを浮かべてる狂気じみた光景を前にして、リアス部長が近寄ろうとして近寄れず、せめて声だけでもかけて身を心配する。

 

 だが、ディオドラ・アスタロトは最後の最後まで気色の悪い笑顔を浮かべたまま、俺に嫌悪感だけが残る口調と態度で嫌な台詞を残して逝きやがる。

 

「なにね。君たちに殺されるつもりで待ってたんだけど、待ってる間に思い出したことがあって試してみたくなったんだ

『ああ、そう言えば女の肉は散々手で引き裂き、刺し貫いてきたけど、自分のにはしたこと無かったなぁ』って。だから実験。

 思いついたらやってみたくなって実行しちゃうのが、悪魔らしくて良いでしょ?」

「バカなこと言わないで! あ、あなた正気なの!? こんなバカな事・・・普通だったらあり得ないわ! 私には絶対に理解できない愚かな暴挙よ!」

「そりゃそうだよ、僕はとっくの昔に狂ってたんだし。普通の感覚を持ったままの人間にも悪魔にも理解なんか出来るはずがない。

 自分が否定した相手を、それでもまだ自分の価値観で理解できると思うあたり、君はまだまだ悪魔らしい貴族だなぁリアス・グレモリー。傲慢さと尊大さが煩わしく感じられるぜ?」

「・・・・・・!!」

「僕が消したかったのは人間じゃない。他者でもない。自分自身だ。

 血を尊ぶ名門の家系に生まれながら格下の存在と侮る女の君に自力では及ばなくて、蛇の力を借りてまで勝とうとする弱くて卑怯で恥知らずな自分自身だよ。

 にも関わらず、一人で死の恐怖を負うことにすら耐えきれない愚かで哀れで無様な男だ。

 こんな僕の心なんて、ずっと以前より死人も同然。形式を現実に伴わせただけのこと。大したことじゃあない」

「「「・・・・・・」」」

 

「ひとつだけ、忠告を残して逝かせてもらうよ赤龍帝。

 ーー過去に気をつけろ。乗っ取られるぞ」

 

 それだけ言ってディオドラは、自分の右手で掴んで取り出した心臓を

 

 グシャっと、

 

 握りつぶして動かなくなった。

 

 余りの事態に目を離すことが出来ずに見続けていた俺の目には、ディオドラの口元が動いてから死ぬのが見えていた。

 

 俺には何を言ってたのか聞こえなかったはずなのに、

 

「この感触・・・やっぱり殺しは気持ちいいよねぇ・・・」

 

 と、囁くように聞こえてきた幻聴が耳から離れなくなってしまっていた。

 

つづく

 

 

『残念。先を越されてしまったか。まぁいい。今しばらくチャンスを待とう。それほど長くは待たなくても良いはずだ。

 なにしろ、それほどまでに人間も悪魔も天使も堕天使も度し難くて愚かしい、くだらない生き物なのですから。ねぇ、陛下? 貴女もそう思われているのでしょう?

 フハ、フハハハ、フヒャーーーーーーハッハハハハハハ!!!!!!!!!!』


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