堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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久し振りの更新です。別作で攻撃的なセレニアを書いてるせいか、今話のセレニアは割かし口撃的です。

それと、昨晩急に思いついた18禁エロ作書いてます。原作ないけどモデルはあります。
クールな美少女妹は、やはり良い。


21話「言刃トル」

「・・・レーディングゲーム?」

「そう。ディオドラ・アスタロトと私たちグレモリー一派とのね。そう言う段取りだったし、あなたたちにも通達しておいたはずなのだけど気が付かなかったの?」

 

 久しぶりに訪れた駒王学園ミステリー研究会の部室。

 そこで私は部長のグレモリーさんに言われた内容を反芻し・・・。

 

「・・・・・・通達・・・ありましたっけ・・・?」

 

 確認のための質問でしたが、問いかけた相手はグレモリーさんではありません。私の背後に控えている帝国軍三長官ーー要するに私に届くはずの情報の全て総括しているはずの方々です。

 この三人が知っていて私に届いていないとするならば、何者かの妨害工作である可能性が・・・

 

「「「・・・・・・・・・。ーーー???」」」

 

 ・・・なさそうだなぁ・・・。物すっごい小首を傾げて不思議そうな顔をされてらっしゃいますし、明らかに顔全体で「どう・・・でしたっけか?」と、自分自身で疑問符まみれな心情を抱いている様にしか見えません。

 誰ですか・・・? この人たちに情報部門まで総括させたお馬鹿さんは・・・向いてないのにも程があるでしょう。即刻情報総監部を新設させようと決意した私です。

 

「はぁ・・・。仕方ないわね。説明してあげるからよく聞きなさい。どう言うわけかは分からないけど、オーディン様はあなた達のことを高く買ってくださっているみたいだから情報はある程度だけど共有しておかないと」

「それはどうもご親切に。感謝いたします」

 

 礼儀的にそれだけ応えてから始まったレーディングゲームに関する現状解説でしたが、のっけから不審点ばかりで頭が痛くなってきましたよ。

 

 突如として実力を向上させたというアスタロトさんと、彼にアプローチをかけられてるアルジェントさんの因縁。そしてメンバー交換の取引に、後ろ暗そうな背景の数々。

 

 これは・・・どう見たって裏切ってますよねアスタロトさん。状況的に見て確実に。

 努力で強くなったという才能なしのサイオラーグさんとをグラフで比較してみても結果は歴然。どう見たってアスタロトさんの力は頭打ちしてたのが急上昇し過ぎちゃってます。ドーピングでもしない限りは無理でしょうねこれやるの。

 現に兵藤さんも強くなるには時間かけて一足飛びに1、5段飛ばしがやっとだった訳ですし。

 

 それでも尚、グレモリーさんがアスタロトさんへの嫌疑を確定し得ていないのは、恐らくですがサイオラーグさんを意識しすぎているからです。

 何のかんの言いつつもグレモリーさんは保守派に属し、伝統的な様式美とお決まりの血統主義を奉じる部分が少なからず存在しています。

 彼女が旧魔王派に属していないのは、シンプルに彼女自身が現魔王派の親族だからと言う一点だけに尽きるのでしょうね。それ以外だと人間に対する考え方ぐらいしか違いが見あたりませんから。

 冥界統治の手法とやり方に関しては、敵対しながらもグダグタと今まで通りやっていくような感じで何とか成っていったのではないかなと。

 

 ーーですが、サイオラーグさんだけは別。あるいは別格。自分とは異なる理由で自分の上をいく、名門の次期当主。

 彼の在り方はグレモリーさんに矛盾を押しつけているに等しく、彼女自身の想いと願いを否定するとともに肯定もしている特殊すぎる存在です。

 

 彼は特別な血を引く普通の凡人でした。その彼が努力のみで高みへと飛翔していくのは、彼女の願いである『自分も普通の女の子として』を一部ながら叶えるものだ。

 なにしろ才能なんかなくたって、名門の血筋を引いてるだけのお姫様より強くなれると証明されたわけですからね。弱肉強食で強い者が正しく、弱いのが悪いとする冥界の支配制度的には彼女たち名門の血筋による支配が正当性を失った事を意味してもいます。彼女が支配階層から転落して、一般庶民である普通の女の子に成ることもいずれは可能になることでしょう。

 

 だが、同時に彼女は生粋のお姫様であって民主主義者などでは断じてない。

 古き名門の血筋を誇り、尊き血統による支配の永続を訴える超タカ派の血統崇拝主義者と言う側面も持ち合わせてはいるのです。

 

 これもまた恐らくですが、彼女は自分で思っているほど自身の考えを整合できておらず、理解も自覚もしてはいない。夢見はしても具体的なイメージが沸かずに曖昧模糊としたまま宙ぶらりんな状態で、憧れだけが先行している。そんな心理状態にあるのではないでしょうか? どうも話を聞いてるとそう思えてきて成らないのですが・・・。

 

 だとすると今回グレモリーさんが疑問を一時棚上げにしてでもアスタロトさんとの戦いに固執している理由は、サイオラーグさんに自分の考え方の正しさを認めさせるため・・・ああ、ダメダメだめです。思考が完全に暗い方へ暗い方へ行こうとしちゃってます。

 最近戦争続きだったからかな~? 心の平穏を取り戻すためにも今回の戦いは犠牲を少なくするよう心がけましょう。そうですそれですそれが良い。何事も平和が一番。ラブ&ピースが理想の世界です。

 

 こうして気分を持ち直した私は刻限が来たからとグレモリーさんの魔法陣を使って転移。ゲーム会場であるアスタロト家所有の神殿前までやってきてたみたいです。

 

 

 

「・・・・・・着いたのか?」

「そのようですねぇ」

 

 たまたま隣に立ってた兵藤さんがつぶやいたので、私は周囲を見渡して確認してから普通に返事をお返します。

 変に歪な形の柱、石造りのパルテノン風神殿。荒涼とした荒れ野にポツンと浮かぶ如何にも悪魔らしさに拘った印象の舞台。何から何まで演出過剰。

 

 ここまで“お約束”の悪魔らしさに執着するのは旧魔王派の皆様方と、それに与したか利用とした後で切り捨てる気満々そうな門閥の名門アスタロトさん以外にはいそうにないですからねー。

 

 

 ーーそして、お約束を守ってくれる相手だからこそ、その動きも展開も予測しやすい。コンピューターを使う必要もないほどアッサリと現れ始める悪魔さん達の群。

 姫島さんとグレモリーさんが言うには、悪魔の家にはそれぞれ特性なり特徴があって魔法陣の形は千差万別。今お空の上に現れた千以上の魔法陣にも共通点は見当たらないとのことでしたから、現魔王陛下打倒を旗印に野合した寄せ集め集団と考えて問題ないでしょうね。

 

 やれやれ・・・。

 はたして勝利後の利権は誰が握ることになっているのか、その辺りを詰めてあるのかどうかさえ疑問が残るカオス・ブリゲードに与する辺り、相当に追い詰められてるようでお疲れさまです以外に感想が沸いてこない私でした。

 

 

「キャッ! イッセーさん!」

「悲鳴!? アーシアーー!」

 

 ・・・いや、「アーシアー!」じゃないでしょ兵藤さん。分かれよ、この状況から最初に襲われるのが誰かってことくらい。真性のアホですかアンタは。

 事前にあった会談ならぬ商談で、彼の趣向と執着ぶりには気づいていて、尚割このド派手で演出過剰な空からの登場シーン。

 どう考えても空へと集中力を割かせるための陽動でしょう? 敵の注意を目標から逸らすのは戦術の基本です。何ら恥じいるところはない。

 

 にも関わらず「アーシアを放せ、このクソ野郎! 卑怯だぞ」って、あなたが間抜けなだけでしょうとか言っちゃいけないシーンなのかな~とか変な気を使わせるようなこと言わんでください恥ずかしい。

 

「これはどう言うことなの、ディオドラ!? ゲームをするために私たちを招いたのではなかったの!?」

「バカじゃないの? ゲームなんてしないさ。キミたちはここで彼らーー『カオス・ブリゲード』のエージェントたちに殺されるんだよ。

 いくら力のあるキミたちでもこの数の上級悪魔と中級悪魔を相手に出来やしないだろう? ハハハハ、死んでくれ。速やかに散ってくれ」

「あなた、『カオス・ブリゲード』と通じたというの? 最低だわ。しかもゲームまで汚すなんて万死の値する! 何よりも私のかわいいアーシアを奪い去ろうとするなんて・・・ッ!」

「彼らと行動した方が、僕の好きなことを好きなだけできそうだと思ったものだからね。ま、最後のあがきをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? 赤龍帝、僕はアーシアを自分のものにするよ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見られるはずだよ」

「ディオドラ! てめぇーーーーっ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

 熱い熱いテンションで交わされる会話シーン。

 その最中、思わず漏れた私のため息は思っていたよりずっと遠くまで響いていたようでしたが皆さん何の反応も示さなかったために私はそれを軽視して、どうせ誰も気にはしないさとばかりに思わず本音が口をついてしまいました。

 ーーあまりにもバカバカしすぎる遣り取りだったものですから・・・。

 

「能なし貴族のドラ息子と、世間知らずのお嬢様同士による口喧嘩。

 おまけにドラ息子の方はバカ息子でもあると来ているから始末に悪い。双方ともに気楽なことで大変結構なことですね、まったくもう」

 

『『・・・あ?』』

 

 うおっ。お、驚きました。聞こえてらしたのですね。それならそうと言っといてくださいよ、そしたら発言にはもっと気を使うつもりでしたのに。

 

「・・・聞き捨てならないわね、異住セレニア。どこの誰が世間知らずのお嬢様なのかしら?」

「不本意だが、この件に関する限り僕も彼女に同意するね。たかだか人間の小娘ごときが僕たち名門出の上級悪魔を論評するとは万死に値する行為だよ。言い訳ぐらいは聞いてあげるから、さっさと吐いて死にたまえ。今なら特別に自害を許してあげるけど?」

 

 ・・・実は思想的には結構相性良いでしょアンタ達・・・。伝統好き同士だから。違うのはせいぜい国の統治にタイスルスタンスぐらいなものですかねー。

 

 アスタロトさんは一人の王が全てを決める人治主義。即ち王道政治。

 一方でグレモリーさんは法と秩序によって人々を導くを良しとする礼治主義。即ち、法による支配法家思想。

 

 前者が性善説を元にして生まれた「恩賞や刑罰が為政者の恣意で決まる」王が正しいことが大前提の理想論。

 後者は性悪説を元に「人は生まれながれの悪人だから、善行をなすのは本性ではなく偽りである。ゆえに厳正な法によって正しく導くのだ」と喝破した、身も蓋もない現実論。

 

 冥界という弱肉強食の世界において支配者に都合がよいのは人治主義の理想論。

 逆に、力こそが全ての春秋戦国時代において法の制定により後の始皇帝を生む礎を成したのが富国強兵のための法治主義。

 

 お二人の言い合いは根本的なところで思い込みと願望によってのみ成り立っています。

 片方は「政治は正しく正義であるべきだ!」と信じたがり、もう片方は「現実は非常さ、正義など理想論だ綺麗事だ口先だけの無能者だ。力なき者には何も出来ない」と厨二臭い『悪の論理』に酔いしれている。

 どちらともに、青臭くてガキ臭い。

 

「それでは言わせていただきますがね・・・」

 

 私は自分の思考を一端棚上げにして二人を等分に見つめ返し、ごく普通の口調でしか聞きようのない質問をしてみます。

 

「あなた達は先ほどから、いったい何のお話をされているのです?」

 

「「・・・は?」」

 

 ・・・いつもながらに伝わらない私の意志伝達手段「語り合い」。たまにですけど、なけなしの自身が無くなりかけるなぁ~。ただでさえ総量の時点で微量なのになぁ~。

 

「まずグレモリーさんから指摘させていただきますが・・・あなたまさか彼の行動が、単なる無法だと本気で思ってやしませんよね?」

「ち、違うとでも言うの・・・?」

 

 はぁー・・・・・・。

 

「・・・見たまんま、普通に地方貴族の反乱でしょうに・・・。一体どこを見たら単なる無法になると思ったんですかあなたは?」

「そ、それが無法と言うんじゃないの!」

「全然違います。

 反乱は王権の正当性を認めない、現王家の支配こそが間違っている・・・つまりは、現体制の維持する秩序の方こそ歪んでいて間違っていて自分たちの主張こそが正しいとする正当性を否定する為の武力行使です。

 支配する側の正義を否定する立場なのですから、現魔王派の尊ぶ行為を悪し様に虐げるのは彼の寄って立つところ。正義の主張ですよ。

 反乱軍が「悪だ、間違っている」と主張するのは支配を継続したい側である既得権益層の利己心と保身に過ぎません。言ってることはどちらも同じ、支配する側の平凡な遣り取りでしかありません」

「そんな・・・」

「ついでに言えば、これほど大規模な家臣団による反乱を招いてしまった時点で現魔王陛下は統治者たる資格を失った人徳を保持しない王と言うことをも意味しています。

 王たる資格を持たないで血筋のみを理由に支配を正当化しようとする僭王を追放して正しき治世をと言う主張は、国に仕える臣下として正しい在り方らしいですよ?」

「・・・・・・」

「まぁ、所詮は理想論ですけどね?」

「おい!セレニア! 魔王様のことを悪く言ってんじゃねぇぞテメェ! あの人はなぁ・・・お前みたいな冷血人間にはわかんねぇかもしれねぇけど、すっげぇ良い人なんだよ!」

「知ってます。だから何だというのですか、兵藤さん?」

「だから! あの人は良い人で、良い人だから王様に相応しい人なんだ! 悪魔ってだけで悪モンだと決めつけてんじゃねぇ!」

「その良い人が王になってるのが気にくわないと主張して反乱起こしてるのがアストロとさんで、巻き込まれて今さっき浚われていかれたのが貴方の大事なアルジェントさんなのですが?」

「・・・!!!」

 

 口ごもって後ずさる兵藤さんと、周囲から厳しい目で睨みつけてくる皆さん。空の上からは面白そうな表情で状況を見下ろしてるアスタロトさん。楽しそうで良いですね貴方。

 

 ・・・そして、なぜだか一番愉しそうな満面の笑顔を浮かべながら見物客に徹しているのが私の仲間の天野さんたち三人組という辺りに混沌帝国の救いようのない部分が凝縮されているような気がしてならない名目上の統治者の私です。・・・自信・・・無くしようがないなぁ・・・とっくの昔にゼロだから・・・。

 

「・・・と言うより、そんなに良い人が好きなら敵に向かって殴りつけるよりも歌でも歌って平和を説きなさいよ。エルビス・プレスリーみたいに。

 つか、「悪魔って理由だけで悪モンだと決めつける」もなにも、言われてすらいないのにその発想が自然に浮かぶ時点であなた自身が過去には悪魔を「悪魔と言うだけで悪モンだと決めつけていた」事を意味しているのではありませんか?」

「!! そ、それは・・・」

「ご自分の過去を自身で否定するのはあなたの勝手ですが、他人にまで自分の考えを当てはめられては困ります。別に、皆が皆あなたのように悪魔を悪と決めつけている訳ではないことをお忘れなく。

 あと、人間の時に悪魔を悪者と言ってた人が、悪魔になった途端に宗旨変えするのを世間では「日和見」と言うそうですので、イヤでなければ頭の片隅にでも置いといてください。過去の自分を間違っていたと思うのであればね」

「・・・・・・」

 

 黙り込まれてしまったお二人を無視して、私は次に上空から見下ろしてニヤニヤ笑っているアストロとさんに目を向けます。

 

「なかなか面白いショーだったよ、人間にしては上出来だ。お捻りに僕の玩具の待つ席ぐらいの地位は用意してやっても良いけどどうするね? 人間」

「それは光栄な事ですね。でが、折角ですし玩具の列に参列する前に聞かせてもらえませんか? あなたは今回の件をお父上様からどうお聞きになっているのかを」

「ん? 父上からかい? なに、簡単な話だよ。現魔王の情愛が深いグレモリーは悪魔つぃての才能がない。才能のない大魔王の跡取りなんかに負けるはずがないのだかたら適当に遊んでやると良いって、それだけさ。

 ま、この程度のことで真に偉大なるアスタロトの当主が出張るほどのこともないってことなんだろうけどーー」

「なるほど。やはりあなたは捨て駒でしたか」

「そうそう、その通りーーなに?」

「あなたは実の父親から捨て駒として使い捨てられたと、そう言っているのですよ。それくらい説明されなくても理解しなさい無能者」

「ーーー!!!!」

 

 怒りに歪む彼の顔は平凡な貴族のそれであり、銀河英雄伝説で敗亡していくリップシュタット連合軍のフレーゲル男爵よりも更に普通で平凡な人間社会のどこでも見かける、臑齧りのバカ息子が浮かべるヒステリックな表情としか私には思えませんでした。

 

「グレモリーさんからお伺いしましたが、新しい力を手に入れたそうですね。どの戦域でも目撃例のない、現時点では貴方と貴方の一派だけが使うことの出来る力とのことでしたが・・・それってつまりはテストすら済んでない未知数の兵器と言うことでしょう?

 リスクすら不明な訳わかんない兵器を大事な跡取りなんかに持たせる訳がないでしょうがバカバカしい」

「・・・・・・」

「だいたい、アストロトが主張している『正当な魔王の血を引く者の支配権』。これと貴方は適合していません。だって、ドーピング前の段階でグレモリーさんより弱かったんですからね。

 反逆する相手の子供、それもアスタロトが見下す対象である“女”より弱い貴方なんかじゃ廃嫡は確定です。平和な時代であるならともかく、戦乱の時代を力で主導していく一族の後継者にはふさわしくありません。

 反乱を決めた時点であなたの価値は無くなっていたのです。だからせめて「不出来な命を持って父の覇道の役に立つ事で、せめてもの親孝行とするのだ。出来損ないのバカ息子よ」と言った感じだったのでしょうよ」

「・・・・・・」

「だいたい、「正当なる支配者たる魔王の血」を主張するなら、別に跡取りは魔王の臣下時代に生まれた貴方である必要性はないでしょうに。

 むしろ魔王の地位を手に入れてからの方がより強い番が手に入って、より強い子が産まれる可能性が高くなる。血統による正当性・・・遺伝子を盲信するとはそう言うことではないのですか?

 自分の血を引いてる息子が大事なのではなくて、『強い自分の血を引いている、強い自分の息子』こそが自分の後継者に相応しいと、つまりはそう言うことなのでしょう?」

「・・・・・・」

「それとですが、先ほど『カオス・ブリゲードのエージェントたち』と言っておられましけど・・・彼らと同盟を結んだのは貴方のお父君であって、未だ当主でも何でもない貴方とは無関係なのでしょう? でしたらお気をつけなさい。

 無能な暴君の最後というのは、いつの時代どこの国でも決まって臣下に毒を盛られて終わるものですので」

「・・・・・・・・・」

「ああ、そう言えば。力強さと耽美趣味は相性が悪いらしく、軟弱と解釈して罵倒するケースが軍事大国では結構ありましてねーー」

「よっと」

 

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッン!!!!!!!!

 

 

 ーー眼下では凄い爆発が起きていて、 私が今さっきまで立っていたところを跡形も無き吹き飛ばしてしまいました。

 

「お見事です、紫藤さん。ジャストタイミングでしたね」

「いや~、それほどでもありますけども~♪」

 

 私は紫藤さんにお姫様だっこされたまま空にあり、下方には先ほどまでとは打って変わって笑わなくなった無表情なアストロトさんが怖い目で私を睨まれております。

 

 ーーま、敵から睨まれても今更すぎるので別にいいんですけども。

 

「ーー殺せ。いや、待て殺すな。あの雌ガキを、生かしたまま僕の所まで引き摺ってこい。手足を切り取ってでも決して殺すな。僕がこの手で八つ裂きにして殺さなければならない奴だからな」

「は? し、しかしディオドラ様。それでは当初の予定が狂ってしまい、赤龍帝と何よりグレモリーの小娘が・・・」

「うるさい黙れ。異論反論は認めない。命令を全うできずに戻ってきたときには僕が手ずからお前等を一人残らず殺してやる。死ぬ気で捕まえてこい。わかったな」

「で、ディオドラ様!? どちらへ行かれ・・・」

 

 ヒュンッ。と音がしたかと思うとアスタロトさんの姿は影も形も残さず消えてしまわれました。アルジェントさんの姿も欠き消えている以上、宣言通りに契りとやらを結びに言ったのでしょう。律儀なことです。

 

 これでようやくこちらも動き易くなるーー。

 

「紫藤さん。神殿とは反対方向に全速前進です。神殿に向かうしかないグレモリーさんたちと分派行動をとることで敵の戦力を分断させますよ。

 せっかく倒さなくてもいい存在の私を標的に指定してから敵司令官が撤退してくれたのですから、最大限有効利用させてもらいましょう」

「りょうか~い♪ 寄せ集めを引っかき回して群衆団に等しい弱兵の集まりに仕立てて差し上げまっすよー♪」

 

 さて、これで戦力非は大幅に狭まり、個体戦闘能力では我が方が圧倒的に優勢。玉砕してでもを呼号した敵指揮官の逃亡により敵の士気は最低水準。

 ましてや雇い主の息子でしかない奴に脅されて、しかも自分たちが殺したい奴とは無関係な雑魚を「お前等が死んでも殺さず連れてこい」ですからねー。そりゃモラールを維持したまま戦えなんて、無茶振りってものです。

 

 

「とは言え、この状況。戦う前から勝利は確定しちゃいましたからね。出来れば戦わずに降参してもらいたいのですが・・・」

 

 元よりそれが今時作戦の趣旨でしたからね。出来れば首尾一貫したいところなのですが・・・難しいんだよなぁ~、どう考えても。

 

 だって私部外者ですし。グレモリーさんよりも更に下と認識されてますし、事実として格下ですし、発言力と説得力が全くない。

 

 なにかしら私の発言に意味なり力なりを付与できればーーあっ。

 

「そっか、アレがありましたよね。あのうすらデカいデカ物を有効活用する機会がようく到来しましたか」

 

 私は空を見上げてからポンッと手を打つと、通信機をかねたヘッドセットを頭に装着し直します。

 

 

 

 

「イゼルローン要塞主砲制御室へ。こちらはセレニアです。皇帝命令として厳命しますので、トゥールハンマーを冥界アスタロト領へ向けて照射してください。

 開発が完了したばかりの拡散モードをテストしますよ。

 地表を焼き尽くす光の雨を目の当たりにすれば、彼らの覚悟と矜持も少しは揺らいでくれるかもしれませんから。

 照射までのカウントダウン開始。――ドライ、ツヴァイ、アイヅ・・・フォイヤ」

 

つづく


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