堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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予定より投稿遅れてすいません。
完成していたんですが、急遽思いついたアイデアに切り替えて昼から書き直してました。
開始前はゼノヴィアをヒロインにしたかったけど結局夕麻にしましたが、
結果としてゼノヴィア・イリナペアもヒロイン入りさせました。

・・・ヒドインかもしれませんけども。言霊少女シリーズには何も期待してはいけません。

注:作中においてカトリックとプロテスタントの教えや考え方が実際のものとは異なる部分がございますが、この小説では『原作キャラの設定を基準にした結果』こういう設定です。



1話「神と愛の在処」

 現実世界からの転生者である私、異住・セレニア・ショートはさっそく後悔していました。

 今まで、この世界『ハイスクールD×D』とは関わり合わないよう意識してきたつもりでしたが、どうやら転生の神様は転生者に楽をさせたくないようです。

 

 だからこそ、

 今こうして、私の前で原作が物乞いをしているのでしょう・・・・・・

 

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

「え~、天に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉぉぉ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・・・・なに、アレ。

 

 祈り(?)を捧げながら乞食のまねごと(本物の可能性大)をしている白いローブを着た美少女が二人。

 

 ・・・・・・・・・怪しすぎて近寄れる人が居ません。警官までもが遠回しに見守っているだけです。見間違いでなければ、あの目は可哀想な生き物を見つめる瞳ですよ、確実に。

 

 

 ーーあれは、どう見ても原作キャラですよね間違いなく。

 いえ、むしろ、そうであって下さい。あんなのが普通に住んでる世界で生きていくのはイヤすぎます。死んで再転生したくなりますから、切実に。

 

 ・・・正直なところ、私も関わりたくーーいえ、視線を向けることさえしたくないのですが、今ここで彼女たちを放置した場合どうなるかを考えると、そうもいきません。

 なにしろ、私の隣で同じ原作が「あらあら・・・なんて浅ましいんでしょうか。人にタダで物を恵んでもらおうだなんて・・・どれだけ図太い神経を持ってるんでしょう。同じ女として恥ずかしいです」とブーメランにしか聞こえない罵声を優雅に吐いています。

 

 この人さえ居なければ無視して問題ないでしょうが、この残念美人さんの立ち位置がわからないまま原作の舞台には近付きたくありません。

 

 下手したら死にます。たぶん、私を道連れにして盛大に。

 だって、ヤンデレですもん。そりゃ、死ぬときは一緒にされますよ。

 拒否権?なにそれ、美味しいの? といった具合に。

 

「・・・・・・仕方ありませんか・・・」

 

 嘆息しつつ、私は二人に近寄って食事に誘います。

 喜ぶ二人とは対照的に周囲の視線が冷たいです。むしろ、凄く痛いです。絶対零度って冷たさよりも激痛を感じるんですよ。RPGの攻撃魔法だとそうなってます。

 

 つ、辛い・・・。そして、胃が痛すぎる・・・・・・

 

 

 ーーだというのに・・・・・・

 

「もう、酷いですよセレニアさん・・・。せっかく二人きりのデートだったのに・・・。今度ちゃんと埋め合わせはしてくださいね?」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こいつ、マジ殺してぇ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだって!? それじゃあ、彼女も天界関係者である可能性があるのか!? なんという偶然・・・いや、むしろ神の定めし運命なのか・・・?」

「簡単には信じられないけど・・・空から落ちてきたのなら天使である可能性が高いものね。教会としても無視は出来ない案件だわ」

 

 ファミレス「デラーズ」まで二人を連れてきた私は、「お布施という事で好きな物をどうぞ」と薦めたところ、二人は物凄い勢いで注文と飽食を繰り広げました。

 

 彼女たちはヴァチカンから来た聖職者だそうですが・・・これって七つの大罪に触れるんじゃないですかね・・・? いえ、宗教に詳しいわけではないので素人考えですけど。

 

「わかったわ。教えられる範囲でよければ教えてあげる。ご飯は美味しかったし、神に仕える聖職者たる者、礼には礼をもって返さなくちゃね」

「そうだな。ここまで馳走になって何も返さないなど異教徒以上に許されざる悪だ。安心して我々を頼るといい」

「助かりました、ありがとう御座います。ぜひとも等価値の情報を提供していただければと思います・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええもう、本当に」

 

 私は先ほどウェイトレスさんが置いていった伝票を一瞥した後、ため息を堪えながら笑顔で応じました。

 

 ・・・まさか、生きている間にファミレスで一食一万円以上の出費を経験する日が本当に来るなんて思っていませんでしたよ・・・。

 

 ーー等価値の情報を持ってなかったら教会に賠償請求しましょう。

 もしも持っていて黙秘するなら、このネタで脅迫します。法治国家日本で無銭飲食がどれほどに重い罪か思い知ればいいです。惨めな気持ちを思い出としてヴァチカンに強制送還されなさい。

 ヴァチカン関係者が他国で食い逃げしたのを上は決して見過ごしません。神はいつだって、私たちを見守っているんでしょう・・・?

 

 ーーきっと、教皇猊下から有り難いご褒美を沢山賜れますよ・・・くくく。

 

「それじゃあ、簡単に説明してやろう。まずはそうだな・・・私たちの自己紹介からはじめるか」

 

 そう言って彼女、ゼノヴィアと名乗る青髪で目つきの鋭い美人さんが教えてくれた内容はーーまぁ、よく言ってお約束通りでした。

 

 ーーその昔、悪魔と堕天使が冥界(簡単に言うと地獄)の覇権を競い争っていました。悪魔は人間と契約し代価として力をもらい、堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。

 そこに神の命を受けて悪魔堕天使双方を倒しに天使乱入。壮絶な三つ巴戦勃発。全勢力が大打撃を受けて勝敗が付くことなく停戦。

 そのまま緩衝地帯である人間が住む地上へと戦場を移し、うだうだと何千年もの間小競り合いの消耗戦。

 今では悪魔以外の二勢力は人間と交わらないと子孫も残せず、悪魔は強大な力を持つ純血種が激減。まさに厨二設定の定番ですね。

 

 ・・・・・・でもまぁ、それはさておきーー

 

「・・・・・・悪魔と堕天使が消耗しきったところで両方を殲滅した方が楽だったのでは?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 沈黙するお二人。

 見れば、冷や汗もかいています。

 もしかして気づいてなかったんですかね? 神話の戦いってツッコミどころが多いことで有名なんですけど・・・。

 

 それでも信仰心ならゼノヴィアさん以上に見える栗色ツインテールの元気娘、紫藤イリナさんが勢いよく一般論に反論してきます。・・・勢いだけでしたが。

 

「か、神がそんな卑劣な真似を悪魔なんかにするはずないじゃない! 奴らは悪でこっちは正義なのよ!」

「“卑劣な悪魔”だからこそルールを守る必要がないのでは? こちらがルールを守っても向こうは守らないからこそ“卑劣”なんでしょう?」

「う・・・」

 

 勢いをなくして失速する紫藤さん。

 ・・・いえ、いくらなんでも失速しすぎですから。急ブレーキかかりすぎですよ。かえって危ないから減速ぐらいにしておきなさい。

 

「まぁ、それがダメなら堕天使に協力して悪魔を滅ぼした後に返す刃で堕天使も滅ぼしてもいいですし、どちらかに策を授けて互角に戦わせて消耗しきったところに攻め込んでもよかったですね。どちらを選んでも天使の犠牲者は少しくらいは減ったと思います。

 命は大事にしないと。せっかく神様から与えられた宝物なんですし」

「か、神はなぜそうしなかったんだ・・・」

「ああ、主よ・・・私は生まれてはじめて貴方の采配に疑問を抱きました・・・。愚かな罪人をお許し下さい・・・」

 

 くず折れて自問し始めるゼノヴィアさんと、なにやら懺悔をし始めた紫藤さん。

 

 ・・・・・・ここ、ファミレスでお客さんが多いんですけど・・・。視線、痛いんですけど・・・。

 

 私が胃の痛みに悩み始めるなか、先ほどから妙に静かだった天野さんが急にパンッと柏手を打つと、

 

「思い出しました!

 たしか“こかびえる”っていう人が言ってたんですよ。「先の三つ巴の戦争で四大魔王だけじゃなく、神も死んだのさ。神が使用していた『しすてむ』が機能してるから神への祈りも効果がある。それを“みかえる”の奴は利用して天使と人間をまとめているのさ」って。

 なんだか厨二ワード満載ですけど、こかびえるさんという人は中学生か高校生なんでしょうか? 外国人にしても珍しい名前ですよねぇ」

 

 ーー唐突すぎる記憶の回復によってもたらされた、意味深で厨二的で問題発言っぽい発言内容でしたが、これは原作に影響を与えたりは・・・・・・

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 ・・・・・・めっちゃしそうですね。

 

 顔面蒼白で凄まじく傷ついたお顔をしている二人を見て、私も思わず頭を抱えました。

 

 ーーこれはどうやら・・・・・・崩壊しましたね。原作という名の世界が。

 

 破壊神天野夕麻さんは、実績だけを見れば、どうやら悪魔の王を超えたみたいです。

 

「あ、このチョコパフェすごく美味しい! セレニアさんも一口どうですか?

 ・・・そ・れ・と・も~♪ あ~ん、して欲しいんですかー?

 きゃっ、いや~ん! 私ってばダ・イ・タ・ン♪ きゃはっ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、本気でこいつ殺したい。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ウソだ。・・・・・・ウソだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 力なくうなだれて「ウソだ」とつぶやき続ける紫藤さんと、呆然とした顔で空を見上げるだけのゼノヴィアさん。

 

 ・・・開いてますよ、口。しかも涎でてます。美少女台無しですから閉じなさい。

 

 天野さんの衝撃の記憶復活(結局あの台詞だけでした。ご都合主義すぎますよ)の後、私たちは近くの公園へと場所を移しました。

 

 食べ終わったのにいつまでも居座ると同じ店を利用しづらくなりますし、周囲から氷の矢というか槍のごとき鋭さで降り注ぐ視線の刃に私が耐えられなくなったのもあります。

 

 ただ、一番の理由はこのお二人。

 生きた屍と化した美少女エクソシスト(悪魔を滅すると言っていたので)のお二人が自暴自棄になって周囲の被害も省みずに暴れ回る可能性があったので、暴れ出しても被害を最小限に押さえられるようにとここへ。

 

 まぁどちらかと言えば、このまま亡者と化して祓われる側になりそうな勢いで落ち込んでいますし、たんなる杞憂でしたけどね。

 

「・・・・・・ウソだ・・・・・・ウソだ・・・・・・ウソダ・・・・・・ウソダウソダウソダ」

 

 ・・・・・・うん、紫藤さんはこのままだと明らかに不味そうですね。

 

 なんでも彼女は新派、プロテスタントだったらしく、神様の死は現実逃避すら出来なくなるほどの大ダメージだったようです。

 

 対するゼノヴィアさんですが、こちらは軽微ですね。たんにショックで気が抜けているだけです。我に返ればすぐに治るでしょう、きっと。

 

 おそらく彼女が旧派、カトリックなのも大きいのではないでしょうか? キリスト教を信じている一般信者達にとってはキリストの方が神より身近に感じて、「神は居ない、けどキリストは実在した」と言われれば受け入れ可能なのかもしれません。

 

 まぁ、新約聖書はキリストの言葉で埋め尽くされてるらしいですからねぇ。ネットでチラ見してから二度と手をつけてないから偉そうに語る資格はないんですけども。

 

 ですが、今回に限ってはーー

 

「ーー別に気にすることもないでしょう? もとから貴女たちにとって神など“その程度”としか扱われてなかったのですから」

「「なっ・・・!?」」

 

 衝撃を受けて一時的に立ち直る紫藤さん。

 信仰心を侮辱されたとでも誤解したのか、その手に持つ“ナニカ”を握りますがーー

 

「だって貴女達、一度も神に会ってないんでしょう? ただ「居る」と言われてきた者を信じてきただけで。だったら今まで通り信じればいいじゃないですか。

 どうせ初めから居なかったわけですから、神の奇跡も全部真っ赤な偽物です。その“偽物”を信じてきて問題が起きなかったのなら、これからも問題は起きませんよ。

 所詮、会ったこともない存在なんて、居ても居なくても全く同じ存在でしかない」

「「・・・・・・っ!!」」

 

 これが、一般的な日本人であるところの私の考え。

 

 困ったときのみ頼るだけの存在ならば、実在するかどうかなんてどうでもいい。鰯の頭も信心から。

 信じる者は救われるのなら、居ないものでも信じた方が得だ。神も宗教も人が生きていく上で必要だから生まれ、必要だから縋る。生きるのに邪魔になったら捨てるだけ。

 衣服と同じ。冬物は夏になったら押入の中へ。冬が来るまで出番はない。

 

 ーー極端すぎることは自覚していますが、私の考え方はそんな感じです。

 

 与えられた命だとしても、自我を持った以上は「死ね」と言われて「畏まりました」とは言えないのが人間です。

 ましてや、「殺せ」と言われて「畏まりました」と無関係な人間を異教徒と決めつけて殺す輩はただの人殺しです。

 

 神の代理人を名乗るのなら、法という正義で裁きなさい。犯罪を正義と言った時点で、彼女たちはテロリストとなんら変わりがない。

 

「貴女達は今まで「教会」の命令で殺してきたんでしょう? 「神はこう仰られた」と言って殺害を命じてくる教会幹部達の言葉通りに。

 だったら、これからも同じ事をすればいいんですよ。今まで一度だって「神からの命令」を実行した事なんてないんですし、なにひとつ変わらない。だって居なかったんですからね、神様。命令も出来ませんし、言葉すら伝えられません」

 

 彼女たちが神の言葉と教会の言葉に疑問を抱かなかった時点で、それは「偽物」です。「偽物の信仰心」です。

 

 だって、「汝の隣人を愛せよ」といった神を信仰しながら「異教徒を殺せと神は仰られた」と命じる教会の命令を同一視してきたのですから。

 

 それは「盲信」であり「信仰」ではない。

 

 ・・・・・・話が長くなりましたが、まぁ、ようするに。

 

「貴女達が信仰していたのは「教会」です。「神」が居なくても問題はありません。なぜなら「貴女達の頭の中」にしか神は居ないからです」

「「!!??」」

 

 針金から姿を変えた剣を振り上げようとして、地面に落としてしまったそれを拾おうともせずに紫藤さんが虚ろな目で私をーーいえ、あれは何も見てませんね。強いて言えば「神の栄光」の残光でも見てるのかもしれません。

 

 

 

 ・・・・・・さて、困りました。

 なんとなく言ってみただけの言葉で空気が重くなったと思ったら、二人の聖職者がゾンビになってしまいましたが・・・どうしましょうか、これ。

 

 私としては、厨二ラノベを読むたびに感じていたことを言ってみただけというか、お約束設定にウンザリだったのでちょっと気分転換したかっただけなのですが、思いの外効果があったみたいですね。

 

 ・・・・・・むしろ、効果有りすぎじゃないですか、これ?

 

 天野さんの言ったことが真実であるのを前提にしているようですが、別に真実とは限りませんよ? だって、彼女が言っただけですし。

 

 天野さんどころか彼女たちも神様に会ってないわけですから、生きているのか死んでいるのかなんて、誰にも解りませんって。

 

 もしかしたら、教会のお偉いさんに聞いても無駄かもしれません。

 

 だってミカエルですよ? 神様の次に偉い人ですよ? 天使なんてRPG以外では名前すら聞いたことのない私ですら知っている超大御所です。

 

 そんな超越的存在が・・・たかが人間の元代表に真実を教えてあげる必要があると思います?

 

 キリスト教が世界の覇者だったのは何百年も前ですよ?

 今では日本以外でも信者は減ってるし、信者が教えを曲解して犯罪犯したり、自己正当化の口実にしたりするのが当たり前の世の中です。

 

 そんな中で天使たちが人間を信じきれるかどうか・・・いえ、信じさせるためにも嘘偽りのない信仰心を捧げさせようと神の死を隠すのではないでしょうか? ・・・・・・あくまでも、私の妄想ですけどね。

 

 

 ・・・・・・しかし、これを言っても余計に落ち込みそうなんですよね、この人。なんで宗教家って面倒くさい人が多いんですかね、二次元だと。

 

 解決法が見いだせずに全員で沈黙しているとーー

 

 

「静まりなさい!」

「「!?」」

 

 はじめから誰も喋ってません。

 

「記憶が戻りました。私の名前はレイナーレ。

 かつては堕天使総督アザゼル、副総統のシェムハザら愚物の愛を得んと外道に落ちた末に、無様で惨めな末路をたどった下種な鴉だった者ーー」

 

 うん、厨二感満際ですね。すごく痛い。

 

「しかし! 今は違う!! 私は生まれ変わったのです!

 ーーそれは、真の愛を知り、真実の愛を得て、至上の愛へと至ったゆえに・・・・・・そう! 今の私は堕天使レイナーレではなく、愛の天使・・・『愛天使レイナーレ』です!!」

「「お、おおぉぉっ!!??」」

 

 ・・・・・・カッコ悪。厨二力低・・・。

 

「さぁ、見なさい。

 これが・・・これこそが私が至上の愛によって得た“愛の証”ーー『性装』と『愛の翼』です!!」

「「そ、それは最高位天使の持つ一二枚の翼っ!?」」

 

 一二枚もあると邪魔そうだなぁ。毛繕いとか大変そうです。

 

 ・・・・・・それよりも、ボンテージが愛の証って・・・どんだけ歪んでるんですか、その愛。愛と書いて“犯す”と読むとか言ったら“愛の天使”と書いて“ストーカー”ってルビ振りますからね?

 

「さぁ、貴女達も偽りの愛からさめる時です。

 祈らせるばかりで何も与えてはくれない、捧げさせても何一つ報いようとはしない・・・。そんな邪神への信仰心など捨てて共に真実の愛を掴むのです。

 そう・・・真実の愛を与えてくれる至高の女神ーー“愛女神セレニア様”への信仰へと目覚める時は今なのです!!!」

「「お・・・おおおおぉぉぉぉっ!!!!」」

 

 ーーおい、待て。ちょっと待て。今なに言いやがってくれましたか、このビッチ。

 

「せ、セレニア様! ぜひとも私の愛を捧げさせて下さい! そのためならどのような苦痛も恥辱もご褒美です!」

「わ、私もです! 真実の愛を得られるのなら信仰も純潔も捨てられます!」

「黙りなさい、このビッチども。風俗嬢にでも転職すればいいじゃないですか。半径1メートル内に入らないで下さい、変態が感染します」

 

 あ、不味い。つい本音が・・・。

 

「「は、はぁあんぅっ♪」」

 

 ・・・・・・そこでなぜ、色っぽい声と表情で悶えるんですか、貴女達。

 

 ・・・二次元の聖職者って変態しかいないんですかね? 麻婆と愉悦が大好きな神父さんより酷いんですけど、この二人。

 

「良い覚悟ですね。

 では、まず初めにセレニア教の性装として私と同じ服を与えましょう。これに着替えて、ますますセレニア様への愛と信仰を強めるのですよ」

「は、はいっ、レイナーレ様! 誠心誠意努力いたします!

 ああ、このような恥ずかしい服を着た私をセレニア様に見て貰えるなんて・・・それだけで私の人生の帳尻は合ったようなものだ・・・」

「私も・・・。こんな恥ずかしい格好でセレニア様にご奉仕できるなんて夢みたい・・・。ドブに捨ててしまった今までの人生もこの瞬間の為にあったのなら感謝しほうだいね・・・」

 

 ・・・・・・ダメだ、この人達・・・早く何とかしないと・・・・・・

 

 

 ・・・ん?

 あれ・・・。ゼノヴィアとイリナって、どこかで聞いたような気がしてきましたね・・・・・・厨二作品らしく登場キャラが多すぎるみたいでメインの数人しか原作知識を与えられていないんですけど、その中にいたのかもーーあ。

 

「・・・・・・ヒロインじゃないですか」

 

 てっきりサブキャラだとばかり思っていましたが、二人とも立派なヒロインです。

 

 えっと、確か設定はーー

 

 

 ゼノヴィア。ヒロインの一人。バスト87センチ。

 紫藤イリナ。ヒロインの一人。バスト87センチ。

 

 

「・・・・・・おい、待てやコラ」

 

 なんで名前以外のプロフィールが、バストサイズだけしか載ってないんですか。これでなにを分かれと言うんですか? なにをしろと言うんですか? ヒロイン達のバストサイズ知識だけを与えられた転生者って、もしかして私が最初なんじゃないですか?

 

 滅茶苦茶いやな記録なんですけど。これ以上なく不名誉な名誉なんですけど。

 誰か「いや、お前は二番目だ」と言って下さい。お願いします。

 

「あ、羽が生えたわ。色はピンクなのね」

「私もだ。やはり性装に着替えたおかげで成長が速まったみたいだな」

「いやいや、速すぎますから。なんで卵から孵ったばかりで羽が生えるんですか。・・・・・・て言うか、なんですか羽って。貴女達人間でしょ?」

 

 ちょっと考えている間に、二人は露出狂にしか見えないあんまりな服装へと着替え終わっているばかりか、背中には六枚の翼までもが生えています。

 言っていたとおり色はピンクで・・・・・・完全にイケないサービスをするお店の従業員さんになってますね・・・。

 

 だって、黒いボンテージにピンクの翼ですよ? どこから見てもコスプレでは済まないレベルです。猥褻物陳列材です。即刻通報しましょう。

 

「さすがはこの愛無き時代にあって、信仰という形ばかりではあっても、愛の一種を真剣に祈った乙女達。私の見込み通りに“転生”したようですね」

「“転生”・・・?」

 

 またなにやら新しい単語が出てきました。

 勘ですが、ニュアンスからして私がした“転生”とは別物だと思われます。

 だって、死んでませんもん二人とも。私は死んだから、今ここでこうして胃の痛みに苦しんでるんです。

 

 ・・・・・・なぜでしょうか、自分の言葉に矛盾しか感じられないのは・・・。

 

「堕天使は元々、神に仕えていた天使が邪な感情を持ったために地獄に堕ちてしまった存在です。

 しかし、私たちはその逆ーー邪な偽りの愛に仕えていた者が真実の愛を持ったために昇天した存在・・・すなわち“転生愛天使”です!」

「止めて下さい、これ以上頭の悪い造語を作るのは」

 

 原作をこれ以上壊さないで下さい。

 この時点でたぶん再建不可能な域に達していますよ。たぶんですけど。

 

「さぁ、貴女達も愛しなさい。そして、祈るのです。

 この世がセレニア様の愛で満たされて永遠の安らぎと女の幸せを得られることを・・・・・・ラーメン」

「「ラーメン」」

「炭水化物か」

 

 “ラブ”と“アーメン”を掛け合わせたんでしょうけど、食い合わせ悪すぎでしょう。ただの中華料理じゃないですか。横浜中華街か秋葉原にでも行きなさいよ。美味しい店がいっぱいありますから。

 

「ああ、今日はなんと良い日なのでしょうか・・・。こうして新たな同胞と真実の理解者を得られました・・・。

 この日を最愛の記念日にするためにも、私たちは美味しい物を食べに行かなければいけません。そうですよね? 二人とも」

「仰るとおりです、レイナーレ様。私も空腹故に愛で腹を満たしたくなったところです」

「私もです。ケーキでお腹は満たせても愛がなければすぐに空っぽになります。「パンがなければケーキもいらない。欲しいのは愛だけ」という言葉もあります」

「ありません」

 

 愛でお腹は膨れません。心が膨れても空腹ではいずれ餓死します。

 

「では、参りましょう。私たちの出会いとセレニア教の誕生を祝い、盛大な誕生祭“ラブリマス”を盛り上げるのです!」

「「おおぉぉぉぉっ!!」」

「止めて下さい、お願いですから。私が恥ずかしくて死にますから。

 ーー聞いてますか? 聞こえてますよね? 聞けやオラ。・・・・・・ねぇ、聞いて、お願いだから」

 

 私の言葉などなんの意味もなさずに町へと繰り出す、ボンテージ姿の痴女三人。

 

 

 ーーすっごく行きたくないですけど、行かなかったら絶対に大問題を起こしますよね、あの三人・・・。

 

「ーーああ、なんで原作に接触したその日に原作崩壊を・・・・・・・・・しかも、変な方向に盛大すぎるほど・・・」

 

 もはや原作通りの展開など望めないでしょう。私自身、原作を読んだことはありませんが、絶対こんな話じゃないはずです。

 

 ・・・つーか、こんなのバトルファンタジーじゃないじゃん。ただの変態コメディじゃん。誰が読むかっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・ところで、学校見学はどうなったんですかね?

 

つづく




言霊少女シリーズを始めて読まれた方は驚くかもしれませんが、
言霊少女はこれがスタンダートです。これからも、こんな感じです。
原作ファンの方々申し訳ありません。
ギャグの並行世界だと思て鼻で嗤って許してください。

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