堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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なんか最近色々あったせいで混沌とした内容ですが、まぁこんな作品なんだろうと割り切っちゃってください。


15話「悪魔たちの黄昏」

 部室のテーブルには部長とディオドラ、顧問としてアザゼル先生も座っていた。

 朱乃さんがディオドラにお茶を炒れ、部長の傍らに待機する。

 

 俺たち他の眷属が部室の片隅にて状況を見守る中で、他の参加者同士の間で行われていたレーディングゲームの検証会に突如として乱入してきた次の対戦相手ディオドラ・アスタロト。

 かつてアーシアが苦しむ元凶を作った男が今この部室で俺の眼前に居て、部長に持ちかけたいという交渉を始めようとしていた・・・。

 

「リアスさん。単刀直入に言います。『ビショップ』のトレードをお願いしたいのです。リアスさんのビショップーーアーシア・アルジェントを」

 

 クソ! やっぱり、アーシア狙いかよ! つーか! トレードでアーシアを手に入れるって、それはちょっと酷いんじゃないか! 求婚した相手だぞ!

 

 俺は今朝アーシアが見せた悲しそうな表情を思い出して、激しい怒りを感じていた。

 やっぱこいつとだけは死んでも合わないだろうと心に誓いながら。

 

「こちらが用意できる駒を一覧にまとめてカタログに落としておきました。御覧いただいた上で最良と判断された駒をお選びください」

「だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいたほうがいいと思ったから先に言うわ。

 私はトレードをする気はないの。

 それはあなたの『ビショップ』と釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。ーー私の大事な眷属悪魔だもの」

 

 真っ正面から部長は言ってくれた! うおおおおおっ! 部長ぉぉぉぉぉぉっ! 感動しちゃったよ俺! 

 

「それは能力? それとも彼女自身が魅力だから?」

「両方よ。私は、彼女を妹のように思っているわ」

「ーー部長さんっ!」

 

 アーシアは口元に手をやり、瞳を潤ませていた。部長が妹と言ってくれたことが心底うれしかったんだろう。

 

「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって手放したくないって理由はダメなのかしら? 私は十分だと思うのだけれど。

 それに求婚した女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

 迫力のある笑顔で問い返す部長。

 ディオドラは不気味な笑みを浮かべたまま「ーーわかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」と言い募り、アーシアの元へと近づきかけたその瞬間。

 

 

 ーー悪夢が、来た。

 

 

 

「おや、終わってしまったようですね。出遅れてしまったようで残念です。

 せっかく物見遊山を楽しもうと降りてきましたのに・・・」

 

 

 

 声とともに重い空気が降りてきたのを俺たちは実感する。

 こいつの声には魔力すら必要とせずに、相手の精神を痛めつける能力があるみてぇだ。

 ーーくそっ、身体が重くて言うこときかねぇ・・・っ!

 

「よければ相席させて頂けませんでしょうかね? 私はこの劇に大変興味があるのです。

 一流の脚本が一流の劇として完成を見るには、一流の役者が必要だと聞いています。しかしながら今回のキャスティングには不満がありありです。あまりにも出来が悪すぎます。もう、本当にダメのダメダメなくらいには」

 

 辛辣に、かわいらしい口調で言ってのけた後、夕麻ちゃんに抱っこされながら移動してきた銀髪の少女は若干頬を赤く染めながら床に降り立ち、テーブルに投げ出されたまま放置されていたカタログを拾ってパラパラ適当に流し読みしてから、

 

「こんな出来の悪い、最低最悪の人材派遣会社の無能な経営者さんには一言以上言ってやらねば気が済みません。

 当然、この程度のゴミに資源を浪費させたボンクラ息子も含めてね」

 

 終始不気味な笑みを浮かべ続けていたディオドラ・アスタロトの表情がはじめて変わった。

 笑顔から怒りへ、怒りから殺意へ、殺意が相手を焼き殺すための憎悪に進化するまで一連の流れに必要とした時間は十秒に満たない短時間だったはずなのに、俺たちが感じた体感時間は数十時間に等しかった。

 

 人間の少女が、悪魔に転生してすらいない、力を持たない人間の少女が人間であるままにレーディングゲームにも参加してくる冥界の名門若手悪魔にたいして当たり前のように喧嘩を売って見せたのだからしょうがない。こんなこと、誰にも予想なんてできないだろうから・・・。

 

 

(・・・やっぱりコイツは・・・マトモじゃない・・・!!)

 

 俺はこの時、ハッキリと確信した。

 転生悪魔どころか名門悪魔でさえ躊躇してしまうような一線を、こいつは常に踏み越え続けてる。自分は殺されないと信じているからじゃなくて、「殺されるのが怖くて生きていられるか」とでも言いそうな傲岸不遜な冷静さと常識で相手の理屈を走破しちまう。蹂躙しながらローラーで挽き潰してしまう。正直言って危険な奴だとは思う。

 でも、今のディオドラにはこいつが一番効果的な口撃ができるのも確かなんだ・・・!

 

「・・・聞き捨てなりませんね。いったい、僕のどこを見てボンクラなどと言う見当違いな誤解をされてしまったのでしょう。理解に苦しみます。あなた方人間は初対面の相手にそのように無礼な態度で接しているのですか?

 いけませんねぇ、それは。貴方も一応とはいえ女性なのですから、淑女たるもの貞淑さを身につけなくては嫁の貰い手がなくなってしまいますよ?」

「ご忠告に感謝を。ディオドラ・あ・・・アスタロスさん?でしたか?

 ・・・まぁいいです。それより質問にお答えさせていただきますが、まず初対面の女性に対して説教臭い口調でジェンダーの違いを話題に出す時点で人付き合いの経験値が圧倒的に足りていません。日本ではセクハラに当たりますし、昨今ではアメリカなどでも問題視されるようになっているとのこと。

 ・・・ああ、そう言えば冥界では未だに識字率が10パーセントを切っているのでしたか。いけませんねぇそれは。

 識字率の高さは往々にしてその国の国力に匹敵しがちです。例外もあるので一概には言えませんが、要は小さな子供まで読み書きできる国は基本的には先進国の括りに入り、力で殴って押さえつけるしか脳のない体力バカの脳筋国家は未開の蛮地にすら劣ると言いたいわけですよ。お分かりですか? 未開の地に住む蛮族どもの王アスタロス家の後継者様」

 

 

 

 

 

 ーー季節が一気に真冬へ突入したかと思ったぜ。ここまで酷い毒舌の応酬・・・つか、今のところ一方的にセレニアが押してるな、一発目だけで。

 やっぱこいつ、只者じゃなかった・・・。

 

「ただし、貴女もいけないリアス・グレモリーさん。先ほどの貴女の件はご自分の思い描く理想に寄りすぎている。公平な立場でものを見ているとは言い難い発言でした。

 仮にも冥界を背負って立つ覚悟と気概があると言うなら、もう少し第三者的視点も持つべきだと私は考えますね」

「・・・なによ。私の言ったことのどこに問題があったって言うのよ?」

 

 自分の発言を否定されて部長が地味に怒ってる!

 部長って意外と口喧嘩で負けるの嫌いだからな~。できれば女の子同士で血を見る展開は勘弁してほしいんだけれども・・・・・・

 

「お忘れですか? 冥界は時代錯誤な封建貴族制を敷く、力こそが全ての世界です。男性優位の貴族社会にあって女性が家の所有物として扱われるのは世の習いだ。

 現に貴女も家の都合で無理矢理に結婚を強要されそうになったと聞きましたが?」

「あ、あれはそう言う意味の結婚話じゃなくて・・・!!」

「はい、そこまで。別に昔の話を蒸し返す気は無かったのですがね・・・思い起こさせてしまってごめんなさい。そう言う意味で言ったわけではなかったのですが・・・」

 

 自分が悪いと思ったら即座に頭を下げることができる大人になりなさいって、よく言われてはいるけどさ。実際にここまでストレートに自分が悪い言い切れる相手も珍しいんだろうなぁ~。

 

「要は周りの部外者たちから見た場合には、貴女たちの事がどう伝わったのか、どういう風に誤解されているのか? 誤解されるのであれば、その理由とは何なのか? それだけを判断基準にして人を調べ尽くせる自分自身に疑問を抱こうとしないのは何故なのか?

 『敵を知り、己を知れば』と言いますが、私にとってこれを実践する方法は只一つ。『自分は絶対に正しい、相手は絶対に間違っている。ーーそう考えてしまった自分は冷静であるか否か疑え』です。相手を『間違っている』自分を『正しい』としてしまえば後はひたすら他者否定による自己正当化行為が続くだけですから・・・・・・」

「・・・・・・!!!」

 

 部長がわずかにたじろいだ。

 確かに部長も俺たちも感情的な部分があるのは確かだけど・・・でもそれって普通のことなんじゃねーの?と俺は思う。誰だって正義の味方にはあこがれるだろうし、悪の側になんかなりたくない。そう思うのが当たり前なのに、こいつは一体全体なにをそこまで気にしているんだろうか? 相変わらず、わっかんねぇ奴だな。

 

「今回の件に限って言えばグレモリーさん、貴女は自分の価値基準を絶対視するあまり、根本から相手を誤解しています。いっさい解ろうとは努力していない。

 ただただ倒すべきレーティングゲームの対戦者相手としてのみ調べているから、そう言う単純なミスを起こすのです。勝つのも戦うのもよろしいが、別に戦争しているわけでもない相手をそこまで否定の対象としてのみ視る必要性はなくないですか?」

「・・・私がディオドラを都合よく誤解して、甘く見ているとでも言いたいのかしら?」

 

 底冷えするような口調で部長が反問する。

 ヤバい、かなりキちゃってる・・・。半ギレじゃなくてブチ切れする寸前だ。セレニア早く逃げてー!

 

「だとしたら異住・セレニア。あなたの方こそ勘違いも甚だしいわ。なにも分かってなんかない。

 私はグレモリー家の次期当主として彼を正当に評価し、依怙贔屓も同じ名門故の甘い考えも一切持ち込んでなんかいない。その程度も見抜けないなんて、貴女の洞察力も存外大したないのねーーって、なによそのジト目は。なにか私間違っていたかしら?

 ちょっと! なんで重いため息なんか着くのよ! それだとまるで私が面倒くさいだけの無能みたいに見えるじゃない!

 こ、こら! タイミングを見計らってたかのように、お茶が無くなってたことに気が付かない! 申し訳なさそうにお代わりを要求もしない!

 とにかく! とーにーかーく!

 私の話を聞きなさーーーーーーっい!!!!!」

 

 ドッカーン!と、部長の怒りが怒髪天を突いて天井が少し焼け焦げた。意外に寂しがり屋さんだからなぁ部長。無視されてると悲しくなるんだろうね、わかるけどさ。

 

 そんな怒れる部長に、怒ることを忘れたかに見える銀髪の少女が冷静に淡々と事実だけを並べ始めた。

 俺たち悪魔にとって、あまり嬉しくない事実だけを列挙しながら淡々とーー

 

 

 

「・・・では、御耳汚しに戯言を一つだけ。

 貴女は特権階級の男性が下層階級の女性にプロポーズするという行為について、自分自身が希っている願望『すてきなお嫁さん』を基準にしすぎている。彼は封建貴族主義社会における求婚という行為の意味を正しく理解していますよ。たぶん、貴女よりも正確にねリアス・グレモリーさん」

「な・・・なんですって!? アレが正しい認識だったとでも言いたいの貴女は!?

 だとしたらそれはーー」

「男尊女卑、女性を自分と同じ生き物として認識しようとしない、女性は生まれながらにして男に尽くすための道具だと言い切って使い捨てる。中世ヨーロッパでは当たり前の常識だった考え方でしたね。特に、特権階級たる王侯貴族の間では」

「ーーー!!!」

「『平民風情が生まれながらに選ばれし者、門閥貴族の俺に目を留めてもられるなんて望外の幸運だ。俺に気に入られたお前には俺を悦ばせる義務がある。

 俺に奉仕し、愉しませるため身体を差しだし、痛みと苦痛にのたうち回って絶望する姿を晒すのは、下等生物である貴様等平民が優良種たる我ら門閥貴族に対して行うべき神聖にして不可侵な義務なのである。

 この世のすべては貴族の物。生きとし生けるすべての命は貴族の財産、貴族の持ち物、貴族の所有物。

 所詮は道具にすぎないんだから、お前はさっさと俺に従えばいいんだよ、このクソ尼ビッチが』ーーそう言う考え方をしておられるのでしょう?

 違いますか? ディオドラ・アスタロトさん」

 

 ーー年頃の女の子が放つとは思えない言葉を締めくくり誰もが息を飲みこむ中、ディオドラは、今さっき彼女に完全否定されたディオドラだけは“愉しそうに”クスクスと嗤い出していた。

 そこには先ほどまでと同じ能面のように張り付いた不気味な笑みがあって、変わらずアーシアを見つめ続けていたが、それをみた俺の心に浮かんだ恐怖はさっきの奴の比じゃなかった。

 侮っていた!甘く見ていた! セレニアだけじゃない! こいつだって俺たちから見たら正真正銘立派な異常者で、狂った価値観の持ち主だったのか!

 

「・・・なんの事を言われているのか、ま~ったく理解できませんが・・・とりあえずは一言だけ。

 人間の少女よ。今君が言った貴族の在り方は美徳だ。非常に正しい貴族の在るべき姿だ。僕はこの一件に関してのみ、人間たちの主義主張を全肯定しているんだよ。

 『選ばれし尊き者貴族は、斯くあるべし』と」

 

 奴の言葉で交渉は完全に破綻した。

 こいつは必ず俺たちが倒す!そう決意するまでにかかった時間はコンマ1秒にも満たないだろう。

 当然こいつにアーシアを渡すなんて論外だ。絶対に禄な扱いしないに決まっているからな!

 

 俺のなかで何かが軽くキレて、気づいたときには俺はディオドラの胸ぐらを掴み上げて、目の前から奴を睨みつけていた。

 

「くっくっく・・・放してくれないか? 薄汚いドラゴンくんに触れられるのはちょっとね」

 

 ーーっ! この野郎! 笑顔で言いやがった! やっぱりこれがお前の本性かよっ!

 

「なるほど。わかったよ。ーーでは、こうしようかな。次のゲーム、僕は赤龍帝の兵藤一誠を倒そう。

 そうしたら、アーシアは僕の愛に応えーーぶべはぁっ!?」

 

 ーーへっ?

 

 ・・・・・・あ、あれ~? なんでディオドラが部室の壁にめり込まされているんだろう? なんで俺に捕まれてたはずのイケメン顔が一瞬で、ひっどいブサイク顔になっちゃってるんだろう? わかんないね、うん。俺よく分かりましぇーん。

 だから一誠、この件は見てみない振り~っと♪

 

「おい、やめーーブベハッ!? こんな事してただで済むと思っているのか・・・ピギャーーッ!! やめべくだばいやべべくばばいもうじまじぇんがらやめべやめべぼぶしんじゃうーー」

「死になさい。貴方のような人畜にも劣り、犬畜生以下の家畜にすら成り得ないゴミは生きている価値などない。貴様ごとき、笑わせるなゴミめが」

 

「だいたい、さっきから誰の許可を得て偉大なるセレニア様を見下ろしていた?

 死ね、死ね、死ね。ゴミが、疾く死ね。

 陛下がお心健やかに過ごされるためにも役に立て。お前の生まれた意味など、イッセー君のパワーアップに必要な経験値としてしかない。

 お前は私たちの役に立つ。贄としてな。その為に今日はわざわざ、やって来てやったんだ」

 

「本当なら! 今日は! セレニア様とデートして回れるはずだったのに! お前が予定にない交渉なんか急に持ち込むから!

 陛下と過ごすアバンチュールをぶち壊しやがった責任、どうつける気なんじゃこん糞ガキがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? そ、そんな理由だったのーーーっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私も以前、とあるバカ男爵相手にやってみたいと思ってた行為なので黙認した作戦でしたが・・・今のを聞いて申し訳なさが先に立ち始めましたね。

 できれば五体満足な体のまま生還させて上げましょうね? 天野さん?」

「善処いたします(要約:運さえ良ければ命ぐらいは全うできるでしょ)」

「・・・・・・ダメだこの人・・・。早く何とかして上げないと・・・」

「ぴぃぃぃぃぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 だーれーかーたーすーけーてーくーるぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・こうして、俺たちとディオドラとの初会合は誰一人、本当の本当に誰一人として予想できない終わりを迎えて、眷属たちに介抱されながら魔法で帰還していくボロボロの若手名門を見送る羽目になったのだった。

 

 

「私たちもレーティングゲームに参加させてもらいます。蛇に差し出す手土産を欲しているのでしょう?

 如何なる危険も難関も不確定要素も、一切まったく私は気にしません。好きに卑劣な手段をお使いなさい。私たちはあなたが敗れ、イッセー君の贄となってくれさえすればそれで良いのです。

 つまりは利害の一致ですわ。あなたの願いは、我が帝国軍にとっての道具。

 パライゾを創るため、我ら帝国の全臣民が共に未来を歩むため。

 私の名は天野夕麻。貴方のような世界の歪さを嘆く者。

 諦めなど混沌帝国軍には必要ない。夢はきっと叶う。貴方という取るに足らないゴミを生け贄のひとつとして焼べる事で世界は一歩だけ前へと歩を進められる。

 ーー他者を貶すのであれば、その人物から殴り返される覚悟ぐらいはしておきなさい。それが相手に対して払うべき最低限の礼儀と言うものです。貴族の誇りがどうたら言う前にその程度のことは弁えておきなさい。

 主に意識が戻った時には、私からの伝言としてそう伝えておきなさい。分かりましたね?」

「「「・・・・・・」」」

「わ・か・り・ま・し・た・ね?」

「「「は、はいぃぃぃぃっ!!! かかか畏まりましたぁぁぁぁっ!!!」」」

 

 逃げ去るように気を失ったディオドラを引き吊りながら魔法陣へと我先に飛び込む眷属悪魔たちを見送りながら、俺は案外ディオドラって人望無いんじゃないのかなーと適当な気分で感想を抱いていた。

 

 

 

 

 

「・・・と、言うことになってしまったそうなのですが。

 私たちも参加させていただいても構いませんか? グレモリーさん。例のトレーディングゲームとやらに」

「・・・え? それが今回の狙いじゃなかったの!?」

「いやその・・・最初はそれも視野に入れてはいたんですが・・・あんまりにも彼が私のよく知るキノコ頭のどら息子貴族に似ていたものですから、ついカッとなってやっちゃいましてね・・・。正直想定外にも程がある事態です・・・たはは」

「たははじゃないわよ、まったくもう。

 でもいいわ。ちょうど手駒が不足していたところだし。今回に限り、あなたたちの参戦を認めます。ただし、ゲーム中は私の命令には絶対服従すること。いいわよね?」

「了解です。ゲーム中に限り、私は自身の人権を一時的に貴女へお預け致しましょう。

 仮契約となりますが、どうぞよろしくマイ・マスター。リアス・グレモリー公爵令嬢閣下」

「うっふっふ♪ ん~、いー気分♪ 最高ね! これでゲームは勝ったも同然だわ! 楽勝よ! だって、人数差さえ補えれば私たちグレモリー一派がディオドラなんかに負けるはずがないのだから!

 行くわよみんな! エイエイオーーーーッ!!」

『おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』

 

 勝利を確信した俺たちは一路ゲーム会場に向けて出発した。

 その先で待ち構えているカオス・ブリゲードの罠にも気づかずに・・・・・・。

 

 

 

 

 

 この時、リアス・グレモリーは少し勘違いをしていた。

 『一方的に与える立場を誇示して特権に驕り高ぶった貴族』をセレニアは心の底から嫌悪している。それが今回、天野夕麻の暴走を許してしまった理由であるのだが、そのことをリアスは深く考えようとしなかった。一時の勝利で気をよくした彼女は致命的なまでに思慮が欠けていたのだ。

 

 何故なら『一方的に与える側の貴族』とは、人間が悪魔に転生させてもらえることを光栄に思えとでも言いたげな彼女自身さえ指し示していたのだから。

 

 

 数千年にもわたって続いた貴族の特権。

 その悪しき伝統を燃やし尽くすべく、今まさに天高く聳え立つ巨城からメギドの矢が放たれようとしていた。

 

 

「行くぞ、前線豚ども。出撃だ。降下ポイントの確認を怠るな」

『ヤー・ヘルコマンダール。

 すべては神帝陛下の治める蒼き清浄なる新世界のために』

「よし、では行く。我らに邪神どもの悪意ある加護があらんことを。

 混沌帝国冥界制圧派遣軍第24戦略機甲歩兵団特殊任務班Xー1、公式通称『レッドショルダー』は、これより地球へと降下し、その途中で冥界への短距離リープを行う。

 冥界降下上陸作戦『ブリティッシュ作戦』を開始せよ!

 地べたを這いずり回るウジ虫どもに、思いっきり熱いのぶち込んでやれ!

 ジーク・ハイル! ジーク・マイン・カイザー!!」

『ジーク・ハイル! ジーク・マイン・カイザー!!

 混沌帝国神帝セレニア陛下に栄光あれーーー!!!』

 

 

リング外で盛り上がりつつ次回へ続く。


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