堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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少し前に出した「日常」本来の姿の回です。最近感情任せに書き殴ったのが幾つかあり、その中のひとつですね。憤りをぶつけただけなので内容は滅茶苦茶、そのせいで「日常」を書く必要が出来て失敗しました。

心優しいアドバイスを受けて折角だからと完成させました。
とは言え元が滅茶苦茶作品ですので、間違っても期待はなさらないで下さいね?


「天野夕麻の優しさは不器用ですから」

 それはコカビエルの一件が解決してから数日が過ぎ、オカ研部室でおきた出来事が切っ掛けだった。

 

「近く、天野夕麻が駒王学園に転校してくるからイッセーのクラスに配属するよう頼んでおいたわ。だから後のことお願いねイッセー」

 

 

 

 ーー部長の無茶振りによる第一声から始まった騒動は、結果として俺がクラス中にボコられる事でなんとか決着できたのだが・・・・・・

 

 

「納得いかない・・・近日中と聞かされてたのが今日いきなり転校してきたのも、制服が間に合いそうにないから少し遅れるかもと連絡されてから二日後に制服姿で転校してきたのも、何もかも全く全部に納得できん!」

 

 朝からの不条理に怒り心頭の俺を眺めながらコロコロ楽しそうに笑っている夕麻ちゃんと、聖母のごとき優しさで「大丈夫ですか? イッセーさん・・・」と手当してくれてるアーシアとの対象比によって、俺は彼女がどんなに変わったところで本性が堕天使のままなのは変わらないんだなと確信できた。

 

「自業自得です。学園一の非モテ男がきっかけを得た途端に学園のアイドルと結ばれて・・・そんなの現実に生きてる普通の男の子だったら嫉妬して当然じゃないですか。

 おまけにイッセー君ってば調子に乗って、周囲にひけらかすのを目的に町中を練り歩こうとまでするし・・・」

「・・・う。そ、それはそのー・・・」

「昨日まで同類、あるいは同格だった同士が恋人ができた途端に手のひら返しで上から目線。嫌われて当然ですし、むしろ毛虫のように嫌われてないのが不思議で仕方ないくらいですよ。

 ーーまさかとは思いますがイッセー君、悪魔の力で学校中を催眠状態になんかしていませんよね・・・?

「してない!していません!お願いだから信じてください!」

 

 必死に土下座したらなんとか許してくれた夕麻ちゃん。ドライグを宿した俺が一瞬恐怖でチビリかけるほど凄まじい闘気だったぜ・・・怖かった~。

 

(ーーいや、あれは闘気というか魔王気と言うべきなのか、俺にもハッキリとは判断つかないんだけどな)

 

 ドライグがなんか言ってるが今は無視だ。学校にいる間ぐらい、俺は平和でエロい健やかな生活を送るぞー!

 

「ーーて言うかさ、本当になんで転校先がうちなんだよ?

 夕麻ちゃんが生き返ったってだけでも衝撃的すぎたのに、今度はうちの学校に来た転校生だぜ? 怪しむくらいは普通すぎる反応だろう?」

「あら? 随分とあなたらしくもない言い草ね、イッセー君。

 私に殺されて悪魔として生き返り、私を殺したことでアーシアとともに過ごす今の日常があるんでしょうに」

「「・・・!!!!」」

 

 それを・・・それをコイツが言うのか! 自分の欲望を満足するためだけの儀式を執り行おうとして失敗した女がそれを言い切りやがるのか!!

 

「取り消せよーー」

「イヤよ」

「取り消せって言ってるだろうが!」

「イヤだと答えたのが聞こえなかったかしら?」

「今度こそぶち殺されたいのか!?」

「出来るものならね、イッセー君。今のあなたに人が殺せると言うのなら、是非とも殺って見せてほしいところだわ」

 

 意外すぎる言葉に俺の思考は数秒間停止していた。

 

「・・・・・・なんだと? 今なんて・・・」

「言葉通りの意味よイッセー君。私はもう堕天使レイナーレじゃない、人間の女子高生天野夕麻なのよ。あなたが私を殺したいというのであれば、私はそれに対して全力で戦うことで応じてみせる。

 人間の少女天野夕麻として、一人の人間としてあなたと戦い、勝利する。

 だからあなたも私を堕天使という種族名ではなく、天野夕麻と言う人間個人の名を唱えて殺しに来なさい。それが命を奪い合って戦う相手への、最低限果たすべき礼儀と言うものよ」

「・・・・・・・・・」

 

 俺は答えを返すことが出来なかった。

 今はじめて気が付いた。

 俺は今まで倒してきた相手に対し『敵』と言う認識を持ってはいたが、倒すべき『敵』が何なのかなんて一度として考えたことが無い。ましてや『一人の人間を、敵として殺す』なんて、そんなヒドいこと俺に出来るはずがーー

 

「何を躊躇うことがあるのです? 今まで散々にやってきた事と同じではないのですか?」

「ちがう! 俺はそんなヒドいことした覚えはねぇ!見損なうな!」

「どう違うんです? はぐれ悪魔を主の命令で殺し、主の身に降りかかる火の粉を殺し、『敵だから殺せ』と言われたモノたちを『敵として』殺してきた。

 主の唱える正義を自分の正義とし、正しいと信じて『正義の敵』を殺戮してきたのではないのですか?」

「ち、ちがう。俺は・・・俺は!」

「悪は敵、敵は悪。主は正義で、主の敵は悪。シンプルな思考で非常に宜しい。正しい戦争の論理であると私は高く評価していますが、あなた個人は自己評価を改めたいと思っているのですか?

 ーー今まで信じ貫いてきたモノを捨ててまで?」

 

 一瞬、空気の色が青ざめたような錯覚を覚えた。

 何かが一瞬にして大きく変わった。変貌した。ドライグと感覚を共有しているからなのか、そう言った変化が俺にも分かる。

 

 ーーだが、その変化が何なのかが解らない。記憶ごとドライグから渡されていたなら解ったかもしれないが、今の俺には、日本で平和に育った男子高校生兵藤一誠にはコレが何なのか理解することが出来なかった。

 

 後でドライグから聞かされて俺は心底からゾっとすることになる。

 

 それはドライグが言うところのーー「固定化されて空間にも干渉し始めた、濃密すぎる純粋な闘気」であり、つまりは「答え次第ではお前を殺す。確実にな」と言う夕麻ちゃんから俺への意思表示だったのだ。

 

 

 

「あなたがどんな理由で戦おうと自由だけれど、敵を殺すのであればせめて相手と正面から向き合い、相手の目を見ながら殺しなさい。一個の生き物として、ひとつの生命を奪う。そのことを理解した上で自覚しながら相手の命を奪いなさい。

 主のために戦い、主の敵を殺すというのなら、主のために自分が敵を殺したいのだと、胸を張りながら敵の首を撥ね飛ばしなさい。

 手加減は相手を殺すつもりで、命を奪い合う覚悟をした上で殺しに来ている敵に対して無礼に当たります。一度でも殺すつもりで拳を向けたのであれば、最期の時まで想いを貫きヴァルハラでの再会を誓い合いながら遠慮容赦なく完膚無きまでにぶち殺してしまいなさい。

 それが『殺す』と言う言葉を、相手に対して使った者が果たすべき最低限度の責任です。

 まさか、それすら考えようともせずに敵を殺してきたのですか? ただ『敵でしかない』存在に対して全否定の意志をぶつけながら?

 もし仮に、そうだとしたならばーー私はあなたを許さない」

 

 俯き悩む俺の眼前に夕麻ちゃんが右掌をゆっくりと掲げ、開ききったその瞬間に、

 

「待ってください、レイナーレ様!」

「ーー!? アーシア!?」

 

 ハッとなって前を見ると俺を庇うようにアーシアが立ちふさがり、夕麻ちゃんの視界から俺を完全に隠してくれていた。

 当然、俺からも彼女たちの顔が見えなくなっているが、それでも交わされる会話の物々しさが空気の重さを十分すぎるほどに物語っていた。

 

「・・・なにか私に用事ですか?アーシア。私としては今更あなた如きに拘らう理由の持ち合わせはないのですけれど」

「・・・!! で、でもどうか聞いてください! イッセーさんは優しい人です!私にとっても優しくしてくれました! ずっと友達がいなかった私にはじめて友達になってくれた人なんです! だからーー」

「はぁー・・・」

 

 盛大にため息を付いて脱力したように肩を落とす夕麻ちゃん。雰囲気だけでも戦う気力と意志が抜けていくのを実感できた。

 彼女はおそらくジト目で俺たちを見つめながら、諭すような口調で言い聞かせるように静かな声で言葉を紡ぎだす。

 

「アーシア、あなたも人間社会の俗世で生きていくことを望んでいるのなら、これだけは覚えておきなさい。

 誰かにとっての優しさは当人と敵対する者にとって、憎悪と憎しみでしかない事を」

「ーー!!」

「人の社会とはそう言うものです。誰かが損をすることで他の誰かが巨万の富を得る。

 自分が預かり知らない会社が損をすることで、自分が雇用されている会社の収益が上がれば素直にうれしいでしょう? だってお給料が上がるんですもの。

 いつもより多くお金がもらえて嬉しくない人間なんて居るはずがありません」

「わ、私は人を信じます! 人間はそんなヒドい人ばかりじゃありません!」

「ヒドい人? 随分と突飛な発想ですねそれは。

 いつもより多くもらったお金で、いつもより美味しい物を家族に食べさせて喜びを感じる人間はあなたにとって、そんなにヒドい人に見えるのですか?」

「!? わ、私は別にそんなつもりじゃ・・・!」

「当たり前です。そんなつもりで言っていたのであれば、誰よりも先に私はあなたを殺しています。無知故の愚かさだから見逃してあげているのです。いい加減そのことを自覚しなさい。今のあなたは見ていて不愉快です」

「・・・・・・(ぎゅっ)」

「そうやって縮こまって引きこもって自分の殻に閉じこもることで、自己を外界から守ってきましたか・・・つくづく救いようのない傲慢な人間ですねあなたも。正直、失望しましたよ。ガッカリです」

「私が・・・傲慢?」

「そうでしょうが? あなたが人を救って回ったのは、あくまで傷を癒すことだけ。

 神から授かった力で人々を癒す光の聖女、アーシア・アルジェント。・・・この肩書きのどこにあなた自身が在るのです? 与えられただけの力を不用意にバラマくだけで、あなたが不断の努力の末に身につけた医療技術で苦しむ人たちを救った訳でもないでしょうに」

「!!!!!!」

「あなたの齎す癒しには、致命的なまでに覚悟が欠けていました。傷さえ癒せばそれでよしと言う、あなた自身の無責任さは其処に起因しています。

 なんの努力もなく、ある日突然与えられた力で、神の御業に等しい奇跡を具象出来る。いいえ、具象“出来てしまった”。

 それがあなたが堕落した最大の要因ですよアーシア・アルジェント。あなたは力を授かったときに道を誤った。その結果がかつての迫害です」

「私が堕落した・・・? そ、そんなはずありません! 私は毎日お祈りを欠かさず、神父様の言いつけを守って清く正しい生活を送っていました! どこも堕落してなんていません!」

「では、どうして癒しの力で苦しむ人々を無思慮に救いまくることが正しいと思いこめたのです? それは主キリストでさえ抑制したタブーのはずですよ」

「そ、それは・・・」

「理由は単純明快。彼は天上に在す我らが父君から奇跡のみならず英知も授かっていたから。そしてあなたは奇跡だけしか与えられなかったから。

 それが救世主たるメシアと、ミカエルにとって都合の良い教会の求心力回復につかうためだけの全自動回復マシーンとの違いです。

 人々を癒すことで孤独な自分を慰めてほしかっただけの小娘と、人類救済を志した歴史上の偉人との隔絶すぎる差の開きです。

 ーー作られた聖女が、いつまで聖女役を演じていれば気が済むのですか? いい加減自分の足で立って歩き出しなさい。人を救いたいし守りたいと言うなら、自分のエゴで相手の拒絶する意思を押し潰す程度の事はしてみせなさい」

 

 ふと夕麻ちゃんの言葉に違和感を感じた。

 それはアーシアも同じだったらしく、背中からも動揺が伝わってくる。

 戸惑ったようにアーシアは、夕麻ちゃんへと疑問の声を投げかける。

 

「レイナーレ・・・様?」

「いいですか、アーシア・アルジェント。これはかつてあなたを殺した人間として、せめてもの借りです。借りは返します。一度だけしか言いませんから、よく聞いておくのですよ?

 愛情も憎悪も憎しみも、突き詰めていけば最終的に行き着くところは殺意です。これは絶対の法則です。例外はありません。愛が全てを解決するなんて矛盾は、未来永劫成立する日は訪れないと知りなさい。

 ーーそう言う風に割り切った方が、少しは気が楽になるでしょうから」

「・・・・・・(こくん)」

「愛する者を殺されて恨まないのは嘘です。愛する家族を殺しにくる蛮族を、共に育った愛すべき隣人と混同するのは友情に対する冒涜です。信仰を盾に自らの犯した罪から目を背けるのは、この世で一番邪悪な行為です。

 背負いなさい、そして背負い続けなさい。人生とは重き荷を背負うて遠き道を行くが如しです。

 あなたが自分の過去を悔やみ、過去を否定したいというのであれば戦いなさい。戦って、倒しなさい。敵は過去を構成している全て。

 自分を聖女に祭り上げながら掌を返すように魔女呼ばわりしてきた群衆も、自分が破滅する要因となった木っ端悪魔も、寂しさ故に奇跡にすがり人を癒す機械となってでも人々に自分を見てほしいと願ってしまった己自身の弱さも含め、全てです。

 全てと戦い、拳を交わせ、殴り合った後に改めて相手に尋ねてみなさい。

「自分はこれだけお前たちに怒りを覚えてたんだ、お前たちは私の怒りを知ってどう思ったか?」とね」

「・・・・・・・・・はい」

「言いたいことはそれだけです。イッセー君には後で謝っておいてください。「適当な口実に利用させてもらって申し訳なかった」と」

「え? もしかしてさっきのあれって・・・ぜんぶ演技だったんですか!?」

「本気でしたよ? 私はあらゆる物事に全力で取り組んでいますからね。手加減を演じるなんて器用なことは出来ません。彼が私の期待をアレ以上下回っていた場合には問答無用で殺していました。そうならなかったのは不幸中の幸いです」

「・・・・・・・・・(サーッ(血の気が引いてく音))

「ですが今のであなた方の問題点は把握できました。次までに修行プランを考えておくとしましょう。イッセー君にはとりあえず一度、地獄を味あわせた方がいいみたいですけどね。今後の課題と言ったところです」

「あは、あはははは・・・・・・」

「精神的にだいぶ痛めつけておきましたから、癒しの力で記憶ごと消せるでしょう。早く治してあげなさい。精神崩壊して別の時空へ旅立ってしまうより前に」

「きゃーっ!? イッセーさんが忘れてる間に真っ白な灰になってますーっ!?」

「では、後は任せましたよアーシア・アルジェント。

 あなたも好きな男を物にしたいのなら、灰になるまで燃やし尽くせるほど愛の炎を燃え上がらせてごらんなさい。相手に好きな相手が居たって関係ないのです。

 今の時代、愛とは略奪ですから」

「レイナーレ様・・・!! ーーって、いまはそれどころじゃなーい!

 イッセーさん!イッセーさん!イッセーさーーーーん!?」

「それでは、おさらばですアーシア! また明日学校で!」

「あ、はい。いろいろと教えていただきありがとう御座いまーーうえええっ!?

 明日!?学校!? 今日の転校って、私に今のを聞かせるためのお芝居じゃなかったんですか!?」

「??? なにを言っているのですかあなたは?

 一日だけの転校生なんて、現実に存在できるわけがないでしょう?」

「そうですけども!そうなんですけども!そう言う意味じゃなくてですね!」

「??? ああ、いけない! 閉店タイムセールの時間だわ! 急いで帰らなくちゃワゴンに間に合わない! セレニア様の御夕飯に添えるヒジキとレバーの大安売りが!

 愛とは早い物勝ちです! 出遅れれば主導権を奪われ、勝利からは遠のくばかり! 兵は拙速を尊ぶ! 先手必勝! 愛とは手段を選ばず自分の物に出来さえすればそれで良い!」

「さっきと言ってることが微妙に違ーーーっう!!!」

「その愛、置いてけーーっ!!!!」


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