堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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前回色々あって色々悩み、今日一日好きに過ごした結果思い付いた回です。
あんまり難しく考えずに書いたせいで結構矛盾してると思いますが、ご指摘を受けたらその都度直させて頂く方式で行かせてもらいますね。まだ体調と精神が完全には安定していないので・・・。


14話「冥界の終わりが始まり、帝国による終わりが始まる」

混沌帝国の帝都イゼルローン。

 

「ーー以上がこの度グレモリー眷属とシトリー眷属らによって行われた、レーディングゲームの顛末であります」

「ご苦労でした。下がって下さい」

「はっ。ジーク・セレニア!」

 

 余計な一言と余計な片腕立てをして見せてから退室していく情報参謀さん。

 

 今さっきまで映像で見ていたレーディングゲームをはじめとして、冥界での滞在中には幾つかの事件が起きました。

 それらには私たちも当然のように巻き込まれたわけですが、だからと言って全てにという訳では無論ありません。

 

 何しろ私たちは本来この世界にいないはずの存在+変質(もしくは反転)してしまったモノたちの集まり。敵組織が何であれ、私たちの存在自体が想定外のイレギュラーでありアンノウンです。

 

 それぞれの勢力に属していた裏切り者によって構成されているカオス・ブリゲードは成り立ち故の性質上、どうしても内側からの攪乱と外からの挟撃に固執しがちです。

 そのため私たちが戦いの主役となる様な状況は、こちらから仕掛けでもしない限りはないと考えて良いでしょう。

 

「封建貴族制を敷いている冥界において情報は秘匿が基本。トップの不在を長らく秘してきた天界は亡くなった神様が絶対という神権政治。行動的なのに放任主義者で技術発展ばかりを重視し、味方幹部を犠牲の羊に捧げることを躊躇わないアザ・トースさん率いる堕天使勢力・・・どれひとつ取っても、情報共有に理解があるとは思えません。

 それらを見限って利己的な繋がりを経たカオス・ブリゲードは自分たちが相対している敵の知らない情報だけを味方から聞き出して、利用しさえすれば優位に立ててしまう。相互の連絡網が途切れ途切れな状態で開戦なんて狂気の沙汰ですよ。

 ・・・・・・半端な同盟なんて互いに足を引っ張り合うだけなのに、どうしてそんな基本的な失敗を犯すんでしょうかね? 自称上位種族の皆様方は・・・」

「思い上がったバカ集団だからではありませんか?」

「・・・言い返すのが難しい状況ですね・・・」

 

 と言うか、私が言い返して挙げる理由も特にはないんですけどね・・・。

 介入者でしかない居候の身としては気になっちゃうんですよね、やっぱり・・・。

 

「ですが今回の場合、弁護の余地ぐらいあるのでは?

 特に匙さんについては、流石の一言でしたよ?」

 

 今回のレーディングゲームに置いて特筆すべき働きを示したのは、意外と言うべきなのか、あるいは“やはり”もしくは“当然”、私的には“ようやく”彼の出番が回ってきたと表現したい匙元士郎さん。

 生徒会書記であり、兵藤さんと同じ転生悪魔でもある巨乳好きな男子高校生さんです。

 

 正直なところ彼と私の間に面識は少なく、誰かと一緒にいるときに何度か顔を合わせて僅かな時間ダベっただけ。それがかれと私の繋がりの全てと言っても過言ではないのですが、一方で彼ほど強く印象づけられた原作登場の男性キャラは他にいなかったのも事実なのです。

 

「ようやくの活躍でしたね。むしろ遅すぎたと私などは感じていますが、この件に関して皆さんのご意見は?」

 

 私が問うとゼノヴィアさんが首肯して、紫藤さんは小首を傾げてらっしゃいます。

 

 その紫藤さんが挙手して質問されました。

 

「はーい、セレニア様に質問でーす。“遅すぎた”ってどういう意味なんですかー?

 ハッキリ言ってめちゃくちゃ弱そうにしか見えないカスなんですけどもー?」

 

 正直すぎる評価に、私は内心で苦笑を浮かべつつも(表面上は浮かべようとしても浮かばなかったので)どう説明したものかと頭を悩ませます。

 そこで助け船を出してくれたのは意外にもゼノヴィアさん。帝国側は帝国側で意外さに満ちた展開になってきましたね。今後の流れが楽しみですよ。

 

「奴と兵藤一誠は仲良くツルむ悪友同士、そういう風にしか周囲は見ないだろうし、奴らの大半は同じ認識を共有している。

 が、実のところ奴と兵藤の間には海より深く山よりも高い壁がある。それがなにか、分かるかイリナ?」

「あれじゃないの? ほら、ウェルシュなんちゃらとか言う蜥蜴を宿してるのがどうとか言うあれ」

「ウェルシュドラゴンか? あれはお前、単なる蜥蜴の亡霊もどきだ。他者に取り付かなければ現世に介入することはおろか、声すら誰にも聞こえない低級霊だよ。怨霊よりも弱々しい、ささやかな概念に過ぎないさ。論ずるに足る存在じゃあない。

 それになにより着目すべきは戦闘力ではなく、全く別物に関してのことだ」

「?????」

 

 頭に無数の?マークを浮かべる紫藤さん。

 彼女には私からもささやかな助言とヒントを送って差し上げましょう。

 

「彼と兵藤さんだけを対象にする必要はありませんよ紫藤さん。人間関係ですからね。

 当人たち自身よりも、その周囲にいる人たちの方が影響は当然のように大きくなります。特に彼ら二人は、想い人との関係性が大きく異なるようですし・・・」

「・・・・・・。????」

 

 一応は考えてみたけど、やっぱり分からない。そう言いたげな顔の紫藤さんにゼノヴィアさんが理解し合った親友らしく、簡潔なたとえ話でまとめさせます。

 

「巨乳で生真面目な堅物委員長と、お色気担当の巨乳キャラ。おっぱい好きが惚れるとして、どっちの方がポロリが多いと思う?」

「断然、後者ね。・・・ああ、なるほど、そういう事。理解したわ」

 

 理解できたんですか、今ので・・・。いやまぁ、大変分かり易かったですけどね?

 

「つまりは匙君とイッセー君は同じ学年で同期でもある転生悪魔だけど、その立場と置かれている環境は決して平等ではないと?」

「完全なる平等など、この宇宙に存在しない。全ては不平等であり、理不尽にこそ宇宙の摂理は支配されている。

 ・・・が、だからこそ強大な力に抗おうとする強い意志に、世界は祝福と試練を与えたがるのだ」

 

 一息付いてから続けて、

 

「彼ら自身に影響を与えている二人の人物、ソーナ・シトリーとリアス・グレモリー。この二人は一見すると似たような立場に見えるが、その内実は大きく異なる。

 片や冥界の名門シトリー家のご令嬢で次期当主でもある上級悪魔、片や魔王を輩出した名門グレモリー家の当主にして現魔王の妹君。

 『次期』の枕詞は当人たちにとってはともかく、まわりの古株どもにしてみたらドングリの背比べだろうから気にしなくて良い。

 重要なのは彼女たち自身の持つ『現在』の性質の方だろうな」

 

「ソーナ・シトリーの夢は『冥界に下級悪魔でも通える学校を作る』だ。

 実現するには冥界の住人全員に経済的、物質的、時間的余裕を持たせることが大前提となる以上、レーディングゲームで勝利して設立許可を得たぐらいでは何も成せはしないだろうが、少なくとも彼女は自ら動いて実行した。

 そのための明確なビジョンを示して下の者たちを納得させもした。

 十分に事業計画を成功に導けるだけの将来性を、彼女は示して見せたと言えるだろう」

 

「では翻ってリアス・グレモリーは何をした? 何もしていないし、何かをしようとさえしていない。

 ただただ男に甘えて助けてもらう、それだけしか出来なかったくせに、未だ『名門グレモリー家の当主』という名には拘り続けている。

 しかも、冥界大貴族である当主たち自身が決めた結婚話をギリギリでドタキャンして恋人と一緒に愛の逃避行・・・ハッ! とんだ茶番劇だな。

 お姫様をさらった王子様がもっと美形だったら、熱狂の度会いは更に上がりそうだ。純粋すぎる国民性だよ、まったく。

 支配する側に立つものとして羨ましい限りではあるが・・・さすがに童話と同じレベルで政治を判断してもらっては困る」

「まぁ、昔っから女の子はそういう話が大好物だしねぇ~。

 親の言いつけで無理やり結婚させられそうになったところを、颯爽と現れた白馬にまたがる王子様に助け出されて、新しい国を作るために二人して旅立つの・・・・・。

 ――そういえば、何人くらい子供産めば国って作れるものなのかしら?

 そもそも諸外国から承認もらわないと、国って樹立できないんじゃなかったっけ?」

「国際法上だとそうなっていたはずだが・・・・・・中世物語だしなぁ。

 期間が長すぎる上に国名が明言されていない。そのうえ出てくるお城が時代区分超越してたり、服飾史的に有り得ない発展遂げてたりとハチャメチャすぎる世界観だ。あまり厳密に考えすぎる必要性はないと思うぞ?

 私など、シンデレラはライダーベルト使って変身したんだと解釈している程だしな」

「いや、それはさすがに極端すぎ。せめて魔女のお婆さんがマクゴナガル先生だったんだと思っときなさい」

 

 ・・・はい!話ズレてる!ズレてきてますからね思いっきし! お願いだから話戻して!

 グレモリーさんの悪口言ってもいいから、話だけでも戻して下さい!

 

「話が逸れたが、要は彼女たち二人の明確な差が恋人たちの立ち位置にも影響しているという事だ。

 おそらくだがリアス・グレモリーは自分で言うほど名門グレモリー家を理解できていない。いや、理解しようとしたことすら無いのではないか? 私にはどうにも、そう思えて仕方がない。

 先祖代々続いてきた家名を尊べと、子供の頃から教えられ続けたそれらの教えを鵜呑みにし、自分では禄に家を継ぐことの意味すら考えようともせずに生きてきた。そんな彼女が高校生になって身体が十代半ばを過ぎ、第二次性徴期に入る。

 その結果、異性の身体に興味を持つようになり、自分のことが異常に気になりだし、社会のルールにも無条件に反発したくなる。こういう輩は往々にして、ロクデナシではすっぱな反社会的な男に引っかかりやすい」

「うげ・・・それってさぁ、単なる反抗期って奴なんじゃあ・・・」

「そのものズバリ反抗期だ。

 思い人であるリアス・グレモリーが反抗期となり、伴侶には現実の未来で夫にしたい頼れる男性よりも、漠然として曖昧模糊な形のない偶像に見合った中身を容れられる男を求める様になる。

 曖昧で夢見がちな妄想に、赤龍帝という名の伝説にも記されたドラゴンはピッタリ当てはまると思わないか?」

「「う、うわー・・・・・・」」

 

 思わず悲鳴にも似た呻き声を上げる紫藤さんと私。

 確かにグレモリーさんて時々精神不安定になるなーとは前から思っていましてけれども、だがしかしです。しかしですよ?

 いったい誰がどうして厨二バトルのメインヒロインに第二次性徴期なんて設定を求めるんですか!? どこの誰ですか! そんなキャラ設定考えついたのは!!

 (一応身体だけは)年頃の乙女的に、私は断固として抗議したいです!断固!

 

「一方でソーナ・シトリーは現実的に自分の夢を見据えて、実現の為にはなにが必要で誰が欲しいのか具体的なビジョンを提示できる、半ば少女から大人になりはじめている女性だ。

 共に歩もうと望むからには、ただ強いだけでは全然足りない。それでは彼女を守れはしても、守るだけになってしまう。力でしか好きな人の助けになれないと言うのは存外、精神的には利くものなのだ。思わず自己嫌悪に陥ってしまうほどにな」

 

「それでも彼らには悪魔という種族特性がある。強さだけが取り柄のダメ男が、将来性豊かな賢い女と共に歩める、弱肉強食という名のご都合主義的悪魔社会がある」

 

「だから彼には選べたはずなんだ。

 教師となって恋人の夢を叶える道と、戦士となって彼女の夢を守る道。この二つの内どちらだろうとも、彼が彼女と離れることは恐らくない。才能の面から言っても、どちらかを選んだ方が絶対にいい」

 

「にも関わらず、彼は選ぶことを拒絶した。双方を選んで器用貧乏になる危険性をも乗り越えて見せた。それも赤龍帝という最強の素質的カードを間近に見ながら、比べられることを覚悟の上でだ。

 これほどの覚悟をした上で事に挑んでいるのが彼だからな。生きている限りは必ずどこかで活躍せざるをえないだろうと確信していたのさ。

 長くなってしまったが、つまりはそう意味での言葉だよ」

「ほえぇ~」

 

 感心したと顔面筋肉筋すべてを使って表現している紫藤さん。

 私もゼノヴィアさんに全く同感で、ぶっちゃけ彼以外に注目すべき男性キャラって居ないと思ってたりします。

 

「付け加えさせていただくならば、彼は悪魔となったことで人間以上の身体能力を手に入れましたが、周りが異常すぎる化け物ばかりだからなのか奢りを見せずに人間らしさを堅持しています。「自分は所詮、人間から悪魔になっただけの存在だ」みたいな感じでね。

 そのため戦い方が非常に人間的であり、とても上手に立ち回っている。自分より強い相手に正面切って力比べを挑めば必ず負けると言うことを理解できているようです。

 工夫と応用、人間が持つ最強の武器と悪魔特性で得た特殊な能力。

 これらが無理なく共存できてる彼は、現時点においては世界で唯一完成された悪魔と人間との完全なるハイブリッドです。

 もちろん、先ほどゼノヴィアさんが言っていた器用貧乏に陥りやすいと言う構造的な欠陥は否定しようがありませんが、少なくとも現在のところは劣等感が良い方向に作用して間違った道には進めないようでもあります。

 今後において最も期待し注目すべき逸材だと、私は思っておりますよ?」

 

 紫藤さんに、作れる範囲では最大限努力して笑顔を向けると「ふ~ん・・・?」と不思議そうな顔して反応が返ってきました。いつもの事ながら好きな人たちに思いが伝わらないって、ちょっとだけ寂しいです・・・。

 

 トントン・・・ガチャ。

 

「ご無礼を、陛下。先日の一件で悪神ロキと戦い、消耗した身体を癒すために療養中だったグレモリー眷属が、新たなレーディングゲームの参加要請を受けて再び冥界に帰陣するとの情報が軍務省に入りました。詳細はこちらに」

 

 重大情報が入りそうだからと軍務省に詰めていたため、この場にいられなかった唯一の帝国軍最高幹部の一人、天野夕麻さんが紙の書類を私に手渡してくれました。

 

 読み進めていく私の指が、不自然に強ばっていくのを自覚させられます。

 

「確か、レーディングゲーム本戦は悪神ロキの介入によって無期限延期が決定されたはずでは?」

「御意。ですが、魔王政府重臣たちによる強い要望があり、側近たちからの提言を受けて魔王陛下も了承のサインを記したとの事であります」

「・・・・・・名目は?」

「永らく続いた三大勢力の戦いが終わって平和を迎えた冥界の繁栄と、今後の古き良き支配体制の浄化を象徴するために」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 思わず唖然としてしまいます。

 これはもう・・・末期だ。世紀末という言葉さえ生温い、人類国家でさえ迎えたことのない最低最悪の末期状態ですよ・・・。

 

「陛下、それは違います。冥界は末期状態ではありません。

 とっくの昔に『詰んでいます』。今になって終わりが始まっただけのことです」

 

 天野さんの言葉が胸に響きます。

 溜息を堪えつつ、私は必要最小限の情報を確認しました。

 

「彼女らが最初に当たる対戦相手は?」

 

「ディオドラ・アスタロト。

 かつてアーシア・アルジェントという名の空気読めない田舎娘が助けた悪魔であり、彼女を破滅させた苦労知らずのお坊ちゃんでもありーーゴミです。

 特戦部隊を出動させ、宇宙のゴミを塵ひとつ残さず完全消滅させてしまうことを意見具申させていただきます。

 陛下、今こそ冥界降下作戦発動のご決断を」

 

つづく




追記
ゼノヴィアの台詞「シンデレラはドラゴンボール使って変身・・・」を「ライダーベルト使って変身・・・」に変えときました。理由はドラゴンボールだと時間制限ないからです。

カラータイマーも考えはしたのですが、変身道具じゃないですからねぇ。

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