堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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前話においてイリナではなくセレニアが一誠たちの元に出向いたらを書いたIF回。
二次創作にIF回もなんもあったもんじゃないですが、こう言う可能性もあったと言う話ですね。

徹底した原作アンチ回ですので耐性が無い方はご遠慮ください。


12if話「もしも12話がギャグ展開ではなくシリアス展開だった場合の回」

「・・・・・・姉さま。私はそちらへ行きます。だから、二人は見逃してください」

「何を言っているの!? 小猫! あなたは私の下僕で眷属なのよ! 勝手は許さないわ!」

 

 部長がお姉さんの元へ行こうとする小猫ちゃんを抱きしめる!

 しかし、小猫ちゃんは首を横に振る。

 

「・・・ダメです。姉さまの力は私が一番よく知っています。姉さまの力は最上級悪魔に匹敵するもの。部長とイッセー先輩では・・・」

「いえ、それでも絶対にあなたをあちら側に渡すわけにはいかないわ!

 あんなに泣いてた小猫を目の前の猫又は助けようともしなかった!」

 

 部長の激昂にお姉さんは笑んで応えようとする。

 

 

 

 

 ーーその瞬間、空気が変わり、世界が反転した。

 

 

 

 

 

「ーーいい加減にしてくださいグレモリーさん。実力も能力も責任すらも伴っていない、視野狭窄で苦労知らずのお嬢様が一端の口を聞いているのを見るのは不愉快です。

 保護者としての権利を主張するならば、せめて飼い猫と真っ正面から向き合う程度のことはしてからにして下さい」

 

 冷気と同様の冷たさを持った絶対零度の声を発していたのは異住・セレニア・ショート。

 悪魔・天使・堕天使、どの勢力にも属さずに自由意志でカオスブリゲードとの戦いに介入してくる人間の女の子。

 

 でもなぜ、今この場にこいつが・・・?

 小猫ちゃんの抱えている事情に一切関与してない彼女がこの場に居る理由が分からず、俺は軽く混乱した。

 

 そんな俺を意に介すこともなく、セレニアは俺に一瞥も寄越さず横を通り過ぎると部長の前に立ち、身長差で見上げざるを得ない部長の顔を真っ直ぐ見つめながら言葉を紡ぎ出す。

 

 言刃で部長を口撃し、情け容赦なく切り刻んでいく。

 

「グレモリーさん。なぜ塔城さん姉妹の問題に、部外者で赤の他人の貴女が口を差し挟むのですか? どう考えても貴女には彼女の抱える問題に関して何かの権利を主張する資格は無いように、私には思われますが」

「なっ・・・!? 私は小猫の主で、小猫は私の眷属なのよ! それなのにどうして私には小猫の抱えている問題に介入する権利と資格がないって言うのよ!」

「まず第一に。塔城さんの主は確かに貴女ですが、貴女自身が兄である魔王陛下の庇護下にあり、独自の判断で動かせる勢力と権限がきわめて限定されているからです。

 駒王町という貴女の領地以外において、貴女の権力と権限は著しく弱体化する。貴女個人の力と勢力で彼女を外敵から守り切れるとは到底思えない。

 国民から税を搾り取りながら、国民を守る力のない貴族など貴族ではない。

 故に、私は貴女に塔城さんの上に立つ支配者としての資格はないものと断定させていただきます」

「・・・・・・!!」

「第二に。そもそも貴女のお兄さんが権限をフルに活用し、名門貴族と癒着している犯罪組織を根こそぎ滅ぼしてしまっていれば彼女たちが離ればなれになる事もなかったはずです。

 貴女の兄上、冥界の国家主権者であり国民の命と安全、平和を守るためならば自らの身を投げ出さなければいけない尊き立場の現魔王陛下が職責を果たすことなく、半端な宥和政策と名門たちに配慮しすぎて自領の領民たちしか守ろうとせず、他の地域を野放しで野放図にしていた結果、彼女たちのような悲劇が無数に生まれる結果をもたらした。

 グレモリー家の誇りとやらを口にするのであれば、まずは地位に伴う責任を果たしてからにしていただきましょう。古いだけが取り柄で、カビの生えた御大層な名前を誇る張りぼて名家など、国家と国民にとって悪性腫瘍でしかないのですから」

「ーーーっ!!!!」

「第三に。行かせないと言いながら、貴女いったいこの場で何が出来ると言うんです? 負けることしかできないでしょう?

 実力の伴わない大言壮語は空しいだけです。見苦しいので止めときなさい。ハッキリ言いましょう。無様で醜いです」

「!!!!!!!!」

 

 的確に的確に、冷静に冷静にセレニアは部長の精神を逆撫でし、切り刻む手を緩めようとはしない。どこまでも情け容赦なく徹底的に切り刻み続けていく。

 

 ーー見ると、小猫ちゃんのお姉さん黒歌さんまでもがリラックスした姿勢で観覧に徹して、楽しみながら見物している。

 

「にゃんにゃん♪ これは見物ねぇ~。苦労知らずで世間知らずな上級悪魔さまが、人間に追いつめられてるにゃん♪

 い・い・気・味★ あは♪」

 

 部長が苦しむ様を見ながら愉悦の笑みを浮かべる黒歌さんに、俺の怒りはより燃え上がる。絶対に、一発ぶっ飛ばしてやる! 小猫ちゃんの分だけじゃなくて部長の分も含めて、一人一発ずつだ!

 

「へぇ、それは凄い。

 ・・・で? なんで決意したにも関わらず見ているだけなのかなイッセー君?」

「!? ゆ、夕麻ちゃん!? どうしてここに・・・?」

「勇気が欠如しているのを感じたから来てみたんだけど・・・案の定ね。

 イッセー君。私は今のあなたからは何も感じない。何も感じられないのよ。

 それこそあなたの価値が“強いだけ”になってしまっている、今のあなたには1帝国マルクの価値すら感じることが出来ない。

 強いだけが取り柄のドラゴンはすっこんでなさい。邪魔なだけだから」

「・・・!? な、なんだとーー!」

 

 確かに俺は未だにバランスブレイカーには至れてないけれど、それでもそこいらの悪魔や天使、堕天使なんかには負けたりしない! その強さと自信が、今の俺にはある!

 そうさ! 俺は誇り高き上級悪魔リアス・グレモリーの眷属、ポーンの悪魔。兵藤一誠だ――

 

「ーーただ選ばれただけ、たまたま特別な才能を生まれ持っていただけ、偶然ブーステッド・ギアを宿していただけの惰弱な小僧が吠えるなよ。

 自分の弱さを大声で吹聴して回っているみたいで見苦しいだけですよ?」

「な・・・にぃ・・・!?」

「生まれつきの強者が強くあるのは当然、生まれついた特別な才能を開花させて戦うのもまた当然。そこには何らの奇跡も起きず、ただただ定番通りに順当なストーリー展開で当たり前のように勝つ。退屈きわまりない平凡なヒーロー物語だわ。

 強者が強者に立ち向かう物語なんて、ただの予定調和。意外性も勇気も一切見受けられない。弱者が強者に打ち勝つため、試練と努力を積み重ねていく過程にこそ価値がある。

 生まれ持った弱さに耐えきれず、悪魔という強大で哀れな化け物に成り果てる道を選んだイッセー君には、もう一生わからなくなった話だよ」

「・・・・・・!!!!」

 

 夕麻ちゃんの目つきが変わり危険な稚気を宿した瞬間、俺は本能的に理解していた。

 

 今この場において自分は弱者なのだと。

 いや、俺だけじゃない。

 部長も小猫ちゃんも黒歌さんや美候、タンニーンのオッサンまでもを含む全ての存在が弱者なんだと認識させられたのだ。

 おそらくはこの場にいる二人の、絶対的強者によって。

 

 その強者が一人、夕麻ちゃんと並ぶもう一人の強者が部長に対して向けていた言刃の刃を今度は小猫ちゃんにも向けるのが視界に映る。

 

「貴女も貴女だ塔城小猫さん。周りから突き刺さってくる悪意の刃が怖いから、痛いからと飼い主の陰に隠れてやり過ごし、姉が今まで苦労して来ていない、自分がこんなにヒドい目にあっているのにお姉ちゃんだけ逃げてズルい。

 そんな被害者意識だけで相手を見定め、決めつけて、一方的に相手は悪だ飼い主は善だ自分を守ってくれるリアス・グレモリーは優しい人だ、自分を守ってくれない人たちはみんな冷たい人たちだと心を閉ざして自分の中へと逃げ込み、他者を否定し、自分を受け入れてくれる人たちだけを受け入れる。

 そんな甘えた気持ちのままで、力だけを向上し、強くなった嬉しいなと、本気でそう思っていたのですか? 貴女という脆弱な飼い猫は」

「・・・・・・!!」

 

 身長ではややセレニアを上回っている小猫ちゃんだけど、今の彼女は雨露に塗れて震える一匹の子猫だ。守ってやらなきゃいけない。彼女みたいな弱い立場の存在は、誰かが守ってやらなきゃいけないんだ!

 

「ほう? で、あなたが守ると言うつもりですかイッセー君?

 たかだか猿と上級悪魔のコンビ如きに遅れを取る、今のあなたが?

 己が弱さを認めた割に、弱い自分になにが出来るのか考えたこともないあなたが?

 ドライグと言う伝説のドラゴンから付与された力がなければ一兵卒同然の強さしか持たない、ただの日本の男子高校生が悪魔になっただけのあなたが?

 なんらかの覚悟も済ませず、自分一人ではなんの試練も越えていない、与えられた力に自惚れて冥界に来るまで訓練すらしてこなかったイッセー君に誰が守れるって言うのかな?」

「そ、それはーー!!」

「守れないよ。あなたには誰の事も守れない。

 だってあなたには、相手を正面から見る勇気が無いんだもの。

 相手と向き合い、弱さと醜さ、汚い部分も含めて全部が相手を構成している一要素だと割り切る度胸を持ち合わせていない。

 見たくない物は否定する。見たい物は絶賛する。

 劣っているなら他にも素敵な部分があると、弱いのならば自分に頼れと、一人がイヤなら側にいるからと、ただただ与えて依存させるだけで自立を促そうとしていない。言い訳を与えて逃げ場を用意して逃げ込んできたら精一杯甘やかして、相手をひたすら弱くしていく。それじゃあ誰のことも守れてない。守ってもらえたと錯覚させているだけ。偽りの桃源郷へ逃げ込ませるだけの、くだらないやり方。

 このやり方で本当に救えて守れる物はたったの二つ。

 イッセー君の良心と正義感、ただそれだけよ」

「ーー!!!!!!」

 

 震える拳を握りしめながら俺は相手の顔を睨みつけ、

 ーーその狂気じみた覚悟を決めた不敵な笑顔に、視線を逸らすことしかできなかったーー。

 

 

「ほらほら白音~、早くこっちに来なさいよ~。あなたの飼い主さんはとっくに白旗上げる寸前の状態よ~?

 そんな血みたいに紅い髪のお姉さんより私の方が白音の力を理解してあげられるわよ?」

「・・・イヤ・・・あんな力なんていらない・・・人を不幸にする力なんていらない・・・・・・」

「バカですか貴女は? 力なんて基本、壊す方面にしか使えないんですから人を不幸にしか出来ませんよ。

 誰かを守るために力を振るって敵を倒す。誰かの夢を叶えるためのルークとして敵を倒す。ほらね? 敵が不幸になっている。貴女の力が不幸を作って量産している。

 所詮、戦うための力で人助けなんて虚言です。誰かと戦い、勝利することで誰かを守り、何かを成し遂げたいというのであれば、必然的にそれは死者で舗装された道路となる。王者の王道も、覇者の覇道も素材は同じ。人の死体です。

 栄光も名声も地位も名誉もすべて、名も無き無数の兵士たちの亡骸を山と積み上げた頂に建てられる物だ。そこに一切の例外もありません。

 死は誰の死でも、どの種族の死であろうとも死です。死以外の何者にも成り得ない。

 誰かのために、自分のために戦う戦士は例外なく死を築く者だ。死を築く以外に出来ることなど一つもない」

「・・・・・・!!!!!!」

 

 心が壊れてしまったんじゃないかと思えるほどに、真っ青な顔してイヤイヤをする小猫ちゃん。

 もう、我慢できそうにない・・・。

 

「黒歌・・・。力に溺れたあなたはこの子に一生消えない心の傷を残したわ。あなたが主を殺して去ったあと、この子は地獄を見た。私が出会ったとき、この子に感情なんてものはなかったわ。小猫にとって唯一の肉親であったあなたに裏切られ、頼る先を無くし、他の悪魔に蔑まれ、罵られ、処分までされかけて・・・。

 この子は辛いものをたくさん見てきたわ。だから、私はたくさん楽しいものを見せてあげるの!」

「貴女の食べた栄養分は胸に集中するばかりで頭には行き渡らないのですか?

 まったく嘆かわしい。これが仮にも駒王町を支配している管理人の実態かと思うと泣けてきますね。お粗末きわまりない。

 クリームの詰まった頭蓋骨も中身は軽そうで羨ましいですね、リアス・ブタゴリー」

「なっーー!?

 ぶ、豚ですって!? よりにもよって私を、このリアス・グレモリーを指して豚だなんて非礼を許すはずがーー!」

「豚のように飼い慣らされ、肥え太ったお嬢様は豚で十分です。

 忘れたんですか?

 黒歌さんの力は急速に大きくなり、隠れていた才能が転生悪魔になったことで一気にあふれ出たのだと言う公式事実を。

 そして姉妹猫はもともと仲の良い、いつも行動を共にする、親を亡くした孤児姉妹だったのだという事実を」

「・・・??

 それがいったいなんだと言うのよ?」

「分からないのですか? 簡単な話ですよ。

 黒歌さんもまた、今の塔城さん同様に力をコントロールしきれてはいなかった。ただそれだけです」

「「「!!??」」」

「少し考えれば小学生でも分かる問題ですよ?

 まさか貴女、今まで仲睦まじく暮らしていた姉妹が力を得た途端に豹変し、残忍で冷酷な殺人鬼になってしまったのだと本気で思ってでもいたのですか?

 だとしたら何故、貴女の眷属兵藤一誠さんは豹変してはいないのか?

 力を得れば変わるというのであれば、元は人間で平凡な男子高校生だった彼の方がそうなる素養は高かったはずなのに」

「それは・・・」

「貴女は基本的に身内に甘いと言われていますが、私はそうは思っていません。

 貴女は自分に甘いのです。甘すぎるのです。自分の思い描いた理想を相手に重ね合わせて満足し、そうでなくなるのを異常なまでに嫌悪する。

 思い描いていた理想の世界が失われるのが怖いだけの、平凡でくだらない、幼稚で稚拙なアダルト・チルドレンだ。心が子供のまま体だけが成長した、才能が豊かなだけの出来損ないに過ぎません。

 皆さんが優しい良い子ちゃん揃いなので言ってないみたいですし、折角なので私が言って上げましょう。

 グレモリーさん、貴女はいつまで親の七光りで居続けるおつもりなのですか?」

「!!!!!!!!!!」

「やめろぉぉぉぉっ!!」

 

 遂に我慢の限界を突破した俺は夕麻ちゃんを突き飛ばし、セレニアに駆け寄り、胸倉をつかんで持ち上げると拳を握って彼女を睨みつける。

 

「それ以上言うんじゃねぇ冷血野郎! てめぇなんかに部長の何が分かる! 知ったようなことほざいてると、この拳でおまえをーー!」

「どうするのですか?」

「・・・・・・え?」

 

 片手で掴み上げられて宙に浮かぶセレニア。

 それでも絶対零度の冷静さには、刃こぼれ一つ生じていない。

 

「その拳でどうするのです? 殴りますか? 私は別に構いませんよ。どうぞお好きに。

 言葉で殴っておいて拳で殴り返されたくないなどと言う理屈は成立しませんから。

 私は自分が屑だと自覚してはいても、自分のやったことと言ったことには責任を持つ屑でいたいと常に心がけて生きていますので」

「な、え、あ・・・・・・」

「どうしました? 殴らないのですか? あなたはグレモリーさんの眷属で、その事に誇りを抱いていたのでしょう?

 ならば是非とも主の仇を討たなければ。復讐戦を企図しなくては。自分が忠誠を尽くす対象と、それ以外の赤の他人とは明確に区別しなくては。

 それが出来ずに誰のことも傷つけたくないなどと寝言をほざいて自己正当化するようでは、あなたの忠誠心などその程度に過ぎないと言うことです」

「ーーーっ!!!!」

「誰かを選んで愛したならば、その人を傷つける相手を憎まなければ。

 愛する人を守るため、愛する人を傷つけるすべてを敵に回して戦わなければ。

 愛する人を傷つけた敵を許すと言うことは、愛する人と愛する人を傷つけた敵はあなたにとって平等の価値を持つ、同じくらいに愛する存在と言うことになってしまう。愛が偽物になってしまう。

 失うものなど何もない愛など、愛ではない。仮に愛だと言うならば、それは自己愛という名で呼ばれる歪んだ愛情だ。他者ではなく、他者を愛する自分を愛しているだけの欺瞞に過ぎない。

 自分が自分の醜さと向き合わずして、いったい誰と戦い、誰に勝とうというのか。己自身のことも禄に見えていない人間が、一体どのようにして本当の相手を見据えて、心の内側へ踏み入れるというのか。

 あなたの愛は歪んでいる。いえ、そもそも愛と呼べるほどの大した想いではない。

 ただのオッパイ好きでヒーロー好きな童貞の男子高校生が、偶々自分の夢がすべて叶う状況に置かれて有頂天になっているだけのヒロイックナルシズムだ。ナイトシンドロームだ。それ以外の何者でもない。

 居るべき資格のない場所に居ることを恥じ、ここから出て行きなさい兵藤一誠。

 あなたに相手を本心から労り、関係を再構築したいと望み、不器用ながらもアプローチし続けている黒猫の少女から妹を強奪する資格など、この宇宙の果てまで探し続けても決して見つかるはずがありません。

 消え去りなさい「正義の味方」!

 正義を名乗るテロリストが出しゃばる時ではない!」

「う、う、うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ーーセレニア様、オーダー(命令)を」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・征きなさい、戦争です」

 

 

 

 

 

 

「イエス・ユア・ハイネス!」


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