堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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この前更新したばかりですが再度更新です。
前回のはインフルで頭やられてたのと職場やプライベートの人間関係のごたごたなどで頭ぐっちゃんぐっちゃんの状態で書いたため滅茶苦茶になってしまいました。

今回は良い意味で滅茶苦茶な展開です。言霊少女らしいハチャメチャ展開を意識せずに書けて超気もちイイーっ!
今後もこのノリを維持できるよう頑張りたいと思います。


9話「深く静かに原作を浸食せよ」

「冥界も列車で行くんですねぇ」

「新眷属の悪魔は、この正式なルートで入国する決まりなのですわ」

 

 兵藤さんと姫島さんが悪魔ならではの常識について語り合っている様ですが、人間である私は我関せずと聞き流し、車窓に映る景色に目を向けています。

 

 見渡す限りどこまで行っても青、青、青。

 青一色の空間がどこまでも続いているかのように錯覚させらそうになる道程を一時間ほど我慢すれば目的地に到着するそうです。

 そうすると、東京駅から新幹線で宇都宮まで行くのと同じくらいの時間で世界間移動が可能という計算になるわけですが、これは時間と距離の関係性を考慮した場合、長いのでしょうか? それとも短いのでしょうか?

 

 物理的距離の問題を有してながら東京から大阪まで、早ければ三時間以内で到着できる現代日本と、次元の壁を越えて異空間トンネルを通り、異世界へ一時間近い代わり映えしない景色の中を列車旅行させてくれる現代冥界。・・・ううむ、激しく微妙だ・・・。

 

「えっ!? マジですか!? 俺、以前、魔法陣で冥界にある部長の婚約パーティーに乗り込んじゃいましたけど!?」

 

 ・・・・・・は?

 

「あれはサーゼクス様の裏技魔法陣によって、転移したものですから、特例ですわよ。もちろん、二度は無理ですけれど」

「そ、そうなんですか・・・。あっち行ったら即監獄行きは勘弁ですよ・・・」

 

 ホッとしている兵藤さんには悪いんですけど、いやいやいやいやいや、安心しちゃダメでしょそこは。

 え、なに。この世界、国家主権者自ら法規則無視してんの? しかも、その方法が裏技で、挙げ句は婚約パーティーに部外者乱入されるのに使われちゃったら言い訳聞かないじゃないですか。どんだけ権力のごり押ししたんですか魔王様。あと、どんだけ大金投入して隠蔽工作したんですか魔王様。

 戦争前なのに、開戦前なのに、大戦争になるかもしれない、始まりの会談前なのに。

 

 あ~、ダメだわこれ。かんっぜんに終わってるわ、冥界の統治機構。そりゃカオス・ブリゲートに参加する跳ねっ返りがそこいら中にいるわけだわ。

 だーって、統治者自身が法を尊重してないもん。まず、隗より始めてませんもん。むしろ始めてない隗が人にやれって言ってますもん。やってみせず、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやったが人は動かず。なぜなら自分が動いていないからである。

 

 ・・・山本五十六の爪の垢でも煎じて飲めよマジで。

 

 あ~、なんかいきなりやる気なくなっちゃったなぁー。始めてきた地で最初に見たのが為政者の執政って、どんだけだよって感じ~。バカバカしくなったし一人で帰ろっかなー?

 

 ・・・まぁ、現実としては私必要ないんですけどね、この場には。必要なのは天野さん、ゼノヴィアさん、紫藤さんの三人だけで私はオマケ。戦力外通告されてる身なので居なくても全然問題ナッシング。

 とはいえ、じゃあ帰れるかと言えばそうでもない。原作キャラたちから見れば要らないこの私ですが、天野さんたち放って帰るとかマジあり得ん。人間核弾頭を野放しにする危険性と比べれば、私のストレスくらい些細な問題ですよ、ふっふっふ・・・。

 あ~、胃が痛い。

 

「特例ですから、裏技魔法陣の件もだいじょうぶですわ。けれど、主への性的接触で罰せられるかもしれませんわね」

「なんですと!?」

「眷属同士のスキンシップは何ら問題ありませんわ。こんな風にーー」

「ぬはっ!」

「主から奪うって言うのも燃えますわね」

「あ、朱乃、いい加減にーー」

「リアス姫、下僕とのコミュニケーションもよろしいですが、例の手続きはよろしいですかな?」

「・・・はぁ・・・」

 

 異能バトルの異世界列車移動で必ず行われるお約束通りの予定を消化しつつ、私たちが乗る列車は一路グレモリーさんの実家グレモリー領にある、グレモリー本邸前へと進んでいきます。夏休みを利用した彼女の帰省と眷属たちの修行を兼ねた里帰り小旅行。

 

 普通に進んでくれさえすれば、多少のごたごたは予定調和の原作ストーリーと言うことで大目に見ますが、我慢してくれそうにない人たちが若干名混じっているのが心配でなりません。

 何事もなければよい、このささやかな私の願いは果たして天の神(代理)のミカエルさんには届くのでしょうか? 届いたところで彼に叶える権限はあるのでしょうか? トップ不在の数千年間を維持してきて限界に達したからこうなっている現状を見るに、あまり期待は出来そうにありません。

 

 願わくば、せめて私の処理できる範囲内で事件が起きてくださいますように・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「会長たちと分かれてからずいぶん経ちますね・・・」

 

 今日初めてあったダンボールくん(女子制服姿なので“さん”かもしれませんが)が、携帯ゲーム機に目を落としながら呟きました。コミュ症なのかヒッキーなのか、初対面時から私たちと視線を合わせる事なく延々とゲームだけして一人遊びし続けてる女装美少年ーーいわゆる男の娘。

 

 彼の言葉通り、グレモリーさんたちは途中で駒王学園の生徒会長副会長さんたちが挨拶してきた後どこかに行ってしまい、未だに戻ってきていません。

 列車内にいるのか、はたまた途中の駅で下車したのか。どちらでもいいですし、どちらでなくてもいいのですが、いい加減そろそろ無味乾燥すぎる景色にも飽きてきましたので多少の変化くらい与えて欲しいものです。正直、気が滅入る。

 

「それだけ、冥界は広いってことだろうなぁ」

『まもなく、グレモリー領に到着します』

「お、いよいよ到着か」

 

 兵藤さんが彼の疑問に答える形で呟かれた言葉に被さるようにして流されたアナウンス。それは私に退屈な時間の終わりを告げる福音ともなり、ようやくテンションも盛り返せそうでホッとします。

 

「ふふふ、ご覧なさい」

 

 姫島さんの妖艶な声につられ、見慣れた車窓に改めて目を向けてみると、

 

「うわー! この広大な土地がすべて!?」

「ええ、グレモリー家の領地ですわ」

「こ、こんなに広いんですか!?」

「日本で言うところの、本州くらいの広さがあるらしいよ」

「な!?」

 

 それぞれがそれぞれの驚きの言葉を並べる絶景の部類に入る光景。

 

 山と森に囲まれたセフィロトの木を連想させる配置の町並み。無駄にだだっ広くて機械類がまるで存在していない自然豊かな未開の地。

 冥界という場所は私が思っていたよりずっと綺麗で興味を引かれない、ファンタジーの魔法王国に大きく劣る景観を持った素朴な世界でした。

 

「なにこれ、しょっぼ・・・」

「田舎だな・・・」

「地味ですわ・・・」

「ま、まぁまぁ」

 

 そしてなぜか、同伴者で超未来SF科学宇宙都市在住の帝国軍上級幹部三人を宥めに回らなければいけなくなる私です。・・・なんでこうなるの。

 

 その後、突如として響く衝撃と揺れる車内。

 

 短時間に少人数が一斉に放つ悲鳴と叫声。

 一部の例外(常在戦場の心構えが基本の帝国軍人たち。ちなみに私は皇帝なので含みません)を除き、車内すべての乗客が驚き狼狽えてバランスを崩して倒れ込む中、列車自体も完全に停止したことを告げる『緊急停止信号』が届いたことを告げるアナウンスが流れ、事故でもあったのかと戸惑いのささやきが聞こえだした頃になってようやく説明役が現れました。

 それも、このグレモリー専用車両を所有しているグレモリー家のお姫様リアス・グレモリーさん同伴で。見え透きすぎて嫌になる仕様です。この後の展開が自ずと予測できる。

 

「近々お偉いさんが集まるからなぁ。念には念をってことかもしれん」

「よく言う・・・」

 

 思わず声に出してしまい、相手に届いてしまったのか目配せされてしまいました。

 いわく、“今だけは黙っていてくれ”という意味なんでしょう。

 

 やれやれ、今度は何を企んでいるのやら。

 

「お偉いさん?」

「どうも動きそうにねぇなぁ。ちょっと様子を見てくる。じゃあな」

 

 軽く手を振って冥界内では完全な部外者の異種族首魁が平然と国王直轄地に進入していくのを誰も不審に思わないあたり、ここの悪魔さんたちの危機意識と国際常識のなさが少々心配になってきます。

 今でこそ和解したとはいえ、数千年間命がけで戦い続けていた敵の首領が首都に単独降下するのです。普通であれば市民感情を考慮して力付くでも止めるのが臣下の勤め。

 それを全く行わないどころか、むしろ彼のことを全面的に信頼している節まであるのは彼らの長所でもあり短所でもある部分でしょうね。

 裏切られることを恐れて敵を信じない愚は犯さないのが利点。その一方で信じた相手に裏切られるといつまでも尾を引くのが欠点。

 

 どちらも一長一短がありますが、こと兵藤さんに限って見た場合、欠点の方が大きく作用しそうな気がしますね。良くも悪くも単純で裏表がなく、人が良すぎて人の欠点を見ようとしません。逆に自分が“嫌な奴”と感じた相手には徹底的に偏見をむき出しにして後先考えずに噛みついていく。

 

 ドラゴンと言うよりも忠犬。主と仲間を守るために戦い、敵は悪い奴としか考えられない近視眼。私も偏見混じりになってしまいましたが、そういう心証を彼に抱いています。

 

「アースガルズの代表を加えて協議する予定なの」

 

 背中を向けて去っていくアザトースさんを見送り、大きく溜息を付いたグレモリーさんが補足そして、そう言いました。

 

「アースガルズ?」

「いわゆる北欧神話さ。

 悪魔天使堕天使の他に、ギリシャ神話のオリュンポスや、アジア神話の属するシュミセン、その他いろいろな勢力があるんだ」

 

 金髪美青年の・・・確か名前はバキさん?とかなんとか言う方が解説してくださいましたが・・・やっぱりクトゥルー神話は入ってないんですね、当然ですけども。

 

 ・・・イゼルローンに置いてきたお父さんに今の会話聞こえてたらどうしましょう・・・最悪、冥界が今日で終わっちゃうんですけども。全然北欧神話と関係ない黄昏が冥界を飲み込んで闇へと溶かしちゃいそうなんですが・・・気づかなかったことにして置きましょう。

 

「なるほど・・・ヴァーリを連れてった奴、孫悟空って言ってたもんな・・・あ、じゃあ協議って言うのはカオス・ブリゲードとの?」

「ええ、テロリスト対策よ。アースガルズを加えてのね」

 

 兵藤さんの疑問にグレモリーさんが当然のこととして答え、その答えにまた私は頭を抱える負のサイクル。

 

 もうヤダ、なんでこの人たち目先の問題ばっか重要視して大切な基礎を疎かにしがちなの・・・?

 

「この状況下で、また新たに新参者を対等な条件で参戦させるって・・・軋轢生じない訳がないじゃないですか・・・! 本当になに考えてんですか魔王様は? 味方を増やすために開いた会議が、味方が敵に回る口実に利用されるって本末転倒すぎるんですけど・・・」

 

 戦争に目がいきすぎてる・・・カオス・ブリゲードへの対処を口実に、それに対処するには全種族が垣根を越えて協力しなきゃダメだという、自分の理想を実現する通過点と思いこんでしまっている。

 数千年間続いた戦いを終わらせるための試練、もしくは種族間の抱える痛みと怨恨を断ち切るために絶対に乗り越えなければいけない、全種族共通の障害。

 

 未来を勝ち取るため、過去を振り切るための聖戦。

 

 ーーそんなもの、有りはしないのに。

 ーー夢も未来も、それぞれが作っていく物で、与えられるべき物じゃないのに。

 ーー押しつけがましい理想なんて・・・弾圧となんら代わり映えしないのに。

 

「ーーほんっと、面倒くさい状況になっちゃいそうですよねぇ・・・」

 

 嘆息しつつ冥界の未来に思いを馳せていた私は、塔城さんの「外が・・・!」という呟きで意識を現実へと引き戻すと、その直後に足下が消失するという珍事に襲われることと相なりました。

 

 

 

 

 

 

「ーーここは?」

 

 意識がブラックアウトする瞬間まではハッキリと覚えているのに、今行る場所には覚えが全くない異常事態。

 いやはや、魔法世界なんでもありすぎですね。これなら超科学相手でもなんとか戦えなくはない・・・やっぱ無理そうですね。止めときましょう、うん。

 

「痛ぅ・・・あ、どこだ!?」

「強制転移か・・・っ!」

「部長さんは・・・?」

「先生の姿も・・・」

「見あたりませんわ・・・」

 

 つまり二人はグルだってことですよ。

 

 ーーそう言おうかとも思いましたが黙っときました。これ以上めんどくさい事態はゴメンなので。

 

「静かにしろ。ーートカゲが来るぞ」

 

 ゼノヴィアさんが緊張感のない声で静かに兵藤さんたちにとっての危機が到来したことを警告してあげました。彼女なりの優しさなのでしょうが、もう少し声に緊迫感を持たせないと、たぶん平和ボケした日本人には伝わらないと思いますよ?

 

 がらがら、がらがらと小さな崖崩れを発生させながら、動く小山がゆっくりと姿を現します。

 

「ーードラゴン!」

 

 翼があって牙もあり、鱗の生えた尻尾と長い首。

 何のひねりもない見たまんまのドラゴンさんがそこに立っていました。

 

 そして、攻撃。初手は火炎のブレス、炎の息です。

 

「ーー! どうやら味方じゃないみたいだね・・・!」

「っ!! 子猫ちゃん、いけない!」

 

 バキさんが応戦体制に入った途端に塔城さんが一人で突貫。小さな拳でドラゴン相手に肉弾戦を挑みまーーって、それいくらなんでも無謀すぎません? 威力がどうの防御力がどうの以前にリーチの問題で。下手したら届く前にはたき落とされますよ? ハエみたいに、ぺちっと。

 

 ぶぅんっ!

 

 案の定、尻尾に迎撃されて敢え無く沈む塔城さん。初見の強敵にいきなり拳で突っ込んでったら、そりゃこうもなりますよね。

 

「部長がご不在故、わたくしが指揮を執りますわ。祐斗君とゼノヴィアちゃんとイリナちゃんはドラゴンを引きつけてください。イッセーくんはその間にセイクリッド・ギアを。アーシアちゃんは子猫ちゃんを。わたくしと天野さんは上空より支援に回ります」

『はい、副部長!』

 

 姫島さんの号令の元、一丸となって行動するオカルト研究会の面々。

 

 ーーそう、オカルト研究会の面々は彼女に従いました。ですが、残る三人。私も入れれば四人。これら異分子とも呼ぶべき部外者たちの反応は・・・

 

「拒否する。詰まらん戦に振るう剣など持っていない」

「私もパスー。セレニア様以外の命令受けて戦いたくないしー。やりたい人たちだけで勝手にやればって感じかなー」

「私も不参加ですね。この場にある帝国軍最高指揮官として皇帝陛下をお守りする義務を優先させて頂きます」

「「「なっ!?」」」

 

 オカルト研の皆さんが驚愕の表情を浮かべて私たちを見ます。何を考えているんだと言いたげな表情で。

 

 それに対する私の返答は。

 

「戦いたくないと言ってる人に対して無理にでも戦えと命令できるほど、私は傲慢にはなりきれそうにありません。本人の意思で戦いを望むなら止めませんが、そうでないのなら自己責任で自由意思のもと選択の自由を行使してください。私はそれを尊重します」

「くっ・・・!」

 

 姫島さんの浮かべる苦悩の表情は切実で、これが如何に不味い状況かを物語っています。

 

 ーーが、ハッキリとぶっちゃけちゃてしまえば天野さん一人でたぶん勝てるんですよね、この大きなトカゲさん。だって、模擬戦闘で似た様なのと何度も剣を交えてましたし。

 

 “科学では解明できない過去を司る魔術と、魔術では到達できない未来人類の技術を積み重ねる。それら双方が繋がり至った究極の到達点『帝国魔導学』”

 

 化学の成績は悪く、魔術にいたっては完全にズブのド素人でしかない私は黙って首を振る機械と化して説明を聞いてたシステムですが、あれよく考えるとすごい発明ですよね。一定空間内限定とはいえ、ドラゴンだろうとダンジョンだろうと過去の歴史だろうとも再現できてしまうんですから。

 

 ・・・理屈はぜーんぜん分からなかったですけども。

 

 ーーとはいえ、今の姫島さんがその事実を知るはずもなく、苦戦を承知で保有している戦力のみでの対処を迫られる結果となったのでした。

 

「ちっ、やるしかないか・・・ブーステッド・ギア!」

 

 真っ先に割り切って突撃したのは予想通りに兵藤さん。考えるよりまず行動な点はこの際評価できます。考えてもどうにも成らないときは動いた方が良い。

 

 こうして始まるドラゴンVS駒王学園オカルト研究会による壮絶な戦い。

 

 それを見守りながらーーもとい、飾らずに言えば見物しながら、私たちは偉そうに論評を交わし合っています。

 

「それぞれの能力は一流の域に達している、もしくは達する可能性を示唆して余りあるな。

 ・・・まぁ、今はまだ些か以上に拙い腕だが・・・」

「でも、実戦経験少な過ぎでしょ。あれじゃ新兵のダンス以下よ。アヒルの行進だわ。

 どうせイッセー君のブーステッド・ギアしか切り札持って無いんだから、それ以外の全てをブラフか陽動に振り分けた方が得策じゃないのかしらね~?」

「一理ありますわね。ですが、彼らはあれが持ち味であり強さの秘訣。個性の強さがそのまま戦闘力に反映される特殊な戦士たちです。

 極論するならば、一人一人は何ら恐れるべきモノを持たない、ただの雑兵にすぎません。集団でこそ力を発揮し、集団でしか力を発揮できない家族単位の組織なのです。

 結局、どこまで行っても彼らはリアス・グレモリー個人に仕えているだけの私兵集団に過ぎず、国や国王に制御され、統制された軍隊ではない。

 一人のために国家と戦うことはできても、国家のために国家と戦うことができない。戦士であっても兵士ではない。軍人とはとうてい呼べませんし、呼べるようになる日は永遠に来ない。

 その程度の相手ですわ」

 

 ーー言いたい放題だなぁ、おい。

 こっちは見ているだけなのにねぇ・・・。

 

「よーし、そこまでだ」

「部長と、先生!?」

 

 聞き覚えのある中年男性の声と兵藤さんの声で我に返り視線を彼らに戻すと、いつの間にやら戦闘は終わっていたらしく、崖の上にアザトースさんとグレモリーさんが立って苦戦の末倒れた兵藤さんを見おろしてシニカルな笑みを浮かべていました。

 

 

 

 

 

「このドラゴンが悪魔ぁ!?」

『久しいなぁ、ドライグ』

『ああ、懐かしいなタンニーン』

 

 アザトースさんから事情を(この戦闘が彼らを鍛えるための茶番であり、グレモリーさんから許可も得ていたことなど)聞き、ついでにタンニーンとか言うらしいドラゴンさんの曰くありげな過去についても少しだけ触れてから、話は本題に入ったみたいですね。なんかシリアス風味です。

 

『ふん、サーゼクス殿の頼みだと言うから特別に来てやったのだ。その辺を忘れるな、堕天使の総督殿』

「みんな、怪我はない? ごめんなさい、あなたたちを騙すような真似・・・。私は反対したのだけど、お兄様まで賛成してしまって・・・」

「こいつらの力が伸び悩んでいるのはリアス、お前のその甘さと迷いにも問題があるんだぜ」

「迷ったことなんか・・・!」

「不意をつかれてどこまで力を出し切れるか、ちゃんと確認しておきたかったんでな。

 おかげで今後の修行方針が決まったよ」

「堕天使が考えそうなことですわ」

「俺はお前等を強くするためなら何だってする。なにしろ、先生だからな。

 ーーついでに言えば、そこの嬢ちゃんは真っ先に俺の思惑に感づいてたぜ? 事が始まる前から「今度は何企んでんの?」って目を隠さず向けてきてた。

 お前らに足りないのは、そういう考える頭だって事さ」

「「「・・・・・・」」」

 

 私を引き合いに出されて場の空気を悪くされると、私がやたら責任感じるんですけども・・・。しかも、フォローもできないポジションってどうよ? すごい最低じゃない?

 

「やい、ドライグ!なんで先に知り合いだって言わねぇんだよ!」

『端から茶番だって分かってることに俺が口出ししても仕方なかろう』

「ちゃばん?」

『タンニーンの奴、力の千分の一も出してなかったからなぁ』

 

 はぁ、あれで千分の一以下なんですか。スゴいのかスゴくないのか基準が分からないので良く分かりませんが、とにかく訳わかんないことだけは分かりました。

 

 ところでーー

 

 

「さっきから気になってたんですが・・・タンニーンさんより大きい生物って、この山には住んでないんですか?」

「「「は?」」」

「大きい生物ですよ。ああ、いえいえ、ドラゴンである必要性はありませんよ? ああ言うのが非常に珍しい奇種だっていうのはいい加減理解できましたし。ドラゴン以外でドラゴンより大きな生き物ってこの小山には住んでないのかなぁと」

「「「ドラゴン以外でドラゴンより大きな生き物・・・?」」」

 

 その場にいる全員が首を傾げて考え出します。

 やばい、思考の袋小路に迷い込ませちゃったでしょうか? 早めに解消した方が良いでしょうかね?

 

「ドラゴンより大きな・・・おっぱい?」

「イッセー先輩は黙っていてください。・・・でも、そうですね・・・ドラゴン以外では例えばクラーケンとか海の生き物になるような・・・」

「あと、考えられるのは巨人族だね。これも非常に大きくて多種多様な見た目を持ってる」

「それはともかく、どうしてそんな生き物をお探しになってますの? 普通の人間が出会うことばど一生に一度たりとも無いでしょうに・・・」

 

 親切にも皆さんからアイデア提供していただき感謝していると、姫島さんが疑問の声を上げました。そこで私もハッとなり、「そう言えば紹介していなかったですね」と後頭部をポリポリしながら恥ずかしさを紛らわし、一歩引いて彼を登場させるスペースを用意します。

 

「実は、お見合いの仲人を頼まれまして。彼の同族を探してたんですよ」

「「「お見合い? 同“族”」」」

「はい。今から紹介しますね。

 こちらが最近知り合ったーー」

 

 空間に入れた切れ込みから、にゅっと出てきた巨大な眼球が彼らを見つめ、

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 硬直する彼ら(タンニーンさんも含む)を後目に、見上げるほどの巨人が徐々に全長を表していきます。

 

 全長数十メートル。十五メートル程度のタンニーンさんだとちょっとだけ背が足りなくて並べない、青白い身体。丸い頭部に巨大な眼。人間と同じ二本の腕と五本の指。そして、魚のような下半身。

 

 見れば見るほど雄大な姿形を持つ、まさにこれぞ人魚と呼ぶべき異形。

 

「ヒトガタのガッタくんです。数日前、深海探査艇での深海調査中、偶然出会ったので逆ナンしてみました。見た目に違わずシャイな方で、人生初ナンパの私には正直ありがたかったです」

『『『☆※×●△→!?』』』

 

 おお、なんかいきなり全員外国人に。・・・ドラゴンが話す外国語って言うのも以外と乙なものですね。これもひとつのワビサビ?なのでしょうか?

 

「い、一誠君! ここ、こういう動物の類は君の得意分野だろう? ほら、昔犬に良く懐かれたって話をしてくれたじゃないか!

 ――だから、アレもその要領で行けばあるいはーー」

「ししししてない!そんな話はしたことないし、しててもしていない! あと、アレと犬を同列に扱うのは無理がありすぎる!絶対に別モンだぞアレ!

 ――そもそも、生き物かどうかも分からねぇ地球生物ってなんだよ!?」

『い、いや落ち着け相棒! それを言うならアレは本当に地球の生き物なのか!?

 俺の数千年にわたって蓄積された記憶の中にあんなキテレツなモンが入ってた事は一瞬たりとも無いはずなんだが!?』

『わ、私としたことが・・・。腰が抜けて動けない・・・』

「ち、ちょっとタンニーン!? あなたそれでも聖書に記された悪魔なの! しゃっきりしなさい!そして立って戦いなさい!

 ーーあの訳わかんない正体不明のナニカと全力で。私たちがお兄様の元まで逃げ切るまで体を張って・・・!」

『こらこらこらこら! 人を捨て駒の肉壁にしようとするな魔王の妹!

 あと、どんな理由があろうともアレと戦うことだけは拒否する! なんかこう・・・訳が分からんから!』

 

 なにやら背後で皆さんが混乱しまくっています。

 

 それにしても、ずいぶんな良いようですね。会ったばかりの人に向かって「訳が分かんない」なんて。しかも、言うに事欠いてその理由が「自分の知ってる知識にないから」とは・・・つくづく傲慢きわまりない考え方です。

 

 ここは説明して分かり合って頂くしかないでしょう。

 誰でも最初は相手を知らないのです。知らない相手とは仲良くなれないと言うのであれば、知り合った後で仲良くなればいいだけです。

 

「彼の種族、ヒトガタはニンゲンとも呼ばれている北極や南極の海で目撃された事例のあるUMAーー未確認生物です」

「UMA!? 今、ユーマって言いやがったのか、このイカレ民主主義者!?」

「あ、すみません間違えました。既に今、私たちが彼のことを知っているのでUMAでも未確認生物でもありません。ただの確認された生物です。そこいらの犬さんや猫さんと同列に扱っても良い、普通の生き物ですよ」

「犬猫がこんなに気持ち悪い姿してて堪るか、クソボケぇぇぇぇ!!」

「む。失礼ですね、彼は深海5000メートル超えたあたりから生息し始める生物たちの中では格段に流麗なシルエットをした生き物だというのに・・・」

「ちょっと待て! 今、聞き捨てならない一言が混じっていた気がするぞ!

 ーーもしかしてあれか。こいつみたいな生き物が地球の深海にはまだ他に居るのか・・・?」

 

 アザトースさんが冷や汗を浮かべながら当然のことを確認してきます。

 見ると、他の皆さんも一様に青い顔して私の返答を待ちわびて居られる様子。

 

 やれやれ・・・そんなに期待されても、私にはごくごく平凡で当たり前な常識的回答しか持ち合わせがないんですが・・・。

 

「もちろん居ますよ、いっぱい。当然じゃないですか?

 海は広く、深い。月までの距離、およそ380,000kmにたいして深海はたったの1万メートルしかありません。

 ですが、人類で初めて月に到達したアポロ11号使っても深海には到達できないんです。海は謎と神秘と生物の宝庫なんですよ。

 ――なので、これくらいの生き物はそれこそ山のようにいまーー」

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 

 ・・・・・・皆さん、走り去ってしまわれました・・・。

 

 何がいけなかったんでしょう・・・? ガッタ君は・・・別に問題ありませんね。

 特に危害を加えたわけでもないですし、大人しくてよい子です。

 

 ・・・では、なぜ・・・?

 

「う~ん、どうして皆さん、ああも驚き戸惑っていらっしゃるのでしょう・・・?

 ガッタ君には分かりますか?」

「・・・異住さん、皆さんはきっと照れ屋で恥ずかしがり屋さんなだけです。初めてあった僕に緊張してしまっただけで、決して悪意のある行動だったとは思えません。

 どうか彼らを、許してあげてください。そして、今まで通り仲良くしてあげてください。微力ではありますが、僕もお手伝いいたしましょう」

「ガッタ君は優しいですねぇ。では、とりあえず彼らの向かった先ーーおそらくグレモリー本宅でしょうーーに私たちも向かいますか?

 ・・・いきなりで不躾ですが、エスコートをお願いしても?」

「僕でよろしければ喜んで。

 それではお嬢さん、お手をどうぞ」

 

 かくして私が冥界に到着したその日のうちに、本来オマケでしかなかったはずの私の顔がデカデカと冥界中のテレビに映し出され、「海魔王」の名を連呼する叫びにグレモリー領全体が包まれることとなるのですが、それは幕間の民間に流布した都市伝説。決して大筋と関わり合うことはない外伝にすぎない話です。

 

 

 

「私、セレニア様が崇拝されるのは能力だけが理由じゃないって、今ハッキリと分かりまくったわ」

「なんだ、イリナ。今頃分かったのか? あのお方はお前如きの常識で計れる方ではないぞ。

 ーーなにせ、世界の法則すら飛び越えていることに気づきもしない、マイペースすぎるお方なのだからな・・・」

「マイペース・・・良い言葉ですね。それに便利な言葉でもあります。

 ーーそれ以外、あの方の性格を表現する単語が存在していませんから・・・」

 

「「「まったく・・・陛下の支配領域はどこまで広がっていくのか我々でも予測が、全くつけられない・・・」」」

 

 宇宙に混乱と恐怖と悪夢をバラマきまくる事を活動方針にしている帝国軍の大幹部三人はそろって嘆息し、自覚のない我らが総大将、宇宙の法則をごく自然に無視する少女の後ろ姿を見送った。

 

 ・・・確実に人里が大パニックに包まれることを確信しながら、ヒトガタの頭上にちょこんと座る行儀正しい幼い主に対する新たな畏怖に頭を深々と垂れながらーー。

 

 

つづく


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