博麗神社にある住居スペースの一角にある茶の間で霊夢と魔理沙は、ちゃぶ台の反対側に座る例の少女を興味深く、かつ怪しそうに見ていた。
紫からご褒美として受け取った戦車と名乗った少女、彼女が何者かそれが二人にとって、気がかりであった。
当の少女は、白い長襦袢――霊夢が自分の箪笥から出した物を身につけ、困惑している二人を不思議そうに見ていた。
「なぁ、霊夢。コイツは自分の事を<戦車>と名乗ったんだよな?」
「えぇ」
「でも、ロケットをぶっ壊したアレと似ても似つかないんだが」
魔理沙は少女に聞こえないように霊夢にこっそりと問いかけ、霊夢も小さくうなずく。
しかし、目の前の彼女が戦車とは魔理沙には信じがたかった。どうみても見た目は霊夢よりも年下の普通の少女にしか見えないからいからだ。
「もしかしたら、九十九神の一種なのかもしれないけど……それにしても、妖力が普通の妖怪と感じが違うのよね」
霊夢は少女を彼女が放っている妖力が普通の妖怪とはどこか違うのを感じとっていた。
「このまま考えても仕方がない」と魔理沙は、思い切って少女に質問した。
「なぁ、お前は本当に戦車なのか?」
「はい、そうです。正確には自衛隊採用第三世代主力妖戦車”90式戦車00型”です」
「妖戦車って、なんだ? 九十九神の一種か?」
魔理沙は、彼女の言葉に首を傾げた。
魔理沙は「妖戦車」の事を九十九神――長い年月を経て、妖怪化した器物の一種だと理解した。唐傘おばけや妖刀ような物だと、とりあえずは理解することはできた。
魔理沙の質問に彼女は笑いながら、答えた。
「九十九神ですか……A1系列やレオパルドⅡ系列ならともかく、90式の私は違います」
「そうなのか?」
「はい、ベースとなる戦車に術式を組み込んだ部品や霊的媒体に変異、置換もしくは追加して、自我と変性能力を持たせた自律型戦車、それが妖戦車と呼ばれる兵器です」
二人のやりとりでなにかを察したのか、霊夢が口をはさんだ。
「ようするに、あんたは私の式神ということね」
「はい、簡単にいえばそうなりますね」
「戦車を式神にするなんて、紫は何を考えているのよ」
霊夢は紫がやったことにぼやいた。
それを見て、疑問に感じた少女は首をかしげた
「違いますよ、私は元々自衛隊の所属でした。紫さんから聞いていませんか?」
「自衛隊、なんだそりゃ?」
予想外の事にに魔理沙が尋ねると少女は、当たり前のように答えた。
「そのままの意味ですよ。自衛隊は日本が有する軍隊のことで、私は第二北方防衛戦車中隊に所属する戦車の一台でした」
「いまいちよくわからないけど、元々は自衛隊なんちゃらという連中の式神だったということは分かった」
霊夢達は少女の言葉の意味が微妙に分からなかったが、彼女が自衛隊に所属していた式神だと理解した。
だが、そこで霊夢の脳裏に「彼女がなぜ、私の式になっているのだろうか?」という疑問が浮かんだ。
「で、その自衛隊の式神だったあなたが、どういう縁で私の式神になったの?」
「確かに、自衛隊とやらの式だったんだよな?」
霊夢が質問するとそれに続くように魔理沙が彼女に尋ねた。
「あっそれは──」
霊夢の質問に彼女は答えようとした瞬間、上から霊夢達にとって、聞き覚えがある声が言葉を遮った。
「それについては私が説明するわよ」
霊夢が上の方を見ると不気味な裂け目───通称、スキマから上半身を出した紫が怪しげな笑みを浮かべていた。
霊夢が怪しむように「紫、どういう事なの?」と問いかけると紫はゆっくりと話始めた。
「結論から言うとこの子の主人はもういないのよ」
「主人がいないって、どういう事だ?」
「機種転換という名目で捨てられたのよ。もっといい戦車を、高性能の戦車をそろえるために」
紫の言葉に、魔理沙と霊夢は言葉が出なかった。
式神を捨てるという行為は、普通は考えられなかった。
「もっと優秀な式を手に入れるために、いままで仕えてきた式達を捨てるなんて薄情だな」「それは違うわよ。彼らが薄情なんかじゃない、式も兵器や備品扱いなのよ」
「紫さん、捨てたという言い方は止めてくれませんか」
紫がそう言った瞬間、少女が声を荒げ、会話に割り込んだ。
彼女に叫びに場にいた全員が少女を見た。少女は目をつり上げ、顔を真っ赤して言い放った。
「工場から造られ、機種転換により除隊されるまで約二十年間、自衛隊の一員として任務を推考してきました。敵味方の砲弾が飛ぶかう戦場の中を仲間の妖戦車や戦車兵と共に駆け抜けたこともありました」
怒気のこもった彼女の言葉に霊夢と魔理沙は何も言えず、紫は黙って彼女を見ていた。
彼女はお構いなしに言葉を続けた。
「前の戦車長、暁少尉は私を部下として扱ってくれました。機種変更の時も戦車長と私の乗務員は私が後方へ輸送される最後まで見送りに来てくれました。だから、捨てたといういいからはやめてください」
彼女が言い終えると魔理沙は「すまない」と彼女に謝り、さらにこう続ける。
「薄弱なんて言い方は悪かったな。お前がそこまでいうんだから、前の主人はイイヤツだったんだな」
「はい、私が除隊する直前まで共に戦った戦友でした」
「前の戦車長とやらの話を聞かせてくれよ、ちなみに私は霧雨魔理沙だ」
「いいですよ。前の戦車長──暁少尉と出会ったのは、今から」
魔理沙のお願いに快く受けた少女は自身の経験を語り始め、魔理沙はそれを興味深そうに聞いていた。
魔理沙と少女との会話を横目に、霊夢は納得したように頷いた。
「機種転換とやらでお役ご免となった子を紫が拾ったという訳ね」
「ええ、式としても優秀な戦車だったから、霊夢に上げようと思ってね。いろいろな事をして、手に入れたのよ」
(なにをしたのよ)
笑顔でとんでもないことを言う紫に霊夢は何も言う気がしなかった。どんなに苦言を言った所でこのスキマ妖怪は簡単に受け流されるのは目に見えていた。
その時、紫が何かに気付き、首を傾げた。
「あら? ウィルはどこにいったの?」
「隣の部屋で鞠のように転がっているわ」
霊夢はどうでもいいといわんばかりに言うと紫は「あらあら、やっぱり裸リボンはまずかったわね」と微笑を浮かべる。わざとねらっていたくせにとつぶやいた。
「藍に彼女の持ち物一式を届けさせるから、後はよろしくね」
そう言い残し、隙間の中へと戻ろうする紫を霊夢は制止させようとするも彼女はスキマの中へと消え、続くようにスキマも閉じてしまった。
霊夢は、肩を落とし溜め息をつく。
「ただでさえ家計は火の車というのに、さらに彼女とは本当にどうしよう」
隣で魔理沙と楽しそうに会話をする少女に目を向けた瞬間、彼女自身の名前を聞いていない事に気が付いた。
90式妖戦車00型が彼女の名前かだと思っていたが、さっき聞いた話だとどうも個人の名前というよりも河童や天狗などの種族名に近い様な物だと理解した。だからこそ、霊夢は個人の名前を聞いておかなければと考えた。
魔理沙と会話に盛り上がっている彼女に割り込むように彼女に質問した。
「そういえば名前をきいていなかったわね」
「名前は90式戦車00型です。でも、それはさっきいいましたよ?」
同じ事を質問する霊夢に90式と改めて名乗った少女は何故と言わんばかりに首を傾げた。それを見た魔理沙が、霊夢の言いたいのかを察し、助け船を出した。
「そうじゃなくて、おまえ個人の名前を聞いているだよ。その90式って、天狗や河童みたいに種族名だろう」
「そういうことでしたか」
90式は魔理沙の言葉で質問の意図を理解しすぐに答える。
「戦車である私に個人の名前はありません。以前の軍にいた頃は識別番号”DFN2T10”が個人名代わりでしたが」
「でしたが?」
魔理沙が疑問に感じ、反射的に言葉を返すと彼女は
「軍から除隊したので、今はありません」
「「はい?」」
自身の名前は不要だといわんばかりの彼女の無機質な答えに二人は唖然とした。彼女もその二人の様子に首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「いや、名前が番号なのはどうかと思うんだが、名前がないのはおかしいと思うが」
「少尉も他の戦車と区別するためにT10とナンバーを省略して呼んでいましたし、ここでは私以外の妖戦車は存在しないので90式で十分です」
「それでいいのか」
異常者ともいえる発言を平然と言う90式に魔理沙は引き、霊夢は少し考え込んでいた。それを見て、疑問に感じた90式は霊夢に尋ねる。
「どうしたんですか、戦車長殿?」
「いや、あんたの名前を考えていたのよ」
霊夢の返事にさっきとは逆に90式は呆気にとらわれた。それを見た霊夢は彼女にこういった。
「どうしたのよ、式に名前がないから私が付けてあげると言ったのよ」
「でも、名前と言っても個体を識別するために必要なだけで――」
霊夢の行為に理解できない90式は驚くが、霊夢は彼女の言葉を遮りこう言い切った。
「とにかく、その90式という味気ないわ。だから、あなたに名前を付けてあげるわ」
(そういえば、暁少尉も戦友を番号で呼ぶのは味気ないと言っていたわね)
霊夢の言葉に90式は前任の暁少尉も自分の戦車長になった時の事を思い出した。その時は、識別番号の後ろ三文字からT10というコードネームを付けてくれた。
90式が思いにふけていたが、「おい、どうしたんだ?」という魔理沙の呼びかけで彼女は現実に戻された。
「すいません、ちょっと考え事を」
「そう……霊夢?」
90式は魔理沙に小さく謝った瞬間、さっきまで首をひねって考えていた霊夢は突然、思いついたかのように言った。
「あなたの名前、鈴の香りと書いてりんか鈴香ってどうかしら?」
「鈴香、案外ありきたりだけどいいんじゃないか」
霊夢の案に賞賛の意を示す魔理沙に対して、90式は沈黙したまま霊夢を見ていた。
その様子に、彼女が自分の考えた名が気にいらなかったのかと思った。
だが、霊夢の予想と正反対に彼女は敬礼をしながら口を開いた。
「これから私の名は鈴香ですね。戦車長殿、これからよろしくお願いします」
「戦車長という変な呼び方は止めてくれないかしら? 私の名前は博麗霊夢だから、普通に霊夢と呼んでくれない?」
「了解しました、霊夢殿」
変に礼儀正しい90式、いや鈴香に霊夢は何も言わなかった。「戦車長殿」という変な肩書きで呼ばれるよりもずっとマシだと思ったからだ。
その様子を魔理沙は面白そうにみていた
「確かに、霊夢が戦車長とかの肩書きで呼ばれるのはおかしいぜ」
「魔理沙!」
顔を赤らめて言う霊夢が余計におかしいと思った魔理沙は笑いをこらえながら、
「悪い、悪い」と言うとこう続けた。
「ちなみに、私は普通の魔法使い、霧雨魔理沙というんだ。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします。魔理沙さん」
「なんで、私の場合はさんづけなんだ?」
自分だけさんづけに疑問を感じた魔理沙は、鈴香に尋ねると「私の上官だからです」と彼女は率直に答えた。
それを聞いた霊夢は「式神は、生真面目なのが多いのかしら?」とつぶやくと魔理沙が何かを思いつき、手を叩いて口を開いた。
「鈴香は、どんな能力を持っているんだ?」
「能力ですか? これっと言って特別な能力はもっていませんが」
魔理沙の質問に鈴香はどう答えたらいいのか分からず、戸惑った。それを見て、霊夢が助け船を出した。
「難しく考えなくてもいいのよ。自分が一番自慢できることが私達が言う所の能力なのよ」
「そういうことでしたか」
鈴香は霊夢の言葉で納得し、すぐに答えた。
「私の能力は移動しながらでも正確に砲撃できることです」
「つまり、正確に砲撃する程度の能力ということね」
「スペルカードルールに役に立ちそうな能力ね」
スペルカードルールとはなんですか?」
霊夢が言った”スペルカード”という言葉に鈴香は興味を示した。鈴香は幻想郷についての知識がほとんど持っておらず、故に幻想郷についての知識を得たいと思っていた。
彼女は質問すると霊夢は彼女の質問に答えた。
「スペルカードルールというのは、幻想郷での決闘法の一つよ。どういうもかというとね……」
「口で言うよりもまずは実践だぜ。外でやりながら、教えてやるよ」
「ちょっと、魔理沙さん!?」
霊夢の言葉を遮った魔理沙は、鈴香の腕を掴むと彼女を外へと連れ出した。
それを見た霊夢は「あいかわらず、論より行動ね」と呟くと立ち上がり、隣の部屋と仕切っているふすまに近づいた。
そして、ふすまを開けると顔を青白くして、畳の上に転がっているウィルが霊夢の目に写った。ウィルの鼻には止血用のティッシュが詰められていた。
「ウィル、調子はどう?」
「だるいが、まぁ動けなくもないかな?」
ウィルは小さく答えると霊夢が無関心にそうと呟いた。
そして、ウィルは身体をゴロリと動かし、鈴香を手を引っ張る魔理沙に見ながら口を開いた。
「話はふすまごしに全部聞いていたよ。霊夢が式神を持つとはな」
「どういうつもりかしらないけどねぇ」
霊夢は小さく言うと笑顔で鈴香の手を引っ張る魔理沙とそれに困惑する鈴香に視線を向け、何かが起こるの予感を感じていた。
「面倒なことが起こりそうね」
今回は地の文に力を入れてみましたが、どうでしょうか?
一話とは字数が千字多くなった
次は弾幕決闘や戦車娘こと、鈴香の能力についてで独自解釈による弾幕決闘を表現できればと思います次は再来週までの更新できればと思います