東方紫藍談  ~紫と藍の幻想談~   作:カテサミン

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 咲夜の日常になります、が日常と謳ってはいるものの、咲夜の過去に触れる事になるので普通の日常という訳にはならない様です。 


 日常+異変+シリアス要素が含まれています、魔理沙の日常以上にオリジナル要素が強めとなります

 物語の終盤まで、咲夜の視点で話が進みます



 それでは始まります♪






【十六夜咲夜の日常】『紅魔館のメイド』

 

 

 カチッ カチッ カチッ

 

 

 時計が時を刻む音が聞こえる

 

 

 静かに、静かに未来へ向かって時を刻み続けていく

 

 

 未来へ向かって……未来?

 

 

 未来とは何なのだろう、何処が未来への入り口なのだろう……未来へ進むためには何を為せば良いのだろう

 

 

 時間と空間 それは密接に関係している物

 

 

 

 ここは虚空だ 虚空の輪 永遠に続く虚空の時間 私だけの時間

 

 

 もう私は他人と同じ時間を歩む事は出来ない 何故ならば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の未来は殺されたからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【紅魔館 十六夜咲夜の寝室 AM 5:00】

 

 

十六夜咲夜「……」パチッ

 

 

 いつもの時間に目が覚める 私の時間が始まる

 

 

咲夜「……」ムクッ

 

 

咲夜「…」

 

 

 紅魔館での一日がまた始まろうとしている、代わり映えのしない私だけの一日

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜「……」キョロキョロ

 

 

咲夜「…」

 

 

 私は寝室を見回す……

 

 

咲夜「っ…!」

 

 

 この部屋に昨日一緒にいた筈のお嬢様の姿が無かった

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「この部屋は私だけの鳥籠みたいね…」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」スッ

 

 

 私はベッドから起き上がり、部屋の隅に備え付けてある水道の水で顔を洗い、服を着替え、鏡の前で自分の身なりの確認をする。

 

 紅魔館のメイド長としての身支度を整える…

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「いつもの事…そう、いつもの」

 

 

咲夜「…」スッ

 

 

 私は自分の寝室を後にし、館のキッチンに向かう

 

 

 

 

 

咲夜「…」

 

 

 

 私は、まだ諦めていない

 

 

 

 

 【紅魔館 キッチン AM5:30】

 

 

 私は朝食の準備をする、と言っても一から作りはしない…ケーキ、クッキー、サンドウィッチ、紅茶等々

 

 既に作られている物を皿に乗せ、銀製のトレイカートに乗せていくだけ

 

 

咲夜「……」

 

 

 これは私から見て五日前に、私が作って冷蔵庫に閉まっていた料理だ

 

 

咲夜「また同じもの」

 

 

 朝、昼、晩と同じ食べ物を食べ続ける事は私にとって拷問に近いが、今のお嬢様たちはそんなことは感じないのであろう、何故ならお嬢様たちはこれを初めて食べるのだから

 

 

咲夜「……」

 

 

 私だって同じ食べ物を作り、食べさせ続けるなんて酷く愚かしい行為はしない、したくない…

 

 だけど無意味なのだ、そう考えるのも他の物を作るのも

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

 私はキッチンの隅の床に座り、両膝を抱えて顔を伏せ、目を閉じる

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜(……)

 

 

咲夜(お嬢様も、パチュリー様とこあも駄目だった)

 

 

咲夜(……後は…霊夢…)

 

 

咲夜(……霊夢ならきっと…)

 

 

咲夜「…」

 

 

 

 私はキッチンで少し時間を置いてから紅魔館の地下図書館に向かった

 

 

 

 

 【紅魔館 地下図書館 AM7:00】

 

 

小悪魔(こあ)「咲夜さーん♪ おっはよーございまーす♪」

 

 

パチュリー・ノーレッジ(パチェ)「おはよう、咲夜」

 

 

咲夜「……おはようございますパチュリー様」スッ

 

 

こあ「あ、あっれー…? 私の事はむ、無視ですか? 咲夜さ~ん…?」

 

 

咲夜「……」

 

 

パチェ「朝からそんなにテンション高く出来ないでしょ? 疲れるだけなんだから」

 

 

こあ「そ、そうですよね! あっははははは……」チラッ

 

 

咲夜「……」チラッ

 

 

こあ「うっ……」ビクッ

 

 

咲夜「…おはよう、こあ」

 

 

こあ「お、おはようございます…!」

 

 

パチェ「ふふっ…♪ あぁ咲夜、私は紅茶だけで良いわ」

 

 

咲夜「…はい」スッ

 

 

 こんな時でも思う、パチュリー様にはもっと食べていただいて健康的な食生活を送ってほしいと

 

 

こあ「…あっ! 咲夜さ~ん♪ 私今日はココアが飲みたい気分なん」

 

 

咲夜「はい」スッ

 

 

こあ「えっ!?」

 

 

咲夜「ココアならあるわ」

 

 

こあ「い、いただきます…?」スッ

 

 

咲夜「……」

 

 

こあ「ズズッ…! あ、本物のココアだ…」

 

 

パチェ「何故疑うのよ…まぁ普段朝にココアなんて作らないからね、咲夜は」

 

 

咲夜「……」

 

 

こあ「話さなくても私の飲みたい物が分かるなんて…♪ 流石咲夜さんですね♪」

 

 

パチェ「咲夜が偶然用意していたから良かったけど、無かったらキッチンまで作らせに行かせるつもりだったの?」

 

 

こあ「そ、そんなことさせるわけないじゃないですか! 悪魔じゃないんですから」

 

 

パチェ「あなた充分悪魔じゃない」

 

 

 こうやって褒められるのは嬉しいけど何度も何度も同じ事を褒められていると流石に空しくなってくる

 

 

咲夜「……パチュリー様」

 

 

パチェ「なに? 咲夜」

 

 

咲夜「今日は何日でしょうか」

 

 

パチェ「え? 16日よ?」

 

 

咲夜「……」

 

 

 まただ…また……

 

 

こあ「んん? 珍しいですね、咲夜さんが日にちを聞くなんて」

 

 

咲夜「……何月ですか?」

 

 

パチェ「…? 10月16日よ」

 

 

咲夜「……そうですか」

 

 

パチェ、こあ「?」

 

 

 パチュリー様とこあは不思議そうな顔をしてお互いの顔を見合わせる、これを見るのは三回目

 

 

こあ「…咲夜さん?」

 

 

パチェ「大丈夫…? 咲夜」

 

 

咲夜「何がでしょうか」

 

 

こあ「何がって、時間とかにいつも正確な咲夜さんが日にちを聞くから…それに月まで」

 

 

咲夜「私が日にちを聞くのがそんなに変?」

 

 

こあ「いや、変とかじゃなくてですね、ただ珍しいなぁと…」

 

 

咲夜「……」

 

 

パチェ「…咲夜、何かあるの?」

 

 

咲夜「……」

 

 

 ここまでは同じ、三日前に同じ質問をパチュリー様にされ、パチュリー様に私の身に起こっている異変を事細かく打ち明けた…だが結果は…

 

 

 

咲夜「……いえ、何も…」

 

 

パチェ「…本当に?」

 

 

咲夜「はい、まだ少し寝ぼけていまして」

 

 

パチェ「そう、ならいいけど」

 

 

咲夜「……申し訳ありませんパチュリー様」スッ

 

 

パチェ「構わないわ、でも何かあるのなら私に言いなさい、力になるから」

 

 

こあ「私も力になりますよ! 咲夜さん!」

 

 

咲夜「ありがとうございますパチュリー様…あなたもありがとね、こあ」

 

 

 

 ここで真相を打ち明けないとこうなる、パチュリー様とこあを不安にさせる

 

 

 

 目頭が少し熱くなるのを感じる、本気で心配をしてくれているという優しさを自分の身に感じていたから

 

 でも私は…

 

 

 ごめんなさいパチュリー様…

 

 ごめんね、こあ…

 

 

 

 

 

 【レミリアの自室 AM7:30】

 

 

 地下図書館を後にした私はお嬢様の自室へ、お嬢様に朝食を用意するためだ

 

 

レミリア・スカーレット「はぁ、もうすぐハロウィンよねぇ…♪ 今度は何に仮装してやろうかしら♪ 前回はパチェに何故かお説教されたのよね」

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

レミリア「聞いてよ咲夜、魔理沙に『カボチャの着ぐるみを着てジャック・ウ~☆・ランタンってのはどうだ!?』って言われたのよ? いや『どうだ!?』じゃないってのよ! 私は好きでう~う~言ってる訳じゃないのにさぁ」

 

 

咲夜「……」カチャッ

 

 

レミリア「そりゃあ、ちょっと嫌な事があったら両手で帽子を深く被って防御するときはあるけど頻繁にう~う~言うほど私のカリスマは薄れてなんかいないのよねぇ…全く、魔理沙には私が直々にカリスマの何たるかを教えてあげる必要があるわね♪ そう思わない? 咲夜」

 

 

咲夜「……そうですね」

 

 

レミリア「……咲夜?」

 

 

咲夜「はい…」

 

 

レミリア「今の私の話をちゃんと聞いてたの?」

 

 

咲夜「はい、お嬢様が魔理沙にカリスマの何たるかを教える話ですよね」

 

 

レミリア「そうそう♪ それでさ、私考えたんだけどフランに」

 

 

咲夜「妹様にカリスマの何たるかを教えた後、魔理沙と頻繁に遊ばせて徐々にお嬢様のカリスマに気付かせる作戦ですか?」

 

 

レミリア「えっ…? うぇぇぇ!? な、何で分かったの!?」

 

 

咲夜「お嬢様のお考えになっている事なら何でもお見通しですので」

 

 

 またお嬢様に嘘をついた、これは何回目になるだろうか

 

 

レミリア「! ふっふっふ…♪ さっすが咲夜ね! で、どうかしら? この作戦成功すると思う?」

 

 

咲夜「……作戦の成功をお祈りしております」

 

 

レミリア「そう…! ……えっ、祈るだけ? 手伝ってくれたりしないの?」

 

 

咲夜「お嬢様の高貴なるカリスマを私のような一介のメイドが語るなど恐れ多い事ですので」

 

 

レミリア「…いやでも咲夜なら」

 

 

咲夜「お嬢様」

 

 

レミリア「う、うん?」

 

 

咲夜「朝食の用意が整いました」

 

 

レミリア「あ…うん、ありがと」

 

 

咲夜「……」

 

 

レミリア「あぁ今日も美味しそう、たまには洋食も悪くないわねぇ♪ サンドウィッチは吸血鬼の嗜みだものねぇ♪」

 

 

咲夜「……」

 

 

レミリア「咲夜」

 

 

咲夜「はい」

 

 

レミリア「いつも美味しい料理を作ってくれて、ありがとうね♪」

 

 

咲夜「っ……!」

 

 

咲夜「……はい」フルフル

 

 

 私の声は震えていた

 

 お嬢様の眩しい笑顔を見たいから同じ事を繰り返していたい、その思いが一瞬頭を過った…

 

 そう思った自分に腹が立つ

 

 この状況を楽しんではいけない

 

 

レミリア「ふふっ…♪ では、いっただっきまーす♪」

 

 

咲夜「……」

 

 

 

 私は今、お嬢様の顔を直視できない…色々な嘘をつき続けていることから来る自分への戒め、自らが犯した罪の意識

 

 そしてお嬢様に心配をかけまいとする私のエゴ、お嬢様に私が何か思い悩んでいることがある…それを見破られてしまうのを回避する為でもある

 

 パチュリー様と同じ様にお嬢様にも私の身に起こっている異変を打ち明けた、それが昨日、一日前のこと

 

 だがそれはお嬢様にとっては無かった時間となった、パチュリー様とこあにも言える事…過去でも、未来でも、現在でもない

 

 存在すら許されなかったのか、それとも最初から存在していなかったのか

 

 

 その時間も殺された物になってしまっている

 

 

 

咲夜「……それではお嬢様、私はこれにて」

 

 

レミリア「あら咲夜、何処へ行くの?」

 

 

咲夜「…人里に買い出しです」

 

 

 これも嘘

 

 

レミリア「朝から? 早いわね」

 

 

咲夜「今日は館の掃除をメイド妖精とホフゴブリンたちに任せておりますので、食べ終わった食器等はメイド妖精たちが回収しに伺います」

 

 

 これも嘘だ、普段の私なら妖精とゴブリンたちだけに館の掃除等を任せるなんて事はしない

 

 

レミリア「ふーん、珍しいわね」

 

 

咲夜「……」

 

 

レミリア「まぁ良いわ、気を付けて行ってきなさいね」

 

 

咲夜「はい、ありがとうございます…」スッ

 

 

咲夜「それでは失礼致します…お嬢様」

 

 

レミリア「ふふっ、また後でね咲夜」

 

 

咲夜「はい…」スッ

 

 

咲夜「…お嬢様」

 

 

レミリア「あら、なぁに?」

 

 

咲夜「昨日のことを覚えていますでしょうか」

 

 

レミリア「昨日…? へ? 何かあったっけ?」

 

 

咲夜「…いえ、何でもありません」

 

 

レミリア「えぇ?」

 

 

咲夜「失礼します…」スッ

 

 

 

 ガチャッ…バタン

 

 

咲夜「……」

 

 

 申し訳ありません…お嬢様…

 

 

 

 

 

 本当は人里に買い出しになんて行かない…私が今日向かうのは

 

 

 博麗神社

 

 

 

 

 【紅魔館門前 AM 8:00】

 

 

 

フランドール・スカーレット「あ! 咲夜~♪」ダキッ

 

 

咲夜「あっ…! い、妹様…」

 

 

紅美鈴「ふふっ…♪ おはようございます、咲夜さん」

 

 

フラン「おはよ、咲夜♪」

 

 

咲夜「美鈴、妹様…おはようございます」

 

 

 

 妹様と美鈴には私の身に起こっている異変の事は話していない、と言うよりも話したくないのだ

 

 

 話してしまったらまたその話した時間を何かに殺されてしまうのではないか、そうなってしまったら私は二人と顔を合わせづらくなってしまう…

 

 話さないことで妹様と美鈴に罪悪感を抱かなくて済む、複雑な心境を抱えたままにしていたら普通に接する事なんてできない

 

 それに妹様と美鈴まで巻き込んで無かった事にされたら私は心の拠り所を無くしてしまう

 

 

 妹様と美鈴を利用している様で本当は嫌なのだけれど、今の私が正気を保ち続けていられるのは二人のおかげ

 

 

 

咲夜「……」

 

 

美鈴「おや、咲夜さん珍しいですね、朝に門の方に来るなんて」

 

 

咲夜「妹様がこちらに来ていらっしゃると思ったからね、それと用事があるの」

 

 

フラン「え? 良く分かったね咲夜」

 

 

咲夜「妹様の事なら何でもお見通しですよ」

 

 

フラン「! えへへへ…♪ なんかそう言われると嬉しいな…♪」

 

 

咲夜「…♪」ニコッ

 

 

 私は妹様に微笑み返す

 

 妹様の笑顔を消さない為に、その為なら何度でも何度でも微笑み返せる…

 

 

咲夜「妹様、朝食の用意が整いましたのでお召し上がりくださいませ」

 

 

フラン「うん♪ あ、ねぇねぇ、ここで食べていい?」

 

 

咲夜「はい、今日はサンドウィッチですのでそこのガーデンテーブルにて…美鈴も一緒にね」

 

 

美鈴「! はい、ありがとうございます!」

 

 

 紅魔館の庭にある、太陽避けのパラソルが指してあるガーデンテーブル…お嬢様と妹様が愛用している物だ

 

 

フラン「咲夜も一緒に食べる?」

 

 

咲夜「……お誘いありがとうございます、ですが今日私には予定がありますので…」

 

 

フラン「えぇ~!」

 

 

美鈴「ふふっ、残念でしたね妹様、でも分かってあげてください、咲夜さんだって妹様と朝食をご一緒したくないという訳ではないのですよ?」

 

 

フラン「むぅ~……そうなの? 咲夜」

 

 

咲夜「……もちろんでございます…」

 

 

フラン「そっか…いつも忙しいもんね、咲夜は」

 

 

咲夜「……」

 

 

フラン「でも今度は絶対一緒に食べようね! 約束だよ!」スッ

 

 

咲夜「っ……! はい……」スッ

 

 

 妹様と私の小指を重ねる、この同じ約束を私は四回もしている…この約束を明日は絶対に果たしてみせる

 

 

美鈴「ふふっ…♪ ところで咲夜さん、予定と言うのは?」

 

 

咲夜「…人里に買い出しよ」

 

 

美鈴「あ、そうでしたか」

 

 

フラン「ぶー、良いなぁ、私も買い出しに行きたいなぁ」

 

 

咲夜「……それもまた今度…私と共に行きましょう、妹様」

 

 

フラン「! うん♪ じゃあこれも約束ね♪」ニコッ

 

 

咲夜「はい、約束です♪」ニコッ

 

 

 またお互いの小指を重ねる、この約束は初めてした

 

 

フラン「行ってらっしゃい、咲夜♪」

 

 

美鈴「行ってらっしゃいです、咲夜さん」

 

 

咲夜「…! 行って来ます……」スッ

 

 

 今回は時間を殺される訳にはいかない

 

 

 

 【博麗神社近辺、上空】

 

 

咲夜「……」

 

 

 お嬢様たちに『博麗神社に向かう』と伝えなかったのは話を拗らせたく無かったからだ、私だけの問題なのかは分からないけど

 

 

咲夜(この異変を…早く解決しなければ……)

 

 

 

 

 【博麗神社 AM8:30】

 

 

咲夜「着いたわね……」

 

 

咲夜(霊夢は居るでしょうけど…出来れば一人で居てほしいわ)

 

 

 カツンカツン…

 

 

咲夜「……!」

 

 

博麗霊夢「はぁ…な~んか肌寒いわねぇ、これ本当に秋なのかしら」

 

 

咲夜「霊夢…!」

 

 

霊夢「ん? あら、咲夜じゃない」

 

 

咲夜「……」

 

 

霊夢「どうしたの? 朝早くから来るなんて珍しいじゃない、それにレミリア一緒じゃないみたいだけど…あんた一人? 本当に珍しいわね、まぁ別に居ようが居まいがどっちでもいいんだけどね」

 

 

咲夜「……」

 

 

霊夢「……何よさっきから人の顔ジロジロ見て、私の顔に何か付いてる? てか喋りなさいよあんた…うん? 何かあんた顔色悪くない?」

 

 

咲夜「…霊夢……話があるんだけど」

 

 

霊夢「私に話があるからここに来たんでしょ? はぁ…ちょっと待ってなさい、今お茶をいれてくるか…うん…?」ガッ

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

霊夢「…何? いきなり人の手を掴んで…は、放しなさいよ」

 

 

咲夜「……」

 

 

霊夢「…? 何なのよ、あんたさっきから変よ?」

 

 

咲夜「霊夢、先に私の話を聞いてほしいの…信じてもらえるか分からないけど、もうあなたしか頼りになれる人がいなくて」フルフル

 

 

霊夢「……」

 

 

咲夜「っ…! 助けて、霊夢…!」

 

 

霊夢「…! ……」スッ

 

 

霊夢「ふんっ!」ブン

 

 

咲夜「! あっ…!」トスッ

 

 

 私は霊夢に手を引っ張られ、縁側に座らされた

 

 

霊夢「あんたねぇ…博麗の巫女に助けてほしかったらそれなりの態度ってもんがあるでしょうが」

 

 

霊夢「ここに座って、お茶が出てくるまで大人しく待ってなさい、良いわね?」

 

 

咲夜「! ……」

 

 

霊夢「……」ジーッ

 

 

咲夜「わ、分かったわ」

 

 

霊夢「ん♪ よろしい♪」ニコッ

 

 

 霊夢は私に少し微笑んだ後、台所にお茶をいれに行った

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜(霊夢の顔を見ていると何故かホッとする)

 

 

咲夜(他の妖怪たちもこう思っているのかしら…)

 

 

咲夜(……)

 

 

 

 

 数分後、戻ってきた霊夢から湯飲みを受け取り、お茶を飲む。

 

 お茶の暖かさに心が少し和らいだが、安心しきれていない自分がいる、原因不明の異変を解決しない限り私が安心することはできない…

 

 

 隣に座りお茶を飲んでいる霊夢に私は、何故ここに来たのか、そして私の身に起こっている異変について話した

 

 

 

 

霊夢「10月16日が繰り返されている…ですって? …あー? 今日って10月16日よね? あんた何を言っ…」

 

 

咲夜「……」

 

 

霊夢「……」

 

 

咲夜「霊夢…これは本当の事で…!」

 

 

霊夢「……」

 

 

咲夜「っ……」

 

 

霊夢「それって何て言ったら良いのかしら、それともあんたに最初に何て聞くべきなのかしらね」

 

 

咲夜「! …信じてくれるの?」

 

 

霊夢「当たり前でしょ、あんな真剣な顔したあんたに『助けて』なんて言われたら信じるしかないじゃない…初めて見たしね、あんたのそんな顔」

 

 

咲夜「…!」

 

 

霊夢「咲夜の事は信じる、でもまだその『繰り返されている』ってのには納得しかねるわね、そこら辺はちゃんと説明してもらうわよ?」

 

 

咲夜「! えぇ、もちろんよ」

 

 

 

 

 

霊夢「まず、そうね…繰り返されているってあんたが 気が付いたのは何時なの?」

 

 

咲夜「今から四日前になるわね」

 

 

霊夢「四日前…って言うと10月12日?」

 

 

咲夜「正確に言うと10月16日が繰り返されるようになった次の日、10月16日の二回目って事」

 

 

霊夢「うん? あ…あぁあぁ分かった分かった…はぁ、ややこしいわね」

 

 

咲夜「…本当に最初から説明した方が良さそうね」

 

 

霊夢「そうしてくれる? 手掛かりが掴みやすくなると思うから」

 

 

咲夜「始めは…私から見て今から六日前になるわね、10月15日は普通に紅魔館で一日を過ごし、仕事を終え、明日の朝食の下拵えをしてから床に就いたの」

 

 

霊夢「……」

 

 

咲夜「そして次の日、今から五日前の最初の10月16日、ここから異変は始まってたんだと思うの」

 

 

咲夜「その日は普通に過ごしていたわ、何の変哲もない私の日常、紅魔館での何気ない日々…朝に起きて、お嬢様たちの朝食をお出しして、メイド妖精たちに色々と指示をして、館の掃除をして…と15日と何ら変わらない日々だった、そして15日と同じ様に次の日の朝食の下拵えをして一日を終えたの」

 

 

咲夜「そしてまた床に就いた、次の日の17日の為に眠りについた」

 

 

咲夜「でも私を待っていたのは17日の紅魔館の日々じゃなかった…また同じ16日だったの」

 

 

霊夢「…その日にあんたは16日が繰り返されているって気が付いたのね」

 

 

咲夜「そうよ…」

 

 

霊夢「…どうして気が付いたの?」

 

 

咲夜「気になる点がいくつかあるからよ、まず16日の夜に用意していた17日の朝食が冷蔵庫から最初から何も無かったかのように全て消えていた、確認したら使った食材まで元に戻っていた、これは最初は変…ぐらいにしか思わなかったわ」

 

 

咲夜「次はお嬢様たちの言動よ、昨日…いや16日と全く同じ事を言うの、一言一句を寸分違わずに…私が覚えている限りの返答や返事をすると全く同じ言葉が返ってくる」

 

 

咲夜「こあからはココアが飲みたい、パチュリー様からは仕事を頑張って…お嬢様からはハロウィンの話を、妹様と美鈴からは館の庭で花の話をする」

 

 

咲夜「最初は何かのイタズラなのかと思ったわ、でも10月に誰かの記念日とかがあるわけでもないし、私に内緒で何かのパーティーの計画なんてしている素振りなんて無かった…だから違和感を覚えた私はパチュリー様に聞いたの『今日は何日ですか?』と、そしたら」

 

 

咲夜「『今日は16日よ?』と言われたの」

 

 

霊夢「…」

 

 

咲夜「信じられなかった…信じられるわけが無かった…だって訳が分からないじゃない、16日の夜の22時に寝た筈なのに何故また16日がやってくるのか…私がおかしいのか、それとも周りがおかしいのか…何を信じたら良いのか分からなくなった」

 

 

霊夢「そりゃあ……そうなるわね」

 

 

咲夜「その時に気が付いたのよ、何らかの理由で時が戻ったか、それとも時が繰り返されているか…とね」

 

 

咲夜「だから私はその日の一日を使って原因を突き止めようとしたの、館の周りを探ってみたり、図書館の本で調べたり、普段近寄らない館の地下牢獄に行ってみたりしたの…だけど収穫は一つも無かった」

 

 

咲夜「色々と調べてて疲れていたけど、館の仕事はやらなきゃいけない…一旦調べるのをやめて、能力を使って時間を止めていつもの様に掃除をしようと思ったの、でも…」

 

 

霊夢「? でも…?」

 

 

咲夜「そこでまた新たな発見をしたの、偶然だったのかもしれないけど」

 

 

霊夢「何なの?」

 

 

咲夜「能力が使えないのよ」

 

 

霊夢「えっ…!?」

 

 

咲夜「これ…」スッ

 

 

 私は霊夢に懐中時計を見せる

 

 

咲夜「私はいつも時を止めるときに懐中時計を使っているのは知ってるわよね?」

 

 

霊夢「えぇ、でも使わなくても止められるんでしょ?」

 

 

咲夜「まぁ使うのは癖みたいな物なんだけど、ほら…使うわよ」スッ

 

 

 カチッ…! カチッ…!

 

 

霊夢「!」

 

 

咲夜「今私は能力を使おうとしてるけど使えない、発動してくれないの」

 

 

霊夢「能力が使えない…あんたの言う時の繰り返しと何か関係があるとしか思えないわね」

 

 

咲夜「えぇ、何故使えないのか…それすら分かってないんだけど」

 

 

霊夢「……」

 

 

咲夜「……」

 

 

霊夢「その日は?」

 

 

咲夜「掃除を妖精たちに任せてお嬢様たちの食事の用意をして一日を終えたの」

 

 

霊夢「その後は寝たのよね?」

 

 

咲夜「えぇ、疲れていたからね……また16日がやってくるんじゃないかって心配しながらだったけど」

 

 

霊夢「……でも、また」

 

 

咲夜「次の日も16日だった、それが三回目の16日…」

 

 

霊夢「その日は何を?」

 

 

咲夜「また16日だと知った私はパチュリー様とこあに打ち明けたの、10月16日が繰り返されているってね」

 

 

咲夜「私の話を聞いて最初はパチュリー様とこあは半信半疑だったけど、最終的に信じてくれたの」

 

 

咲夜「頼もしかったし、何よりとっても嬉しかった…信じてくれるなんて思ってなかったからね」

 

 

霊夢「…パチュリーたちだって私と同じ気持ちだったんじゃない?」

 

 

咲夜「ふふっ、そうかもね」

 

 

咲夜「混乱を招かない為にお嬢様と妹様、美鈴には言わずにいてくれたの、こあは私にずっと付きっきりだったし、パチュリー様も持てる全ての知識を使って私をサポートしてくれた…時が繰り返されている原因を探るために」

 

 

咲夜「……でも結果は」

 

 

霊夢「! ……ダメ…だったのね」

 

 

咲夜「こあは私をずっと見てくれていたけどおかしな所は何も見つからず、聡明なパチュリー様でも原因は分からないまま一日が終わってしまった…」

 

 

咲夜「そして次の日の四回目の16日……」

 

 

咲夜「16日は繰り返されている…そこは分かっていた、そして分かったことがもう一つあった」

 

 

霊夢「…?」

 

 

咲夜「パチュリー様とこあに打ち明けたという事実は私の心に残っているけれど二人にはそれが無かったの」

 

 

霊夢「!」

 

 

咲夜「何事も無かったかの様に『私の身に起こっている事を聞き、私の為に協力してくれた』という事実が無くなっていたのよ…」

 

 

咲夜「それがどんなに苦痛だったか…言葉に表せられない程の地獄だった」

 

 

咲夜「二人の前でどんな顔をして良いのか、どんな表情をすれば良いのか分からなかった、分からなくなった…」

 

 

咲夜「どうすればいいのかも分からなくなってしまった私は館の自室に閉じ込もって踞っていたの……でもそんな時に声を掛けてくれた方がいたの、お嬢様だった…」

 

 

咲夜「お嬢様は私にどうして踞っているのか理由を問いただしたわ、でも言いたくなかった…また言ったとして、時を戻されて無かった事にされたら? …そう思ったら恐くなってしまったから」

 

 

咲夜「でもお嬢様は優しく私に言葉を掛けてくれたわ、『何に悩んでいるのかは分からないけど、どんなことでも咲夜の力になる』と…お嬢様にそんなことを言われたらその好意を無下にすることなんてできるわけないじゃない」

 

 

咲夜「だからパチュリー様とこあと同じ様に、お嬢様にも打ち明けたの、四回目の16日であること、そしてパチュリー様とこあに協力してもらった三回目の16日が存在していた事をね、お嬢様は直ぐに信じてくれた…疑いもせずにね」

 

 

霊夢「あいつらしいわね、レミリアは何をしたの?」

 

 

咲夜「私の側から一日離れない…ということをしてくれたの、こあと似てるけど違う事を二つしてくれたのよ、能力と提案ね」

 

 

咲夜「一つは能力『10月17日が訪れる様に運命を操ってあげる』と私の為に能力を使ってくれたの…そして提案…これは10月17日が訪れるまで寝るという行為をしないこと、私が寝ない様に私の寝室に一緒に居てくださったの」

 

 

霊夢「つまり能力で運命を引き寄せる事をしつつ、私と一緒にずっと起きてなさいって事ね」

 

 

咲夜「そうなるわね」

 

 

霊夢「レミリアの能力でどこまで運命を引き寄せられるかは分からないけど、あいつが今の咲夜にしてあげられる最高の作戦よね」

 

 

咲夜「えぇ、そうね…」

 

 

咲夜「……そう、そうなの…お嬢様がそこまで私の為にしてくださったのに…それなのに」フルフル

 

 

霊夢「……」

 

 

咲夜「……」フルフル

 

 

霊夢「レミリアは良くやってくれたわよ、もちろんパチュリーも小悪魔も…フランと美鈴にはあんた自身が相談してなくても勇気と元気をもらってるんでしょ?」

 

 

霊夢「例え覚えていなくても咲夜の為に行動したのは事実よ、それは偏にあんたを助けてあげたかったから、救いだしてあげたかったからよ」

 

 

霊夢「そして私も」

 

 

咲夜「! 霊夢…」

 

 

霊夢「か、勘違いするんじゃないわよ…!? あんたの話を聞けば聞くほどこれは確実に異変だってのが分かったし、朝早くから来て助けてってあんたが依頼して来たから…博麗の巫女としてはほっとけないでしょうが! そ、それに…/// あ、あんたとは長い付き合いだからね…/// 助けてあげたいって気持ちは私にもあるの!」

 

 

咲夜「! ぷふっ…!」

 

 

霊夢「な、何で笑うのよ!」

 

 

咲夜「ご、ごめんなさい…ふふっ…!」

 

 

咲夜「……ありがと、霊夢」

 

 

霊夢「! っ……/// それは異変解決してから言いなさい」

 

 

咲夜「ふふっ…」

 

 

 

 

 

 

霊夢「異変に関しての情報はこれだけなの?」

 

 

咲夜「……お嬢様が提案してくださったから得られた情報があるの」

 

 

咲夜「昨日四回目の16日、深夜24時になる直前に強烈な睡魔に襲われたの」

 

 

霊夢「睡魔?」

 

 

咲夜「立っていられない程だったわ、目眩とかそんなレベルのモノじゃなかったわね」

 

 

霊夢「24時になる直前…? つまりは日付が変わる瞬間になるわね」

 

 

咲夜「そのまま倒れる様に寝てしまったの、気付いたら今日の朝になっていて部屋にはお嬢様の姿が無かった…」

 

 

霊夢「……」

 

 

霊夢「ふーん…なるほどね」

 

 

咲夜「何か分かったの?」

 

 

霊夢「たぶんね、それにやることも決まったわ」

 

 

霊夢「ほぼ確実に咲夜を狙う何かがいるのは確かよね」

 

 

咲夜「!? 私を…狙う…?」

 

 

霊夢「最初から気になってたんだけど咲夜から見て五日前、時が繰り返されているって異変が起こってる訳よね」

 

 

咲夜「え、えぇ」

 

 

霊夢「その五日間を不思議に思っているのはあんただけ…時が繰り返されているって感じて自覚をしてるのは咲夜だけなのよ、私にはそんな自覚がないしあんたが今日現れなければ明日は17日が来るって思いながら今日一日を過ごしてた筈よ、いえ、そんなこと普通思わないかもね『明日は絶対17日だ!』なんてさ」

 

 

霊夢「この事から咲夜以外の人は何故か記憶をリセットされて16日を永遠にループしているのことになるわね」

 

 

咲夜「…!」

 

 

咲夜(ループ…)

 

 

霊夢「咲夜、あんた私以外の幻想郷住人に会った?」

 

 

咲夜「いえ…あなたと、館のみんな以外には会ってないわね」

 

 

霊夢「他の住人がこのループを感じているのなら私に何か相談なりなんなりしに来る筈…咲夜からしてみればもう五日間もループしてるんだからね」

 

 

霊夢「それとあんたの能力が使えないのも関係ありでしょ? もしかしたらその何者かに能力を盗られた可能性もなくはない」

 

 

咲夜「能力を盗られたって…そ、そんなこと」

 

 

霊夢「あり得ないって言うの? あんた今能力使えないのに? 時が繰り返されているのは信じるのに?」

 

 

霊夢「それに咲夜だけが記憶を維持してるなんておかしいじゃない…」

 

 

咲夜「…!」

 

 

霊夢「……咲夜だけを狙っているのか、それとも幻想郷全土を狙っているのか、まだハッキリしてないけどそいつを野放しにしてたら大変な事になるわね」

 

 

 霊夢は体を右へ、左へと大きく動かす

 

 

霊夢「まだ正体も掴めてないけどっ…よっと…! 異変の犯人はコソコソしながら時間を弄んで機会を伺ってる様な奴…はぁ、めんどくさそうな奴が相手ね」グイッ

 

 

霊夢「でも博麗の巫女としてこの異変、絶対に解決してみせるわ」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜(四日間、紅魔館の外に出てなかったから分からなかった…そう、これは私だけの問題じゃない、他の住人の時も戻され、繰り返されているのならかなりの大事件、異変を超えた大異変)

 

 

咲夜「…霊夢」

 

 

霊夢「うん?」

 

 

咲夜「私も、異変解決に協力させて」

 

 

霊夢「ふっ、もちろんそうしてもらうつもりだったわよ? この異変を解決するための最初の糸口はあんた…咲夜が鍵なんだからね」

 

 

咲夜「えぇ、分かってる」

 

 

咲夜「でもどうするつもり? 私たちは異変の犯人の事を知らなさすぎるわ、足取りもまだ」

 

 

霊夢「唯一、そいつが動く時があるじゃない」

 

 

咲夜「…?」

 

 

霊夢「咲夜…日付が変わる直前までここにいてもらうわよ♪」

 

 

咲夜「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【博麗神社 PM 23:30】

 

 

 

 日付が変わる直前の時間まで私と霊夢はただひたすらに待った……私たちは今、境内で異変解決に向けての準備をしている。

 

 

 待っている間、少しだけ疑問に思っていることがあった、何故か今日に限って神社への来客は私一人だけだった事だ…魔理沙や妖精たちや妖怪たちが神社に来ない日があるのか、と

 

 …でも来ない方が良かったのかもしれない、説明をして余計な混乱を招いたら大変だからだ

 

 でも鈴仙や妖夢、魔理沙たちが神社に来てくれていたら私の身に起こった…いや、この時の異変の解決に力を貸してくれていたと思う……お嬢様たちも

 

 

 一度紅魔館に戻ってお嬢様たちに説明したかったのだけれど『異変を解決してから戻って説明すればいい』と霊夢に言われて私は神社に踏みとどまった

 

 お嬢様たちに嘘をつき、夜遅くになっても帰らない私をお嬢様たちは待ち続けているのであろう…今はそうであってほしい

 

 

 お嬢様、妹様、パチュリー様、美鈴、こあ

 

 必ず異変を解決し戻ります、もう少し待っていて下さい

 

 

 

 

 

霊夢「……ふぅ、しっかし魔理沙が来なかったのは意外だったわね、あいつにこの異変の話をしたら喜んで解決に協力したでしょうにね」ガリガリ

 

 

咲夜「もしかしたら自分で気が付いてて何か試行錯誤してたりするのかも」

 

 

霊夢「ははっ、ならさっさと解決してほしいもんだわね『霊夢~! 時の異変なら私が解決してやったぜ~!』とか言いながら今現れたらどうする?」ガリガリ

 

 

咲夜「ふふっ…やりかねないわね」

 

 

霊夢「私たちの準備が無駄になるからそれはそれで嫌なんだけどねぇ…よっ、描けたわ」ガリガリ

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

咲夜「……霊夢、ここで良いのね?」

 

 

霊夢「えぇ、そこに立ってちょうだい」

 

 

 霊夢が地面に博麗の術式を描き、その描かれた術式の中心に私は立っている、陰陽玉をそのまま絵にした形の術式だ

 

 

 何度か宴会で酔っぱらった霊夢が見せてくれたのを覚えている

 

 

霊夢「いい? もう一回説明するけどこの『時の異変』はあんたを中心として起こっていると私は見ている、あんたが能力を使えないのもあんただけが時が繰り返されているのを自覚して覚えているのもそれが理由の筈よ」

 

 

霊夢「あっちが咲夜を利用しているなら、こっちもあんたを利用させてもらう、相手の裏をかくのよ」

 

 

霊夢「あんたがくれた情報で引っ掛かったのは『日付が変わる直前に強烈な睡魔に襲われる』ってところ、恐らくその時にこの異変の犯人はあんたに干渉し、眠らせているんだと私は推測してる」

 

 

霊夢「これが正しいならあんたを結界で隔離して干渉させなきゃ良いだけの話よ、そして出てきた所を」

 

 

咲夜「退治する…」

 

 

霊夢「ふふっ、それで異変解決よ♪」

 

 

咲夜「! えぇ、今回ばかりは手柄はあなたに譲るわ」

 

 

霊夢「ふっ、最近あんた異変解決してないじゃない」

 

 

咲夜「館の仕事が忙しいからね」

 

 

霊夢「…あっそ」

 

 

霊夢「……咲夜、いま何分?」

 

 

咲夜「…! 50分よ」

 

 

霊夢「そろそろね…行くわよ咲夜…!」スッ

 

 

咲夜「…!」コクン

 

 

霊夢「はあぁぁ…!」

 

 

 霊夢に霊力が集まっていく

 

 

霊夢『陰陽結界!』パンッ

 

 

咲夜「!」

 

 

 霊夢が両手を叩くと私の周りを円形の青白い結界が覆った

 

 

咲夜「…!」

 

 

霊夢「……ふぅ、成功」

 

 

霊夢「咲夜、結界の中から出ようとするんじゃないわよ? その青白い部分に触ったら焼け焦げるからね?」

 

 

咲夜「随分と強力な結界ね」

 

 

霊夢「それだけ私は本気って事よ、そして~…!」スッ

 

 

霊夢『二重結界!』パンッ

 

 

 霊夢の周りを赤い結界が覆った

 

 

咲夜「自分にも結界を?」

 

 

霊夢「私も眠らせたら終わりでしょ? 念には念よ」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「霊夢」

 

 

霊夢「ん?」

 

 

咲夜「…もし…もし私が眠ってしまったら…」

 

 

霊夢「あー? なに弱気になってるのよ、結界張ってあるんだから大丈」

 

 

咲夜「もしもの話よ」

 

 

霊夢「…! ……」

 

 

霊夢「……目が覚めたら、17日よ」

 

 

咲夜「…!」

 

 

霊夢「博麗の巫女、なめんじゃないっての♪」ニコッ

 

 

咲夜「! ふふっ…! 信じてるわ、霊夢」

 

 

霊夢「ふっ…! 咲夜、時間は?」

 

 

咲夜「! 後…一分!」

 

 

霊夢「ちょうどいいわね、良し…来いっ!」

 

 

咲夜「……」

 

 

 大丈夫…! 大丈夫だから…!

 

 

咲夜「…後20秒!」

 

 

霊夢「…!」スッ

 

 

咲夜「…!」

 

 

咲夜「5、4、3、2、いっ……!?」

 

 

 

 グワングワンと頭が激しく回る感覚が私を襲った

 

 

 同時に瞼が重くなっていくのが分かった

 

 

 

咲夜「れ…れい……む」

 

 

咲夜「っ……!」

 

 

 視界が歪んでいく 何が起こっているか分からない

 

 

咲夜「……」

 

 

 

 

 

 自分の体が倒れるのを感じた

 

 

 結界は駄目だった でも私は信じている

 

 

 霊夢が異変を解決してくれると 

 

 

 明日は10月17日だと

 

 

 私は信じている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微かに時計の針が動く音が聞こえた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   コレガ ワタシノ ノゾンダ ジカン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」パチッ

 

 

咲夜「っ…!?」バッ

 

 

咲夜「はぁはぁ…!! はぁ…! はぁ…!」

 

 

咲夜「はっ! はっ、はぁっ…!? …!?」キョロキョロ

 

 

咲夜「…!? ! こ、ここは…!?」

 

 

 

 カチッ カチッ カチッ

 

 

咲夜「!! ……!? な、なん…で?」

 

 

 

 【紅魔館 十六夜咲夜の寝室 AM5:00】

 

 

咲夜「ど…どうして…わ、私はっ…! こっ、ここに…!?」フルフル

 

 

咲夜「……! 博麗神社で……! れ、霊夢に…話して…! れ、霊夢に…結界で…!」フルフル

 

 

咲夜「……その後は…」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「その後……!?」ゾクッ

 

 

咲夜「っ…!」スッ

 

 

 バァン!

 

 

 

 私は無我夢中で部屋を飛び出した

 

 

 

 

 【紅魔館 地下図書館】

 

 

咲夜「パチュリー様…! パチュリー様ぁ!」

 

 

こあ「あ! 咲夜さん、おはようございます! 早いですねぇ」

 

 

咲夜「! こ、こあ…!」

 

 

こあ「あれ? どうしたんですか? 着替えてないなんて珍し」

 

 

咲夜「こあ!」ガッ

 

 

こあ「ふぇっ!? な、なんですか!?」

 

 

咲夜「霊夢…! 霊夢は…!?」

 

 

こあ「れ、霊夢さん? 霊夢さんがどうかしたんですか?」

 

 

咲夜「私が眠った後に霊夢が異変を…!」

 

 

こあ「えっ…? えっ!? ね、眠った? 異変? 何の話ですか?」

 

 

咲夜「私は昨日博麗神社にいて…! それで…」

 

 

こあ「博麗神社…? えっ? 昨日咲夜さんずっと紅魔館にいたじゃないですか」

 

 

咲夜「!!?」ゾクッ

 

 

咲夜「……」フルフル

 

 

こあ「さ、咲夜さん? どうしちゃったんですか? な、なんか怖いですよ? それに体が震えてません? 大丈夫です…?」

 

 

 私は気が動転するのを抑えつつ恐る恐る聞いた

 

 

咲夜「こあ……今日は何日……」

 

 

こあ「へ? 今日ですか? 今日は…」

 

 

 

 

 

こあ「16日ですよ♪」

 

 

咲夜「!!」ピクッ

 

 

 まるで魂が抜かれた様に 全身の力がフッと抜けた

 

 

咲夜「……!! …!?」フルフル

 

 

 震えが止まらない 怖い 怖い 怖い

 

 

こあ「えっ!? さ、咲夜さん!?」

 

 

パチェ「…? 何やってるの?」

 

 

こあ「あ、パチュリー様…」

 

 

パチェ「咲夜…? 着替えもしないでどうしたの?」

 

 

咲夜「…? …!?」フルフル

 

 

パチェ「咲夜、あなた大丈」スッ

 

 

咲夜「……!? さ、触らないで!」フッ

 

 

 私はパチュリー様が伸ばしてきた手を払いのけた

 

 

 バチンと悲しい音が聞こえた気がした

 

 

こあ「ええっ!?」

 

 

パチェ「いったっ…! さ、咲夜! 何をするのよ!」

 

 

咲夜「!! ぁ……あぁ…!」フルフル

 

 

 差し伸ばしてくれた手を払いのけた

 

 その事実が私の気を狂わせようとしている

 

 

咲夜「っ……! っ…!」フルフル

 

 

こあ「咲夜さん! どうしちゃったんですか!?」

 

 

パチェ「咲夜…! 何かあるなら話して…」

 

 

咲夜「!!」スッ

 

 

 タッタッタッ!

 

 

こあ「えっちょっ…! 咲夜さん!?」

 

 

パチェ「ま、待ちなさい! 咲夜!」

 

 

 

 

 

咲夜「はぁはぁ! はぁっ…!」

 

 

 ダメだ ここに居たらおかしくなる

 

 

 

 

 【紅魔館、門前】

 

 

咲夜「はぁっ…! はぁ!」ポロッ

 

 

 逃げたい 逃げたい

 

 

 ここから逃げたい

 

 

美鈴「……おや、咲夜さん?」

 

 

咲夜「…!!」ダッ

 

 

美鈴「えぇ…? ちょ、ちょっと咲夜さん!」スッ

 

 

 美鈴に左手を掴まれた

 

 

咲夜「!? はぁはぁ…!」

 

 

美鈴「何処に行くんですか? そんなに慌てて、というか着替えてないなんて珍し…」

 

 

咲夜「…!!」ポロッ

 

 

美鈴「…!? さ、咲夜さんなんで泣いて…」

 

 

咲夜「…! 手をっ……! 放してっ…!」グッ

 

 

美鈴「あ、暴れないで下さいよ! 咲夜さんどうし」

 

 

咲夜「放してっ!!」スッ

 

 

 私は美鈴の手を無理矢理振り払った

 

 

美鈴「わっ!」

 

 

咲夜「!! っ……!」ダッ

 

 

美鈴「! 咲夜さん!」

 

 

 

 

 

 

咲夜「はぁはぁ…! うぅっ…!」

 

 

咲夜「はぁ…! はぁ…!」

 

 

 私は走った 走り続けた

 

 私の中に沸き出た恐怖から逃げる様に

 

 紅魔館から逃げる様にひたすら走った

 

 

 

 

 

 

 【妖怪の山 麓の湖】

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」

 

 

 私は湖に映る自分の姿を見ながら踞っていた

 

 

咲夜「……」

 

 

 異変が解決されていると信じて解決されていなかったから絶望したんだと思う、霊夢も失敗した

 

 気が動転していたとはいえ、あんなことをしてしまったら紅魔館に戻る資格がない、戻れない、戻る勇気も…ない

 

 戻ったとしてもまたあの悲劇の始まりだ、お嬢様たちに真実を話してもまた時が繰り返される、何をしようとも時が戻される

 

 霊夢のところに今行ったとしても同じだろう『覚えてない』で一蹴されるに決まってる

 

 誰を頼っても結果は同じ

 

 

咲夜「何処に行けば良いのかも…誰を頼ったら良いのかも…分からないなんて」

 

 

咲夜「……なら待ってれば良いじゃない、十六夜咲夜」

 

 

咲夜「日付が変われば時が戻されるのだから今日一日終わるまでここに一人でずっといれば良いのよ、そうすれば私が傷付けてしまったパチュリー様とこあ、美鈴はいなくなるんだから…」

 

 

咲夜「そう、グスッ…! 誰も覚えてっ…! ないんだからっ…! グスッ…!」ポロポロ

 

 

咲夜「グスッ……!」ポロポロ

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「あぁ……寂しいなぁ…私…」ポロポロ

 

 

咲夜「……」ギュッ

 

 

 全身に力が入る

 

 

咲夜「……」フルフル

 

 

咲夜「っ……! 誰か…! 誰かっ…! 私を…助けてっ…」ポロポロ

 

 

咲夜「お嬢様っ…! 私をもう一度っ…! うぅっ…!」

 

 

咲夜「っ…」フルフル

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜「時間は空間と密接に関係している」ブツブツ

 

 

咲夜「時間を操れれば空間を操れる」ブツブツ

 

 

咲夜「逆も同じ」ブツブツ

 

 

咲夜「逆……」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…!!」ハッ

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜「私にこんなことをする道理はない、いや犯人じゃなかったとしてもきっと…!」

 

 

咲夜「もう、あいつしか頼れない…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 【人里 中心街】

 

 

咲夜「……」キョロキョロ

 

 

咲夜(居る可能性は低いけどここに懸けるしかない!)

 

 

咲夜「はぁ…はぁ…」スタスタ

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…!」

 

 

 

 

八雲藍「んふふっ♪ ここの油揚げは美味しいからなぁ、何枚でも食べられ」

 

 

咲夜「藍!!」

 

 

藍「うわビックリしたぁ! な、なんだ! いきなり声をかけ……?」

 

 

咲夜「はぁ…! はぁ…!」

 

 

藍「……ん? お前……えっ? ま、まさか咲夜か!?」

 

 

咲夜「他に…はぁ…誰が居るのよ…」

 

 

藍「いやいやいや一目じゃ分からんぞ!? 髪も結ってないし、その格好は寝間着か!? 何故そんな格好で出歩いているんだ?」

 

 

咲夜「!! 紫…!」

 

 

咲夜「藍…! お願いがあるの…!」

 

 

藍「おい人の話を…ん、願い?」

 

 

咲夜「紫に…! 紫に会わせて!」

 

 

藍「紫様に? 何故また」

 

 

咲夜「お願いだから紫に会わせて!」

 

 

藍「…!」

 

 

咲夜「お願いっ…!」フルフル

 

 

藍「……」

 

 

藍「何やら訳ありの様だが、訳を…いや今聞くのはやめておこうか」

 

 

咲夜「!」

 

 

藍「ちょうど良かった、これから私はマヨヒガに帰るところだったんだ、紫様に用があるなら私に着いてくるといい、マヨヒガまで一緒に行こう」

 

 

咲夜「藍…! ありがとう…」

 

 

藍「ただ、まだ朝早いから紫様が起きているかは分からん」

 

 

咲夜「それでもいいわよ、起きるまで待つわ」

 

 

藍「分かった、なら行こうか」

 

 

咲夜「えぇ…」

 

 

 

 

 

 【マヨヒガ】

 

 

 

藍「ふぅ、着いたぞ…おっ」

 

 

咲夜「……!」

 

 

八雲紫「……」

 

 

藍「紫様、起きてらしたんですね」

 

 

紫「……えぇ、まぁね」

 

 

藍「珍しく早起きですね」

 

 

紫「別に……」

 

 

藍「あ、そうそう、咲夜…あぁ咲夜には見えないかもしれませんが彼女は咲夜本人ですからね? あなたに用があるみたいですよ」

 

 

紫「…!」ギロッ

 

 

咲夜「…?」ピクッ

 

 

 私は何故か紫に睨まれた

 

 

紫「……」

 

 

藍「…? 私買い物の荷物を置いて来ますね、それでは二人で…あ、お茶でも飲みます?」

 

 

紫「いい、いらない」

 

 

藍「そうですか、では私はこれで」スッ

 

 

 

紫「……」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「……」

 

 

咲夜「……」

 

 

 

 

咲夜「紫…」

 

 

紫「藍ならもう戻って来ないわよ」

 

 

咲夜「…え?」

 

 

紫「話をしている最中に邪魔されたくないんでしょ? それにもう存在すらしてないもん」

 

 

咲夜「存在…? どういう…」

 

 

紫「お黙り」スッ

 

 

 ギュオン!

 

 

咲夜「!! ……! …!」

 

 

 口が開かない スキマで口を塞がれた様だ

 

 

咲夜「…!!」ジタバタ

 

 

紫「ジタバタしないの、私今ものすごく不機嫌なんだからこれ以上イライラさせないでくれる?」

 

 

咲夜「…?」

 

 

紫「失望とか絶望とかどうでも良いのよ、この世界にはなんの意味も無いんだからさ」

 

 

咲夜「…!?」ピクッ

 

 

紫「何をそんなに驚くのかしら? 知っていてほしいんでしょう? ほら、あなたのお望み通り♪ この時の異変の全てを知る八雲の紫さんよ?」

 

 

咲夜「!? !!」ジタバタ

 

 

紫「ふふっ、とは言っても…ちょっとだけ反抗的な八雲の紫さんだけどねぇ♪ そこだけは他の住人たちとは違うところかしらねぇ~」

 

 

紫「……私は犯人じゃないわよ」

 

 

咲夜「…!!」

 

 

紫「でも犯人は知ってる、けどそれが誰なのかは教えてあげない」

 

 

紫「あなたを犯人へと導くヒントならあげられる、本当はあなたに自分で気付いてほしかったんだけどね」

 

 

咲夜「…!」

 

 

紫「はぁ…私もまだまだ甘いわねぇ、本当ならあなたにマジギレしてお説教しても良いところなのにあなたを救おうとしている…でも仕方ないか、それはあなたのお友達の役目だもんね」

 

 

紫「私にとってあなたは霊夢と魔理沙、この二人と同じ様に特別な人間なの、お分かり? あなたのことを大事に大事にしたいのよ」

 

 

紫「まぁこれは帰ったら私に直接聞きなさい、本物の私にね」

 

 

咲夜「!?」

 

 

紫「また驚いて…それわざとやってるの? それとも本当に気付いて無いの? ここ本当の幻想郷じゃないわよ?」

 

 

紫「それと私は本物の八雲紫じゃないもん、だからこうして自分の意思で喋れてるんだからさ、ついでにさっきの藍も本物じゃないし~♪」

 

 

紫「あなたが昨日会った霊夢も本物じゃないの」

 

 

咲夜「……!?」ゾクッ

 

 

紫「まぁ本物じゃなかったとしてもあなたの味方であった事は確かよ? 現に霊夢はあなたを助けようとしてたし、私もあなたに力を貸してるじゃない? でも私は自分の意思でやってるんだけどね」

 

 

紫「私、霊夢、藍…この時の繰り返しが行われている偽物の幻想郷で出会った三人は『あなたにとって都合の良い幻想郷の住人』よ」

 

 

紫「都合が良いと言うのはどういう事かしら? 偽物であることは確か…そして都合が悪くなれば消えちゃう存在…都合の良い存在は想像し、造られることでしか生まれない」

 

 

紫「偽者霊夢が作られたのは昨日の朝にあなたが目覚めてから、私と藍が作られたのは今日、あなたが妖怪の山の湖で私たちを欲した時から」

 

 

咲夜「……!」

 

 

紫「私が霊夢と藍の二人と違うところはその都合が良い存在だってことに自分で気付いているってところなの」

 

 

紫「だから不機嫌なの、八雲の紫さんは一人で充分なのにも関わらず造られ、私と言う存在がどういう存在なのかを知らされ、あなたの都合が悪くなれば消されるのを知ってるからなのよ…まぁ私も本物の八雲の紫さんに教えてもらうまでは自分が本物だって思い込んでたからね、はぁ…ため息ばっかり出ちゃうわね」

 

 

紫「……だんだん分かってきた?」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「ヒントよ、霊夢はあなたが美鈴とフランには時の繰り返しが起きていることに関して相談していない事を知っていた…そして霊夢は咲夜だけが時の繰り返しが起きているのを知っていて咲夜だけしか自覚が無いと決め付けて他の住人に確認しようとしなかった、私たちの知ってる霊夢なら行動して確認しようとするわよね?」

 

 

紫「後さぁ、あなたが博麗神社に着いた時に『出来れば霊夢一人でいてほしい、他の住人には混乱を招きたくないから説明するのは避けたい』って思わなかった? そして現にその通りになったわよね? それって偶然? 都合良くない? 魔理沙が来ないと博麗神社の日常って始まらないと思わない?」

 

 

紫「『誰々が来てくれたらいいな』と神社で思った時に霊夢から魔理沙が来てくれたら…的な内容の話を振らなかった? それとさぁ、至極単純なお話をするけど紅魔館の連中があなたを助けに来ないのっておかしくな~い? 後は藍が人里で油揚げを買っているところに偶然出くわす…いやぁ都合良すぎませんかねぇ♪」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「言っちゃえばさ、この幻想郷もあなたにとって都合の良い幻想郷なのよね」

 

 

紫「紅魔館以外は」

 

 

咲夜「…!?」

 

 

紫「あなたが紅魔館の外を一歩でも出るとそこはもうあなたにとって都合の良い幻想郷になるのはもう分かってるかしら? …この異変、いや異変と言うのも変な話だけどこの時の繰り返しの中心はあなたであり紅魔館そのものでもある」

 

 

紫「今の紅魔館の連中は紅魔館からは離れる事ができない、何故か…? そうするとこの異変の犯人にとって都合が悪くなるから」

 

 

紫「もっと簡単に言っちゃいましょうか」

 

 

紫「レミリア、パチュリー、小悪魔、フラン、美鈴……この五人はあなたを苦しませる事を目的として造られた偽物なの」

 

 

咲夜「!!」ピクッ

 

 

紫「もちろんあなたを傷付けているなんて自覚は奴等には無い、あなたと楽しく16日を過ごすいつもの紅魔館…でも無自覚に十六夜咲夜の心をジワジワゆっくりと追い詰める存在よ、かなり厄介よねぇ♪」

 

 

紫「変よね、奴等は犯人に作られた存在なのにあなたの過去を知っている…あれれ~? 何でかしらねぇ~?」

 

 

紫「まぁ知っているって言ってもレミリア、パチュリー、美鈴の三人だけでしょうけどね」

 

 

紫「これもヒントよ、その三人だけ知っていると言う事実を知っている奴が犯人、犯人は紅魔館の外に居る住人には興味が無く、あなた以外には干渉しない……もう分かる?」

 

 

咲夜「……」フルフル

 

 

紫「体震えてるけどそれあなたの本体に影響を及ぼすから止めなさい、苦しいでしょ?」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「……驚いたり不思議そうな顔しないって事は誰が犯人なのか目星は付いてるの?」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「喋りなさい、咲夜」スッ

 

 

 ギュオン!

 

 

咲夜「!! はぁ…はぁ…!」

 

 

紫「…どうなの? 咲夜」

 

 

咲夜「! ……」

 

 

咲夜「……私は本物であって本物の十六夜咲夜じゃない、そうでしょ?」

 

 

咲夜「そして私が苦しめば苦しむほど本物の私が弱っていく、私が死ぬほど苦しみ、その苦しみに呑まれてしまったら本物の私は永遠に目覚めない」

 

 

紫「自分の事は大切にしないくせに良く分かってるじゃない♪」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「みんな待ってるわよ……霊夢も、魔理沙も、妖夢も、アリスも、鈴仙も…パチュリーも小悪魔もフランも美鈴も…あなたの大好きなレミリアお嬢様も」

 

 

紫「そして私も…」

 

 

咲夜「!!」

 

 

紫「私も覚悟は出来てる、あなたに恨まれても仕方ない事をしてるからね」

 

 

紫「犯人を追えば私を知ることにもなるでしょう、これも何か疑問に思ったら本物の私に聞いてね」

 

 

咲夜「…?」

 

 

紫「はい、それで? まだ聞きたい事はあるかしら?」

 

 

咲夜「……能力が使えない理由は?」

 

 

紫「分かってなかったの? 偽物の幻想郷で自分の時間を作っても無意味だってあなたと犯人が心の奥底で思っているから、使われると犯人にとって都合が悪いから、他には」

 

 

咲夜「使っても使う意味がないって私の本体が思っているから…」

 

 

紫「自分の事は大切にしないくせに良く分かってるじゃない♪」

 

 

咲夜「…言わないで…ほしいわ」

 

 

紫「はぁ…? それレミリア達の前で言える? 特に医者の弟子であなたの親友の鈴仙の前でさぁ」

 

 

咲夜「! わ、私は」

 

 

紫「『分かっていても辞められない』なんて言うんじゃ無いわよ? レミリア達からも散々言われてるでしょ?」

 

 

咲夜「…!」

 

 

紫「もっと自分を大切にしなさいな、忠誠心も度が過ぎれば迷惑なの、分かるでしょう?」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「……」

 

 

咲夜「異変の犯人は私を苦しめて何がしたいの…?」

 

 

紫「それは直接あなたが犯人に聞かないとダメね、苦しむことになるかはあなた次第だけど」

 

 

咲夜「…どうやったら会えるの?」

 

 

紫「穴を開けて潜るしかないでしょ? ここはあなたの世界なんだから」

 

 

紫「こういう場所は誰の中にもあるもの、そしてその穴に潜ると言うことは自分の深層心理に向かって飛び込んで行く事と同じこと」

 

 

紫「あなたと犯人が干渉し合う時、その隙を狙って会いに行くしかないわよね」

 

 

紫「本当ならあなた一人で道を切り開くべきだけどここまで来たら大サービスよ、これから消える八雲の紫さんからの最後のプレゼント♪」ゴソゴソ

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「ふふっ、悲しそうな顔ね♪ でも大丈夫よ、あなたが目覚めたら本物の八雲の紫さんに毎日会えるわよ?」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「連れないわねぇ…はいこれ」スッ

 

 

咲夜「…? これは?」

 

 

 私は紫に手のひらサイズのスキマを渡される

 

 

紫「スキマを圧縮して作った『スキマ爆弾1341型』よぉ♪」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「まぁ早い話がそれ床とかに叩き付けると人の心に風穴開けるスキマ爆弾だから取り扱いには充分に注意なさいよ?」

 

 

紫「使う時は…分かるわよね?」

 

 

咲夜「日付が切り替わる瞬間…」

 

 

紫「睡魔が襲って来る瞬間でも間に合うわねぇ」

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

咲夜「……紫、ありがとう」

 

 

紫「それは本物の私に言ってくれる? 私に言っても無意味よ、どうせ直ぐに消えちゃうんだからね」

 

 

咲夜「それでもあなたが居なかったら私はこうして活路を見出だす事は出来なかったわ」

 

 

咲夜「本当にありがとう…紫」

 

 

紫「……ほらもう行きなさい、彼女が待ってるわよ」

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

 私は紫に背を向け歩き出す

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「…そのまま聞きなさい、咲夜」

 

 

咲夜「…」ピタッ

 

 

紫「この異変の犯人はあなたにとって都合の悪い、あなたに作られた存在、否定された悲しみからの復讐者」

 

 

紫「自分に負けちゃダメよ♪」スッ

 

 

咲夜「…! ゆか…り…?」クルッ

 

 

 私が振り返るとそこにはもう紫の姿は無かった

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜「必ず帰るわ…紫」

 

 

咲夜「あなたの愛した幻想郷に…」スッ

 

 

 

 私は異変の犯人と対決するため紅魔館に戻る事にした

 

 

 

 【紅魔館 門前】

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「美鈴がいない…?」

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

 

 【紅魔館 地下図書館】

 

 

咲夜「パチュリー様とこあもいない…」

 

 

咲夜「……きっとお嬢様と妹様もいないんでしょうね」

 

 

 私には何故居なくなったのか分かっていた、紫からスキマを渡された事をこの異変の犯人は知っている、自分に会いに来る事を知っている…自分にとって都合が悪くなったとか以前に『もう必要無い、居ても無駄』だと判断したから消したのだろう

 

 これ以上私を苦しませる事が出来ないから消されてしまった

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「お会い子のつもりかしらね、私も霊夢たちを消したから? 必要無くなったから?」

 

 

咲夜「幻想郷で私が出会った人間や妖怪たちは、必要無くなんかない」

 

 

咲夜「何故分からないの…? 私が思っているならあなたも…」

 

 

咲夜「……」

 

 

 

 

 

 【紅魔館 十六夜咲夜の寝室】

 

 

 私は自室に戻り服を着替え、髪を結い、紅魔館のメイド長としての身嗜みを整えた

 

 

 そしていざというときの為に戦闘に必要なナイフを数十本、持てるだけ持って行くことにした

 

 

咲夜「……これでいい」

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜「持っていったら役に立つかしら…」

 

 

咲夜「……」

 

 

 私はあの時間まで一人、この部屋で待つことにした

 

 

 

 

 【PM23:55】

 

 

咲夜「……そろそろね」

 

 

 私は紫から手渡されたスキマを握り締めて目を瞑る

 

 

咲夜「この異変は最初から私一人で解決しなければならなかった、私しか解決出来ない」

 

 

咲夜「異変の犯人であるあなたは私の…」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」スッ

 

 

咲夜「5、4、3、2…」

 

 

咲夜「1っ…! っ……!!」ユラッ

 

 

 またあの睡魔が襲って来る

 

 

咲夜「私はもう…! あなたに会うと決めたのよ!」スッ

 

 

 私は右腕を高く振り上げ、手に持っていたスキマを床に叩き付けた!

 

 

咲夜「はあぁぁ…!」スッ

 

 

 

 バリーン……!! ズォォォォォ…!

 

 

 

 

 ギュオン……!

 

 

咲夜「……!! はぁ、はぁ…!」

 

 

咲夜「時が……止まって…!?」

 

 

 私が時を止めたときと同じように部屋全体が灰色に包まれている

 

 

咲夜「時計は…24:00で止まっている…」

 

 

咲夜「…!」

 

 

 私が足元を見るとスキマが開いていた、青黒い渦がスキマの周りをゆっくりと回転している

 

 

咲夜「穴を開けて潜る、深層心理に飛び込む…」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「今行くから…待ってなさい」

 

 

咲夜「……」スッ

 

 

 私はスキマで出来た穴に飛び込んだ

 

 

 

 ズォォォォォ…!

 

 

 ギュオン……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

 

 【??の世界】

 

 

咲夜「……んっ…んんっ…?」スッ

 

 

咲夜「…! こ、ここは…!!」

 

 

 私は辺りを見回す、辺りにはレンガ造りの家々が立ち並んでいる、幻想郷ではない 

 

 

咲夜「……! ここは…! うっ…!」フラッ

 

 

咲夜「……そう、そうだ…」

 

 

咲夜「……」

 

 

 

 

 

咲夜(私が…育った街だ)

 

 

 

 

 

 

 【少女の世界】

 

 

 

街人A『またやられたそうだよ、昨日は三人だとか』

 

 

街人B『あら、そうなの?』

 

 

 私は歩いている住人に声を掛けるが無視されてしまう、私の声が聞こえていない様だ

 

 

 次行く住人にも声を掛けるがやはり私の声が聞こえていない、それどころか

 

 

街人C『最近物騒だよね、これで何人目なのかなぁ』

 

 

街人D『悪魔がこの街にいるとしか思えないよ』

 

 

街人C『はっはっは、まさか…』

 

 

 触ろうとしても触れない、肩を叩こうとした私の手がすり抜けてしまった

 

 

 ここに来た…いやここに来させた目的は?

 

 

 ……! あれは…!

 

 

少女『……』

 

 

街人E『…! うわっ…! おい、あの子…』

 

 

街人F『いつも顔を見せない、気味の悪い子だよねぇ』

 

 

街人E『そんな言い方するなよ…あの子の母親はさぁ』

 

 

少女『……』

 

 

少女『……』タッタッタッ

 

 

 私はフードを目深にかぶって走り去る少女を追い掛けた、追い掛けた先には一軒の小さな家が建っていた

 

 

 私はこの家を知っている

 

 

少女『……』スッ

 

 

 私は手をドアノブにかけ、回そうとしている少女に話し掛けたが聞こえていない様子だった、そしてこの子にも触れなかった

 

 

少女『ただいま…』スッ

 

 

 少女はフードを取る、銀色の髪をしていた

 

 

女性『あら…早かったのね、お帰りなさい』

 

 

少女『! お母さん、寝てなきゃダメだよ』

 

 

女性『大丈夫よこれくらい、今日は体調が良くってね』

 

 

少女『……またそうやってムリする』

 

 

女性『無理なんかしてないわ、あなたの顔を見るだけで元気に…っ! げほっげほっ…!』

 

 

少女『…! お母さん!』

 

 

女性『だ、大丈夫、大丈夫だから…! げほっげほっ、げほっ…!』

 

 

少女『……ベッドにねてて、ごはん作るから…』

 

 

女性『……ごめんね』

 

 

少女『ううん、いいよ』

 

 

 あの銀髪の女性を見て何とかしてあげたいと想えなかったのは私が薄情だからであろうか、それとも私が声を出しても聞こえない、他の物を触ろうとしても触れない事から来る諦めがあったからだろうか

 

 

 紫から話を聞いた時、そしてこの街で目覚めた時から覚悟はしていた、会うんだろうと

 

 

 あの少女は私で

 

 あの女性は私の母だった人だ

 

 

女性『いつも温かいスープをありがとうね』

 

 

少女『気にしないで、いつものことでしょ』

 

 

 私に父はいない…というより知らない、私が生まれる前に亡くなってしまったそうだ

 

 母は原因不明の病気、不治の病だった

 

 

女性『そうだ…お屋敷でのお勤めは順調?』

 

 

少女『うん…』

 

 

女性『また深夜に…?』

 

 

少女『うん、仕事が入ってる』

 

 

女性『……いつもあなただけに任せ』

 

 

少女『お母さん、それは言わない約束だよ』

 

 

女性『……ごめんね』

 

 

少女『ごめんも禁止』

 

 

女性『…! ふふっ…♪』

 

 

少女『…♪』ニコッ

 

 

 これは嘘だ、母は一生知ることは無い私がついている嘘

 

 近くにある大きなお屋敷でメイドとして週に一度、雇ってもらっていると嘘をついている、この年齢でメイドとして雇ってもらうなんて無理がある

 

 

女性『いつかあなたが働いているところをこの目で見てみたいわね』

 

 

少女『…! ……』

 

 

女性『フリフリのメイド服を着て頑張っているんでしょう? 可愛いでしょうねぇ』

 

 

少女『フリフリ…じゃないよ』

 

 

女性『あ、そうなの?』

 

 

少女『うん…』

 

 

 嘘をつくことに抵抗は無かった、罪悪感はあったけど私と母が生きていければそれでいい、それしか考えてなかったから

 

 

少女『…お母さん』

 

 

女性『なぁに?』

 

 

少女『わたし、最近気になる事があるの』スッ

 

 

少女『お母さんにもらったこの懐中時計を見ていて、時計をいじってるとたまに…』

 

 

女性『たまに…?』

 

 

少女『……』

 

 

女性『…?』

 

 

少女『……時間が…止まるの…本当に…まるで凍っちゃった様にさ、人も動物も…川とか噴水の水の流れも止まっちゃうんだ』

 

 

女性『……』

 

 

女性『へぇ~♪ それは凄いわね』

 

 

少女『! 信じてくれるの?』

 

 

女性『もちろんよ、でも…何でかしらね』

 

 

少女『それは…私にも分からない…』

 

 

 この頃から私には能力が備わっていた、でもたまにしか発動しなかった

 

 確か、この一ヶ月後に私は能力を制御出来る様になる

 

 

女性『う~ん…あ、そのうち時間を自由自在に操れちゃったりして』

 

 

少女『…そんなことあるわけない』

 

 

女性『分からないわよ? 時を止められちゃうんだから過去とか未来にも行けるようになったりするかもしれないじゃない♪ それにあなたが時を止めるのを制御出来る日が来るかもしれないからね♪』

 

 

少女『…何でそんなに嬉しそうなの?』

 

 

女性『ふふっ、時が止まったら歳を取らなくなるって事でしょ?』

 

 

女性『そしたらずっとお母さん、あなたの側にいられるから』

 

 

少女『…! ……』

 

 

女性『……! あっ! ご、ごめんね…! 私ったら』

 

 

少女『ごめんは禁止』

 

 

女性『あっ……ご、ごめん…』

 

 

少女『また言う…』

 

 

女性『ううっ…』

 

 

少女『…ふふ♪』ニコッ

 

 

 子供みたいにお茶目な言動で私を笑わせてくれる母が大好きだった…私の心の支えだった

 

 母と一緒にいられるならそれでいい、私の全てだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……!?

 

 

 唐突に場面が変わった、深く目を閉じると先に進む様だ

 

 

女性『お仕事の時間…?』

 

 

少女『うん、もういくから』

 

 

女性『それじゃ、玄関まで…』

 

 

少女『…見送りはいいから…寝てて』

 

 

女性『そういう訳にはいかないわ、ふふっ』

 

 

少女『……』

 

 

女性『いってらっしゃい』

 

 

少女『…いってきます』スッ

 

 

女性『…あっ!』

 

 

少女『! な、なに?』

 

 

女性『お仕事…頑張ってね♪』ニコッ

 

 

少女『っ…! ……』

 

 

女性『…?』

 

 

少女『……うん』スッ

 

 

 さっきの場面からおよそ一ヶ月後と言ったところか

 

 この母の笑顔、覚えがある

 

 

 私が最後に見た母の笑顔だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これから仕事が始まる

 

 

 

 街の人々が眠りにつく深夜の時間帯、街の中心にある大きな噴水広場に私はいた

 

 

少女『……』

 

 

少女『…!』

 

 

 ズズッ…!

 

 

大男『んんっ…ふぅ…』

 

 

 空に雲一つ無い、月明かりに照らされる深夜…この時間になると街灯の影から這いずり出てくる黒いコートを着た大男、情報屋を名乗っているコイツから私は仕事をもらっていた、それが週に一度

 

 

大男『やぁ♪ お嬢ちゃん♪』

 

 

少女『…今日は何をすればいいの?』

 

 

大男『連れないねぇ、もうお仕事のお話かい? 他のお話しをしよう?』

 

 

少女『興味ない』

 

 

大男『あっそぅ…はぁ、お嬢ちゃんはお金が目当てだもんねぇ』

 

 

少女『……!』ギロッ

 

 

大男『おお、怖いねぇ♪ でもその目付きは嫌いじゃないよ?』

 

 

少女『……』

 

 

大男『ははっ♪ じゃ、お仕事の話をしようか、はいこの写真』

 

 

大男『この男を殺してきてね、誰にもバレたらいけない暗殺のお仕事…♪』

 

 

少女『……この人はどうして殺すの?』

 

 

大男『理由なんかどうだって良いじゃないか、まぁ知りたいなら言っちゃうけど、コイツが生きてたら邪魔だって思う人間がいるんだってさ』

 

 

少女『……』

 

 

大男『どう? やってくれる?』

 

 

少女『…やる』

 

 

大男『おぉさっすがだねぇ♪ 今日の報酬も弾むよ~♪ ガンガン殺してガンガン稼ごうね♪』

 

 

少女『…!』ギロッ

 

 

大男『その殺意の目はこの男に向けてね』

 

 

 

 この大男はいわゆる仲介人、コイツに誰かが依頼をする、そしてコイツが私に依頼をしてくる…所謂裏仕事…闇の仕事だ

 

 母が病に伏せるようになってから直ぐにコイツは私の目の前に現れた

 

 私はコイツに依頼されて仕事をやった、やり続けた…仕方がなかった、生きていくお金を稼ぐために…母との日常を壊さない為に

 

 おもな仕事は人の暗殺がメインだった、闇夜に紛れてターゲットだけをナイフで狙う…首を切れば一撃、せめて苦しまない様に…何人も何人も殺し続けた

 

 

 

大男『ブラボー♪ 今日も大成功だったね、はいこれ今日の分ね』スッ

 

 

少女『……』スッ

 

 

大男『いやぁ、本当に慣れてきたよねお嬢ちゃん、まぁ当然か、一年もやってれば貫禄もついてくるよねぇ♪ 暗殺者としてのさ♪』

 

 

少女『…』

 

 

大男『でも本当に慣れすぎだよ、今日なんか返り血を一滴も浴びてないじゃないか』

 

 

少女『……血塗れになりたくないから』

 

 

大男『僕はお嬢ちゃんが血塗れになってると凄く魅力を感じるけどね』

 

 

少女『……』

 

 

大男『無視かぁ、連れないねぇ…』

 

 

少女『…ねぇ』

 

 

大男『うん?』

 

 

少女『……時って操れるの?』

 

 

大男『…? 難しい事を聞くねぇ、どうしてそんなことを聞くんだい?』

 

 

少女『最近時間は止められるって分かったから』

 

 

大男『う~ん…?』

 

 

少女『……』

 

 

大男『良く分からないね、ちゃんと説明してほしいなぁ』

 

 

少女『……』

 

 

少女『…信じる…?』

 

 

大男『もちろん♪ お嬢ちゃんとはお仕事仲間だからねぇ♪』

 

 

少女『……』

 

 

 私は大男に自分には時を止められる能力があることを打ち明け、相談をした

 

 この男なら時を操れる方法を知っているんじゃないかと思ったから

 

 というより、打ち明ける事ができる人がコイツしかいなかったからでもある、藁にもすがりたかったんだとも思う…この街の住人は私を気味悪がっていたし、同年代の友達もいなかったから

 

 

 時を自由自在に操れれば自分が時を止めた世界の中に他の人を連れてこれるのではないのか…? 未来や過去にも行ける事が出来るのではないのか…? 

 

 母と一緒に私が止めた時を共有出来るのではないのか

 

 

 

 だがこの相談が私の運命を大きく変えることになる

 

 

 

 

大男『!!』

 

 

少女『……』

 

 

大男『…驚いたね、まさか時を止められる能力を持っているなんて…そっかぁ、だから返り血を浴びずに済んでるんだねぇ』

 

 

少女『…信じるの?』

 

 

大男『もちろん信じるよ、お嬢ちゃんとはお仕事仲間だからねぇ♪』

 

 

大男『そっかそっか~♪ そうなんだねぇ…♪』ニタァ

 

 

 この時 この男の企みに気付いていれば

 

 

少女『…それで、どうなの?』

 

 

大男『う~ん……』

 

 

大男『……』

 

 

少女『…?』

 

 

大男『知ってるよ』

 

 

少女『えっ…!?』

 

 

大男『僕は情報屋さんなんだよ? な~んでも知ってるさぁ♪ 時を操る方法なんて簡単簡単♪』

 

 

少女『…! お、教えて!』

 

 

大男『良いよ、でもただじゃ教えられないよ』

 

 

少女『?』

 

 

大男『僕は情報屋、その情報は売るに値する価値がある…情報がほしいならそれなりの物を払ってもらわないとね』

 

 

少女『……! お金…』

 

 

大男『いやいや、お金じゃ買えないよ』

 

 

少女『じゃあ何を…』

 

 

大男『それ』

 

 

少女『…?』

 

 

大男『だからお嬢ちゃんの能力』

 

 

少女『…!?』

 

 

大男『お嬢ちゃんその力…僕にくれないかな? くれたら教えてあげても良いよ?』

 

 

少女『な、何…!? 筋が通ってないわ、おかしいじゃない!』

 

 

大男『おかしくないよ、お嬢ちゃんは時の情報が欲しい、僕はその時を操る能力がほしい…それだけの事じゃないか』

 

 

少女『……話にならないわ、悪いけどさっきの話は終わりにして』スッ

 

 

大男『……あぁそう…残念だなぁ』

 

 

大男『じゃあ力ずくで奪っちゃおうかなぁ…♪』ニタァ

 

 

少女『…!?』ゾクッ

 

 

 大男の手が私に迫る、殺意が向けられていると咄嗟に感じ取った私は懐からナイフを取り出して時を止め、大男の首にナイフを突き刺し、掻っ切っていた

 

 

大男『グッ…!! ガァ…!』ブシュッ

 

 

少女『はぁ…はぁ…!!』ビチャッ

 

 

 能力が解除されると大男の首から大量の血が吹き出る、私はその血を浴びてしまっていた

 

 大男が苦しみながら地面に倒れる

 

 

大男『……』

 

 

少女『はぁ…! はぁ…! はぁはぁ…!』

 

 

大男『……』

 

 

少女『……』

 

 

 私は大の字に倒れている大男の側に近寄る

 

 

少女『……』

 

 

大男『…ゴフッ!』

 

 

少女『!?』

 

 

大男『フフフ…! ひ、酷いじゃないか……お、お嬢ちゃん…! 僕の首を切り裂くなんて…』

 

 

少女『な…! 何で生きているの…!?』

 

 

大男『フフフ…さぁ何でかなぁ…♪ でももう駄目だねぇ、首を切り裂かれたんだ…もうすぐ消えてなくなるよぉ…フフフ…!』

 

 

少女『……』

 

 

大男『…お嬢ちゃん、やっぱり血が似合うねぇ…♪ 血塗れのお嬢ちゃんは素敵だよ…』

 

 

大男→悪魔『……察しているかもしれないけど僕は人間じゃない…僕は悪魔さ』

 

 

少女『悪魔…!』

 

 

悪魔『でも悪魔と言ってもそんな大層な物じゃない…首を切られたぐらいで死んじゃうぐらいの低級な悪魔さ』

 

 

悪魔『しかも人間の魂を食らい続けないと死んでしまうほど脆い存在なのさ』

 

 

少女『人間の……魂…? ……!』

 

 

悪魔『お嬢ちゃんは頭も良いよね…考えてる通りだよ、お嬢ちゃんが殺してきた人間の魂を食い続けてきたんだ』

 

 

悪魔『依頼のお話も嘘…お嬢ちゃんに人を殺させ続けたのは不幸な人間に殺された幸せな人間の魂は格別だからなのさ』

 

 

悪魔『ほら、思い返してごらん? お嬢ちゃんが殺してきた人間…みんな幸せそうな顔してただろう?』

 

 

少女『!!』

 

 

悪魔『僕が殺しても何の意味もない、不味くて不完全な魂は嫌だったんだ…だからお嬢ちゃんを利用して人を殺してもらっていたのさ、大昔に人間から奪った大量の金をエサにしてね』

 

 

少女『……』

 

 

悪魔『それも今日で終わりだ…はぁ…君の魂を食べて能力を奪えば悪魔の頂点に立てると思ったのに…残念だよ』

 

 

悪魔『フフフ…! でも良かったの? 君はもうお金が手に入らなくなっちゃうんだぁ…♪ 君はお母さんに嘘をついて働いていたみたいだけどこれからどうするのかなぁ?』ニヤッ

 

 

少女『……』

 

 

悪魔『それともう一つ面白いことを教えてあげるよ…悪魔に魅入られた人間は大抵不幸になるんだ』

 

 

悪魔『君に殺されてきた人間もその周りの人間も不幸になっていった…お嬢ちゃんは…どうかなぁ…♪ フフフ…』ニヤッ

 

 

少女『……!』ゾクッ 

 

 

悪魔『フフフ…………』

 

 

悪魔『……』

 

 

悪魔『 』カクッ

 

 

 悪魔は動かなくなり、黒い霧となってその体が消えた。

 

 黒いコートと血溜まりだけが地面に残っていた

 

 

少女『……』

 

 

 この時、色んな事が頭を過っていたのを私は思い出す

 

 これからどうしようだとか、この血はどうしようだとか、私は周りの人間を不幸にしながら幸せを欲していたのか…

 

 色んな事を同時に知りすぎて頭が麻痺していたんだと思う、その中で私の頭に一番強く残っていたのは

 

 

 不幸

 

 

少女『…! お母さん…! お母さん!』ダッ

 

 

 私は血塗れのまま、母が待つ自分の家へと駆け出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

少女『お母さん!』

 

 

 私は家に辿り着き、母が寝ているベッドの側へと駆け寄る

 

 

少女『お母さん! お母さん起きて! お母さん!』

 

 

 病で床に伏せている母にかける言葉では無いだろう、だけど私は母の声が聞きたかった…優しく、いつも私を笑顔にしてくれる…あの声を

 

 

少女『お母さん…! ……おかあさん…?』

 

 

 不幸は直ぐにやって来た、まるであの悪魔を殺した時に呪いを掛けられたかの様に

 

 

女性『 』

 

 

少女『お母さん…!? お母さん!』

 

 

少女『おか……ぁ…ぁぁ…!』

 

 

少女『う…そ…そ、そんな……! い、いや…! いやぁ…!』フルフル

 

 

少女『あぁ…う…ぁ……!』フルフル

 

 

少女『あぁ…! あぁぁ…!』

 

 

少女『うわあぁぁぁ!!』

 

 

 母は亡くなっていた

 

 

 今思えば相当無理をしていたんだと思う、体が限界を迎えていても私のために笑顔でいてくれた、私の負担を減らすためにと、私が仕事…殺人を犯している間に掃除等を隠れてしていたのは知っていた

 

 

 私は母の遺体の側で泣き崩れた、母の亡骸を抱き締めながら夜が明けるまでずっと側にいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼、街の教会で母の葬儀が行われた、といってもかなりお粗末な物だった…母の遺体を棺に入れ、花を供えて冷たい土の下に埋めるだけ

 

 母の葬儀が行われている間、私は涙が出なかった…あんなに大好きだった母が亡くなったのにも関わらず

 

 心残りだったのは母に嘘をついていたこと

 

 

 母は病のせいで家から出ることはなく、人付き合いが全く無かったせいか葬儀に参列した人も、教会の神父、母と数回顔を合わせた程度の街の住人が数人

 

 

 

 

少女『……』

 

 

街人B『ねぇ聞きました? あの子の噂…』ヒソヒソ

 

 

街人D『えぇ、何でもあの子が教会に自分の母が家で亡くなっていると知らせに来たときあの子は全身血塗れ状態だったとか…しかも神父さんがその家に確認に訪れると真っ赤な血に染まっていたあの子の母親がいたそうで…』ヒソヒソ

 

 

街人F『まぁ血塗れですか…!? そ、それってまさか…!』

 

 

街人B、D、F『……』ジーッ

 

 

少女『……』

 

 

街人D『いや、まさか……自分の母を殺すなんて事をしますかね』

 

 

街人B『でも分かりませんわよ? …いつもフードを目深に被っているから表情が分からなくて気味が悪い子ですし』

 

 

街人F『でもあの子のお母様に外傷は無かったのでしょう? でももし何か別の方法だったとしたら…?』

 

 

街人B、D、F『……』ジーッ

 

 

少女『……』

 

 

 人の噂とは怖い物だと言うことは当時の私には分からなかっただろう、噂が噂を呼びでっち上げられた噂が街中を飛び交う…いつの間にか私は『母を殺した殺人鬼』になっていた、それは良識的であった教会の神父でさえもその噂を信じてしまうほどに

 

 

 不幸が 今度は私を襲ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 母の葬儀から数日後、私は放心状態だった…生きる目的も失い、どう生きて行けば良いのか分からなかったから

 

 生きる目的を求めて家の外を出歩いた事もあった、だが外に出ると街人の視線が私に向けられる…私に怯える人まで出始めていた

 

 

 陰でこそこそと言われた事もあった、最初は気には留めていなかったがある一言が私の心を抉った

 

 

 『あの子は悪魔だ』

 

 

 その言葉を聞いてしまってから私は家から一歩も外に出なくなった、出たく…無かった

 

 

少女『……』

 

 

 母を殺した悪魔、皮肉よね、悪魔を殺した私が悪魔呼ばわりされるんだから

 

 

 希望なんて無い

 

 

 もう母もいない、頼れる人も誰もいない、仕事を依頼してきたあの悪魔の男もいない

 

 

 私は誰からも必要とされていない、消えてしまった方が良い

 

 

少女『……死んだら…お母さんに…会えるかな』スッ

 

 

 私はもう生きていたくなくなった

 

 

 一本のナイフと懐中時計を手に深夜…あの噴水広場に向かった

 

 

 

少女『……お母さん…私…悪魔になっちゃった…』

 

 

少女『そうだよね…思えば私は罪の無い人をたくさん殺したし悪魔のために仕事をしてきたし…お母さんの死に立ち会え無かった』

 

 

少女『私がもっと…もっと側に居てあげていれば…お母さんは死なずにすんだのかなぁ…グスッ…! 悪魔に…出会わなかったら…お母さんは死なずにすんだのかなぁ…グスッ…! うぅ…!』ポロポロ

 

 

少女『もう…もう分からないよ…お母さん…』

 

 

少女『…』

 

 

少女『あはは…私…考えるの…疲れちゃった…』スッ

 

 

少女『……』フルフル

 

 

少女『……』

 

 

少女『…』

 

 

少女『…』

 

 

少女『お母さん』

 

 

少女『今会いに行くね…♪』ニコッ

 

 

 

 グサッ…

 

 

少女『…!』ドサッ

 

 

少女『…』

 

 

少女『…』

 

 

少女『 』

 

 

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜「そう、ここで私は自分で命を絶って死んだ」

 

 

咲夜「……でも私は生きている…幻想郷で毎日を過ごしている」

 

 

咲夜「この後、私は幻想郷に行く筈だけど」

 

 

咲夜「一体どうやって…」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「…」

 

 

 ギュオン…!

 

 

咲夜「!? なっ…!?」ユラッ

 

 

少女『 』ユラッ

 

 

 私と少女は突然地面に開いた穴に落とされた

 

 

 

 

 

 【????】

 

 

 下に向かってゆっくりと落とされている感覚がある

 

 

咲夜「…! !? これは…!? ま、まさか…!」

 

 

咲夜「ゆか…り…?」

 

 

 私は少女の方に目をやる

 

 

少女『 』

 

 

少女『 』ジュウウウウ

 

 

少女『…』

 

 

少女『うっ…』ピクッ

 

 

咲夜「…!? 傷が治ってる…!」

 

 

咲夜「……! 私は…私はまさか…」フルフル

 

 

 

 

 

 

 

 ようこそ私の愛する幻想郷へ

 

 歓迎致しますわ♪

 

 

 

 

 

咲夜「っ…!?」

 

 

少女『……』

 

 

咲夜「! 光…出口…?」

 

 

少女『……』

 

 

咲夜「…!」

 

 

 

 私と少女は光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜「うっ……」スッ

 

 

咲夜「ここ、は…」

 

 

咲夜「……そっか…そう言うことだったのね…だからあのとき死にそこなって」

 

 

咲夜「幻想郷に…導かれたのね」

 

 

 

 【幻想郷 紅魔館近辺】

 

 

少女『…んっ…うぅっ…』スッ

 

 

少女『……』パチッ

 

 

少女『……?』

 

 

少女『あ、あれ…? わ、私…死ん…でないの…?』

 

 

少女『……! 傷が…無い…?』

 

 

少女『…ここは天国…?』

 

 

少女『……お母さん…いない…』

 

 

少女『…! あれは…湖…? じゃあやっぱり天国…?』クルッ

 

 

 少女は後ろを振り返った

 

 

少女『!! わぁ…』

 

 

少女『立派なお屋敷…! でも…なんか気味が悪い…』

 

 

少女『…ここ、地獄…?』

 

 

少女『……分からない…でも死んだよね』

 

 

少女『お母さん…この中にいるかな…』

 

 

少女『……行ってみよう…』スッ

 

 

 

 

 

 

 【紅魔館門前】

 

 

少女『…え?』

 

 

??『くぁ~…♪ かぁ~…♪』zZZ

 

 

少女『門番…さん…? 立ったまま寝てる』

 

 

??『スースー…♪』zZZ

 

 

少女『……綺麗な人…でも変な服…』

 

 

少女『あの…すいません…ここは何処ですか?』

 

 

少女『…あの…』

 

 

??『くぁ~…♪』zZZ

 

 

少女『……起きない…』

 

 

少女『…入っちゃって良いのかな』

 

 

少女『……お邪魔します』ペコッ

 

 

??『スースー…』zZZ

 

 

 

 【紅魔館 中庭】

 

 

少女『…殺風景…何にもない…』

 

 

少女『全体的に赤いな、このお屋敷』

 

 

少女『うん…?』

 

 

 何やら館の中から言い争う声が聞こえる

 

 

少女『! 人が居る…!』スッ

 

 

少女『…!』

 

 

 少女は館の小窓から少し顔を出して中を覗いてみる

 

 

 

???『だから! 何回も言わせないでって言ってるでしょ!?』

 

 

????『それは何回も聞いたぞ? 何回も言わせないでくれ、パチェ』

 

 

???→パチェ『レミィ…! 何時までその運命の日とやらを私は待ってなきゃいけないのよ、これ以上妹様の面倒なんか見きれないのよ!』

 

 

????→レミリア『んふっはっはっは♪』ゲラゲラ

 

 

パチェ『笑って誤魔化すんじゃないわよレミィィ!』

 

 

レミリア『うるさいねぇ、人手が足りないんだろう? なら家にいるメイドから誰か雇えば良いじゃないか』

 

 

パチェ『メイド妖精ごときじゃ使い物にならないって分かってて言ってる?』ギロッ

 

 

レミリア『ありゃ…ダメか』

 

 

パチェ『当たり前でしょ』

 

 

レミリア『う~ん、なら使い魔でも雇えば良いじゃないか、召喚魔法使えるだろう?』

 

 

パチェ『…! レミィにしては良い案を出すわね』

 

 

レミリア『おい、私にしてはとはどういう意味だコラ』

 

 

パチェ『そのままの意味よ、それにしても使い魔か』

 

 

レミリア『魔界から一匹呼び出せば良いだろう?』

 

 

パチェ『はぁ…あのねぇ、簡単に言うけど召喚魔法は失敗することの方が多いの、呼び出して逃げない様に契約させてそいつが使い物にならなかったら処理が面倒で』

 

 

レミリア『召喚魔法よ頼む! 私に従順で本の整理が上手な使い魔を一匹私の元へ寄越してくれー! …じゃダメなのか?』

 

 

パチェ『…』イラァ

 

 

レミリア『パチェ、そんなに怒ると持病の喘息が出るぞ?』

 

 

パチェ『吹き飛ばすわよレミィ』

 

 

レミリア『それだけはやめてくれ、パチェの攻撃魔法は痛い、それに傷の治りが遅いんだ』

 

 

パチェ『有能な司書が一人で良いのよ、はぁ…失敗しなきゃ良いけど』

 

 

レミリア『失敗を恐れていては前に進めんぞ?』

 

 

パチェ『はいはい、じゃあ私は図書館に戻るわね』

 

 

レミリア『あぁ、成功したらその使い魔を私にも見せてくれよ?』

 

 

パチェ『ふふっ、おもちゃじゃないのよレミィ』

 

 

レミリア『んふっはっはっ♪ 分かってるよ、パチェ』

 

 

レミリア『……んー良い月だ、今日は十五夜だっけか? さぁって、月でも見ながらゆっくりワインでも飲むとするかな』

 

 

 

 

 

 

 

 

少女『!!』

 

 

少女『あいつ! あの紫色の方は違うけどあっちは…!』

 

 

少女『爪とあの翼…あいつ悪魔だ…!』

 

 

少女『……』

 

 

少女『そっか…そうだよね…たくさん人を殺した私が天国に行ける訳ないんだ…』

 

 

少女『私は死んで地獄に落とされた…だから普通に悪魔がいるんだ…』

 

 

少女『お母さんにも…会えない…』

 

 

少女『……』

 

 

少女『悪魔…』

 

 

少女『悪魔は…! 私が…!』スッ

 

 

少女『…』

 

 

 少女は館の中に入っていった、一本のナイフと懐中時計を握り締めて

 

 

 

 

 

 

 【紅魔館 玉座の間】

 

 

 少女は玉座の間へと続く扉の影に隠れ、中の様子を伺う

 

 

少女『……!』

 

 

レミリア『う~んやっぱり慣れないねぇ、しかし人間はこのワインが美味しいらしいけど私には薄いジュースにしか感じ……うん?』

 

 

 ギィィィ…!

 

 

レミリア『ん…?』

 

 

少女『……』スタスタ

 

 

レミリア『……』

 

 

少女『…!』ギロッ

 

 

レミリア『……?』

 

 

レミリア『…♪』ニヤッ

 

 

少女『…?』

 

 

レミリア『はっはっは♪ 堂々と入って来て良い目で睨みやがるな! で?』

 

 

レミリア『お前は誰だ?』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『どうやってここまで入って来た、館の者じゃ無いし、外から来たにしても門には美鈴がいただろう? それにメイド妖精達がそこらに居る筈だが?』

 

 

レミリア『まさか…お前みたいなちんちくりんが全員蹴散らして来たとか言わないよな? ふっはっはっは♪』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『…えっ? マジなのか?』

 

 

レミリア『いや待て…メイド妖精ならともかく美鈴に勝てる奴はそうはいないぞ? それにお前…人間か?』

 

 

少女『…!』ピクッ

 

 

レミリア『……人間…まさかこいつが…? …いやいや、まだガキじゃないか、こんなガキが私の運命を』

 

 

少女『やぁぁぁぁ!!』スッ

 

 

レミリア『!』

 

 

 ガキィン…!

 

 

少女『…!?』

 

 

レミリア『話を聞かず、させずに切りかかって来るとは…どんな教育を受けたらそうなるんだお前は、そこら辺の獣と変わらんぞ?』

 

 

少女『! やぁ!』スッ

 

 

レミリア『!』

 

 

 キィン!

 

 

 

 

 また少女はナイフでレミリアに切りかかったが、レミリアは爪を伸ばして受け止め、弾く

 

 

 

少女『くっ…!』

 

 

レミリア『何故そんなに殺意を剥き出しにしているのか分からんが…まぁいいや、暇だったからな』

 

 

レミリア『ほら♪ 遊んでやる、来い♪』スッ

 

 

少女『! ふ…ざける…な…!』

 

 

レミリア『…なに?』

 

 

少女『ふざけるな!』スッ

 

 

レミリア『お!』スッ

 

 

 ガキィン!

 

 

少女『!』キリキリ

 

 

レミリア『そのナイフ捌き、良いねぇ♪ 的確に私の急所を狙おうとしてるな、何処で習ったんだ?』

 

 

少女『くっ…! やぁ!』スッ

 

 

 ヒュッ!

 

 

レミリア『よっと…ただな? かわされても当たらないし防がれても私の急所には届かんぞ?』

 

 

レミリア『良し、次は私から行くぞ♪』スッ

 

 

少女『っ…!』スッ

 

 

 キィンキィン! キィン!

 

 

レミリア『身のこなしも中々だ、人間のガキとは思えんな、それにその動き…! まるで暗殺者だな』

 

 

少女『…!』

 

 

レミリア『戦闘技術は有った方が良いか、うんそうだな、でもそれだけじゃただの獣と同じだ』

 

 

レミリア『おいガキ、お前何か能力は持ってないのか? 持ってるならやってみせろ、出し惜しみはしなくて良いからな』

 

 

少女『! ……』

 

 

レミリア『なんだ? 持ってないのか? はぁつまらんな、手品でもやって見せてくれれば面白いのにな』

 

 

レミリア『仕方ないな、ほら来い、次で終わらせるぞ』

 

 

少女『っ…!』スッ

 

 

レミリア『…! 来い』

 

 

少女『…!』スッ

 

 

 ヒュッ!

 

 

レミリア『!』スッ

 

 

 ガシッ!

 

 

少女『……!?』グッ

 

 

 少女はレミリアに片腕を掴まれていた

 

 

レミリア『惜しかったな、私の懐に潜り込むところまでは良かったが、そこ止まりだ』

 

 

レミリア『身体能力で私に勝とうと思うな、人間では私の速度には追い付けない』

 

 

少女『……!』キッ

 

 

レミリア『…その目、敗北を知らない目だな、それは自信に繋がってくるが』スッ

 

 

少女『…!?』

 

 

 レミリアは少女の額に指を持っていき…

 

 

レミリア『少しは敗北を知れ』グッ

 

 

 中指で弾いた

 

 

 パァン!

 

 

少女『!!』

 

 

 ガッ! ゴッ! ドサッ…!

 

 

 少女はレミリアのデコピンで五メートルほど吹き飛ばされた

 

 

レミリア『…』

 

 

少女『うっ…! げほっ! げほっ! うぐっ…!』フラッ

 

 

レミリア『立ってくるか、既にフラフラだがガッツはあるな』

 

 

少女『はぁ…はぁ…!』

 

 

レミリア『……おい、どうしてそんなに私に殺意を向ける、お前は何が目的なんだ?』

 

 

少女『はぁ…はぁ、くっ…! 黙れ悪魔…!』

 

 

レミリア『…?』

 

 

少女『お前みたいな悪魔がいるから不幸になったんだ! だからお母さんは…! お母さんは死んだんだ!』

 

 

少女『悪魔は許せない! 私が悪魔を全員殺してやる!』

 

 

レミリア『……』

 

 

レミリア『お前の過去に何があったかは知らんが、それはお門違いって言うんじゃないのか?』

 

 

レミリア『この私がお前と、その家族に何かしたか?』

 

 

少女『…!』

 

 

レミリア『悪魔にも色々居るからな、低俗なクズから私や私の妹の様に誇り高い吸血鬼まで幅広く存在している』

 

 

レミリア『お前はそれを全部敵に回すのか? 私も倒せないのにか? お前一人で? 図に乗るな人間のガキ』

 

 

レミリア『お前みたいな奴は早死にする…その早死にをお前の母親は望んでいるのか良く考えろ』

 

 

少女『!!』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『……』

 

 

少女『……』フルフル

 

 

少女『うるさい…』

 

 

レミリア『!』ピクッ

 

 

少女『うるさい…! うるさい…! うるさいっ!』フルフル

 

 

レミリア『……はぁ、聞き分けのない奴…』

 

 

レミリア『運命の人間…お前じゃないのか…ガッカリだよ』

 

 

レミリア『来い、次はデコピンじゃ済まないぞ』

 

 

少女『はぁ…! はぁ…!』スッ

 

 

レミリア『…ん? 何だそれ、時計か?』

 

 

少女『……』スッ

 

 

レミリア『? 目を閉じてどうするつもりだ?』

 

 

少女『時よ……!』

 

 

レミリア『…? 何をしよ』

 

 

少女『止まれっ!』

 

 

 

 

 

 ズォォォォ…!

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『 』

 

 

少女『……これで終わりよ…悪魔』スッ

 

 

レミリア『 』

 

 

 少女はレミリアに近付き、心臓にナイフを突き立て…

 

 

少女『……!』

 

 

少女『動けっ…!』

 

 

 ズォォォォ…!

 

 グサッ…!

 

 

 

 

 

 

レミリア『うとしてい……うん?』

 

 

少女『……!』

 

 

レミリア『!! お前いつのまに……ん!?』

 

 

 少女のナイフはレミリアの左胸に突き刺さっていた

 

 

レミリア『なっ…! ぐっ…!』トサッ

 

 

少女『はぁ…はぁ…』

 

 

レミリア『私に膝をつかせるとはな…人間のガキのクセに中々やるじゃないか♪』

 

 

レミリア『瞬間移動か何かか? それがお前の能力…中々良いもの持ってるな♪』

 

 

レミリア『だが…痛たっ…! この程度じゃ私は倒せないぞ?』スッ

 

 

 レミリアは胸に刺さったナイフを引き抜いた

 

 

少女『!』

 

 

レミリア『さっきも言ったろう? 悪魔にも色々居ると…位もレベルも他を遥かに凌駕する力が私にはあるんだよ、ほら見ろ、もう傷が塞がってるだろ?』

 

 

少女『……』ブルブル

 

 

レミリア『勝てぬと思ったら怯えるか、人間らしいところもあるんだな、どうやら人間臭さは捨ててないらしい…♪』ニヤッ

 

 

レミリア『で…? これで終わりか? その瞬間移動能力の他には何か無いのか?』

 

 

少女『……』ビクビク

 

 

レミリア『……そうか、なら…!』スッ

 

 

レミリア『このナイフ、お前に返すぞ!』ヒュッ

 

 

少女『…!?』ビクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レミリア『…』

 

 

少女『……』ブルブル

 

 

レミリア『…』

 

 

少女『……?』ブルブル

 

 

レミリア『……ほれ』スッ

 

 

少女『…!? えっ…?』ストン

 

 

 レミリアは少女の手を自分の前に優しく引き寄せ、ナイフを返した

 

 

少女『…!? ??』

 

 

レミリア『ん? 何だ不思議そうな顔をして、返すと言っただろう?』

 

 

少女『…! な、何…で…?』

 

 

レミリア『何で? …んふっはっはっはっ! お前…! そこで何でって言うか? んっふふふふ…!』

 

 

レミリア『このナイフはお前の物だろう? だから返したまでだ』

 

 

少女『ど…どうして…! どうしてよ! 私はさっきまで…!』

 

 

レミリア『「お前の命を狙っていたのにどうして」か?』

 

 

少女『…!』

 

 

レミリア『ふふっ、漸く人との会話が出来そうだな、冷静になれるんじゃないか♪』

 

 

レミリア『まぁなんだ、いきなり現れたお前に殺意を向けられ戦い、お前の不思議な能力で刺された…それだけの事だ、驚いたが別に気にしていない』

 

 

レミリア『そして、その戦いの中でお前に興味が湧いた…つまり私はお前の事が気に入ったんだ♪』

 

 

レミリア『……あのスキマ妖怪が言っていた事が本当なのか否か、お前で見極めさせてもらいたい』

 

 

少女『…?』

 

 

レミリア『ふふっ…♪ なぁ、銀髪のガキ』

 

 

レミリア『お前、私に仕える気はないか? 私はお前が欲しい』

 

 

少女『!?』

 

 

レミリア『ん? 良く驚くガキだなぁ、まぁ何事にも興味を沸かせるのは良いことだけどな』

 

 

少女『つ、仕える…?』

 

 

レミリア『そうだ♪ 私に忠誠を誓い、私の側で私の為に働く…ここ紅魔館の一員になる…そういうことだな』

 

 

少女『こう…ま、かん…?』

 

 

レミリア『この館の名前だ、覚えたか? 紅魔館に住むという事は私と共に歩んで行く家族になるという事でもあるな』

 

 

少女『……家族…』

 

 

レミリア『どうだ? 悪い話では無いと思うんだが?』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『……お前がさっき言っていたな、悪魔は全員倒してやると、悪魔が居るから母親が死んだんだと…それに対して私はこう言った、お門違いであるとな』

 

 

レミリア『私は悪魔ではあるが誇り高き吸血鬼だ、お前の過去をいじくり回した低俗なクソ悪魔と一緒にするんじゃない』

 

 

レミリア『もし私に仕えてくれる気があるならお前が自分の身を一人で守れる様になるまで私がお前を守ってやる、約束しよう』

 

 

少女『……!』

 

 

レミリア『と言ってもだ、ここ幻想郷では私は妖怪に分類されるらしいがな』

 

 

少女『妖怪…? げんそうきょう…?』

 

 

レミリア『…? お前、まさか外の世界から来たのか? だとしたら私を知らないのは当然か…好き好んで人間がこの館に忍び込んで来るわけないもんな』

 

 

少女『外の世界…? ここは地獄じゃないの?』

 

 

レミリア『ん? んふっはっはっはっ! 地獄? ここがか? 地獄なら地底深くにあるらしいぞ、ここじゃない』

 

 

少女『私…死んでるんじゃないの…?』

 

 

レミリア『何を言っている、ここにこうして生きているじゃないか、自分の心臓の鼓動が聞こえない訳じゃないだろう?』

 

 

少女『!』

 

 

レミリア『…』

 

 

少女『私…生きてるんだ…』

 

 

レミリア『外の世界の何処で生まれ、何をし、どのように生きてきたか…それは忘れてはならない事だが、ここ幻想郷はどんな事でも受け入れるらしいからな』

 

 

レミリア『お前の過去がどんなに悲惨であろうとも、幻想郷はお前を受け入れた、それは事実だ』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『そして私も…』スッ

 

 

少女『…?』

 

 

 レミリアは少女の目を見ながら言葉を続ける

 

 

レミリア『良く見るとお前は私の妹と同じ目をしているな、孤独を知っている、そしてその辛さと悲しさを知っている目だ』

 

 

少女『…!!』

 

 

レミリア『私の妹も友達の一つや二つ出来れば一皮剥けると思うんだけどなぁ…何時になることやら』

 

 

少女『…?』

 

 

レミリア『ん? あぁ話が逸れたな、それでは…改めてもう一度聞く』

 

 

レミリア『お前、私に仕える気はないか? 私はお前が欲しいんだ』

 

 

少女『!! ……』

 

 

レミリア『……』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『……』

 

 

少女『……』

 

 

 

 

少女『あ、あなたは…!』フルフル

 

 

レミリア『…』

 

 

少女『あなたは! 私が…! 私が必要なんですか…!?』フルフル

 

 

レミリア『…!』ニヤッ

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『……』

 

 

レミリア『何を言っている、さっきの話を聞いてたのか? お前が私に必要だから仕えないかと聞いているんじゃないか』

 

 

少女『!』

 

 

レミリア『必要という言葉が必要なら何度でも言うぞ? 銀髪のガキ』

 

 

レミリア『私には、お前が必要なんだ』ニコッ

 

 

少女『……』

 

 

少女『……』ポロッ

 

 

レミリア『!? お、おぉ!?』

 

 

少女『グスッ…! えぐっ…! グスッ…!』ポロポロ

 

 

レミリア『な、何ぃ!? お、おい! 何故泣く!』

 

 

少女『うぅぅ…! グスッ…! ひぐっ…!』ポロポロ

 

 

レミリア『え、えぇ…ど、どうしろってんだこれは……あ!』

 

 

レミリア『美鈴! 美鈴ちょっと来てくれー!』

 

 

 シーン……

 

 

レミリア『…!』イラッ

 

 

レミリア『めぇーりぃぃーーん!!』ゴォォ

 

 

 ズダダダダ!!

 

 

??→美鈴『は、はいぃ! お呼びでしょうかお嬢様ぁ!』

 

 

レミリア『呼んだら直ぐに来いやぁ! 何をしてたんだ!』

 

 

美鈴『す、すいません…ちょっとウトウトしてって…! えぇっ!?』

 

 

美鈴『ど、どうしたんですか!? 何で泣いてるんです? てかこの子は誰ですか!?』

 

 

少女『グスッ…! うぅぅ…!』ポロポロ

 

 

レミリア『分からん、いきなり泣き出し…うん!? 今ウトウトって言ったか!?』

 

 

美鈴『! い、いえそれは…』

 

 

少女『グスッ…! うぐぅ…!』ポロポロ

 

 

美鈴、レミリア『……』

 

 

美鈴『この子人間じゃないですか、何でここに…というか何をしたんですか?』

 

 

レミリア『何もしてない、ただ「お前が必要だ」と言ったら急に泣き出したんだ』

 

 

美鈴『そんなんでここまで泣かないでしょう、普通』

 

 

レミリア『本当に何もしてないぞ?』

 

 

美鈴『…? あっ! この子おでこ赤くなってるじゃないですか、それにちょっと擦り傷もありますし』

 

 

レミリア『あぁ、それはさっき』

 

 

美鈴『うわぁ…こんな幼い子供を叩いたんですか?』

 

 

レミリア『叩いてない! いいか良く聞け、そもそもこのガキが私にナイフを突き付けて来たのが始まりなんだぞ?』

 

 

美鈴『…』ジトッ

 

 

レミリア『先ずは私を信用しろ! そんな目で見るなぁ!』

 

 

少女『……』

 

 

美鈴、レミリア『!』

 

 

美鈴『あぁごめんね、このお姉ちゃんが怖かったでしょう、でももう大丈夫だからね』

 

 

レミリア『お姉ちゃん言うなコラ』

 

 

美鈴『そういう言葉使いを子供の前でしたらダメなんですよ?』

 

 

レミリア『何がダメなんだ』

 

 

美鈴『怖がられちゃいますよ?』

 

 

レミリア『! ……』ジーッ

 

 

少女『…!』

 

 

レミリア『……怖がってないよなぁ~♪』ニヤッ

 

 

美鈴『…強要』

 

 

レミリア『してなぁーい!』

 

 

少女『……ぷっ…』

 

 

レミリア、美鈴『…!』

 

 

少女『ふふっ、ふふふ…♪』ニコッ

 

 

美鈴『え、えぇ…面白かったです…?』

 

 

レミリア『ふん♪ ほらみろ、全然怖がって無いじゃないか、怖がっていたらこんなに可愛い顔で笑うか?』

 

 

少女『!? …///』カァッ

 

 

美鈴『…この子が強い子だというのは良く分かりました』

 

 

レミリア『そうだな、強くなければ私の側に置こうとは思わないからな、さってと…』

 

 

美鈴『…? えっ? 側に?』

 

 

レミリア『おいコラちんちくりん』

 

 

少女『…!』

 

 

レミリア『ふっ…♪ 良い面構えになったじゃないか…うん? なんか顔が赤いが、大丈夫か?』

 

 

少女『えっあっ…は、はい…///』

 

 

美鈴『お嬢様が泣かせるから…』

 

 

レミリア『うるさいぞ? …さて? 三度目の正直と言う奴だ、次は聞かないからな? …答えてくれ』

 

 

レミリア『お前、私に仕える気はないか?』

 

 

少女『! ……』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『……』

 

 

 

 

少女『あ、あなたが…! あなたが私を必要としてくれるなら』

 

 

少女『私はあなたの側に…! ずっと! ずっと居たいです!』

 

 

美鈴『!』

 

 

レミリア『…! ふっ…♪』ニヤッ

 

 

レミリア『良く言った! 今日からお前は私の従者だ、そして家族だ♪ 良いな?』

 

 

少女『…!』

 

 

レミリア『…返事!』

 

 

少女『は、はい!』

 

 

レミリア『うん、よろしい!』

 

 

美鈴『お、お嬢様…! まさかこ、この子が…?』

 

 

レミリア『まだ分からん、だが…』

 

 

少女『…?』

 

 

レミリア『ここで出会ったのも何かの運命だろう、たまには身を任せてみるとするさ』

 

 

レミリア『ふっ…私らしく無いか?』

 

 

美鈴『ふふっ…♪ いえ、そんなことありませんよ』

 

 

レミリア『…そうか♪』

 

 

レミリア『美鈴、こいつに色々と教えてやってくれ、それなりに知識を身に付けさせてからにしないとな』

 

 

美鈴『はい、分かりました』

 

 

レミリア『後は…自己紹介か? パチェも呼ばないといけないからそれは後にするか…あ、そうだちんちくりん、お前幾つだ?』

 

 

少女『ええと…八歳です』

 

 

美鈴『八か…まだ二桁もいってなかったんですね』

 

 

レミリア『ふーん…名前は?』

 

 

少女『えっと……ル』

 

 

レミリア『あぁ待て待て! 私が新しい名前を付けてやろう』

 

 

少女『えっ…!』

 

 

レミリア『仮にも私がお前の親の様な存在になるんだぞ? 銀髪のちんちくりんでは呼びにくいし、呼びたくないからな』

 

 

少女『……』

 

 

レミリア『…忘れなくて良い』

 

 

少女『!』

 

 

レミリア『お前の本当の名前は忘れなくて良い、心の奥底に閉まっておけ…だが私と共に歩むのなら私から与えられた名前で生きてくれ、紅魔館の一員としてな』

 

 

少女『…! はい…!』

 

 

レミリア『良し♪ う~ん…とは言った物の…どうするかなぁ』

 

 

レミリア『……』

 

 

美鈴『…大丈夫ですか?』

 

 

レミリア『大丈夫だ、変な名前は付けんよ、一生物だからな』

 

 

レミリア『……ナイフの…いやいや…』

 

 

レミリア『……! そうだ、お前月は好きか?』

 

 

少女『は、はい』

 

 

レミリア『そうか! 今日は十五夜だったな…ふむ……それと夜…私の前で命を散らさなかった夜…お?』チラッ

 

 

レミリア『ありゃ、もう日付変わってるじゃないか…じゃあ十六夜になるな』

 

 

美鈴『え、でもまだ十五夜ですよ? 日付変わってもまだ』

 

 

レミリア『……! お! 良し決めた! お前の名前は…!』

 

 

レミリア『十六夜 咲夜 十六夜咲夜だ』

 

 

少女『……いざよい…さくや…』

 

 

レミリア『どうだ? 悪い名前じゃないだろ♪』

 

 

美鈴『えぇ十五夜…はもういいか…ふふっ、その名前、素敵な名前ですね♪』

 

 

レミリア『当たり前だろぉ♪ 私はセンスの塊だぞ? んふっはっはっは♪』

 

 

少女→さくや『……十六夜、咲夜…♪』ニコッ

 

 

さくや『……えへへ…///』テレテレ

 

 

美鈴『ふふっ、気に入ってもらえたみたいですね』

 

 

レミリア『当然だ♪ ……咲夜』

 

 

さくや『!』

 

 

レミリア『これからよろしくな♪』

 

 

さくや『…! はい!』

 

 

レミリア『良し良し♪ じゃあ次は私たちの紹介をしなければな、地下図書館に行くぞ』

 

 

さくや『図書館…?』

 

 

レミリア『私の親友がいるんだ、咲夜にも会わせたい』

 

 

美鈴『それじゃあ行きましょうか、咲夜ちゃん、私達に着いてきてね』スッ

 

 

さくや『は、はい!』スッ

 

 

レミリア『ふっふっふ♪ パチェの驚く顔が目に浮かぶよ』スッ

 

 

 ギィィィ…! バタン…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去の私の後ろ姿を見送る

 

 誰もいなくなった玉座の間の中央に私は立っていた

 

 

咲夜「……」

 

 

 こうして私は十六夜咲夜として、紅魔館で生活することになる

 

 お嬢様には名を戴き、私の成長を本当の母の様にずっと側で見守っていてくださった

 

 美鈴には家事全般と武術を教わり、身の回りの世話と自分で身を守る技術を教わった

 

 パチュリー様には幻想郷で生きていくための知識を戴き、私に足りない知恵を授けてくださった

 

 こあと妹様に会うのはまだ先の話だけど二人からも大切な物を戴いた

 

 

 そして十年後…紅霧異変が起き、私は紅魔館の外の世界を知ることになる

 

 それが切っ掛けとなり今の十六夜咲夜が作られていく

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「過去を見るのはこれで終わり…私は元の…皆が待っていてくれる世界に帰らなければならないわ」

 

 

咲夜「でもその前に話をしましょう?」

 

 

咲夜「……もう一人の私…」クルッ

 

 

 私は後ろを振り返る

 

 

さくや『……』

 

 

咲夜「……」

 

 

さくや『気付いてたのね』

 

 

咲夜「えぇ、でも気付けたのは紫の話を聞いてから、そしてこの空間に来たときに確信へと変わった」

 

 

咲夜「偽物の幻想郷で時の繰り返しを起こしていたのはあなたであり、私でもあった」

 

 

さくや『…そこまで気付けているのね』

 

 

咲夜「気付けている理由、あなたなら分かるでしょう?」

 

 

さくや『えぇ』

 

 

咲夜「私はあなたで」

 

 

さくや『あなたは私だからね』

 

 

咲夜「と言っても、あなたは過去の私の弱い部分が私の心の中で闇として具現化した存在」

 

 

さくや『うん、そうだね』

 

 

咲夜「紅霧異変が起きる前の私はお嬢様たちに心を救われた事もあってこう思っていた『紅魔館の家族以外との接触はしたくない』と…紅魔館が全ての私だもの、紅魔館の為に生き、紅魔館の為に死ぬ…そう考えるのは自然だった」

 

 

咲夜「だけどその思いは変わっていく…紅霧異変が起き、霊夢と魔理沙が異変解決に来てからお嬢様が外の人間に興味を持ち、会いに行く迄になった…それに着いていった私も紅魔館の外に興味を持つようになった」

 

 

咲夜「あの二人が来て一番大きかったのは妹様に笑顔が生まれた事、忘れられないわ」

 

 

咲夜「そして私も異変解決に同行するようになり、知り合いが増え、友達も出来…掛け替えのない親友まで出来た」

 

 

咲夜「今の私は一言で言うなら、幸せの一言よ、それ以外の言葉は思い付かないぐらい…幸せなの」

 

 

さくや『……』

 

 

咲夜「でもその幸せの過程には不幸の過去…つまりあなたがいたことは事実、あなたがいなかったら今の私は存在していないから」

 

 

咲夜「私が毎日に幸せを感じている中で、あなたが私の心の中で大きくなっていった…それには気付いていたけど私はその存在を無視していた」

 

 

咲夜「忘れたくない、忘れてはいけない過去なのに無視をした…だからあなたが生まれた」

 

 

咲夜「心の中で闇として生き、私の本体が弱って気を失って倒れたのを気にあなたは私の心の中で隠し続けていた幸せ『紅魔館での幸せな毎日』を時の繰り返しで悪夢として見せ続けた」

 

 

さくや『……そうよ』

 

 

咲夜「その理由は私に気付かせる為…でしょ?」

 

 

さくや『何を?』

 

 

咲夜「鈴仙に昔言われた事を今そのまま言うわ『もっと自分を大切にしてほしい』これが答えよ」

 

 

咲夜「あなたは私の闇の部分で私に悪夢を見せ続けていたけどあれは私が望んだ事があった幸せの一部…言っても分からない…自分を大切にしない奴にはお仕置きをして自分が他の人に大切にされてるって事を気付かせる…これが理由よ」

 

 

さくや『正解よ』

 

 

咲夜「私に過去を見せたのは、あなたを忘れないでいてほしいから…そうよね?」

 

 

さくや『うん…そうだよ』

 

 

咲夜「……」

 

 

さくや『不安だったの…忘れられるのが怖かったの』

 

 

咲夜「……忘れるわけ無いじゃない」

 

 

さくや『……』

 

 

咲夜「過去は辛いことだらけだった、でもあなたの事は絶対に忘れない」

 

 

さくや『…約束してくれる?』

 

 

咲夜「もちろんよ」

 

 

さくや『……じゃあ、はい』スッ

 

 

咲夜「えぇ」スッ

 

 

 私は過去の私と小指を重ねる

 

 

さくや『でも辛いよ? 不幸を思い出すのって』

 

 

咲夜「えぇ辛いわ、でもあなたがいないと今の私はいない…あなたがいて、私がいるの」

 

 

さくや『……ありがとう♪』ニコッ

 

 

咲夜「……どういたしまして♪」ニコッ

 

 

さくや『ふふっ、なんか変な感じだね』

 

 

咲夜「自分に指切りして自分で約束しているからかしらね、ふふっ」

 

 

 過去の私が淡い光に包まれていく

 

 

さくや『…私を思い出すのは時々で良いからね』

 

 

咲夜「…えぇ分かったわ」

 

 

さくや『自分を……もっと大切にしなきゃ…ダメだよ?』

 

 

咲夜「うん、分かってる」

 

 

さくや『帰ったら最初に声を掛けてくれるのは誰かなぁ♪』

 

 

咲夜「私が一番側にいたい人じゃないかしら♪」

 

 

さくや『ふふっ、そうだよね♪』

 

 

咲夜「そうよ、ふふっ♪」

 

 

さくや『…♪』ニコッ

 

 

咲夜「…♪」ニコッ

 

 

さくや『バイバイ…今の私…♪』スッ

 

 

咲夜「ありがとう…昔の私…♪」

 

 

 過去の私は光となって消えていった

 

 

咲夜「……」ポロッ

 

 

咲夜「泣くのは帰ってからにしましょう」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「お嬢様…みんな…」

 

 

 

 

 

 今 帰ります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

 

 【紅魔館 咲夜の寝室】

 

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「うっ……んんっ…」

 

 

咲夜「……」パチッ

 

 

咲夜(……ここは…)

 

 

咲夜(…あぁ、帰って来たのね…私の時間に…)

 

 

咲夜(……? 左手に違和感が…)スッ

 

 

咲夜「……!?」ビクッ

 

 

レミリア「うぅっ! グスッ…! グスッ…!」ボロボロ

 

 

咲夜「お、お嬢さ」

 

 

レミリア「咲夜ぁ!!」ダキッ

 

 

咲夜「きゃっ…!」ギュー

 

 

レミリア「咲夜ぁ! 咲夜ぁ! 良かった…! 目が覚めたのね咲夜!」

 

 

咲夜「お、お嬢様…い、痛いです…!」

 

 

レミリア「あ、ご、ごめんね…! 強く抱き付いちゃった…?」

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバ「レミリア、気持ちは分かるけど咲夜は目が覚めたばかりなんだからね」

 

 

レミリア「わ、分かってるわよ!」

 

 

鈴仙「分かってるなら抱き付くのは後! 退いて、ここからは医者の仕事よ」

 

 

レミリア「う~…」

 

 

咲夜「鈴仙…」

 

 

鈴仙「……まだ寝てなきゃダメよ咲夜、本当に病み上がりなんだから」ゴソゴソ

 

 

咲夜「…」

 

 

鈴仙「はいこれ…飲める?」

 

 

咲夜「え、えぇ…」スッ

 

 

咲夜「んっ…んんっ…んぐっ…!? げほっげほっ!」

 

 

レミリア「ちょっ!? 鈴仙! あなた何を飲ませたのよ!」

 

 

鈴仙「滋養強壮の漢方よ、苦くて当然だわ」

 

 

レミリア「そんな苦いもん飲ませんじゃないわよ!」

 

 

咲夜「い、いいんです、お嬢様…」

 

 

レミリア「! 咲夜…」

 

 

鈴仙「…全部飲みなさい」

 

 

咲夜「え、えぇ…」スッ

 

 

鈴仙「レミリア、フランたちを呼んできたら? 咲夜目が覚めたんだからさ、それに咲夜に色々と説明もしたいでしょ?」

 

 

レミリア「そ、そうね! 咲夜、みんな心配してたのよ、フランもパチェも美鈴もこあも…! 霊夢たちもみんなみんなよ…!」

 

 

咲夜「…!」

 

 

レミリア「待っててね、みんなを呼んでくるから」スッ

 

 

咲夜「は、はい…」

 

 

鈴仙「静かによ! 分かってるわよね!?」

 

 

レミリア「わ、分かってるわよ!」ダッ

 

 

 ガチャッ! バタン!

 

 

鈴仙「こらぁ! 走るな…! って、行っちゃったか…」

 

 

咲夜「…れ、鈴仙」

 

 

鈴仙「……」

 

 

咲夜「怒っ…てる?」

 

 

鈴仙「そりゃ怒ってるわよ」

 

 

咲夜「うっ…」

 

 

鈴仙「前から口酸っぱく言ってきたのにあなたは聞きもしなかった」

 

 

咲夜「き、聞い」

 

 

鈴仙「聞いてても現実で引き起こしたらダメなのよ、どうしてもっと自分を大切にしないの!?」フルフル

 

 

咲夜「…!」

 

 

鈴仙「結果…体を壊して苦しい思いをするのはあなたなんだから…それに…みんなを心配させちゃうんだから…」ポロッ

 

 

咲夜「鈴仙…」

 

 

鈴仙「グスッ…! 咲夜…目が覚めて…! 本当に良かった…!」ポロポロ

 

 

咲夜「…!! ……ごめんなさい…! ごめんなさい…鈴仙…! 私…!」

 

 

鈴仙「謝るなら…! もっと自分を大切にしなさいよ…! 咲夜のバカぁ…」

 

 

咲夜「ごめんなさい…! グスッ…」ポロッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜「過労…?」

 

 

鈴仙「そう、あなたは過労で倒れたの、一日ずっと眠ったままだったんだから」

 

 

咲夜「一日……」

 

 

鈴仙「紅魔館の廊下で倒れているところをフランが見つけたらしいの、それで半日は紅魔館のみんなで看病してたんだけど咲夜の体調が一向に良くならない、目が覚めないから私が呼ばれたって訳なの、それで噂を聞き付けた人が集まってきて…」

 

 

咲夜「…そう、だったのね」

 

 

鈴仙「……不思議なのよね」

 

 

咲夜「何が?」

 

 

鈴仙「本当にあなたはただの過労なの、無理をしていたとはいえ師匠が調合した薬を飲んだら過労なんて直ぐに治って目を覚ます筈なのに…」

 

 

咲夜「………」

 

 

鈴仙「でもまぁ良いわ、こうして咲夜の目が覚めてくれたんだからね♪」

 

 

咲夜「! ありがとう、鈴仙」

 

 

鈴仙「ふふっ、それレミリアたちにも言いなさいよ? …私以上に心配してたと思うから」

 

 

咲夜「えぇ、もちろんよ」

 

 

鈴仙(どんなに親しくても家族の絆ってモノには敵わない、何処も一緒よね)

 

 

鈴仙「…あ、不思議な事と言えばもう一つあるの」

 

 

咲夜「なぁに?」

 

 

鈴仙「紫が来てたのよ、まぁ今もいるんだけど…お見舞いかなって最初は思ってたんだけどなんか」

 

 

咲夜「!! ……なんか?」

 

 

鈴仙「ベッドに寝ているあなたの事をジッと見つめて深く考え事をしていたのよね、凄く難しそうな顔をしてたの、霊夢も同じことを言ってたから不思議に思ってね」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜(紫…)

 

 

 ドタバタドタバタ!

 

 

咲夜「えっ」

 

 

鈴仙「! 静かにって言ったのに…!」

 

 

 バァン!

 

 

フラン「さーくやー!」

 

 

レミリア「咲夜ー!」

 

 

咲夜「!?」ビクッ

 

 

鈴仙「ストーップ!」

 

 

レミリア「な、何するのよ鈴仙!」

 

 

フラン「退いてよ! 咲夜に抱き付くんだから!」

 

 

鈴仙「抱き付いちゃダメ! 良い!? 咲夜は病み上がりなの、静かにしてなさい!」

 

 

レミリア、フラン「…はぁーい」

 

 

鈴仙「静かに手を繋いであげるなら大丈夫、それなら医者の私も文句言わないわ」

 

 

レミリア、フラン「!」

 

 

フラン「咲夜…」スッ

 

 

咲夜「はい…」

 

 

フラン「心配…したんだよ? すっごく、すっごく心配したんだよ?」

 

 

咲夜「妹様…」

 

 

レミリア「私もよ、咲夜…あなたが倒れたって聞いたとき…私…私…」フルフル

 

 

咲夜「お嬢様…」

 

 

咲夜「……お嬢様、妹様、ご心配をお掛けしました…」

 

 

フラン、レミリア「咲夜…」

 

 

 

 ガチャッ

 

 

霧雨魔理沙「よっ、咲夜、起きたか?」

 

 

博麗霊夢「あら、起きてるじゃない」

 

 

アリス・マーガトロイド「顔色も良さそうね」

 

 

魂魄妖夢「元気…ではないよね、まだ目が覚めたばかりだから」

 

 

東風谷早苗「だからこういう時こそ奇跡の力に頼るべきだったんですよ、一発で治ったと思いますよ?」

 

 

パチェ「奇跡の力に頼るほど家の咲夜は柔じゃないのよ」

 

 

こあ「お嬢様たち、突撃してないですよね…?」

 

 

美鈴「大丈夫みたいですね…ホッ」

 

 

紫「……」

 

 

 

咲夜「…!! パチュリー様、こあ、美鈴…みんな」

 

 

霊夢「あんたが倒れたって聞いたからね、お見舞いよお見舞い」

 

 

魔理沙「おう咲夜、良いもん持ってきてやったぞ、滋養強壮のキノコなんだけどよ、これお前の胃にお見舞いしたら元気になるぜ?」

 

 

早苗「…そのキノコ平気なんですよね?」

 

 

魔理沙「当たり前だろ?」

 

 

霊夢「言い方が不穏なのよあんた」

 

 

魔理沙「本当なんだからしょうがねぇじゃねぇか」

 

 

アリス「胃にお見舞いって言い方はどうもね…お見舞いするなら私と魔理沙の婚姻届だけにしてほしいわね」

 

 

霊夢、魔理沙、咲夜「……」

 

 

アリス「ん? ふふっ♪」

 

 

霊夢「何処に婚姻届をお見舞いすんのよ」

 

 

魔理沙「ん? からのふふっじゃねぇよ」

 

 

咲夜「お見舞いでもぶれないのね、アリス」

 

 

早苗、レミリア、鈴仙、妖夢「ぷふっ…!」

 

 

霊夢「ふっ…♪ 突っ込む元気があるなら大丈夫そうね」

 

 

咲夜「えぇ、まぁね」

 

 

魔理沙「だな♪ ほら、ちゃんとこのキノコも食えよ?」

 

 

咲夜「ありがと、魔理沙」

 

 

アリス「最近寒くなってきたから注意した方が良いわよ? 完璧に見えても意外に見落としてたりするんだから」

 

 

咲夜「…ふふっ、そうね注意しておくわ」

 

 

早苗「本当は私の奇跡で一発で治そうと思ってたんですよ! 咲夜さんが早く治ります様にって!」

 

 

魔理沙「それただの願掛けじゃねぇか」

 

 

早苗「そこに私の能力の力が加わるんですよ」

 

 

咲夜「奇跡…ね」

 

 

早苗「どうしたんですか?」

 

 

咲夜「願掛けでも奇跡って発動するのかもね」

 

 

早苗「…?」

 

 

咲夜「ふふっ、心配してくれただけでも嬉しいわ、ありがと早苗」

 

 

 

 

 

 

妖夢「…咲夜でも過労で倒れたりするんだね」

 

 

咲夜「私だって完璧な人間じゃないからね…」

 

 

妖夢「倒れるまで無理したら駄目だよ…」

 

 

咲夜「私の注意が散漫になってしまったせいなのよ…」

 

 

パチェ「自分を責めるのは良くない事よ、咲夜」

 

 

咲夜「パチュリー様…」

 

 

パチェ「私たちがあなたの体調の変化に気づけなかった…あなたに無理をさせていた…これは私たちが反省しなければいけないことよ、あなたに頼り過ぎていたの」

 

 

咲夜「そ、そんなことは…!」

 

 

レミリア、フラン、こあ、美鈴「……」

 

 

鈴仙「……自分を責めるのは良くないなら、あなたたちが自分を責めるのも良くない事なんじゃないの?」

 

 

レミリア「っ…! でも…!」

 

 

咲夜「……」

 

 

霊夢「あんた達が自分を責め合っても何も変わらないでしょうが」

 

 

咲夜「!」

 

 

霊夢「咲夜が倒れてあんたたちは咲夜のために看病した、それは咲夜に伝わってるし咲夜だってその事に感謝してるし、元気になったんだからもう無茶しないってのも咲夜の中に出来上がってる、それが分からないあんた達じゃないでしょ?」

 

 

レミリア「…霊夢」

 

 

魔理沙「霊夢の言う通りだぜ、このあと謝り合戦始まるんだろ? してたら終わらねぇし前にも進めない、大事なのはこれからどうして行くかだろ?」

 

 

フラン「魔理沙…うん、そうだよ! そうだよね!」

 

 

フラン「私咲夜のために何かしてあげたいの! 何か出来ることないかな?」

 

 

魔理沙「フラン、いきなり言ったら混乱しちゃうぞ? ちょっとは間を開けようぜ」

 

 

フラン「あ、ごめん…」

 

 

咲夜「! ふふっ…」

 

 

紫「そこで家族の善意に遠慮したりしちゃダメよ? そこがあなたの悪い癖なんだから」

 

 

咲夜「紫…!」

 

 

紫「…♪ 咲夜」

 

 

咲夜「…?」

 

 

紫「今日は10月17日よ」

 

 

咲夜「!」

 

 

紫「ふふっ♪ お帰り、咲夜」ニコッ

 

 

 ギュオン!

 

 

咲夜「…ふふっ♪」ニコッ

 

 

魔理沙「…? なんだぁババアのやつ、変なこと言って直ぐ帰りやがって」

 

 

霊夢「…さぁね」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜(……私…好きな人達がいるところに…帰って来たのね…)

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜(時の繰り返しの中で私は学んだ…思いを伝える事の大切さを…ここで伝えたらみんなは忘れずにいてくれるわよね)

 

 

咲夜(生きている中の例え小さな出来事でも私にとっては宝物なんだから)

 

 

咲夜「…みんな」

 

 

レミリア達「…?」

 

 

咲夜「お嬢様、妹様、パチュリー様、こあ、美鈴…鈴仙たち…みんなに聞いてほしいんです」

 

 

霊夢「? どうしたの? 急に」

 

 

 

 

咲夜「お見舞いに来てくれてありがとうとか、ずっと看病してくださってありがとうとか…みんなには、言いたい事が山程あるんです」

 

 

咲夜「倒れた事だけじゃなくて、他にも感謝したい事とか色々とあるんですけど、中々言う機会と勇気が無くて…全ての感謝を言葉に出して伝えるという事がまだ出来ていないんです」

 

 

咲夜「でもいつかは一人一人に、私は感謝の言葉を伝えたいんです、小さい事でも大きい事でもです…十六夜咲夜が存在しているのはみんなのおかげだから、倒れたことでそれに気付かされたんです」

 

 

レミリア、美鈴、パチェ「…!」

 

 

咲夜「だから…その…感謝を言う前にみんなには一言、言っておきたい事があるんです、いきなり何を言い出すんだと思われても構いません、でも言わせてほしいんです」

 

 

 

 

 

 

 

咲夜「私はみんなに…みんなに会えて本当に良かった、私の事を想ってくれている人がこんなにもいることが私は嬉しいです」

 

 

咲夜「私はそんなみんなの事が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜「大好きです♪」ニコッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【真実は二人の時の中で】

 

 

 

 過労で倒れてから三日後、私は紅魔館の時計台に呼び出されていた、私を呼び出した相手は…

 

 

咲夜「話ってなんなのかしら」

 

 

咲夜「紫…」

 

 

紫「……」

 

 

紫「ふふっ♪ ほら、あなたにとって都合の良い八雲の紫さんから言われたでしょ?」

 

 

咲夜「…!」

 

 

紫「真実…何でも話してあげるわよ、咲夜」

 

 

紫「ただあなたの心の中で起きた時の繰り返し異変の事はもう聞かないでよ? あなたが解決したんだから、もうそれについては決着ついているんでしょう?」

 

 

咲夜「えぇそうよ、私は自分で自分に決着をつけたの」

 

 

紫「そう、だからあなたは私の愛する幻想郷に帰ってこれた」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「さてさて、あなたは何を私に聞くつもりなのかしらねぇ♪」

 

 

咲夜「…二つ…聞きたい事があるわ」

 

 

紫「あら二つだけでいいの?」

 

 

咲夜「充分よ」

 

 

紫「それじゃ、どうぞ?」

 

 

 

 

 

咲夜「一つ…私を幻想入りさせたのはあなたよね?」

 

 

紫「……そうよ」

 

 

咲夜「私を…生き返らせてまで?」

 

 

紫「まだ死んでいなかったわ、私はあなたの傷の境界をいじって治療しただけよ」

 

 

咲夜「……何のために幻想入りさせたの?」

 

 

紫「レミリアにあなたの事を気に入らせるため」

 

 

咲夜「…!?」

 

 

紫「そういう意味では私はあなたの事を利用した事になるわね」

 

 

咲夜「……」

 

 

咲夜「二つ…その気に入らせるってやつの延長にあるんでしょうけど、お嬢様と美鈴、パチュリー様たちが私に言っていた運命と言う言葉…あなたに関係あるの?」

 

 

紫「大有りね」

 

 

咲夜「…教えて」

 

 

紫「……少し、昔話をしましょうか」

 

 

咲夜「…?」

 

 

紫「あなた吸血鬼異変って知ってる?」

 

 

咲夜「……何百年も前に外の世界からやってきたお嬢様が幻想郷を支配しようとしてやったって言う…」

 

 

紫「そうそれ、詳しい経緯は省くけど…もう本当にね、今考えると信じられないぐらいカリスマがバリバリに出てた頃のちんちくりんお嬢様のお話よ」

 

 

紫「ちんちくりんのカリスマにやられたのか殆どの妖怪がレミリアに寝返っちゃってね、レミリア達吸血鬼の暴走を阻止するため、当時の博麗の巫女と私たち幻想郷の賢者とその他力のある妖怪達で、吸血鬼達に戦いを挑んだ…今考えると小さい戦争に匹敵するわね」

 

 

紫「戦ってる最中に私とレミリアが一騎討ちすることになってね、戦ったのよ? レミリアと一対一で」

 

 

紫「ちんちくりんの癖に偉そうに~! って思った私はレミリアの事をこてんぱんにしてやったのよ♪ それはもう完膚なきまでに、オホホホ♪」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「……勝った私はレミリアに止めを刺そうとしたんだけど刺せなかったの」

 

 

咲夜「…?」

 

 

紫「倒れているレミリアの目をジーッと見て分かったんだけど素質があったのよ」

 

 

咲夜「素質…?」

 

 

紫「人間を大好きになる素質」

 

 

咲夜「!」

 

 

紫「……私も人間が大好きだから分かるのよ、レミリアは私とおんなじ考えを持つ妖怪になるって分かったの」

 

 

紫「だから私はレミリアを見逃した…意味深な言葉をアイツに残してね」

 

 

紫「いつかあなたの運命を変え、導いてくれる人間が現れる…とね」

 

 

紫「賭けだったけど物の見事に信じてくれたわ…昔のレミリアが大好きだった言葉の運命が効いたのかしらね♪ ふふっ♪」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「そして異変は終息…数百年後に舞台は移りレミリアの前にあなたは現れる、そして現在へ」

 

 

咲夜「そうか、あなたが私を利用したってそういう事ね…」

 

 

紫「私は運命を信じて待っているレミリアに人間の良さを知ってほしいと願ったの」

 

 

紫「ただあのレミリアに気に入られるには相当な実力を持った人間じゃないといけない…だから私は特異な能力を持っていて幻想入りしても問題ないあなたを選び、紅魔館の近くに幻想入りさせた」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「これも正直賭けだった、けどあなたはレミリアに気に入られ、今がある」

 

 

咲夜「……」

 

 

紫「……」

 

 

咲夜「…それじゃあ私はあなたに救われた事になるのかしらね」

 

 

紫「私はあなたを利用した事実があるのよ? それなのに…」

 

 

咲夜「私があなたに救われたって思っているんだから救われたで良いじゃない」

 

 

紫「!」

 

 

咲夜「……誰からも必要とされない孤独の世界から私を救ってくれたのはあなたよ、紫」

 

 

咲夜「お嬢様たちからは生きる希望をもらったけど、切っ掛けはあなたが作った…作ってくれた」

 

 

咲夜「だから…私を救ってくれてありがとう、紫」

 

 

紫「……」

 

 

紫「神隠しにお礼を言うなんてね…♪ あなたが初めてかも」

 

 

咲夜「あら、それは光栄ね♪」

 

 

紫「都合の良い私から聞いたかもしれないけど、霊夢と魔理沙…二人と同じようにあなたを特別視してしまっている自分がいるのよ、勝手ながらあなたが困っていたら助けたくなってしまう…だから私はあなたが自分の心の中で闇に蝕まれているって分かったときにあなたを助けるために都合の良い私とコンタクトを取って助けるように言ったの」

 

 

咲夜「…」

 

 

紫「お節介だった?」

 

 

咲夜「そんなこと思ってる訳ないでしょ」

 

 

紫「そ♪ 良かった♪」

 

 

咲夜「ふふっ…♪」

 

 

 

 

 

 

紫「咲夜、私からも聞いて良いかしら」

 

 

咲夜「何?」

 

 

紫「あなたは私が愛する幻想郷が…好きかしら」

 

 

咲夜「…! ふふっ、愚問ね」

 

 

咲夜「家族がいて、親友がいて、友達がいる…この幻想郷を嫌いになんてなれないわ」

 

 

咲夜「大好きよ」

 

 

紫「…♪ そ♪」ニコッ

 

 

咲夜「えぇ」

 

 

紫「ふふっ、さて…♪ これで問答タイムは終わりよ」

 

 

 ギュオン!

 

 

紫「ふふっ、またね…ルーナ♪」

 

 

咲夜「なっ…!? あ、あなた何でっ…!」

 

 

紫「ゆかりんは何でも知っている…じゃあまたね、十六夜咲夜♪ ふふっ♪」スッ

 

 

 ギュオン!

 

 

咲夜「……まったく、普通に帰れないのかしら」

 

 

咲夜「……ふぅ」

 

 

咲夜「朝の日差しが心地いわね♪ ふふっ♪」

 

 

 

 

 

 おしまい♪

 

 

 






 ここまで読んでいただいてありがとうございました、お疲れ様でした♪


 後半少し失速してます、無理矢理感が強いかも…本編がかなり長くなってしまったので、後書きもここまでにしておきます。 

 咲夜の本名は特に意味は無い…かもしれません

 昔のレミリアはカリスマがバリバリ出てますが、この時の彼女はまだ人間の良さに触れたばかりなのでこんな感じになってます。


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