カランと鳴るはドアの音
コロンと鳴るはベルの音
悪魔の店には何でもあります
お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げます
はてさて、今日のお客様は?
〜ep79 自他〜
「本日はどういったご用件ですか? お客様」
「生まれて僕はずっと...誰からも見られず1人ぼっちだったんだ...頼む! 僕にも...」
「成る程、そういう事ですか。少々お待ちを」
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「こちらでございます」
「月の形をした...ペンダント?」
「こちらを使えばあら不思議! どんな人だろうとお客様の友人として接する事になるでしょう」
「か、買います! お幾らでしょうか?」
「お代は結構ですよ。忠告を聞いてさえくれれば」
「忠告...ですか?」
「決して、自分の名前を忘れないように」
Side C
「あ、あの...」
「良いって良いって。〇〇さんには世話になったしよ」
「そうそう! 俺ら〇〇さんのお陰で今を過ごせてんだ!」
「あ、ありがとうございます...」
あのペンダントを付けて以来、僕はこんな感じで出会う人に毎回感謝されてお礼を貰っている。名前に関しては〇〇...という如何にもな感じの名前...当然僕の本名じゃない。
「悪くないかも...こうやって誰かに話しかけられ、自分を見てくれて、感謝されるのって...まるで、漫画やアニメの主人公みたいだ...」
願いが叶って嬉しい! 悪くない気分だ!...
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「〇〇さん! 何時もの感謝のお気持ちです」
「あ、どうも」
「〇〇さん! この前は助けてくださりありがとうございました!」
「いや、僕はただ...」
「〇〇さん!!」
「〇〇さん!!」
「〇〇さん!!」
「こんなにも感謝されて! こんなにも尊敬されて! こんなにもトモダチを持って! 僕は何て幸せなんだ!!」
嬉しい! 嬉しいんだ!! 嬉しすぎてこんなにも!!
....こんなにも、胸が痛い。
「....わかっていたさ。彼らが見ているのは〇〇という人。僕自身を見てるわけじゃあない...見てるわけじゃあないんだ...」
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けれども僕は外せなかった。理解と妥協は別物であると思い知らされた。所詮僕はこういう人間だと思い知らされたんだ...
「今日も、僕は...」
「大変だ! 子供が川に...」
!? 今の声は...やめろ、僕を見ないでくれ。僕は人助けをする〇〇さんじゃないんだ。君達の知る〇〇さんじゃないんだ。君達が憧れてる〇〇さんじゃないんだ...
「げほっ、ごほっ、たす、助け、ごぽっ!?」
「...っ、僕は...」
ーー助けて!!
瞬間、僕は川へと飛び込んでいった。思ったよりも深く、服が水を吸って重しの様に僕の動きを阻害した。それでも手探りで抱き抱え、僕はがむしゃらに陸へと必死に上がっていった。
「あり...がとう...〇〇さん...」
「...違う。僕は〇〇さんなんかじゃない」
ーー僕の本当の名前は...
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いつの間にか、イヤリングは無くなっていた。僕が必要ないと願ったからだろう...僕は自分として生きる。自分として他人と向き合い、正々堂々と生きていく...もしかしたらもう遅いのかもしれない。2度とあの仮初めの栄光を得られないのかもしれない。
「それでも、僕は本当の名前を掲げよう。あの時子供を助けた人物の名を」
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「ありゃま、無料の段階で返品ですか珍しい。人間も少しはマシになったという事ですかねぇ...」
悪魔は笑い出す
「嫌、それはありませんか...割合は圧倒的に追加料金組の方が多いですし」
今日も彼は店を営む
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...
本編に余り関係ない裏設定
実は悪魔の店...特別製のwifiが通っています(というのも、噂を流す際にどうしても文明の利器を使わざるを得ない時があるので)
特別製なのであの世とか、別の世界とかともスマホで通信出来たりもする(機会があれば是非試してみてください)
それ以前に店員って機械の扱いは大丈夫なの? という疑問を浮かべる読者もいると思いますが、本人曰く「人が考え得る道具を扱えない悪魔がいたら是非見てみたいものですねぇ」との事。つまり滅茶苦茶使いこなしている(その気になればクラッキングをして審判の日を引き起こせるとか...本人の性格上やりそうで絶対やらないけど)