カランと鳴るはドアの音
コロンと鳴るはベルの音
悪魔の店には何でもあります
お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げます
はてさて、今日のお客様は?
〜ep93 Democracy〜
「本日はどういったご用件ですか? お客様」
「誰も、動こうとしない。そんな世界がうんざりだ...誰も行動しようとしない。この世界が」
「...」
「私が言えば、正義の元に、全て動く事の出来る道具が欲しい」
「...わかりました。本当にいいんですね?」
「さっさとしろ。出来るんだろう?」
「...少々お待ちを」
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「こちらでございます」
「ノートパソコン、だと?」
「これで、自分の掲示板サイトを作るなりすれば良い。それを見れば誰だろうとあなたの言う、正義が寄せ集まって事を起こせるのですから」
「買おう「ですが」...何だ?」
「全ての責任はお客様にある。ですから、最後に下すのは直接、自身の手で行って下さい」
「...」
Side C
「は...っはは! 本日のアクセス数10万!! 良い調子だ!!」
最初からコツコツと、そしたら今ではこの通り! 誰もが私の言う事に共感し、そしてすぐさま事を起こす。デモをやるのは序の口、悪い奴に司法を通さず大人数で鉄槌を下し。ネットで中傷を書く事で精神的に追い詰める。皆、そうしている。悪人は減っている。何故なら我々が正義だから。やはり私は間違っていない。自ら鉄槌を下していないが、多くの人々は言い出しっぺの私を支持し、そしてねずみ算式で皆んな事を起こしていく。しかも100%成功する。
「私が言う事は正しい。皆が不満に思い、悪だと思っている事を代弁しているだけなのだからな!!」
あの店員は自分の手で下せと言ったが、何故私が薄汚い悪人の血で汚れなければならない? 悪人に対してどの様に接しても自由だろうが。こっちは全て正しいのだから。
「次は、どうしようか。汚職してる風な奴がいる。おっと、こいつもいいな。万引きだって。おぉっと、匿名で...ホームレス狩りかぁ...さて、どの悪を裁こうか?」
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ある日の事だ。ホームページに私の事が書かれていた。
「嘘...だろ?」
裁くべき、悪人として。ほんの少し魔が差しただけの、世間一般で言えば取るに足らない事だ。私は激怒した。管理人としてパスワードが書き換えられている事を見て乗っ取られた事に気付き。ネット内やポップアップ(ページを開いたりすると出てくる広告)にも何故か私の誹謗中傷が書かれている事に気付き。私はメッセージを、乗っ取っているであろう管理人に送った。
ただ一言
【オマエヲ ユルサナイ】
その返事を見た瞬間、私は家を飛び出た。
「はぁっっっっ! あぐっ!! はぁっっ!!」
走った。兎に角走った。一生分の汗を流しつつ息を荒げた。
道中、道行く人が私を見て笑いながら会話をする。中には直接暴言を吐くものも...
物を投げられた。
石
残飯
ハサミ
ペンチ
金槌
当たったら死ぬであろうもの、殺すつもりでこちらに襲いかかる者も居た。死にたくない。生きたい。何故私がこんな目に。
私は正義だ。悪い奴は他にいるだろう。これも全て乗っ取ったものが悪い!!
だから、解決策を聞き出すのと、商品の不備に対するクレーム。そして事を済ませたら悪と見なして地獄へ落とす為、私はあの店へと向かった。
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「イラッシャイマセ...を言う段階を過ぎている事くらい分かっていますよ」
「ああそうだろうな!! お前は、私に、不良品を渡した!! 客である私に対して、何様のつもりだ!!」
「...貴方のサイトを乗っ取ったお人は、高校生でしてね。自分がいじめられていたところを助けた恩人を、貴方に殺されたのですよ。いじめっ子が報復のため投稿して、ホームレスである恩人が殺されたのだと」
「...だからどうした? ホームレスなんぞ、社会のゴミだ。どう振る舞おうが、悪だろう? いらない存在だ。それに、だったら何故そのいじめられっ子は私のサイトに投稿しなかった?」
「優しかったからですよ」
「嘘だ。きっと、そのいじめられっ子は嘘を付いているのだろう? 私のサイトを乗っ取る様な悪だ...正義である私を陥れる為に嘘を付いている!!」
「そうかもしれません。ですがその子が嘘を付いていようがいまいが...貴方は忠告を破った」
男は正体を現す
「!? 何だ貴様! 悪魔か? 化け物か?」
「残念ながら忠告を破った者には追加料金が発生します」
男は答える
「黙れ! 私は正義だ!! 何も間違ってなどいない!! 悪人をどうしようが、正義である私の勝手だ!! 間違ってなど...間違ってなどいない!!」
「はっはっは...正義を踏み潰さず、喰らわない悪魔がどこに居ますか?」
悪魔は笑い出す
「やめろ、やめろ、私はまだ悪人を! 裁いて...」
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「嗚呼、そうだ。みんなで事を起こせば怖くない。みんな正しければ全て上手くいく。悪い奴は少数。潰すのは簡単。大多数は何をしたって構わない。向こうが間違っているんだから。死刑だ。半殺しだ。精神を殺してしまおう。地獄を見せよう。どんな事だって良い。
素晴らしい。巨悪の1人をのさばらせない為に大多数の正義で何一つ残らず全て潰す、実に素晴らしい事だ。
確固たる証拠は何一つないけど、そいつが悪人だから、どんな暴言を吐こうが心を抉ろうが構わない。だって自分は正しいのだから。自分自身で手を下すのは怖いから、他人に任せてるけど気にしない。だって自分達は同じ正義だから。悪人にもやむを得ない事情があるが、そんなものは気にせず殺そう。だって正しいものの方が全てにおいて良くて、上手くいくのだから、これからも同じ様にしたって構わないんだ...実に、実に...」
悪魔は笑いを止める。
「...........ふざけるな」
笑いを止める。
「ふざけるな!!」
笑いを
止める
「それは、小さな、小さな、声なき声を
まるで...
「...失礼。私としたことが、少々熱くなり過ぎましたね。すいません、ザイ。店の中を散らかしてしまいました」
まるで、
「ノコルタマシイはあとななつ」
今日も彼は店を営む
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...