戦国時代に傭兵1人   作:長靴伯爵

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第八話

 

 

 

 仙波が長秀の屋敷に滞在した翌日。

 信奈の元から至急参上するように伝える使いの者がやって来た。

 慌しく支度を整え、幾つか長秀から信奈に会う上での注意点を聞いて、現在、MSFの野戦服姿の仙波は清洲城内にある大広間において信奈に謁見していた。

 

「私は織田信奈。ここの城主よ。あんた、名前は何て言うの?」

 

「仙波利孝と言います。傭兵です」

 

 お互いの自己紹介から始まった謁見。大広間の一段高い場所に座る信奈はついこの前、馬に乗って仙波を斬り殺そうとした時と同じ大きく着物を着崩した奇抜な格好をしている。彼女に相対する仙波の左側にはいまだに疑いの目を向けてくる勝家、右側には静かに目を閉じる長秀がそれぞれ座っていた。

 

「デアルカ。まず利孝。あなたのおかげで万千代は助かったわ。万千代は私の家族同然なの。本当にありがとう!」

 

「俺は自分の出来ることをしただけです」

 

 戦国大名とはいえど、喜ぶ姿は年相応の少女のようだった。仙波は信奈の眩しい笑顔に若干気後れしつつも、日本に居た頃に見た時代劇の侍を真似て胡坐の姿勢から頭を下げた。謙虚ね~と信奈は感心したように呟いていたが、その目が仙波の服装に留まる。

 

「それにしても、変な格好ね。それは南蛮の衣なの?」

 

「そうですが、少し違います」

 

「どういうこと?」

 

 的を得ない言葉に信奈の形のいい眉が顰められる。仙波は軽く頭を下げると目線をチラリと長秀に向けた。静かに目を開けた長秀は仙波と目が合うと小さく頷く。

ここから、仙波が織田信奈に謁見した本題に入る。仙波はゆっくりと顔を上げ信奈の顔を見据えた。

 

「確かにこれらは日本の物ではない。しかし、重要なのはこれらは約400年後の物だということです」

 

「約400年後?何?あなたも自分が未来人だって言うの?」

 

「はい。俺はこの時代から約400年後、西暦1975年からこの地にやってきました」

 

 そう言った瞬間、仙波の隣に座る勝家が我慢ならないといった風に吼えた。

 

「戯言を!姫様、こいつもサルと同じふざけた下郎にすぎません!即刻叩き出しましょう!」

 

「証拠は?」

 

「姫様!?」

 

「六。サルは私達の未来を知っていると言って紛いなりにも自分が未来人だと主張しているわ。なら利孝にも自分を未来人だと主張する証拠があるはずよ。あるの?」

 

「ここに」

 

 仙波が背後から出したのは長いある物を包んだ風呂敷だった。ゆっくりと風呂敷を解けば、中から出てきたのは仙波の愛銃、アサルトライフルAM69。そのまま持参するのは敵対の意思と捉えられかねないので長秀から風呂敷を借りていたのだ。

 

「貴様!武器を持ち込むなど!!」

 

「六。落ち着きなさい。で、その奇妙な鉄砲は?」

 

「私が未来で使っていた銃です。弾は抜いてあります。アサルトライフル、突撃銃と言います」

 

「突撃銃ね。ちょっと見せなさい」

 

「姫様!危険です!この機に何をするか・・・」

 

「万千代。利孝は信用できるんでしょう?」

 

 再三に渡って警告する勝家を放っておいて、信奈は今まで静観している長秀に話を振った。ここまで自身の行動を諌められると流石に嫌気が差したらしい。長秀はにっこり笑って信奈に答えた。

 

「はい。信用に足るお人です」

 

「ほら、万千代もこう言ってるでしょ」

 

「くっ・・・。長秀ぇ・・・」

 

「大丈夫ですよ」

 

 長秀にまで言われた勝家がやっと引き下がると、信奈はいそいそと仙波が差し出したAM69を受け取った。

 

「へぇ~。種子島より軽いのね。どんな能力があるの?」

 

「射程は種子島の約9倍、連続での射撃も可能です」

 

「9倍!?連続して撃てるの!?」

 

「さらにその銃本体の上部の物はスコープになっています」

 

「すこーぷ?わ!物が近くに見えるわ」

 

 仙波の解説のもとAM69を触る信奈は好奇心旺盛な只の少女にしか見えなかった。楽しそうに顔を綻ばせ、分からないところを仙波に質問していく姿に勝家ももはや何も言えなくなり、長秀も嬉しそうに目を細めていた。

 やがてAM69を弄繰り回すのに満足した信奈は自身の傍に立て掛けた。

 

「凄いわね。本当に凄いわ。ねぇ、利孝、これ私に頂戴?」

 

「ご勘弁を。それは俺の半身です。武士の刀と同じぐらい大切なものです」

 

「ま、そうよね。期待はしていなかったわ」

 

 はいっ、と信奈から返されたAM69を受け取り自分の傍らに置く。

 

 証拠は見せた。後は信奈が信じるかどうかだけだ。

 

「信じていただけますか?」

 

「少なくともその銃はこの戦国の世に存在しないでしょうね。信じるに値するわ」

 

「ありがとうございます」

 

 仙波が頭を下げるのと同時に、右側からほぅという溜息が聞こえた。チラリと目を向ければ、安心したように胸を撫で下ろしている長秀の姿が。随分と心配してくれていたみたいだった。仙波の視線に気付いた長秀は嬉しそうに頷いた。

 

「利孝が未来人なのは分かったけど、なぜ未来から来たの?」

 

 信奈の質問が聞こえたので仙波は視線を正面に戻し、姿勢を正した。脳裏にチラつくマザーベースの炎を理性で押さえ込み、あくまで冷静に淡々と話すことに集中する。

 

「俺がこの時代に来た理由は分かりません。戦闘中に気を失い、気が付けばこの時代に」

 

「ふ~ん」

 

 信奈が特に何の反応も見せなかったところを見るに、どうやら動揺を隠すことには成功したらしい。仙波は内心安堵の溜息を吐きつつ、気を取り直して話を続けた。

 

「そこで、折り入って信奈様にお願いがあります」

 

「何よ?」

 

「信奈様の下にいると言う未来人にお会いしたいのです」

 

 長秀から聞かされた既に存在しているという未来人。その人物と会うことができれば、このタイムスリップの事象に関する手掛かりが手に入るかもしれない。仙波の思いとは裏腹に、信奈の顔は曇った。

 

「サルに?」

 

「サル?」

 

「そう、サルよ。一応、本名は相良良晴って言うんだけど、私はサルって呼んでるわ」

 

「それで、その相良良晴という方は?」

 

「今はいないわ。犬千代連れて何処か行っちゃった」

 

 聞けば、少し前に信奈の前に現れた相良良晴は女好きで猿顔らしく、信奈といつも喧嘩ばかりしているらしい。そう語る信奈だったが、口調は憎らしくとも表情はどこか楽しげだった。喧嘩するほど仲が良いのだろうか?ちなみに犬千代とは信奈の家来の1人らしい。

 

「利孝には万千代を救ってもらった恩もあるわ。望みどおり、サルに会わせてあげる。今はどこをほっつき歩いているか分からないけど、万千代の屋敷で待ってなさい」

 

「ありがとうございま・・・」

 

「お待ち下さい!」

 

 仙波の礼を遮るように声をあげたのは、やはり勝家だった。信奈も少し面倒くさそうにしていたが、勝家の方を向いた。

 

「何?六?」

 

「姫様、斉藤攻めの件もあります。悠長にしている暇はございません!」

 

「それは分かってるわよ。でも、その話はここですることじゃないわ」

 

 そう言って信奈は立ち上がった。どうやら、ここでこの会談は終わりにするつもりらしい。

 

「まさか未来人だとは思わなかったけど、会えて楽しかったわ」

 

「俺も信じて戴けて嬉しかったです」

 

「デアルカ。それじゃあね」

 

 そう言い残して信奈は大広間から出て行った。そして彼女が居なくなってすぐに勝家も立ち上がった。

 

「仙波・・・と言ったか。私はお前を信用していない。姫様に危険が及ぶことをすれば即刻切り捨てる」

 

 そう宣言して仙波を睨むと返事も待たずに大広間から出て行った。残ったのは仙波と長秀だけ。先に動いたのは、大きく溜息を吐いた仙波だった。

 

「ふ~。なんとかなったか」

 

「お疲れ様でした」

 

「口添えしてくれて助かった」

 

「このぐらいは当然です」

 

 自分のことのように喜ぶ長秀の笑顔に釣られ、仙波も自然と笑顔を零していた。これからの行く先の見当もついてきたのだ。少しぐらい喜んでもバチはあたらないだろう。

 

「フフッ」

 

「どうした?」

 

「いえ。仙波殿の笑顔は初めて見ることが出来たので。それに時々・・・いえ、なんでもないです」

 

 思わず仙波は自分の頬に手を伸ばしてしまった。そういえばタイムスリップしてから一度の笑う機会は一度も無かった気がする。戦闘、行軍、戦闘、逃亡と連続で続いていたのだ。当然と言えば当然である。

 

「まぁ、そんなこともあるか・・・」

 

 頬に伸ばした手をそのまま顎に持って行き、仙波は何故か感じたバツの悪さを誤魔化すように呟いていた。

 

 

 

 

 

「まぁ、そんなこともあるか・・・」

 

 そう呟いた仙波殿は今まで見てきたどの時よりも穏やかに見えました。

 私はすでに彼が未来からということは信じています。それは彼の装備や話、行動を見て疑いようがありません。

 ですが・・・信奈様との会話で彼の話した内容に少し疑問が生まれました。

 

 彼がこの時代にくるきっかけとなった時、何があったのか?

 

 信奈様にその話をしようとした瞬間、仙波殿の雰囲気が一瞬変わった。そして声にも何どこか固さがあった。

 

 その時、一体何があったのでしょうか?

 

 その出来事のせいで・・・、仙波殿、あなたの目は時々鬼のように見えるのでしょうか?

 


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