戦国時代に傭兵1人   作:長靴伯爵

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第二話

 

 

 

 

 結論から言って、二人の予想は当たっていた。

 

 

 スネークは支援を必要とすることなくチコとパスの両名を回収し、治療が必要だったのもチコとパスだった。もっとも、パスの治療が彼女の腹部に埋め込まれていた爆弾の摘出だったのは流石に予想外だったが。仙波は摘出の際に暴れるパスを抑えるのを手伝うことしかできなかった。

 

「しっかりと休すませておけと言ったのだがな。カズめ・・・」

 

「勘弁してください、ボス。カズも貴方のことを思っての行動です」

 

 腕を組んだスネークが渋面を作るのを、仙波は苦笑しながら諌める。メディックはパスとチコを治療している。若干イライラしているのは仙波が彼の言いつけを守らなかったからか、それともカズか、はたまた葉巻を吸えないからか。スネークは憮然として再び口を開こうとするが、その前にヘリパイロットから通信が入った。

 

『ボス、マザーベースとの交信が出来ません』

 

「何?」

 

『こちらから何度も呼びかけているのですが、一向に返答がこないんです』

 

「妙だな・・・。IAEAへの対応で立て込んでいるのか?呼びかけを続けろ」

 

『了解です。こちらモルフォ。マザーベース応答願います』

 

 スネークは顔を顰めると、仙波に向き直った。仙波は表情を引き締めてスネークに向き合った。

 

「マザーベースで何かあったのでしょうか?」

 

「わからん、通信機の不調かもしれないが・・・」

 

 眉を顰めるスネークはどうやら想定している状況は芳しくないようだ。仙波はどうにも嫌な気配を感じ、無意識に銃に手を伸ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『まもなくマザーベースに到着します』

 

 ヘリパイロットからの通信にスネークと仙波、メディックは各々身構えた。やっと自分達の家に帰ってきたはずなのに緊張感をはらんでいる。

 

『前方に熱源が・・・これは!?』

 

 ヘリパイロットの声が驚愕の色に染まる。仙波がヘリの窓へと飛びつく前にスネークがハッチを開け放った。

 

 広がるのは地獄絵図

 炎に包まれ、至る所で爆発し、海中に没していくプラント。

 まだ無事なプラント上では、仲間達が所属不明の敵と激しい銃撃戦を繰り広げていた。

 眼下の光景にヘリの中に居た全員が呆然とする中、瞬時に我を取り戻したのはやはりスネークだった。スネークは即座に銃を構えると、プラント上の仲間達への援護射撃を始めた。

 仙波とメディックもスネークに倣い、各々の武器を取って援護射撃を開始する。激しく上下するヘリからの射撃だが、スネークは次々と命中弾を放ち、仙波も自身の銃が強襲支援用にカスタマイズされていたこともあり少なくない命中弾を叩き出していた。メディックもそれに続く。

 仙波が1弾倉分撃ち尽くした時、ヘリパイロットが声を上げた。

 

『ミラー副指令です!!』

 

 見ればちょうど真下辺りでカズヒラが部下を率いて敵と戦闘していた。彼に付き従う部下の数は少なく、周辺には幾つもの仲間の死体が横たわっていた。仙波は込みあがる感情を無理矢理押さえ込み、再び援護射撃を始めた。

 

「着陸しろ!!救出する!!」

 

『了解!!』

 

 スネークの命令を受けてヘリは降下を始めた。激しい振動の中でもメディックは器用にヘリの中を移動し、ボスに近づいた。

 

「ボス!我々が先に降りて援護します!」

 

「いや、お前が殺られれば怪我人を救えなくなる。センバ!一緒に来てもらうぞ」

 

「了解です、ボス」

 

 スネークの言葉に仙波が頷くや否や、ヘリがプラントの甲板に、地獄の真っ只中へ降り立った。ヘリから飛び出そうとする直前、仙波の肩をメディックが叩いた。

 

「頼むぞ、サムライ!」

 

「ああ!絶対にボスは守る!」

 

「瀕死までだったら俺が治してやる!這ってでも戻ってこい!」

 

「よく言う!期待しているぞ!」

 

 直後、仙波はスネークに先んじて地獄の中へと飛び出した。こちらへと退避してくる僅かに生き残った味方を援護するため、追撃してくる所属不明部隊へ弾幕を張る。

 

「ボス!!」

 

「こっちだ!離脱するぞ!」

 

 カズヒラ達を鼓舞するようにボスが呼びかけると、カズヒラを含め生き残った仲間達の表情に希望の色が浮かんだ。そんな彼等を援護する為に仙波は更に前へと踏み出すが、その直後最後尾に居た仲間が凶弾に撃ち抜かれた。

 

「ッ!?」

 

 仙波は撃った敵兵に即座に銃弾を叩き込むと、倒れた仲間に駆け寄った。自身の体に大量の血が付着するのも全く気にせずに近くのコンテナの陰まで引きずっていく。

 

「おい!大丈夫か!?・・・ックソ!」

 

 仙波の必死の行動も叶わず、すでに仲間は事切れていた。先程まで生気に満ちていた目が伽藍のように沈んでいくのを直視できず、仙波は目を逸らして滲み出た悪態を吐いた。しかし、銃声と着弾の音で消えさってしまうこの状況下。仲間達を殺していく敵に、この地獄に、仙波は憎悪の炎を胸に抱きコンテナから飛び出した。

 支援のために弾倉を多めに所持していたのが幸いし、残弾を気にせず引き金を引くことができた。自信の近くで跳ね回る敵の銃弾を物ともせず、射撃を繰り返す仙波。しかし、三回目の弾倉交換の際に視線の先にある敵兵の動きに仙波は大声を上げた。

 

「RPG!!!」

 

「伏せろぉ!!」

 

 仙波の視線の先には、こちらへとRPG、ロケットランチャーを向ける兵士の姿が。味方が一斉に回避行動を取る中、仙波だけが更に前へ出た。

 集中力が極限まで高められ、一瞬が引き伸ばされていく。再装填中のAM69を手放すと、腰から拳銃のAM D114を引き抜きRPGを構える兵士に向け引き金を引いた。

 

 

 ダンッダンッダンッ!!と放たれた3発の弾丸。

 

 仙波が放った弾丸は果たして目的を達した。3発中1発が敵兵の頭部を貫いたのだ。しかし、一歩遅かった。

 仙波に向かって猛スピードで迫り来るロケット弾。

 敵兵は頭部を貫かれたその瞬間までRPGの引き金に指をかけており、撃ち抜かれた衝撃で発射されてしまったのだ。ロケット弾は仙波の目の前に着弾した。とっさに伏せようと体を投げ出したのはほとんど本能だった。

 猛烈な衝撃を感じたのも束の間、仙波は一瞬意識を刈り取られてしまった。

 

「センバ!!!」

 

 自分の名前を呼んだのは誰だったのか?

 だが、少なくともこの声で仙波の意識は覚醒した。

感じるのは不自然な浮遊感。状況を確認しようと見開いた目が捉えたのは飲み込まれるような漆黒の空間だった。

 

「なッ!?」

 

 息を呑む仙波だが、周辺を見渡してすぐ理解した。振り返れば紅蓮の炎を纏った、慣れ親しんだマザーベースのプラント。

 ロケット弾の爆風で吹き飛ばされ、そのままプラントから落とされてしまったのだ。

 

「カズ!!ボス!!!」

 

 無我夢中に手を伸ばすも、人は空を飛べない。プラントへ戻ることができない。仲間達は無事なのか?カズは?ボスは?

 数瞬後、仙波は海面に叩き付けれた。再度体中に凄まじい衝撃が襲い掛かり、肺の中の空気が強制的に吐き出される。同時に肌に突き刺さるように冷たい海水が仙波の体を包み込み、海中へと引き摺りこんでいった。

 

(皆・・・!!!)

 

 この言葉を最後に、仙波の意識は冷たさと酸素不足で沈んでいった。

 


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