闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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82話 靴下

 遠目に見えていたカルバドの集落がだんだんと近づいてくる。空を飛べば速攻着いただろうが、魔物と戦う必要に駆られつつも仲間たちと一歩一歩大地を踏みしめて近づいていくのはいいもんだ。なんとはなしにしみじみする。

 

 俺の優秀な仲間たちは今日も火力高めで危なげない。パラディンというのは重装備も相まってすっさまじく足が遅い職だが、それを加味してもマティカもメルティ―もガトゥーザも、殺意が高いというか仕事熱心というか。舞い散る炎、かっとぶ矢、引き裂く刃が道を切り開く。頼もしいもんで、俺は全自動魔物の来世お祈り機構か何かになりかねない。もちろん、最前衛で魔物の攻撃がかわいい仲間たちに当たらないようにはしているが、俺に攻撃が来る前に片をつけようと努力しているのが分かる。

 

 いやはや人間の成長ってのは早いもんだ。まぶしくってしょうがねえ。きっと人間っていうのは、天使という自分では決して輝けない月を照らす太陽なんだ。俺も頑張って強くならなきゃな! みんなに頑張ってもらってばっかりじゃダメだ!

 

「みなさんのおかげでもうすぐ到着ですね。予定より早く着きそうです」

「着いたら、いつもみたいにぴかぴかの実の聞き込みするの?」

「えぇ。その時は二手に分かれましょうか。とはいえ誰も土地勘がある訳ではないので今回は四人で聞いて回っても構わないですが……」

「こうして見たところ、あまり大きな集落ではないようです。今回は全員で聞いて回りませんか?」

 

 まぁそれもそうか。あの兄妹はサンマロウからセントシュタインまで二人旅してたくらいしっかりしてるが、だからって毎回放任しなくてもいいよな。逆にマティカだって一人で行動くらいできるが、俺たちと一緒にいるのを好んでいるのはもちろんわかる。

 

 等しく幼く可愛い人間たちだが、毎回過保護にするのも成長の阻害になるかもな。なんて、俺なんかがそんなこと心配しなくたって十分すぎるほどみんな成長していってるけどよ! あーもう、人間が好きだ!

 

 過保護がなんだってんだ! と胸の中で思うくらいは自由にしたいけどな! 全人類の面倒を見きれるなら見たんだが……。天使の腕が二本しかねえのは神の過ちだろうな。片手に剣を持って、もう片方の手で盾を握っておしまいじゃねえか!

 

「そうですね。では買い物も兼ねて回りましょう」

 

 装備も新調したいしな。新しい武器や防具を揃えれるならそうしよう。備えあれば憂いなしってやつだ。それに誰だって商品を買った客にはただの冷やかしより口が軽くなるってもんだし、女神の果実の情報を得られる可能性を少しでも増やしておきてぇ。

 

 ということで俺たちは普通の旅人らしく集落にゆっくりと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここってすっごく風がきもちいいね! アーミアスさんもかぶと取ろうよお、きっと涼しいよ?」

「いえ……俺は遠慮しておきます」

「えー」

「暑くないんですよ」

 

 嘘はついてねえ。暑くもねえし息苦しくもねえ。それは確かだ。

 

 だが本当の理由は別にある。顔出したらどうなる? オート天使バレするんだもんよ! 俺は学んだぜ、これをしっかり被ってたら天使だってバレないってことをな! しかもこの大草原はマティカの言う通り涼しい。あの砂漠と違ってどこで被ってても命の危険はない。なら飯の時以外はせめて隠すぜ! 頭をしっかり隠すだけで普通の旅人として扱われることは素晴らしい。まるで人間になれたみたいでよお、楽しい。幸せを感じるんだ。

 

 しかもこの白銀色に輝くヘルムは俺のきったねえ色の髪の毛まで覆い隠してくれるスグレモノだ。コンプレックスまでどうにかしちまうのかよ! すげえや! さらにいえば仲間が贈ってくれたんだ。愛着もすごい。もう外す手はない。可愛い人間が俺のために用意してくれた。そう思い返せば思い返すほどさらに愛おしくなってくるってもんだ。顔見えねえし、これ被ってたら多少イケメンに見えねえかな。

 

 もっとガッツリ全身甲冑系で固めたら全身筋肉質なイケメンパラディンに一瞬くらいは見えんじゃね? 顔が見えていないのにイケメンとは? という感じだがな、雰囲気イケメンというものも存在する。もし見えたところで残念ながら俺の背はイケメンというほど高くないし、体格がひょろひょろもやしなので本当にただの雰囲気だけどな!

 

 まぁ、マティカが言うようにかぶとを取った方が自然なのは間違いねえ。ぶっちゃけ集落の中でもしっかりかぶとを被っているなんてかなり浮いてるのは事実だ。仲間たちはみんな顔を出しているのに一人だけ顔を隠しているなんて、怪しいよな。「なにかやましい事でもあるのか?」とでも聞かれたら大人しく取るか……。

 

 あちらこちらと聞き込みをしながら今日の宿を予約し……ルーラ登録したとはいえ、あまりに短期間でセントシュタインに戻るのはリッカたんに「こいつ、ちゃんと仕事しているのか?」と思われる可能性を考慮した結果の完璧な考えによるものだ……カルバド特有の建物、ゲルというんだっけか? それともパオだっけか? なんとかというまるいテントでやっている店で全員分の装備品を検討しながら頭の中で情報を整理していく。

 

 ここまで「黄金の果実」の情報はなかったし、今のところすぐさま魔物がどうのという話もなかった。特別ほかの町と変わった点といえば……なんでもシャルマナという美女が族長のところにいるとか、その美女は呪術がたいそう得意で、美しい見た目だけでなくその神通力あらたかな能力も族長も気に入ったとか、そんな族長の息子は勇敢な族長と比べても残念な程にヘタレだとか。田舎らしいといえばそうだが、族長の息子のプライバシーは旅人にまで筒抜けなのか?

 

 いいじゃねえかヘタレでも。ヘタレじゃねえんだ、慎重な性格なんだろ。

 

 あとは……そう高齢でもない族長の妻はすでに亡くなっているとか。後妻にする予定なのかねえ、シャルマナという女は。今のところその魂らしい姿がさまよっているということはないが、夜にもう一度集落を一回りできたら確信できるってところか。

 

 亡くなる時、未練は多かれ少なかれ大抵の人間にはあるものだろう。特に寿命以外で亡くなった場合にはな。だが全部の人間が幽霊になるわけじゃない。肉体を失ってなお、生者と決して話せないのにそれでもさまよう彼らを見るのはなんとも言い難い気分になる。俺たちの力不足を目の当たりにすると……歯がゆいもんだ、見かけなきゃいいんだが。

 

 こんなもんか。あとは族長とシャルマナ、あと族長の息子に会って情報収集は完了だな。会えたらいいが……女王に会うよりはハードルが低いと思いたいが……。

 

「アーミアスさん、こちらの鎖帷子のシリーズはパラディンの装備だそうです。前衛のアーミアスさんが一番防具を固めるべきですのでいかがでしょう?」

「私はあの弓が欲しいので購入してきます。あ! 私が欲しいので自分で出しますとも! メルティー、ここは任せましたよ!」

「へぇ、鎖帷子のフードと靴下なんてあるんだなあ……あのパラディンのねーちゃんも着てたやつかあ」

「お気遣いありがとうございます。ええと、しかしフードの方はこのかぶとがありますし。今は新調しなくてもいいですよ。

 もし、店の方。足の鎖帷子の方を少し試着させていただけませんか?」

 

 頭はどこまで隠せばオート天使バレの効果があるのか検証できてねえんだ。だからしばらくは現状維持で。

 

 そんでなんだ、チェインニーソ? 鎖帷子のニーソックス……か? そんなものもあるのか。人間界は広いな。なんで生足が出る構造なんだろうな。全部覆わせてくれよ。動きやすいのは間違いないが、なぜだか今装備しているものよりは防御力に優れているそうだ。謎すぎる。ニーソって言うくらいならメルティーとかの方が似合うだろうにパラディン限定装備かよ。

 

 ……あのワンピースの下にニーソックスを履いたリッカたんをつい想像してプラチナヘッドの下の俺の鼻が鼻血を出しそうになりながらも仲間たちの気遣いの塊を汚す訳にもいかないので堪える。ニーソリッカたん!!!!!! ぺろすぎて現実に存在したら俺は星になるぜ!!!!!!!! 

 

 いくらなんでもこれを履いてくださいと頼む訳にも買っていく訳にもいかねえよな!!!! ドが付く変態の行為だよなそんなのな!!!! でも見てぇよ!!!! スカートに隠されてるってのにどうやって俺はニーソックスって知るんだろうな!!!! 知るようなラッキーな風が吹いて俺が無礼を働いた結果なら謝礼しながら両目を抉るが!!!! 

 

 ぺろすぎる。うっかり羽根なし天使・邪になるところだぜ。そのまま爆散! 星になるところでもあるぜ。リッカたんぺろぺろ。

 

 ほら、俺のニーソ姿なんてもはやただの凶器だからな、せめてそう思って現実逃避しつつチェインニーソを購入した。ガトゥーザにぬくもりのシャプカという頭を覆う装備やらメルティーやマティカに戦闘用の緑色のタイツを買ったりもした。俺もそっちにしたかったがチェインニーソの方が防御力がちょっと高いらしい。だから素肌が出ているのに何でだ? 

 

 さて、じゃあ次は中央のテントに行くか。お目通り叶えばいいが。

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  • 幼少期、天使(異変前)時代
  • 旅の途中(仲間中心)
  • 旅の途中(主リツ)
  • if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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