いつも以上に文章や展開がとっちらかっていますがご容赦ください
私は天使だ。人間たちが想像する、守護天使に相違ない。
だけども、彼らが想像するような清らかさなどないし、慈愛の心を持ち合わせている訳でもない。
私が守護天使をやっているのは、私の師が守護天使だったからで、これまで辞めていないのは守護天使をするということが天使の中では名誉であることであり、また、まだ後継者を見つけていないからだ。
人間たちが祈りを捧げる清らかな守護天使をやっているはずだが、蓋を開ければそれっぽっちの理由である。
人間たちの幸せについてなど、そう願ってはいない。まぁ、不幸であるよりはいいに違いないし、不幸ならば星のオーラを得ることが出来ないのでこちらとしても困る。だから、幸せであれば互いに都合がいいというだけのこと。
人間たちを魔物から守るのも、日々の細かなことを手助けするのも星のオーラを得るため、それだけなのだ。それ以上になにか理由を見いだせるのか? 否である。
所詮相手は人間である。私たち天使を見ることも叶わぬ。姿の似つかぬ天使像をありがたがっているだけの存在。私たち天使よりも余程短い人生を、星々の瞬きの間に終える人間たちにいちいち心を砕いていてはこちらが参ってしまう。
それでも、私はまだ、まともな天使である。まだしも真面目な天使である。仕事を嫌がり、堕落するのは天使のすることではないのでみなそれなりに、そのプライドを維持するために働くが、私の場合はきちんと毎日守護区域を見回りし、定期的に区域の魔物を減らしているところから成績も良い。天使としてはそれなりに一目置かれているといったところだろう。
それについて、私はそれなりに誇りがあるが、単に生まれ持った性質が真面目なだけだろうと思っている。人間の生き死にに天使らしく興味もなく、ただ機械的に星のオーラを集めているだけ。いつの日にかくるらしい救いの日まで、ルーティンを崩すことなく過ごすだけ。
命令があれば弟子をとるだろう、命令があれば守護ではなく、懲罰に司る日も来るかもしれない。だが、何もなければ何も変わらない。魔物に遅れをとるほど私は弱くなく、また天使の私に老衰による死はない。
つまらなく、一定で、どこか虚しく、しかし体はきちんと動く。人間から見れば果てしないほどゆっくりと老い、経験を重ね、透明な日々を過ごすのだ。
私は天使だ。少し真面目な、ごく普通の、ごく平凡な天使である。堕天することも無く、清らかさを維持しようともしない。
それが普通の天使の姿である。遥かな昔、会ったこともない神に命令されたように動くだけ。ほかの皆も大した誤差はない。大した個性もない。より真面目な天使もいれば、より不真面目な天使もいる。だが、何もなければ普通に動くだろう。
しかし、神が人間や魔物の永遠の平和を創れなかったように、天使には例外が存在してしまう。
私の知る、「例外の天使」、三人について語ろう。
ここは、そういう場なのだろう?
「違うけど……まぁ、とりあえず洗いざらい話すといいわ」
エレッタ、豊かなその髪は魅力的だが栗色は対象外である。つまるところ、この世に祝福されるべきは白、ないしは銀である。そして美しいことである。
穢れなきその色こそが至高であり、人間を見れば分かることだが老いた人間の髪が白いのは世俗の穢れを来世へ向けて削ぎ落としていっているからなのだ。
記憶も人格も曖昧になり、そして死ぬ。
そしてもとより白や銀を持つ者は純粋で美しく、私たちのようなただの天使よりもよほど無垢である。
私はこの天使生においてそれこそが座右の銘、それこそが信念として生きてきたのだ。
それを持つ者なら愛せる。愛など、堕天の一理由でしかないと思っていたが、なかなかどうして心地よさそうである。
うち二人はある意味祖父と孫のようなもの。偉大なるエルギオス様、さらにその弟子の弟子のアーミアス。
今は悲劇と語られる、天使界に戻ることのないエルギオス様は稀代の守護天使だった。彼がまだ天使界に戻っていた頃は私はまだ幼く、面識はないが語られる彼の成したことはどれもこれも天使としての模範。真に慈悲を持ち、真に天使として働き、そして行方をくらました。
伝説のような存在だが、タブー視されているとはいえ、天使の見解は大抵同じだ。人間に入れ込みすぎたのだろう。どこにいるのかはわからない、利用されたのか、亡くなってしまったのかも。だがそれだけには違いない。
人間なんていう、短命の種族に心を砕きすぎた天使なのだ。だが金髪だし、年上は範囲外だし別に天使界の損失ではないな。
とはいえ彼のようなひたむきさはまさに例外の天使といえるだろう? もしかしたら、不敬な言い方をすれば……彼は彼の運命を地上で見つけてしまったのかもしれないな。
その場合は堕天しているのだろうが……確か堕天の理由は反逆、無所属、愛だったか? よく知らない。だが、邪推も不敬だ。辞めておこう。
だがまぁ、金髪である。それよりも最近の損失といえば、大事件を除けばラヴィエルが地上へ行ってしまったことだろうな……。
その弟子の弟子、アーミアス。エルギオスの教えを忠実に受け継いだイザヤールの弟子。
奴は……奴、なんて言えるのははるかに年下だからにほかならない……まさしく天使の中の天使である。
馬鹿みたいなことだが、奴は天使だ。恐らくは神の創造した天使の中でも最高傑作の天使、私たちのような天使を天使と言うならば、奴こそが神の使い、代行者だった。
だった、なんて言うのは、惜しくも、非常に惜しくも彼が自我をまともに持つ年齢になる前に穢されたからである。
神の代行者は、なにもかも、思想、容姿、能力全てを天使としての最高傑作として備えていたが、ゆえに嫉妬された。同年代の幼く、少しばかり早熟だった天使にその尊く白い髪を嘲られ、容姿をなじられたというではないか。嘆かわしい。
だが奴は悪意なんてものを持たない。本物の天使だからだ。悪意に悪意で返せばいい。同世代の天使どもにからかわれたならやりかえせばいい、あるいは私たちに知らせればいい。
奴は悪意を持ちやしない。悪意を受け止め、その髪がうっすら染まるまで、私達は気づきもしなかった。
だが悪意に多少染まっても、悪意の主は幼い同じ天使。人間よりははるかにちゃちな悪意である。軽く世界樹の根で浄化すれば祓える程度のものだった。
アーミアスは三人目の例外に連れられて、世界樹に向かった。
三人目の例外は、外見だけは黒い髪の幼い天使。天使は天使ゆえに、たまに年齢に合わない外見になることがあるが、当然だ。年齢のとおりならば一人残らず老人だし、オムイ様などどうなってしまうのか。
上級天使でありながら幼い姿をしたそいつは悪意を隠すのが上手かった。天使にして悪魔の悪意を持つあいつは、本物の天使に牙を剥く。
あぁ、思い出したくもないが。あの日、本物の天使は、穢され喪われたのだ。
我らの、いいや、正直に言おう。私の希望を叶えるかに見えた天使を。
アーミアスは星になったわけではないが、純白の髪を失い、代わりに瞳に星を宿した。その意味は誰にもわからないが、粛々と天使らしく、もっとも天使らしく人々の幸せを見守り、情なく守護するはずだった最高傑作は、執着を覚えた。
人間への執着を。幸せを真に願う心を。一歩間違えれば堕天である。だが、誰もそれを危惧しない。彼ならば大丈夫だと見守るのみ。
それではいけないのだ。本物の天使ならば、人間の死に心を痛めたとしてもそれを引きずりやしない。奴はそうではない。最初に見た死にゆく人間の名をまだ覚えている。
大多数の天使はその変化を見ても、穢された天使だとしても彼の清らかさを信じている。だが、悪魔に穢された天使が真に天使の心を持てるだろうか。
心のうちなど、天使には読めない。だから真実はわからない。
私はひとり、勝手に疑っているだけだ。
彼は白ではない。もう、銀ですらもないのだ。
悪意にあてられた天使が、果たして本当に清らかなのか? 悪意の持ち主のように外見は天使であっても、悪魔的な思想を持っている可能性とてある。何せ白髪ではないのだ。
「そうなの。そういう考えも納得。あいつが本当に余計なことをしたのは事実だし、アーミアスくんの髪は二度と戻らないし、趣向が変わったのも本当」
「エレッタ、あんたは奴を庇うかと思っていたんだが」
「奴なんて言わないの。かわいいかわいい天使の一人なんだから。だけど私、まだあなたの本心をひとつ聞いていないからまだ仕事してるだけ」
「……」
本心? 私の?
私は取り上げられるのをなんとか免れた、握りしめたままの幼い頃のラヴィエルの姿絵に目を落とした。かわいい。やはり銀髪である。灰髪は邪道なのだ。白髪は至高。銀髪はかわいい。
穢れなき無垢なこども。しろくまぶしい。それこそが至高なのである。
穢れを許すまじ。私は三人目の例外がそのへんに脱走して抜け出し、二人目の例外に危害を加えるのが気に食わなかったので軽く天罰の雷を落としただけなのだ。
「白髪ショタ最高だったのにぃ……」
「天使って正直全員、負けず劣らず変わり者だと思うわ」
せっかく我ら天使の上に降臨するオムイ様という大変なお爺様から、白く可愛くて最高にキュートな子になると思っていたのに、解釈外の灰髪になり、さらに哀れなことにトラウマからか同じ天使から完全に興味を失い、人間視点での天使らしく人間のことばっかり考えているではないか。
最初、彼はそりゃあもう完璧な天使だった。彼は私たちを愛した。人間を愛した。あまねく全てを愛し、そして、何も愛さなかった。神ごとき慈愛の持ち主で、一人の人間の死など気にもかけなかった。その幼い眼差しで地上を愛しく見つめながら、次の瞬間流星群に大陸が焼き払われようとも表情を変えないような慈悲だった。
ありのままを愛した。つまり、無垢だったのだ。悪くいえば、空っぽだった。少なくとも、私にはそう見えた。そして、ほとんどの天使と同じように同じ天使を同胞として今よりもずっと親しみ深く慕っていたのだ。
今ではどうだ? 一瞥のみである。慇懃であり、丁寧だが、彼の心は常に地上にある。
あぁ、白い髪は正義なのだ。白くて可愛い子に顎で使われる方が、しらがのおじいちゃんに使われるより幸せではないか。こんなの口に出した瞬間天使の理により丸焦げになりそうだが。
かわいい。あの可愛いにズケズケと触れたあの違法ショタはとっとと処刑すべきなのだ。
「冷静に考えて欲しい、エレッタ。私は白く可愛い子に命令されたい。高圧的に、人間のために豚のように働けと命令されるべきなのだ。白い髪の可愛い子に」
「ここが取調室ってこと忘れてないのかしら、私は人間で言う、『お巡りさん』なんだし」
「あぁ、年増の栗毛より白く可愛い子に逮捕されたい」
「私への暴言はさておき、それはイザヤールに報告するべきに見えるのだけど」
「私はさすがにイザヤールパパに戦って勝てる気はしない」
「誰がパパだ」
顔を上げるとそこには目を釣りあげたイザヤール。その足元で何も分かっていない顔の幼きアーミアス。ふわっふわの灰色の髪。これが白かったら神よりもまつりあげたのに。あぁ許すまじあの悪魔のペドめ。
あんなにかわいかったのに。すっかり穢されて。救いといえば、当時の記憶は残っていないことだろうか。ない方がいい。子供には罪はない。
無垢な心に直接欲望を叩きつけられたのだ。上書きされ、塗り潰されたのだ。その醜い執着を人間への深き慈愛へ変換したのはさすが白持ちと言ったところだろうか。
「なにかあったのですか?」
「師弟というのは親子のようにも見える……そういう話だ」
「師匠が父ということですか?」
「そういうことだ」
私は追加の取り調べを数時間受けることになった上に、イザヤールによってラヴィエルの姿絵を没収されるという辱めを受けることになったのだった。
あぁ。どうして。世界は不条理である。
歳を重ねる事に天使として完璧な容姿、完璧な勤勉さ、完璧な慈悲を備える美しくもキュートな姿を見る度に、私は悔しくなるのだ。
あぁ、私はそれでも、白髪が好きなのだ、と。
しかしながら子供は無垢で無罪だ。しらがのおじいちゃんと灰髪の少年であれば灰髪の少年に命令された方がまだしも幸せになれる。
例外の悪魔が翼を失って帰還したアーミアスに危害を加えたと聞いて謹慎処分を食らうことを理解していても天罰をぶち当てにいったのはまぁ当然のことだろう。
私は普通の天使である。取り立てていうこともない、個性もない、少し真面目な天使であるので、人間に肩入れすることも無く、人間になどなりたいと願うことも無い。
白い髪の無垢な人間の少年が、未熟にも同じ人間を愛するというのなら、私は星になっていつまでも見守っているつもりだ。
天使らしく、星星となって許されることを許容し、ほかの天使と同じように地上に残された名誉で、哀れな天使たちを静かに見守るのだ。
「何を見てるの、アーミアス」
「夜空の星々を……今夜はとてもはっきり見えますね」
「ほんとね!」
夜空を見上げ、まるでそのひとつひとつの名前を知っているみたいに、どことなく愛おしそうに見つめる彼に私はなんて言葉を続けたらいいのか分からなかった。それは祈っているみたいだった。
「天使は役目を終えると星になるんです」
やがてぽそりと、アーミアスは言う。
どこか哀しそうに。
星は静かに光っていて、じっと、美しい輝きのまま光を湛えて。
私たちを見守っている。
星は瞬かない。
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