闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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59話 脅威

「失礼します……?」

 

 ここだけ入れる家の中。外と同じく石で精巧に出来ている。ところで、中には住民がいた。

 

 薄暗い家の中、青い小さな体がぽいんぽいんと揺れる。

 

 スライムか。すごく可愛い。リッカたんへのお土産にしたい。

 

 いやすまん、いやほんとすまん。冗談だ。あいつも俺よりはまともに生きてるんだ。俺に今後の動向決められたかないだろう。ただ、丸くてぽいんぽいんで、本当に柔らかそうなぽいんぽいんで、疲れた人にはちょうどいいクッションみたいだと思ってしまっただけだ。すまん。

 

 かわいいかわいいスライムと戯れるキュートでペロくてかわいいリッカたんとか最高の相乗効果だよな! だがスライムの気持ちにはなれていない意見だ。

 

 いやだって……だって。いや、どう考えても俺が悪いわやっぱ。可愛いものにはいつだって弱い。人間とかいう可愛い奴らに骨抜きにされてはや百年。リッカたんに心臓撃ち抜かれてペロポイントが溜っていく幸せな日々が始まって……。

 

 ダメだ! リッカたんの年齢を数えるな! 必然的に悲しくなる! 俺は、俺はリッカたんと同世代の気持ちで生きるフリくらいしてぇんだ! 俺はピチピチ! まだまだ若い! まだピチピチでナウなヤングだから! アゲアゲで行こうぜ! 

 

 本当に、天使としてならまだまだ若いからな、セーフセーフ。外見だってまだまだ……ほら、声変わりも来てねぇし。うんうん、大丈夫だ。そんで今の流行りはなんだっけ? せめて若い擬態だけでもさせてくれ。

 

 声変わりもしていないようなガキって言われちゃおしまいだがな! ニードは……声変わり……してる、よな。既に俺年下説。

 

 だが待て、まぁ落ち着くんだ、俺。個人差という魔法の言葉で二年くらいは持ちこたえられるからな! 俺の成長は天使として普通だが、まぁ、俺が人間ならちょっと遅れて身長伸びるタイプなのかもしれんしな! 

 

 リッカたんより頭一つくらい身長あるならカッコいいところ見せられるよな、牛乳か? 肉か? 俺がもし、天使の務めを果たし、「救済」されて人間になることが出来たなら、リッカたんにカッコいいところ見せるんだからな! 

 

 待っててリッカたん! 俺頑張る! 最強キュートなリッカたんの隣に立っても違和感のないような雰囲気イケメンになるから! 筋肉つけて、身長伸ばして、このうっすい顔は……どうにもならねぇけど、髪の毛染めるくらいならやるからな! どう頑張っても雰囲気イケメン止まりだが、俺頑張ってモヤシ卒業して、たくましい男になるからな!

 

 俺の邪念を感じ取ったのか、隠しきれない世代のズレを嗅ぎつけたのか、住民のスライムが俺たちを訝しげに見上げた。

 

 こいつら何しに来た、といわんばかりに。ホント脳内で幸せ妄想炸裂させて、何しに来たんだろうな。いや、ラボオさん探しに来たんだが、ここがスライムの家ならどうしようもないし、もちろん追い出すなんてこともしないし、ただちょっと聞くだけだ。

 

 悪いな、ホント。お騒がせしました。ご迷惑おかけして、申し訳ない。

 

「すみません、少しお尋ねしたいことが」

 

 スライムって相当小さいやつでもない限り、年齢とか外見だけ見てもわからねぇんだよな。そんで別に寿命があるとか聞いたこともないから、最弱の一角にして実は何百年も生きている個体も……いるかもだし。

 

 まぁほとんどちょっと天邪鬼な口調のやつとか、可愛い子どもみたいなやつとかそんなんばっかりでわかんねぇんだけど。なんにせよかわいい。攻撃してくるスライムだって、まぁ共に歩めないという点では悲しいが、可愛いことには変わりねぇし。

 

 そんで、このスライムが喋ったら警戒しなくていい。喋るスライムは人間を好き好んで襲ってきたりしない程度には自分の実力がわかっていたり、魔物にしちゃ比較的温厚だ。……と、思う。

 

「……、な、何。おじいちゃんじゃないよね、何しにきたの」

 

 スライム特有の高い子どものような声。ぷるぷるしてて可愛い。

 

「その、『おじいちゃん』の安否を確認しに来たのですが」

「……」

 

 スライムはへにょりと頭の先のとんがったところを曲げた。なんとなく悲しそうだ。……それはつまり。

 

 どうも様子から見て、この場所を作ったのはラボオさんで間違いないみてぇだが、スライムはあとから住み着いたわけでもないらしい。基本的にスライムってのは善良……というか純粋な奴らだからな。嘘をついているにしてもバレバレってことが多い。

 

 だから、つまり、一緒に過ごして「いた」んだろう。死因が老衰ならまだしもいいんだが……聞き出すのは流石にやめておくか。わざわざ傷をえぐることもない。

 

 仲も良さそうだし、探したらお墓も見つかるだろう。手を合わせたら下山するか。ここには何もない、と思う。

 

「ありがとうございました。では、みなさん、」

 

 地面が唐突に揺れた。スライムが飛び上がって、ぴょんぴょんと家の奥の方に跳ねていく。地震の時はむしろ家から飛び出す方が正解だ。しっかりした石でできた建物とはいえ、どこかが割れて崩れてきたらどうするんだ。

 

 俺はスライムもろとも家の外に飛び出そうと、捕まえた。すると、もがいて抜け出したスライムは、ただただ脅えるように叫んだ。

 

「またあいつが来る!」

 

 地震じゃないのか、もしかして! マティカが怖かったのかぼろぼろ泣きながら俺の腰にしがみついていたのが、原因があるのがわかって涙が引っ込んだらしい。勇ましく剣を抜いて外に飛び出そうとするのを慌てて止める。行くとしても、考えもなく行くんじゃない!

 

 揺れはわりとすぐに収まった。そして家の外からはなにやら気配がする。揺れの元凶であることは間違いないが、そいつが悪か善かなんて分からない。まぁそれは、「俺にとって」とかいう片一方の目線にしかなりようもないからどうでもいいか。

 

 しかしスライムは怯えている。何度か来ているようだが、聞き出すのは無理そうだ。ぷるぷる震えて可哀想に。

 

 うーん、飛び出したら戦闘にもなりかねん。どうしたものか。去るのを待つべきか。

 

 だが迷っているあいだにも、そいつはここに入ってくるかもしれない。戦うにしても狭いところでは危ないだろう。

 

 仕方ない、相手はもちろん見極めたいが、外に出るか。

 

 いや待て、出るとは言ったがマティカ、ガトゥーザ、性急になるな。聞いた瞬間飛び出そうとするな。俺の後ろから来い。見ていかにも危なそうなら家に引っ込んで態勢を立て直してからでも構わねぇ。だがとりあえず俺の背後だ。安全にいけ。 

 

 メルティーなんて魔法使いの配置ってものをしっかり理解しているようだぞ。……ん? メルティーも待て、まぁ待てよ。相手も見ずに扉を開けた瞬間、先手必勝、魔法をぶつける! はダメだから。

 

 地震の元凶もいるだろうが、扉の前にいるとは限らねぇし、関係ない人がいる可能性だってないわけじゃないだろ!

 

 頼りになる仲間たちは頼りになりすぎて少し暴走気味らしい。とりあえず止まれったら止まれ。

 

「いいですか、相手がわからないときは俺の後ろにいてください。相手、位置、状況、何かを見極めたら行動してください、頼みましたよ」

「分かったよ、アーミアスさんの敵を倒せばいいんだね!」

「……えぇ、まぁ、おおよそ」

「よーし、張り切るぞ!」

 

 キラキラした目で言われちゃ、否定しづらい。俺の曖昧な返事でも元気よく笑うマティカが可愛くて癒しなのも確かだ。

 

 ……一番マシだと思うが、マティカもどっかズレてるよな。俺が言えたものでもないけどこのパーティ大丈夫か?

 

 ともあれ、俺が盾を構えて外に出ると、そこには何も無かったのでちょっと拍子抜けした、が。とっさに上から気配を感じて、飛び退くと、俺がいたところに禍々しい力を纏った像が立っていて、俺たちを睨みつけるような表情をしていた。

 

 そいつは石像だった。ここのガーゴイル的な存在だったのかもしれない。しかし、魂のような、魂でないような曖昧な気配をさせ、俺たちに敵意をぶつける危険なものになっていた。

 

 ふと、俺は思う。この像はエラフィタで見かけたものではないな、と。

 

 エラフィタを愛していただろう製作者が、愛と郷愁を込めて作っただろうこの町。そこにはなかったこの像は、きっとこの町に置くためのものではなかったのだろうなと。

 

 もし、この像がとびきりの愛をこめて創られていたとしたら、愛する人を模して創られていたら、創られたあとに誰かの想いを受け止めていたとしたら。

 

 こんな紛い物のような、魂のような、「何か」を宿す、そんな存在ではなく、本物の魂を宿す存在になり、もっと恐ろしく見えただろうなぁ。

 

 まぁいい。俺にとっては魂が曖昧な方が罪悪感がなくていい。ラボオさんの小さい友人があんなに怯えている様子からして、少なくとも意図的な守護像でもなさそうだ。

 

 こいつが女神の果実で仮初めの命を吹き込まれた存在かどうかの区別は付けれねぇが、とりあえず倒させてもらおう。

 

 石の巨体の一撃なんて、見るからに重くて痛そうだし、幼い人間たちが受けていいものじゃねぇからな。きっちり俺に受けさせてもらおうか。

 

 俺は口笛を吹いて挑発し、見事に怒り狂ってきた単純野郎の攻撃に、即刻腕が痺れるほどの衝撃を受け、なるほどスライムが怯えて逃げることなく閉じこもって凌ごうとしたわけだと納得した。

 

 こんなのスライムが食らったらひとたまりもない。盾がへしゃげそうだぜ。




レンジャー(ガトゥーザ)ベホイミ習得(本来レベル22で覚えます)でボス戦突入することを許してください。前職僧侶ということでやり方を知っていた、恐らく順当に来ていれば前衛二人が転職して経験値をたくさんもらっていたので転職時点16レベル(僧侶ベホイミ習得レベル)はあったでしょうから、コツを掴んでいたということで勘弁してください。

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  • 幼少期、天使(異変前)時代
  • 旅の途中(仲間中心)
  • 旅の途中(主リツ)
  • if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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