闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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真実天使

文章がぎっちりしてきたので、感嘆符のあとに試験的に空白を入れてみましたが、……の偶数使用と違って癖にはなっていないのでこれから続けるかどうかは未定です。少しでも読みやすくなっていれば幸いです。


57話 似非人間

 とりあえず俺は、人間たちが進むべきと思った道が相当他人へ害を及ぼさない限りは応援したいと思ってるから今回のことは喜ばしい。

 

 ガトゥーザがより執拗に俺のことをジロジロ見るようになったが、そんなに視力が良くなったのなら翼もわっかもない天使のことを敬おうとする己のおかしさに気づいてくれ。そんで普通に接してくれ、な?

 

 ほら見ろ、どこからどう見ても、腕は細いし身長は低いし、頼りねぇモヤシだろうが。天使が特にムキムキってイメージはないだろうが、やっぱりより筋肉があった方が物理的に強いし、精神的にも頼りがいがあっていいだろうが。もっとたくましい方がカッコいいし、モヤシより安心して守護を任せられるだろう?

 

 俺が何をしても感動しているところ悪いが、自分の中の天使のイメージと現実の俺とを照らし合わせて早く目覚めてくれ、頼むから。ホントオート天使バレ機能マジいらねぇ。もしかして、もうバレてる人間たちの目が覚めない機能もあるのか?

 

 そうでもなきゃ、さんざん情けない姿を見せてきた俺をまだ信仰しているこいつらが我に返らない理由がわからねぇ。リッカたんみたいに信心深くて敬虔ないい子ってことなのか? いい子たちなのは……確か、あぁ、確かだろうが……。悪い子たちじゃねぇんだ。

 

 だが、人間扱いされてぇな。ただの人間扱い。気軽に軽口叩いて、笑いあって、気安く遊んで、馬鹿なことして、そんで、そんで、恋をして……。せっかく翼も輪っかも無くせたのに、これじゃあただ姿が見えるだけだ。

 

 ……「だけ」だぁ? 俺は、ただそれだけを、切望してきたんだろうが、百年も!

 

 随分贅沢になっちまった。これ以上の高望みはしちゃいけねぇ。天使がお役御免になれば俺は地上で過ごしたいという望みを持っているが、それは少なくともたった数百年では叶うわけがない。人間と魔物が手を取り合っていない時点で。俺が師匠くらいの年齢になってもまだ厳しいだろ。

 

 俺は天使だ。間違いなく天使だ。根幹から、このいい子たちと違う。守護タイプの男性型の天使として遣わされた存在だ。ほかの生物と違って親すらいない。この世に血の繋がりのある相手はいない。天から遣わされた守護機構だ、それ以上の存在ではない。

 

 血と肉の器の機構だ。「あいするこころ」を授けられた魂らしき何かを胸に宿して、輪廻の外から輪廻のうちの人間たちや動物たち、魔物たちを円滑に潤滑させるためにいるはずなんだ。すべての魂に安寧あれと。すべてを救う日が来るまで。星のオーラを集めることを、俺はそう解釈して生きてきたんだ。

 

 だから、本来、「俺」はなにも望んじゃいけねぇのに。そもそも「俺」を持たせてもらっている時点でかなり温情だ。そんな「こころ」がない方が神も創りやすいだろうに。「こころ」のない駒の方が楽だろうに。

 

 こうして話せるだけでも良いのに、さらに触れ合えるなんて最高だ。自分の言葉を自分の声でリッカたんに伝えられて、その笑顔は俺を見てくれる。あぁもう望むことなんてない! はずだろうが!

 

 よし、よし、大丈夫だ。驕った天使の行く末はロクなことになりそうにないが、俺はちゃんとここで悔い改めた。ビタリ山を登山しながらで悪いが、真面目に考えた。神に心のうちを白状したわけじゃねぇが懺悔した気分だ。

 

 俺は天使だ。天使だから、天使扱いされている。当然だから不満に思うものか。いや、まぁ、頭で理論を理解してもささやかな願いを止められないけどな。

 

 欲望を持つ気持ちも天使に授けていった神は俺たちがそのまま堕天していくとは思わなかったのか? 堕天したらそれはそれで、ただそれまで、みたいな冷たい考えなのか?

 

 まぁ堕天なんてしないけど。基本的に天使ってのは善良だから。俺みたいにかわいい子をペロペロしたり、何代にも渡って観察したりするやつなんていねぇよ。

 

 ただ、守護はするが無関心だ。天使から見ればどんどん死んで世代が入れ替わっていくのに、いちいちそんな短い命に縋ったら頭がおかしくなりそうなんだってよ。

 

 死にゆく人間を悼む気持ちはあるが、それより同胞たる同じ天使のことを考えていた方が楽なんだとよ。だからたった一人の行方不明者に石碑まで建てるんだ。それが悪いとは思わねぇけど。

 

 それにしたってよ、天使なんて不慮の事故でもない限りそうそう死んだりしねぇんだし、それを思えば人間の方が大事じゃね? 俺って頭おかしいのかね? 今この瞬間に死んだ天使はまずいないが、人間は沢山死んでいる。

 

 まぁいいや。天使が堕天しないのもすべて神の思し召し。神の考え、見極めた尺度なんてたかだか下僕に理解できるわけがない。人間たちと違って俺たち天使はどこまでも神の下位互換だしな。

 

 成長することまでは取り上げられなかったが、天に住まう代わりに生物の形だけ与えられた、生まれながらに限界がある、「完成された」存在なんだから。

 

 個人の努力で埋まることもあるにはあるが、その上限はあからさまに定められている。数千年生き、そしてその記憶を保持しているオムイ様が万能ではないことから明らかだ。人間から見れば、そして俺みたいなひよっこ天使から見れば途方でもない年月を生きた大天使だって、分からないことだらけで、どうやったって神になり得ない。

 

 それに俺だって……人間の百三十五歳と比べたらものすごく未熟な精神のはずだ。人間のその年齢の老人は見たことねぇけど。

 

 達観なんてしていない。俺自身、そこまで死は恐れていないように思っているが、死を旅のように語った老人のようにはなれない。本当に死にそうな時はどうなることやら分からねぇ。みっともなく死にたくねぇと喚き散らす気しかしねぇ。

 

 そもそも人間たちとは生まれが違うといえばそれまでなんだろうが、それにしたってもう少しずっしりと構えられてもいいような気もする。百年生きた人間の叡智に目を見張るものがあるのに、天使の百歳ぽっち、ただのヒヨコのような見習いから片足抜けたところってのがなぁ。

 

 天使界の教育が人間界のそれより劣っているだけならいいんだが。

 

 だけどまぁ、だから天使は外的要因がなければ死ななくとも世界に影響がないのかもな。相当「変なの」以外は何百年生きても変わらず穏やかで、どこか純粋で、優しくて、どこか生物として欠けているまま、ずーっと生きる。

 

 俺は多分あのショタコン野郎と同じで「変なの」だから天使として長生きはできないはずだ。穏やかとは言い難いし、純粋では断じてないし、優しいのは人間にだけ、生物としては欠けているが。それについては、肉体面は平均的な天使だからなぁ……。

 

 やべぇわ、不慮の事故でさっさと星になりそうだぜ。だって俺は天使らしくねぇから。欲望まみれで、エゴまるだしで、自分のことばっかりだ。天使らしくねぇよな。

 

 まぁ、生まれたタイミングが良かったのか悪かったのか、そうなる前に救いに与れるかもしれないけどな。俺にとっての救いは人間になることだから女神様、よろしく頼むぜ。

 

 ……師匠も分類的にはどっちかっつったら「変なの」だよな? あんな武道家みたいな天使ほかにいねぇよ。だけど普通に殺しても死ななそうだよな……。ムキムキだし。

 

 師匠。ホントどこにいるんだろうか。

 

「アーミアスさん、険しい顔をなさっていらっしゃいますが、何かありましたか?」

「……」

「アーミアスさん?」

「あ、あぁはい。なんでしょう?」

「いえ、その、険しい顔をなさっていたので……」

「……すみません」

 

 顔に出るとか! 俺! ダメじゃねぇか!

 

 クソ、まだまだ俺は若輩者だ。まだまだ俺には師匠が必要だ。

 

 ポーカーフェイス! ポーカーフェイス! 悟らせるな、幼い子たちに! そんな人間たちには関係のないことでこんな心配そうな顔させてしまったなんて、不甲斐ない!

 

 メルティーの心底心配そうな顔に申し訳なくなる。マティカも黙って俺を見てるし、あーもう、ダメだな俺は。ガトゥーザは……ハァハァしてるから俺は何も見ていない。見ていないんだって。日に日に悪化してねぇかお前。

 

 それ直した方がいいぜ。俺だって脳内で気持ち悪い事考えているがそこまであからさまに出したりしねぇんだぞ。俺以外にはやるなよ絶対。てか俺にもするなよ。

 

「皆さんには関係ないことなんです。個人的なことなので」

「そうですか、アーミアスさん。でも、私たちの個人的なところを救ってくれたのはアーミアスさんなので、」

「私たちで遠慮なく解消してください! 私ならサンドバッグにしてもいいのですよ!」

 

 もしかして、特殊な性癖をお持ちで?

 

「兄さんは黙って! すみません愚弟がこんなので!」

 

 矛盾したことを言っているが、妹はまともでよかった。初見で俺に念仏唱えてたからどうなることかと思ったが、本当によかった。

 

「こわ……」

 

 わかるわマティカ。ガトゥーザこわ……。

 

 えっ、怖。えっ? 何がスイッチだったのか。

 

 よし、俺は何も聞いていないし何も見ていない。な、そうだろ。ガトゥーザはキラキラした目をして、俺のことを心底心配して、俺のことを思って自分に出来ることはないかと聞いてくれたんだ。ガトゥーザの謎言語を解読したらそういう事だろ?

 

 うんうん、いい子だ。少し大人しくしておこうな。とりあえず頭を撫でたら静かになった。素直だ。

 

 メルティーとマティカが頭をぐりぐりしてきたから最初からお行儀がいい二人も撫でておいた。そんなんでいいのかよ。もっと……金銭的報酬を求めるとかはねぇのかよ? 頭撫でたらメルティーがすぽーんと腰を抜かしたのでマティカが背負った。何でだよ。どうしたんだよ。

 

 え? 俺に撫でられたから、啓示を受けたような思いです? やべぇなそれ。俺も啓示なんてあの一回しか受けたことねぇけど、そもそもそんなにありがたいものでもなかったぞ。ルーラマジ便利だけど。メルティーは信心深いんだな。

 

 天使より信心深いのは素晴らしいことだな。俺、信仰心うっすいけど。俺にとって神は……なんだろう。嫌いではない。俺に親はいないけど、父親という点では神が本当に実の父と言えなくもないし。だが声聞いたことすらねぇし。名前しか知らねぇし。良いも悪いもねぇな。啓示の声は父なる神ではないし。

 

 まぁ、いいや。さっさと変態言語は忘れよう。俺の精神衛生上流石によろしくない。

 

 そろそろなんか出口も見えてきたし、山頂についたらラボオさんだっけ。山のふもとでたずね人がいたから名前を聞いておいたんだが、そのじいさんを探すか。

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