闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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55話 誤解

 今日もリッカたんぺろぺろ! 朝の笑顔は目に沁みて、働く姿は眼福、朝の祈りを欠かさない敬虔さは光栄かつ感動! 可愛い、健気、敬虔! これが3K、オールウェイズぺろい。リッカたんぺろぺろ! それに加えて健康だから4Kでもいいかもな!

 

 それを見抜ける俺は朝から一流ペロリスト! ぺろい、ぺろっぺろでぺろすぎる! これは、ぺろい! だからセントシュタインに戻るのはやめられねぇ!

 

 リッカたんに会えない日々とかマジ無理だから! リッカたんあってこその俺だから! リッカたんの青いおかっぱの切りそろえただいすきラインをいつか触れてみたい。

 

 ぺろぺろ! リッカたん! だいすき! いちばんすき!

 

 ……ふぅ。んなわけで、リッカたんの最高な居心地の宿屋を盛大に惜しみながらチェックアウトし、俺たちはルーラでカラコタ橋まで戻ってきた。出かける時のリッカたんの今日の気をつけてね、を俺は何度も反芻し、リッカたん充電完璧だ。あー、もう今すぐ帰りてぇ!リッカたん!

 

 だがそうもいかねぇ、リッカたんが働いているのに俺が務めを果たさなくてどうする。二度と顔を合わせられなくなるだろうが!

 

 帰れるとなったらすぐ帰りたいくらいだ。この使命をちゃっちゃと済ませて俺はリッカたんが永久就職するその瞬間まで宿屋で働いていたい。リッカたんが永久就職したら、俺は迷惑のかからないように身の振り方を考え直すが、恐らく見送りモードになってやっている事は変わらず彼女の人生を惜しみながら……いやそんなこと考えたくねぇし!

 

 リッカたんは、リッカたんは、俺がぺろるんだ! その為に今すぐ天使やめたい。仮に今すぐ天使やめたとしても、危険物すぎる女神の果実はすべて回収するからやること今と変わらねぇけど。変わらねぇけど俺が人間なら! 俺は! だが人間として生まれていたらリッカたんに会う大昔にくたばってたはずだから困ったものだぜ。

 

 そんでだな、戻ってきたカラコタ橋でちょっくら情報収集しようとも思ったが、あの兄妹が何故かそこかしこに威嚇してたからやめた。本人たちには言わないが、育ちがいい部類の彼らにはここの空気が合わないんだろう。

 

 ガラ悪いからな、ここ。さっさと抜けるか。今日は道塞いでるやつもいねぇからな。

 

「さてどうしましょうね、この先のサンマロウに向かうか、あちらの山へ回るか……」

「ねぇねぇ、サンマロウってどんなところ?」

「行ったことはないのですが、なんでも、花の都らしいですよ。広大な花畑が有名で……たしか、近くに遺跡もあるような由緒ある町ですね」

 

 そんであの行動が似てる兄妹の故郷だ。見てりゃわかるが、話も聞いたが、いろいろと家とは浅からぬ因縁があるらしい。メルティーは賢者を目指すということでもう吹っ切れているみたいだが、ガトゥーザはダメそうだ。とうとう自分のことを僧侶とは呼ばなくなったからな。

 

 ところで、自称「ヒーラー」はねぇだろ。僧侶はたしかに回復のスペシャリストだが、そればっかりが役目でもねぇ。状態異常を治すこともできれば、槍の名手でもあるし、棍の使い手でもある。まぁあいつ、杖持ちだけど。

 

 神に仕えることそのものよりも重要なのは気持ちだぜ? 慈愛を持つことそのものが僧侶の意味。だがまぁ、ガトゥーザは正直向いてねぇわ。慈愛を持てるか持てねぇかどころじゃねぇ。悪感情が強すぎてそれどころじゃねぇんだろ。

 

 それはそれ、これはこれと割り切れないのはもう仕方ねぇわ。割り切るなんて、少なくとも、未熟ながらあいつの六倍以上生きてる俺には無理だしな。考え方が違うって言えばそれまでだが……。

 

 あいつにはまだ時間が必要だろうが、他に行くところもなければ行くしかねぇし。だが、手がかりが何一つないならどこへ行ったって同じだ。しらみつぶしに探さなきゃならねぇって点ではな。

 

 だから俺はせめてできる限りの遠回りをしてやろうと思う。

 

 だってよ、何か言いたいことでもあるかと顔見ようとしてもロクに目も合わねぇし、無理強いも良くねぇだろ。顔向けたらメルティーの方が思いっきりこっち見たが、まぁそれはいいとしてだ。どっからこんな信仰心がわいてくるのかちっと理解が難しいぜ。

 

 てか、それよか気になるんだが、ガトゥーザってたまに本気で耳聞こえてねぇんだよ。俺の呼び掛けは全身全霊で聞いてくれているみてぇだが、それ以外はすべて抜けている時がある。戦闘の時はそんなことないんだが、普段がな。そういうときはメルティーが心得たように手を引っ張ってる。そしていつの間にか治ってる。

 

 そういう病気ではない、はずだ。まぁ俺の見立てでしかないから……情けないことだが、言いきれねぇ。だが、間違いなく聞こえてねぇ時がある。正確には聞こえてねぇ、というより聞ける状況じゃねぇ、かな。

 

 てかそういうときは周りもほとんど見えてねぇらしく、ふっと動きが止まったり不自然な方向へ歩き出したりする。だがまぁそれは、考え込んだ時のメルティーも同じだな。補い合えていい関係だ。

 

 なんか原因があるんだろうが、現象自体に病的なものは感じないし……なんか、上の空っていうか。顔色が悪い時もあるが、なんか人混みに巻き込まれたみたいな動きするんだよ。病気ではない……よな。いや、十分おかしいんだが。

 

 病気といえばそのちょっと敬虔すぎるところは行き過ぎだけどよ、それを信仰対象の天使の俺が「病的」とか「狂気的」とは思うのは失礼だしな。

 

 ありがたいものだ。だが、ちっと控えてほしい。

 

 いやそれはもういいんだ、俺が何とかすればいいからな。俺がなんとか出来るならなんとかするさ。なんだって。

 

「回り道しましょうか。手がかりもありませんので近いところから探すしかありませんからね」

「山の方に行くの?」

「はい。ええと、地図によるとビタリ山、ですね」

「山かー、おれ山に行くの初めてだよ!」

 

 二人のことはともあれ、隙あらば俺を拝んだり、むやみやたらと引っ付いてくるコンビに挟まれた俺にとってマティカは癒し。異論は認めない。はしゃぐ子どもというのは可愛いものだ。いい年して子どもと張り合い始めるヤツらよりは可愛いだろ、どう考えても。

 

 少なくとも俺に関しては、別け隔てのない天使とかそういう幻想だけは持たれちゃ困る。幼い人間たちの夢を壊さないのも大事だが、俺みたいなひよっこは別け隔てるし、贔屓しまくるし、救いたくたって救えるだけしか救えないんだってことを理解してもらわなきゃな。

 

 素直が一番、変な距離はいらねぇ。

 

 一応、人として問題がない程度の最低限の礼節だけあればもう何もいらねぇ。

 

 俺は人間じゃないけど、まぁ俺だって人の形してるからな。他所で人間と接する時に変な癖がつかないようにしてくれたら何だっていいわ。

 

 とりあえず場所も何も考えずに拝み倒すガトゥーザはやめてほしいし、小声かつ早口で何かを唱えるようになにか話しているメルティーはもっとヤバい。

 

 何を唱えているのかを聞いた瞬間にうっかり星になったら笑えねぇから、耳をパタンと閉じたつもりで聞こえないふりした。

 

 純粋可愛いマティカだけは俺の後ろをトコトコ歩いて、魔物に威嚇したりじゃれたりしていて本当に文句なしに可愛いから本当にもう俺ショタコンかもしれない。

 

 この際戦っている時に感じる強烈かつ身の危険があるような視線はもう何も無かったってことでいいんだよな。な。マティカまでなにか抱えてたら俺もうちょっと耐えきれねぇし気にしないでおく。

 

 血に反応するのは魔獣かなにかみたいに勇猛すぎるための欠点なのか、バトルマスターの性なのか、どっちなんだ?

 

 いーや、俺何も感じてないからな。マティカはかわいいなー。

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  • 幼少期、天使(異変前)時代
  • 旅の途中(仲間中心)
  • 旅の途中(主リツ)
  • if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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