闊歩するは天使   作:四ヶ谷波浪

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33話 悲哀厄災

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 あんまりにも陰気だからって現実逃避はしてねぇ。だから別にリッカたんに赤いミニスカートを履いてデートしてほしいとか考えてねぇ。

 

 たまにセントシュタインの女の子が履いていたニーソックスを履いてから上にスカートを履いて……って、下半身装備が被ると履けないのは世の中狂ってやがるとしか言いようがねぇ。ワンピースの下にニーソックスとかどうだ。天使が天使界から降り注ぐこと間違いなし、だ。

 

 仕事着のリッカたんはまじぺろかわいいが、おしゃれ着のリッカたんも心臓を撃ち抜いてくるぺろぺろしさのはずだよな?

 

 ていうかそんなリッカたんの笑顔を守るためには目の前のおどろおどろしい遺跡にカチこまなきゃならねぇってのが気が進まない。崩れかけのキサゴナ遺跡よりは老朽化的な意味ではまだマシか?正直、あんま変わんねぇな。走ったりして崩れられたら困るんだが。今回は前と違って一人じゃねぇもんで。

 

 俺は多少水や食料がなく、眠れなくても構わないしなんとかなるが人間はダメだろ?ただでさえ閃光のように儚く美しい命をそんなに簡単に散らすなんてことは俺が許さねぇし。

 

 いかにもな雰囲気、いかにもな湿度、いかにもな魔物の気配。どれをとっても最悪だ。最早瘴気に近い不味い空気は長いこと吸えば体調にまで影響しそうじゃねぇか。ただでさえかび臭いってのに。

 

「明かり、あるのかなぁ」

 

 ……明かりがある方が怖くね? とは敢えて言わない。言ったら卒倒しそうな顔色の怖がりなマティカがマジで卒倒する。意味がわからない方が幸せな時ってあるだろ? 知らぬが……なんとやら、だ。

 

 にしても封印され、鍵をかけ、出入りできた人間なんていなかったはずなのになんで奥の方から薄明かりが見えるのは本当に何だろうな。魔物も暗いのは不便なのか? 明かり係がいてつけて回ってるのか? 明かり自体に邪悪なものは感じないのは良かったが。

 

 にしてもガトゥーザの震え方が尋常じゃねぇな。輪郭が見えねぇ。

 

「……天使様……お守りください、天使さ……嗚呼、アーミアスさん、お救い下さい……」

「その、いかなる時でも平常心を保つことが大切ですよ、ガトゥーザ」

「はうっ」

 

 常にリッカたんぺろぺろして平常心からは程遠い俺が言っちゃあお終いだが。

 

 てか僧侶って人ならざるものに他の人間よりも耐性がなきゃやってけなくね? 悪魔祓いとかあるじゃねぇか。だから転職希望なのか?

 

 ったく、涼しい顔をしているのはメルティーぐらいでどいつもこいつも顔面蒼白かよ。……俺も多分真っ青だぜ。暗くて良かった、夜目が効かなきゃ無様な様子は見えないだろう。俺は幽霊に遭遇するために夜によくウォルロを彷徨って星のオーラ狩りしてたから見えるってだけだ。

 

 もちろんお化け、妖怪、怪物とかの類にビビってんじゃねぇ。ホントだぜ? そういうのが怖いんじゃねぇよ。その手のものとよく一緒に括られる幽霊に至っては見かけたら子供が一人で歩いている時みたいにほっとけないぐらいだ。

 

 なんつーか怖いのは、怨念やらの強い負の想いやかび臭さ、つまり太陽という正のエネルギーを受けていない負の地。そういうものが凝り固まると必然的に空気は濁り、人間たちは具合が悪くなるだろ?

 

 そして運が悪けりゃ何人か死んでしまったりもする。そういうのをな、天使としては下っ端ぺーぺーのなんちゃっての俺もそこそこ見てきたから、トラウマっていうか……まぁ良くは思えねぇよな。

 

 ベクセリアを救うだけじゃなく、俺の勝手で連れてきた三人と嬉々として着いてきたルーフィンを無事で返さねぇとな。あんなに可愛くて健気な奥さんも待ってる事だし……俺も可愛くて健気な奥さんが欲しいぜ。

 

 そうだな、青いサラサラの髪をしてぱっちりとした目がキュートで真面目で信心深くて料理上手な子がいいな。少なくともニートよりは俺の方が働くし、ニートよりは俺の方がリッカたんのことを知っている。……ストーカーみたいだな、俺。

 

 恐る恐る中に足を踏み入れた瞬間、足元を駆け巡る何かがかさかさと奥に消えていく。ゴから始まる奴にしてはでかいし、早いし、なんか色が違うな。敵意はなさそうだがなんだろうか。ちらりと隣を伺うと、動体視力がいいのか目でとらえれたらしいマティカがしばしそいつの背中を見つめ、そして怯えどころか頬をバラ色に染めてこっちを振り返った。

 

「メタスラ!」

 

 狩りだ! なんて笑顔のマティカをメルティーが無慈悲にド突いた。あれは鳩尾にきっちり入ったな……。ぐふっと息を漏らし、崩れ落ちそうになる姿が哀れを誘う。しかしそこは武闘家、体は丈夫らしくすぐ復活する。すげぇ。

 

「機会があったら狩りたいな!」

「ベクセリアの皆さんが元気になった後なら来てもいいかもしれませんね」

「よーし、頑張る!」

 

 強さを求める少年少女にとって垂涎のメタルスライム。哀れだよなぁ……ちっこくて素早くて、経験にいいからというだけで付け狙われ、ド突き回され、殺されまくって。天使の中にもメタル狩りが好きなやつはいるだろうな。メタルハンターも真っ青なやつらが……。

 

 全ての命は平等に救われ、幸せになるべきだ。魔物として生まれ、本能から他の生物を害するしかない悲しい生き物は俺が次の生こそ幸せになることを願って送ってやる。生きてるだけで命を付け狙われるとかそんなことはあっちゃなんねぇ。

 

 だから早く終わらせてやる、というのは一つの考え方だろう?ま、俺はメタル狂いじゃないから積極的に狩ろうなんて思わねぇけどな。あとで罪悪感がやばい。

 

 おっとマティカ、飛び出すなんて良くねぇよ。そこの曲がり角のところに「はにわ」みたいな魔物が潜んでたぞ? 怪我したらどうするんだ。痛いのは良くない。

 

 ……さてと。目の前に如何にもな扉がある。その奥から果てしなく嫌な気配もする。神に会ったことはないが、天使である俺にはわかる。負の方向に振り切れた災厄そのものであるってことはな。救いはない。命ではあるが、共存なんてものは不可能。自我は……ここまで強大なものだからあるだろうが。

 

 こんな力、強すぎて自分自身ももがき苦しむレベルじゃねぇのか? よく言うだろ、強すぎる力は身を滅ぼす。それにはこう続けるべきじゃねぇ?

 

 「強すぎる力は自身を破滅させる上、抑えられない力は自力で終わりを迎えることもできない」とかな。

 

 自殺しようなんて化け物としか言いようのないこいつが思うだろうか。しようと思っても死んだそばからその負の力が負の生命体を産み、体を侵食し、次の自我が生まれる……とかだったら最悪じゃね? 外部から殺すか、元通り封印するか、どっちかだ。

 

 エネルギーを外部から取り入れずに遺跡がここまで風化するほど長くあっても消滅してない時点で「外部から殺す」なんて不可能だろうがな。ルーフィン、頼むぜ。

 

 封印しても問題は遠い未来への先送りでしかねぇし、その間も化け物は苦しみ続ける……なんて救われねぇが。俺はオムイ様のような悠久如き時を生きた天使でも、師匠のように天使の中でも一目置かれるほど立派な上級天使でもねぇからな。

 

 とりあえず、今目の前にいる人間を救うしかできない。こういうことに直面すると人間になりたくてなりたくてたまらないってのになんでも救えるような存在になりたい、なんて叶いもしない高望みしちまうよな。俺は強欲だ。

 

 メタスラがひゅんひゅんと横切る度にそわそわするマティカを抑え、俺の背中にしがみついて離れないガトゥーザを引きずり、前方の魔物を視認するやすぐに焼き尽くすメルティーにビビりつつ。

 

 俺たちは遺跡に施された「仕掛け」とやらを解いていった。なんか近付いて怪しいなんかを操作するとビームが出るんだよな。魔法、だろうがなんだっていうんだろうか。

 

 他にやりようもないからするしかねぇが、もしこれで逆に厄災が活性化でもしたらやりきれねぇ……。

 

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