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純白でレースのついたウェディングドレスにルディアノの物だったらしい赤い首飾りをつけたフィオーネ姫様と戦のための甲冑姿の黒騎士さんは服装こそちぐはぐで奇妙でありながらも美しく……厳かな王家の婚礼である、と私にもはっきりとわかります。
傍らで見守る私たちは、その哀しい踊りをただ見つめ、徐々に光に包まれて薄れていく黒騎士のレオコーンさんを見守るだけでした。
妖女イシュダルにすら情け深いアーミアスさんは辛そうな顔で見送られ、最期を迎えたイシュダルさんはそれまでの険しい顔つきが嘘だったように安らかな顔で逝きました。そちらも……私の心に来るものがなかった訳ではありません。
ですが、……時を越え、記憶を受け継いだお姫様と騎士さんが再び別れを告げるのだ、と思えば……えぇ、俗物的な言い方をすればより美談であるということでしょうか。
私はただの魔法使い、僧侶になりたい魔法使いです。ですが私が仮に念願叶って僧侶になれたとしても清らかな心を持ち合わせてなんかいないでしょう。魔女さんの死よりも人間から怪物にされてしまった騎士さんの安らかなる昇天の方に感動してしまうのです。
嗚呼、敬愛する天使様であるアーミアスさんはそんなことを少しも考えていないでしょうに。今もようやっとガトゥーザの言葉を受け入れて薬草を使い、未だ血塗れの姿ではありますが傷を塞がれました。しかし、アーミアスさんはかなり失血されているのです。
本来なら早く安全な街に戻り、安静にしていただきたいのですが……このような場でそれを言い出すほど私は無粋ではありません。この場を無理をおして見届けるアーミアスさんの思いを無駄にするわけにはいかないでしょう?
しかしながら不安ではあり、気づかれないようにそっとアーミアスさんを見れば、あの大怪我がなかったかのように背筋を伸ばし、真っ直ぐ立っておられます。堂々と、いえ、それでいて見守っているような眼差しで。
二人の哀しい踊りを見つめる黒き瞳には星のような光がいつもと同じく宿っていて……あら、ピンク色の光もちらついているようですが。
……アーミアスさんにはそこに精霊さんか妖精さんかが見えているんでしょうね。うぅ、視線を奪えるなんて羨ましい。
よくよく耳をすませば、アーミアスさんは呟くようにその存在に向けて話しかけているようでした。いえ、会話でしょうか。
「……これでよかったんです」
瞳に映る煌めきが抗議するかのように揺らぎました。
「俺に……もっと力があればよかったのですが、まだまだ、至らぬことばかりなのです……」
懺悔する言葉に私は声を大にして反論したくなりました。私たちに怪我をさせまいとあんなに立ち回り、命を狙った魔女さんにすら苦しみを与えぬように送ってやり、この場にいるのも辛いでしょうに見守る……こんなこと、例えアーミアスさんよりも戦闘力が高いなどの優越がある人間だとしてもできることではありません。
アーミアスさんが天使であるからこのように素晴らしいのだ、ということは嘘ではありませんが……私にはアーミアスさんであるからこそここまで優しいのでは、と思うのです。ええ、出会ったことのある天使様はアーミアスさんしかいませんので分かりませんが。
まさか、アーミアスさんが至らないなんてことはありません。その存在が何を言ったかは分かりませんが、それだけは反論しなくては。……とはいえ私、度胸もありませんし、いきなり口を出すなんて無礼を無視できるほどの鈍感さも持ち合わせておりません。
「……そうでしょうか、サンディ。そう言ってくれるのなら……少し、嬉しいですが」
サンディさん?! 女!? どこの女ですか!?
……失礼、妖精さんでしたらかわいい女の子の妖精さんとか、人間のイメージですらそんなものですよね。精霊さんでしても女の精霊さんに違和感なんてありませんしね。しかし、私が悔しいのはその存在が女であることに加えて……アーミアスさんがうっすらと微笑んだことなのです!
それほどまでに気を許している……ということです。私たちはまだであって日が浅いゆえ、そんなに表情を変える姿なんて……苦痛のものしか。うっすらと微笑んでくださるなんて、マティカ少年くらいなものです!
悔しい、悔しいです! 私がもっと強ければ! レオコーンさんもイシュダルさんも一撃で燃やしたり凍らせたりして倒してしまう事が出来たなら、私を褒めてくれたのでしょうか? このように、笑っていただけたのでしょうか!
この憎むべき恐ろしき魔力を、こんなにもっともっと欲しいなんて望むような事はあるでしょうか! ありましたね! うぅ、少し考えてみましょう!
……例えば僧侶になれたらどうでしょう、アーミアスさんの傷を癒すことが出来るはずです。ですが! ですが!
そもそも傷を負わせてしまう前に立ち塞がる敵さんたちを私の魔法で粉砕してしまえばいいのではないでしょうか!
そのためには魔法使いでなくてはなりません。私は体が強くありませんし……。そうだ、賢者になれば最高峰の爆発呪文を操れると聞きます。それを習得できればどんなものでも吹き飛ばし、アーミアスさんが私たちを庇おうとする前に倒せますね!
僧侶への憧れ、夢。それがなんでしょうか! 何になるんですか! 今アーミアスさんを守れもしないのに!
私が見据えるのは未来です。私が進んでいくのは過去ではありません、天使様に出会う前の私ではありません! 最善を選ばなければ! 私は! 私は!
……決めました。私は、賢者になってみせますよ。
よくよく考えれば……賢者だって人を癒せます。確実に人を蘇らせる魔法や、どんな傷を負っても完璧に治してしまう究極の回復魔法も使えると聞きます。ならば! 問題ないですね! 人を癒せる上に強くなれる。強くなればアーミアスさんに怪我をさせることはありませんし、賢者なら傷跡も残さずに治してしまえるに違いありません!
うふふ……決めました……決めましたわ……。あぁ、アーミアスさんの存在によって私が変わっていくのを感じます。うふふ、素敵なことですね。私、私とても幸せです。
私、今すぐにでも……貴方様を包み込む服になりたいのです。それは叶うことはありませんが、賢者になれば……うふふふ。
あは……いい思いつきです。うふふ……ふふふふふ。
あほ面晒してアーミアスさんの美しい顔を見つめていたガトゥーザにいつの間にか手をひかれていました。気づけばセントシュタイン城下町を歩いていて、今から王様に報告に行くのだと伝えられました。
うふふ、失態ですね。アーミアスさんをずっと見つめていたいのにはしたない妄想に夢中になってしまうなんて……。うふふ、でも笑いが止まりません。
私、私って……そうです。僧侶になれなかったのはこういうわけなのですね?神様。賢者になるために、よりアーミアスさんを守るために攻撃魔法の練習から入ったというわけなんでしょうね。うふふふふ。
あら、ガトゥーザ。どうなさいました? 何でもない? そうですか。顔色が悪いですよ? うふふ。
ふふ、マティカさん。どうしたのです? 今日はお手柄でしたね。あんな風に前衛で戦うという事はガトゥーザにも私にもできません。あの場でアーミアスさんの助けとなり、共に戦えるのは誇りに思うべきですね。え? 思っている。ならいいのですよ。
私にできないことを他人に求めるって正しいことだと思います。何故か胸の奥底から深い深い嫉妬のどろどろした感情が沸き上がりますが……この程度を溢れさせるような人間が「賢き者」になんてなれるはずないですし。
うふふ、うふふふふ。平常心、平常心です。すべては天使様の……いいえ。アーミアスさんのために……。この清らかさに、美しさに、慈悲深さに、存在に。既に私、夢中でして。
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紫=メルティーの髪の色です。
一応他のキャラも載せておきますね。
アーミアス→灰
マティカ→金
ガトゥーザ→茶
どの閑話が読みたいですか?
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幼少期、天使(異変前)時代
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旅の途中(仲間中心)
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旅の途中(主リツ)
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if(「素直になる呪い」系統の与太話)
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その他(メッセージとか活動報告コメントとかください)